春に来るもの |
暖かい空気。
賑やかな町並み。
早くももう、外は春告げ鳥が鳴いているようだ。
でも私には窓の外のこと、誰かがここから出してくれるのを待っている。手紙は何通も外へ飛ばしたし、数少ない友達にも連絡して・・・
だが誰も来ない、私は永久にここに居なくてはいけないのだろうか。
そんな折、窓を叩く黒い影が居た。−お嬢さん、貴方は何故そこに居るのですか?
その言葉は甘くやさしくしかし人を寄せ付けない雰囲気もあったが、私はそれにすがるしかなかった。
「どうか私を連れ出して」
彼はにこりともせず、私の顔をじっと見てこう返事した。
「貴方が出たくないのではどうしようもない」
なぜ!?何故こんなことを言うのだろう・・・いやこれは初めてではない、確か前にも・・・前・・・・
誰!?
「そこに居るのが幸せなら、永久に閉じこもっているといいでしょう」
ああ・・・
まさか。では何故、ずっと外へ出たいと願ってきたのだろうか。ありえるわけが無い・・・・・そうかこいつは嘘をついている。
誰かに閉じ込めろと命令されているのだ!私は叫んだ、「この人でなし!!あんたなんか最低よ」
「何故」
「春の宵に外へ出ることだけが願いだったのよ!手紙も電報だって打ったわ。こんな窓の内から外を眺めてたいわけが無いでしょう!?」
黒衣の青年は、瞳をきらりと輝かせた。一体何が言いたいのか。
「この檻はご自分で作られたようですね。貴方は何か罪を犯したんだ」
な・・・・????
青年は続ける、動揺する私にかわまずにさらにこう話していく。朗読でもするようにその声は無表情だ。
「貴方はね、外で醜いことをしてしまったんだ。好きな男性が出来て彼を得るためなら何でもすると
無理やり一夜を共にしようとした。もちろん彼に彼女が居ることを知っててね。目的は果たせたが、彼は二度と貴方を見ようとしなかった。どこかへ去ってしまった。そうして出来たのですよ。檻がね」
近くにまだ幼い少女が居た。彼女は”手の目”と男性に呼ばれていた。「そうだろう?手の目」
「へえ、あっしが見たところではそんなことでした。・・・しかし若旦那、出張とは大変ですねえ。足して儲かりもしないのに」
「手の目、これも仕事だあきらめろ。・・・まぁそういうわけで貴方が壊さない限りこの檻は消えません。後はご自由にどうぞ」
・・・すべてを再び忘れた私は又待っている。春が駄目なら夏、冬も来るだろう、ずっとずっと待ち続けるのだ。
説明 | ||
私は待っている。春になり誰かがここから連れ出してくれるのを・・・夢幻紳士小説。 | ||
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夢幻紳士 春 | ||
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