真・恋姫†無双 〜祭の日々〜13
[全5ページ]
-1ページ-

 

 

「あー・・・なんと言おうか」

 

呉を発ってから、幾日が過ぎた。

今、俺たちはとりあえず襄陽へと向かっている。

ちょうど建業と成都の中間くらいに位置しているその都市は、懐古の情湧く魏領のひとつだ。

建業から成都までは遠い――距離的に言えば、先に洛陽に帰ってしまうほうが正直早いのだ。

それができないのが存外悔しく、しかし本当に彼女たちのためを思うなら仕方のないことでもある。

・・・俺が帰ってくるよりも、戦が起こらないことのほうが大事だからなあ。

大切な人たちに会いたい気持ちはあれど、ここはグッと我慢の子だ。

 

――さて。

その中間地点である襄陽までだって数日やそこらで行けるはずもなく。俺は祭さんと地道に旅を続けている。

ここ数日の生活サイクルは実に単純で、昼の間に距離を稼ぎ、村や町があれば必需品を購入し、夜になると鍛錬をしてもらう。村や町があっても極力宿はとらず、野宿を心がける。それは、蜀の間諜に俺たちの存在を認められては厄介だからだ。死んだと伝わっているとはいえ、祭さんは呉の宿将で有名であったし――意外なことに、“天の御使い”の名も知れ渡っていたらしかった。戦場で姿を見た者だっていないとは限らない。その一環として、途中で出会った行商人から体がすっぽり隠せる外套を購入した。まあ、俺の格好は普通に目立つしな。

・・・念には念を。

それこそが生き延びるための第一歩であると祭さんはいう。

 

さらに二歩目として、自分の身は自分で守れることが不可欠だ。

今の俺たちはスパイだ。それも事を起こす権限を与えられている。

なにが起こってもおかしくはない・・・そのときに祭さんの足を引っ張るのだけは、絶対に嫌だった。

今日だって、昨日言われたことを反復しながら、体を動かしつつもそれを留意して祭さんとの試合に臨んだのだ。

・・・昨日と変わらず、惨敗だったが。

 

地面でくたばっている俺を、祭さんは言いにくそうな、らしくない様子で見下ろしている。

祭さんも遠慮なく攻撃をしかけてくるものだから、口の中は切れ放題だし、体は打撲に擦り傷に打ち身に疲労でバテバテ。

だから俺は今、しゃべることもできない。

 

だが、もしこの口が、この舌が自由に動くのなら是非言いたかった。

 

「うーん・・・その、なあ、えー・・・」

 

言いづらそうにしなくていいから・・・

 

「おぬし・・・」

 

はっきり言ってくれ。

 

「本気で武の才がないのう」

 

念願の言葉をきけた喜びからか、もしくはその逆で、俺はがくりと意識を失った。

-2ページ-

 

 

目が覚めると朝だった。

起き上がろうとすると体中が痛み、思わずうめき声が漏れる。

その声に気づいたのか、寝ていた祭さんがむくりと起き上がった。

「・・・ん、起きたか、一刀」

「お、おはよう・・・」

痛みでひきつる顔で必死に笑顔をつくり、朝の挨拶。

「うむ・・・なんじゃ、筋肉痛か?」

「そうみたい・・・いてて」

軽くよじってみただけで、体が激しく悲鳴をあげる。

「我慢せい。筋肉痛なんてものは、鍛錬不足の最もたるものじゃぞ?」

「え、祭さんは筋肉痛にならないの?」

「当たり前じゃ。無理に関節を曲げたりすれば、それはもちろん痛むがな」

「そっか〜・・・じゃあ、がんばらないとね」

痛みを無視して立ち上がる。痛いものは痛いが、そうも言ってられないのが今の現状だった。

「痛かろうがなんじゃろうが、先へ進まねばならぬ・・・わかっておるな」

「もちろん。まだ半分も来れてないんだ・・・急がないと」

荷物をまとめ、連れてきた馬にそれをくくりつけた。

「まだまだ先は長いぞ・・・がんばってくれよな」

ぽんぽん、と馬の背中を叩いてやると、そいつはいななき、任せろとばかりに力強く地面を踏みつける。

「では行くぞ・・・ほれ、しっかりせんか」

俺が馬の背中を叩いてやったように――いや、それよりも随分と力加減が強いのだが――祭さんは俺の背中をばしばしと叩いた。

 

こうして、また一日が始まるのだった。

-3ページ-

 

 

旅の途中で欠かせないのは、会話であると俺は思う。

一度だけ俺が鍛錬の疲れから一日中しゃべるのを拒否していたことがあった。

すると――

 

「あのとき飲んだ酒はほんとに上手くてなあ」

「・・・」

「うむ、しかしその後に策殿と交わした酒も甲乙つけがたかった」

「・・・」

「飲んでいる最中に冥琳がきてな?」

「・・・」

「・・・そ、それでな・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・?」

「・・・」

「・・・さ、祭・・・さん?」

ぷいっ。

「・・・え、ええと」

つーん。

「・・・そ、それで続きはどうなったの?」

ぎろり。

「・・・」

 

と、いうようなことがあったのだ。

その日は一日中、祭さんの機嫌が直らなかった・・・アレは二度と勘弁したい。

 

「ああ、そういえばさ」

「ん、なんじゃ?」

「呉を出発するとき、冥琳がくれたものがあるんだ」

「ああ、儂ももらったぞ・・・なにやら重要なことを書いておいたからちゃんと読むように、と」

「へえ?・・・祭さんももらったのか」

にやり、と笑う祭さん。

「なんじゃ?自分だけ冥琳から贈り物をもらえたとでも思ったか?」

「や、違うし――俺もちゃんと読めって言われたからさ。俺は三つもらったんだけど、祭さんは?」

「儂も三つじゃったぞ」

「俺の三つと、祭さんの三つだろ?重要なことを六つも・・・なにが書いてあるんだろうね?」

「む、確かに。読んでみるか」

そういって祭さんは荷を漁りだす。

「ちょ、い、今読むの?」

「読めるうちに読んでおいたほうがいいじゃろうが・・・もし“襄陽に入る前に”とかだったらどうするんじゃ?」

「いつ読めとかは言われなかったけどなあ・・・」

「お、あったあった」

目当てのものを探り当てたらしい祭さんは、三つの竹簡を取り出した。そこにはそれぞれ“壱”“弐”“参”の文字が記されていた。

「番号なんか振ってあったんだ」

なにしろもらったときが本当に出発直前で、しかも押し付けるように渡されたものだから、一度も確認していなかったのだ。

「開けるぞー」

なにが楽しいのかいそいそとあける祭さんは、しかし、書かれている文字を見てびっくりするくらい嫌そうな顔をした。

「・・・・・・」

「え、どうしたの?」

ぺいっ、と捨てるように投げ渡される。

そこに書かれていたのは、

 

“ひとりで勝手に先走らないように”

 

だった。

-4ページ-

 

 

「これは・・・なんというか」

「・・・こんなときまで説教しおって・・・。ええい、次じゃ、次!」

このとき、俺にはひどく嫌な予感がした。

誰にだってわかると思う――“弐”と“参”に何が書いてあるだろうか、ってね。

「ええと?・・・“酒は程々に。少なくとも蜀領内では控えること”」

「・・・・・・」

「儒子への伝言か!あの泣き虫めーりんめ・・・!」

このとき既に、祭さんの機嫌は最悪だった。

しかし、とどめとも言うべき言葉が、最後に用意されていたのだった。

 

“参”曰く――“無理やり北郷殿を襲わないように”。

 

隣にいた俺はきこえた――彼女の血管がぷっつんと音を立てるのが。

 

「・・・一刀」

「な、なんでしょう」

「・・・こんな侮辱はないじゃろう?なあ、こんな、人を色情魔みたいにのう?」

「え、ええ・・・まったくですね。冥琳さんも人が悪い」

冷や汗がだらだらと流れる。

「昔は散々儂に世話を焼かせたくせに・・・今じゃ儂にこんな伝言まで寄越すとは」

俺は知っていた。祭さんがその昔、冥琳にした数々の非道を。

遠い目で薄ら笑いを浮かべながら語る冥琳の姿がフラッシュバックしたが、あえてそれは黙殺させてもらった。

「ほ、ほんとですよね。いやまったく」

「じゃからなー?あの冥琳の言うことを、何もかも聞いてやるのは癪だと思わんか?」

「ええ、まったくそのとお・・・・・・・・・え?」

 

――時既に遅し。歩いていた場所が森の中というのもまた悪かった。

俺は祭さんに無理やり茂みに引き込まれた。

 

「ちょ、さ、祭さ・・・んん!」

口をふさがれる――祭さんのそれによって。

妖しい笑みを浮かべながら、祭さんは俺を逃げないようにと抱き寄せた。

「・・・なあ、一刀?まさか女子の誘いを断るなどとは言わんな?」

「・・・う」

そういう言い方は卑怯だ・・・。

「で、でも俺は・・・」

「んう?」

「その、好き合っていない者同士がそういうことするのは、どうかと・・・」

・・・桂花の場合はノーカウントで。一応了承もらってたし。

というか、俺はそのとき強く思ったのだ。

・・・祭さんとそういうことになるのなら、遊びではしたくない、と。

だがそれさえも祭さんは笑い飛ばした。

「かっかっか、生娘みたいなことを・・・じゃがな、一刀」

「ん?」

顔を近づける。それがキスするためのものだとわかっていたが――俺は逃げることができなかった。

 

「儂はおぬしが好きじゃよ、一刀。お前と結ばれたい」

「――――っ!?」

 

その言葉に抗うことなど、誰にできるだろう。

その、平気なようで――実は真っ赤になっているその顔を見て、拒否することなど。

 

「なんとか言わんか・・・んん!」

今度は俺からのキス。

 

さっきのお返しだ――

 

俺は祭さんの瞳をしっかりと見つめて、言ってやった。

 

「俺も祭さんが好きだよ。・・・祭さんがほしい」

 

その言葉に、祭さんは花開くような笑みを浮かべてくれたのだった。

-5ページ-

 

 

――建業。

 

山のように積まれた書簡を、切り崩すように片付けているひとりの女性がいた。

常人では考えられないようなスピードで作業している彼女が、ふと思い出したように動きを止める。

 

「・・・さて、今頃どうなっているかな。少しでも役に立てているとよいが」

 

それは、ちょっとしたひとりごと。

 

頭の回転の速い彼女は、すぐにその考えを断ち切って――

 

また、ものすごいスピードで仕事を再開した。

 

 

説明
どうも。前回言ったとおり、くるりと一変して一刀くんと祭さんのドキドキ珍道中です!
・・・すみません、本当にいろいろすみません。
イチャイチャを書くのは苦手です・・・でも見たいしなあ。世の中ってままならない。
これを書き始めたのも、祭さんが好きなのに祭さんメインの話ってあんまないよなーと思ったからなんですよね。
自分で書いてりゃ世話ないですよ、ええ。
最後のページ、誰かはわかってもらえますかね?ちょっと不安ですが、明記するのはつまらないかなと思ってしませんでした。
楽しんでもらえたらうれしいです。コメントがあると本当にうれしいです。ではでは。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
8303 6796 109
コメント
藪蛇だったのではw(ブックマン)
呉はエロいw さすが初っ端から子作りを命令する国は格が違ったw(ジョン五郎)
さすが冥林!先の先まで読むその手腕♪いいですねぇww(紗凛)
冥琳!!!なんという策士か!!!ww(零壱式軽対選手誘導弾)
ようやく巡ってきました祭さんのターン!冥琳さん、この『外史』の貴女は『先読み』または『千里眼』のスキルでもお持ちなんですか!?まぁ、その忠告も虚しかったようですが(笑)武の師匠としてはお厳しい言葉がありますが、拗ねる祭さんは可愛いし、『やっと』二人も結ばれたようで何より×2。より堅固な『絆』を得た二人の珍道中、次回も楽しみにしています。(レイン)
一刀はどこまで行っても一刀・・・と(kanade)
前回のあの空気からこれですか…なんかやっちまったなぁって感じですねwそれにしても…さすが冥琳!大都督の策、御見事です!!(自由人)
…っは!?ま、まさかこの展開を予測していたな。さすが冥琳www(MiTi)
やっ、やらかしたぁー(ロンギヌス)
ジョージ様>時系列は一緒なんですけどねw人によって置かれている状況が全然違うのが、書いていて楽しいです。(Rocket)
役に立ったのか?それとも役に立てたのか? どっちなんだー!!! とすごい突っ込みは無しですか?そうですか?w(相駿)
・・・・前回までのシリアスが一気にぶっ飛んだなwwwww おまいら自重せいwwwww(峠崎丈二)
タグ
真・恋姫†無双  

rocketさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com