ミレニアム・アンデットデビル上1
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 都心のスラム街。そこの外れにあるゴミ捨て場の中心にスーツを着た男が携帯電話のような代物(しろもの)をいじっていた。

 

 年は30近い。中肉中背で、特に印象を持たないどこにでもいそうな人間。

 機(はた)から見れば仕事に行く振りをして公園で時間を潰しているリストラされたサラリーマンと同じに見えるだろう。

「・・・・・・はあ、だるいな。」

 仕事とはいえ、人を殺すのは気持ちのいいものではない。だが、それで何十億と手に入るのなら、人は喜んで人を殺すだろう。

「全く、嫌な世の中だぜ・・・・・・。」

 

 時は2060年。

 今世紀で大きく変わった点が2つある。

 一つは携帯式通話機能付きパソコンの普及。

 とはいってもまだまだ試作品で、旧作のノート型パソコンを持ち運ぶ人も少なくないが、完全にブラウン管の時代は過ぎた。

 そして二つ目は裏社会での殺し屋と呼ばれる職業が成立してしまったということである。

 もちろん政府、国の人間はそんな物騒なものに許可等しないし、民間人に至っては存在さえも知らない。

 だが、現実として殺し屋という職業が増えてるのは確かではあるし、その親会社は平均で数百億の利益を生めるほど膨れあがったのも確かである。

 

 ピポ。

 男は今日のスケジュールを携帯パソコンで確認する。その大きさは手のひらサイズで、USBを繋げばキーボードにも接続できる。

 直訳すると、キーボードが繋げてパソコンと同等のネットができるテラバイト式の携帯電話といったところであろう。

「あ〜〜、早く終わんないかな?」

 この男の職業は殺し屋で、今日は佐津間という高校生を6人チームで抹殺することである。会社を通しても一回の仕事で報酬は数千万はあるので、人を殺した罪悪間を潰すには十分な額である。

 それに今回はボーナスもかねて一人10億も配布されるというのなら、なおさらだ。

 ちなみにこの男は見張りとデータの輸送係り。なので実際に人は殺さないし、残りの5人が仕事をしている時はただの連絡係なのである。

 ピ・ッピ・ピ。

「・・・・・・っお。」

 通信が入った。

 もう任務が終わったのであろう。とりあえず死体処理班に連絡して早めに切り上げようと思い、とりあえずメールを開いてみた。

【チームは全滅、至急援護を要請する。】

「・・・・・・は?」

 意味が、分からなかった。

 たかだか高校生を殺害しにプロの殺し屋が遅れをとるはずもない。

 がらら。

 灰色のゴミを踏みしめ、もう一度メールを確認する。だが、それは何度見ても変わることが無い。

「壊れてんのかな?」

 そう言ってこちらから連絡を送ってみる。

 男は用件のみを素早く入力する。

「いや、それは正常だと思うよ。」

「―――っっっ!」

 息を呑んでゆっくりと背後を振り返る。

 そこには、

「気配は残ってるし、誘導にも簡単に引っかかる。・・・・・素人か。」

 ―――今回のターゲットの佐津間という強靭な肉体の高校生がいた。

「・・・・・・っ。」

 生唾を音を立てて飲み込む。

 当然だ。この男がここにいる地点で、仲間の安否は大体想像がつく。ここは、この職業はそ ういう世界で、もちろんこの後自分がどうなるかも予想できる。

 ここはスラム街。そして、さらにその外れのゴミ捨て場。逃げ場などあるわけがない。

「一つ聞いていい?あれがおたくの会社で最高の人物なのか、それともオレを殺すのにわざわざ雑魚を出したのか。」

 狐の様に細くて印象的な目をした佐津間は言った。佐津間は7月だというのに黒のトレーナーを着用している。だが、その姿はファッションや個性といった甘い考えではないことを、同業者の男は察した。

「・・・・・・。」

「はあ・・・・・そうか。今回のターゲットにそんなこと教えるわけがないしな。」

 佐津間はのんきに2,3度頭を掻き、考えている素振りを見せた。

「・・・・・・?」

 不思議な点がある。

 仮に、否、仮という言葉すらおこがましいが、うちのチームが全滅したとしよう。

 さて、そのチームを殺した人物はどこにいるのだろう?

「あの・・・・・・。」

「ん?」

 びくびく辺りの様子を窺う自分とは対照的に、佐津間は同級生と会話をするノリで話してくる。当然だ。向こうは狩る側で、こちらは狩られる側。いつの時代も、どんな生物も弱肉強食の掟だけは変わることは無い。

「・・・・・・俺のチームを殺した人って、どこにいるんですか?」

「なるほど。」

 何か合点がいった様に、佐津間は表情を変えないまま笑った。

「オレが誰だか知らないのか。」

「・・・・・・え?」

 狐目が吊り上り、誇らしげに言う。

「オレの名前は佐津間俊。」

「・・・・・・?」

 依頼では佐津間と聞いたが、下の名前は始めてだ。・・・・・・佐津間俊。どこかで、聞いたことがあるような、ないような・・・・・・。

「・・・・・・まあいい、もう殺すか。」

 男は胸に潜む違和感から、目の前にいる学生の名を連呼してみた。

 ・・・・・・・佐津間俊、佐津間俊、佐津間俊佐津間俊サツマシュンサツマシュンサツ・・・・・・

 ―――魔瞬殺。  

「ッッッッッッッッっー―――――――!!!!!」

 顔が青ざめ、声は枯れ、血は引き、意識は薄れる。

 その例えは決してオーバーではない。

 世界暗殺会社のNO2、通称―――

 ―――ハプネス。

 そこでわずか10歳にしてこの世界の頂点に君臨する人物。

 1キロも離れた、人が点に見えるかどうかという距離での、非常識な射殺。

 しかし、その限りなく不可能に近い距離で、14歳という若さで成功した。

 それもL96A1.第二次世界大戦にはスナイパーライフルにロックオンを搭載しているのだが、俊の場合は必要ない。

 ・・・・・・だが、その人物、佐津間はその程度のレベルではない。

 1キロの超遠距離狙撃を成功しただけではない。

 1キロが、

 佐津間俊のテリトリーなのだ。

 任務を放棄したり、同じグループのせいで失敗はあるけれど、決して狙撃は外さない。

 トリガーを引いた瞬間、ターゲットの頭の中に時限爆弾でも入っているかのように見事に、そして優位に人を殺す。

 瞬殺という名がぴったりな、そんな男は、世界中の特殊な人物にこういわれている。

 

 魔瞬殺、と・・・・・・

 

「・・・・・・はあ。」

 有無を言わさず無様に周囲のゴミを散らばせながら走り去る。

 その行動を見届けた俊はやりきれないため息を漏らした。

 敵に背を向けるのは戦士の恥だとか、そういう問題ではない。男と佐津間では、勝負どころか弱い者虐めにもならない。

 

 走って、走り抜けた。

 

 余裕なのかは分からないが、幸いにも佐津間は追っては来なかった。

 男は廃墟になった商店街で、身を隠しながら呼吸を整えようと必死だった。

「・・・・・・は、・・・・・・・は、・・・・・・・ははっ。」

 息切れから、自分が生きていることを認識したせいか一瞬、笑みが零れた(こぼれた)その時だった。

《オレの名を思い出してそれから逃げるなんてオレも舐められたものだ。こんな屈辱は18年間生きてお前が始めてだな。》

「・・・・・・・ぅぅううわあああああ!!!」

 身体のどこからか、電子的な俊の声が聞こえてくる。発信機を付けられたのか、とりあえずスーツを慌てて脱ぎ、その場に放り投げる。だが、声は止むことはない。

《オレの顔に泥を塗る程命知らずな屑に問題。その屑の命はあとどのくらいでしょう?1番、3日以内。》

 Yシャツもズボンも脱ぎ、トランクス一枚という無様な姿で男はさらに逃げだそうと走り出した。

《2番、3時間以内。3番、3分以内。》

 だがどうだ?逃げ切るどころか発信機も見つけられない。男に、もう冷静な思考があるとは思?ヲない。

「4番、3秒以内。」

「ああああああああああ!」

 最後の声は間違いなく本人の口からの言葉・・・・・・、

 

 パン!

 

 で、あったのであろう。

 付け加えるのなら、既に動かない人形になってからでは、そんなことはどうでもいい。

 男は、心の臓を打ち抜かれて死んでいた。

 パンツ一枚になってまで逃げ出そうとした結果、あまりにも無様な姿で血のプールを作ってしまったのだ。

「・・・・・・。」

 俊は、自分を殺そうとした人物を全て処理した後、先程までの余裕は無くなっていた。ただ、表情は変わらない。まるで仮面を被っているような、変化の無い表情は何者も俊の心を捕らえることはできない。

「・・・・・・ふう。」

 顔を伏せ、死体を見ないようにため息をつくと、その場を後にした。

 俊が死体処理をしないのは、自分を知る世界中の人間に教えたいのだろう。

 

 オレを殺すことは、不可能。

 

 ということを。

 

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 第一章『悪逆無道』 〜川越妃子 編 1

「で、あるから座標Xの位置は・・・・・・・」

 線の細い数学教師が言う説明を聞きながら、私はいつも通りブラックボードに書かれた白い方程式をノートに写す。

 勉強は、学生の本分だ。

 

 私の名前は川越妃子。先進国の日本で生まれた、食事も遊びも不自由なく、戦争という単語も教科書でしか知らないほのぼのとした人生を送っている、数多い平和ボケした人間の一人である。

 別に、人を殺したいとか、普通がいやというわけではないし、今の生活に満足がいってないわけでもない。

 程々に充実して、だからこそ十分に一日を大切に生きられる。

 そう、

 

 ガララ!

 襖式のドアが荒っぽく開く。クラス中の視線は教室のドアに行くが、私はまだ写生の途中なので黒板から視線を外すことは出来ない。

「川越妃子!川越はいるか!」

 自分の名を呼ばれるが、それでもぎりぎりまでノートに文字を記入する。急用ということは大体察しが着くが、今は授業中。私の中での優先順位はあくまで授業である。

「お前の母さんが倒れた!」

「・・・・・・え?」

 ペンを床に落としたのは、この時が人生で始めてだった。

 そして、もうそのチャンスは二度とないものであった。

 

 そう、私は普通であり、それを誇って生きていた。

 この瞬間まで―――。

 

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 第一章『悪逆無道』 〜川越妃子 編 2

 私の唯一の肉親は、母だけであった。

 父は会社で転落して亡くなり、姉は4年前に誘拐され、頭を除いた手足だけで帰ってきた。簡単に言えば、無言の帰宅。死体。

 思えばそれを機に私は心を閉ざしたと私を知る人間は語る。

 母子家庭だが父の財産があり、生活はそこまで困難ではない。ただ、それでも家に帰って母が一人しか家にいないというのは、正直寂しいと思うことも確かである。

 母は、優しい。

 それはどこの家庭も一緒だと思うが、それでも私にはもう母しかいないのは確かであった。家に帰り、母だけの、声。

 おかえり。

 寂しいではあるが、それでどれだけ救われたか。そんな母が倒れたと聞いた時、パニックになったり、驚いたりすることもなかった。

 あまりにも、

 現実感が無かったのである。

 

 

 ガチャ。

 病室のドアを開ける。そこのプレートにはもちろん母の名が刻まれている。 

 場所は、ホスピタルである。

 簡単に言えば、既に治療できる段階ではなく、後は死を迎えことしかできない場所である。つまり、交通事故というベタなパターンではなく、母の持っていた病気がピークに来たのだろう。その病室にいる殆どの人間が80代の年寄りで、40過ぎの母は若い。

 若すぎる。ここに居るべきではない。

「・・・・・・。」

 ドアを開け、病室に入っても母が声をかけることはなかった。

 無視をしているわけでも、気付いていないわけでもない。ただ、私に声をかけられない。それだけである。

 酸素ボンベを付ける姿は、今まで現実味が無かった分、ずっしりとリアルというシビアな重みが私に圧し掛かる。

「・・・・・・あ、」

 もう、認めなければならないらしい。

「・・・・・・っ、ぅ・・・・・・・、」

 昨日まで普通に生きていた母が、もう二度と台所に立つ姿はないのだと。

 母は何か、言葉を妃子に向けたらしいが、それは声にならず消えていく。妃子はベットに横たわる母の手を、優しく握った。

「・・・・・・ただいま。」

 言葉が思い浮かばなかったので、とりあえずいつも通りに挨拶を交わしてみる。

「ぉ・・・・・・り・・・・・・」

 苦しい表情を消して、にっこりと微笑み、私の言葉に反応をくれる。

 ・・・・・・自分は本当に、不器用だと思う。

「そろそろ説明してもいいですか?」

「・・・・・・・っ!あ、はい・・・・・・・。」

 この部屋に母以外に人がいるのはわかってたが、まさか医者がいるとは思わなかった。

 妃子は声のした方に振り向き、そしてその医者の姿を見て言葉を失った。

「あなたの母親は、病院に運ばれなければ既に死んでいます。そうは言っても、病院で寝ててもあと4日後には亡くなるでしょう。」

 女優の様に整った顔立ちに、スタイルも完璧。ストレートヘアーのセミロングは大人の印象を与え、大きな瞳は観るもを吸い込みそうな程の魔力をも感じる。同じ女性として、ここまで華麗な人を間近で見たことが無い。

「病名は分かりませんし、知ったところで意味がありません。どうせ死ぬんですから。」

「・・・・・・。」

 この女性に何か言われて、喋れなくなるのは自分だけだろうか?普通、医者と初対面の場合、息が苦しくなったり症状を聞くのに汗を流したり、それこそ患者の命を握っているものだ。ところがどうだろう?

 この女性からすれば、母の命等全く興味が無いものだと感じられる。それは医者という職業をビジネスと割り切っているという感じではなく、それよりももっと価値の無い、例えるのなら好きでもないのにボランティアでゴミ拾いをやっている様な、そんな印象を受ける。「ですが、一つだけ方法があります。」

「・・・・・・なんですか?」

 我を忘れて飛びつけたら、どんなに楽だろう。

 妃子は、分かっていた。この女性は、母の命がどうこうではなく、こうして自分の欲求を言いたいだけだという事が。

「あなたの人生を捧げるの。」

 

 こうして、私のこれまで平凡だった人生が幕を閉じた―――

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 第一章『悪逆無道』 〜川越妃子 編 1

 女医に案内され、近場の喫茶店に入る。

 病院からは1,2キロ離れているが、高級車で商店街まで連れてきてもらった。

 これで妃子の勘であった「ろくでもない人間」というのは勘ではなく確信に変わっていた。 喫茶店はそれほど高級ではなく、どちらかというと町のいたる所に広がっている一般客向けの場所である。学生に入社したてのOL、1世代前のノートパソコンを触るサラリーマンの姿もある。

「こっちよ。」

 店員の指示にも従わず、女医はずかずかと、まるで席が決められているかの様にタイルの上を優雅に歩く。妃子はそれに従うしかない。

「その子かい?」

「ええ。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・?」

 見ると、二十歳に近そうな体つきのよい狐の様な目をした青年と、その隣に身長は私と同じくらいしかなさそうな(159p)美形だが眼つきの悪い高校生、下手したら中学生ぐらいの少年が居る席に案内された。

「楽にしていいよ。」

 狐目の青年にそう言われ、会釈(えしゃく)を一つしてから女医と一緒に腰掛けた。その間も、眼つきの悪い少年はずっとこちらを睨むだけであった。

(・・・・・・無愛想。)

 心の中でぼやいてみると、余計に眼つきが厳しくなった気になった。まあ、おそらく気のせいだろう。

「オレは佐津間俊。仕事ではミレニアムスナイパーと呼ばれている。口の悪い奴は魔瞬殺って呼ぶが、そこはあまり気にしなくていい。仕事内容は狙撃。文字通り1000mまで狙撃は可能だ。」

「・・・・・・はあ。」

 とりあえず、相槌(あいづち)を打ってみる。その自分でも分かる無愛想な態度に俊と名乗る男は満足したそうだ。

 尤も、狐目の俊とかいう男の表情は何も変わらない。ただの雰囲気で感じるだけだ。

 つい、

 と首だけ動かしてあごで女医を指す。それにうなずくと、女医は妃子に視線を向ける。

「私の名前は須藤欄よ。専門はクラッキングだけど、他にも電波の遮断、機械の誤操作、あとはスパイなどもできるわ。」

「・・・・・・。」

 リアクションが、非常にとりにくい。この人が医者というのももしかしたら嘘だという可能性も十分に読んでいたつもりだ。だが、このSFの入った、というかどちらかというとオカルト的な発言にはついていけない。

「欄は昔からとても有能だ。ハプネスに編入で入って、その月で世界一のクラッカーになる程の腕の持ち主なんだ。」

 俊が欄とかいうヤブ医者の説明をしてから、私の向かいに座っている少年に視線をやる。

「・・・・・・柳双葉。職業はテロ。」

 心の底からめんどくさそうな態度。素っ気無い自己紹介が2秒で終わった。そんな無愛想な双葉にすぐに俊がフォローを入れる。

「こいつはハプネスで唯一特別扱いを受けていた人物なんだ。ま、それは無知な大人達の偏見で、中身はいい奴だから大丈夫だよ。」

 俊は続けた。

「何か質問は?」

「あの・・・・・・」

 妃子が弱弱しく手をあげ、何か言いにくそうなことを喋ろうとしたが、それをまたもや俊が遮った。

「ああ、ハプネスっていうのは、そっちの・・・・・・裏の世界?上手く言えないけど、つまりそういう部類で世界で2位の実績をあげている組織のこと。今はそこの社長が病気で亡くなってから、俺たちは個人で会社を開い・・・・・・・、」

 

「あの・・・・・・帰っていいですか?」

 

 ・・・・・・ピクリと、双葉の眉が動き、蘭は気まずそうに視線をそらした。

「・・・・・・今、何て言った?」

 俊も固まり、表情を変えないまま妃子を睨みつける。実際には睨んでいるようには見えないが、場の空気である程度感じることができる。

 だが、妃子としてはこんな所で時間を食っている場合ではない。自分の親が大変な時に、新手の詐欺の類な話をされてはたまらない。

「失礼します。」

 それだけ言い残し、席を立とうとすると、

「採用。」

 と、またわけのわからない言葉を言っていた。だが、その言葉に一番反応したのは、双葉とかいう幼い美少年だった。

「はああ!?俊さん、それは無いでしょう!なんでこんな・・・・・・、」

「口を慎みなさい。もう決定事項よ。」

 双葉の向かいから出てくる欄を、双葉は思いっきり睨みつけた。

「てめえは黙ってろ!」

「口の利き方には気をつけなさい。年齢でも仕事の能力でもこの私の方が上よ。」

「はん、なに言ってやがる。歳ばっかとって何も出来ない屑は黙ってろ。」

「餓鬼(がき)が・・・・・・!」

「そういうことで川越妃子さん、給料は月20万、夜勤手当なし、残業手当あり、交通手当てなしだけど衣食住はこちらで用意する。どうかな?」

 俊はそんな二人にお構いなく話を進める。

 妃子にしてみれば、普段ならおいしい話だが、こういうモノは時と場合による。それに本当かどうかも分からないし、どちらにせよ今は早く母の顔が見たかった。

「俊さん!頼みますよ!こんな小娘雇うなんて安易な考えはやめましょうよ!他にもっと愛想がいい奴いっぱいいますよ?そういうの雇いましょうよ!冷血無愛想女はチームに二人もいりませんよ!」

「誰が冷血無愛想女よこのショウジョウバエ!俊君が決めたんだからあんたなんかに拒否権は無いわよ!」

「誰がショウジョウバエだ!てめえ、そんなにこの小娘と一緒に働きたいならてめえがチーム辞めればいいだろ!」

「何よ!大体、あなたがいなければ俊君と二人だからこんなことしないわよ!裏を取ればあなたの為なのよ!」

「・・・・・・言ったな整形ブス!」

「・・・・・・っ!」

「お話、お断りします。」

 この妃子の声で、二人はピタリと止まった。妃子は二人の視線を浴びながら、喫茶店の入り口まで歩き、ドアに手を掛けた瞬間、

「母親の命が助かるといっても断るか?」

「―――――!」

 取っ手を掴んだまま、動けなくなる。

 母さんの命が、

 ・・・・・・・助かる?

 どこか、信じがたい、それでいて確信に近い何かが私を引き寄せる。

「蘭から聞かなかったかい?」

 確かに聞いた。だが、この女性は医者ではない。つまりそれは私を騙す口実と思うのが一般的ではないだろうか?

「君は今、こんな頭のネジが2,3本取れた馬鹿に構う時間は勿体無いと思い、それよりは自分の母親と残り少ない時間を過ごしたいと思っている。」

「・・・・・・・。」

「ならば、それが『もし』本当だったとしたら、果たして今、君は何をした方が利口なのかは分かるだろ?」

 その声は、先程の陽気なトーンではなく、ゆっくりと静かな、人の心を侵しやすい様な声。例えるのなら催眠術の様。

「500年も昔から、この世界には闇医者というものが存在する。10億積めば例え臓器が足りなくても、他の人間を殺してでもその『部品』で患者を治すという素晴らしい医者がね。」 身体が、後ろを向けと言っている。だが、私はそれに必死で抵抗する。

「そしてオレは丁度その闇医者とやらに知り合いがいてね。」

 向いたら、もう・・・・・・

「ここに、」

 はら、

 虫が飛んでると思ったが、それは虫ではなかった。紙ふぶきに近いものが妃子の視界を遮り・・・・・・、

「なぜか偶然、10億ほどある。」

 身体が、振り返る。

 そして私の視界は、紙幣で覆い尽くされ・・・・・・・

「さあ。」

 万札の壁から、手が出てくる。

「手を。」

 ここまでくれば、洗脳され、相手の器の大きさを見せ付けられ、流れに乗るだろう。だが、妃子の勘がその手を取るなと訴えている。

 だが・・・・・・・、

 妃子はゆっくりと、右手を差し出した。

「ミレニアム・アンデットデビルにようこそ。」

 この現状で、加え、私の境遇で手を取らない人間はいないだろう。

 

 俊の手を握ると、嫌悪感で身体が吐き気に襲われた―――

説明
オムニバスのオリジナルSF(近未来)です。
『この世界の裏側に、人を殺して利益を得る職業が存在した。しかし、彼らに罪の意識はない。そこに非常や冷徹といった単語を連想されるかもしれないが、実質は異なる。パソコンに向かうように人を殺すことを教育されてきた彼らは、それが日常となっていた。そんな日常の話しです』

初投稿です。
少し長いので3つに別けます。
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ミレニアム・アンデットデビル SF オムニバス 殺し屋 近未来 omnibus サイバーテク テロ スナイパーライフル 

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