珠天という種族 |
そう、珠だよ
青年は繰り返して囁いた。青年と言っても目を伏せたときなど時たま老人のようにも見える。雨宿りをしている僕の隣に駆け込んできた男だ。いつからか僕たちは話をしていた。僕はつまらない怪談話などをしてやる。青年はにこにこと笑ってそれを聞いていた。
不思議な男だ、と僕は思った。そして不思議な話をする、と。
珠に変じることができるんだ。人々は「仙人」として敬っていたよ。彼らはとても長生きで、ずっと美しいんだ。
ある日その珠に変じる少女、彼女達を総じて珠天と呼ぶのだけどね、彼女はお遣いで卵を買いに行った。でも運悪くその帰り道、彼女はひどい雷雨に遭って、恐ろしくて珠に変じたんだ。彼女の帰りが遅いことを心配した家の者達が探しに行って、彼女と思われる珠を見つけることはできたのだけど、なかなかこれが人に戻らない。彼女が再び人になったのはひと月後だった。卵の入ったかごを抱えて、雨でびしょ濡れになった姿のままに、ひょっこり家族の元に現れた。彼女はばつの悪そうな顔で
お遣いが台無しだわ
と言った。それで腕に抱えていた卵を割ってみたんだ。すると卵は新鮮なままだった。
珠に変じている間は時が止まっているんだ。だから彼女と一緒に珠に巻き込まれた卵も腐ることがなかったのさ。
こんな話もあるよ。
ある珠天の青年は人間の女性を大変愛していた。でも彼女は既に老人で、しかも重い病を抱えていた。もういつ命が尽きるかわからない。それで青年は、彼女を抱きかかえたまま珠に変じたのさ。
これで一生人には戻らないと誓ってね。そうすれば永久に彼女と共にいることができるから。
そこでこの伝説を踏まえてある仙人たちが面白い計画を立てた。
世界を1つの珠の中に封じようっていうんだ。
一人の珠天に世界を見聞させる旅をさせて、何もかも取り込ませようっていうんだ。呆れるだろう。
でも成功したんだ。
これだよ。
この珠に世界が入っているんだ。不思議だろう。
これは君が持っていてくれないか。大丈夫、絶対壊れたりしないから。あとは土に埋めようが一生持っていようが好きにするといい。別に君に世界を託そうっていうわけじゃないよ。私がこのまま持っていてもいいんだけど、なに、気まぐれさ。
そう言って青年は僕の元から去っていった。僕には青年がひどく疲れて、魂か何かが磨り減っているいるように見えた。このまま音もなくいなくなってしまうのではないかと思うほどに。
青年がその後どうなったかのか僕は知らない。僕はこの珠をどうすればいいのだろう。
そんなことを考えているうちに、雨が霧に変わった。この世界は常に変化している。珠の中の世界は、本当に止まっているのだろうか。僕はそっと譲り受けた珠に耳を当てた。無音、だった。
説明 | ||
いろんな種族が出てくる長い小説を書いています。その中から珠天という種族を表わす短編小説を書いてみました。 | ||
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