『想いの果てに掴むもの 〜第12話〜』 |
真・恋姫無双 二次制作小説 魏アフターシナリオ
『 想いの果てに掴むもの 』蜀編
第12話 〜 譲れない想い 〜
桃香との一件後
ねねと一緒に、蜀の主だった重臣に謝って回ったわけだが、
朱里、雛里、月は逆にこちらに謝ってきたくらいで、こちらも恐縮してしまう程だったし
詠は
「月があんたの事庇ったから、庇っただけよ。
ボクは、あんたが愛紗に斬り殺されようが、ちっともかまわないわ」
と言っていたが、実際あの場に月はいなかったのだが、その事を突っ込むのは、彼女の心遣いを無駄に
すると気付きやめた。
それに言ったら、絶対桂花に負けず劣らずの毒舌を浴びせられそうだし。
翠と蒲公英は笑って許してくれたと言うか
「次はあたしも混ぜろよ」
「蒲公英が焔耶から守ってあげるから安心してね」
激励と言うか、あの一応、俺魏の臣下だし、蜀の将としてその発言どうなの?
と思わないまでもなかったが、彼女達なりに考えた事なのだろうと、その言葉をありがたく受け取った。
鈴々は
「お兄ちゃんは、桃香おねえちゃんを強くしたのだ。 お礼は鈴々達が言う方なのだ」
と、義姉想いの言葉と共にいつもの笑顔で迎えてくれた。
黄忠さんと厳顔さんは
「あらあら、わざわざご丁寧に、次からは、もう少しうまくやってね」
「何を言う紫苑、ワシは北郷殿を見直したぞ。 若いもんは、あれくらい元気が無くてどうする」
「それもそうねー、何かあった時はお姉さん達に任せてくれれば良いから、北郷さんは信じた道を真っ直
ぐ行きなさい」
「安心して引っ掻き回していくつもりで行くがよい、ひよっこ共にはよい試練じゃ」
「北郷さんなら、その辺りは信頼できそうですから、うふふふ」
と俺のやったことなんて、豪快に笑い飛ばして、それどころか真名を許してくれる程だった。
趙雲さんにいたっては、
「一刀殿、なんで私を呼んで下さらなかった。
愛紗をからかう絶好の機会に、私を除者にするとは、あんまりではありませんか」
「いえ、あの、別にからかうつもりで」
「今のは冗談ですぞ」
「・・・あの子龍さん・・・」
「星でかまわぬ。 敬称も不要
貴殿の真っ直ぐな心根は、この趙子龍感服しました。その信義に応えて我が真名を貴殿に預けましょう」
とまで言ってくれた。
・・・・でも星、絶対最初の半分は、本気だったでしょう。
ちなみに魏延さんは、会議に乱入して暴れたということで、10日間の蟄居を命じられていた。
そのため人手不足になるので、翠は蟄居を解かれ喜んでいたが、俺はと言うと、翠の時もそうだが、
自分が引き起こした事が原因で、他人が罰せられるのはおかしいと言ったが、桔梗さんに
「会議中に乱入し、同盟国の重臣に手を挙げたのだ。 本来ならば処刑がふさわしい。
だが、曹操殿より北郷殿の事は」
『 蜀にいる間は自分の所の臣下と思い、存分にこき使い、鍛えてやって欲しい 』
「と言われておるのでな、北郷殿の事を抜きにしても、重大な会議の場に乱入し暴れた事実に違いは無い。
それに、北郷殿は蜀の臣下ではないので、我らが罰するわけにはいかぬ。
たとえ罰するにしても、北郷殿が我等の事を思ってした事、罰する事など出来るはずも無い」
「だけど、俺がもっと、うまくやれば、こんなことには」
「ふん、お利口に考えて言葉を濁らせては、伝わるものも伝わるわけがなかろう。
北郷殿は、もう少し自分がやったことに、自信を持つがよい。
それに、風殿からの進言もあってな、この方が北郷殿に堪えるとな」
「そ、そんな・・・」
「北郷殿、勘違いしてはならぬ
風殿の進言が無ければ、魏に対する義理もあるのでな、ワシ等は最低でも焔耶の将の職を解くつもりで
あった。
だが、北郷殿の事に関しては曹操殿の名代である風殿が、それで良いと言った以上、ワシ等は感謝こそ
すれ、文句を言う気など、さらさらない。
それに、此度の一件、あやつには良い薬じゃ。
どうもあやつは、桃香様の事に関しては盲目になりがちでな、まことの忠臣と自負するなら、桃香様を
諌めるのもあやつの仕事。
紫苑もワシも、今回の事はもう少し、ひよっこ共の様子を見て諌めるつもりだったが、北郷殿のおかげ
であやつ等も目が覚めた事だろう。
ワシ等に諌められるより、よっぽど堪えたことだろうて・・・・
だが、それすら分からず、あのような暴挙に走る焔耶には、少し考える期間が必要じゃ。
これを機会に、あやつには少し成長してもらわねばならない。
北郷殿の気持ちは嬉しいが、これは必要なことなのじゃ、北郷殿にとっても、焔耶にとってもな」
魏延さんの直属の上司である桔梗さんに、そう言われては、俺は何も言えなくなってしまった。
風は俺の事を想ってくれたうえで、双方にとって最も良い方法を提案してくれたのだと思う。
たとえ、罪悪感に押し悩まされようと、それを振り払おうと努力しても、それは自己満足に過ぎない。
行動の結果には、必ず何かしらの犠牲が伴う。
だが、その犠牲を恐れていては、何かを成す事なんて出来やしない。
なら、何かを成した上で、その犠牲を最小限に抑えるしかないんだ。
そのために、俺は色々学ばねばならない。色々考えねばならない。
それは、多くの苦悩と努力の果てにあるはずだから・・・・
なら、今はこの機会をくれた風に、皆に、感謝し、信じ、自分をじっくり磨いていくしかないんだ。
正直くやしい、この二年必死に勉強してきたつもりだが、ぜんぜん足りない。
自分の力の無さを、こういう形で実感させられるとは・・・・
華琳、みんな、俺まだまだだ・・・・・
だから、俺頑張り続けるよ。
今は、まだまだ皆に迷惑掛けるけど、いつか皆の助けになれるように、頑張るよ。
よし、なら、色々反省して頑張らないといけないけど、とりあえず、魏延さんが罰を受け蟄居中なら、
2〜3日したら頭も冷えて、きっと退屈しているだろう。
だから仲直りも兼ねて、暇を紛らわせてあげよう。
原因は俺なんだから、多少の無茶なら聞くつもりだ。
と、ついさっきまでは思っていました。
どーーーーーんっ!
「翠から聞いたぞっ!。
何でも蟄居中、貴様の鍛錬に付き合っていたとな。
なら、私も翠に見習って、貴様を鍛えてやろうっ!」
と、3日後の鍛錬中に、やたらと張り切った魏延さんが、愛用の大金棒を ぶんぶん と振り回し、最後に
地面に大金棒を叩きつけてやってきた。
その様子は、とても鍛錬をつけてくれるという雰囲気ではなく、どう見ても溜まった鬱憤を晴らさんと
殺る気満々な様子だ。
うん、今の彼女なら、俺は、あの大金棒で大空高く打ち上げられ、星になる自信が有るぞ。
さすがの俺も、さっきまでの想いは棚に上げて
「あっ、結構です」
「へっ?」
「だから結構です」
「なにぃぃぃーーーー!
貴様、翠の鍛錬を受けても、私の鍛錬は受けられんと言うのかっ!」
「いや、今の文長さん相手じゃ、文字通り叩き潰されそうなので遠慮します」
「貴様、私の好意が受けられんと言うつもりかっ!」
と、魏延さんの申し出をお断りするも、魏延さんは食い下がってくる。
でも、今の魏延さん相手なら、きっと一般人なら、誰もが遠慮するに違いない。
そして、俺は、皆のような超人側で無く、ごく普通の一般人なので、当然の選択である。
俺だって、魏延さんとは仲直りしたいと思う。
だけど、今の彼女相手ではいくらなんでも無謀すぎる・・・だって、こんな事で死にたくないもん。
だから、俺は今は彼女に引いてもらうため
「文長さん、申し出は非常にありがたいんだけど
翠の時とは状況が違うし、あまり派手な鍛錬していると、関羽さんにまた怒られるかもしれないし」
ビクッ
俺の言葉に、彼女は大きく震えると、その場で怒りを溜めるかのように小刻みに震え出す。
えーと、俺を叩きのめす絶好の口実を断られて、怒りのぶつけどころを探しているのかな・・・
なら、ここにいると、また変な事になりかねない、ここは早々にこの場から撤収するべきだな
と、思っていた所に
「頼む、せめて半刻で良い。 貴様の鍛錬につき合わせてくれっ!」
「へ?」
魏延さんの思いもかけない言葉と態度に、今度は俺のほうが呆然とする。
「えーと、なんで? 俺の事怨んでいるんじゃ」
「ふん、貴様のした事が結果として、桃香様の為になったというなら、あれ以上、私がその事で貴様を
責めるわけにはいかぬ」
「・・・・そ、それだけ?」
「いや、あの後、桃香様に諭され
桔梗様や愛紗に、こっ酷く説教されたのだが・・・・何でだっ!
蟄居中、翠の時は何も無くて、なんで私だけあのような目にあわねばならぬっ!」
「ちょ、文長さん落ち着いて、くび、首が絞まってるから・・けほっ」
興奮し、人の胸倉を掴む魏延さんに、とりあえず落ち着いてもらい、話を聞くと
ここ3日間、蟄居中の魏延さんは、ひたすら、延々と反省文を書かされていたそうだ。
しかも夜になると、関羽さんがそれを確認して、その内容について、これまた夜遅くまで、延々と説教を
聞かされると言う日々だそうだ。
内容を確認されるため怠業するわけにも行かず、延々と同じような内容を書かされ続ける。
しかも竹簡や木簡ではなく、わざわざ高価な紙を魏延さんもちで山程用意してくれたと言う。
これが後7日も続くとなると思うと、何もかも忘れて暴れ出したくなる思いだったそうだ。
たしかに、いかにも体育会系のまっしぐらの武官代表、とも言えそうな魏延さんにとって、これは地獄の
苦痛以外の何ものでもないだろう。
春蘭なら、とっくに暴れ出しているに違いない。
そこへ翠から助け舟と言わんばかりに、俺との鍛錬との事を聞き、関羽さんも客人の助けになるのならと、
許可が出たそうだ。
「えーと、つまり、反省文から逃れたいが為に俺に付き合えと」
「そうだ、正直、貴様のような軟弱な奴は好かん、が、あの地獄から少しでも開放されるなら、
この際選好みは言っておれん。 理解したなら私に付き合え」
まぁ、状況と心情は理解できた。
正直、原因は俺にあるのだから付き合うべきだと思うが・・・・
「あの文長さん、一つ聞きたいんだけど、貴女のその武器で、寸止めって出来ます?」
「何を言ってる。そのようなもの出来なくとも、貴様が受けきれば問題はない!」
「却下だっ! 全力でお断りさせていただく」
「なんだとー、もとはと言えば貴様が」
「だぁぁぁぁ、そういう気持ちの人間相手に鍛錬は危険だって言ってるのっ、せめて武器無しで頼む」
「貴様、武器を持たぬ相手に鍛錬とは、それでも武官かっ!」
「文長さん程なら無手でも強いでしょうがっ! それに俺は武官じゃない!」
「屁理屈を言うなっ、武器を持たぬ女を相手にしようなんて、貴様それでも男かっ!」
「なら、こっちだって言わせてもらう。
素人相手の鍛錬に、一方的に叩き潰そうなんて、それでも武人かっ!」
「貴様の何処が素人だっ!
たとえ、まぐれでも蒲公英に勝った奴の言うことかっ! 軟弱な奴めっ!」
「あいにくと、先日の再戦であっさり負けてます。
そんな相手に、本気で叩き潰そうだなんて方が、武人の名が泣くぞ」
等と、売り言葉に買い言葉、不毛な口喧嘩を5分程した後
「とにかく、お互い無手で、相手を大怪我させない事、これなら付き合える」
「ふん、ここは貴様の言うとおりにしてやろう。
その代わり、朝夕の鍛錬につき合わさせろ、昼間もやるなら声を掛ける事、これが条件だ」
と、魏延さんとも和解(?)ができ、充実した毎日を送れる事となった。
しかし、反省文って、確か朱里達に学校で悪さした場合の処置の対応の一例として、先日話したけど、
早速実践とは、行動が早いばかりか、内容を相手に合わせるとは、さすが諸葛亮恐るべし・・・
でも、これって俺の発言が原因って知ったら、魏延さんの怒りがこちらに来るのでは?
・・・・うん、黙っておこう。
後で朱里達にも口止めしておかねば、此方の身が危ない。
そんなわけで、数日後、よく晴れ渡った空、少し動けば、やや汗ばむくらいの陽気の中
一刀は庭で、魏延さん抜きで、気の鍛錬を行っていた。
と言っても、いつものように激しく動いているわけでもない。
むしろ一切動いていない。
地面に座り込み、禅を組んでいた。
ただ違うのは、一刀の周りを僅かだか、白い燐光が飛んでいる事。
もしこれが夜ならば、一刀自身が、うっすらと白く光っているのが、視認出来ただろう。
その光の正体は、"氣" つまり生命力を視認化させた物。
だが、本来これは、己の体に留め、自己を高める物。
一刀自身もそうやって使ってきた。
そして、それは今も変わらない。
そう、今一刀の体から出ている"氣"は、制御を離れ、洩れ出た物だ。
別に一刀の調子が悪いわけではない。
現に今の一刀の体には、いつも以上に"氣"が体を廻っている。
そう、いつも以上に、そして、それは今も増え続けている。
一刀が禅を、この"氣"の鍛錬を始めて一刻も経った頃だろう。
一刀の身体の内を廻っていた"気"が、やがて元の場所に戻るかのように、体の更なる内へと消えていく。
「ふぅーーーー」
「おつかれさん」
"氣"の鍛錬をやめ、動いていないにもかかわらず、熱くなった体を冷やすかのように、長い息を吐く。
そこへ、翠の声が掛かる。
「あれ、いつから見てたの?」
「半刻前にも通りかかったけど、今は、ついさっきかな」
「声かけてくれれば、よかったのに」
翠の言葉に驚き、俺が言うと、翠は困った顔をして
「いやー、なんか声をかけにくくて」
「へ? 何でいまさら」
「最初は、せっかく仲良くしているのに、邪魔しちゃ悪いかなー、と思ったんだけど、
どうやら違うみたいだから、こうして来てみたんだけど」
「仲良く? 邪魔?」
翠の言う事が良く分からず、首をかしげていると、
「・・・・もしかして、気が付いてないのか?」
と下を指差す。
翠の指差す場所、そこには・・・・・
「風・・・そこでなにしてるの?」
「おやおや、気が付かれてしまいましたかー」
と、いつもの暢気な声が返ってくる。
視線の先、つまり胡坐をかいた足を枕にして、寝ながら本を読んでいる、風の姿があった。
「・・・・本当に気がついてなかったのかよ」
「すまん、どうやらその通りみたい」
俺に呆れる翠だが・・・
はっきり言って、俺の方が自分自身に呆れている。
いくら集中してたからって、ここまでされて、気がつかないとは・・・
「お兄さんは、この鍛錬をすると集中しすぎて無防備になるのです。
その上、全然動かないので、風はつまらないのです。
風は、放って置かれて喜ぶ、変態さんじゃありませんから、
せめてこうやって、お兄さんで楽しむのですよー」
「あー、それで、あちらの兵達は、護衛をを含めて、あそこで作業しているんだ」
「そうなのです」
翠が指差した方には、魏から一緒に来た兵が、作業をしている。
作業をしながらも、こちらを意識しているのは、雰囲気で分かる。
「で、そこまで集中してやる鍛錬って、なにやってるんだ?」
「ああ、"氣"のみに集中した鍛錬で、"氣"の量の増大と、一度に扱える"氣"の量の増加を狙った物なんだ。
普通の鍛錬でも鍛えられるけど、俺は"氣"を扱えるようになって日が浅いから、扱える量が少ないんだ。
だからこやって時折、鍛錬しているんだけど、俺にはまだ難しい鍛錬だから、集中しすぎて不覚になる
から、いつもは夜やるんだけど、今日は、ここで待ち合わせしてたから、暇潰しにね」
「ふーん、それでずーーと、風とよろしくやってたわけだ」
「え¨?」
俺の説明を聞いて、翠がなぜか半眼で冷たい眼差しで言う。
あれ? 俺何か気を悪くすること言ったっけ?
・・・・というか、ずーーーとって?
「・・・風、そう言えば、いつからそこに?」
「お兄さんが、その状態になってからですから、かれこれ一刻近くになるのですよー」
風はそう言って、やっと俺から退くと、今度は翠が
「そうだろうなー、侍女達や皆が噂してたし、ここよく見えるからな」
「おかげさまで、風とお兄さんが、仲が良い所を皆に見てもらえて、風は嬉のですよー」
と、風と翠が頼みもしないのに、今の俺の状況まで教えてくれた。
待て、冷静になって、今の俺の状況をもう一度客観的に、考えて見ろ。
天気の良い日、
見渡せる庭、
暖かい日差しの中
男が地面に座り、
それを枕に女が甘えるように寝転がって読書をする。
そしてそれを、通りかかる人々が、
温かい目で見守りながら通り過ぎる。
って、何処までベタなバカップルだーーーーーーーっ!
と言うか、いままで、俺、それをやってたのかっ!?
そんな、天然記念物の様なバカップルを、俺がっ!?
ぐおおぉぉぉーーーーーっ!
は、恥ずかしすぎる。
死ぬほど恥ずかしすぎるっ!
しかも、皆に見られたうえ、噂のネタにされているだって!?
・・・・俺皆にどんな顔して合えばいいんだよ(涙
ごろごろごろっ!
ごろごろごろごろごろっ!
・・・・いいもん、今更恥じの一つや二つ、俺は挫けない、
何度だって立ち上がってみせる。 あの雑草のようにっ!
と、自己完結して、落ち着きを取り戻した所で、恥ずかしさにのた打ち回った体を起こす。
風は面白そうに俺を見つめ
翠は、心配そうに俺を見つめる
・・・・・まぁ、いきなり頭抱えてのた打ち回られれば、普通そういう反応するよね。
風、頼むから、そこで翠に「いつものことですから気にしないでくださいなのですー」なんて、常習犯み
たいなこと言うのやめてください、ほら、翠が引いてるじゃないか・・・
・・・・・負けないもん、俺・・・くすん
「で、翠何か用だった?、」
「ああ、焔耶の様子を見に行ってたんだが、正直あれがあたしの時でなくて良かったと心底思ったね。
一刀に頼むのも変な話しだけど、手が空いてたら息抜きさせてやってくれ。
あたし等武官にとって、体を動かせないってのは結構きついんだよ。
だから一刀との鍛錬の名目で、体動かせれたってのは、あたしのときも結構救いだったんだぜ」
「そっか、俺のせいで迷惑掛け、いや、ここはお礼を言うべきだね。
翠、ありがとう。 こんな俺でも役に立てたなら嬉しいよ、これからもよろしくな」
「ああ、あたしも一刀との鍛錬は楽しめたから、かまやしないさ。
焔耶の件も頼むよ、それが言いたかっただけ、 じゃあ、あたしはこれでいくよ。
焔耶の分の仕事もあるんでね」
「ああ」
そう言って、翠は庭から去っていった。
ほんの短い間だったけど、彼女との鍛錬はとても充実した日々だった。
思えば、俺って彼女に迷惑掛けてばかりだな・・・それなのに彼女は一生懸命、俺を指導してくれた。
借りを作ってばかりだ・・・・
俺はまだ皆に、守られてばかりで、教えてもらってばかりだ。
正しいと信じながらも、自分が未熟なばかりに、皆に迷惑を掛けてばかり、
正直、自分の力の無さが恨めしいと思う。
でも、今はそれに耐えて、皆に甘えて、自分を磨いていくしかない。
いつか、皆にこの恩を返せる日が来ると信じて、
今、俺が出来る一生懸命を、やっていくしかないんだ。
心の中で、もう一度先日と同じ決意を決める。
そうしていると、今度は、翠と入れ違いに、待ちわびた人物が姿を現した。
「頼まれたもの、持って来たです」
こくり
ドサッ
ドサッ
そう言って、ねねと恋は、手に持った荷物を地面に置く。
「恋まで手伝ってもらって悪いね」
ふるふる
「・・・かまわない・・・・ねね一人じゃ・・・・荷物・・・あぶない」
「ははははっ、たしかに」
そう、ねね達が持ってきてくれた物は、大きな篭二つと、石臼、その他とちょっとした荷物だ。
まぁ、たしかに、あんな大きな篭を二つは、ねねでは体格的にとても無理だよな。
そんな事を考えながら、恋に礼を言っていると、
「こんなもの、何に使うですか?」
「うーん、まだうまくいくかどうか分からないから、うまくいったら教えるよ」
「むむ、人に頼んでおいて、秘密とはあまりではないですか」
「はははっ、ごめんごめん、でもうまくいったら、きっと役に立つものだからさ」
「むーーーー」
ねねの言葉に、俺はそう答えるが、やや不満げだ。
だって、前もって説明しておいて、うまくいかなかったら恥ずかしいし・・・・
それに、きちんと製法を知っているわけではないので、上手くいっても、きっと試行錯誤が必要だろう。
持ってきてもらったのは、乾燥させた牛や豚の骨、卵の殻、膠、顔料、石臼、乳鉢、乳棒と幾つかの箱や
桶等と言ったものだ。
とりあえず、近くに待機しているうちの兵達数人を呼んで、骨を細かく砕くようお願いする。
俺は卵の殻を手で砕きながら、石臼にかける。
「もしかして、骨も殻も粉にするですか?」
「さすが、ねね良く分かったね」
「馬鹿にするなです。 何を作るかはわからないですが、作ろうとする形は、頼まれた道具を見れば、
後は想像つくです」
そう言って、ねねは、粉にした卵の殻を乳鉢に容れ、さらに細かくしていく。
「手伝ってくれるの?」
「ふん、ここまで来て、知らぬまま帰るのは我慢がなりません。 しかたないから手伝ってやるです」
「うん、ありがとう、ねね」
俺はそう言って、感謝の意を込め、ねねの頭を優しく撫でてあげる。
ねねは、特に嫌がらずに
「ふん」
とかいって、黙ってされるがままだったが、その頬は何故か赤く染まっていた。
うん、この微妙な強がりを見せつつ、照れている姿は可愛いと思う。
なんか、こうそのまま続けてたら、ごろごろ と聞こえてきそうだ。
「・・・・てつだう・・・」
ドンッ!
と恋は、石臼を俺の隣に置いて、兵達が砕いた骨を石臼にかけていく。
「あ、ありがとう」
いきなり石臼を横に置かれ、吃驚した俺は、とりあえず恋にお礼を言う。
ごりごり
ばきっ
ごりごり
ばきっばきっ
ごりごり
音だけが響き、時間が経っていくが、それに伴い、何故か恋が悲しそうな顔になっていく。
・・・・・何故?
「・・・あの、恋、つまらなかったら、別に手伝ってくれなくても・・・」
ふるふる
「・・・えーと、恋、何で悲しそうな顔をしてるのかなー」
「・・・・・気にしなくて・・・いい・・・・」
バキッ
ゴリゴリ
「・・・・えーと」
「ふー、
恋ちゃんは、きっとお兄さんに頭を撫でてもらいたかったのですよー
ちなみに、風はお兄さんに任せるのです」
気まずい沈黙の中、乳鉢で作業をしていた風が、溜息を吐いて俺にそう言う。
・・・・あのー、ねね みたいな娘なら、ともかく恋にそんな失礼な事は・・・・
それに風、そう言いながら、頭をこちらに寄せるのはよしなさい。
そう思いながら、手を止め、風と恋の頭を撫でてみる。
なでなで
なでなで
「・・・・・」
「ん・・・」
疑心暗鬼になりながら、二人の頭を撫でてみると、風はともかく、恋まで大人しくされるがままだ。
撫でていくに従い、恋の表情はどこか嬉しそうな顔になる。
・・・とりあえず、なでなでに、笑顔になるだけの価値があったかどうかはともかく、このままでは作業
が出来ないので、二人の頭から手を離し作業に戻る。
やがてある程度、粉が出来ると、兵に作業を変わってもらい、
ねねから、卵の殻を粉にしたものを受け取ると、別の桶に移し、其処へ水と繋ぎを入れ、こねて行く。
ある程度粘土状になったそれを、木型に入れて圧力をかけて成型する。
数本の棒状に成ったものを、乾燥用の木型にはめて、その作業を繰り返す。
やがて、つなぎの配合を変えた棒が、何種類か出来る。
其処へ、ねねが
「それで完成ですか?」
「あとは、乾燥させて、低温で焼くだけさ、結果は後日分かるよ」
「むむ、ここまできてお預けとは、酷いではありませぬか」
ねねは、ここまで手伝って結果が分からない事に憤慨する。
まぁ、その気持ちは分からないまでもない。
逆の立場だったら、俺も知りたいと思うし・・・
かと言って、上手くいくか分からないものの正体を明かすのは・・・なら
「じゃあ少しだけ、これは、あっちの大きな板と一緒に使うものなんだ」
そう言って、先日から、うちの兵士さん達に頼んで作業してもらっているものを指差す。
板は、膠と幾つかの顔料を混ぜたものを、何層にも塗り重ねたものだ。
「あの黒っぽい板とですか・・・・むむむ、ねねを試すですね」
「そう言うわけじゃないよ、じゃあ答えは、上手くいってたら今度の会議でね。
それと、そろそろ良い時間だし昼でも一緒に行かない?」
「・・・・ごはん・・・・皆で食べる・・・・おいしい」
「恋殿が良いというなら、ねねはかまわないです」
そうして後片付けは兵達にお任せして、俺達は楽しい昼食に街へとくり出す。
さぁ、なにを食べようかな、みんなで食べる昼は、きっとなにを食べても美味しいだろう。
ギチギチ
ギチギチ
今にも音が聞こえてきそうな空気が、部屋を支配する。
そこは街の食堂であり、戦場でも無ければ、国の未来を左右する議題のあがった会議場でもなんでもない。
あっ、今お店に入ってきた人達が一瞬固まったと思ったら、踵を返して逃げるように店を出て行く。
ああー、俺も出来たらこの場から逃げ出したいなー
あと、店主のおやっさん、運が悪かったと思って、今日は諦めてくれ
せめて、店が壊る様な事態が起きない事を祈っててくれると俺も助かります、はい
そう思いながら、この空気の原因である二人を、心の中で
(どうか無事明日の太陽が拝めますように)
と祈りながら見ると、
関羽さんからは凄まじい怒りの気配が・・・背景に龍と雷が見えますよ。
対する華蝶仮面(星)は、一見関羽さんの怒りの気配を涼しげに受け流しているようだが、あれは擬態だ。
間違いなくその体からは、静かな怒りが滲み出ている・・・こちらも背景に龍と豪雨が見えます。
竜虎相対するって言うなら分かるが、龍同士って・・・もはや怪獣大決戦以外何者でもないだろう
・・・・ダメだとても声をかけれる雰囲気じゃない。
どうしたら良いものかと、隣の風を見ると、
風「くーーー・・・・」
我関せずと、早々に夢の中へ退避されている。
俺も夢の世界へ逃避したいなー、でもこの技は風だから許される技であって、俺がやったら、悪夢を体感さ
せられた挙句に気絶させられるに決まっている。
いや、この二人相手なら気絶する所かそのまま永眠しかねない。
他に援軍はないかと周りを見てみるが、恋はこちらの空気など気にせず一人幸せそうに食事を続けている。
普段ならその恋を醸し出す雰囲気に周りの皆も癒されるのだが、あいにく今の状況に効果は無いようだ。
ねねは、その足元で
「・・・恋殿〜・・・・」
と、こちらの雰囲気を恐れ涙目に がたがた と子犬のように震えている。
いくら、戦慣れしている天才児とは言え、こういうのは慣れている訳ないよな・・・
すまん、ねね 巻き込んだ詫びはいつか返す。
店主は現実逃避に黙々と料理を作り続けているし、客などこの二人の雰囲気でとっくに逃げ出している。
・・・援軍は期待できそうに無い。
神よ、この泣きそうな状況で、俺にどうしろと? というか、そろそろ泣いて良いですか?
と思いながら、なんでこんな状況になったんだろうかと、つい半刻前までは平和だったのにと考えてみる。
街に繰り出してた俺達を待ち受けていたのは、美味しい昼食ではなく、
野次馬の人だかり、すでにこの街の名物となっているらしい騒ぎだった。
最初は、ちょっとした強盗の捕り物だったのだが、その犯人はすでに地面で気絶をしている。
「ほらほら、どうした、この街を守る警備の力とは、その程度のものなのか」
「貴様ーっ、騒ぎを起こしておいてぬけぬけと、今日こそひっ捕らえてくれるっ!」
「あははははっ、その言葉は、いささか聞き飽きてきたぞ。
そろそろ別の言葉で口説いて欲しいというもの」
「誰か口説いているかっ! 翠そっちいったぞっ!」
目の前では、華蝶仮面 VS 関羽さん&翠&警備隊 の一大対決が行われていた。
たしかに、警備の報告書でその事は知っていたし、2年前にも噂では聞いていた。
でも・・・・
「なぁ、ねね」
「い、言わなくてもいいです」
「あっ、ねねは気が付いているんだ。 良かった、じゃああれは演技な」
「演技じゃないのです」
俺の言葉を、ねねが遮り訂正するが・・・・ねねの言葉が、俺の中に浸透するのにしばしの時間を要した。
それはつまり
「もしかして本気で気がついていないなんてことは・・・」
「残念ながら、その通りなのです」
・・・・大丈夫か、この国(汗
まぁ、優れた人間はどこか抜けている場所も有るというし、関羽さんや翠はその典型なのかもしれない。
それに、俺の心配を否定するように、華蝶仮面を取り囲む一般兵は苦笑を浮かべている。
・・・・まぁ、普通後が怖くて、言えんわな。
「・・・人が困るのを見て楽しむ悪癖があるとはいえ、蜀の中では、まともな人だと思ってたんだよな」
「その言い方は、まるでねね達が、まともでないと言っているようですね」
「・・・・・」
「そこで黙るななのです。 まったく失礼な奴です。
一部否定できない面々はいますが、ねねと恋殿はまともなのです」
「そうか?」
「ぐぬぬぬっ、失礼なことを言うなですっ!」
・・・・だって、やたらと無口だったり、所かまわず、ちんきゅーきっく かましたりする奴が、まとも
とは言えないと思うだけどな。
うん、基本的にいい娘達と言うことは分かっているんだけどね。
「星ちゃん楽しそうなのです」
「そういえば、風は星とは付き合い長かったんだよね」
「そうなのですよー」
風の言葉に俺はなんとなく納得、風や稟には悪いが、この二人の親友だというなら、このぐらいの性格の
持ち主でもおかしくないわな・・・と言うか、よくよく考えたら、俺の回りどこか変な奴ばかりだったな
「お兄さん、何か失礼なこと考えてませんかー?」
「い、いえ、なにも」
つい余計なことを考えたのが、風にばれそうになったので俺は誤魔化す為に、再び騒ぎに意識をやると
「貴様のようなやつが、正義を語るなど天が許しても、この関雲長が許さんっ!
大人しく縛につけ、この偽善者めっ!」
ピクッ
「ぎ・偽善・・ふっ、正義とは、天に民に示してこそ意義があるもの、偽善等と雅にかけた言葉で
片付けて欲しくないものだな。
いや、おぬしのように、年がら年中眉間にしわを寄せて怒鳴っている者に、この華蝶仮面の華麗な
振る舞いは理解できまい」
「貴様のような者の考えなど、理解しようとも、したいとも思わんっ!」
「おぉ、なんと心にゆとりの無き事か、それでは男など、誰も近寄ろうとすらしまい」
「き、貴様にそのようなこと関係有るまいっ!」
「おや、図星であったか、それは悪いことをしたの、知らなかったことゆえ許せ」
「誰が図星かっ! 私はそのようなもの興味などないっ!
そう言う貴様こそ、その自由奔放さについていけず、男に逃げられてばかりではないのか
うむ、それで鬱憤を晴らすためにこのような騒ぎを・・・同情するがこのような事いつまでも許すわけ
は行かぬ、大人しく縛につくことだ」
「「ふふふふふふっ」」
なにやら不穏な空気の流れになってきた。
二人は、もはや話すことは無いとばかりに、不気味な笑い声を上げつつ己の武をぶつけ合う。
いつもと違う緊迫に、野次馬達も、この場をそそくさと立ち去っていく。
残されたのは、怖いもの見たさに残った命知らずな野次馬と、逃げ遅れた俺達だった。
俺は、なんとかならないかと、当事者二人を、さっきより遠くに取り囲む警邏隊と翠に視線をやるが
(無理っ!、ああなった愛紗に、手出しなんてあたしに出来るかよ)
と、即答で視線で返答してくる。
つまり、今下手に近づくと翠でも危ないってことか・・・なら
「風、何か良い手無い?」
「桃香さんや、紫苑さん達なら、止めれると思いますが、今から呼びに言っていては間に合いません。
ここはお兄さんが頑張って説得するしか無いと思うのですよ」
「こらー、とっととあの二人を止めるのです。
あの二人が本気で暴れたら、この地区一体が壊滅してしまうのです」
「ねねちゃんの言うとおり時間があまり無いと思います。
ここはやはり、こういう事態に慣れている、お兄さん頑張って二人を説得して欲しいのです」
「慣れてないよっ!」
風の言葉に思わず否定するが、なぜか脳裏に魏の数名の面々が浮かぶ
・・・・毎回必死だし、何度も死にそうな目にあってるし、あれは慣れるものじゃないと思う。
・・・くすん
どちらにしろ、俺がこのまま二人に声かけても聞いてくれそうもないし、何より誤って斬られかねない。
「ねぇ、恋あの二人止められない?」
「・・・・・今止めても・・・・一緒・・・・またやるだけ・・・」
恋は、首を振り見守るのかと思えば
「・・・・おなかすいた・・・」
と呟き、おなかに手を当てている・・・・恋、もしかして、お腹がすいているから、動きたくないだけ
なんていうことは無いよね。
・・・・仕方ない、この際背に腹は変えれない
「恋、あの二人の動きを止めてくれるだけでも良いから、後は俺がなんとか話し合いに持ち込んでみる。
上手くいったら、今度天の国の料理作ってあげるから、頼めるかな」
「・・・・わかった・・・」
恋はそう言うと、何処からとも無く方天画戟を取り出し(・・・この世界の武将って、本当に何処から
武器を取り出しているんだろう)激しい争いを繰り広げている二人に近づいていく。
どこーーーーーーーっん!
突然の、恋の激しい一撃に、不意を打たれた二人は地面に叩きつけられる。
地面に叩きつけられ、体中の酸素を吐き出させられた二人に、恋の戟が突きつけられる。
「・・・・・うごくな・・・」
恋の言葉と突き付けられた戟に、二人は動く事が出来なくなる。
三国最強と歌われる呂奉先に、不意を打たれ、戟を突きつけられては、流石の二人も下手に動くことは
出来ないのだろう。
おっと、恋の武に感心している場合じゃなかった。
恋は俺の頼んだ仕事をしてくれたんだ、なら今度は俺の番だ。
俺は、二人に近づき
「二人とも頭は冷えたかな?」
「北郷殿には関係なきこと、黙っていてもらいたい」
「そうだ、貴殿には関係なき事、それに顔を突っ込むとは些か無粋と言うもの」
俺の言葉に、二人は吐き捨てる。
・・・・正直俺も突っ込みたくは無いけど
「庶人を巻き込んで、街中で私怨による乱闘騒ぎ。 放っておくわけにはいかないよ」
「いくら北郷殿でも聞き捨てなりません! 私は街の、国の為、正義のため、我が槍を振るっている」
「私は正義を貫き、正義を民に示すため、我が槍を捧げているに過ぎない。
勝手な憶測はやめていただこう」
「先程の会話の流れ、どう聞いても、私怨にしか聞こえないよ。
それに二人とも正義を掲げるのなら、街の人に迷惑を掛けるのが君達の正義なのかい?
この壊された街並みが、君達の正義のなのかい? 周りを見てみなよ」
俺の言葉に、二人は周りの惨状に気がついたのか、その顔に後悔の色を浮かべる。
「北郷殿の言わんとする事は、分からない訳では有りません。
ですが、このような者を放っておけば、いつかとんでもない事態を引き起こしかねない」
「そのためならば、多少の被害は仕方がないと?」
「その通りです」
「そう、華蝶仮面さんもそう思っているのかな?」
「いや、この無粋な輩を叩き伏せるのはともかく、私は民の平穏な生活を乱すのは好みませぬ。
そのことに関しては、些か熱くなりすぎたと反省しているところです」
「と、華蝶仮面さんは言っているけど、関羽さんは、悪いとは思っていないのかな?」
「そ、それは、・・・今はこの不埒者を放っておくことの方が悪です。
北郷殿、話のすり替え無いでもらいたい」
「いや、すり替えさせてもらうよ」
「なっ」
俺があっさり認めると、関羽さんは絶句する。
「さっきの諍いも問題だけど、本はといえば二人の正義の示し方が問題になっているように感じられた。
なら、この際、二人に徹底的に己が正義について語ったらどうかな? むろん武力抜きで」
「そのような事できる訳がありませぬ」
「この無骨者が、我が正義を理解できるとも思えませぬな」
「二人の掲げる正義とは、人の話も聞かずに力づくで示すものなのかい?」
「「う¨、それは・・・」」
「じゃあ、今回だけで良いから、此方の言う事を聞いてもら欲しい。
むろん、話し合いの結果はどうあれ、華蝶仮面さんにはそのまま無事に帰ってもらう」
「な¨っ」
「翠、今回だけで良い。 手を引いて欲しい」
「あぁ、分かった。 今回は手を出さないよ。野次馬も追い払っておく。
愛紗も落ち着けって、今回はやりすぎだぜ。
一度徹底的に話して駄目なら、今度は容赦なく叩けば良いだけなんだからさ」
「翠っ! なにを勝手なことをっ」
「それとも、関羽さんは、自分の正義が言い負かされるのが怖いのかな?」
「なっ!・・・いいでしょう。
我が正義がこのような者に、言い負かされるはずはありません」
「と、関羽さんは納得してくれたようだけど、華蝶仮面さんはどうする?」
「ふっ、いいでしょう。 武を示すだけが正義ではありませぬ。
ここは貴殿の顔を立てて、その申し出受けて差し上げましょう」
二人が納得すると、恋は戟を何処かにしまい
「・・・・約束・・・」
「恋、ありがとう。
じゃあ、昼食も兼ねて、そこの店で、くれぐれも店内で暴れないようにね」
と、そんなわけで、店主には悪いが、勝手にここを会談の場にさせてもらった。
城でもよいかもしれないが、此処の方が色々都合が良い。
ここなら、二人ともさっきの言葉の手前暴れ出すことも無く、心置きなく会談が出来ると思ったのだが、
さっきから語られるのは、視線のよる会話ばかり、しかも友好的とはお世辞にも言えない。
まぁ、いつまでも現実逃避に回想にふけっていても始まらないし、ここは覚悟を決め
「まぁ、二人ともそんな睨み合っていても話にならないから、まずはお互い謝る事からはじめよう」
「何ゆえ私が、このような者に謝らなければならないのです」
「私に、この無骨ものに謝れと言うのか」
「君達の言う正義は、他人を誹謗中傷することじゃないでしょ」
「「う゛」」
「なら、最初に無用な誹謗中傷を謝罪し、改めて己が正義について語れるよね。
少なくとも、正義を名乗るのなら出来るよね」
「そのように言われては、この華蝶仮面、己が罪を認め話し合いに応じようではないか
関羽殿、先程の暴言については撤回し、謝罪しよう」
俺の言葉に、華蝶仮面は素直に関羽さんに謝罪を申し込む。
この人は悪乗りさえしなければ基本的に良い人なんだよね。 話せば分かってくれるし
それに華蝶仮面の方からこう言われれば、
「分かりました、そちらが謝罪するのであれば、此方も行き過ぎた言葉は取り消させていただく。
これでよいかな北郷殿」
「ああ」
思ったとおり、関羽さんも表面上は落ち着きを取り戻し謝罪に応じてくれる。
「ねえ、華蝶仮面さんの求める正義とは何なのかな、俺にも分かる様に教えて欲しい」
「正義とは民が平和な世を過ごすため、示し続けなければならぬもの、
戦乱の世においては、民は正義を忘れ、己を、家族を守るため悪へ走る。
戦乱を終え、平穏な世になったからとて悪が絶える事はない。
平穏な世においては、民はその安穏とした生活の中で、いつしか正義見失い悪へと走ってしまう。
故に私は示すのだ。天に、民に、正義と言うものを」
「貴女の言うことも分からないまでもない。
やっている事も、正しいと認めよう。
だが、正義を示したいのなら、堂々官職に就いて行えば良かろう。
その方が地位も名誉も手に入るに、何より回りに気にせず正義を行えよう。
今のやり方では、騒ぎを起こす無頼者と大差はあるまい」
「それが無骨と言っている。 私は地位も名誉も興味は無い。
それに、官職についてしまっては、それゆえに動けぬ時もあろう」
「なっ、我等が圧力に屈し、動かぬ時があるとでも言うつもりかっ」
「別に、貴公の所がそうだと言っているわけではない。
貴公の所はそうでも、他も清廉潔白だと言い切れるつもりか?」
「そ、それは・・・」
「それに、官職について行えば、それは上からの押さえつけにしかならぬ。
正義とは、民一人一人がその胸に抱えなければならぬもの、街の子供達を見てみるが良い。
あちこちで華蝶仮面ごっこ遊びを行っている。
たとえごっこでも、正義とは悪とはと考えている。
未来を担う者と考えれば、なんと心強い事ではないか」
「我等では、民達の見本となるには不足と言うつもりか」
「そうは言っておらぬ。
この国の警邏の兵は良く頑張っていると思う。
だが、彼等も人間、失敗する者もいれば不届き者も出てしまう。
そんな時、民はなにを目安にすればよい?
だが、正義とは何かを知っておけば、人はそれを目指して己を磨く事が出来よう。
それに、悪行をする者にとって、官以外の目も気を付けねばならぬと考えねばならない。
だからこそ、正体を隠して正義を示す事に意義があると考えている」
「たしかにあなたの考えは共感できる所はある。
貴女の言うとおり、民は正義を考え、国を良くしようと立ち上がる者も多くでてきている。
だが、その反面、貴女の正義の示し方は、多くの混乱を招き寄せる。
突然の騒ぎのため、道は混雑し商いに支障が出る所も多い。
また騒ぎを一目見ようと野次馬達が集まるため、怪我人も出る始末だ。
その中に、華蝶仮面を見たさの子供も多く含まれている。
他にも、騒ぎに乗じて悪行を働く者も出ている等一々上げれば限が無い。
貴女の民に分かりやすく正義を示すための見世物染みた戦い。
そのために、罪も無い民がどれだけ迷惑を被っていると思う。
貴女の考えが分からない訳ではないが、他にも手段があるはず。
我等は、その者達の為にも、貴女の蛮行を決して許すわけには行かないっ!」
関羽さんは、華蝶仮面に毅然とそう言い放った。
泣いている人達の為にも引くことは出来ないと・・・・
そうして、静かに席を立ち
「北郷殿、今日は貴方の顔を立てて、このまま引き上げましょう。
この者と、こうして己が正義を話し合う事が出来たのも無為ではないと思います。
華蝶仮面、貴様の正義の心は分かった。
だが、我等には我等の正義がある。
次も同じようなら、その時は我等は全力を持って貴様を叩くっ!
よく覚えておくのだな」
そう言って、関羽さんはお店を後にする。
正直、格好良いと思った。
弱き者のためと、己が正義の信念を持って生きる姿は、
伝説の関雲長の名に相応しい姿・・・・いやそれ以上の感動を俺に与えてくれた。
俺の世界においても、死後も慕われ続けた英雄、その理由の一端が分かった。
だから、俺は
「関羽さんは、ああ言ってたけど?」
「あのような者ばかりなら、私の存在も、不要なのかも知れない。
だが、あれほどの者はそうそう居らぬ。
故に、私は正義を示す事は必要と感じている」
そう言って、お茶を不味そうに一気に飲み干す。
その仮面に隠された表情から、葛藤があるのが伺える。
それはそうだろう、自分の信じた正義が、
庶人のためと想った事が、別の所で庶人を傷つけていると言われれば、
思ってもいなかった事実を突きつけられれば、悩みもするだろう。
だがそれは、彼女が心から庶人の事を想っているからこそ、悩むのだろう。
もしこれが自己満足であるならば、悩みはしない。
彼女が義人である証なのだ。
だが、彼女は正義を示し続けることをやめやしないだろう。
彼女は己が信念を持って動いている。
多少趣味に走っていてはしても、その根幹となるものは揺らぎはしない。
誰かに言われて、曲がるような信念などに、意味など無いのだから。
だがら悩む、信念と現実の狭間に
「貴殿は、私は間違っていると思うのか?」
「いや、君の考えは間違ってないと思う。
むろん関羽さんの考えもね。
ただ、お互い足りないものがあるだけだと思う」
「・・・そうか、それは・・いや問うまい。
自分で見つけ無ければ意味はない。
此度の機会、心より礼を言う」
そう告げると、席を後にする。
その後姿に俺は、
「関羽さんは言わなかったみたいだけど、今のやり方では、民は国を頼らなくなる者も増えてくるよ。
国に頼らなくても、自分達を守ってくれる者がいるからね」
彼女の心に、もう一つ、楔を打ち込んでおく。
これで彼女は、しばらく華蝶仮面として動けないだろう。
彼女の思惑から少し外れるが、趙子龍として正義を示す手段がある以上、無理を通すなど、それこそ彼女
の矜持が許さないだろう。
関雲張と趙子龍、二人の義人の姿と想いは、俺の心に、覚悟を決めさせた。
二人の想いが、正しいと信じれるから、
何とかしてやりたいと思えるから、
でも、俺一人では何も出来やしない。
俺が身に付けているものと言えば、取るに足らない武と、僅かばかりの先人達の知識程度。
その上、ここは他国で、俺は只の客人でしかない。
さて、どうしたものかと思い悩むが、腹が減っては良い考えも浮かばないと、気持ちを切り替え、俺達は
予定より遅めの昼食をとる事にした訳だが、ここでちょっとした事件が発生した。
思ったより長い話し合い(殆どは睨み合い)になってしまった為、その間此方に興味のなかった恋は、
ひたすら満足するまで食べ続けてしまい、ねねの手持分以上を食べてしまう結果となった。
会計の段階で顔を青くした ねねを見て俺は、
「お兄さん、何か悪巧みを思いついたのですか」
「悪巧みなんてひどいなー、風だって思ったんだろう」
「むふふふ、お兄さんといると退屈しないのです」
俺と風は、お互い心の中でニヤリと擬音が聞こえてきそうなぐらい笑みを浮かべ、困っている ねね を助
ける事にした。
「そんな話受け入れられません!」
すでに陽も落ち、太陽の代わりに月が高くなり、静まった部屋に、はっきりと拒絶の言葉が響き渡る。
その言葉を放った部屋の主は、もう話は終わりとばかりに、両手を腰に当て視線を合わせようとせずに、
怒っていますと言わんばかりに憤慨してみせる。
本人は気がついているかどうか分からないが、その幼い容姿もあいまって、観る者に微笑ましさを与えるだけしかない。
だがここで微笑んでしまっては、相手を益々不機嫌にさせてしまいかねないので、とりあえず我慢して、
「そう? この話は、朱華蝶にとって悪い話じゃないと思うけど」
と、言う俺の爆弾発言に朱里は体を震わせ、俺にこの情報を流したであろう人物を睨み付ける。
「ひゃうっ」
朱里に睨み付けられた ねね は、小さな悲鳴を上げて俺の背後に隠れる。
まぁ、間違いではないし、ねねも悪いと思っているからこそ、俺の後ろに隠れているのだろう。
このまま放っておくわけにもいかないが、とりあえず
「まぁ、とりあえず確認しときたいんだけど、朱華蝶は朱里の趣味?」
「そんなわけないじゃないですかっ!
はわわっ、とにかく、私にはそんな趣味はありません」
俺の言葉に全力で否定し、その声の大きさに自分で驚きあわてだす朱里に
「そうですぞ、朱里は人に言えぬ趣味はあっても、そう言う趣味を持ってはおりませぬ」
「はわわっ、ねねちゃんっ!」
「うぁう、今のは違うですぞ、本当ですぞ」
朱里をフォローしようとして何やら更に自爆するねね・・・・とりあえず、ねねと朱里の態度から、朱里
には人には言えぬ趣味があるらしい。 こんな小さい娘が言えぬ趣味と言うのも興味が沸かないと言えば
嘘になるが、俺の感が朱里の趣味には深入りしてはいけないと、警鐘を激しく鳴らすのでやめておく事に
する。
「おや、お兄さん突っ込まないんですか? 残念です」
「風、人の心を読むのはやめてくれ、頼むから、
とりあえず、朱里の趣味に関しては、今は関係ないから置いて置くとして、朱里自身は、朱華蝶になりた
くないと聞いているんだけど違ったかな?」
俺の言葉に、朱里は『はわわ』するのをやめて
「どう言う事・・・あっ、たしかに、その方法なら・・・でも、上手くいく・・・・」
俺に問いただそうとした所で、気がついてくれたようだ。
『 星が華蝶仮面をやりたいなら、やらせれば良い。
この際、此方で全面的に支援したらどうかな? 』
という、朱里の拒絶の言葉の前の言葉の意味に、
きっと、今彼女の頭の中ではあらゆる事態を想定しているのだろう。
だが、それも短い時間の事、五呼吸もしないうちに
「問題が、幾つかあります。
一つ目は、愛紗さんが、この話に賛成するとは思えません。
二つ目は、民の心が国から離れてしまう可能性があります。
三つ目は、正体がばれてしまった場合の対応です。
これを解決しない限り、賛成は出来ません」
俺の言葉に乗ってきた朱里に、俺は心の中でガッツポーズをとる。
朱里に持ちかけたのは、華蝶仮面を特殊部隊として軍部に取り込む事。
その事によって、華蝶仮面の行動の正当性を得る、むろん、表向き存在しない部隊としてだ。
そうする事で警備隊との摩擦を無くし、華蝶仮面が出現した場合は、その事によって起きる問題の対処に
当らせる。ただ、それだけでは、朱里は賛成しない。
彼女は無理やり華蝶仮面をやらされているわけだから、いや正確に言えば、ああいう注目を浴びる状態が
嫌なのだろう。
だからここで役に立つのが彼女の立場、つまり軍師としての立場だ。
彼女はすでに密偵と言う、表向きには存在しない部隊を指揮している。
その立場を利用して、華蝶仮面に街のチンピラ相手の出動を控えて貰う代わりに、隠れて大きな悪行を
行っている者達を、派手に退治してもらう。
朱華蝶はそのための情報収集に徹すると言えば、星も無理強いは出来ないだろう。
朱里にとっては、朱華蝶にならずに済むうえ、証拠を押さえる事の出来ない相手に対する切り札を手に
入れれるわけだ。なら、後は今挙げられた問題を解決するだけで、朱里の心の天秤は此方に傾くはずだ。
「関羽さんには別に賛成してもらう必要は無いと思うよ。
華蝶仮面は味方で、発生する騒動も華蝶仮面に向けていた警備の兵をそれに当てれば、問題はなくなる。
そう言えば賛成はしてもらえなくても、納得はしてもらえるはず」
そう言って、俺は昼間の出来事を朱里に話す。
その話しの内容に納得したのか「なるほど」と小さく頷く。
「民の心に関しては、問題はないと思うよ。
兵が華蝶仮面と連携して動いている姿を見れば、此方側が、協力もしくは利用しているように見える
だろうし、目端の利く有力者達なら、此方の意図を読み取ってくれるさ。
それに、誰のおかげで街が平和なのか分からない程民は馬鹿じゃない。
だから今まで大きな問題にならずに済んだんだろうし、連携が取れていないからこそ不安も生んだ。
違うかい?」
俺の問い掛けに、朱里は頷いてくれる。
少し強引な話しだけど、ここで朱里を少しでも納得させて置かないと、次なんてとても納得してくれる
はずが無い。なにせ・・・
「最後の正体がばれた場合だけど、簡単な事、白を切れば良い」
「ぶっ」
俺の一言に、朱里は思わず噴出す。
ここまで順序だてて説明しておいて、最後がこれでは、その気持ちは判る、逆の立場なら俺でも噴出すだ
ろう。まぁ、だからこそ、あえて今まで丁寧に説明してきたんだけど
「おぉぉ、その手がありましたか、
でもお兄さん、普通思いついても実行しようなんて、普通は思わないのですよ」
「だから盲点なんだよ。
悪人悪官にとって、自分達がやっている事が、まさかそのままやられ返されるなんて思わないだろう」
「はわわ、でも、それだと私達も悪官と変わらないと言われてしまいます」
「正道じゃないと? そもそも密偵や華蝶仮面なんて存在自体が正道じゃないよ。
一歩間違えれば、たしかに悪官と変わらないけど、朱里や星なら道を間違えないと信じれるから、この
方法を安心して薦めれる」
朱里の言葉をあっさり言い返すと、朱里は黙り込んで考え込む。
実際その状態を想定しているのだろうが・・・なんか、朱里だと
「華蝶仮面が星さんで、強盗まがいに押し込まれたと?
星さんが華蝶仮面だという証拠があるんですか? じゃあ私はこれで」
と笑顔で相手に返す姿が目に浮かぶ。
うん、自分で言っておいてなんだけど、俺が相手だったら絶句するなきっと・・・
朱里も似たような想像したのか
「はうぅ、どんどん私の印象が・・・」
と呟いている。
どうやら、ある程度、納得は出来ないが納得したようだ。
「でも朱里ちゃーん、考えてみてください。
このまま放っておいたら、どんな目にあうか」
「きっと、ばれて愛紗に徹底的にこっ酷く説教された挙句に、星の口車に乗せられて、桃香公認で出動さ
せられるです」
と、そこへ風とねねが止めを刺す。
まぁ、ねねのいう事が本当になるかどうかは判らないが、朱里はその未来を正確に想像したのだろう。
「はわわわっ、じょっ、冗談じゃないです。
そ、それだけはなんとしても回避しなければ」
俺はそんな慌てふためく朱里の頭に軽く手を置き、落ち着けるように優しく撫でる。
撫でられ続けた朱里は、やがてか『はわはわ』手足を動かすのをやめ落ち着き俯く。
はて、なんで顔が赤いんだろうか?
まぁ今はそれよりも
「朱里、落ち着いて聞いて欲しい。
俺は、まだ桃香の性格を把握し切れていないから分からないけど、ねねや朱里の様子から、ねねの言葉
は本当だと思える。
どちらにしても、今のまま放っておけば、関羽さんや星の間に、大きな亀裂が起きるのは避けられない。
星もやる事はふざけていると思うけど、その心根は真っ直ぐだという事は分かる。
関羽さんも、優しい人だからこそ、華蝶仮面を許せないんだと思う。
朱里だって、二人の想いが本物だという事は分かっているんだろ?」
コクリ
「なら、朱里達が頑張らないと」
俺は自分の言葉が、想いが朱里に届けと言わんばかりに、朱里を優しく撫で続けながら言葉を紡ぐ。
やがて、朱里はやや頬を染めたまま、顔を上げ此方の目を覗きこむように
「愛紗さんや星さんを信じられるのは分かります。
あのお二人は、その想いを行動に移せるだけの実力も行動力もあります。
でも、このお話の要となるのは、私が私利私欲に走らず、周りの状況に合わせて、冷静に華蝶仮面に
指示を送る事が大前提です。
私が一歩道を間違えれば、悪官の烙印を押され、国の信頼を落としかねません。
どうして、そこまで、私を信頼できるのですか?」
と、そんな分かりきった事を聞いてくる。
きっと、彼女は不安なんだろう。
だから、せめて俺の言葉で少しでも持てるように、優しく、言葉に想いを乗せて
「朱里を信じられるから
朱里だって、あの二人に負けない程、民を想っていると信じられるから、
あの戦乱の世で、嘆く民の為に、その小さな体で一生懸命体を張って来たって知っているから、
そんな娘が、今更私利私欲に走るわけないだろう。
だから俺は信じられる、朱里がとても優しくて、可愛い女の娘だって」
そう言葉を紡ぎ、最後に勇気が持てるようにと、優しく笑いかける。
「////はわわっ(ぼんっ)」
そんな俺の言葉に朱里は、恥ずかしかったのか、音をたてそうな勢いで、耳まで真っ赤にして再び俯く。
俺はそんな彼女に、もう一度落ち着けるよう、彼女の頭を優しく撫で続けた。
そこへ
「ちんきゅーきーーーっく」
どごっ!
ぼすっ
横からの突然の衝撃に俺は吹き飛ばされ、部屋の寝台に叩きつけられる。
「だぁぁぁ、いきなりなんだよっ!」
「いつまで頭を撫で続けているです、話が進まないじゃないですかっ!」
「うっ」
衝撃の原因に文句を叩き付けたが、相手は正論で持って此方に叩き返してきた。
俺は、ねねの迫力に、それ以上言い返す事が出来ず黙り込む。
そこへ追い討ちをかけるように
「いつまで、女の寝台に潜り込んでるですか、とっとと出るのです!
それとも、そのままそこで寝るつもりですかっ!」
「はわわっ、まだそんな早いです、心の準備がっ」
「「朱里?」」
ねねの言葉に、なぜか妙な反応をする朱里に、俺と ねね は思わず朱里を見つめる。
あれ、なんか風が宝ャと共に『やれやれ』といった感じで溜息をついている。
「はわわっ、い・今のは違います。
こ・言葉のあやです。
と・とにかく早く、し・寝台から出てください」
「あぁ、悪かった」
朱里の言葉に、俺は素直に謝りながら朱里の寝台から出る。
まぁ事故とは言え、好きでもない男が自分の寝台にいられるのは、気分が良いものじゃないだろう。
朱里は男が自分の寝台に入られたのが恥ずかしいのか、まだ顔が赤い。
もう一度落ち着けれるように頭を撫でようかと思ったが、これ以上話が横に逸れると『ちんきゅーきっく』
が再びお見舞いされる気がするので、やめておく。
「まぁ、これ以上は余所者の俺では口出しできないから、考えておいて欲しい。
別にこの話が流れても、次の手を考える相談ならいくらでも乗るからさ」
そう言って、後は ねねに色々協力してくれた事について感謝を告げて、俺と風は朱里の部屋を後にする。
フォンッ
ダダッ
シュッ
月下の中、刀が空を切る。
刀が何も無い空間に振るわれ、弾かれる。
少なくとも、俺の目には、そう捉えられた。
仮想の敵を前に、俺は何度と無く打ち込み、敵の攻撃を何とか避わす。
力も速度も、技さえも相手の方が遥か上手、とても俺が叶う相手ではない。
だが、そんな相手でなくては、成長なんてありえない。
普通、相手の武を超えるには、此方が相手の武を超えるしかない。
だが戦いにおいては、それが絶対ではない。
武で劣る者が、上回る者を討つ事もある。
だから、俺は、魏延さん相手の組み手で気がついた事、そして思い出した事を、相手に試みる。
「一刀殿」
不意にかけられた言葉が、俺の集中力を乱し、目の前の仮想の敵を霧散させる。
その霧散した敵のように、俺も熱くなった体の熱を吐き出す。
声を掛けられたほうを向くと、そこには、星が酒を片手に立っていた。
「星か」
「鍛錬中に無礼と思いましたが、一刀殿と一杯飲みたくなってな、許されよ」
「かまわないよ」
俺はそう言って、手ぬぐいを取って汗を拭き取りながら、庭の東屋へと足を向ける。
コトリ
小さな音をたて、俺の前に盃が置かれる。
それを取った所に酒を注がれ、俺もお返しにせいに酒を注ぐ。
今、此処には、星と俺の二人だけ、
風は部屋で休んでもらっている。
そんな静かな空間を、俺は壊したくないのか、
盃に映った月を、愛でる様に盃を空ける。
そんな俺を真似るように、星も月を愛でながら盃を空ける。
「ふむ、月を愛でながらとは、一刀殿はなかなか風情がある」
「あれ、『目の前の美人を無視して月を愛でるとは』と怒られるかもと思ったけど」
俺の言葉に、星は静かに笑い
「あの月を相手に、自分の美貌を競う等と、無粋な真似はせぬよ」
「でも、月光に浮かぶ星が、綺麗と思うのを否定しているわけじゃないよ」
「それを否定されては、私の女が廃ると言うもの、だが、一刀殿は誰にでもそう言っているのであろう」
「酷いなぁ、それじゃ、まるで俺が女誑しみたいじゃないか」
「おや、自覚がありませんでしたか」
「星までそんな事を言う。
俺は素直に感じたまま言っているだけだよ。
それに、星は外見以上に、心根も、生き様も、綺麗だって想っているんだ。
それを汚さないで欲しいなぁ」
「//////」
「ん? どうした星」
「・・・はぁー、そういう所が、いや言いますまい、言っても無駄になるだけと言うもの」
俺の言葉に、星は溜息をついて、なにやら諦めた顔をする。
その貌は、やや酔っているのか頬を軽く染め、俺を ドキリ とさせる。
俺はそんな恥ずかしさを隠すかのように盃を空け、この月夜の中星の様な美人と盃を空けることを楽しむ。
やがて、一合も飲んだ頃
「一刀殿のおかげで、今朝の朝議は一波乱でしたぞ」
「おや、何のことかな」
「朱里から全部聞いております」
星の言葉にとぼける俺を、星は逃すまいと逃げ道を塞ぐ。
そうなればもはや俺には降参するしかない。
俺では、このまま星を誤魔化しきれるとは思えないから
「やっぱ、関羽さんが猛反対した?」
「ああ、しましたとも、あれは是非とも一刀殿に見せたかった程ですぞ。
雛里やねねが始終怯えておりました」
「勘弁してください・・・」
「曹操殿の本にいる一刀殿が、なにを弱気な事を」
「いや、慣れてても平気なわけじゃないから・・・」
「ふむ、確かにそれは言えますな」
「そう言ってもらえると助かる。
それに結局は、関羽さんは折れたんでしょ」
「ああ、「それが民のためになるなら、私の拘り等比べるまでもありません」と言ってな」
「関羽さんらしいや、
で、星は引き受けるかどうか迷っているの?」
「一刀殿にはお見通しか、正直話が上手すぎると思うてな、一刀殿にその真意をお聞かせ願いに来た」
星は、そう述べ、真剣な顔で俺を見つめる。
ここで、半端な回答は許さないと言わんばかりに・・・・
むろん、俺もそんなつもりは無い、彼女達を地獄に等しき所に放り込むのだ。
だから、それを告げるのが俺なりの誠意と言うものだろう。
「星、君が今から歩もうとする道は、正義と言う名の悪だよ」
「・・・・」
俺の言葉に、星は驚きながらも黙ったままだ。
続きを話せと言わんばかりに・・・
「正義も悪も、見方は違えど力には変わらないだ。
そして見る立場が変われば、正義は悪に、悪は正義になる。
それは、関羽さんとの一事を見ても分かると思う。
いくら正義と信じても、民にとっては悪と映る事も出てくる。
星は民に悪と言われても正義を貫く信念があるかい。
正義と言う言葉に妄信しないと言えるかい。
迷うのは良い。 迷わない正義等、只の自己満足の押し付けにすぎない。
それに、もし失敗すれば、朱里は星を見捨てなければならなくなる。
辛いのは、星だけではない。 君を支援する皆が辛い決断を迫られる。
真っ直ぐ正義を貫く信念が無いなら、もう華蝶仮面をやめた方が良い。
そんな半端な気持ちなら、正義を名乗る資格はないよ」
星の答えなど、最初から分かっていて、俺は彼女の心を揺さぶる言葉を紡ぐ。
きっと俺は酷い事を言っている。
朱里にはああ言いながらも、その道は茨の道、とても険しく、硝子の様に脆い道、
俺はそうと知っていながら、彼女達に、星の夢を叶えたいならその道を歩めと、突きつけている。
皆は俺の事を優しいと言うが、それはきっと勘違いだ。
本当に優しかったら、優秀だったら、他の道を探してあげれる筈だ。
それでも、俺がこの道を指し示すのは、彼女の想いが美しいと思ったから、
叶えてあげたいと思ったからだ。
そう、俺の自己満足に過ぎない。
だが俺のそんな想いをよそに、彼女は
「一刀殿は優しすぎる。風が気に入るのも分かるといもの」
俺の偽善なんかと違い、本当に優しい彼女は、俺の苦悩を察したのか、そう言ってくれる。
だが、ここでその言葉を否定しては、彼女の想いを侮蔑する事になる。
だから・・・
「星、乾杯しよう」
俺はそう言って、星に酒を注ぐ
「ふむ、なにに乾杯と行きますか」
星も俺の気持ちを汲んでくれたのか、受けてくれる。
「そうだな、ここで正義を口に出せば、軽く思えてしまうし・・・そうだな 『 星の想いに乾杯 』
て言うのはどうだ」
俺の言葉に、星は呆然としたかと思ったら、本当に可笑しそうに笑い出す。
「そ、其処まで笑う事はないだろっ!
俺も今のは気障だと思ったよ・・・」
「いやー、一刀殿は本当に面白い。
笑った事は許されよ。気障と思いはしたが、それだけでここまで笑ったわけではない」
「なんだよ、それは」
「それは、秘密と言うもの、女の心情を知りたくば精進されるが良い。
それに、今の私にとって、今の言葉はこれ以上と言うものはない」
そう言って、俺の盃に酒を注ぐ
「では、先程の言葉をもう一度、今度は笑いはせぬよ」
星は楽しげに盃を片手に、俺の言葉を待つ
「星の想いに」
「あぁ、私と一刀殿の想いに」
優しい月光が差す庭で
俺と星は、静かに盃をかさねる
言葉は同じなれど籠められる想いは違う。
だが、たとえそうでも、そんなものは二人には関係ない
二人は、言葉など不要をばかりに、
酒で語り合う
酒の肴は、空に浮かぶ月と星の光
虫の奏でる音を背景に
この気持ち良い空間を
優しい想いを糧に
主の代わりに、二つの影が語り合う
永遠に続くかと思える楽しい持間も
携帯した酒が尽きれば、そこで終わる
だが、それで良い
このような楽しい時間は、物足りないくらいの方が
良き想い出になる
やがて、酒も尽きたのか、二人は最後まで何も口にせず
その場を後にする
卓上の盃と、空に浮かぶ月だけが
今宵の証人と言わんばかりに、残されていた。
揺れる蝋燭の灯火が照らす薄暗い部屋の中、二人の男が密談を交わしている
いや、密談といえるのかすら怪しい。
密談とは立場の近しい者同士で成り立つ事。
この二人の立場は一方的とさえ言える。
そう、主と臣下と言える程に・・・
やがて椅子に座る初老の男が口を開き、その思い声が部屋へと、もう一人の男へと染み込む。
「あの者が、今成都に居ると聞く、
これ以上、三国に力を付けられては邪魔だ」
男の声に、もう一人は何も言わず、そして動かなかった。
その態度に初老の男は
「今動くときではないと、言うわけか、何故」
「・・・・・呉が、あの男を呼び寄せる内容の手紙を魏に放ちました」
男の言葉に、初老の男は考える。
この男がどうやってその内容を知ったかは知らぬが、
今回の蜀のことを考えても、あの雌豚は呉の要請を拒まぬだろう。
天の御遣い・・・あの男が何者かは知らぬが、その知識は本物と認めざるおえない。
あの雌豚がなにを考えているかは分からぬが、その知識を他国に分け与える等阿呆のする事だ。
人は欲に忠実でなくてはならない。
そう、この傍にいる男のように、
己の欲望を果たさんがため、わしを利用しようとしている。
わしの周りには、こういう人間が一杯いる。
それで良い、わしはそれ以上に、こやつ等を利用するだけの話しだ。
人は利用し利用されるのが正しい在り方と言うもの、それを義等と、犬の餌にもならぬ物で動く等
非常に度し難い。
ましてやそんな物の為に、わしが失脚したと考えると八つ裂きにして、豚の餌にしてもものたりん。
まぁよい、良くはないが、今はそれよりも、この男のことを考える。
確かこやつは
「呉に行くまで待てと、そう言う事だな」
わしの言葉に、男は小さく頷く。
「成る程、呉でならば貴様の願い、貴様の主の仇も同時に叶えれると言うわけか、
失敗してもどちらか片方を始末すれば、同盟に大きく亀裂を生む事も可能と、貴様は言うわけか
よかろう、好きに動け・・・ただし、分かっていると思うが」
「分かっております」
わしが最後まで言う前に、男の言葉がわしの言葉を遮る。
男なりの忠義を見せているのだろう。
主の仇などと、くだらぬものに命を懸けておる男だ。
わしの言葉を遮るなどと言う非礼は、目を瞑ってやるのが、この手の者に対する扱いというのは理解して
いる。
わしは顔に出さぬよう、怒りを飲み込み、手で話しは終わりだと男に告げる。
男が静かに部屋を後にするのを見届けた後、わしは次の手を考えるため思考の海へと意識を沈めた。
あとがき
こんにちは、うたまるです。
この頃忙しくなり、半月ぶりの更新となりました。申し訳ございません。
今回の主役は皆様の予想を、裏切ることとなったと思います。
星は私的には蜀のメンバーの中で数少ない好きなキャラクターの一人です。
華蝶仮面 vs 一刀 を期待していた方も多いと思いますが、一刀のいない蜀での華蝶仮面の問題を
解決したいと思ったら、後はキャラが勝手に話を進めてくれました。
書いていて正義とは難しいと思いました。
それでも、星ならその茨の道を、楽しみながら突き進むと信じています。
途中ちぐはぐな感じの場面もあったと思いますが、私の文章力に表現が追いつかないためのものと、
今後精進をいたしますので、ご勘弁ください。
説明 | ||
『真・恋姫無双』魏END後の二次創作のショート小説です。 ついにあの人物が一刀の前に姿を現す。 「可憐な花に誘われて、美々しき蝶が今、舞い降りる!」 |
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星は蜀陣営で一番まともだからなぁ。それにしても紫苑と桔梗の態度にはがっかりです。(tokitoki) 国を守る将軍が民に恐怖あたえてどうするのよwww(ブックマン) なるほど、誰もが幼い頃ほぼ毎日見る『アレ』ですね、一刀が作っているのは。 一刀の膝で安らいでいる風・・・・絵になるねぇwwww 愛紗と星はねぇ・・・・解りあえるのかねぇ・・・・ヒーローってのは現実に有り得ない『明確な悪』がいてこそ成り立つわけで、現実にはそんなやつはいないわけで、ふむぅ・・・・ で、最後のいかにもな『やられ役』はどちら様?(峠崎丈二) 御報告 5p:恋を醸し出す雰囲気に/恋が醸し出す 7p:視線のよる会話ばかり/視線による いつしか正義見失い/正義を 8p:俺の感が/勘が 少しでも持てるように/少しでも勇気が持てるように 9p:せいに酒を注ぐ/星に 言葉など不要をばかりに/不要と 10p:その思い声が/重い声 認めざるおえない/認めざるを得ない。 ではないかと?意図的でしたらスミマセン。(自由人) 更新お待ちしておりました。次々に蜀の問題を解決していく一刀君ですが今回は相当に難しいようですね。お互いが正しく、しかし間違っているところもあると…複雑ですね。↓月下の星は成る程!いわれてみれば確かにそうですね♪さらに暗躍する二人の男…一刀君を狙う彼らは一体何者なのか?次回更新も楽しみです。(自由人) 更新お待ちしておりました。桃香さんの一件以来、次々と真名を預かる一刀君。蜀はフラグ天国と化しておりますねぇ…しかし、風さんも負けじと『ちゃっかり』しているので、ニヤニヤが止まりません。華蝶仮面として、そして蜀将としての彼女、行動こそ違えど『想い』は同じ。月下の星さんとのイベントでは無印の方を思い出してしまうのは私だけなんでしょうかね?(レイン) |
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