真・恋姫無双〜魏・外史伝・再編集完全版〜4
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第四章〜二つの邂逅(かいこう)〜

 

 

 

  「そうですか、北郷一刀が呉にいましたか?」

  「うん♪しかも・・・すでにお爺さんと接触した感じだったよ」

  「確かにあなたの『情報』から考察すれば、その可能性は高いでしょう・・・」

  「それってまずいんじゃねぇのか?」

  「ええ、『南華老仙』と接触したとなれば、彼は計画の大きな障害となる事は明らか・・・。

  おそらく、北郷一刀はすでに『南華老仙』に保護されているでしょう」

  「そうなると・・・、彼を見つけるのは楽じゃない。一刀君は、早いトコ始末した方が

  いいんでしょ?」

  「はい。彼の存在を完全に消す事・・・、それが私達が、あの御方が為すべき目的を達するためには不要な

  存在以外の何者でもないのですから」

  「面倒な話なこったぜ・・・!」

  「ええ・・・、この一年というズレがこのような形になって我々に返って来るとは思いも

  しなかった・・・」

  「だよね〜。なら、どうしようか?僕はこのまま好きにやっていていい?」

  「ええ、ですが表には出て来ないように。あと、北郷一刀を探すのも怠らないように・・・。

  隙を見て、ここに連れて来るなり、殺すなりして下さい」

  「うん、分かった♪じゃあ僕は、呉の方に戻って実験を続ける。上手くいったら君にも教えてあげる♪」

  「はい、期待して待っています」

  「・・・そんじゃ、俺は正和党の連中に近づいてみるわ」

  「正和党ですか?成程、中々面白いモノに目を付けましたか。ですが、彼をおとすのは楽じゃないと

  思いますよ?」

  「わ〜ってるよ。だが、一度火を付けちまえば、そう簡単には消えねぇ・・・。

  簡単に落ちねえなら・・・、それはそれでいくらでも方法はあるしな」

  「そうですか?では良い報告を待ってます」

  「ああ、お前もな。せいぜい野蛮共が逆らわない様、ちゃんと手懐けて置くんだな?」

  「えぇ、もちろん・・・」

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  「・・・・・・はっ!」

  思わず、目が覚めた。

 その悪夢から・・・。だがそれは夢でなく、きっと・・・現実だと思う。

 あの時の事は・・・、俺が無意識、それとも意識的の中で・・・した事なのか?

 俺は・・・、一体何をしたんだ・・・?どうして、あんな事ができたんだ・・・?

  「おや?ようやくお目覚めかい?」

  「え・・・?」

  突然誰かに声をかけられ、俺は咄嗟にその声の主を探す。

 声の主は焚火の火を見ながら、腰を掛けられるほどの大きさの岩に腰をおろしていた。

 その主は、眉の上に豊富な眉毛、口が隠れてしまうほどの長い髭、何処かの宗教のモノの服を着ていた。

 改めて自分をみると、毛布の様な布が被せられていた。

  「・・・ここは?」

  ここが何処なのかをその老人に訪ねた。

  「人に尋ねる前に、すべき事があるんじゃないのかのう?若いの」

  そう言われて、少し思考が止まってしまう。

  「わしは道端で倒れておったお前さんを介抱しておったんじゃぞ。ならまずは・・・」

  あぁ、そう言う事か・・・。

  「俺を介抱してくれてありがとうございます。俺は・・・北郷一刀と言います」

  「変わった名前じゃのう・・・?」

  「・・・よく言われます」

  「そうか、そうか・・・」

  そう言って老人は焚火の方に視線を移す。自己紹介した事だし、もう一度さっきの質問をする。

  「ここか?何じゃ、お前さん・・・ここが何処だか分からないで今まで旅して来たのか?」

  「いえ・・・、旅をしていたわけでは無いんです。さっきまで建業に居たんですが、

  気が付いたらここに・・・」

  「何じゃと!お前さん、あまり年寄りを馬鹿にせんでくれ!」

  いきなり怒られた・・・、ただ本当の事言っただけなのに・・・。

  「すいません・・・、でもあなたを馬鹿にしたわけでは無くて、本当の事なので・・・」

  「ここは、幽州の最北端だぞ!ここから呉の建業まで、どれほどかかるとおもっとるのじゃ・・・?」

  「え、幽州・・・?」

  「そうじゃ、ここは幽州だ。魏の北部、烏桓との国境近くのな・・・」

  「な、なんだって!?」

  いつの間に建業から、幽州まで移動していたんだ、俺?

 がむしゃらに走っていたのは覚えているけど・・・、まさか幽州まで走っていたなんて・・・。

 辺りを見渡すが、すでに夜になっているから暗くて遠くまで見えない。周囲は何か森の中で幾分か

 開けた場所になっている・・・。この人はここで野宿していたところで俺を見つけてくれた事になる。

  「ほ、本当に・・・幽州なのか・・・?」

  「そういったじゃろうが・・・お前さんは人の話聞いておらんかったのか?!」

  また怒られたしまった・・・。

 ・・・それはともかく、俺が立たされている現状を確認しよう。

 

  @俺は建業にいた。

  A建業で、得体の知れない化け物に出くわした。

  B何故かは分からないが、俺がその化け物を倒した。

  C小蓮ちゃん達から離れようと、がむしゃらに走った。

  D気が付くとそこは幽州の森の中で、目の前の老人に介抱されていた。

 

  ・・・それにしても、本当に俺は・・・どうなってしまったんだ?

 自分でもよく分からない・・・。この世界に来てから変な事が立て続けに、俺の身に

 降りかかっている。とりあえず、今は別に何ともないようだけど・・・。

  「おい、お前さん・・・」

  あ、そうだ・・・。華琳、今頃建業に向かっているのかな?

 って事はまたすれ違っちゃったな・・・、なにやってんだろうな、俺・・・。

 この世界にやっと戻って来れたのに、一番会いたい人に会えないなんて。

 これじゃ、後で会えたとしても皆に怒られるな、きっと・・・。

 春蘭はきっと剣を振り回してくるな・・・。

 凪はきっと気弾を放ってくるぞ・・・。

 桂花はきっと『全身精液男』って罵ってくるな・・・。

  「聞いておるのか、おい・・・」

  真桜には・・・掘られるな、うん、きっと。

 華琳にはきっと・・・。

  ゴンッ!!!

  「いったッ!?」

  頭に激痛が走る。頭に何か固い物が当たったようだが・・・。

  「わしを無視して、自分の世界に入るな!」

  「だからって、何も物を投げなくたっていいじゃないですか?!」

  少し涙目になりつつも、老人に訴える。この人、春蘭並みに短気だな・・・。

  「全く・・・、それはそうと・・・お前さんはこれからどうするのじゃ?」

  「どうするって・・・」

  「どこか行く当てはあるのかって聞いておるのじゃ。まあ、お前さんは呉の建業に

  おったのだから、建業に行くのかのう・・・?」

  そうだ・・・、確かにこれからどうしようか・・・。建業に戻るのも1つの手だろうけど・・・。

  「ちなみに、ここから建業へはどう行けばいいんですか?」

  「知るか・・・!」

  一蹴された・・・。

  「わしはこれから洛陽に向かう途中なんじゃ・・・」

  「え、洛陽に・・・ですか?」

  聞き覚えのある単語に反応する。

  「そうじゃ、わしは旅商人なんじゃぞ。・・・ほれ」

  そう言って、岩陰から、風呂敷に包まれた荷物を見せる。旅商人って事はあの風呂敷の中には

 服や装飾品が入っているのだろうな。

  「お爺さん、無理を承知で・・・お願いします!俺も一緒に連れて行ってもらえませんか?」

  老人に向かって、土下座する。

  「なんじゃ・・・、お前さん。洛陽に知り合いでもおるのか?」

  「はい、俺元々洛陽出身なんです。そもそも俺が建業に居たのも、洛陽の知り合いと

  合流するためだったんです」

  「ふう〜む・・・、そうだったのか。じゃがぁなぁ・・・」

  決断に迷う老人。

  「お願いします、俺・・・どうしても会いたい人がいるんです!やっと、戻って来れたのに・・・!

  なのに、俺は・・・。言いたい事がたくさんあるのに・・・!それでも会えなくって!

  このままじゃこの世界に戻ってきた意味が!会って言わなきゃいけない事があるっていのに!」

  俺は必死にはなって、老人にすがりつくように頼み込む。

  「・・・分かった、分かった!お前さんが言いたい事は分かったから少し落ち着かんかい」

  「す、すいません・・・」

  俺は一度老人から離れると、老人は顎に手を当てて考える。

  「・・・そうじゃな、そんなに言うなら、わしの仕事を手伝い兼護衛を条件に・・・洛陽まで

  連れて行ってやってもいいぞ」

  「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」

  地面に額が当たるまで頭を下げる。

  「・・・・・・。なら、もう寝んさい。明日は夜明けにここを発つからのう・・・」

  「はい!」

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  そして夜が明け、日の出が見える頃・・・。

 焚き火はすでに消え、炭と化し崩れた枝の残骸が残る。老人から渡された、旅人が着るような

 麻で出来たマント状の一枚布を上から着る。

  「・・・さて、忘れ物は無いじゃろうな?」

  「はい・・・。最も、最初から手ぶらでしたけど・・・」

  「ほっほっほっほ・・・!それもそうじゃのう・・・」

  「さあ、行きましょう・・・、ええっと・・・」

  そう言えば、この人の名前・・・まだ聞いていなかったな。

  「お爺さん、名前・・・なんて言うんですか?」

  「ん、な、名前・・・か?そ、そうじゃなあぁ・・・」

  考え込む老人。自分の名前くらいすぐに言えそうなものだが・・・ボケているのか?

  「・・・うん。ろじん・・・。わしの名は『露仁』じゃ・・・」

  露仁・・・、ろじん・・・、ろうじん・・・、老人・・・?何か当て字な感じがするのは

 ・・・俺の気のせいだろうか?

  「では露仁さん。行きましょうか?」

  きっと何かしらの事情があって名前が明かせないのかもしれない。旅商人だからな・・・と、

 一人で納得する。

  「待たんかい・・・」

  「・・・?」

  そう言って、露仁は手に持っていた風呂敷から何かを取り出す。

  「こいつをお前さんに貸しとこう・・・。絶対に折るんじゃないぞ・・・!」

  そう言いながら、俺に渡したのは一振りの剣だった。鞘から剣を抜く・・・。

 それは、剣というよりも刀・・・日本刀に近い片刃剣であった。時折、刀身に日の光が

 当たり、綺麗な虹色の光を反射している・・・。

  「珍しい剣じゃろ?そいつはな・・・包丁で食材を切るように、相手を切る事を追求したと

  される業物なんじゃ・・・」

  「どうして、俺にこれを?」

  「ほんっとうに、お前さんは人の話を聞いておらんなぁ!手伝い兼護衛を条件に洛陽に連れて

  いくと、昨日言ったじゃろうが!?だが、手ぶらじゃあれじゃろうから、それを貸しておく」

  言われてみれば、確かにそう・・言っていた気が・・・。でも、俺なんかに護衛が務まるの

 かなぁ。確かに警備隊長をしていた経験はあるけど・・・それはだいぶ前の話。でもまぁ・・・

 何とかなるかな・・・?・・・ん?ちょっと待てよ?

  「・・・何で、あなたがこんな物を?」

  「何でじゃと?・・・全く、つくづく人の話を聞かんやつじゃのう!昨日言った

  じゃろうが・・・!わしは武器商人じゃと」

  武器商人・・・?昨日は旅商人としか言っていないじゃないか・・・。

  「何か言いたそうな顔をしとるのぅ、北郷?」

  「気のせいですよ・・・、じゃあその風呂敷に入っているのって全部武器ってことですか?」

  「武器商人なんじゃから、当然じゃろう!」

  そう言って、露仁は俺の目の前に、風呂敷を持ってくる。

 だとすると・・・、少し小さい気がするな?ていうか、この剣・・・風呂敷から普通に

 はみ出すサイズだぞ!?何なんだ、この風呂敷・・・某アニメのロボットが使っている

 『四次○ポケット』の類なのか?

  「また、何か言いたそうじゃのぅ・・・。だが、それ以上は言わん方がいいぞ?」

  この人・・・、俺の心を読んでいるのか?

  「分かりましたよ・・・。では、露仁さん。今度こそ、行きましょうか?」

  「そうじゃの。では行くぞ、北郷」

  そう言って、そそくさと行く露仁の後ろを付いて行った・・・。

  目指すは魏の首都、洛陽・・・。待っていてくれ、華琳!皆!!

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―――日はとうに沈み・・・、空は闇へと染め、星達が地上を照らす

 

―――その地上にて、赤く染まっている所があった・・・

 

―――その赤は、星達の光をかき消し、その暗く染まる闇夜さえも赤く染め上げる・・・

 

―――誰かの悲鳴が夜の澄んだ空気を切り・・・

 

―――誰かの泣き声が山々にまで届き、響く・・・

 

―――だが、虚しいかな。それは誰にも届くことなく・・・

 

―――それも次第に聞こえなくなっていく・・・

 

―――そして残るは、絶望・・・

 

―――その絶望は、いつしか憎しみへと変わっていった・・・

 

  「・・・・・・はっ!?」

  全身汗で濡れているのが、分かる。

  「またあの夢か・・・」

  苦虫を噛んだ気持ちになる。どうやら少し休むつもりが、いつにの間にか眠っていたようだ。

  「おにいちゃーん!」

  後ろから、聞き馴れた声が聞こえてきた。

 そういえば、今日は一緒に野菜を採りに行くって約束したっけな・・・。

  「あれ、兄ちゃん。何か元気ないよ?」

  「どうしたの?おなか痛いの?」

  俺の前に、次々と子供達がやって来て、皆が俺の事を心配してくれる。

 額の汗を手で拭い、心配をかけないよう皆に微笑みながら、

  「俺は大丈夫だ。それより今日は皆で野菜を採りに行くんだろ?さ、外に行くぞ!」

  そう言って、子供達を率先するように、部屋を出ていく。

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  「ねぇ〜、愛紗ちゃん?本当にこの辺りなの?」

  馬の上で愛紗に問いかける桃香。

  「はぁ・・・、確かにこの辺りのはずだと聞いているのですが・・・」

  ぶすくれる主の問いに、馬の上で困り果てる愛紗。

  「にゃはは。お姉ちゃんはせっかちさんなのだ〜」

  馬の上から、そんな姉達の姿を見て、からかう様に言う鈴々。

  「え〜・・・、だけど鈴々ちゃん。私達、さっきから同じ所をぐるぐる

  回っている感じがするよ〜?」

  「それって道に迷ったって事なのか、愛紗?」

  「何でそこで私に聞くのだ?!」

  「にゃはは〜♪」

  「でも、どうしよう・・・。このままだと、着く前に日が暮れちゃうね」

  蜀・成都から離れた森に続く道・・・。目的地へと未だ到着出来ず、右往左往する蜀の王こと、

 劉備とその忠臣、張飛と関羽の三人。太陽はすでに南中を過ぎ、傾き始めていた。

  「劉備殿!」

  そんな時、道の向こうから声と共に誰かが馬に乗って近づいて来る・・・。

  「んにゃ?誰か馬に乗ってやって来るのだ!」

  「え、ああ!本当だ!おーーい!」

  その人物に向かって、大きく手を振る桃香。そんな桃香に気がついたのか、その人物は速度を上げる。

 会話が出来る距離まで近づくと、馬の速度を下げ、桃香達の前で停止させる。

  「やはり、劉備殿でありましたか。いやぁ・・・、いつまで待っても来て下さらない

  ので、もしかしたらと思い、お迎えにあがった次第です」

  馬の上から降りた男は蜀の王に対し、その場で礼を示す。

  「廖化殿。・・・申し訳ない、自分がちゃんと行き先を分かっておれば、そなたの手を

  煩わせることが無かっただろうに・・・」

  申し訳なさそうな顔で、愛紗は廖化に詫びを示す。

  「いえ、関羽殿に非はありません。我々の存在を他の者から隠すためとはいえ、あなた方まで

  その対象にしている自分、廖化に非があるのですから」

  「いや、あなた方の立場を考えれば、それは至極当然事と理解しているつもりだ。

  故に、そなたは気に病まないで頂きたい」

  「承知いたしました、関羽殿。ではここより先は、私が皆様方の案内と護衛、両方の役。

  この廖化元倹が担いましょう」

  「おおーー!おっちゃん、かっこいいのだ!」

  いつの間にか、馬から降りていた鈴々は両手を背がそりかえるまで上に

 伸ばしながら言った。

  「こ、こら鈴々!廖化殿に対して、失礼・・・」

  「あっ、ははははは!おっちゃんか〜・・・。確かに張飛殿から見たら自分は

  おっちゃん・・・ですかな〜?」

  愛紗の心配をよそに、大笑いする廖化。義妹の無礼に気を悪くされていない事に少し安著する義姉。

  「そうなのだ、おっちゃんなのだ〜。にゃははは!!」

  「だからといって、調子に乗るなぁっ!!」

  調子に乗る義妹に突っ込みを入れる義姉。

  「あはは♪初めて会ったけど、何か良い人そうで良かった・・・」

  そんな賑やかな雰囲気を見ながら、心からそう思う桃香であった。

 

  この男の名は廖化(りょうか)、字を元倹(がんけん)という。

 彼が桃香達の前に現れたのには、当然理由がある。

 それは彼が組織する『正和党』の拠点地へ、彼女達を連れて行くためである。

 『正和党』・・・、この大陸の乱世が終結してしばらくしてから急激に伸びてきた武装傭兵集団である。

 蜀内を中心に賊の土地の開墾から賊の討伐までとその活動範囲は広い。

  しかし、この『正和党』は、蜀・呉・魏のいずれの国の組織にも属さない・・・、

 いわゆる非公式組織、現在でいう「NPO(非営利団体)」「NGO(非政府組織)」がそれに

 当たる。故にその組織の構成員のほとんどが民間人(蜀内に限らず他の二国出身の人間もいる)である。

 元々は小さい組織であったが、彼の人望の厚さもあり、今では小国規模の力を持つほどにまで成長した。

 彼らの活躍は、今や大陸全土にまで及び、民達からの人気が高い。

  しかし、その一方でその『正和党』の存在を危険視する意見も少なくはない。

 それは蜀国内とて例外では無い。その大きな要因に、過去の黄巾党がおこした反乱が寄与している。

 しかも、この廖化はこの黄巾党出身であることがその要因を大きくしている。

 この『正和党』が近い将来、第二の黄巾党になるのでは、と・・・。

  その可能性を何としても回避せんと、桃香が立ちあがったのである。

 そして今回、ようやく『正和党』と接触する機会を得られたため、彼等が活動拠点とする

 場所へ向かう途中であった・・・。

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  「・・・ここ、ですか?」

  正和党が拠点とする所なので、大きな洞窟の中とか。戦場に布陣するような天幕が

 並んでいる様を想像していた桃香は廖化の案内によってたどり着いたその場所に少し困惑する。

  「意外でしょう?ですが、ここが我々正和党の現在拠点地です」

  桃香の予想通りの反応に、廖化は答える。

  「しかし、これはまるで・・・」

  「まるで村なのだ〜」

  そう、鈴々の言うとおり、そこは村そのものであった。人が生活する家々が普通に

 建ち並び、人が道を歩き、子供が道端で遊ぶ。田や畑も存在し、それを耕す人の姿もあった。

  それは間違いなく、村の姿そのものであった。

  「あっははは・・・!まるでも何も、ここは正真正銘の村ですよ」

  「どういう事なのだ?」

  「我々は、村の人達の御好意に甘え、そこで生活を成しているのです。

  ・・・最も、飯と寝床をただでという訳にはいかないので、我々は労働力を提供する

  事で共に生活させて頂いているのです」

  「成程、木の葉を隠すなら森に隠せ。人を隠すなら・・・人が集まる場所、という事ですか?」

  「さすが、関羽殿。全く以てその通り」

  「うーん、鈴々よく分かんないけど、廖化のおっちゃんは賢いのだな〜!」

  「ほう。張飛殿にそう言って頂けるとは・・・これは皆に自慢が出来ますな!」

  「おう、自慢するのだ〜♪」

  「全く、鈴々め・・・」

  鈴々を甘やかす傾向にある廖化と廖化の言葉に乗る鈴々を、少し呆れた様子で見る。

  「もう〜、愛紗ちゃんは少し真面目すぎだよ。廖化さんだって、私達が来た目的は

  ちゃんと分かっているって」

  「そうだとは思いますが・・・。」

  桃香達がここで為すべき事・・・、それは正和党が第二の黄巾党になるであろう、その芽を

 除く事にある。その事は廖化自身が理解している事で、その上で桃香達を自分達の拠点地に

 招き入れたのである。

  しかし、今だ肝心な用件に行き着く気配がないこの状況に愛紗は内心、苛立ちを覚えていた。

 実のところ、彼女自身、今回の考えに賛同しかねていた。彼女もまた正和党の存在を危険視する者達の

 一人であったからである。だが、桃香の願いもあて、愛紗を含め他の者達もその考えに承諾したのである。

  そして、その考えとはずばり、正和党の蜀下への引き入れである。

  自分達の手で正和党を管理する、悪く言えば、正和党に首輪付ける事で、彼等の行動を制限し、

 反乱を起こせる状況にしない事でそれを防ごうと言うものである。

  「さて・・・、では劉備殿。私の家へ向かいましょう。そこで・・・」

  そんな二人の様子に気づいたのか、廖化は桃香と愛紗に呼びかけ、最期の方をはぐらかす。

 そろそろ本題に入りましょう、と言いたいだろう・・・、それをすぐに理解した二人は。

  「はい。分かりました」

  桃香は二つ返事で返した。

 

  「ん、あれは・・・?」

  畑に出来た茄子を、子供達と一緒に収穫していると、ある光景がふと目に入る。

 一人は廖化さんだけど、その後ろについて来ている二人の女とちびっ子・・・。

 一瞬、廖化さんの・・・あれ?かと思ったが、その考えはすぐに否定出来た。

  「・・・っ!?あいつは!」

  どうして・・・、あいつがここに!

 そういえば、前に廖化さんが言っていた。あの時は何しに来るかまでは教えてくれなかったけど。

  「兄ちゃん、どうかしたの?何か見えるの?」

  「あ、あの人!何でここに来てるの?」

  「すっげー!おいらはじめて見たぞー!」

  俺の周りに子供達が集まって来る。こんな小さな村にあいつが来る事なんてまず無いから、

 皆珍しがってあいつを見ている。

  「一体何しに来たんだ・・・?」

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  ここ、廖化が利用する一軒の家。

 正和党の首領にありながら、その家は他のそれと大差は無く、むしろ小屋といった方が

 正しいのかもしれない程に質素なものであった。

  「・・・という事です。如何でしょうか?」

  桃香は、自分達の要求を丁寧に廖化に伝えた。そして、少しの沈黙が続く。

  「それは・・・我々に首輪を付け、暴走しないよう手元に置く・・・そう言う事ですかな?」

  沈黙を断つように、廖化は発言する。しかし、それは桃香が先程言った内容を身も蓋も無い

 状態にした形で、内容を聞き返すものであった。

  「廖化殿!言葉を慎んでいただきたい!桃香様はあなた方の立場を考慮した上で、最善の考えを

  進言しておられるのだぞ!」

  廖化の不躾な発言に、怒りを露わにする愛紗。先程まで、和気あいあいの雰囲気はすでに

 そこには存在しなかった。そんな愛紗を見る鈴々はひどく居心地が悪い思いをしていた。

 そして桃香達の目の前にいるは、気さくな廖化ではなく、正和党の頭領・廖化元倹であった。

  「・・・申し訳ない、関羽殿。劉備殿がそのような事をつゆも思ってもおらぬ事は

  重々承知していたのですが・・・。そのようにも解釈出来る内容であったもので」

  「・・・・・・」

  言葉を詰まらせる愛紗。彼女自身も廖化の解釈に誤りが無い事を理解していた。

  「廖化さんの言う通りです・・・」

  「桃香様・・・!?」

  「でも・・・、やっぱり皆さんの事を放って置く事はできません!」

  「劉備殿・・・」

  「鈴々もほっとけないのだ!おっちゃん達が周りから嫌な目で見られるのは、嫌なのだ!」

  桃香の言葉に、鈴々も続く。

  「廖化さん達が、この国・・・大陸に暮らす人達のために頑張っているのに、力を持って

  いるだけで存在が危険だとか、第二の黄巾党になるとか・・・、そんな理由であなた達を

  潰すべきだと考えている人達がいる・・・」

  「・・・・・・」

  桃香の言葉を、黙って聞く廖化。

  「でも・・・、それじゃ黄巾党の時と何も変わらない!乱を起こして、たくさんの人達を

  悲しませたけど、きっとこの国の将来を思っての・・・」

  「・・・この国の将来を憂いて・・・」

  桃香の言葉をさえぎり、言葉を続ける廖化。

  「この国の将来を憂い、手に武器を持ち、漢王朝打倒に立ち上がった・・・。

  最初、私もそう思っていました・・・、そう信じていた。だから私はあの時、黄巾党の元で

  官軍と戦いました」

  昔話をするように、廖化は当時の事を語る。

  「ですが、事実は違った・・・。それを知った時、私は・・・絶望しました。彼等は・・・

  そんな気持ちの微塵も無かったのだ!」

  彼の手に力が込められ、血が滲む。

  「だからこそ、私は黄巾党を去りました。そして、私の意志に同調してくれた者達と共に大陸を

  渡り歩きました・・・。力無き者たちの盾になるべくして!だがそれには、力が必要だった。

  理不尽な暴力から人々を守るためには、それ相応の力が必要だった!だから正和党を立ち上げた。

  私達の意志に同調し、共に闘ってくれる仲間を集めるために・・・!」

  「廖化さん、あなたのその想い・・・私にもよく分かります!私も同じ思いなんです!

  私もこの大陸で悲しんでいる人達を守るために戦ってきました。なら、一緒に歩む事は

  出来るはずです。ですから・・・。」

  再度、申し入れする桃香。だがその答えは・・・。

  「流石、蜀の王様!奇麗事だけは一丁前だよなっ!!」

  「え!?」

  「っ!?」

  「んにゃっ!?」

  その言葉によって、遮られる。

 桃香達は後ろを振り向く、そこには一人の少年と子供数人が立っていた。そしてその中心にいた

 少年の目が桃香を睨みつける様かのように捉えていた。その視線はどうしてか怒り憎しみが込められ、

 桃香は思わずひるんでしまう。

  「姜維っ!!」

  「・・・っ!」

  廖化の一言に、少年ははっとしたように、視線を桃香からずらす。廖化の声に驚いたのか、

 そこにいた女の子一人が手に持っていた野菜達を下に落としてしまい、泣きだしてしまった。

 少年は、その子を慰めようと女の子を持ち上げ、高い高いする。

  「姜維・・・、お前はその子達を連れて長屋に戻れ」

  「わ、分かりました・・・」

  「あと、野菜もな」

  「・・・はい」

  申し訳なさそうに、少年は子供達と一緒に地面に散らばる野菜を拾い上げ、その場を去って行った。

  「・・・申し訳ない、劉備殿。姜維が大変失礼な事を・・・」

  「い、いえ・・・。気になさらないで下さい」 

  詫びを入れる廖化に対し、気になさらずにと桃香は言う。

  「さて、先程の申し入れなのですが・・・」

  「はい」

  「申し訳ないのですが、その申し入れ・・・お断り致します」

  「「「っ!?」」」

  先程まで熱く語っていた廖化の口から放たれる冷め切った言葉に、桃香達は驚く。

  「なっ!?どうしてなのだ、廖化殿!何故、断るのですか?!」

  自分に問い詰める愛紗に、廖化は答えた。

  「あなた方と我々は・・・、共に歩む事は出来ない。何故ならば、正和党がここまで

  成長できたのは党そのものが、何者にも縛られていないため。まるで・・・鎖などに

  縛られない、地の果てまで自由に駆ける動物のように。」

  「・・・つまり、鈴々たちといっしょにいると、おっちゃんたちは自由になれないって事なのか?」

  少し悲しそうな顔で、鈴々は廖化に聞く。

  「鈴々殿に言われると・・・心苦しいのですが、その通りです」

  「うにゃぁ・・・」

  「廖化さん・・・」

  申し訳なさそうに、鈴々の問いに答える。廖化の表情には苦の色で染まっているのが

 桃香にも見て分かった。

  「それと、もう一つ・・・。我々の中にはあなた方・・・『国』というものを

  よく思わぬ者達もいる。いえ・・・、そういった者達の集いが、この正和党なのです。

  嫌いな人間と仲良くやれと無理強いするのは、如何なものかと・・・」

  「・・・・・・」

  「何と手前勝手な・・・!」

  うなだれる桃香に代わって、愛紗が廖化の発言に憤る。

  「・・・とにかく劉備殿。今日の所は帰って頂きたい」

  「え・・・?」

  「廖化殿!?」

  突然の帰れと言われ、驚く桃香と愛紗。

  「手前勝手は重々承知上。ですが、今日はこれ以上話し合っても進展は無いものかと」

  「・・・分かりました」

  「お姉ちゃん!」

  「桃香様!」

  「でも、廖化さん・・・、私はまたここに来ます。あなたも・・・少しだけでも構いませんから、

  もう一度だけ考え直してみて欲しいんです」

  「・・・承知いたしました。では、途中までお送り致しましょう」

  「いえ、結構です。ご親切感謝いたします」

  廖化に深く頭を下げ、頭をあげた桃香は廖化に満面の笑みでを返す。

  「じゃあ、帰ろうか。二人とも」

  「・・・御意」

  「・・・わかったのだ」

  桃香の言葉に、渋々答える愛紗と鈴々。二人を連れて、家から出ようとした時・・・。

  「あ、そうだ・・・」

  何かを思い出したかのように、後ろにいる廖化の方に向き換える。

  「何か?」

  「先程の・・・、彼の名前を教えてくれませんか?」

  「・・・・・・。あやつの名は、『姜維(きょうい)』。れっきとした正和党の党員です」

  「分かりました・・・。ありがとうございます」

  そう言って、桃香は再び歩き始めた。

 外はすでに日が傾き、日の先端が地平線へと沈みかけていた・・・。

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  その夜・・・。

  「・・・すいませんでした、廖化さん」

  軽く頭を下げる姜維に、廖化は溜息をつく。

  「謝るべき相手は・・・俺では無いだろう?」

  「・・・・・・」

  彼の正論に言葉を失くす。

  「今度・・・、劉備殿に直接謝罪しろよ。いいな?」

  「あの人・・・、また来るでしょうか?」

  「彼女の事だ。これでお終い、は無いだろう・・・」

  「そう・・ですか」

  苦虫を噛んだような、少し嫌そうな顔をする。

  「来て欲しくない、か・・・?無論・・・俺も、お前が彼女をよく思っていない事は分かっている。

  その・・・理由もな。だが、それはあくまで個人的な感情であり、何より彼女を責めるのは

  筋違いのはずだ」

  「そんな事・・・、分かってますよ!でも、納得できるわけないじゃないですか!」

  廖化の言葉に、姜維は抵抗するように反論する。

  「なら、どうすればお前は納得が出来る?劉備殿がお前の前で謝罪すればいいのか?」

  「・・・っ」

  「そういう事では無いだろう?」

  「・・・はい」

  「・・・まあいい。今日はもう休め。明日は、山に赴くのだろう?」

  「はい、では・・・失礼します」

  そう言って、姜維は廖化の家から出ていく。

  そして彼の姿が見えなくなるまで、廖化は彼の背中姿を追い続けた・・・。

-9ページ-

 

―――その頃、一刀と露仁は・・・

 

  「おい北郷、これなんかもう茹で上がったんじゃないか?」

  「あ、いや・・・。露仁。それを俺に食えと・・・?」

  「食わんのか?」

  「いや!これ・・・どう見ても明らかに怪しいでしょ!?何このキノコ!!

  なんか変に虹色で・・・!これ食べたら絶対危ないって!!」

  「そんなことはない!これを食べたらそのあと、鼠だ、鳥だ、犬だのがわんさか出てきて

  楽しい、心地のいい気分になる事ができるんじゃ」

  「それ絶対危ないって!あっちの世界にいっているじゃないか!?・・・って、だから

  それを食べようとするなって!!」

  「あ、こら何する!北郷!あ、こら、食べ物を粗末にするな!!」

  「死ぬよりかはましでしょうが!?」

  「・・・全く、偏食するとでかくなれんぞ?」

  「これ以上でかくなるつもりはないんで・・・って、また何を入れる気なの!?

  っていうかそのざるの中のきのこだ山菜、どれをみても食べられそうな物じゃないよ!」

  「大丈夫♪大丈夫♪」

  「いやいやいや!待ってくれ!何、その先が赤く炎みたいな形したきのこ!!それ絶対食べたら

  やばいって!やめろ、露仁!!」

  「だぁ!?こら何をする北郷、今夜の晩食を!行儀が悪いぞ!!」

  「こんなものを食べるくらいなら、食べない方がましだぁっ!」

  夜空に月・・・、森の中。俺はそこで露仁と一緒に生死をかけた夕食を繰り広げていた。

 こんな事が洛陽に着くまで続くのだろうか・・・?後先、不安になってきた。

 

  そんな俺が今この世界に漂う不穏な流れに気づくはずもなかった・・・。

説明
こんばんわ、アンドレカンドレです。
改めて改訂前の第三章、第四章の内容を読んでみると、あっちこっち行ったり来たりな展開だったので、それをひとまとめにし、さらに一部の内容を変えたのが前回のお話。斬新だったという意見があって一応の成功を収めましたwww。
さて、今回は改訂前で言う所の第五章の部分。謎の旅商人露仁や正和党が登場します。
 それでは、真・恋姫無双 魏・外史伝 再編集完全版 第四章〜二つの邂逅(かいこう)〜をどうぞ!!!
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コメント
6p、「桃香の願いもあて」→「桃香の願いもあって」(O-kawa)
jackryさん、そうですね〜・・・、まぁ内容自体はすでに書き上がっていますからね。後はその細かな修正と挿絵の描き直しですから。(アンドレカンドレ)
スターダストさん、報告感謝します。最後当たりの話に反応してくれてよかった。(狙ったネタだったから)絵の方は非常に分かりにくかったようではんせいします(アンドレカンドレ)
ところどころ設定が無理矢理(あいうえお)
絵が・・・・すげ〜・・・比べ物にならないぐらい上手いわ〜。最後の一刀と露仁の晩飯メッチャおもろかったww虹色のきのこってアニメのあれかwwそして炎のような形のきのこは現実に存在します。この事、知ってます? 桃香達の絵を見て思ったこと「あれ?愛紗が二人?桃香髪短くなった?桃香の髪がツインテールっぽい?」ですwwwwひょっとしたら愛紗と同じポニテ?(スターダスト)
1p[話だこった]2p[旅して来たんのか]3p[マントの状]7p[皆さんの事が放って置く][鈴々殿]・・・あれ?何時真名を?8p[納得できるわけじゃないですか]なんか変だな。(スターダスト)
ジョージさん、最初のコメントありがとうございます。あなたならこれからどのような展開になっていくか存じているかと思いますが、はたして姜維君がどのような行動をとるのか、この再編集完全版で見直して頂けると幸いです。(アンドレカンドレ)
理屈は『理解』していても『納得』できないことって、必ずありますよね。 何をどうすれば気が晴れるかも解らず、いざその根源を断ってみれば虚しさしかなく、むしろ後悔の方が大きい。 辛いですよね、そりゃ(峠崎丈二)
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