真・恋姫†無双 〜祭の日々〜16
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「ぶはっ・・・つかれたぁ〜」

 

備えつけられている机に荷を置いてベッドに身を投げ出し、大きく息を吐いた。ここ数日の疲れは意外とたまっているらしく、人心地つけたのだと思うと、どっと体が重くなったのを感じた。

 

「ほれ、もうちょっと端に寄らんか」

 

後からきた祭さんは、ベッドを全て占領している俺をしっしとどけて、半分開いたスペースに腰掛ける。

・・・や、別に隣に座らなくてもいいんじゃ?椅子あるよ。

と思いつつも、あえて口には出さない。ここで何か言えば、ベッドから追い出されるのは間違いなく俺のほうだからだ。

疲れきったこの状態でベッドに横たわれないというのは、ある種の拷問であると思う。

 

 

――目的地、襄陽に辿り着いたのは昼だった。

関所を抜けてすぐに宿を取ったのは、きっと俺だけでなく祭さんも疲れていたからだろう。何せ建業を経ってからそこそこの月日が過ぎた。人目につかないようにと宿を取ることを極力控えていた俺たちは、ずっと冷たい地面の上で寝転がるしかなかったのだ。俺たちが旅をしている間に蜀が攻めてきたら・・・という考えもあったのだが、どうやら未だ杞憂であってくれている。祭さんが言うには、それは蜀が一枚岩ではないということだろう、と。

 

「・・・ねえ、祭さん?」

「なんじゃ?」

「俺、蜀って・・・なんていうか、他の二国よりも団結力が強いというか。むしろそこが強みって思っていたんだけど」

「ああ、それは間違いないと思うぞ。将が粒ぞろいだというのも強みではあったが、蜀のいちばん恐ろしいところは何より志が統一されていることじゃった。王と将だけではなく、兵や民に至るまで、な」

そう、それこそが蜀の強み。

劉備という人物のもとに集う人民達はみな、彼女に心酔している。だからこそ、彼女たちが荊州を逃亡したときに数十万もの民がついてくるなどという大事が起こったのだ。

「劉備さんみたいな人がまとめている国が一枚岩じゃないって、なんか変じゃないか?」

「・・・儂はそうは思わん」

少しだけ考えるようにして、しかし祭さんははっきりとそう断じた。

「どうして?」

「儂は頭を使うのが仕事ではないが、それでも常々疑問に思っておった。なぜ劉備玄徳の下にはあれほど人が集まるのじゃろうか、と」

「・・・徳が高いからじゃないの?」

「では一刀、徳が高いとはどういうことじゃろう」

「生まれつき持った魅力のことかな」

「それは正しい・・・が、正解とするには足りない」

「うん?」

「徳が高いとは、もちろん生まれつき持ち得た魅力というものもあるじゃろう。儂はそれを器のでかさと思っておるが。つまり、王と成るべきお人はそこからすでに違うのじゃな。

だが、王の器を持つ人間がすべて王に成れるわけではない。一刀、おぬし、覇王のそばにいたのならわかるじゃろう?」

言われて脳裏に浮かぶのは、愛する少女の鮮明な顔。

華琳はもちろん王に成るべき器を持っていた・・・しかし、それだけだったろうか。それだけで彼女はあんな振る舞いができていたと?

――そんなわけがない。

彼女は意志があった。天下人になることが自分のすべきことであるという自負があった。

そしてそれをするための努力も欠かさない・・・華琳はそんな人間だった。

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「王の器を持った人間が、時の利を得、人を得、そのうえで一つの確固たる意志を持って行動する。そうしてようやく、王への道が拓かれるのではないか」

例えば王位を世襲する国家があったとする。

その国の王子は世襲というシステムのせいで、器を持つと持たざるとに関わらず王になるしかない。その後ろには真に王になるべき人物が従者をしていることだってあるだろう。すなわちそれは、運を持たなかったということなのだ。

「・・・でも、劉備さんもそうだろう?」

ええと・・・“大陸を笑顔にする”だったか。

その考えのもと、関羽を従え張飛を従え、諸葛亮とともに黄巾の乱で名を上げた。

すなわち、意志を得、時を得、人を得たということではないのか。

「儂にはその、“大陸を笑顔にする”という意味がようわからんでな」

「わからないって?」

「終着地点がわからん。それはどうしたら終わりなんじゃ?死ぬまで国を治め続けることじゃろうか?それとも百年千年先まで続く王朝を築くことじゃろうか?戦が終われば彼女の夢は叶ったも同然なのじゃろうか?」

「・・・」

「ずっとそう考えておって、じゃが、本人を間近で見て思った。このお人は、あまり深く考えておらぬのではなかろうか、とな」

特に何を目指すでもなく。

ただ、近くにいる人たちが笑顔でいるならそれでいい、と。

「我が最初の主、孫堅殿の意志は、自分の領土の人間を守ることじゃった。それを引き継いだ策殿は、袁術から土地を取り戻すこと、領土を脅かす外敵を打ち負かすことを実践しておった。・・・さて、これから劉備殿はなにをするのじゃろうか?」

「それは・・・」

「なんというか、彼女の夢は確かに魅力的で、万人に愛される類のものではあるが・・・夢でしかない気がするのじゃなあ」

それは奇しくも、決戦の折に覇王が彼女に告げた言葉。

現実を見ろ――と。

「その夢を共有して集まった人間の中には、劉備殿に不信を抱く者も出てくるのではないか?

・・・すなわちそれは、時が経つにつれて出てくる綻び。平和が訪れた今であるからこそ、目立つ傷。

三国が鼎立してから数ヶ月――もうすぐ一年は経つじゃろうか。一枚岩でいるのも、むずかしくなってきていると思うぞ?」

戦乱の時代だったからこそ、人は劉備に夢を見た。

それが終わり、望みどおりの平和が訪れたとき・・・劉備はまだ、王でいられるのか。

 

一枚岩でないおかげで、蜀がまだ戦を起こしていないというのなら――それは俺にとってうれしいことだ。

だがなぜだろう。

俺は心にもやもやしたものが渦巻いているのを感じていた。

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一眠りしてから、祭さんと市に出た。

魏からやってくる誰かを待つための期間は三日。とりあえず要るものをと思ったのだ。

 

「えーと・・・布が足りなかったな。あと水と・・・」

「なあなあ、一刀」

「んー?」

「これ、買ってもいい?」

振り向けば、その手に抱えられているものは一升瓶。

中身は何かなんて、聞くまでもなかった。

ぴ、と酒の出店を指差し、俺は祭さんの目を見ないように告げる。

「返してきなさい」

「な、なんでじゃ!?」

「当たり前だろ・・・冥琳からの言付け、もう忘れたの?」

これじゃ三つも渡すはずだよ・・・冥琳のことだから、本当ならもっと言いたいことがあったのかもしれないな。

「む・・・むう」

苦い顔をする祭さん。

・・・そんな顔したってダメだぞ。冥琳がダメって言ってたからな。

「一刀・・・」

上目遣いでおねだりしてくる。

・・・いや、ダメなんだって!お酒飲みすぎなんだって!

「なあ・・・ダメか?」

 

・・・・・・

・・・

 

「まいどあり〜」

 

はい、買ってしまいました。

・・・俺よわっ。

隣にはホクホク顔で大事そうに酒瓶を抱きしめる祭さん。

・・・この人本当にさっきまで難しい話をしていた人と同一人物かな。本気で疑いたくなってきたよ。

「ん・・・?」

と、ニヤニヤ笑っていた祭さんの表情が不意に訝しげなものへと変わる。

「どうしたの?」

「なにか・・・いや」

周りをぐるりと見渡し、肩をすくめる。

「誰かに見られておる気がしたんじゃがの〜・・・気のせいかもしれん」

「そう?」

しかし祭さんが言うことだ・・・本当に誰かが見ていたのかも知れない・・・。

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――あの人たちを見つけた後、すぐに私は後を追っていた。

鈴々ちゃんはすでに説き伏せてある。

機会が巡ってこれば、すぐにでもあの人たちを・・・。

こんな広い街で、こんなに早く目当ての人たちを見つけられるとは思わなかった。

あの“声”がまたなにかしたのかもしれない、という考えがふと頭をよぎる。

だけど頭を強く振って、その考えを消した。

 

・・・だからなんだっていうの?別にいいじゃない、どうでも。

 

なにもかも終わりにしたいのだから。

誰かが私をいいように使っていたからって・・・別に。

 

――ほんとうに?

「えっ?」

 

と。

いつもの“声”と違うそれが、頭で響いた気がした。

 

――いいの?あなたはそんなことをするために王になったのお〜ん?

「・・・・・・・・・やめて、よ。今更そんなこというの・・・」

 

体が震える。

いつも私を煽る“声”が私の罪悪感をつついてくるとすれば、今きこえている“声”は私の良心に諭すように語り掛けているような、そんな感じがする。

 

――大事な仲間たちが心配しているわよ〜ん。強く心を持ちなさい。あなたはもともと、それができる女の子だったわん。

「仲間・・・たち」

 

最初に浮かんだのは、愛紗ちゃん。泣きそうな顔をしている。

・・・私の言葉に、ひどく傷ついていた。

続いて、朱里ちゃんや星ちゃん・・・他のみんなの、心配したような、不安そうな顔が次々と浮かぶ。

みんな私のことを心配していた。元に戻ってほしいと願っていた。

 

・・・それを跳ね除けて、今、私はここに立っている。

 

なにかがズレている。そう感じた。

三国の鼎立が決まって、私が華琳さんに言いようもない憎しみを感じ始めてから・・・

そんな風に自分を感じたのは、初めてだった。

 

・・・待って。私、今、なにをしているの。

 

ズレがどんどん大きくなっていく。

今までの自分の行動を振り返れば、全てが“違う”とわかる。

頭の中が妙にすっきりしている・・・今まで、私はなにをやっていた?

 

「違う、違う、これは・・・私じゃない・・・っ」

 

痛む頭を押さえつけて、前を見る。

さっきまで後を追っていた人たちを完全に見失っていた。

 

はやる気持ちをそのままに、私は駆け出した。

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「さて、そろそろ戻ろうか」

 

俺たちはひとまずの買い物を終え、小休止をしていた。

祭さんはしばらく警戒したようにしていたものの、すぐに諦めたように買い物を楽しみ始めていた。

 

「そうじゃな、日も暮れそうじゃし」

 

見上げれば、空は茜に染まり。

風は少しだけ、肌寒く感じられた。

 

「一刀ッ」

 

――ひゅんっ。

 

俺の横に、鋭く突きつけられた槍があった。

数秒前までいた位置に、ちょうどある。

・・・祭さんが引っ張ってくれなければ、胸に一突きだったのだろう。

 

「・・・君は」

 

祭さんとふたり、その少女を凝視する。

赤い髪の、小さな女の子は――

 

「お姉ちゃんのことをいじめるお前らは、鈴々がぶっ飛ばしてやるのだ」

 

泣きながら俺たちをにらみつけていた。

 

説明
や〜・・・自分でも何がなんだかわからない、おかしな状況になっています。グチグチ言ってます。ごめんなさい。
書いていて思わずにいられないのが、これ明らか桃香じゃないよな〜ってことです。
桃香好きな人には申し訳ないですね。っていうか、これ読んでくれている人の中に桃香好きがいるのかは疑問ですが。
そろそろ蒔きまくった種とか回収できそうです。楽しみ楽しみ。
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コメント
またこの女(ひと)は…子供なのか大人なのかはっきりしてほしいものですねぇ…でも、そこが祭さんの良い所ですし…う〜む、どうしたものやら…どうやら鈴々ちゃんが先に邂逅した様子。一体どうなる事やら…(レイン)
これはもう劉備はおしまいですね…洗脳されたからといって1国の王がこんなことやらかしてお咎めなしではこの同盟も崩壊ですしね…(shotomain)
蜀終了のおしらせ〜♪(ブックマン)
祭さん中身は子供っぽいから上目遣いも納得できるw祭さんが話してる蜀や桃香のことは自分と同じ考えだったのでかなり共感できました^^(まめ)
祭の上目使い・・・この杉崎、堕ちました。 今回の桃花に囁きかける声って、ガチムチ変態のオッサンだろ?(杉崎 鍵)
馬鹿が槍持ってやってきた! ここまで考えなしだったっけ、鈴々。いいことと悪いことぐらいの区別はついてたような…。正直洗脳されたからといってもここまでくるともう弁解の余地もない。(ミドリガメ)
上目使いは反則でしょう〜〜〜ww(零壱式軽対選手誘導弾)
祭さんの上目遣いとか破壊力高すぎますw まさかの鈴々ですね、でも彼女は桃香の目当てが一刀だと知らなかったはずでは?もしかして鈴々もなんかされましたか?(tomasu)
これからどんどん操られる人が増えそうなのは気のせい?(Orcinus orca)
上目遣いでおねだりしてくる祭さん・・・ぐはっ!?俺も耐えられません(泣)秋蘭より先に桃香たちが・・・桃香は漢女の様な囁きによって混乱を極めていますが鈴々は真っ先に仕留めに来ましたね。さすがに鈴々では二人でも分が悪いですが…急いでくれ秋蘭!!(自由人)
え、桃香好きですよ? アホッぽくて可愛いじゃないですかw 蜀はやればできる子ですよ♪        一刀が居ればねww (ジョン五郎)
あ〜あ、本当に馬鹿だよこいつらはっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!(怒髪天) 操っている連中(おそらくあのホモ野郎と逆恨みのガキンチョだろうが)もだが操られるこいつらもこいつらだっつの!!!! いい加減にしろや甘ったれが!!(峠崎丈二)
時代考証は恋姫世界ではご法度かなあ・・・眼鏡とかあるし(ramunes)
鈴々は丈八蛇矛だから投げたのは矛になるのでは?それともあの状況で蛇矛以外の武器を持ってきてたのか、逆に蛇矛を持ってこれなかったからその代わりなのか・・・(南華老仙「再生(リボーン)」)
むぅ、桃香よりも先に鈴々が邂逅したか。つか何も言わずにいきなり殺す気で攻撃とは…武人の端くれにも置けない行為ですなぁ。まぁそれだけ鈴々も追い詰められちまってるのかもしれませんが(闇羽)
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