不幸の手紙
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不幸の手紙

 

[これは、不幸の手紙です。誠に申し訳ございませんが、あなた様が受け取りましたこの手紙と同じ文章の手紙を、お知り合いのご友人、二名様以上にお送り下さいますようよろしくお願い致します。

お忙しい中、誠にご面倒とは存じますが、「チェーンレターを切ると不幸が訪れる」と古くから伝えられております。悪戯と考えてゴミ箱に捨てることだけは、ご遠慮下さい。

最後に、続きの手紙は、きちんと手書きの文章を、郵便で三日以内に投函いただけますよう、よろしくお願い致します。

かしこ。]

 

 

 オレはいかにもかしこまった封筒にはいった不幸の手紙を見て、ついに来たかと思った。 

 

 近頃、うちの中学校では不幸の手紙が流行っていた。誰が始めたか知らないが、誠に持って迷惑な話しだ。

 

 たかが不幸の手紙、そんなもの無視すればいいと思うのだが、不幸の手紙が流行っているのにはそれなりの訳があった。

 

 

 不幸の手紙が届き始めたのは三カ月ほど前からだ。ある日クラスメートの一人が学校に、自分に届いたという不幸の手紙を持ってきた。そして、みんなに見せびらかせたあと、バカバカしいと、破り捨てたのだ。

 

 その翌日、そいつは車に跳ねられ重傷を負った。

 

 そんなことがあって以来、不幸の手紙は大繁殖をはじめた。友達付き合いの多い奴は一日に十通も書かないといけないと嘆いていたし、いつもイジメられているクラスのきらわれもののあいつでさえ、切手代でお小遣いがなくなったと言っていた。

 

 ここに来て分かったことは、不幸の手紙というのは極端に人気のある人間と、嫌われている人間に集まると言うことだ。

 

 オレはクラスでもそれほど目立たない、普通の生徒だからと安心していたのだが、ついに来るべき時が来てしまったようだ。

 

「うーん」

 

 オレはこの文章を見て一声唸った。

 

 こんな文章を書くのはいったい誰だろうか、考えてみるが、オレがよく知っている人間ではなさそうだ。なぜならオレの知り合いにこんなに綺麗な字が書ける奴はいないからだ。

 

 何度となく手紙を読み返してみるが、やはり差し出し人は分からずじまいだった。

 

 仕方なくオレも不幸の手紙を書くことにした。

 

「さてと、問題はこの手紙を誰に出すかってことだ」

 

 オレは一人ずつクラスメイトの顔を思い浮かべた。

 

「そうだ、あいつらにしよう」

 

 オレはある二人の顔を思い浮かべる。先生も手を焼いている不良二人組だ、かく言うこのオレもパシリにされたり、カツアゲされたことは数知れない。

 

「ふふふ、これまでの恨み、この手紙にこめてやる」

 

 クラス名簿から二人の住所を探し出し、素早くペンを走らせる。切手を貼ると、急ぎながらも、人に見つからないよう細心の注意はらってポストに投げ込む。

 

 オレは重大な仕事をやり遂げたことで、爽やかな気分で家に帰った。

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  二日後

 

 

「おい、おまえ。ちょっと顔貸しな」

 

 昼休み、友達と雑談に花を咲かせていると例の二人組がオレのことを挟み込むように立ち、声をかけてきた。

 

 友人はそそくさと逃げ出している。周りを見回すも、救援は期待できそうにない。

 

「は、はいぃぃ……」

 

 声にビブラートがかかっている。間違ってもオブラートではない。オレはロボットのようにカクンと立ち上がると、右手と右足を同時に出して歩き出した。

 

 

 二人はオレのことを体育館の裏手に連れてきた。人っ子一人いない。オレの足は電気マッサージ器よりも激しく震えている。

 

「なななん、なんのごようでしょうかぁあ……」

 

 やっとのことでそれだけの言葉を搾り出す。

 

「何の御用かだとぉ。てめぇ、俺達に不幸の手紙なんか送りつけやがって、ただで済むと思うなよ」

 

 この言葉とともにストレートがオレの腹に決まった。

 

「な、なんでオレが出したとわかったんだ……」

 

 ふらふらと立ち上がりながら疑問を口にすると、二人は声を上げて笑い出した。

 

「バカか、不幸の手紙ってのは、自分の名前なんかかかねえ物なんだよっ」

 

 続けて、もう一人のこぶしが決まる。

 

「二度とそんなことかんがえられないように体に叩き込んでやるぜ」

 

 二人はオレをサンドバックか何かと勘違いしているのか、殴ったり、けったりを繰り返した。

 

 

オレは傷だらけになりながらも、何とか家に帰り着いた。

 

「くそー、オレとしたことがとんだ大失敗だ。手紙なんて懸賞くらいしか出さないから、住所・氏名・年齢・電話番号まできっちり書いてしまっていたのか。」

 

 オレは傷に絆創膏を張りながら一人反省を行っていた。

 

「まぁ、これだけの不幸にあったんだ。これでまた普通の生活に戻れるな」

 

 この考えは、甘かった。

 

 

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 次の日、オレの元には、またも不幸の手紙が届いた。

 

「くそー、いったい誰からだ」

 

 オレは封筒を破くように開くと、中の便箋を取り出した。

 

 

 

[お久しぶりでございます。私は先日不幸の手紙をお送りさせていただいたものでございます。たびたびご迷惑かとは思いましたが、こうして筆を取らせていただきました。

 このたびは不幸の手紙の発送を行っていただき、誠にありがとうございました。今回お手紙させていただきましたのは、その不幸の手紙についてでございます。

 残念ながらあなた様のお出しになりました不幸の手紙は、相手の方々に差出人があなただと言うことがばれてしまいました。つまりこれは不幸の手紙の発送に失敗した、ということになります。

≪不幸の手紙取締法第二十一条第二項≫によりますと、『差出人の素性がばれたものには出すべきだった不幸の手紙数の、十倍を出す義務を負ふ』となっております。これにより、先の文章と同じものを二十名に出していただかなくてはいけないことになってしまいました。お忙しい中、本当ににご迷惑とは存じますが、貴方様のためにも三日以内に必ず、お出しになられますように、よろしくお願いいたします。くどいようですが、絶対にチェーンレターの輪を切るようなことはおやめください。   不幸の手紙管理委員会より]

 

 

 

 と、またもあの綺麗な字で長々と書かれている。

 

「三日以内に二十枚だと!?ふざけやがって、何が不幸の手紙管理委員会だ。不幸でも何でももってこいってんだ」

 

 オレは手紙を丸めてゴミ箱に放り投げた。

 

 

 それからというもの、オレの身に不幸なことは訪れなかった。始めからあんなものは気の持ちようなのかもしれない。あれから一週間もたつというのに平和な日常が繰り返されていた。

 

 オレが不幸の手紙のことなどすっかり忘れかけたある日。乱暴に玄関を叩く音が、二階のオレの部屋まで響いた。

 

 下では母親が「なんなんですかあなたたちはっ!」と金切り声を上げている。

 

 何事かと、椅子から立ち上がったオレの耳に、階段を駆け上がってくる複数の足音が響いた。

 

 不意に部屋の扉が蹴破られた。外には拳銃を構えた男が銃口をオレに合わせたまま黙って睨んでいる。

 

「な、なんなんだ、あんた」

 

「おとなしくしろ!抵抗すれば撃つ」

 

 残念なことに、男の目は本気だった。オレがその場で手を上げると、男は首で後ろに控える男たちに突入を合図した。

 

 数人のスーツの男たちがオレの狭い部屋に入り込み、机周りやベットの下を捜索する。

 

「ちょ、ちょっと、なんなんですか。オレ麻薬なんてやってないですよ」

 

 オレの弁解など無視して捜索は進む。部屋の外で母親が心配そうにオレを見る。本当に何も身に覚えはない。何も出てこなければオレの濡れ衣も晴れるだろう。そう思ったそのとき、

 

「ありました!」

 

 捜索に当たっていた男の一人から声が上がった。

 

「「何っ!」」

 

 オレと、銃を構えた男は同時に声を上げた。

 

「おおおお、オレ本当に知らないんです!」

 

「これでもしらばっくれる気か」

 

 男はオレの目の前に、以前にゴミ箱に捨てた不幸の手紙を広げて見せた。

 

「これは不幸の手紙管理委員会からの催促状だな」

 

 別の男がオレの腕に手錠をかけた。

 

「不幸の手紙取締法違反の容疑で逮捕する」

 

 

 

 こうしてオレは少年院に送られることになった。

 

 もしも貴方に『不幸の手紙』が届いたら、それを止めるような危険なことだけは決してしないでください。

 

 

 最後に、この小説は不幸の小説です。三日以内に友人、五人以上にこの小説を読ませてください。この約束を守れない場合、貴方は不幸のどん底に落ちていくことでしょう……

 

                   ENDLESS

 

説明
ある少年のもとに『不幸の手紙が届く』
それが彼の不幸の始まりだった。
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