三人の御遣い 一話 |
/京
京「・・・くっ」
太陽の光に目が覚ます。腰を上げ周りを見回すと
京「・・・ここは?」
周りには何もない荒野だった。
京「(・・・何が起きた?・・・確か・・・一刀の部屋の前で・・・光に包まれて)」
状況を考えていると
???「あ、あのぉ〜」
後ろから声をかけられる。振り向くと同じ年齢くらいの女の子だった。
???「桃香様。いきなり話しかけては危険です」
すると鋭い目つきをした女の子が京と先ほど話しかけてきた女の子の間に入ってきた。
???「愛紗。目が怖いのだ」
最後に小さい女の子が現れた。
愛紗?「うるさい。鈴々」
桃香?「愛紗ちゃん。いきなりその態度はどうかと思うよ?」
愛紗?「うっ」
鈴々?「にゃはは、怒られてるのだ」
京「あ〜、話しあってる最中で悪いんけど・・・ここどこ?」
三人が話している最中に京は質問をする。
愛紗?「ここは幽州啄郡。五台山の麓だ」
京の質問に愛紗と呼ばれた子はそう答える。
京「う〜ん?どこだそこ?ちょっと聞きたいんだけど・・・君、桃香だっけ?」
三人の女の子「!?」
京「って、うわぁ」
愛紗?「きさま、誰の許可を得て桃香様の真名を呼ぶ」
いきなり愛紗って子が持っている武器の刃を向けられる。
京「・・・真名?真名って?」
鈴々?「ありゃ?お兄ちゃん真名もしらないのか?」
京「ああ」
三人が驚いた顔をする。すると
桃香?「私たちが持っている本当の名前です。家族や親しい人にしか呼ぶことしか許されない神聖な名前、その名を持つ人の本質を包み込んだ言葉です。だから親しい人以外は、たとえ知っていたとしても口に出してはいけない本当の名前です」
京「(・・・文化の問題か?だとするとさっきの反応から考えるとこの子の真名ってのを汚したことになるのか)」
桃香って子に真名の説明を聞き、京は考えた。そして
京「悪かった。謝る。そのような文化があるとは知らずあなたの真名を汚した」
そう言うと京は頭を下げた。
桃香?「あっ、いえ、大丈夫です。ちょっとびっくりしただけですから」
愛紗?「けど、桃香様!」
桃香?「大丈夫、愛紗ちゃん。このお兄さん真名を知らなかっただけだから」
京「ほんとにごめん」
桃香?「ほんとに大丈夫ですから頭をあげてください」
そう言われて京は頭をあげた。頭をあげたら武器は納められていた。
桃香?「それでお兄さん。私に何かようですか?」
京「あ〜、その前に君たちの事なんて呼べばいい?さっき呼び合ってたの真名だよね?」
三人に名前を聞こうとするが京は思い出したかのように
京「っと悪い。人の名前聞く前に自分からだな。・・・俺の名前は柊 京(ひいらぎ きょう)。とりあえずよろしく」
京は自己紹介を始める。それに続いて三人の女の子がそれぞれ自己紹介を始める。
桃香?「私は劉備。字は玄徳です」
鈴々?「鈴々は張飛なのだ」
愛紗?「・・・関雲長です」
三人の名前を聞き、京は考え始める。
京「(愛紗って子、仕方なくって感じだなぁ。まっ仕方ないか。それよりも気になるのは・・・)それって本当の名前?」
劉備「ええ、そうですよ」
張飛「そうなのだ」
関羽「・・・何か問題でも?」
京「あ〜、いや、問題はないかな。(きっついなぁ〜)だとすると君の字は翼徳で、君の名は羽かな?」
関羽「!?」
張飛「おぉ。お兄ちゃんすごいのだ。なんで分かったのだ?」
劉備「すごいすご〜い。お兄さんすごいよ。二人の名前と字なんで知ってるんですか?」
ちょっとした質問のつもりがすごいことになってしまい京は少し後悔し始めてきた。
京「あ〜、いや、ちょっとどこかで聞いたかなぁ、と思って(しまった、ここまで反応するとは)」
関羽「・・・」
関羽は京の事をにらんでる感じだったが、京は気にしないことにした。
京「そう言えばさっき幽州啄郡っていったっけ?」
劉備「はい。そうです」
京の質問に劉備が答える。
京「ちょっと悪いけど考え事させて」
劉備「いいですよ〜」
そう言って京は考え始める。
京「(劉備に関羽、そして張飛か。ほんとだとすると三国志の世界か?・・・でも)」
そこまで考え、ちらっと三人のほうを見る。すると三人は話しあっているようだった。
京「(どうみたって女の子だよな。パラレルワールドか?だとしても異常だろ。・・・はぁ、仮にそうだとして話を進めないと先に進めないな。・・・なぜこうなったのか、なぜここにいるのかは後回しだな。それよりも大事なことがある)」
考えがまとまったのか三人に話しかけようとすると
劉備「ぜっ〜たい、あのお兄さん天の御遣いさんだよ」
関羽「あのエセ占い師の占いのですか?」
張飛「けどあのお兄ちゃん、ぜーんぜん頼りなさそうなのだ」
内緒話のようにして話しているが、丸聞こえだった。
京「(もうちょっと小さい声で話せよ。しかも頼りないって。・・・まぁ、あの張飛本人だったら仕方ないけどさぁ)」
それを聞いた京は落ち込みそうになりそうだったが持ちこたえた。
京「話してるとこ悪いけど、ちょっと訊いてもいいかな?」
劉備「きゃ!?」
張飛「にゃはは。お姉ちゃんびっくりしすぎなのだ」
関羽「・・・」
京が話しかけると劉備が驚いた。張飛と関羽は気づいていたみたいだったが、関羽の目は厳しかった。
京「(あの目線はあきらめるか)そこまで驚くとは。ごめん」
劉備「いえ、気にしないでください。あははっ」
謝られたことに戸惑いつつも劉備は答える。
関羽「・・・それで訊きたいこととは?」
まだ納得がいかないのか不機嫌そうに関羽が話しかける。
京「っと、そうだな。こっちも時間がないしな。とりあえず訊きたいのは、ここにいたのは俺一人か?他にいたりしなかったか?」
劉備「??」
関羽「??」
張飛「鈴々たちが来た時にはお兄ちゃん一人だったのだ」
それを聞いた京は焦り始める。
京「(なんだと!?くそっ。だとしたら他の二人はどうなった。ここに来たのは俺一人か?・・・いや、あの光を浴びたんだ。こっちに来てる可能性のほうが高い。だとするとどこに行った?くそっ。あの時ちゃんと手が届いていれば!)」
急にいらつき始めた京を見て劉備は戸惑う。
劉備「あ、あのぉ〜」
京「(友樹は自分で何とかできるだろうが、問題は一刀だ。一番の問題はあいつが急に真名を呼ばないことだ。俺はこの三人だったから何とか許せて・・・約一名違うか・・・とりあえず許せてもらったが、一刀が最悪の奴の真名を呼んでいなければいいが・・・)」
劉備「あのぉ〜」
京「(探しに行くか?いや、ここが本当に三国志の世界なら俺程度じゃ旅はできないな。どうする?)」
劉備「すいませんっ」
劉備の声に気付き、そちらのほうを向く。
京「っと、悪い。考え事してた。・・・それで何かな?」
ようやく京が反応してくれたのが嬉しかったのか笑顔で聞いてくる。
劉備「え〜とですね、今度は私たちが質問していいですか?」
京「まぁ、答えられる範囲であれば」
京は当然だなと思い劉備たちの質問に答える。
劉備「まず、お兄さんは大陸の状況って分かります?」
京「(大陸の状況?そう言えば三国志の物語のどのへんだ?こういうとき一刀か友樹がいればよかったんだが)いや、分かんないかな」
劉備の質問に素直に答えることにした。
劉備「それでは次に、お兄さんどこの出身ですか?」
京「日本ってとこなんだが・・・知らないよな。う〜ん、分かりやすく言うとこの大陸からだいぶ遠いところからかな」
劉備「ほら、やっぱりそうだよ。愛紗ちゃん」
その答えを聞いた劉備が予想外の反応を示したので、京は軽く戸惑う。
京「やっぱり?」
京の疑問をよそに話は進んでいく。
関羽「しかし、彼が天の御遣いだとは思いません。天の御遣いにしては英雄たる雰囲気があまり感じられません」
京「(そんなものあるかっての)・・・そう言えばさっきも聞いたな。その天の御遣いって何?」
京が疑問を持ちかけると
関羽「・・・この乱世に平和を誘う天の使者。・・・自称大陸一の占い師、管輅の言葉です」
関羽がしぶしぶといった感じで説明をする。
京「それが俺だと?」
劉備「はい!」
劉備が自信を持って答える。
京「(乱世を平和に?難題を押し付けるなぁ。・・・けどどうする?ここで付いて行けば一刀たちを探しに行けない。しかし付いて行かなかったら旅もできない。しかも、乱世ということは・・・)」
これからどうするのか悩んでいると
劉備「お兄さん、どうしたんですか?」
劉備が話しかけてくる。
京「・・・いや、君たちに付いて行こうかどうか、悩んでいたとこ」
言うかどうか悩んだけど素直に言うことにした。
張飛「うにゃ?お兄ちゃん一緒に来てくれないのか?」
京「う〜ん。俺一人だったら付いて行ったかもしれないけど、探してる人がいるからな」
劉備「探している人?」
京「ああ。たぶん俺みたいにここに来ていると思うんだけど、確証がないしなぁ」
関羽「・・・確証がないのに探すのですか?」
少し遠くを見る感じで話しはじめる。
京「確証がないから探すのかもな。俺にとってはとても大切な友達だから。ここに来ているのか来てないのかはっきりさせたい。・・・けど俺は君たちみたいに強くないから一人旅ができない。だからどうしようかなぁと」
張飛「それじゃ、どうするのだぁ?」
張飛が確認するかのように聞いてくる。
京「君たちに付いて行っても天の御遣いとやらにされるんだろ?」
劉備「はい。・・・いやですか?」
哀しそうな顔で聞いてくる。
京「嫌とかじゃなくて・・・う〜んとだなぁ、俺が天の御遣いになるとしよう」
劉備「付いてきてくれるんですか!」
今度は嬉しそうな顔で聞いてくる。
京「いや、たとえ話ね」
劉備「・・・そうですか」
それを聞いたらまた哀しそうな顔をした。
京「・・・まぁ、君たちに付いて行って有名になったとしよう。そうするとだ。同じ境遇の俺の友達が危なくなる可能性がある。分かる?」
京がそのように聞くと
張飛「分かんないのだ」
劉備「私もよく分かんないです」
きっぱりと言われた。
関羽「はぁ。鈴々ならともかく桃香様まで」
張飛「愛紗は分かったのか?」
劉備「愛紗ちゃんは分かったの?」
今の説明で分かったのか関羽は話しはじめる。
関羽「つまり彼は、友達の危険が及ぶかもしれないから天の御遣いにはなれないと仰っているのです。私たちが彼を連れて名をあげれば、天の御遣いがいれば名をあげられるかもしれないと考える人が現れるかもしれない。そしたらこの乱世に巻き込まれるかもしれないと言いたいのです」
そう言う関羽に
劉備「すご〜い愛紗ちゃん」
張飛「愛紗すごいのだ」
二人は褒める。
関羽「逆に言えば友達の安全が確認できたら彼は天の御遣いになってもいいと仰っています」
京「・・・正解」
そこまで読まれていたのかと思い少し驚きつつ答える。
劉備「ほんとですか!?」
劉備が嬉しそうな顔をして近づいてくる
京「ほんと。・・・そうだなぁ」
少し考え始める。
劉備「どうしたんですかぁ?」
京「・・・ちょっといいかな」
劉備「なんですかぁ?」
京「俺は君たちに付いて行く」
京がそう告げると
劉備「ほんとですかぁ!やったぁ!」
劉備は喜んだ。
京「だけど、条件がある」
張飛「なんなのだぁ?」
京「友達の安全が確認できるまで名前を伏せてもらいたい。確認できたなら俺が天の御遣いだと名をあげる。それまで、そうだなぁ。・・・そうだっ、君たちの部下ってことにしておいて」
劉備「そんなっ!?御遣い様にそんなことできません」
納得いかなかったのか劉備は反対する。
京「できないのであればこの話はなかったことになるけどね」
劉備「う〜〜」
それを聞くと劉備は頬をむくれさせた。
関羽「桃香様。彼の条件をのみましょう」
と予想外のところから返事が返ってきた。
劉備「愛紗ちゃん?」
京「・・・いいのか?どっちかというと君は反対派かと思ったけど」
劉備は疑問に思ったのか彼女の名を呼び、京は疑問を投げかけた。
関羽「いえ。あなたが友達の話をしているときに確証しました。あなたが悪者ではないと」
京「・・・その根拠は?」
関羽「あなたが友達の話をしている時は、とても心配そうな目をしていました。それに、あなたがどのような状況にいるのかあまり把握できないですけど、私も同じ立場ならば同じことをしたのではないかと思ったからです」
京「ふ〜ん」
そう言い京は劉備と張飛の顔を見た。
劉備「??」
張飛「??」
二人はなぜ見られているのか分からない感じだった。
関羽「分かっていただけましたか?」
京「ああ。・・・お互い守らないといけない人がいるってことか」
関羽「そうです」
二人の話についていけない感じで劉備が話しかけてくる。
劉備「う〜〜ん?結局どうするんですか?」
京「君たちに付いて行くよ」
ある程度方針が決まったのか即答をした。
劉備「やったぁ!」
嬉しそうにする劉備。
張飛「お兄ちゃんは鈴々たちの天の御遣いになるのか?」
京「ああ。そうだな」
張飛「だったらお兄ちゃんは今から鈴々たちのご主人様なのだ。だから鈴々のことは鈴々と呼ぶのだ」
京「ご主人様?」
京は疑問に思った単語を口にした。
劉備「そうだよ。私は桃香。よろしくねご主人様」
関羽「先程は失礼しました。私は愛紗と言います。これからもよろしくお願いしますご主人様」
劉備は笑顔で挨拶をし、関羽は先程の謝罪しのち笑顔で挨拶をする。
京「ご主人様ぁ?・・・それやめてくれないかな」
愛紗「それはできない相談です。ご主人様」
笑顔で答える。それを笑顔を見て京は諦めつつ話を続ける。
京「はぁ。分かった、それでいいや。けど俺を主と仰ぐならばさっきの条件を忘れないように。三人のときはそれでいいけど他の人がいるときはちゃんと名前を呼ぶこと。俺の許可なく俺を天の御遣いと紹介しないこと。最低限この二つは守るように」
桃香「え〜〜」
桃香はそれはめんどくさいと言わんばかりだった。
鈴々「めんどくさいのだ」
鈴々はぶっちゃけた。
京「これが守れないのであれば君たちのもとを離れるから」
桃香「え〜〜」
今度は納得がいかない感じだった。
京「桃香、あまりわがまま言わないように。別に意地悪してるわけじゃないからさ」
そう言って桃香の頭をなでる。
桃香「!?」
びっくりする桃香だったが徐々に頬が紅く染まっていく。
京「そうだなぁ。俺が『条件』といったら名前で呼んでくれ。それ以外はその呼び方でいいからさ。・・・分かってくれる桃香?」
桃香「・・・はい///」
顔を赤く染めつつ返事をする。
京「愛紗と鈴々もね」
今の提案を二人にも了承を得るため彼女たちに顔を向ける。
愛紗「わかりました」
鈴々「鈴々はお兄ちゃんのままでいいのだ」
京「う〜ん。それでいいかな」
少し悩んだがそれが妥当だと判断した。
京「(方針も決まったし、あとはあの二人の居場所か)」
これからの事を考えようとしたがお腹がすいたのに気付き
京「それじゃ、お腹すいてきたし何か食べにいこうか」
三人に提案する。
桃香「さんせ〜い」
鈴々「賛成なのだ」
愛紗「それでは近くの街に行きましょう」
街にある店に入り京は今後の行動について三人に訊き始める。
京「そういえば、これからどうするんだ?」
桃香「ご主人様。私たちはね、弱い人たちを助けたい。私たちは弱い人たちが傷つき無念を抱いて倒れることに我慢できなくて、少しでも力になれるのならって、そう思って旅を続けていたの」
京「・・・」
桃香「でも・・・三人だけじゃもう、何の力にもなれない。そんな時代になってきてる・・・」
愛紗「管匪の横行、太守の暴政・・・そして弱い人間が群れをなし、さらに弱い人間を叩く。そういった負の連鎖が強大なうねりを帯びて、この大陸を覆っています」
鈴々「三人じゃ、もう何も出来なくなっているのだ・・・」
桃香「一つの村を救えても、その間に他の村の人たちが泣いている。・・・もう、私たちの力だけじゃ限界が来ているんです」
それを聞き京は
京「(理想だな。・・・それだけで大陸全土を救おうとしているのか。これだけでは協力してくれる奴の方が少ないな。・・・少し試すか)」
そう思い、三人に問いかける。
京「・・・だから、天の御遣いの名が欲しいのか?」
愛紗「・・・そうです」
その問いに愛紗が答える。
京「・・・名声、風評、知名度・・・そういった人を惹き付けるに足る実績がないからか?」
さらに京は問う。
鈴々「・・・そうなのだ」
今度は鈴々が答える。
京「・・・つまり俺でなくてもいいわけだな?」
その問いに
桃香「・・・どういうことです?」
桃香が疑問で返す。
京「簡単に言うと、俺が必要なわけではなく、天の御遣いが必要なわけだ。今は、俺を天の御遣いとして祭り上げるが、他に俺以上の天の御遣いとしての器の持ち主がいたらそっちを天の御遣いとして祭り上げ「バァン」・・・」
音をした方を見ると桃香が机を叩きつけ、その場に立っていた。
桃香「違います!私はあなたが「違わないだろ」!?」
桃香が反論しようとするが京がそれを遮る。
京「俺を傀儡にしようとしてるんだろ?」
京は少し苛ついたようにみせながら話を進める。
桃香「・・・違います。私は・・・」
顔を俯けさせながら、京の言葉を否定しようとする。
京「そうか?さっきの話からしてそうだと思ったんだけどな」
愛紗「・・・」
鈴々「・・・」
二人も顔を俯けさせる。
京「何だ?本当に俺を傀儡にしようをしてるのか?」
愛紗「・・・違います。けどご主人様が仰ったとおり、さっきの話ではそう聞こえても仕方ないかと・・・」
京の問いに愛紗が答えた。
桃香「・・・私はご主人様でないと・・・」
桃香が泣きそうな顔をしながら何か呟いていたが、京には聞き取れなかった。
京「(しまった。まさか泣きそうになるとは。・・・やりすぎたか)」
桃香の顔を見ながら京は思った。京は席を立ち桃香のそばに寄り、桃香の顔を自分の胸に抱き寄せた。
桃香「!?」
桃香は突然のことにびっくりした。
京「ごめん。やりすぎた。ただ少し試そうとしただけなんだ」
三人「??」
京の謝罪に今度は三人ともきょとんとした。
京「三人の性格からしてそんなこと思ってないって分かってるつもりだ。ただ、弱い人たちを助けていけば平和になるって言うのは理想だ。分かるな?」
愛紗「・・・」
桃香「・・・」
鈴々「・・・」
京の問いに誰も返事をしない。
京「当然、それに反発してくる奴はでてくる。最終的に戦だろうが、その前に口論で負けているようじゃ、だめだ」
愛紗「・・・」
鈴々「・・・」
桃香「・・・」
三人は京の話を無言で聞き入る。
京「だから、今のやり取りで俺を納得してもらいたかったんだが・・・」
桃香「!?」
今の言葉を聞いて不安を感じたのか京にしがみつく。
京「心配するな。言っただろう。お前たちに付いて行くと。・・・俺はどこにも行かない」
桃香「ひっく」
京は桃香の頭をなでながら答えると、桃香は泣きだした。
京「ごめんな。不安にさせたな。ちょっと言い方が悪かった」
桃香「ひっく。ご主人様は・・・ひっく・・・悪くない・・・ひっく・・・です」
桃香は京の胸の中で頭を横に振り、京の言葉を否定する。
愛紗「・・・ご主人様」
鈴々「・・・お兄ちゃん」
京「二人も悪かったな」
京は桃香の頭を撫でながら二人にも謝る。そして京は桃香が落ち着くのを待った。
桃香「・・・恥ずかしいところをみせました///」
桃香は落ち着いたのか、京に謝った。
京「気にするな。俺が悪かったしな」
桃香「・・・本当にどこにも行かないですよね?」
桃香は不安なのか京に確認するように聞く。
京「ああ。最終的にこの大陸が平和になれば俺の友達も安全だしな。・・・それに一飯の恩もあるしな。ここで別れるわけにはいかないさ」
京が答えると三人が急に微妙な顔をし始めた。
桃香「・・・一飯の恩?」
愛紗「一飯の・・・恩ですか」
鈴々「一飯の恩・・・」
京「ん?どうした?まずいこと言ったか?」
その問いに桃香が答え始める。
桃香「え、あの・・・んとですね、ご主人様は天に住んでた人なのでお金持ちかな〜と思って、ですね」
京「そんなわけないだろ。だいたいこっちの世界と俺がいた世界はお金が違うからな。仮に金持ちでもここでは使えないぞ」
京はそう答えると
愛紗「・・・そうですか。・・・私たちはご主人様のご相伴にあずかろうと」
京「・・・ということは」
愛紗の言葉に京は不安になりながら答える。
鈴々「つまり鈴々たちはお金を持ってないのだ♪」
京「・・・やっぱり」
京の不安が的中した。
???「・・・ほぉ〜」
鈴々「げぇ、なのだ」
振り向くとこの店のおかみが立っていた。
おかみ「あんたら全員一文無しかい!」
京「すまない。食い逃げするわけではない」
素直に京は謝罪を始めた。
おかみ「それじゃ、どうするつもりだい」
京「食べた分、店の手伝いをさせてもらいたい。・・・それで許させるわけではないとは分かってる」
と提案をした。おかみはそれで納得をし、皿洗いを手伝うことで許して貰うことが出来た。
桃香「はぁ〜〜、疲れたよぉ〜〜〜」
愛紗「全くです。戦場で槍を持つならば疲れなどしないのですが・・・」
おかみ「はっはっはっ。厨房だって女の戦場なんだ。こんなことでへこたれてちゃ、これから先、人助けなんてできっこないさ」
京「ん?さっきの話聞いてたのか」
おかみ「ああ。しっかり聞かせてもらったさ。・・・応援してるよ、お譲ちゃんたち」
鈴々「うう〜。応援してるなら、皿洗いは勘弁して欲しかったのだ〜」
京「違うぞ鈴々。それとこれとは別の話さ。だいたい、人助けという大きいことをやろうとしているのに、食い逃げなんかしてみろ。誰も付いてこなくなるぞ」
おかみ「そうさ、お天道様の下で胸を張って歩くためにゃ、ケジメってやつが必要なのさ」
そう言っておかみはニヤッと笑った。
おかみ「それにしても面白い子だね。・・・ほら、こいつを持っていきな」
と、陶器で出来た瓶のようなものを取りだした。
京「これは?」
おかみ「うちで造った酒さね。・・・大望を抱くあんたらの門出の祝いにご進呈だ」
京「・・・いいのか?」
おかみ「こんなご時世だ。うちらがいつまで生きてるかは分からん。でもあんたらみたいな子がいりゃ、いつか世の中は良くなる・・・そう思うからさ」
桃香「ありがと・・・。きっと・・・きっと、私たち、もっともっと力をつけて、みんなを守れるぐらいに強くなってみせます!」
おかみ「ははっ、期待してるよ」
鈴々「任せろなのだ!」
おかみ「頼もしいねぇ。・・・それであんたら。この先、行くあてはあるのかい?」
愛紗「そ、それは・・・」
京「・・・ないのか」
おかみ「・・・全く。言ってることはデカイが、何も考えてないんだねぇ」
京「面目ない」
桃香「あぅ。すいません」
おかみ「まぁいいさ。見たところ、あんたら武芸に長けてそうだしね」
京「この二人はな」
そう言うと愛紗と鈴々は首を縦に振る。
おかみ「それならこの街の近辺を治めている、公孫賛様のところに行ってみな。最近、近隣を荒らし回っている盗賊どもを懲らしめるため、義勇兵を募集しているらしいから」
桃香「公孫賛・・・あっ!そういえば白蓮ちゃんがこの辺りに赴任するって言ってた」
京「・・・そういうことは早く言おうな。桃香」
桃香「うぅ、ごめんなさい」
鈴々「全く。お姉ちゃんは天然すぎるのだ。・・・で、どうするのだお兄ちゃん」
京「そうだな。とりあえず行くか」
行き先を決め、準備に取り掛かる。
おかみ「公孫賛様をしっかりと助けてやってくれよ。お譲ちゃんたち」
桃香「はい!」
こうして、おかみたちの見送りを受けた京たちは、公孫賛の本拠地に向かって出発した。
その途中
桃香「この辺り、かなぁ〜?」
愛紗「おかみから聞いた場所はこの辺りですね」
鈴々「きっと丘の向こうにあるんじゃないかな〜?」
京「行ってみるか」
おかみから貰った酒瓶を手に、一歩一歩、踏みしめるように丘を登る。
すると・・・
京「へぇ〜」
眼下に広がる一面桜色の世界。
桃香「これが桃園か〜。・・・すごいね〜♪」
愛紗「美しい。まさに桃園という名にふさわしい美しさです」
京「・・・たしかに」
三人でしばしの風雅を楽しんでいると、
鈴々「さぁ酒なのだ〜」
ワクワクした表情の鈴々が、はしゃぎ回る。
愛紗「・・・約一名、ものの雅を分からぬ者もいるようですが」
桃香「あははっ、鈴々ちゃんらしいね♪」
京「らしいのか。・・・まぁ、いいか。それより準備はいいか?」
桃香「はい!」
愛紗「はっ!」
鈴々「良いのだ!」
手に取った盃にお酒を注ぎながら、
京「(それにしても、この誓いの中に自分がいるとはな)」
しみじみと思っていると
桃香「どうかしたんですか?ご主人様」
京「・・・いや何でもない。その前に」
桃香「?」
京「正直これから何をすればいいのか、どうすればいいのか分からないが、少なくともお前たちの力になれればいいと思う。・・・こんな俺だが、付いてきてくれるか?」
その問いに三人は
桃香「はい!」
愛紗「もちろんです」
鈴々「もちろんなのだ」
と答えた。その答えを聞き京は
京「ありがと。・・・それじゃ始めるか」
そう答える。そして愛紗が、掌で包んでいた盃を、空に向かって高々と掲げた。
愛紗「我ら四人っ!」
桃香「姓は違えども、姉妹の契りを結びしからは!」
鈴々「心を同じくして助け合い、みんなで力無き人々を救うのだ」
愛紗「同年、同月、同日に生まれることを得ずとも!」
桃香「願わくば同年、同月、同日に死せんことを!」
京「乾杯!」
京はこの誓いを胸にこの戦乱を進むことを決めた。友達を探すためと、・・・この娘たちを守るために。
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