輪・恋姫†無双 四話
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朱里や雛里は、やはり正確に自らの仕事をこなした。

 

開戦の進言。その根拠となる将の質、兵の士気を説き、我に策ありと…………愛紗の反応にビクビクしながら主張した。

 

その策を、二人が説明している。

 

「此処より十里先は各方面に道が延びる交通の要所。そこにたったの一万しか兵がいないんです。」

 

「だからこそ、相手は雑兵であると判断できます。そしてその拠点を奪えば黄巾党全軍に影響を与えられます。」

 

「そして、私たちの兵力は黄巾党よりかなり少ない。敵は油断し、討ってでてくるでしょう。」

 

「油断したところを罠にはめるってことだな?」

 

「……」

 

「……」

 

「え!?俺間違ってる!?なんか答えて!」

 

「あわわ…ごめんなさい。ちゃんと聞いてると思ってなくて…」

 

「はわわ!?すいません!間違ってないですよ!」

 

「にゃはは…お兄ちゃんがまともなこと言うと、なんか違和感があるのだ。」

 

出会ってそれほど立っていない、赤いランドセル背負っていても何の違和感もない三人にそろいもそろってこう言われれば、さすがの祐一もへこむ。

 

そして、そんな祐一を放置して、策の解説は進む。

 

「まず第一に敵を陣地から引っ張り出し、野戦に持ちこみます。ただし、平地で戦ってはいけません。数で包囲されれば、いくら将に力があっても負けてしまいます。」

 

「道幅が狭い場所まで敵をおびき寄せ、そしてそこで逆撃します。」

 

「しかし、我らの行く手に峡間などどこにある?目の前は果てしなく荒野が続いているが…」

 

「会敵予想地点より北東にニ里ほど向かったところに、川が干上がってできた谷があります。」

 

「ええ?でも、地図にそんなの載ってないよ〜?」

 

「桃香、市販の地図には街道とか山とか…あと川くらいか?商人とかがよく通るような道しか載ってないんじゃないか?」

 

「ええ!?そうなの!?」

 

「………」

 

「………はい、正確な地図は漢王朝や官軍しか持ってません。地図は作戦決定において、もっとも重要な要素ですから。」

 

「朱里は今回も固まっちゃったのだ?」

 

毎回地味に祐一の心を抉る鈴々のツッコミがきまる。

 

「…えっとですね、私たちは水鏡先生のツテで正確な地図を見ることができました。なのでおおよその地理は把握してます。」

 

「それでですね、全軍で姿を現し、初撃をいなした後その峡間目指して退却。黄巾党に追尾させます。私たちは正規軍に見えるような集団ではないので、きっと食いついてくるでしょう。」

 

「殺し尽くし、奪い尽くし、焼き尽くし……ってか…」

 

誰にも聞こえないように呟いた祐一だが、

 

「だからこそ!私たちがコテンパンにやっつけないといけないの!」

 

桃香が、その言葉に返事をした。

 

「愛紗ちゃんが先陣、鈴々ちゃんが後衛で愛紗ちゃんが反転した後で移動する部隊の殿を守って!」

 

「御意!」

 

「むぅー…わかったのだ。でも、次は鈴々が先陣だよ!お姉ちゃん!」

 

「うん!約束だよ!それで朱里ちゃん、鈴々ちゃんの補佐をお願いできる?」

 

「了解です♪」

 

「それで私は……戦えないから本陣かな…雛里ちゃんも本陣でいい?」

 

「はいっ!」

 

「それで祐一さんは…」

 

「俺も前線でいいか?用兵術なんて知らないけど戦うだけなら他の義勇兵には劣ってないつもりだぞ。」

 

「はい!…いいよね?朱里ちゃん?」

 

「はい、問題ないと思います!……初対面は、凄かったですし…」

 

「じゃあ、敵さんに向かって〜…微速前進〜♪」

 

笑い声の響く中、祐一だけは硬い表情のままだった。

 

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「勇敢なる戦士たちよ!我に続けえぇーー!!」

 

その雄たけびを上げるとともに、二つの変化が起きる。

 

兵士たちが叫び、地響きを上げながら黄巾党に突進していく。

 

そしてもう一つ。気に対する理解の深い祐一だけが理解し、気の流れを朧ながらに見ることのできる祐一だけに驚きを与えた変化。

 

 

愛紗の全身に気が満ちた。

 

 

陰陽術が苦手な祐一が術を組まずに気を利用するすべとして、身体強化に気を使うことを古い文献で見つけ、会得した。

 

だがそれは、本来不可能な動きを自らに強いることであり、行動時間が長いほど術を解いたときの反動がすさまじい。

 

それに、気は無限に絞りだせるものでもない。効果的に気を流さなければものの数分で切れる。そもそも、気を効率的に使うために術なんてものができたのだ。

 

術を媒介とした身体強化が伝わっていない以上、気による身体強化は普通に術を組むより燃費がわるい。そして、気を使い果たした後に訪れるのは気絶。

 

だから祐一は普段、気による身体強化を足だけに、そしてトップスピードに移行するまでの間だけと決めていた。

 

鬼丸を握ることで気の使用効率が良くなると、この使い方で丸一日は戦い続けられる。

 

だが、愛紗のように全身を強化しようとすれば、鬼丸を抜いた状態であっても十分と持たないだろう。

 

まさかと思って周りの義勇兵を見る。

 

男の義勇兵に、気を纏って戦っている人間は居ない。

 

女の義勇兵は、…ほとんどは違う。そして、愛紗とはその出力が天と地ほど離れている。しかし、確かに全身に気を纏っているものがいる。

 

「(これが…タネか……)」

 

天下の英傑は伊達ではない。あんなマネができるなら女性であろうと関係ない。

 

それに、アレは、本人に気を練っている自覚も、身体強化をしている自覚もきっとない。

 

あったとすれば、あんなに無駄のある気の使い方をしない。

 

おそらく愛紗は、日常生活の時さえも無意識的に全身を気で強化している。

 

そして、戦闘に意識を向けるとその出力があがる。

 

きっと、鈴々もそうなのだろう。

 

彼女らが訓練で鍛えられるのは、きっと筋肉だけではなく、身体強化に使える気の量もだろう。

 

まあ、それらを別にして武器を扱う技術を磨かなければ実戦で“強い”と評されることはないだろうが。

 

大地を穿つ棍棒も、ただ速く振り回すだけなら大した恐怖などない。

 

一振り一振りが敵を追い詰め、予想外の事態にも素早く対応する。思考と行動の間の齟齬をなくす。

 

これができることこそが“強い”ということだ。

 

 

息を軽く吐き、鬼丸の柄を握る。

 

 

「(愛紗の剣の腕前を測るのは今じゃなくていい。)」

 

愛紗の少し後ろを走っていた自分と黄巾党とはもう数十メートルといったところだ。

 

 

 

今はただ、すべきことを、する。

 

 

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「雑兵といえども…さすがに数の違いがあれば手ごわいか…っ!」

 

そう言いながらも、一閃、ニ閃、三閃と青龍刀が振るわれるたびに確実に黄巾党の兵が死に絶える。

 

それを見ていた義勇兵の士気はあがる。

 

「我らは劉備様が志を支える義兵なり!餓鬼道に落ちた獣どもに負ける道理はない!!だからこそ、みなもう少し踏ん張ってくれ!!」

 

愛紗の居る場所に生きた敵兵は残らない。

 

 

そして逆の光景を作り出す者が、愛紗から離れること100メートル。彼の近くに居る黄巾党兵で、息絶えたものは居ない。

 

 

誰もが彼を信じられないものを見るような目で見ている。

 

彼の周りにあるのは苦痛にあえぐものや絶望に染まったもの、そして、かつては手としての機能を果たしていたもの。

 

相沢祐一は、胴を切り裂くことも、首を刎ねることも、貫くこともせず、ただひたすらに敵が武器をもつ利き腕にその鬼丸を振りぬき、例外なく切断していた。

 

 

黄巾党にとってどちらが地獄であるのか。

 

ごみを握りつぶすかのごとく当然のように、そして確実に一撃で命を奪うもの。

 

簡単に殺すことができるはずなのに、ただ戦う力を、その腕だけを無感動に刎ね飛ばすもの。

 

右に向かえば沈黙した仲間、死体の山が。

 

左に向かえば絶叫する仲間と手首の草原が。

 

その二人の周囲は黄巾党にとって、地獄と化していた。

 

 

簡単に皆殺しにできると思っていた黄巾党は恐怖に駆られたのか、それともいつまでたっても勝てないことに痺れを切らしたのか。報告が来る。

 

「姉御!敵後方の陣が開いて援軍がきやす!!」     「お頭!黄巾党の陣から援軍が!!」

 

黄巾党は、その全軍を投入してきた。

 

まさに、朱里と雛里の策に嵌りに来るように。

 

 

 

 

 

 

 

「華琳様。西方に砂塵を確認しました。」

 

「そう…。このあたりの敵に目を付けたか…。」

 

「会いに行くのか?華琳。」

 

「当然よ。でもその前に、目の前のことを終わらせなければね。秋蘭、桂花、躾のなってないケダモノどもに恐怖というものを教えてあげなさい。」

 

「「御意!」」

 

 

 

 

(次のページはキャラ設定です。興味ない人、見たくない人は見なくても問題ありません。)

 

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私は恋姫無双のファンブックみたいなものは読んだことがありません。

なので彼女たちの能力は、あくまで私がプレイした時に感じた印象を第一にして決定しています。

 

相沢祐一 能力データ

 

*技術とは単純に、その武器の扱いの上手さ

*「+」とか「-」は感じるニュアンスそのままに受け取ってください。

 

通常時

力:F  技術:A-  速:E

使用武器:鬼丸国綱(日本刀)

特殊スキル(原作の必殺技に相当)【気による身体強化】【???】【???】

 

 

比較対象がないと分かり難いと思うので…

 

義勇兵

力:G  技術:G  速:G

 

稟が基準にした「我が国の精兵」

力:F  技術:F  速:F

 

名無しの将

力:E-  技術:E-  速:E-

 

Ms.普通 白蓮

力:D  技術:C  速:D(通常)

 

力:C  技術:C  速:C(戦闘)

 

Ms.無双 恋

力:A+  技術:B+  速:A

 

真桜的に化け物と評されるような武将は全ステータスが白蓮と恋の間くらいだと思ってください。

あくまでもこれは一つの基準でしかないので、絶対的なものではないです。

それに、判断力とか、知識とか、気配遮断とか、気配察知とか、戦術とか、戦略とかの此処には表記してない“強さ”もありますし。

義勇兵が恋と同じくらいの身体能力を持った将を打ち倒すことも現実には起こりえるでしょう。

……言ってる自分自身、どんな状況ならあり得るのか思いついてませんが。

 

 

鬼丸国綱

 

     形状は割と普通の日本刀。美しい刀身に暗いという表現がふさわしいほどの漆黒の柄。鞘もまた同様の漆黒の鉄拵え。

     “11eyes”の童子切りは使用者の血肉を引き換えに力を増し、真価を発揮する剣…となっていたはずなので、鬼丸にもそういう代償の設定はあります。

     払う代償は呪を唱えることで初めて払うことになり、その呪を唱えない限りは、気の使用を補助する効果を持つ、丈夫でキレ味鋭い刀でしかありません。

     当初は鬼丸国綱を単体で考えていたのですが、最近やっている11eyesの美鈴が虚空から剣を召喚したり、草壁五宝の妖刀とかを見て、

     自分が考えてたものと中途半端に似通っていたので「じゃあいっそとこと」と設定を少し拝借し、独自設定を追加してしまいました。

     こちらに送ってまだ数日のくせに、もはや後悔し始めています。……そのうち序から二話までの11eyesっぽい要素は書き換えるかもしれないです。今はまだその余力ありませんが…。

 

 

次回は相沢祐一の設定(ネタばれしない程度に)と、唐三兄弟の設定を予定してます。

あと、「これは一体何だよ!?」って言うのがあればコメント欄とかで質問をください。問題ないものであれば今回のような手段で公開します。

説明
四話投稿です。
バトルパートでは、祐一君はシリアスモードです。
そして、この作品内限定で、恋姫の強さの秘密に理屈をつけました。

追伸
これから数回にわけて最後のページで祐一や唐兄弟の設定とか、スペックとか、致命的なネタばれにならない程度に紹介していきます。
一回目の今回は祐一君の戦闘スキルと、使用武器【鬼丸国綱】についてです。
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コメント
手を切るほうが残酷ですね、この時代じゃ、徐々に出血多量で死にます。でなくとも、使い物にならない人間として殺されます。だから、慈悲で殺すのが作法な時代もあったんですけどね。(翠湖)
レイン様 この『外史』の特徴出して、凪の扱いとかどうしようと悩んでます。どう考えても修行して気を使ってるので…。『彼女』は……悩みどころですが恋を超えることはないと思います。多分。そして確かに二人は気が合いそう。(柏葉端)
う〜む、シリアスな祐一君と普段のおちゃらけた祐一君とどっちが良いんだろうかねぇ…女性陣は気を無意識に使えているのもこの『外史』の特徴。…なら、牛丼がイメージフードの『彼女』は恋さん並みに強くなるのだろうか?…何気に意気投合しそうな雰囲気がするのって私だけでしょうかね?(レイン)
自由人様 ご報告ありがとうございます。自分でも一応見直してはいるのですが、毎回見落としが残ってしまい申し訳ありません。 私は呻く生きた集団の方が惨いと思います。でも、「切られる覚悟をもたないやつは殺さない」が彼の信念ですから。(柏葉端)
う〜む、屍の山と手首の山が築かれた呻く生きた集団…惨いと思うのはどっちなのかなぁ?それといよいよ劉備軍以外にも登場しましたね。華琳率いる曹操軍と『華琳』と呼び捨てにする者…もしやもう一人の『彼』なのか? 御報告 3p:銅を切り裂くことも/胴 4p:凛が基準にした/稟 ではないかと?(自由人)
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真恋姫無双 祐一 朱里 雛里 愛紗 桃香 鈴々 唐三兄弟 

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