真・恋姫無双紅竜王伝激闘編M〜軍神の苦悩〜
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「敵軍は数は少ないけど、地の利があって機動力がある。ボクたちはまずこの機動力を殺す」

出陣前に詠は主作戦を告げた後、さらに付け加えた。

「各部隊は兵の大多数を城の攻囲に回し、将軍たちは機動力の高い者を選抜して殿部隊の足止めと誘導をしてほしいの」

「足止めと誘導?」

「そう。敵が通ると思われる山道には合肥への近道があるの。将軍達にはその近道に先回りして道を塞ぎ、交戦して時間を稼いで欲しいの。具体的には―――」

詠は徐州南部の切り開かれた平野を指さす。

「本隊及び攻撃部隊が、この地にそろうまで」

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「皆さん、もう少しで呉の領地です!頑張ってください!」

中軍を率いる劉備は、民を励ましながら馬を進める。その声に励まされて老人や女性・子供達は歩み続ける。

「・・・」

民を励ます合間に、劉備はしきりに後ろを振り向く事をやめない。

(愛紗ちゃん、星ちゃん・・・)

気にかけるのは後ろに残してきた彼女の仲間たち。

(2人とも、無事で帰って来てね・・・)

心優しき彼女の願いは、果たして叶うのだろうか―――

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関羽・趙雲率いる劉備軍殿部隊の前に立ち塞がったのは、鶴翼に広がった織田の大軍。その中から一騎、歩み出てきた者がいる。長く伸ばした赤毛に身に纏った深紅の鎧―――

「関雲長!趙子竜!」

漢王朝の軍権を預かる大将軍・織田舞人が進み出て、2人に話しかける。

「我が軍門に降れ!ここで我が軍とぶつかっても無駄な事ぞ!」

「黙れ!我らの主は劉玄徳ただ一人!例え帝を頂く大将軍閣下の命とて受けかねる!」

舞人の勧告にも関羽は毅然と拒否の姿勢を崩さない。ある意味想定できた答に舞人は苦笑する。

「ならば刃を交えて決着をつけようか」

「望むところ!」

舞人と関羽は自軍の中に戻り、お互い作戦を練り始めた。

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「愛紗、まずは逃げる事を考えよう」

趙雲は戻ってきた関羽に馬を寄せて囁いた。

「我らは一丸となって織田勢の中に突撃し、鶴翼に広がった織田軍の一点を突く」

織田軍が展開する『鶴翼の陣』とは軍勢を鶴が翼を広げたようにVの字に広がり、大将はそのVの底辺に布陣する。敵軍が大将目掛けてVの字の中に突撃して来ると、翼にあたる両翼の部隊が閉じるように包囲して敵を殲滅するという陣形だ。

ただし中軍は左軍と右軍の他の部隊が包囲を完了するまで持ちこたえなければならず、大将の部隊の回りの守りが薄くなるというリスクがある。

隙が多い為、完勝するか完敗するか極端な結果になりやすい布陣である。

「・・・そうだな。我らは『偃月の陣』で敵を破るぞ」

偃月の陣とは軍勢を『Λ』のように展開させ、大将を先陣に切り込む布陣だ。今の劉備軍のように数が少なく、大将が関羽の様な勇将である場合には士気も上がって有効な布陣である。しかし大将が常に最前線に出る為に周囲が常に戦闘状態となり部隊の指揮が執れず、また討ち死にしやすいというリスクがある。

(最悪私が死んでも、星だけ逃がす事が出来れば―――)

関羽は悲壮な決意を胸に秘めて圧倒的な大軍に立ち向かう。

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「チッ・・・さすがは関羽と趙雲率いる軍というわけか!」

敵軍は舞人の予想通り偃月の陣を展開させ、正面突破を図ってきた。舞人率いる本隊は両翼部隊が敵軍を包囲するまで持ちこたえなければならないのだが―――

「5万の軍が、3千の敵に押されるとはな・・・」

本陣で床机に腰掛けていた舞人だったが、7段に備えた自分の部隊5万のうち5段が破られた時点ですでに指揮を執る場を馬上に移していた。

「申し上げます!6段も突破されました!」

「包囲はまだ整わないのか!」

「いまだ、整いませぬ!」

叫ぶような舞人の問い掛けに、伝令兵も怒鳴る様に返す。各部隊の大将を欠き、錬度が少々下がっているせいか動きが鈍い。

「本隊打って出るぞ!俺に続け!」

舞人率いる本隊7千余が関羽・趙雲率いる劉備軍3千に突撃を敢行した。

(ここで最低どっちかの身柄を押さえられなかったら―――詠にどやされるな)

大将軍という身分上、軍師に怒られるのは避けたい舞人だった。

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「はぁ・・・はぁ・・・星、無事か・・・」

「・・・なんとかな・・・」

織田本隊と戦闘を開始した関羽と趙雲であったが2人はさすがに4万余の敵軍を突破してきたせいか、肩で息をしている。3千いた兵もすでに半数以上が討たれていた。さらに織田軍は牙門旗が揚がる本隊7千を率いた舞人が戦線に投入され、関羽と趙雲に蹴散らされた敵兵達も次々と彼女らの隊の背後に迫ってくる。敵左右両軍がこちらの包囲をほぼ完了してしまっている。

まさに絶体絶命―――

「星!」

覚悟を決めて関羽は趙雲を呼ばわった。

「なんだ、あい―――」

ドカッ!

「うわぁっ!?」

関羽は趙雲の馬の尻を蹴り、彼女の馬を比較的敵の包囲が薄い方に向けて狂奔させる。さらに関羽は趙雲隊の兵に後を追うよう命じた。

(これでいい)

走り去っていく趙雲の後ろ姿を見送って、関羽はうなづいた。

(私たち2人が虜になるより1人だけでも桃香様のもとに戻って再起の力になってくれれば―――)

その関羽に向かって、捕縛用の鍵縄が襲いかかり―――

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捕縛された関羽は、本陣に連行されて敵軍総大将・織田舞人に引見された。舞人が初めて兵に連行されて天幕に入ってきた彼女を見た時の感想は「美しい」の一言に尽きる。

(華琳が欲しがるのも分かる)

彼女の立ち振る舞いの一つ一つが美しい。膝をつかされてこちらを睨みつけてくるその不屈の闘志が宿った黒い瞳もまるで宝石のようだ。

「・・・殺せ。私は閣下に仕える気はない」

「いきなり物騒だなおい」

開口一番関羽から出た「殺せ」の単語に苦笑する舞人。彼は彼女に歩み寄り―――

パンッ

彼女の頬を、平手打ちした。

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「関羽」

舞人はざわめく諸将を追い出して、呆然とこちらを見上げる関羽を冷たく見据える。

「お前は劉備と張飛とともに桃園で生死を共にすると誓ったと聞く」

劉備・関羽・張飛の3人は現在の軍の根幹となった義勇軍結成の前に、桃園で義姉妹の契りを交わし、誓いを立てたという。

曰く『我ら三人、姓は違えど姉妹(きょうだい)の契りを結びしからは、心を同じくして助け合い、困窮する者たちを救わん。上は国家に報い、下は民を安んずる事を誓う。同年、同月、同日に生まれる事を得ずとも、願わくば同年、同月、同日に死せん事を』

桃園の誓いと呼ばれる彼女らの決起は、劉備達が有名になるにつれて大陸中の民たちにも知られていたのだ。

「関羽、お前はこの誓いに背いて自ら俺に命を断たせようとしたのか?―――答えろ関雲長!」

「っ!」

舞人の落雷の如き叱責に、一時は死を覚悟していたはずの関羽は身を縮ませる。しかし、反論すべき事はあった。

「誓いに背く気は毛頭ない!だが―――」

「なら」

続けようとした関羽を遮り、舞人は彼女を戒める縄を解く。

「漢に、仕えないか」

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―――答は今出さなくてもいい―――

劉備への思慕と忠誠、そして捕らえた自分に漢王朝のもとで志を遂げる場を与えてくれると言ってくれた舞人の間で悩む自分に彼は時間を与えてくれた。

捕虜と言う立場上、本陣に定めた小沛城の牢に幽閉された関羽は思う。

(私たちは今まで、織田殿や曹操の魏を『劉協陛下を操る賊徒』だと思っていた)

しかし―――それは本当なのだろうか?少なくとも自分が会った織田舞人は悪い人間には思わなかった。

ならば―――曹操も?

(見定めてみるのも、悪くはないのかもしれない・・・だが・・・)

そこで脳裏に浮かぶのは義姉妹や苦楽を共にした仲間たち。劉備と敵対する漢に仕えるのならば、いつかは彼女たちと戦う時も来るだろう。その時に、自分は―――

「悩んでるな、関羽」

「っ!お、織田殿・・・?」

思い悩む関羽の前に料理が乗った盆を持って大将軍・織田舞人が現れた。彼は人好きのする笑みを浮かべて盆を掲げて見せる。

「メシ持ってきたぞ。一緒に食べないか?」

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「劉備は荊州に逃げ切ったぞ」

「そうですか・・・」

食事を食べ終わったころ、舞人が劉備の行方を告げた。それに対して関羽は安堵の表情を浮かべる。

「なかでも趙雲と張飛の活躍はすごかったそうだぜ?長坂で魏軍を2人で足止めしたとか」

舞人は食事中も話しかけてきて、関羽を飽きさせなかった。

許昌の街の事でこちらの興味を惹き、部下たちの失敗談で笑わせてこの狭い牢内の食事会を楽しませてくれた。

「劉備と戦った時、自分はどうすればいいのだろう―――ってなことを考えていたんだろう?」

「・・・分かるのですか?」

「お前さんが悩んでいる事なんて、それくらいしか思い浮かばないよ。そこでこんな提案をしてみようと思うんだけど―――」

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舞人の提案は関羽の予想の遥か上をいくものだった。

―漢に仕えてみんなが納得いくような軍功を挙げたら、劉備のもとに帰ってもいい―

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次回以降予告

 

劉備を破り、軍神を従えた舞人。

「私の事は愛紗とお呼びください」

「曹真と申します。師匠、これからよろしくお願いいたします」

新たな仲間、新たな弟子。

この平穏な日々が、続けばいいのだが―――

「申し上げます!幽州にて袁術を首魁に黄巾党の残党が挙兵!その数20万と思われます!」

復権を志す邪心ある者たちによって、再び破られる平穏。

「夏候淵様負傷!討伐軍、大敗を喫しました!」

「おのれ・・・!秋蘭を傷つけた者たちに鉄槌を下してくれる!」

「奴らを滅ぼすわよ、舞人」

妹の、信頼する腹心の負傷に姉は、主君は激怒する。

皆の背後を守るため、呉から奪った合肥の地で武神は踊る。

「張文遠推参や!ウチが孫呉の息の根を止めたる!」

「蓮華様、魏軍の朝駆けです!お逃げください」

そして―――

「奴らには、地獄を見てもらおう」

幽州が炎に包まれ、諸侯は戦慄する―――

 

怒れる紅竜の紅蓮の炎が、邪心を焼き尽くすのか―――

真・恋姫無双紅竜王伝煉獄編

 

お楽しみに。

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あとがき

今回で激闘編はおしまいです。前のページの予告通り次回から『煉獄編』を開始します。

次回以降予告と銘打ってはいますが、これの通りいかないかもしれないのでご了承ください。

煉獄編からは合戦の舞台を幽州に移します。

・・・この作品、合戦シーンがかなり多いですがこれってどうなんでしょうか・・・?

説明
激闘編最終話の14話です。
最近は暖かくなったり寒くなったり気候が変動していますが、風邪をひかないようにがんばっていきましょう!
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コメント
愛紗の活躍に期待します。(ブックマン)
合戦シーンは別に悪くはないです。ただページが短すぎるのを何とかしてほしいです(車窓)
おお、此れはもしかすると関羽千里行フラグか?!顔良、文醜を切り(は、し無いだろうから倒して)本当なら魏から、の所を漢から五関抜き。で有れば良いなぁ・・・ 次作期待(クォーツ)
執筆お疲れ様です。  劉備軍は理想っていう名の欲望に囚われてますね〜  この後の展開が楽しみです。  予告を見る限り舞人活躍の予感!?(狩人)
ここで愛紗を通じて何も分かっていない桃香にホントウのことを教えてあげればいいと思いますね。ただそれでもどうするのやら…(shotomain)
お〜次の更新が気になるなぁ。 劉備軍は良くも悪くも頭が固いからねぇ・・・・理想を追いすぎて盲目になりすぎてる。(峠崎丈二)
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