輪・恋姫†無双 五話 |
愛紗と鈴々、朱里とともに峡間まで引き下がる。
散々やられた鬱憤を晴らそうとでもしているのか、黄巾党は面白いようについてくる。
峡間のなかで少し道幅が広くなっているところの左に桃香が、右に雛里が兵に指示を出すタイミングをはかっている。
そして祐一が通り過ぎたとほぼ同時に、
「今です!」
「おおおぉぉぉーー!!!」
雛里の声にはじかれたように黄巾党に左右から義勇兵が突進していった。
数の利が出ない道幅の狭い場所。むしろ簡単に退却できないぶんだけ黄巾党の方が不利な地形である。
そして劉備軍は少しではあるが広い場所に待機し、敵より総兵数が少ないのに有利に戦い、その上
「突撃、粉砕、勝利なのだー!」
「おおぉー!」
鈴々、愛紗という将として文句の付けようもないほどの豪傑がいるのだ。
黄巾党はさしたる時間もかからず劣勢に追い込まれた。
その中で一人、異質な人間。
初撃を受け止めた時、敵兵の腕を切り飛ばすことばかりをしていた男は、こんどこそ敵兵の命を狙って戦っていた。
その標的は、どんなに些細なものであれ、傷を負っているもの。
肩から血が流れているだけのものから既に片腕がないものまで。そしてその中から未だに戦意を持っているものだけを選んで。
愛紗ほど素早い剣撃ではなく、鈴々ほど重たい一撃ではないが、迫る斬撃をいなし、かわし、そして確実に切り伏せていく。
そして付近に条件に合うものがいなければ、またも狙いを手首に絞り無力化していく。
二人の将と一人の兵に散々に蹴散らされ、頼みの兵数も有利を作り出せないことをさとるや、黄巾党は逃走を始めたが、
「咆哮せよ!剣を振るえ!自らの手で平和を取り戻すのだ!」
「突撃、粉砕、勝利なのだーーーーっ!!」
義勇兵達が一塊となり追撃をかける。
「追撃……殲滅戦か……」
祐一は鬼丸を納め、本陣へと歩いて戻る。
今となっては虐殺ということさえできるほど一方的な戦局のなか、義勇兵の怒号と黄巾党の断末魔の声を背後に残して。
身体強化の反動で、足は走ることが億劫に感じる程度に疲労していた。
でも、それとは関係なく、彼はこの追撃には参加しない。あの黄巾党にはもう剣を握る覚悟を持った人間は居ないし、自分が何かしなくては犠牲が増えることなんてことも、もうない。
この連中相手の追撃は、殺すことより生き残ることこそ重要だ。武器を捨て、もう戦場になんて居たくないと泣き叫びながら逃げて行ったのを見ればそう確信できる。
増える犠牲があるとすれば、将が自分の兵の死を気にかけないようなやつの場合か、兵の中の個人的な復讐のために剣を取った人間くらいだろう。
前者はありえないと、彼女らを見ていて思う。そして、
「仇討なら好きにやれ。」
そう呟いて、それっきり。人の思いを曲げようとすることがどれほど無駄で、どれほどの結果を引き起こすのか、彼は知っているのだから。
「お頭……」
祐一が後ろからかけられた声に振り向くと、そこに居たのは太郎次郎三郎だった。
「あの…あっし達…」
何かを言おうとして、悩む。
「……義勇兵として黄巾党と対峙して、何が、怖かった?」
先回りして質問されたことに驚き、顔を見合わせ、三郎から順に口を開く。
「俺は、自分が怖くなりました。追撃の命令が出されたときに、さっきまで自分が人を殺していたことを思い返して…足が動かなくなったんです…」
「おでは…人が死ぬのが怖かったんだな。一緒に戦ってた人が目の前で死んだのに、何もできないことが、すごく悔しかったんだな…」
「あっしは、黄巾党が怖かったです。お頭に会わなければ自分はあんな風になっていたんじゃないかと思うと…自分で自分を切ってるように感じて…」
誰一人死地にいたことが怖かったとは答えず、誰一人義勇軍が怖かったとも答えなかった。
祐一は、この言葉に満足した。
剣を友を守るために振るう。それはすなわち、戦場において誰かが死ぬのは仕方ないなどという諦めを捨てること。
傷つける相手の中に自分と同じものを見つる。それはすなわち、獣を殺しているだけと自らを騙すことを許さないということ。
相手は自分を殺そうとして剣を振るう。それはすなわち、切り伏せようとする相手も生きるためにあがく、自分と同じ存在だと認めること。
三人の恐怖は、祐一が求めた覚悟を持った証である。
その恐怖に勝てば、兵として前に進める。
その恐怖に屈すれば、民として優しい人になれる。
どちらを選んでも祐一はねぎらってやるつもりだ。
「お前たちはどうしたいんだ?どうしたくて剣を握ったんだ?」
だけど、聞く。自分勝手に、この三人には恐怖に勝っていて欲しかったから。
「本当に怖くなったんなら、別に最前線に立って剣を振るわなくたっていいんだ。やれることなんて、たくさんある。」
だけど、言う。追い詰められたなんて思ってほしくないから。
「胸を張って答えを言えるようになったら、また必ず来てくれ。ま、どっちを選んでも俺は応援してやるし、忘れないでいてやるさ。」
答えは、後でいい。今はひとまず、戦いが終わったんだから。
「「「はい…」」」
返事をくれたことに、笑顔を浮かべた祐一であった。
黄巾党の追撃に出て行ったものが帰ってきた。
人数が減ったようには見えないがきっとわからないだけで確実に何人かは帰ってきてないのだろうと思い、そのことに恐怖した。
自分も、誰にも気づかれることなく死ぬことになるのだろうか、と。
誰も、自分が死んだことに気づいてくれないんじゃないか、と。
そんな恐怖に震えて隣を見ると、同じように震えていた兄弟が、――…多少の怯えが残りながらも…――何かを決意したような眼をしていた。
どっちに決めたのだろう。彼は、自分はもう少し考える時間が欲しいと思いながら陣の入り口で、傍目に見る限りはぼんやりとしていた。
最初に気づいたのは誰だったか。わずかに砂塵が舞っていることに気がついたのは。
それは激しいものではなく、戦闘中とも、戦闘を仕掛けようとしているとも思わなかった。
そして、南方から「曹」と書かれた旗を掲げた、正規兵らしき集団が向かってきていた。
「官軍か?俺たちに一体なんの用なんだ?」
「俺たちの手柄を横取りする気なんじゃ?」
憶測だけが先行して連絡に走らない義勇兵たち。未だ役割分担のはっきりしていない義勇兵だからか、誰かがもう行っていると思ったのだろうか。
とりあえず自分が連絡に行こうとしたところ、軍はとまり、数人がこちらに向かって来ていることに気付いた。
そして、本陣へ向かおうとしていたその足は止まる。いつの間にか、周囲のざわめきも消えていた。
青い髪をさほど伸ばすことなく切りそろえた女性を左に、フードを被った少女を右に。そして、純白の衣を纏った男を背後に従えた、金髪の少女を目にした瞬間に。
相手が黄巾党であったなら、きっと同じ相手を前にしていたとしても違う対応をとれただろう。
しかし、自分たち義勇軍の敵ではないと思っているにしても、一つの言葉も使わずとも感じ取れるほどの、前後不覚になってしまうほどの何かがその少女にはあった。
そして、その少女は口を開く。
「我が名は曹孟徳。黄巾党を討伐するために軍を率いて転戦しているものよ。あなたたち義勇軍の指揮官と会いたいのだけれど、誰か取り次いでくれるかしら?」
答えは聞かずともわかる、とでも言わんばかりの不敵な笑みを浮かべながら。
相沢祐一
「“11eyes”で出てきた陰陽師の草壁家」の分家である相沢家の長男。
相沢家は草壁家専属忍者みたいな一族。
氣を操ることに関しては完全な独学。身体強化などをすることができるが、凪みたく氣弾は飛ばせないし、力加減とかが苦手。
身体強化はオンオフを使い分けることで長時間持たせている。
陰陽の術は氣を操ることが必須であるため苦手であるが幾つか使える。そのうちの一つが「牡籥かけ闔す〜」のあれ。でも多分、作中ではもう使わない。
陰陽術のなかで使用可能なものは他にもあるが、実戦で使えるほどではない。
現在、鬼丸国綱という、童子切りとならぶ天下五刀の一振りを所有。
鬼丸は鞘に収まっていればただの日本刀。鞘から抜けば氣の使用を補佐する効果がある。呪を紡ぐことでとある力を発揮するが、祐一はあまり使いたがらない。
「殺される覚悟の無いやつが、誰かを殺してはいけない。切られる覚悟の無いやつを殺すべきではない」という信念をもつ。
唐周 真名:太郎
唐権 真名:次郎
唐香 真名:三郎
上からチビ、デク、アニキ。魏ルートで太平妖術の書を盗んでいった三人とは別人。顔も普通の人が別人と判別できる程度の違いは、ちゃんとある。
三郎が一番頭が回り、太郎次郎からアニキと呼ばれている。
次郎が実は一番手先が器用。
太郎が一番身体能力が高い。
村が黄巾党につぶされ、食うに困って黄巾党のまねごとを始めた。
刃物で脅して金になるものを奪い取っていたが、わずか七日目四人目で祐一と出会い、洗礼を受けて回心した。
旅人を殺したとか、奴隷に売り飛ばしたみたいなことをしたことはなかった。
説明 | ||
五話投稿です。 今回は劉備軍vs黄巾党部隊の決着。 最後のページは、決定している中で今言える範囲の祐一と太次三郎の設定です。 |
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コメント | ||
レイン様 太次三郎の三人組には、一応、大事な役目があるのでそれまでしばらく待っててください。(柏葉端) ある意味、合理的かつ冷酷に見えますが、残酷には慣れない祐一君。人の本質をしっかり理解していないと難しい想いですね。…まぁ、だから主人公やれるんですけど(笑)改心出来た三人組の今後にも期待しましょう。(レイン) 自由人様 ご報告ありがとうございます。今回から三〜四話は祐一君が誰かに覚悟を問う話が中心になってしまいそうで……読んでくださる方を飽きさせないようにがんばります。(柏葉端) 黄巾党の殲滅と唐三兄弟の気持ちの変化を見せる形となりましたね。これが将への昇格見込みかモブキャラへの引き下げとなるかの分岐点wそして覚悟を敵味方に重視する祐一君と天の御遣いの一刀君の邂逅はこの外史にどんな影響を与える事になるのだろうか。 御報告 3p:曹猛徳→曹孟徳 ですね。(自由人) |
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