Sky Fantasia(スカイ・ファンタジア)五巻の3
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三章 天傘

 

 

 八月十八日

 わたしは、朝から一つのお店に訪れていた。

「すみません。朝から押しかけて」

「いやいや、約束してたからね。気にすることはないよ」

そう言うと、男性はわたしに微笑み掛けてくれた。

 私が訪れているお店アトリエ・アデラード≠ナは、食器やアクセサリーなど、多く小物を扱っている。このお店の店主、アデラードさんは、これらの商品を変わった方法で作っている。

《錬金術》

 これは、物質を他の物質に作り変える技術で、魔力を使いそれは行われている。

 有名なもので、『石ころを金にかける』そんな技術である。

 また、アデラードさんは、錬金術がとても詳しく。わたしは、学園帰りに立ち寄っては、いろいろなお話を聞かせてもらっている。

 そこで、わたしは、アデラードさんに今回のことをお願いしたのだ。

「必要な物は、揃えられたのかい?」

「はい。これです」

わたしは、持っていた紙袋を、アデラードさんに渡した。アデラードさんは、わたしから紙袋を受け取ると、中身を確認する。

 そして、一通り確認すると、驚いた表情をわたしに向けてきた。

「すごいね。よくこんな短時間に、これだけの物が揃えられたものだ」

「親友のおかげです」

その言葉に、わたしは笑みを浮かべて答えた。すると、アデラードさんの表情は、少しさみしい微笑みに代わる。

「うらやましいね。その子は、とても素敵な子なんだろう、ね」

「え?」

わたしは、その表情に驚いた。

「それじゃあ、こっちへどうぞ」

でも、すぐに、アデラードさんの表情は、いつもの笑みに戻る。

(見間違いかな)

だがら、すぐに気にしないことにした。

 アデラードさんは、紙袋を返してくれると店の奥に案内してくれた。

 奥に入ると、大きな机の上に多くの道具が無造作に置かれている空間が広がっていた。

 その部屋には、そこら中に本棚が置かれており。その棚には、びっしりと本が置かれている。本はいろんな色があり、書かれている文字もまちまちである。

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 だけど、特に目に留まったのは、部屋の窪み(煙突と繋がっている)に置かれている大きな釜だ。

 それは、わたしの身長ほどあり、《錬金釜》と呼ばれる錬金術には欠かせないものである。

 この中に材料を入れることで、作りたい物が作ることができる。

 でも、そう簡単に作れるものではない。

 少しでも、分量を間違えると、別の物が、悪くてドロドロのなんとも言えない物体ができてしまう可能性もある。

 アデラードさんは、エプロンをつけて準備をすると、袖を捲る。

「それじゃあ、始めようか」

「はい!」

わたしもエプロンを着けると、バンダナで髪の毛をまとめた。

 よし! がんばるぞ!

 

 それから二日間、わたしは、アデラードさんのところに通い、朝から夕方まで、多くのことを教わりながら頑張った。

 そして、ついに目的の物を作ることができた。

「で、できたー」

わたしは、額に浮かぶ汗を腕で拭いながら、自然と歓喜の声が漏れた。

「よく頑張りましたね。ですが、ここまで早くできるとは、僕も驚きです」

アデラードさんは、微笑みながら称賛してくれた。

「いいえ。アデラードさんの指導のおかげです。本当にありがとうございます」

わたしは、改めてお礼を言うと、頭を深く下げた。

 すると、アデラードさんは、わたしの頭の上に手を乗せて、やさしく撫でてくれた。

「そんなことはありません。あなたの勤勉さと、誰かを想う気持ちが成したことですよ」

わたしは少し頭をあげると、アデラードさんの顔には、やさしく微笑んでくれていた。

 その笑みに、わたしも照れながら笑みを返す。

『♪♪♪』

すると、急にわたしの携帯の着信音が鳴りだした。

 わたしは、すぐにポケットから携帯を取り出すと、着信ボタンを押す。

「はい。もしもし…」

『俺だけど、叔母さん、『今日会えないか』って言ってるけど…今から大丈夫か?』

そこからは、サブ君が聞こえてきた。

 サブ君、グッドタイミング!

 電話の内容は、この間、わたしがお願いしたことだった。

「うん大丈夫。今からそっちに向かうね」

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『OK。じゃあ、叔母さんに伝えとく』

「うん、お願いね」

サブ君との会話が終わると、わたしは携帯をしまう。

「ハードスケジュールみたいだね」

アデラードさんの方へ向き直ると、苦笑いを浮かべていた。

 わたしも、つられるように笑みを浮かべる。

「しょうがありませんよ。無理言ってお願いしているんですから」

「無理しないようにね。ここは、僕が片づけておくから、もう行きな」

「ですが―――」

「頑張るんだよ」

アデラードさんは、わたしが言葉を遮ると、微笑みかけてきた。少しの間、アデラードさんの顔を見つめるけど、引いてくれそうにないことを感じ。

「…はい!」

わたしは、アデラードさんの好意を受け取った。わたしは、深々とお辞儀をすると、作った物を紙袋に詰め、急いでサクヤさんの家に向かう。

 お店を出たけどそのまま行かず、わたしは振り返ると、

(アデラードさん、本当にありがとうございました)

胸の中でもう一度お礼を言った。

 そして、走りだす。

 

 夕方、サクヤさんの家の前

 駅から走ったわたしは、門の呼び鈴を鳴らすと、その場で息を整える。

 服が汗で張り付いて気持ち悪い。けど、今は我慢だ。

 少しして門が開く。すると、そこからサブ君が現れた。

「よう、早かったな…って、走ってきたのか?」

「うん…はぁ……待たせ…る……はぁ……と悪いから」

「…まあ、入れよ。叔母さんは居るから」

と少し呆れた感じで言うと、サブ君は案内してくれた。

 サブ君と二人で、母屋の方を歩いていると、一つの部屋の前まで来た。

「ダイアナさん、リリを連れて来ました」

『どうぞ』

サブ君が呼びかけに、襖の向こうから返事が返ってきた。

「じゃあ、がんばれよ」

そう言い残すと、サブ君はいってしまった。

「ありがとう」

わたしは、その背中を見送った。

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 襖の方へ視線を戻すと、わたしは、

「失礼します」

と声をかけ、襖をあけた。

 部屋の中を見ると、一番に、多くの和服が壁に掛けられているのが目に入った。

 そして、机の前には、透き通った長い水色の髪に、着物を着た女性が座っている。

 すると、ダイアナさんのエメラルドのようなきれいな瞳が、わたしの方を向く。

 そのすごい存在感に、わたしの緊張が一気にあがる。

「こんばんは。リリちゃん」

「は、はい、こんばんは」

わたしは、あわてて返事を返す。

 わたしが緊張しているのを読み取ったのか、ダイアナさんは、微笑みかけてくれる。

 すると、自然と緊張が和らいだ。

「私に『服を作る指導を受けたい』と伺っているのだけど…」

「はい」

そう答えると、真剣に、ダイアナさんの目を見つめた。

 すると、ダイアナさんも真剣な瞳で、わたしの目を見つめ返してくる。

 しばらくの間、部屋は沈黙した。

 そうしていると、急にダイアナさんの口から笑みがこぼれた。

「判りました。私で良ければ力になります」

「へぇ? …は、はい! お願いします!」

わたしは、そのお返事に深々とお辞儀をした。

 この和服が似合う女性、ダイアナ・シグムンドさんは、服のデザイナーで多くの世界で活躍している女性である。

 主に、和服を扱っているらしいのだけど、お洋服の技術も持っていると聞いたので、今回、わたしは、お洋服作りの指導をお願いしたのだ。

「それで、どのような服が作りたいのですか?」

「これなんですが…」

そう言われ、わたしは、持っていた鞄から、一枚の紙をダイアナさんに手渡した。

 ダイアナさんは、その紙を受け取ってくれると、真剣に見始める。

 しかし、時間が経つにつれ、ダイアナさんの表情が曇っていった。

(もしかして、難しいのかな?)

そう思い始めたとき、ダイアナさんの視線があがった。

 そこから出た言葉は、

「ごめんなさい、リリさん。この絵、少し『斬新』すぎて、私には理解しにくい部分があるみたい。もう少し、詳しく細くして欲しいわ」

だった。顔には苦笑いを浮かべて。

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 …はっきり、下手と言ってください!

 その瞬間、緊張がとけ、ほっとする。すると、自然と安堵の笑みが漏れてきた。

 ここから、私の服作りが始まった。

 絵が下手でも、頑張れができるんです!

 誰か判らない人に、一応言い訳しておく。

 

 八月二十四日 昼間

 この日、自室にこもって服の最終作業をしていた。

 そしてついに、

「できたー!」

デザインした通りの、服を作ることができた。

 この四日間、ダイアナさんの指導を受けながら製作したおかげで、自分が納得する、いや想像以上のものを作ることができた。

 わたしは、作った服を目の前で広げる。

 ちなみに、この服はただの服ではない。戦闘のときに、身を守るための《防護服》である。

形は黒のロングコート。

 この形にしたのは、リョウ君に、一番似合うと思ったからである。

 でも、すべての作業が終わったわけではない。

 わたしは、小さなナイフを取り出すと、そのまま刃を左人差し指に押し当てる。

 もちろん、気が狂った訳ではない。

 これは我が家に伝わる《契約》の方法だ。

『血で特殊な魔法陣(ルーン)を鎧に描き、契約の呪文を詠唱することで、その鎧に特殊な力をつけることができる』

これが、お母さんから貰った本に書かれていたことだ。

 わたしは、本に描かれている魔法陣を服の内側に描く。

「あとは、呪文を詠唱するだけ―――」

「♪♪♪」

「ん?」

 急に、机の上に置いていた携帯の着信音が部屋に鳴り響いた。

 ディスプレイには、お姉ちゃん≠ニ表示されている。

 わたしは、すぐに通話ボタンを押した。

「お姉ちゃん、どうしたの?」

『急なのですが。明日、海にいっしょに行きませんか?』

「…へぇ?」

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唐突なことに、わたしは頭が付いていかなかった。

 

 青い空

 白い砂浜

 そして、青い海

 今、わたしたちは、西地区の端に位置する海に来ている。

 昨日のお姉ちゃんの電話の内容は、有給が取れたから、『みんなで海に遊びに行こう』ということだった。電話をもらったわたしは、すぐにみんなに電話で連絡した。すると、運がいいことに、みんなその日が空いていて、夏休み最後の思い出作りには、最高のセッティングができたのだ。

「リョウく〜ん! こっちおいでよ! 水が気持ちいいよ!」

わたしは、浜辺に建てているパラソル下で座っている男の子に、手を振った。

「気にせず遊べ。俺はいいから」

リョウ君は、手を上げて『気にするな』という素振りを返してくると、シートに寝転がってしまった。

 わたしたちが来ている西地区は、ミズガルズの観光地となっている地区である。だから、この時期は、いろんな世界の人達が訪れているので、何所もとても込んでいる。

宿を取るのも一苦労。

 しかし、今回、わたしたちは、お母さんの知り合いが営んでいる宿屋の部屋を空けてもらったらしいのだ。

「リリ! そんな年寄りくさい野郎ほっといて、ビーチバレーしようぜ。そこにコートあるからよ」

 浜辺でビーチボールを持っているリニアは、浜辺に作られているコートを指さしている。

 コートにはサブ君と、ジーク君がもう、準備していた。

「うん! 今行く!」

そうだ、今はおもいっきり遊ぼう。

 このあと、一仕事があるんだから…

 

 夜、海で一日中遊んだわたしは、お夕飯をとったあと、旅館の部屋でゆっくり休んでいた。

「お姉ちゃん、どこ行くの?」

「露天風呂ですが。リリも行きます」

そうしていると、お姉ちゃんが小さなバッグを持って部屋から出て行こうとしたので、わたしは、声をかけた。

「オレも付き合うぜ。…いや、その前に寄るところがあるから、先に行っててくれ」

「? うん、判ったけど…」

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わたしは、少し気になったけど、そこでリニアと別れ、先にお姉ちゃんとお風呂に入ることにした。

 

「うわぁー。すごーい」

脱衣じゃから出ると、そこには、大きな世界が待っていた。

 木々の間から、さっきまでの遊んでいた海と、空に輝く一面の星がマッチしている。

 それらは、とても感動的な景色だった。

 さすが、露天風呂を売りにするだけのことはある。

 お湯に浸かる前に、体を洗うと、遅れてリニアがやってきた。

 わたしは、洗い終えると、温泉に体を浸けた。

「っ〜〜〜! しみる〜〜」

「日焼け止め塗ったんだけどなぁ。やっぱり、少しは焼けちまったなぁ」

昼間、炎天下の中、少しはしゃぎすぎたせいか、お湯がとても沁みた。

 わたしは、そのまま、さっきの景色を眺める。

 そうしていると、すぐに二人もお風呂に入ってきた。

 そして、お姉ちゃんもリニアも、静かにその景色を眺めている。

「……そういえば、お姉ちゃんたち、急にいなくなったけど、なにしてたの?」

わたしは夕方、帰り支度をしようと荷物の置いてある場所に戻ると、リョウ君とお姉ちゃんの姿がなかった。しばらくして二人一緒に帰ってきたのだが、少し気になっていた。

 すると、お姉ちゃんはすぐには答えず、考える仕草をすると、

「内緒」

と微笑みかけた。わたしはその答えの意味が判らず困っていると、横にいたリニアが、不敵な笑みを浮かべた。

「リリ。そういうこと訊くのは野暮だぜぇ」

「どうして?」

「テメェ、ルナさんがどっから出てきたか、思い出してみろよぉ」

「? たしか、岩場の方から―――」

「そんな所に居たってことは、人に見られたくねぇことをしてたってことだろ」

「見られたくないこと、て?」

「男と女が物陰に隠れてやることっていったらあれしかねぇだろ?」

すると、リニアは口の端がつり上がった。

 岩場……物陰……男女……っ!

 わたしはリニアの言っている意味に気付くと、顔が沸騰するほど熱くなった。そして、視線をリニアからお姉ちゃんにズラした。

 それに気付いたお姉ちゃんは、わたしに微笑みかけてきた。

「リョウさん、一生懸命頑張りました、よ」

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「いったい、何を頑張ったの!」

「だから野暮だって」

リニアは声を出して笑い出した。

 わたしは二人のせいで、のぼせてきたので、お湯から立ち上がった。

 だけど、あることを思い出して、すぐにお湯に浸かり直した。

「どうかしたか?」

リニアは怪訝な顔をした。

「だって、前みたいなことがあったら……」

わたしは周りを見渡した。誰もいないような気もするが……

「まえ……あぁ、大丈夫だ。今回はいねぇよ」

「何で判るの?」

「部屋に行けば判る」

リニアは言い残すと、お湯から出て、脱衣所に歩いていった。

 

 夜、俺は浜辺の岩場で、ギターの練習をしていた。

 

『なぜこんなところしているか?』は、誰もいないこの空間だと、人目を気にせず集中できるからだ。

 このギターの練習は、魔連の休み時間や暇な時間など、空いてる時間を使ってやっている。そのおかげで、なんとかコードを覚えることができ、ボロボロだが一曲を弾けるところまで扱ぎつけるところまできた。

 だが、まだまだ、みんなと合わせて弾くなんて、到底できない。

「あ、また間違えた」

こんなことで間に合うのか? 今はそんな疑問が浮かぶばかりだ。

 だが、

「…もう一度」

まあ、なんとかなるだろう、と自分に言い聞かせて続けている。

「……ずっとそこに居られると、気になるんだけど」

俺は、後ろにいる奴に声をかけると、手を止めて振り返った。

 岩の下にいるのは、リリだった。

 来たんなら、すぐに声掛ければいいのに

「あっ……ご、ごめん。邪魔しちゃった?」

「別にいい。そろそろ戻るつもりだったから」

俺は傍らに置いていた刀を拾い上げた。

「待って! 少し話を―――」

すると、急にリリが制止を求めてきた。俺は驚き、動きを止める。

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 なんで、あいつ焦ってんだ?

「別に旅館に帰ってでいいだろ? それとも急ぎの用なのか?」

「えーと。その……」

俺の問いに、リリは何か言いたそうな顔で、歯切れの悪い答えを言い、もじもじしている。

 

 わたしは、次の言葉が見つからなかった。

 

 浜辺に沈黙が起きる。

 すると、不意にリョウ君は、持っていたギターを岩の上に置き、わたしの方へ手を差し出した。

「とりあえず上るか?」

「え?」

急なことに少し驚いたけど、すぐにわたしは、差し出された手をつかんだ。

 リョウ君は、握り返してくると、そのまま岩の上まで引き上げてくれた。

 岩の上に乗ると、わたしは、そこから見える景色に目を疑った。

 海がお風呂で見たのとは、また違った顔を見せていたからである。

 暗い海に、月の光が反射しており、怖さと儚さが混ざった感じで、とても神秘的だった。

 横を見ると、同じようにリョウ君も静かに、海を見つめている。

「……こうして二人きりになるのも久しぶりだね」

「そういやー、バイトやバンドの練習やらで、忙しかったからなー。こうして会うのも久しぶりになる、か」

その言葉に、前から引っかかっていた、疑問をぶつけてみることにした。

「そういえば、急になんでバイト始めたの?」

その瞬間、リョウ君は驚いた表情を浮かべた。

「そりゃあ…そう、あれだ。刀の借金で―――」

「この前、『貯金でなんとかなった』って言ってなかった?」

わたしは、指摘すると、リョウ君は言葉を詰まらせた。

 黙っているリョウ君を、わたしは訝しげに見る。

「で、話ってなんだ?」

「え? あー、はなし、話ね」

急に本題に戻され、わたしは驚きと緊張感が上がって、口籠ってしまった。

 いざ言おうと思うと、結構恥ずかしい。

 そんな様子を見ていた、リョウ君も変な勘違いをする。

「…トイレか?」

「ちがうよ!」

わたしは、突っ込むと、深呼吸をして、心を落ち着かせた。そして、持ってきた風呂敷を

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リョウ君の前に突き出す。

「これ!」

リョウ君は、一瞬訝しげな表情をするが、風呂敷を受け取ってくれた。

 そして、中に入っているコートを取り出す。

 わたしは、緊張でリョウ君の顔が見られず下を向いてしまう。

「リリ、これは?」

「その…この前、助けてくれたお礼と……遅くなったけど、誕生日……プレゼント」

「誕生日?」

すると、リョウ君は何かを思い出そうと、黙り込んだ。

 たぶん、忘れていたんだろうなー

「えっと、材料費が結構掛かって、お金が足りなくて、リニアに相談したらバイト教えてくれて、あと、色々調べて錬金術とか使うから製作時間が掛かって、それで―――」

「リリ、着ていいか?」

「え? う、うん」

いきなりの申し出に、びっくりしたけど、なんとか返答できた。

 わたしの返事を聞いたリョウ君は、すぐにコートの袖を通す。

 わたしは、その姿を見ていると、急にウニウニ動く影が、視野に入ってきた。

 暗闇で見辛かったので目を凝らす。

(…イカの足?)

 そして、それを辿っていく。

「っ!」

すると、そこには、大きなダイオウイカがいた。

 あまりの驚きに、声が出ない。

 すると、ダイオウイカは、わたしの方へ足を伸ばしてきた。

 いきなりのことで、足がすくんで動けない。

 そのとき、いきなり、リョウ君に突き飛ばされた。

 岩の下は砂浜になっており、おしりを打っただけで怪我することはなかった。すぐに、顔を上げたが、岩の上にリョウ君の姿はなかった。

 わたしは飛行(フライ)≠フ魔法を使って飛ぶと、急いで岩の上に上がり、下の海を覗き込んだ。

 昼間は澄んだ海も夜の闇で何も見えない。ダイオウイカも、海の中に逃げてしまい手が出ない。

 このままだとリョウ君が…

 嫌だ! そんなの

 わたしは諦めかけた心を必死に繋ぎ止めた。

 わたしは立ち上がり、海に飛び込もうと、

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『待ちなさい』

すると、いきなり誰かに呼び止められた。

「だ、だれ?」

『足元』

「え? …ギター?」

『あなた、こんなときにボケなくてもいいわよ』

……刀?

 わたしは、足元にあった刀をゆっくり拾い上げた。刀は思った以上に軽く持ち上がった。

 そして、わたしはマジマジと見つめた。

『人じゃないけど、あまりじろじろ見るのは、失礼よ』

「え、は、はい。すみません」

すると、鍔についている赤い石が光、話しかけてきた。

『私の名前はニア=Bこの刀のAIよ』

「AI? そんな―――」

ありえない、普通のAIはもっと機械的にしか告げないのに、こんなに意思を持って話せるわけない。わたしは誰かがこれを使って通信しているのかと思うと、

『ありえない? そうね、わたしは特殊なの。今は時間がないからこれだけしか言えないわ。いいわね?』

「は、はい」

『ありがとう。早速だけど、貴女、あのコートに契約のルーン≠ヘ刻んでいるの?』

「はい。でも、何でそれを?」

「でも、まだ起動が……」

『そうでしょう、ね。もし起動していたら、今頃、リョウは脱出しているわ』

表情は判らないけど声色が明らかに呆れているのが判る。

 弁明の余地がない

『大丈夫よ。今ならまだ間に合うわ』

「は、はい」

わたしは焦る気持ちを深呼吸で落ち着かせ、集中力を高めた。そして、足元に魔法陣を展開させる。

『……ありがとう』

「はい?」

『契約のルーンを使うほど大切に想ってくれているなんて、あの子も幸せね』

「あ、あの、その……」

『これからもあの子のこと、お願い』

「は、はい!」

とても優しい声色で告げるのを、わたしは慌てて答えた。耳が熱くなるのを感じるけど、今は呪文を詠唱することに集中。

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 儀式が始まると、一気に体温が上がる。

(熱い)

まるで、体が沸騰しているようだ。でも、そんなこと気にしている暇がない。

 わたしは、気にせず詠唱を続ける。

 唱え終わると、急に暗い海の底から、月色な光が放たれた。すると、海から大きな水しぶきが上がった。

「ゴホォ……ゲホ…ハァ……ハァ……」

「リョウ君!」

そこから、リョウ君が上がってきた。

 だけど、リョウ君はすぐに左手を上げる。

「よう。大丈夫か?」

こんなとき、なんで人の心配してるの!

「大丈夫かじゃないよ! 心配したんだよ!」

その言葉を聞いて、リョウ君は苦笑いを浮かべた。

 すると、ダイオウイカが大きな音を発てて、海から顔を出した。

「リリ! 刀をよこせ!」

それを見たリョウ君が、わたしに叫んでくる。

 すぐに、わたしは、持っていた刀をリョウ君に向かって投げた。

 リョウ君は刀を掴むと、

「ニア。一気にいくぞ!」

『了解』

と、ニアさんと掛け合うと海に潜った。

 わたしは、すぐに目の前のダイオウイカに視線を移す。

 そして、左手を軽く振り、魔法陣を足元に展開した。その瞬間、わたしの周りに九つの月色に光る玉が出現した。

 聖なる弾丸ホーリーショット

 準備ができると、ダイオウイカに向かって左手を突き出す。すると、九つの玉は一斉に、飛んでいった。

 的が大きいので、弾丸はすべて命中させることができた。

すると、ダイオウイカは、大きな鳴き声を上げながらよろける。

 その瞬間、海から大きな銀色の光が、飛び出すと、ダイオウイカにぶつかった。

 すごい高熱なのか、その光にぶつかったダイオウイカは、どんどん溶けていき、ついには海の水に混ざっていった。

 魔物を退治した喜びを、リョウ君と分かち合おうと、わたしは、すぐに海を覗き込んだ。

 しかし、いつまで経っても上がってこない。

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 わたしは、危険だと判断し、すぐに海に飛びこんだ。

 海の中は思ったよりも暗く、下が底なしのように感じられる。わたしは周りを見渡して必死にリョウ君を探した。すると、暗闇の中で赤い小さな光を見つけた。

 すぐにその光に近づく。そこには、リョウ君が沈んでいく中だった。

 意識がない。

 わたしは急いで近くまで行き、リョウ君の体をしっかりと抱えた。

 すると、抱えた体からは力が感じられない。

 わたしは急いで外を目指した。

 海から顔を出すと、深呼吸をして空気を吸い込こむ。そして、リョウ君を抱え、飛行(フライ)を使って岸まで移動した。

 岸に着地するとリョウ君の重みで倒れこんでしまった。

 だけど、そんなこと今関係ない。すぐにリョウ君の体を覗き込む。

 外傷はない、けど、息してない。

 どうしよう、こういうときは……

『落ち着きなさい! 水を飲んでる、わ。すぐに人工呼吸が必要よ』

焦りで頭が混乱し、パニックを起こしそうになったわたしに、リョウ君が握っていた刀、ニアさんが力強く発した。

「ニアさん、お願いします!」

すると、ニアさんは一瞬黙り込むと、貴女ねー、と明らかに呆れた声が返ってきた。

『何言ってるの。私が出来るわけないでしょ。私はただのAIよ。あなたがするのよ

リリ』

「え! わ、わたしですか?」

『当たり前でしょ。他に誰が居るのよ』

「で、でも……」

『困っている場合? 命が掛かってるのよ! 急ぎなさい!』

お願いですから、心の準備させてください!

 そんな心の叫びも、ニアさんに、届くことはなかった。

 

 意識が盛ると同時に、いきなり何かがせりあがってきた。

 

「ゲフォ ゲフォ ゲフォ…ここは?」

俺は目を開けると、星空が目に入ってきた。

 なんだか、頭に靄がかかっているようだ。

 なにも考える気にならない。

『少なくとも、天国ではないわ』

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俺の傍らから、機械音声が聞こえてきた。

 俺は、その声がする方へ首だけ動かす。

 すると、そこには、俺の刀が置かれていた。苦笑いを浮かべると、刀のAI、ニアに答える。

「そうだろうな。俺が、そんなところに行ける訳がねぇ」

『判っているじゃない。それより、お礼言いなさい。リリが助けてくれなかった。今頃、堕ちてたわよ』

そう言われ、俺は反対側に頭を動かした。

 少し離れたところでリリが座っていた。リリは俺と目が合った瞬間、なぜか、すぐに顔を逸らした。

 そして、その状態で、

「だ、大丈夫?」

と訊いてきた。俺は、そんな姿を訝しげに見る。

「お前が大丈夫か?」

そして、反射的にこの言葉が出た。

「う、うん」

すると、リリは歯切れの悪い返事をしてきた。

 俺は訳が判らず、なにがあったか、ニアに訊こうと視線を向ける。

 そしたら、ニアは、すべてを悟ったような口ぶりで答えてくる。

『色々あるのよ。今はそっとしておきなさい』

「はぁー」

ますます意味が判らなくなった。

(まあ、この話題はあまり、触れてはいけないんだろう)

そう思い、俺は考えるのをやめた。

 あー、眠い…あ、その前に。

「…この服、ありがと、な。これが無いと、ヤバかった」

「え? うん」

リリは、驚いた顔でこちらに振り向いた。だが、すぐにその顔に笑みが浮かんだ。

「…名前」

「え?」

「名前、あるのか?」

なんとなく浮かんだ疑問を、リリに訊いてみた。

 すると、リリは黙ってしまった。そして、少し間を空けて、答えてくれた。

「天笠(あまかさ)、天笠だよ。天災を防ぐ為の笠」

「天笠、いい名前だ…な」

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それを聞くと、一気に睡魔が襲ってきた。

 俺は抗わず、そのまま闇に落ちた。

 

 わたしは浜辺で休んでいた。

 

「おい! 大丈夫か?」

しばらくすると、みんなが旅館から助けに来てくれた。

 みんな、わたしとリョウ君の姿に気付くと、駆け寄ってくれた。

 予想通り、お姉ちゃんは、わたしたちを見つけるなり心配しっぱなしだ。

 お姉ちゃんは、まず、わたしが大丈夫か確認すると、すぐに浜辺に寝ているリョウ君に駆け寄る。

「リョウさん! 大丈夫ですか?」

『大丈夫、ただ気絶しているだけよ。命に別状はないわ』

「な、なんだ、これ? 剣が喋ってやがる」

(まあ、普通、そういうリアクションになるよね)

わたしは、リニアの顔を見て苦笑いが浮かんだ。そのあと、ニアさんのことを説明する。

「大丈夫だよ、リニア。ニアさんは魔剣のAIよ」

「AI? こんなに流暢に喋りやがるのが、か?」

「なんでも、特別製らしいよ」

「特別製ねー」

リニアは、訝しげにニアさんを眺めていた。

 お姉ちゃんの方は、知っていたのか、ニアさんと話を続けている。

「ニアさん本当ですか? 本当に、リョウ君は大丈夫なんですか?」

『マリアから聞いてたけど。本当、心配性な子ねー。リリが、応急処置を施したから大丈夫よ』

ニアさんは呆れた声色で答えた。だけど、その言葉を聞いたわたしは、さっきのことを思い出してしまった。

「…リリ、なに赤くなってんだ?」

すると、リニアはまじまじと見てきた。

「な、なんでもない」

そう答えるとわたしは、リニアから顔を逸らした。

「では、私は医療スタッフを手配してきます」

そう言い残すとお姉ちゃんは、旅館の方へ飛んで行ってしまった。

 すると、なぜかそっぽを向いて黙っていたジーク君が、口を開いた。

「ぼ、僕も旅館の方へ帰っとくね」

ジーク君は、慌てて旅館の方へ戻っていった。

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 その後姿を見送ったわたしは、疑問を洩らす。

「ジーク君、どうしたんだろう?」

「そりゃー、てめぇの大胆な姿に、純情なジーク君は、困ったんだろうぜ」

「へぇ?」

リニアの言葉にわたしは、自分に目を向けた。

 浴衣姿で海に飛び込んだせいで、浴衣が乱れ胸元が開(はだ)けている。そして、水で布が肌に張り付いて、薄っすら透けて……っ!

「きゃああああ!」

わたしはすぐに腕で、胸元を抱くように隠した。

 すると、リニアは呆れたような笑みを浮かべてきた。

「おせぇよ。狙ってやってんだと思ってた、ぜ」

「そんなこと、あるわけないでしょ! 気付いてたんなら言ってよ!」

わたしは、必死な目でリニアを訴えた。

 うう、お嫁に行けない。

 どん底まで落ち込んでいると、急にリニアが、わたしの頭の上に手を置いてきた。

「まあ、アイツはサブと違って糞真面目だから、すぐに目を逸らしろ。まあ、気にするなって」

「うう、慰めはいいよ」

今は、慰めの言葉がとても辛い……ん?

「そういえば、サブ君来てないね」

思い出したわたしは、リニアに訊いてみた。

 その瞬間、リニアの目が大きく開く。

「ヤバ、忘れてた」

 その瞬間、さすがに可愛そうだと、今のわたしでも思ってしまった。

説明
間が空きましたがやっと新作を書き終えました。

今回の話は「夏休リリ編」と「学園祭」です。夏休、病院から退院したリリは、私用で学園の図書室に居た。お昼に気付き帰ろうと、下駄箱に移動したとき、掲示板に一枚のポスターを見つけた・・・。
スカイシリーズ第五段。よかったら読んでください。

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