恋姫異聞録21
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流民と敗残兵の集まる邑を出てしばらく、あそこで衝撃的な体験をした劉備殿は始め青い顔をしていた

無理も無い、あの邑はあらゆる場所から流れ着いた人々が暮らしている。

 

洛陽の兵士、袁紹軍、袁術軍、義勇兵、黄巾の兵、戦火に巻き込まれた邑の人々、

その人達の怒りや憎しみを一度に受けてはどんな精神の持ち主でも耐えられるものではない、

しかし隊長はそんな劉備殿の心さえ軽くしてしまわれた。

 

今では隊長の側で顔をほころばせ、まるであの時の青い顔が嘘のようにはつらつとしている

 

「よかった、さすがは隊長だ」

 

「うん、でもでもな〜んか変な感じなの〜」

 

「変な感じ、とは何だ沙和?」

 

「解らんのか凪、あの邑出てからずーっと隊長にべたべたくっついとるんや」

 

「そうなのー、あっ!隊長と腕を組んでるっ!」

 

沙和と真桜の言う通り、あの邑を出てからと言うもの隊長の腕を取り、体を寄せて歩いている

あれではまるで秋蘭様と一緒にいるときの隊長のようだ、何と言って良いか少し嫌だ

 

「やっぱり思った通りや、あの劉備ちゅうの隊長に惚れよったな!」

 

「うん、あれは間違いないのー!」

 

「う、やはりそうなのか」

 

確かに隊長の優しさや意志の強さに触れてしまえば解らない気はしないが、私の心は納得がいかない

そして隊長がそんな劉備殿を邪険に扱わないのは知っている、やはり見たところ隊長は少し困っているようだ

 

「でも隊長を好きになっちゃうのも仕方ないかも、あんなことがあったあとだから」

 

「沙和・・・それは少し解る気がする。」

 

「うちは嫌やっ!絶対嫌やっ!!」

 

「真桜」

 

「真桜ちゃん」

 

私も沙和も少し驚いた。真桜は劉備殿が隊長に惹かれていることを強く拒絶している

私も嫌だが真桜は特に気に入らないようで、少し気になった私と沙和は理由を聞いて見ることにした

 

「うちは前に隊長に告白しに行ったことがあるんや」

 

「え?真桜ちゃん!」

 

「なっ・・・・・」

 

「隊長はうちの腕を一番に信頼して認めてくれた。邑に居たときからうちの絡繰の腕を

あそこまで認めてくれる人は居らんかった。うちをここまで皆に評価されるようにしてくれたのは隊長や

だから隊長に側室でもかまわんからって」

 

そういう真桜の目には少し涙が滲んでいた、私も気持ちは解る。

私は戦うしか出来ない、そんな私に戦う以外のことを教えてくれた。

 

守るべき人達と共に土を耕し、そこで取れたものを共に食し、共に喜びを分かち合う

警邏の仕事だけではなく色々な体験をさせてくれる。

私には戦うだけではないと教えてくれる、隊長は私達の可能性を認めてくれるのだ

 

「でもな、隊長には断られた。気持ちはうれしいけどって」

 

「そんな・・・・」

 

「真桜・・・」

 

「隊長はそのときこう言ったんや、自分は名刀ではなく鉄やと」

 

「鉄?」

 

「そうや、自分はただの鉄。だけど刀匠に鍛えられ、研ぎ師に研ぎ澄まされ、英雄に使われることで名刀になる。

その三人が居なければただの鉄やと」

 

「それは・・・・・」

 

「俺が名刀に見えたのなら、それは三人に名刀に鍛え上げられたからだって。自分がうちの眼に止まるほど

美しく見えたのならきっと研ぎ師が自分をいつも美しく研ぎ澄ましてくれるからだろうって」

 

私はその言葉を聞き、理解した。研ぎ師はきっと秋蘭様だろう、いつも隊長を気にかけ寄り添っている

刀匠は春蘭様、英雄は華琳様だ。きっと真桜に解り易い様に自分を剣にたとえたのだろう。

そんなことを言われてしまっては真桜は引き下がるしかない

 

「だから、だからうちは華琳様達なら許せる。ううん、魏の皆は皆隊長が好きや。だから皆だったら許せるけど

他の奴らは絶対に許せん、絶対に許せんのやっ!」

 

「ああ、そうだな真桜。私もそう思う」

 

「凪ちゃんの言う通りなのー!隊長は魏の皆の隊長なのっ!」

 

私達は御互い顔を合わせ頷くと、隊長と劉備殿の所へと駆け寄り腕を放す。

 

「わわわっ!」

 

「申し訳ありませんが劉備殿、隊長の腕は特別なのです。」

 

「え?ど、どうしてですか?別にいいじゃないですか」

 

「駄目や、その腕は春蘭様と秋蘭様の物や。申し訳ないけど隊長の腕は他人が触れて良えもんと違う」

 

「そうなのー!そういうわけだから隊長はこっちに来て皆の誘導を手伝って欲しいのー!」

 

そいって私達は無理やり劉備殿と離し、後方へと移っていく

なるべく引き離さねばまた腕を組みに来るし

 

「すまん、三人とも助かったよ。」

 

「ええて、隊長の腕が特別なのはまちがっとらんし」

 

私達は頷き隊長の言葉に思わず笑顔になってしまう、やはり間違ってはいなかった。

 

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「私も御手伝いします。それにお兄さんの腕のことも聞きたいし」

 

振り向けば劉備殿が私達にいつの間にかついてきていた。何と言うことだ、やはり

真桜が言っていた通り侮れない

 

「いいえ、そんなわけにはいきません劉備殿。貴方は客人なのですから」

 

「ですが無理を言ってここを通してもらっているのは私達ですし、それに私達に着いて来てくれた

人達ですから」

 

「いいえ、隊長の仰るとおりです。劉備殿は客人、そのような事はさせられません」

 

「そうなのー、私達に任せて向こうでゆっくりしているといいのー」

 

そういう私達の言葉を無視してまた隊長の近くに近寄ってくる

客人でもある劉備殿を無下に扱うわけにもいかないし、こまった

 

「桃香様っ、こちらに居られましたか。申し訳ありません昭殿、桃香様が無理を仰られているようで」

 

「愛紗ちゃん!そんなお兄さんを困らせたりなんかしてないよー」

 

「関羽殿、そんな事はありませんよ。民を心配して自分から何かしようとする心は素晴らしい」

 

「そういっていただけると助かります。昭殿」

 

関羽殿が来てくれた様だが、何故だろうあまり安心が出来ない。

隊長を見る眼が好きではない、顔も少し赤くなっているし

そう思っていると真桜と沙和が顔を寄せてきてボソボソト耳打ちをしてくる

 

「関羽も要注意や、あれも気をつけたほうがええ」

 

「うんうん、そうなのー。あれは恋する乙女の顔なのー」

 

「やはりそうか、くっ!」

 

とりあえずどうにかこの場から離れなければ、新しく仕事が出来たことにするか?

それとも先頭で経路の確認にするか?うう、こういうときに軍師の頭脳があれば

 

「そういえばお兄さん、その腕が特別って何故なんですか?」

 

「?・・・・どういうことですか桃香様?」

 

「お兄さんの腕は特別で、夏候惇さんと夏候淵さんの物なんだって、確かに包帯でぐるぐる巻きだし不思議に思っていたけど」

 

「物・・・・・とは?特別?よく解りませんね、良かったら教えていただけませんか?」

 

隊長の顔が困った顔になってしまっている。私も詳しくは知らない、だから知りたいと思うが

この二人には聞かせたくない、きっととても大事なことだろうから

 

「いえ、なんて事はありません私の両腕は妻と義姉に捧げただけです」

 

「え?お兄さんの両腕を捧げた?」

 

「では誰にも触れられないように包帯を?」

 

「そういうわけではないのですが、困りましたね。この事はあまり話せないのですよ。曹操様とも約束しておりますから」

 

これ以上隊長を困らせるのは良くないと感じたのか、二人はそれ以上腕について聞いてくる事はなかった

私も両腕について詳しく聞きたいと思ったが隊長を困らせたくないのでやはり聞く事は出来なかった

 

それからも劉備殿は事あるごとに隊長の側に寄ってきてはくっ付いている

私達は何とか隊長から離そうと画策するが劉備殿はものともせず気がつけば隊長の隣にいた

 

そうして日にちは過ぎ、いよいよ国境に差し掛かり私達は安堵の溜息を付いた、ようやく劉備殿から解放されると

 

「お兄さん、どうもありがとうございました。」

 

「いいえ、私達はただ案内をしただけ。それよりも途中怖い思いをさせてしまい申し訳ない」

 

「そんなことありませんよ、色々勉強になりました。」

 

「そういっていただけるとありがたい、では私達はここでお別れとなります」

 

「はい、お兄さん良かったら私の真名を受け取っていただけませんか?」

 

「桃香様っ!」

 

何と言うことだろう、まさか確実に敵同士になる相手に真名を預けるとはっ!

それにここに来て真名を預けるとはもしかして、それだけは駄目だっ!

 

「私の真名は桃香、良かったら私達と・・・・」

 

「申し訳ありません、私は劉備殿の真名を預かるわけにはいきません」

 

そのときの隊長の横顔は私は忘れることが出来きないだろう、はっきりと真名を拒否し

優しさと厳しさをたたえた眼、強固な意志に裏打ちされたゆるぎない忠誠心を秘めた横顔

 

「な、何故ですか?私はお兄さんを信頼に値する人だとっ」

 

「劉備殿の心は嬉しい、ですが私は魏の人間。そして私の真名は魏の国の物、私に真名を授けてくれた人

そして私の真名を受け取ってくれた人達の心を裏切る事は出来ません」

 

隊長は私達の気持ちを解っていてくれたのだ、自分の真名を劉備殿に預ける事は

私達の気持ちを踏みにじる行為だと、真桜も沙和も顔をうつむかせて眼を潤ませている

 

「そ、そんな・・・・・・・。」

 

「無礼であろう昭殿っ!桃香様が御自分の真名を預けて下さっているのに、その信頼を足蹴にするつもりかっ!?」

 

「ええ、それよりも私は魏の皆の心を取る。斬るのならば斬れ、だがその瞬間、関羽殿の刃からは義は失せるだろう」

 

隊長は射抜くように強い意志を込めて関羽殿の眼を見る。隊長の眼は雷の様に関羽殿を貫き

一歩も引かず、それどころかその眼に気圧され関羽殿が半歩ほど後ずさってしまう

 

「ううっ」

 

「愛紗ちゃん、いいの。ごめんなさい、無理を言ってしまって」

 

「いえ、こちらこそ無礼なことを言ってしまい申し訳ない」

 

「ここまでありがとうございました。・・・・・・・・・・・・・・・私は、諦めません」

 

そういってその場を後にする劉備殿に隊長は無言で目を伏せるだけだった

私達は劉備殿がその場を離れるのを確認するといても立ってもいられず

隊長に飛びついてしまった。そして皆泣いてしまったのだ

 

「どうした?泣かずとも良いだろう」

 

「だっでだっで、隊長ぅぅぅっ」

 

「沙和達、沙和たちっ!」

 

「すみません隊長」

 

仕方ないなといって隊長は私達三人を泣き止むまで優しく撫でていてくれた。

私達はそれだけで心が満たされる。それだけで着いていこうと思えるのだ

 

 

 

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俺たちは劉備を送り届け、一馬達と合流すると許昌に向け進路をとった

 

「昭っ!」

 

「秋蘭、迎えに来てくれたのか」

 

帰路の途中、そこには秋蘭が迎えに来ていた

よほど心配をしていたのだろう、袁紹と袁術を追い払った後そのまま馬を飛ばしこちらに

向かい追いかけていたのが、髪は泥を被ってところどころ破けた服を見ると解る

 

「ありがとう・・・・・・・・どうした?」

 

何故か秋蘭は馬を下りるとスタスタと先に行ってしまう

俺は何かあったのかとあわてて秋蘭を追いかけた

 

「凪、うちら少しまっとこ」

 

「ああ、そうだな」

 

「しかたないのー」

 

後ろを見れば皆は歩を止めて待機しているようだ、どうした?何かあったか?

いやそれよりも秋蘭を追いかけねば、俺は近くの木の下で止まる秋蘭に走りよった

 

「どうした秋蘭、急に」

 

背中を向ける秋蘭の肩に手をかけようとすると秋蘭が小刻みに震え下を向き

その頬からは・・・・・・・・涙?俺はあわてて前に回り秋蘭の肩に手を置く

 

「秋蘭っ、どうした?何があった?」

 

「・・・・・・・うっ・・・・・ううっ・・・・・わ、わたしとて・・・・・しんぱいを・・・・・」

 

「秋蘭」

 

「・・・す、すこし・・・・・・はなれていたくらいで・・・・醜い・・・・・・嫉妬など・・・・・・わたしが・・・」

 

俺は優しく、少し強く抱きしめた。そうだった、一緒になってからこれほど長い間離れていた事はなかった

寂しかったのだな、そして凪達や劉備達に嫉妬してしまっていたのだ。

仲間に嫉妬などしてしまう自分を許せなくて、それでも押さえが利かなかったからここまで歩いてきてしまったのか

 

「あ、あねじゃと・・・・・いしょだと・・・・・う、うぅ」

 

「もういい、しゃべるな」

 

胸に秋蘭を押し込み優しく頭を撫でる。秋蘭は俺を研ぎ澄ます研ぎ師だ、秋蘭がいなければ

俺は錆びて朽ちるだけ、どうしてこれほど思ってくれる人を裏切ることができようか

 

「俺も寂しかったよ」

 

「・・・うん」

 

「俺も早く会いたかった」

 

「うん」

 

「帰ろう、許昌へ。涼風が待ってる」

 

そういうと秋蘭は俺の首に手を回して抱きついてくる

俺は背中に手を回し優しく抱きしめ、頬に優しく口付けをした

 

 

 

 

説明
魏領土通過案内
劉備御一行様其のA

案内終了です。
ちょっと短めで凪視点で書かせていただきました
最後は主人公ですがw

腕の事が少し出てきますがまだまだ秘密です。
申し訳ない><私は色々とあれはああいうことだったのか、
とかあれはこう繋がるのか、というのが好きなので
(たとえば華陀とか)読んで下さる皆様にはあの設定
どうなったの?とか思わせることが多々あると思いますが
長い目で見てやってください;;
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コメント
久々に読み返していますが…ここから劉備が狂ってきましたねぇ(anngetuuteki)
ブックマン 様コメント有り難うございます^^秋蘭は良い奥さんになると思っています^^拒否したのを褒めていただき嬉しい限りです><(絶影)
鐵 恭哉 様修正いたしました^^有り難うございます><(絶影)
誤字、p2「儀は失せるだろう」→「義は失せるだろう」だと。(鐵 恭哉)
秋蘭は奥さんの鏡ですね。桃香の真名を拒否した一刀カッコイイです。(ブックマン)
toki様コメありがとうございます^^子供っぽさ前回の桃香をしばらく続けますw魏√なので余計ですねw(絶影)
更新お疲れ様です。愛紗を差し出すのは嫌と言いながら、昭くんを引き抜こうとはね。桃香は相変わらずですね。(tokitoki)
曹仁様コメありがとうございます^^良かったです主人公がまったく違うため始めは自信が無かったんですが好きになっていただいてとても嬉しいです><(絶影)
BookWarm様コメありがとうございます^^そうなのです!あのクールな秋蘭に甘えてこられるなんてと妄想して出来た小説なので最高と言っていただき満足しております><(絶影)
neko様コメありがとうございます^^そうですねー、確かに依存してきてしまっているのかもwちょっとやばいですね(絶影)
鐵 恭哉様コメありがとうございます^^良かった、少しずつ彼の性格を解っていくというのも楽しみだと私は思っていますので(絶影)
南華老仙様コメありがとうございます^^実は私もど真ん中で・・・・ブハッ・・・・ここに二人で出来た地の池が(絶影)
リョウ様コメありがとうございます^^主人公の人柄というかそういったものを感じていただけてニヤリといったところです^^(絶影)
tomasu様コメありがとうございます^^桃香と愛紗の空気の読めない感じをもう少し続けます。ちょっと可愛そうですがw秋蘭の嫉妬は書きたかったんです><嫉妬させたかったんですよーw可愛いから(絶影)
どんどん昭が好きになっていってる自分がいます(曹仁)
秋蘭の嫉妬・・・いい でも依存しあっている様に見えてしまうのは気のせいか ここから先が気になります 2人に幸有らんことを(neko)
なんか昭のキャラがやっと分かった気がする。(鐵 恭哉)
だっだめだ、どんどん秋蘭が私の好みど真中に・・・ブハッ・・・・・・返事が無い。辺りには某軍師並に血溜りが出来ている。(南華老仙「再生(リボーン)」)
更新お疲れ様です。しかし・・・回を重ねる毎に昭がお兄さんからお 父 さ んに見えて来てしまうのは何故だろう・・・(良い意味で)(リョウ)
今回の桃香と愛紗はどうしても空気読めない感じになってしまいますね。そして、最後の昭くんの桃香と愛紗への言葉はじつにかっこよく、秋蘭の嫉妬は可愛すぎました。(tomasu)
狩人様コメありがとうございます^^まったくそのとおりで愛紗の態度は仕方ありません><中盤を過ぎるまでは桃香達はあんな扱いになってしまうので蜀の方たちを愛する人達にはホントに申し訳ないです;; (絶影)
田仁志様コメありがとうございます^^これからもよき夫を表現していこうと思います^^(絶影)
執筆おつです〜 愛紗の態度も仕方ないですね・・・でも主人を思えばこそのあの返答です。  あの場面にいたのが桃香でなく一刀でも同じ態度をとったでしょう(狩人)
昭…いい旦那さんだなぁ〜(*´∀`*)(ペンギン)
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