輪・恋姫†無双 八話
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「……で、俺らは先陣切って囮になると?」

 

「はっきり言ってしまえばそうなりますね…」

 

「せこいね〜覇王も。ま、上手いといってもいいけど。」

 

「はわっ!そんなこと大きな声で言っちゃだめです!」

 

冀州の本拠地を前にして作戦の概要を軍師二人から聞いた第一声である。

 

劉備軍が横隊を組んで先陣をきり囮に。曹操軍はその後方援護と、特殊部隊を潜入させての糧食焼き。そして混乱に陥った黄巾党に総攻撃。

 

細かいもろもろを無視してまとめ上げると、だいたい作戦はこんなところだ。

 

ちなみに黄巾党の本拠地に張角、張梁、張宝がいないということは黄巾党の人間を買収した(と考えられる)曹操からお墨付きである。

 

買収に成功したのに、それでもなお張角達に関して名前以外に有力な情報がないのはどうしたことか。

 

黄巾党を裏切ってもまだ、その三人への忠誠は守っている。本当、叫びたくなるくらい厄介だ。情報がないっていうのは。

 

張角の絵姿を見せてもらったが、あんな人間は居ない。そう信じたい。具体的に何処がというか、もう全てが。

 

あれは、各地方に伝わる悪鬼と髭のおっさんを適当に混ぜ合わせたような姿だ。少なくともどれだけ多くの目撃例を、どれだけ奇抜にブレンドしても、ああはならないはずだ。

 

「で、配置はどうすんの?」

 

「はい、愛紗さんと鈴々ちゃんには前曲を率いてもらおうと思います。」

 

「了解した。」

 

「おお〜!合点なのだ!」

 

「桃香様は後曲に、指揮の補佐として雛里ちゃんと一緒に下がって待機してください。」

 

「うん。わかった。雛里ちゃんに指揮はお任せになっちゃうかもだけど、よろしくね。」

 

「御意、です♪」

 

ニコリと微笑んで、すぐに軍師の顔になり祐一に向き直る。

 

「祐一さんは本陣をお願いします。兵の指揮は朱里ちゃんがやってくれるので、お願いですからちゃんと朱里ちゃんの話を聞いてください。」

 

妙に念を押す雛里に、こんな時までそんな心配をされることにひどく落ち込みながら「了解」と返事をした。

 

「じゃあみんな、武運を!」

 

「応なのだ!」「はい!」

 

前曲に走っていく愛紗と鈴々。それを見送り、後曲に移動しようとする桃香に、

 

「んじゃあ桃香、雛里。またあとでな。」

 

軽い調子でかけられた言葉に足をとめ、笑顔で返す。

 

「はい♪祐一さん、またあとで。朱里ちゃんをお願いしますね?」

 

「ああ!この祐一さんに任せとけ!!」

 

そして、今度こそ後曲に向けて移動した。

 

「………それで、いいんだ。」

 

「?」

 

誰に聞かせるでもなく、祐一が呟く。

 

「居もしない神様に願う必要なんてない。願いをかなえるのは、己の心と力のみ。」

 

鬼丸の鯉口を切り、刀を抜く。

 

「その心を信じた、お前の仲間に、願うがいい。」

 

見据える先は、いったいどこか。何度か見た、祐一の人格が変わるような変化を目の当たりにして、朱里は思う。

 

「一人でも多くの友が生き残ることを。家族の、無事を。」

 

どちらが、本当の祐一なのかと。

 

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戦場は、苛烈を極めていた。

 

前回の黄巾党との戦いではそこまで感じなかった、数の差が重くのしかかっていた。

 

後方から曹操軍の矢が飛んできて援護してくれる。義勇軍六千のほかに、曹操から借りた三千の兵もよく働いている。

 

しかし、それでもなお平地に近い場所で一万五千の兵が相手だと、切っても切っても敵が湧いてくる。

 

だが、この戦いは時間稼ぎ。曹操の部隊が糧食を焼くまでの時間をしのぎ切ることができればいい。

 

「うがあぁぁぁーー!?!」

 

      「いぐっ……!!?」

 

  「ぎゃあぁぁーー!?」

 

劉備軍本陣の最前線で戦う祐一に果敢に飛びこむものは減っている。

 

遠巻きに囲い、怯えた眼を向けて、剣を構える黄巾党。

 

視線の先には、戦場に居るにも関わらずそれを忘れて見入ってしまいそうになる美しく細い刀を持った男と、

 

その足もとで恐怖に狂い、数分前まで武器を持っていた腕を抑えて絶叫する黄巾党の男たちと、先ほど他の黄巾党の男を追い越してこの男を殺しに行ったその脚と正気を失った男たち。

 

飛びかかった先に、自分が獲物を殺す以外の結果になることを想像できなかった男たちの末路である。

 

安寧の死さえも許さない、ケダモノと呼ばれた黄巾党の者たちをして“どんな神経をしてるんだ”と思わせるほどの―――地獄。

 

 

劉備軍の前曲で戦う愛紗と鈴々もまた、戦場という地獄の中黄巾党の死地として敵の足を止めていた。

 

関雲長の青龍刀の間合いに入ったことごとくの敵は切り伏せられ、

 

張翼徳の丈八蛇矛の間合いに入ったことごとくの敵は叩きつぶされる。

 

 

そんな地獄の中、帰るべき砦を顧みた一人の黄巾党の男が

 

少しでも兵の消耗を抑えようと指揮を振るっていた朱里が

 

後曲から、皆の無事を祈りながら前線を見守っていた桃香と雛里が

 

たとえあの天下の劉備とはいえ、いまだ規模の小さな義勇軍を最前線に送ることになり、心配な表情を必死で隠そうとしていた一刀が

 

それを見て、声をあげた。

 

黄巾党の陣地から空へとあがる黒い煙。

 

 

「じっ!陣から煙が!?」

 

それに気づき、叫ぶ声。混乱は黄巾党全体に少しずつ伝播していき、そして、目の前の光景に絶句する。

 

さっきまで自分たちの半分しかいなかった敵の兵が、ほとんど数について同数といっていいほどになっていた。統一された鎧をまとった曹操の援軍、後曲に回っていた劉備軍が到着したのである。

 

なのに、今まで数の差をなんでもないように戦ってきた三人は未だ殺せていない。

 

女の二人に至っては息があがっている様子さえない。

 

 

こと此処に至って、黄巾党本隊の守兵という砂の球は、そのほとんどが粉々に崩れ去った。

 

 

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「はあ、はあ、はあ、ふー…」

 

義勇軍の中、黄巾党に恐れられていた三人の戦士のうちの唯一の男である相沢祐一は乱れた息を整えていた。

 

既に黄巾党は集団としての機能を失ったことは見て明らかだったうえ、曹操・劉備軍が全戦力をもって総攻撃に移ったことは自分を抜き去る兵士の若干の歓喜を含んだ表情で理解できた。

 

自分の最低限の仕事はこなしただろう。

 

自分の剣の届かぬところで数の暴力に命尽きた兵もいるだろうが、そっちは朱里が上手くやってくれるだろうし、あの身体能力で武器持って戦おうとはしないだろうとも思う。

 

そして、そのまま後曲から此処まで来た桃香たちのもとへ行こうと思って足を後ろに戻す前に、ふと、あることが気にかかり黄巾党の陣地であった方へと足を向けた。

 

割と最後まで指揮を手放さなかった幾つかの黄巾党の小集団に曹操軍から夏侯の旗が、劉備軍から関と張の旗が追っていくのを横目で確認しながら。

 

 

「桃香様、ただいま戻りました。」

 

「ただいまなのだー!」

 

追撃から帰還した愛紗と鈴々は妙に沈んだ桃香、朱里、雛里の様子をいぶかしむ。

 

「おかえり、愛紗ちゃん、鈴々ちゃん。あのね…」

 

語られる事実と推測。

 

出払っている本隊の規模を正確につかむことはできないが、おそらく十万はくだらないだろうということ。

 

敵の食料を鹵獲しようにも、曹操との共同作戦によってある程度焼き払ったうえ、残りを捜索する余裕はないとのこと。

 

なんといっても食べるために義勇兵に参加した人も多いのに、いつ本隊が戻ってくるかもわからない中での糧食探しなどもってのほかだろう。

 

しかし、ここで糧食に関して何か手を打てなければ兵糧が底をつくのも時間の問題というところまで来ていた。

 

なのに有効な案は特に出ない。

 

追い打ちをかけるように、

 

「祐一が居ない?」

 

「はい。三郎さんに呼びに行ってもらったんですけど、戻ってきてないみたいで誰も見かけなかったと…」

 

「はわわ…でも、総攻撃を始めた時は疲労こそ見えましたけど傷らしい傷もうけてませんでしたからどこかに居るはずだと思うんですけど…」

 

「お兄ちゃんは本当に人の話を聞かないのだな〜」

 

「お前が言うな。……まあ、同意見だが。」

 

「あう〜…どうしよう?」

 

「曹操から貰えば?兵糧おくれって。」

 

「そ、それはさすがにミジメ過ぎないか…?」

 

「HAHAHA!自尊心など空腹の前には路傍の石も同然!」

 

「そんな酷な言い方することはないでしょう…」

 

「何を言うかミッシーよ。世の中相互供与で成り立つのだ。今回の報酬に兵糧分けるくらいするだろ。ちゃんと金あるんなら。」

 

「「「「「………」」」」」

 

愛紗と桃香・朱里・雛里主導だった会話が、いつの間にか一人の男と一人の少女に奪われていた。

 

「どうかしたか?そんな顔面に感嘆符と疑問符をぶつけられたような顔して。」

 

「……あの、かん…たんふ?と、ぎ…もんふ?というのは何でしょうか?」

 

「あ〜そっか…ないのか…俺の国の文字で、驚愕を示す記号と疑問を示す記号のことだ。」

 

そこで、今言葉を発していない人間全員の視線をうけ、意を決して声をかける。なぜかそういう役割に落ち着きそうになりつつあることに心中で涙しながら。

 

「あの〜、祐一さん、何というか…『いつの間に来たんですか?』とかはあえて聞きませんけど、これだけは聞いておきたいんです。」

 

「なした?朱里?」

 

「そちらの方は……どなたですか?」

 

「ん?………ああ!ほら、ミッシー自己紹介。」

 

「あなたが紹介してくれるんじゃないんですか?」

 

「あ、俺が紹介していいの?」

 

「…………いえ。嫌な予感しかしないので結構です。」

 

そこでわざとらしく打ちひしがれる祐一を置いておき、少女は向き直る。

 

「私は張狐、真名は美汐といいます。宜しくお願いいたします。」

 

ぼろきれを纏った少女が、礼儀正しく挨拶をした。

 

 

説明
八話投稿です。
一人目は彼女です。理由は特にありません。
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コメント
レイン様 はい、美汐、合流しました。ですが他のkanonファミリーもすんなり祐一と合流出来るとは限りませんよ?(柏葉端)
どっちの顔も結局は『相沢祐一』に逝きつくのでどっちもでしょう。ここで『ミッシー』こと美汐さん合流〜おめでとうございます。…kanonファミリーは祐一君の元に集うべきです。なので秋子さんも(以下略)姓名は当て字程度の感覚で良いと思います。(レイン)
自由人様 ご報告ありがとうございます。いつの間にというのは次回明らかに…するつもりです。姓に関しては特に由来は無いです。ありそうなのをリストアップして、サイコロ振って決めました。……最初、姓は天(てん)名は野(や)にしようとか考えたんですが、二人目以降が続かない気がしてやめたという経緯も……(柏葉端)
F91様 それは…凶悪ですね……でもむしろ諜報員にして敵将の食事にこっそり邪夢を盛るというのも捨てがたいです。(柏葉端)
雛里に念を押されてる〜w落ち込むのは祐一君、キミではなく朱里だ!ホント朱里が可哀想…orz まぁ、柏葉々様の陰謀では仕方がありませんがねw…なんて思っていたら先ず一人目は『美汐』ですか。しかしいつの間に!?それに『狐』はわかりますが張姓は多いから?それに彼女の『役割』はなんなのだろうか? 御報告 2p:関雲張→関雲長 ですね。(自由人)
軍師秋子さんか・・・ここは武将秋子さんで武器はもちろん、あの邪夢で(F91)
天魔様 そうですね……秋子さんだけはどうしようか迷ってます。軍師秋子さんは無敵に思えて仕方ないので。(柏葉端)
・・・・・・・美汐!?ということは真名が「舞」や「佐祐理」や「秋子」や「香里」のキャラも出るんですね!(天魔)
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