輪・恋姫†無双 九話 |
「あの〜…祐一さん、今まで何処に行ってたんですか?」
桃香と鈴々と美汐で妙に話が盛り上がっている中、朱里はちょっと気になったことを聞いてみた。
「黄巾党の本陣のとある小屋。」
「とある?」
ちゃんと私の指示を聞いてから行動してくださいと反論するよりも大事な気がしたので聞き返す。
「……奴隷小屋。」
「……え?」
「万が一にも奴隷小屋に火が回ったりしたら可哀想だし、小屋の扉を全力でぶっ壊しに行ってた。賊の本拠なんだし、絶対あると思ったからな…」
つ、と祐一は美汐の方へ目線を向けて、
「あとは適当に各々逃げてくれればいいやと思ってたんだけど……なんか…」
祐一は一瞬困ったように眉を寄せて、続ける。
「……ああそうだ、奴隷って言っても、単なる労働力としてしか使ってなかったみたいだよ。組織が組織だし。」
「…?どういうことですか?」
祐一の何かを言い淀むような微妙な間も気にはなったが、それよりも最後の台詞の方が気になった。
「ああ、それは……」
「お頭っ!いらしてやしたんすか!あの!お嬢、大将、曹操どのが来やしたんですが……」
「え!?あ、うん、じゃあここにお通ししてくれる?」
「了解しやした!」
「……曹操との話が終わってからにしようか。」
「…わかりました。」
とりあえず話は保留になり、先ほどの糧食の話に戻そうと祐一が口を開きかけた時
「祐一さん、曹操という方から糧食を貰うという話はみなさん納得してくださいましたよ。」
完全に美汐に先を越されていた。
「……いつの間に…」
「まあ、いかな英傑とて空腹には勝てないのですよ。それが人間というものです。」
「妙に説教臭いな…おばさんくさいと言い換えてもいいが。」
「そんな「お兄ちゃん、そんなこと言っちゃダメなのだー!!」……」
「貧乏部隊の悲哀だね〜…」
話の流れに若干遅れ気味の桃香の呟きが、誰かの言葉をつぶしあうという奇妙な流れを切ることになった。
「実際問題、まだ曹操から言質をとれたわけじゃないからまだ解決したわけじゃないんだけどね…」
だが、曹操からの言質は、本気で驚くほど簡単にとれた。
まあしばらくは曹操軍にいいように使われることになるだろうな〜とか思う交渉内容ではあったが、おかげ様で兵糧どころか武器に防具に資材なんかも出して貰えることになった。
誰のおかげか。間違いなく美汐のおかげである。
いつの間にか美汐が曹操と話しだして、気がつくと商談がまとまっていた。桃香と雛里に確認したところ、共同戦線に関しても事前にOKを出していたらしい。
そして、曹操が退席するや、
「桃香さん、祐一さん、取引成功です。」
「すごい!すごーい!」
「ミッシー何者なのだー!?」
「元は行商人として旅をしていました。黄巾党の方々に襲撃されて、私自身は雑用としてこの陣に連れてこられたんですが、即日祐一さんに解放されたんです。」
「それは…なんとも……」
しれっと凄い事実を告白した美汐に愛紗が呆ける。
「本来は奴隷と称するべき扱いなのでしょうが、黄巾党の中心に近づけば近づくほどそういうモノとは無縁なんでしょうね。」
「…?それってどういうこと?」
「それは…」
チラと祐一を窺い、
「じゃあ、真面目モードで俺が説明しよう。」
バトンタッチ。同時に数人からのジト目攻撃。そしてそれを完全無視で祐一は説明を始める。
「黄巾党の首領の三人の正体は旅芸人、黄巾党の中心の構成員はそれの追っかけだ。実際に暴れてるのは張角達のことをほとんど知らない連中と、最高の娯楽と愛すべき歌姫を守るための過剰防衛
といったところか。」
数人がため息をついて、『ほら、やっぱりふざけてる』と言おうとした矢先に、
「美汐ちゃん?」
「だいたいが事実ですよ。実際私の保存食もほとんど手を付けずに上納してましたし。……我が目を疑いたくなるほどの爽やかな笑顔で『あの三人が笑顔でいてくれるなら何もいらない』と他の黄
巾党たちと語ってましたから。」
桃香と美汐に封じられた。
「どうやら合言葉のようなものもあるらしく、張梁は【とっても可愛い人和ちゃん】。張宝は【みんなの妹地和ちゃん】。張角は【みんなの恋人天和ちゃん】と呼ぶらしいです。」
愛紗が、フラッとした。
「奴隷に性的行為を行うのは【みんなの恋人天和ちゃん】に対する浮気行為ですから。私が来た日にその制裁を受けてるのを見たんですが、なかなか悲惨でした。」
朱里が、祐一にすがるような眼を向ける。その眼は『美汐さんを止めて、ウソだと言ってください』と言っていたが、凄く生温かい眼で祐一は見つめ返す。
その眼は、余裕のある人ならこう読みとれただろう。『俺もこの理不尽に耐えたんだから、朱里も頑張れ』と。
「小屋でもその三人の話で持ち切りでしたよ。外の戦闘の音を聞きながら『もし生きてここから出られたら、また人和ちゃんの歌を聞きたいんだ』って言ってた人もいました。」
雛里が祐一に小声で「なんとかしてください」と頼んでも「もうすぐ終わるから。だいたいこれを避けるために俺が説明役買って出たんだぞ。信じない方が悪い。」と返された。
「とりあえず黄巾党やあそこに捕まっていた人から話を聞けば聞くほどどうしてこんな騒乱の中心にいるのかわからないような人気芸人みたいですよ。」
本隊がいた陣にいながら、一度も三人の歌を聞いていなかったどころか姿も見なかったがゆえに暴露できた美汐による、黄巾党のネタばらしが終わりを告げた。
「……桃香、愛紗、朱里、雛里、お疲れ様。とりあえず軍を動かそう。いつまでも此処に居る訳にもいかないのは確かだし。」
「「「「そうだね(だな)(ですね)………」」」」
黄巾党の事件に関して、ものすごい進展があったにも関わらず、とんでもなく気力を奪われた一同であった。
「これさ…曹操に言っていいものだと思うか?」
「微妙、ですね」
西に行軍しながら祐一はぼやく。別に、曹操にこの情報を渡さなかったのは利益の為じゃない。この、ふざけているとしか思えない黄巾党の実態を信じさせる手段がないと思ったからだ。
一刀あたりにそれとなく話してみるという手もあるが、そもそも証拠がなければ信じさせようもないだろう。
「(確認はとっていないが、あの白ランからして一刀は多分俺と同じ世界の人間だろう。世界史の教科書知識でさえ黄巾党は道教的な思想に基づく武装蜂起だって習ってんだ…いや、この女ばかり
の三国志の時点でそんな常識は残されてないとしたら意外といけたのか?)」
「そもそもなんで旅芸人が賊集団の指導者になってるんですか……」
「……本人に自覚無いんじゃない?『私、この国のみんなに私たちの歌を届けたいの!』とか言ったのを聞いた連中が拡大解釈しまくって天下統一を勝手に始めたとか。」
「祐一さん、さっきの例があるので聞いておきますが、それは本気ですか?それともふざけてるんですか?」
「その二つは俺にとって同時に成り立つということを忘れてもらっては困るぞ?雛さんや。」
質問には答えず、視線を外して返してきた祐一に「ボケだったんですね」という台詞を飲み込んで、深すぎるため息を吐きだした軍師二人。
軍師がそろって暗い顔しているという、あんまり兵士に見せられない状態で行軍する劉備軍。
ちらと祐一が視線をさまよわせると、鈴々と桃香は美汐と会話を楽しんでいるところを見つけたが、あれは
「友達というより……親子?美汐お母さん…いや、ママの方が語感が…しかしそれでは……」
暗い顔している二人の軍師の隣で、いつも他人をからかって遊んでいる祐一が真剣な顔で悩んでいるという、ちょっと精神衛生上最悪な空間が形成された。
悩んでいる内容は、『どうやってからかうのが効果的か?』という内容ではあるが。
そして、新参の女の子に頭をなでられて喜色満面になっているのは、猛将・張飛と崇めるべき主劉備。ついでに普通に真名で呼びあっている。
とてもではないが、誰にも見せたくないような首脳陣の様子に、完全に一人孤立していた愛紗がプルプル震えだし、
「お前たち一度そこになおれーーーーー!!!」
キレた。
張狐 真名:美汐
元商人。文字は普通に読めるし書ける。現在は劉備義勇軍輸送隊として参加。
身体能力は決して高くない。というか常人。
別に陰陽道が使えたりもしませんよ。
ただ、気配を消すのはそれなりに得意。
説明 | ||
九話投稿です。 なんか、うん、これで大丈夫なのか?とか自問自答はじめてる自分がいる。 すでに当初予定狂ってきてますが、突き進みます。 今回の最後のページは美汐の紹介です。 |
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コメント | ||
レイン様 そうですね。というか文官にするしかないでしょう。ヒロインは一応全員出すつもりではいるので、本当にまだまだ続きます。……佐祐理さんとか出し損ねたらどうしようとか、今から心配してますが。(柏葉端) 美汐さんの交渉術はつかえますねぇ…彼女も文官向けでしょうか?原作でも『誰かさん』と認識あったんだし、まだまだ出てくるであろうヒロインの乱入。これからも楽しみにしてお待ちしております。(レイン) 自由人様 ご報告ありがとうございます。美汐がひっかきまわしてるんじゃないですよ?彼女はただ事実を伝えただけです。ただ、淡々と“あの”黄巾党の実態を語るという行為がそう映るだけで。雛里は……朱里と違う扱いにしたいです。私は。他人をからかうことが生きがいみたいなこの祐一君が、それを許してくれるかは別にして。(柏葉端) 美汐ちゃんは優秀なんですが…祐一君に続いて引っ掻き回す側なのですねwしかも祐一君の『雛さんや』なんて…雛里も朱里と同様な扱いになってしまうのかw天下の二大軍師も大変ですね〜(汗)そしてやっぱり割を食うのが愛紗なんですよねww 御報告 2p:気力を奪われた一堂→一同 ではないかと?(自由人) |
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