鏡 |
鏡って面白い。
ぼくは洗面台の前に立ち、つくづくそう思った。
なぜかと言えば、ぼくが右手を上げると、鏡の中のぼくは寸分の狂いもなく左手を上げる。
フェイントを掛けて左手を上げても、見事に同じように右手を上げる。
ただ、ぼくに似たイケメンな容姿はともかく、人の真似をするところは気にいらない。
ぼくは「ふうっ」と、ため息をついて顔を洗った。いつもの行動だ。鏡の中の男も同じように顔を洗ったようだ。
顔を洗い終えるとぼくは今日も考える。
「鏡の中の世界に行ってみたい!」と・・・
いつもの行動パターンは読まれている。
しかし、今すぐに鏡の中の男が思いつかないような、どこか別の鏡の前に行けば、奴はぼくのあまりに早い行動についていくことができなくて、鏡の前に現れないかもしれない。
そうすれば誰もいない隙を突いて鏡の中の世界に入ることができるのではないか。
確か近所の公園のトイレにも鏡があったはずだ。
そう思うとぼくはすぐさま行動を起こした。
サンダルを引っ掛け、家を飛び出し、近所の公園の公衆トイレに駆け込む。目的の鏡を見つけると、すぐさま覗きこんだ。
しかしそこには、ぼくと同じように息を切らし、こっちを睨みつけるあいつがいた。
鏡の中の男はどうしてもぼくを鏡の中の世界には入れたくないみたいだ。
ぼくはあいつをだまして向こうの世界に行くことはあきらめた。
頭を使ってだめなら、力づくにでも鏡の向こう側に行ってやる。
ぼくは鏡に両手をついた。もちろんあいつもぼくの手に両手を合わせてくる。
大きく息を吸い、力いっぱいに奴の手のひらを押した。
鏡の男も、なかなかに力があるようだ。ぼくがどんなに力を入れても奴の手はびくともしない。
しかしもう少しだ。男の額には汗が流れている。力尽きるのは時間の問題だろう。
そして……力尽きたのはぼくのほうだった。
してやったりと思っているだろうに、奴はぼくの表情までを真似て、悔しい表情を映した。本当に気に食わない野郎だ。
やはり、今日もぼくが鏡の中の世界に行くことはできなかった。
ところで、なぜぼくがこれほど鏡の中の世界に行きたいのかというと、ぼくにとってこの世界はとても住みにくい気がするからなんだ。
心臓が右側にあるのも、横書きの文章は右から左に読むのも当たり前のはずなのに、なにか違和感を感じる。
だからぼくは、“鏡の中こそが本当の世界”なんじゃないかなって考えているんだ。
こんなことを考えているのは、ぼくだけなのかな?
ぼくはおかしいのかなぁ?
DNE
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