マジコイ一子IFルートFINAL! |
最後ということで(?)あらすじでも適当に。
あ、でもその前に注意でも。
*作者は何と言っても適当な人間なので、絵でも文でもキャラとか関係性とか言葉づかいとか崩壊気味ですが、それが耐えられない方は閲覧しない方がいいかもです……
*そして中二病で小説の基本も知らないような作者なので中身はけっこうアレですが、それでも耐えられるという方は閲覧ください。。。
*作者は原作は大好きです。姉しよから好きです。……この辺は少しデリケートな問題でしたすみません。
*これは一子ルートの大会編の対クリス戦中盤から終盤あたりから始まり、夢を壊されなかったIFストーリーです。
……これだけであらすじじゃ。。。
:あらすじ
夢をかなえるためにはこの大会に優勝しなくてはならない。
序盤戦のクリス戦で限界を超えた一子は、体と精神の崩壊を犠牲に新たな領域に達しつつあった。
事実クリス戦以降では優勝するまで一子とは思えない動きで敵を薙ぎ払っていった。
会場は絶頂を迎えようとしている。
この大会の目玉の一つ。優勝者対川神百代のエキシビジョンマッチ。会場は熱気に包まれていく。
ついに始まった姉妹対決。
一撃で終わると思われた試合は意外にも一子優勢に傾く。
「クハハ……」
しかしそこで心のタガが外れた百代が暴走状態に入ってしまう。
誰も止められない鬼神、川神百代。その天変地異のごとき災厄に彼女は正面から挑む。
誰も予想できない展開の中、決着は早々に決まった。しかし勝敗の行方は当人たちしか知らない……
的な感じです。
では次頁より続きです。
「う、うあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
あまりの出来事に彼女はその場にくずれ落ちた。自分の今までしてきたことが徐々に記憶として蘇ってくる。それは彼女に拷問のように襲いかかり、悲鳴は都市全域に浸透するかのような絶望的な叫びに変わる。
「さがれ百代、搬送の邪魔じゃ!!!」
泣き崩れる百代は老人に投げ飛ばされ舞台のそでまで転がる。もはやそこには彼女の泣く場所さえなくなっていた。
「ク…、非常に危険な状態ネ!」
言葉に出してあらためて気づく自分の甘さ。何が非常に危険な状態か。これは既に生きている者の状態ではない……
会場はこの光景にやっと追い付いた。
騒然となる観客席。そこは一種パニック状態と化し、一子のもとへ流れ込もうとしている。
「カァァァァアッッッッッッッッッッッッッッッッツ!!!!!」
鉄心の一喝で場は凍りつく。武神の気あたりは一般人にとって障壁と同じように脚を地に縫い付けるに易かった。
「ワン子――――――――――――――――!!!」
それでも駆けつけてくる者は彼女の家族たち。彼らだけは特別というように、近寄ることを許していた。
「ワン子!しっかりしろワン子!!!」
涙を顔いっぱいに溜めながら叫ぶキャップとガクト。
「しっかりしてよ! せっかくモモ先輩に勝ったんじゃないか!!!」
いつもの姿からは想像もつかない程に感情を爆発させて声をかけつづけるのはモロ。
「…………ワン子」
ただ祈るように手を組むまゆっちの横で、静かに目を細める京。この一連に経緯を知っているからこそ、そのことを守秘し続けてきたからこそ、彼女の胸は今にも張り裂けそうであった。
それぞれが一子の身を案ずる中、大和の声が割って入った。
「離れろっ! 一子の搬送が遅れるぞ!!!」
皆が感傷に浸っているなかでも、彼だけは平静を装い彼女の安全だけを最優先に考え、行動している。
大和は彼女のセコンドとして、彼女を最高のシナリオで迎えるために彼は今もっとも考え、悩み、葛藤して現実と戦っているのだ。
「グ……」
その一言で風間ファミリーも静かになる。彼女を想うからこそ、今最も必要なことをしなくてはならないから。
そして担架は救急車に収められ、病院へと運び込まれていく。
幸いにも近くにあった病院は規模が大きくERもあったために、彼女は最善の処置を施された。
そこにたまたま最高の心臓外科医や、最高の麻酔医、ER教授や研修医がいたのだが、その話はまたいずれ……
ただ、処置は施された。それだけのこと。
夢のために通した信念の代償はあまりに大きく、彼女の身体はあまりにも酷使され過ぎていた……
ここで一つ回想をしよう。最後の攻撃の瞬間のことだ。
最後に最強の一撃が繰り出されたのになぜ川神一子は生きてあのような状態にできたのであろうか?
その疑問が当然わくであろう。もっともな感情だ。
しかし、それ以前にもっと疑問をもたなければならないことが一つある。
それは彼女、川神百代の状態変化だ。なぜ最後に彼女が正気を取り戻したのか。一子の生還があまりにも衝撃的であったために霞んでしまったが、これもまた重大かつ今回の試合において最も肝心なことなのだ。
――私の勝利条件はお姉さまを倒すことじゃない――
そう彼に言われた時には少し困惑したものだ。
でもそれはいたって必然なことで、むしろ私より私の夢を具体的に見据えていた彼を尊敬してしまう程だった。
川神流の中でも最高の力量をもつ川神百代。その代名詞たる強力な力量と磨きぬいた最高の技は、本気の実力をもって音すら追い抜き放たれた。
ただ正面に打ち抜くだけの技。しかしその技の中には数えきれないほどの要点が詰め込まれている。
速度を落とさず打ち抜くことや力を効率よく浸透させる技術、余計な動作を行わないように最小の動作で最高の出力を出せるよう磨き上げてきた年月と努力。その全てが複雑に絡み合った歯車のように一つの動作を円滑に生み出していく。
その練磨された技はまさに金剛石のように光り輝く優美で洗練されたイメージを相手に映し出す。
故に相手は後悔することすら忘れ一瞬見惚れてしまうのだ。
強者であればある程、その技が美しいかがわかってしまうから。たとえその拳にどんな思念が混ざっていようと。
――そうね。お姉さまを補佐するなら、お姉さまが迷った時に支えにならないとね〜――
目標が決まった瞬間、目の前が一気に鮮明になった気がした。それまで自分に取り巻いていた不安が全て雲のように散って行った気分。それはとても晴ればれとしたもので、いつもの私らしくなったな、と彼がつい口走ってしまうほどだ。
その目標が決まってしまえばあとはもう迷わない。たとえどんなに可能性がなかろうと、私はただ突き進むのみだ。
勇往邁進。
進まねば、そこは永遠に闇の中なのだから。
撃ち抜かれた魔弾のごとき一撃は正確に一子を破壊するよう最短の軌道で迫りくる。
「………………」
彼女も構えた薙刀を振りぬくが、あまりにも速度が違いすぎた。彼女の武器が速度にのる頃には、百代の拳は胸先数センチのところにまでやってきている。
その拳はよく見える。だからこそその結末も鮮明に予想できる。
当たったら死ぬ。
いや、そもそも原形はおろか破片も残らないだろう。それほどまでにこの拳は凶悪な暴力に満ちていた。
「(この攻撃が成功すれば、きっと大和達もただじゃすまない……)」
直感はその被害範囲を明確に予測し、さらに彼女に負けられない理由を与えた。
拳は容赦なく一子に向かう。
もう薄皮一枚分もない程接触しようとしている。これはもう避けることが不可能なレベルだ。
「………………」
だからこそ、避けることは考えなかった。
着弾と共に衝撃は一子の内部を伝わり粉々に砕いた……はずだった。
「…………!?」
しかしその拳は一子の衣服を破いただけでそのまま直進し、中空に大きく突き出された。
一瞬何が起こったのか理解が追いつかない。ただ前に突き出された腕の『真横』に、自分の敵が佇んでいるのが見え、わずか、ほんのわずかな感触が腹部にあるだけだ。
着弾の直前のこと。一子は大きく振りかぶる動作に全身全霊を確かにかけていた。
しかしそれも布石。本当の攻撃は別にあった。だからこそ布石が直感レベルでさえ気づかれてはならないために全力の一撃を繰り出す必要があったのだ。
そう、彼女はわかっていた。最後に百代が何を繰り出すのかを。
絶対不可避にして完全勝利を謳うその正拳突きは、彼女の最も得意とする技だ。その威力も、速度も何もかも見たことはないが、予想はつく。今までそばにずっといて、一緒に稽古をしてきたのだから、ここまで戦い続けてこれたのだから、淡い希望に目が眩むようなことなど決してない。
そして予想通り彼女は放ってきた。着弾すれば生きては帰れない魔の一撃を。
一子は避けない。避けても余波で腹を抉られるだけ。この攻撃は対人として用意された技ですらないのだから、余計な思考は全て死につながる。
だから決して逆らわない。ただ流れを読み、ただ流れに従うだけだ。
対戦前、彼女は大和と共に山籠りの修行を行った。
開始当初はただやみくもに薙刀を振るうばかりの日々だった。これまでのようにただひたすらに修行をこなしていくだけの作業。
才能がないのだからと努力で埋めようとこなしてきた稽古の数々。その延長線上として行ってきた作業だが、それではこれ以上の力はつかなかった。
だからルー師範代は諭したのだ。この自然のなかで得るものは何か? その意味を知った彼女は同じ修行についても練度が格段に向上していた。
川の流れる水の意味を。その中で練磨される小石の存在、流れの中でも悠々と泳ぐ魚、宙を舞うは枝から落ちた木の葉。その動き、その流れ、その全ては自然界の中で必然的に最適化されたプロセスであるのだと。
頭では理解などもちろんできない。だから身体で、感覚でその全てをわずかに理解した。
角ばって大きな石は川の流れで練磨され、全て受け流せるように丸く適度な大きさになるように。
嵐の中では強靭な根をもつ大木も根こそぎ吹き飛ばされてしまうが、やわらかい葉をもつ草はその流れを巧みに受け流し根を張り続ける。
災害と呼ばれるものの中でも、自然は適材適所で様々な様相を見せるのである。
そのことを彼女は今まさに、一時的ではあるが完全に理解できた。
師範代の言っていた言葉すらまだ甘いと。
自然の中で得るものを探すのではないのだと。自分が自然から一つでも多く理を得るのだと悟った。
どんなに鋭い武器であっても軸が安定してないものには威力が落ちる。
どんなに高速な攻撃でも、目標がずれれば補正は困難になる。
どんなに威力の高い鈍器であっても、宙に舞う紙は砕けない。
目の前にあるものはそのどれも克服した超絶を極める鬼神の一撃。全てを飲み込む生きた災厄である。
しかしそれでも世界に完全なるものは存在しない。
拳が身体に当たったのがわかる。
そのインパクトは的確で、衝撃は瞬く間に体内へ拡散を始めようとする。
しかしそれ以上は起こらせない。自分の攻撃のために捻じった腰をそのまま捻り続ける。そして触れた拳をやさしく身体を伝い位置を、進行方向をそのままに進め続ける。その動作はやさしく卵を包むように、それでいて風の流れを一切邪魔しないで揺れ続ける柳のような脱力を含み、線路を走る電車にたいし、そのレールを切り替えるように軌道をずらす。
しかしそれは百代の軌道ではなく一子の軌道。直撃したはずの一撃に対し、その攻撃を利用して当たる身体を位置や動きの流れをごく自然に切り替えた。
それだけで彼女は爆砕地と紙一重で安全地帯へと移行することができたのだ。
修行で得たもの。それは時間をかけて、今やっと一時的とはいえ実を結んだのだ。
「…………フッ」
しかしそこで彼女は終わらない。真に重要なのはこの後。最強の一撃の最中、だからこそ無防備である百代である。
いなした流れは未だ衰えない。むしろその力を利用して自身の攻撃に上乗せするくらいである。
静かな呼吸と共に彼女は右手の平を握りしめる。薙刀は正拳突きに触れ既に消滅している。ギリギリで手放したその手に再び力をこめ、最後の一撃へと移行する。
それは音もなく放たれた。
実際に放たれた音もなく、当たった際にも衝突音すら起きなかった。
彼女が最後に放った技は川神流『蠍撃ち』。的確に急所へ一撃を与える技。最後の力を振り絞り放たれた蠍撃ち。
しかしその一撃にはもう力はほとんど込められていなかった。
「……え?」
そのことに百代が初めて疑問を抱いた。瞬間回復能力を保有する彼女にとっては致命的なミスを自ら作ってしまったことへの後悔はしていない。だが、まったく威力のないこの技に、わずかな疑問を抱いてしまったが、それがカギとなった。
それまで完全に暴走していた思考回路は、トランプタワーのように瓦解していき、今この状況を把握できるまで正常な状態へと回復していった。
奇しくも、微かに笑う一子を眺めながら。
雨が、降っていた。
一子が病院へ運ばれた後、会場には彼女しかいなかった。
「ぅあ……あぁあぁぁぁぁ……」
恥も外聞もなく、ただひたすらに小さく泣き続ける彼女はもう立つことすらできず、雨の中うずくまりながらただ泣き続けた。
それまで持っていた自信も誇りも何もかもかなぐり捨て、雨に声をかき消されながら泣き続ける。
「ぁあ……、わん……子…………」
ファミリーと大和は付き添って病院へと向かった。川神院の人たちは本来なら会場の片付けや整備などをしなくてはならないのだが、今だけはその他の業務を優先することにしている。
全てが終わった会場で、それでも百代は泣くことしかできない。
「あぁ……うぁああ…………」
破れた服を見る。そこには一子がどれだけ努力を重ねてきたのかがわかる。
「う……うぅ…………」
右手を見る。自分のものではない血がこべり付いている。雨にも流されず張り付いた赤黒いそれは最後の一撃の時のものだろう。あの一撃を全ていなしきれるはずもなく、きっとどこかを抉ってしまったのだ。その痕には一子の、彼女の決死の覚悟がまざまざと感じられる。
「グ……ゥア……」
そして彼女が最後に触れた箇所。あまりに拙い手の平は、彼女の感触しか残さなかったが、今もまだ鮮明にその触感が刻まれている。
そもそも、なぜ今まで気がつかなかったのか。百代の完成された必殺の一撃を、いくら修行を積んだとはいえ未だ成長段階にあるべき一子が全て受け流すことなどできるはずがない。
どんなに頑張っても内部を走る衝撃は筋繊維を破りながら走り、骨を軋ませながら内臓を傷つける。本来なら消し飛ばす程の威力をもつあの技を裂傷と皮膚の一部消失で外傷が済んだだけでも十分に奇跡である。
しかしそれだからこそ。
おそらく一子もそのことを重々予測しえていたからこそ、彼女はあえて百代にこの技を出させた。自身の最後の一撃に、もはや力をこめることすらできなくなることを知った上で一子は正面から受けて立ったのだ。
きっと最後の一撃はそっとなでるだけでいいのだと信じていたから。
そして尊敬する姉に対する、最後の最後で出てしまった愛情なのだったと
「う……ぐ、うぁ……」
彼女はどんな気持ちでこの試合に臨んだのか。どれだけの覚悟で私に……川神百代に挑んだのだろうか。
私も覚悟はできていた。確かにそう自身をもって言えるだけの心の整理はできていたはずだ。彼女を、川神一子を……愛しの妹のためを思い、たとえ今後どんなに恨まれても構わないと覚悟して彼女の夢を砕くはずであった。
しかしどうだろう。ふたを開ければ正反対もいいところ。
彼女の成長や強さを見誤り、決めた覚悟はあっさりかき乱された。そのあげくが調子に乗ってはめを外して自身の未熟な心に心酔し彼女を本気でころ……
「ゥグ…………ッ!?」
あげくに私は……
何よりも愛しいはずの……
い、いもう……とを…………
「殺……そう……と?」
「そこまでじゃ百代!」
茫然と呟く百代の目の前には、いつの間にか鉄心が立っていた。しかし彼女は鉄心が見えていないように目の焦点が合っていない。
「百代、落ち着くんじゃ。確かにお前に非はいくつもあった。しかしそれは一子も承知した上で行ったこと。それに悔むことは間違いじゃぞ」
祖父は静かに語りかける。それはどこか諭そうと言ったものではなく、何かを伝えようとするものだ。
「お前は暴走した。それは自身の驕り、過信、欲求、、不遜、様々な未熟が重なって起こったことじゃ」
百代の右手は未だ震え続ける。
「以前よりその戦闘欲求は高ぶっており、歯止めが不安定になっておった」
もう彼女の眼には右手の赤は消えることはない。
「じゃから一子の思惑にもまんまと乗ってしまった」
「…………」
「誰よりも愛する姉を陥れるような心苦しい真似をせざるを得なかったのじゃ」
「…………」
「まだわからんか? 百代よ、一子はお前に殺してほしかったんじゃよ」
「…………え?」
抜け殻のような百代の身体がわずかに動く。ピクリ、とそれこそ身間違いじゃないかと思うほど微かな動きだが確かに身体が強張った。
「……一子との約束、覚えておるか?」
「やくそ…く……」
それは以前かわした、今回の試合を申し込んだときのもの……
――私に攻撃を当ててみせろ。そうすれば、合格だ。私に防御させても合格――
――一撃、お前の気持ちを乗せて私に当ててみせろ――
「……気持…ち」
そこで記憶が蘇る。
それまでの試合で見せた気迫を、執念と言い表すことすら生ぬるい業火の様な燃え盛る瞳を。
「…………」
彼女は私に本気で行くと言った。
それは当然のことだ。だからこそ私も心が張り裂けそうなほどに痛いのだから。
『なめているなら叩き潰すわよ。本気で来なさい、川神百代!』
彼女は本気であった。だが、肝心の私は、まるで本気で取り組んではいなかった。
全力で彼女の夢を壊すと。
「何が……勝負だ」
彼女は私と、川神百代と純粋に勝負をしたかったはずなのに。
「私は、はなから勝負を決めつけていた……」
それではもはやただの稽古となんら変わらない。相手の意志を尊重し、正々堂々自分より遥かに強い相手を前に戦った一子に対し私の心は彼女との試合に向いていなかった。
それで何が勝負か。
「ワン子は、勝負に勝つと言った」
そこで鉄心が口をはさむ。その口調には少し苦々しい様相も含んでいる。
「百代、気づいておったか? 一子は、勝負に勝つと言ったんじゃ」
「…………勝負?」
この試合……ではなく勝負?
それは、私に一撃当てるか防御させ……
「一子の夢じゃ! それはなんじゃった!!!」
こらえきれずに声を荒らげて叫ぶ。長く生き、達人の頂点に君臨するまで登りつめた彼でさえ、この事実に身震いするほど自身が情けなく思えたから……
「ゆ……め…………」
彼女の夢、それは……
「!!!」
――あたしの夢は川神院師範代になってお姉様を補佐すること♪――
それは常に彼女が口走っていたこと。
――そしてお姉様を手助けしたり、お姉様が迷った時は私が道を探して……――
「……な」
――そして、お姉様が万が一暴走した時は、私が止めるの。だから安心してね、お姉様――
「……あ…あぁ」
そこで全てを理解した。
彼女が何をしたかったのか、その理由と信念の意味を。
「むぅ……情けないことじゃ。百代もワシも……のう」
雨は降りやまない。しかし雲は薄くなり、ところどころ陽光が差し込んでいる。
「私は……」
きっと、雨が止むのも時間の問題だろう…………
「…………と言った経緯で現役JKの私も一つ大人になったのだよキャップ」
「まったく、相変わらずモモ先輩は色んな意味でスケールが違いすぎるぜ」
「真似したいとは思わんがな」
「まったくだね」
白を基調とした廊下をコツコツと足音を響かせながら歩いてくるのは百代にキャップ、モロの3人。今日はやっと面会の許可が下りたということで、風間ファミリー全員でお見舞いに来ているわけだ。
「しっかし、こういうでっかい病院ってのはわくわくするな〜!」
「おいおいキャップ、病院でくらい少しはおとなしくできねーのかよ!?」
「できねー! 俺が俺である限り全力でおとなしくなんかしねーぜ!」
「せめてTPOくらいわきまえられるようにはなってくれなきゃこっちが大変なんだけどね。まったくキャップは成長しないなぁ」
「何をー!? モロだって昨日まで相当大人げないくらいにいらいらしてただろう!」
「う、それを言われると二の句も上げられないよ……」
「はっはっはー、モロロは感情の制御が下手だからなあ」
「モモ先輩にだけは言われたくないよ!」
ガヤガヤと、本気で看護師さんが睨んでくるほどに騒いでいる彼ら3人。その調子は誰もみんな以前のものと同じく、とても明るく活発だ。
「ふぅ、しかしあの雨の後の私の更生物語は最高に感動的だったな〜」
「ああ、あんな弱々しい先輩向こう十年絶対見られないもんな」
「いや〜あの時の俺様の活躍は流石の一言だったよな! 雨に濡れたモモ先輩に無言で上着を差し出す俺様。高感度が一気にマックスまで上がったよな〜」
「勝手な妄想でしょそれは!」
「ああ、あの時は塞ぎこんでたとはいえ思わずガクトの服を粉々にしてしまったぞ」
「……現実はうまくいかないものだぜ」
そんなことを話していると談話室が見えてきた。先に来ていた京、クリス、まゆっちがお見舞いの品をもって彼らを待っている。
「おや、やっと到着だね……」
京が花束をもってこちらに近づく。片手にまだ空いてない缶ジュースがあることから、そんなに時間に差はなかったようだ。
「なんの会話をしてたの?」
「いや〜。モモ先輩の試合の後のストーリーについて。時間や労力の関係上書かれなかったのが残念なくらい秀逸な物語だったんだけどね。」
「おいモロ異次元な会話すんなよ!」
珍しくガクトがツッコミをしていた。
「ところで、大和はどうしたんだ?」
辺りをうかがう感じにクリスが尋ねる。
「ああ、それなら、実は一足先に向かわせているのさ」
キャップは意味深な笑みと共にクリスに伝える。
「? なんでだ?」
「うおっ、そこでナチュラルに疑問を投げかけるとは。流石はクリ公、マジパネエぜ!」
「こら、松風。そういうこと言うものじゃありません!」
「?」
「もうツッコミどころ多すぎるよみんな! これじゃ先に進まないから早くワン子の病室に向かおう!」
「そうだな、大和のことだ。場所と時間など関係なしにキャッキャウフフの酒池肉林だろうからな〜」
「そうそう、頃合いを見計らって私も……参戦するっ!!!」
「あああああああああ、もうみんなフリーダム過ぎだ〜〜〜!!!」
談話室はいつも以上ににぎやかだった。
一方病室では。
「やまとぉ……」
「一子……」
やっとICUから一般病棟へ移された一子は、まだ病状からも考慮され小さいながらも個室が用意されていた。
周囲には誰も居ないということで、みんなより早く来た大和は一子と存分にいちゃいちゃしてたりする。
実際来てから5分もたたずに雰囲気は最高潮に達し、告白→キスまで移行していた。
「一子……」
「ん、だめだよやまとぉ。みんな、来ちゃうから……退院してから……」
「大丈夫さ、ちゃんと策をうっておいたからな。どんなに早くてもあと20分は来ないさ」
「で、でも……恥ずかしいわ〜」
「大丈夫さ、二人しかいないんだ…し……」
「ふわぁ、やまとぉ……」
「…………おい、これは本気でまずいんじゃねえのかモロ?」
「うん、真剣でまずいタイミングだね……」
「おい、何がまずいんだ? 俺にも見せろ〜!」
「キャップはだめだ、キャップにはまだ早すぎるぜ。というかも少し声小さく!!!」
個室のドアからほんの少し隙間を作って覗き込む野郎三人衆。
やっと面会できるということで功を焦った大和は彼らしくもなく策に致命的なミスをしてしまったため、予定していた足止めが働かなかった。そのせいで普通にやってきた一同の壁一枚隔てた中でとんでもない展開になろうとしていた。
「グムー!グムムーーー!!!」
「み、京さん落ち着いて。その嫉妬と羨望の気を断ってください! 一子さんに悟られ……うわ、なんて底力!? 松風、あなたも手伝って京さんをなだめて!」
「大丈夫だぁ京、大和はああ見えて超絶絶倫だ〜! ぱっと見」
「そんなのはとうの昔に知っているわ〜〜〜!!!」
「な、なんて火に油を松風!? く、京さん落ち着いて〜〜〜」
もうなんか色々爆発する京にかのまゆっちも限界寸前。割とてんやわんやなのに病室内は全然気づかない。雰囲気が出来上がってしまったために、当人たちは完全に気になっていなかった。
「もう大和……、こんなところでしかも僕たち来るってわかった上でそんなことしでかそうなんて……」
「おう、流石はずっと溜めてただけあるな……」
「何をだ? なぁガクト、何をだ?」
もう部屋の外もカオスになってきたところで後ろから声が。
「なんだお前ら、何こんなところで固まってる?」
「!?」
「うわ、モモ先輩!?」
流石にいきなり会うのは気まずかったので飲み物を買ってから少し遅れて来ようとした百代がやってきたのだ。
「何している、さっさと開ければいいじゃないか?」
「い、いやその……。今は非常にまずいっていうか、その……」
「(わかってるさ。こんなにわかりやすく騒いでるのに気がつかないワン子と大和が悪い……)」
そっと呟いた百代。その眉間には軽く青筋が……
ガチャッ!
「よっ! ワン子元気になったか〜〜」
「「!!!????」」
そこで時間が止まった。
止めに入って廊下の壁にめり込んで割とグッタリしてるガクト以外は顔から血の気が引いていく。
大和と一子は顔を真っ赤にしたままだ。
「しかし若い者二人とはいえなぁ……」
「うぅ、だから言ったのに……大和」
「それはすまん。正直性欲に負けてた俺」
病院のベットの上で正座させられた一子と、冷たい床の上でさらに膝にバックを置かれた大和の前でぐちぐちと京が説教をたれている。非常に和やかだ。
「……ワン子、改めて言う。すまなかった!」
そこに百代がいつにもまして真剣な表情で言う。そこは武人としての非礼を詫びるもであり、また一人の人としての謝罪の意も込められている。
心からの謝罪。普段の百代からは想像もつかないほど珍しい光景だ。そんななか当の一子は……
「何がお姉様?」
「…………」
一切心から思い当たる節がないというばかりにきょとんとしている。あまりに無邪気だったため、百代も思わずため息をつき、そこからいつも通りの笑顔に変わった。
「ははっ。まったく、お前には敵わんなワン子」
「そうね〜、あの勝負、最後にはっきり勝利したものね〜♪」
少々内容が食い違っているものの、無意味なまでに胸を張る一子。それもそのはず。彼女はついに、それこそ血がにじむまで努力した結果奇跡とも言うべき勝利を手にしたのだから。
「……ああ。今回は完全に私の負けだ。それだけは認める」
しかしそこで百代の顔はいつかのように険しくなる。
「だがワン子。この試合でお前に可能性があることは分かった。だが、それでも師範代補佐への道は限りなく零に近いぞ」
それは残酷だが告げねばならないこと。どんな状況でも、どんな場面であってもごまかし絵はいけない事実である。
この一言で周囲の空気はいっきに鈍重としたものと変わる。真実を知った風間ファミリーは、この件に関し皆重く考えている。
一子を応援する者、百代の意見を尊重し一子に他の選択肢を用意することを考える者、そのどちらともつかず未だに悩む者。それぞれが自分の意志を持ったうえで思案し続けている。
百代はこの試合に勝利したことで一子が夢に近付けたとは思っていない。
「お前はどんなに頑張っても私たちよりも才能がない。努力で補えるということを試合で実証したとはいえ、可能性が実現するのは本当に微かだ」
むしろより厳しくなった。下手に可能性ができたことにより、その道が歩んでいけるとわかったからこそ、その道のりが如何に脆く危ういものなのかを知ったこととなるのだ。
そしてもし時を経て、彼女が挫折したとき。その絶望に百代は全身の毛が逆立つ思いになった。
だが、それを聞いても一子は一切顔色を変えない。むしろ表情が明るくなったと思えるほどだ。
「何を言ってるのお姉様。そんなに困難なら実現のし甲斐があるってものよ!」
彼女はいつもの調子で答えていく。その顔は以前より毅然としたもので、まったく言葉に迷いは感じられない。
「目標が困難であろうとなかろうと、そんなことあたしには関係ないわ。ただ勇ましく、進んでいくのみ。それが川神魂ってものでしょ?」
どんな恐怖も乗り越えよう。
いかな苦労も耐え抜こう。
「…………そうだったな。ワン子」
ついに一子に屈服したのか、百代の顔はいつものように綻びだす。
これが彼女の持つ力なのだろう。
光る街に背を向け 我が歩むは果てなき荒野
奇跡もなく、標もなく ただ夜が広がるのみ
揺るぎない意志を糧をとして 闇の旅を進んで行く
「うん、絶対にお姉様を補佐するんだから!」
「勇往邁進!!!」
説明 | ||
やっとこさ書ききりました。 連日スパートかけました。 実際結構量多くて文字数的に全体の1/4でした。。。 最後ですが、挿絵もはっちゃけ過ぎたので、最後らへんだけでも見てもいいと思いますです…… ……疲れたぁ |
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