ロマーノと悪友4【腐】 |
ロマーノと悪友
ヴェネチアーノと暮らすようになって、ロマーノの体調はいくらか回復していった。無くなった味覚が戻るぐらいには。ヴェネチアーノが本心で、必要としてくれたのか、彼が作る美味しい料理のおかげか。
「畑に行ってくる」
「ヴェー、行ってらっしゃい」
ちょうどトマトの収穫時期だ。一つ取って、服の裾で拭いて口に運ぶ。
「うん。さすが、俺だな」
今年の格別に甘い。甘い中にも酸味がちゃんと生きている。今まで、一番良い出来かもしれない。消える前にこんな美味しい物を作れて良かったと思う。
二人分にはしては多いが、収穫出来る分は収穫してしまう。余った物は、お世話になっている人にお裾分けをすれば良い。籠に入るギリギリの所まで入れて、家に戻ることにした。
畑側に面した裏口のドアを開けると、ヴェネチアーノ以外の男の声が聞こえた。
「イタちゃん、かわええわぁ。なんで、こんなにかわええのやろ」
「おい、スペイン、早くお兄さんに変わってよ。ハァハァ」
「イタちゃーん、ジャガイモどこ?」
もうすでに見慣れた、フランス、スペイン、プロイセンがヴェネチアーノを囲むように話している。スペインに至っては、後ろから抱きついていた。
ロマーノの家に来ても結局用があるのは、ヴェネチアーノ。最初に声をかけるのも可愛がるのもヴェネチアーノが最初。時間が経った後、思い出したかのようにロマーノを可愛がる。それが、何千回も繰り返されれば、もう何も感じることはない。ただ当たり前のように風景として、ロマーノの目には映った。
見つからないように、そっと、キッチンに籠を置き、ロマーノは自室のベッドに横になる。さっきまでは、上手くトマトを育てられた自分を褒めていた筈なのに、今は自分が嫌で嫌で仕方がない。何が嫌なのかも分からない。ただ、こういう事が今までにも何度もあった。だから、これもいずれ、風景と同じになる。感じなくなる。
いや、きっと、何も感じなくなる頃に自分は、もうこの世界には居ないじゃないかと、ロマーノは思っている。心が壊れる前に身体が壊れる。
「戻って来たらな、挨拶ぐらいしに来いよな」
「……なんだよ、ジャガ芋2号」
「いやいや、俺様の方がお兄様だから」
肩を揺らされて、ゆっくり目を開けてみると、ギルベルトが居た。ベッドに腰をかけている。
「イタちゃんが、昼飯くえって」
「イラねぇ。お前、食っといて」
そう言い、目を閉じる。食欲は無い。今、食べたら確実にもどす。
「スペインが、褒めてたぞ。トマトがうまいって」
「あっそ」
トマトがうまいのは、今に始まったことじゃない。うまくなかったら、ここまで広まらなかっただろう。それに、スペインは、大抵どのトマトを食べてもうまいと言っている。
「飯ぐらいちゃんと食わないと、消えちまうぞ」
「もう、消えかけてんだから良いんだよ」
一度消えかけたプロイセンになら分かるだろう。ここまで来たら、どうしようもないことを。統一された以上、国は一つだ。どんなに文化が違っていてもそれは変わらない。
「俺様は、偉いからな。芋食ってたら、消えなかったんだぜ。だから、お前もトマト食って来いよ」
「そんな時期、とっくに過ぎたっつうの」
どんなに頑張ってもどうしようもないことが、沢山ある。頑張った結果が必ず良い物になるとは、限らない。
「……イタリアには、俺はいらない。ただ、それだけだろ」
プロイセンのように必要とされなかったら、後は消えるだけだ。だいたいプロイセンの方が、例外だ。どんなに力あった奴でも、国でなくなった時点で消える。ローマ帝国のように。
「なあ、ロマーノ。お前、未練とかないのか?」
「ない」
唯一の未練だったトマトは、無事に食べる事が出来た。これ以上、ここに留まることは無い。
「そっか」
「おい、やめろよ」
髪をぐちゃぐちゃに撫でられ、抵抗するために目を開けた。
「え、気持ち悪いぞ。その顔」
「何々、格好良すぎて、鼻血が出そうだって? 出せ出せ。盛大に出せ」
優しく、慈しめるような、表情。ぐちゃぐちゃになった、髪は丁寧に直して行く。
「もし、あっちの世界で、親父にあったらよろしく言っといてな。あと、ゴメンって」
「誰が言うかよ。それに、お前の親父なんてしらねぇ」
「ケセセセ。それもそうだ」
直し終わったのか、最後に頭をポンポンと軽く叩かれた。
「帰る時ぐらいには、顔出せよ。じゃないと、スペインが、泣き出すからな」
そう言って部屋から、出ていった。
「ウルセー。そんなの俺の自由だ」
「帰るのか?」
目が覚めて、水を飲むためにキッチンに行くと、スペイン達は帰る支度を初めていた。てっきり、夜までいると思っていたから、意外だ。
「ロマーノ! もう、具合はええの?」
「ああ、それなりに」
額に手を当てて熱を計るスペイン。
「うーん、なんや、熱いちゅうか冷たすぎへん?」
「気のせいだろう」
「気のせいちゃうもん。親分の熱、分けたるで」
「……離せ」
抱きついて来るスペイン。ロマーノは、抵抗せず言葉だけで、反抗する。
「アカンよ。具合悪いのに、薄着で居ちゃ」
スペインの体温は、服を着ている上からでも分かる。暖かくて、全てがどうだってよくなる。
ロマーノは、このまま消えることが出来たら、それが一番いい幸せのように感じて仕方がなかった。
「ロマーノ、聞いとる?」
「ああ。聞いてるから、離せ」
だが、このままではいけない。消えるなら、誰も居ない所で、静かに消えるのが一番だ。特に、スペインには消える所を見せたくない。誰よりもロマーノに愛情と時間を費やしたのは、間違いなく彼だからだ。最後ぐらい迷惑をかけたくない。
「ほら、早く帰るよ。今度は、ロマーノが元気な時に遊びに来るからね」
「もう、そんなにせかさんといて」
力が弱くなかった所を見計らって、フランスが声をかけた。
「イタちゃん、飯旨かったぜ。今度は、俺様の家にご招待するぜ。ヴェストも喜ぶだろうしよ」
「ヴェ、楽しみにしてるね。フランス兄ちゃんもスペイン兄ちゃんも、今日はありがとう」
別れの言葉を言いながら、玄関で見送る。三人は、車に乗り早々に行く。最後まで、スペインがようやく出てきたロマーノに構いたくて仕方がなかったが、そこは、悪友が、うまくたしなめた。
「兄ちゃん、大丈夫?」
閉じられたドアを見つめたまま動かなくなったロマーノ。
「……寝る」
「ええ、起きたばっかりなのに!」
「うっせ。眠いから、寝るんだ」
ヴェネチアーノが何か言っているが、ロマーノは聞こえないふりをして、部屋に戻った。
――――――もう少し、あと少し、あと、ナンニチ? なんビョウ?
不安定な身体と心を抱きしめるように、また眠りにつく。
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・APH ・4話目 ・消失 |
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