真・恋姫†無双 〜祭の日々〜19 |
祭さんたちが帰ってくるまでの間、俺は秋蘭とたくさんのことを話していた。
出会ったころの昔話から始まって、そして俺がいなくなった後のことまで。
「泣き出す者はな、まだいいのだ。感情の捌け口を持っている。問題は泣けぬほど打ちひしがれている者で・・・」
「ご、ごめん!本当に悪かった!もうやめてくれぇ・・・!」
聞けば聞くほど罪悪感に苛まれる。もちろん、それを聞くことで自分がどれだけみんなを傷つけたのかを知るのはとても大事なことだが、いかんせん刺激が強すぎる!
「いーや、最後まで聞いてもらうぞ。お前にはその義務があるだろう?」
「うあああ・・・」
頭を抱えてうずくまっていると、扉が開いた。
振り向くと、そこにいたのは趙雲さんだった。
「遅くなりましたかな。これでも急いできたつもりですが」
そういって部屋に入ってくる彼女の後ろには、こちらを窺う張飛が隠れている。扉を閉めると、趙雲さんは隠れていた張飛をぺいっと前に押し出した。
「ほら、鈴々。言う事があるのだろう」
その声には若干の厳しさが含まれている。その声に、張飛はおずおずと俺の前にやってきた。
秋蘭は少し警戒したみたいだったが、すぐにそれを治める。
なぜなら張飛は、俺にもわかるくらい、殺気というものがなかったからだ。
そこにいるのは、その見た目どおりの小さな女の子だった。
「あ、あの・・・」
震える体で、必死に言葉を紡ぐ。
「ご、ごめんなさいなのだ・・・!」
結局、出てきたのはまっさらな謝罪の言葉。頭を深く深く下げて、彼女は俺に詫びている。
言葉を続けようとするが、うまく出てこないのだろう、口をもぐもぐとさせている。
俺は思わず手を伸ばしていた。
「っ!」
びくっ、と体を震わせる張飛。
その赤みがかった髪を、優しく撫でてやる。
「にゃ・・・」
「よしよし」
無遠慮だったかもしれない。だが、俺はこうするのがいちばん良いことだと思った。
季衣や流琉のことを思い出す。
彼女たちも悪戯をすることがよくあったけれど、謝るときはこんな風に泣きそうな顔をしていたっけ。
そんな俺を、秋蘭は微笑んでみていたし、趙雲さんは驚いたような眼で見ていた。
「・・・こんなことを私が言うのはおかしいのでしょうが」
そんな前置きで、趙雲さんは俺に尋ねかける。
「うん?」
「よく許してやれますな。仮にもつい先刻まで、あなたを殺めようとしていた者ですぞ」
言われて、さきほどの張飛の剣幕を思い出す。
泣きながら向けられた殺気は、恐ろしくも悲しかった。
だけど・・・引っかかっていることがあったのだ。
「うーん・・・確かに怖かったよ。殺されるのも嫌だしね。だけど、ひとつ気になっていることがあるんだ。
なあ、張飛。君、本当に俺を殺す気があったのかい?」
その言葉に、彼女は思わずといったように目をそらす。
「あ、当たり前なのだ・・・鈴々は・・・」
「じゃあどうして、槍を持っていたんだい?」
秋蘭と趙雲さんが、ほう、と感心したような顔をした。やっぱり彼女たちも気づいていたのだろう。
「君には、蛇矛・・・だっけ?っていう、愛用の武器があるんだろう?君は武人だ。どこに行くにしたって、武器は持参しているはず。なのにどうして君はあのとき、槍を持っていたんだろう。そりゃもちろん、よわっちい俺を殺すのに武器なんかなんでもいいのかもしれないけどさ」
きっとそうじゃない。おそらくそれこそが、彼女ができる最大限の抵抗。表面的なものではなく、深層心理から現れた感情。
武人としてか、もしくはもっと人間的なものかはわからないけど。
・・・彼女は殺したくなんて、なかったのだ。
「君はとてもやさしい子なんだね」
首を大きく横に振る。何度も、何度も、強く。
「ち、違う、違うのだ、鈴々は・・・鈴々は悪い子なのだ・・・っ、ひっく」
うつむいて、俺の膝に顔をこすりつけるように抱きついてくる。
「ご、ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・!」
その小さな体を抱きしめてやる。
誰よりも強くて、誰よりも純粋なこの子に、少しでも寄りかかってほしかった。
「お願い・・・お願い、なのだ・・・っ」
「うん?」
途切れ途切れに漏れる声を、なんとか聞きだしてやる。
「お姉ちゃんを、助けて・・・」
ぐずぐずと鼻をすする張飛の懇願は、俺たちにとってとても大切なキーワードのように思えた。
今まで静観していた秋蘭が、我慢できないというように畳み掛ける。
「張飛、それはどういう・・・」
「秋蘭」
だけど、俺はそれをとめた。
秋蘭はどうして?と目できいてくる。
「そういう話は、祭さんが帰ってきてからにしよう。二度話すのは手間だし、又聞きじゃ大事なところを省いてしまうかもしれない」
納得してくれたのか、ふむ、と頷いてくれる。
嗚咽がおさまってきたらしい張飛の頭を、もう一度だけ撫でる。
「さて。祭さんたちはまだみたいだし、なにか食べるかい?お腹すいたろう」
その言葉に返事してくれたのは、彼女ではなく、そのお腹だった。
きゅー。
なんともかわいらしい音だ、とおかしくなってしまう。
「にゃ・・・」
恥ずかしそうにする張飛。泣くのって、けっこう体力使うんだよな。
「張飛は・・・」
「鈴々」
「ん?」
「鈴々って呼んでほしいのだ・・・」
「いや、しかし」
嬉しいが、罪悪感で言っているのなら止めたほうがいいだろう。
真名とは確かに大事なものであるが、だからといって謝罪の証として渡されるものではないはずだ。
「受け取ってやってくだされ」
悩む俺にそういったのは、趙雲さんだった。
「鈴々はなにも詫びのつもりで真名を許したのではありません。いや、もちろんそれも含まれてはおるのでしょうが」
「そうなのだ!えっと・・・ごめんなさいと、ありがとうと、あと、これからも仲良くしたいなっていうお願いなのだ!」
だめ?と目で窺ってくる。
「いや、だめじゃないよ」
そういうことなら、素直にうれしい。
「俺は・・・って、そういや、ちゃんと名乗ってなかったなあ。俺は北郷一刀。真名はないから、好きなように呼んでくれるか」
「じゃあ、お兄ちゃんって呼んでいい?」
「ああ、かまわないよ」
えへへー、と抱きついてくる。さっきみたいにつらそうなのではなく、甘えてくるようなその動作に、思わず頬がゆるむ。
「おやおや、魏の種馬殿は幼子もいけるクチですかな?よもやそうでないとそそらないというわけでは・・・」
「ちょ、ちょっとちょっと」
趙雲さんの中で俺のイメージが大変なことになりつつある・・・!
「そういうんじゃなくてね、」
「ちなみに私の真名は星です」
「はいぃ?」
「これからはそう呼んでいただけますかな。まさか私のだけは受け取れぬなどとは申されますまい?」
「えーっと」
そうは言いませんが、話の展開が急すぎて頭が回らないのです。
「いいの?まだそんなにお互いを知らないと思うんだけど」
よくよく考えてみれば、華琳たちに出会ったときもお互いをよく知らなかったけれど。でもアレは俺が真名の概念を知らなかったからだしなあ。
「確かに視線を交わし言葉を交わしたのは先ほどですが、細かいことはよいではありませんか。良縁というものは過ごした時間の長さで決まるものではないでしょう?これでも人を見る目はあるつもりです」
妖艶に笑う趙・・・いや、星に、思わずどきりとする。
「・・・ありがたくいただくよ、星。君の目に適う人間かは、これからの俺の努力しだいって事で、気長にみてやってくれ」
「ふふ、楽しみにしておりますぞ」
そんな会話のうしろで、秋蘭がため息をついていた。
「・・・まあ、帰ってから華琳さまにお任せすればよいか・・・」
まるで死刑宣告みたいだ、と。
そう思ったのは、俺の気のせいであってほしい。
走る、走る、走る――。
人をかきわけ、ただひたすら、どこか人の目につかないところはないかと。
気づけば街の城壁まで来てしまっていた。
「はっ、は、はぁ、はぁ・・・」
城壁に手をついて、息を切らせる。
走っていたことよりも、もっと別の理由で鼓動が止まってくれない。
・・・鈴々ちゃんが北郷さんを殺しかけていた。
秋蘭さんと蓮華ちゃんと星さんがなぜかいて、それを止めていた。
そこまではよかった、けれど。
その騒動の後ろに、見知った人影を見た。
違う、本当はその姿を見たことはない。けれど、確かに私はその人を知っていた。
だから逃げた。恐ろしくて、怖くて、とにかくあそこにいてはいけないと思った。
あの、人影は。
私に囁きかけてくる声の主のような、気がして――。
「やれやれ、失敗ですか」
「・・・っ!」
誰もいなかったはずなのに、いつのまにか背後に人がいた。
眼鏡をかけた青年と、なにが気に食わないのか眉間にしわを寄せている少年。
「こちらに分があると思っていたのですが、時間をかけすぎたようです。思ったよりも抵抗が強かったですか。三人の中ではいちばん操り易いかと思ったのですが、さすがは王といったところ」
「ふん・・・お前がぐずぐずしているから、あの変態どもに追いつかれちまっただけだろう」
「ああ、それもありますね。まさかこんなに早くつくとは思いませんでしたよ」
「あ、あなたたちは・・・!」
私のことなんかまるでいないみたいに話を続けるそのふたりは、どうしようもなく不気味だった。
「ああ、姿を見せたことはありませんでしたね、劉備。ですが残念です、名乗る暇もないようだ」
「え・・・?」
「手遅れになる前に、この外史の“支持者”を少しでも減らしておかなくてはね。そのためには・・・」
ぎらり、と光る短剣が、青年の長い袖から現れる。
「あなたを殺してしまうのが、いちばん手っ取り早い」
最初からそうしていればよかっただろう、とやっぱり不機嫌そうに少年がつぶやく。
そうですねえ、なんて相槌をうっている青年が、笑顔を崩さないのが余計に恐ろしかった。
「わ、たしは・・・」
だけど、もう、逃げられない。否、逃げない。
何度も何度も私は逃げてきた。蓋をして、目を覆って、背を向けてきた――いろんなことから。
たくさんの人に迷惑をかけた。今もかけつづけている。
悪戯に国を揺るがした罪に相応しい罰を、私は知っているし、自覚している。
この先に私に何が待ち受けているか。
それを想像するだけで、少しだけ足が震えるけれど。
腰に佩いていた剣を抜き取った。
「む・・・?」
その余裕ありげだった相貌が少しだけ崩れた。そんなことだけで、ひどく嬉しい。
「・・・あんまり、舐めないで。私だって戦う。もう――私は逃げない」
その言葉は、きっと自分に言い聞かせるためのもの。
それを知ってか、青年は鼻で笑った。
「逃げないなら好都合。・・・死んでください」
短剣が迫る。
剣を構えてはみるけれど、きっと防げない。
――ああ、華琳さん。あなたの言うとおりだね。王様にだって武芸は必要だった。
・・・・・
・・・
・・
・
いつまでたっても、鋭い刃は私を襲っては来なかった。
なぜかといえばかんたん。
もっと強い剣が、立ちふさがっているから。
「桃香、無事か!」
「え・・・れ、蓮華、ちゃん・・・?」
その強い眼差しに、私は雪蓮さんの面影を見た。
・・・その、後ろで。
「え、え、ええええ?れ、蓮華さまぁ〜?」
ひどくうろたえている明命ちゃんがいた。
説明 | ||
かつてないほど間が空いてしまいました・・・! 待っててくれた人(そんな人がいるのかどうかは疑問のままにしておくとして)、ごめんなさい。 ちょっとドタバタしてまして、更新が遅れてしまいました。 今回もやっぱり視点が安定しませんが、次か、その次辺りには一刀くん視点に固定できると思います。なったらいいと思います。 ていうか祭さん!祭さんが出てないよ!本当にいい加減にしろ自分! でもまあ、着実に終わりに近づけていると思います。けっこう自己満足な感じがありますが、ここまできたら最後までやるぞと心に決めております。 たとえ誰も見なくなっても・・・(涙目)! 楽しんでもらえたらそれがいちばんですけどね。ではでは。 |
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コメント | ||
ついに蜀将にまでフラグを立てるとは…よほど去勢されたいんですねぇ〜一刀君(笑)まぁ、魏に誇るロリーズ(あえて誰かは申しません)も手懐けていますから、予想は出来ていたのですが…やれやれ…あれっ?祭さんは?桃香さんは結局どうなるの?『外史否定派』は?無印では英傑三人と戦ってましたよね、彼…(レイン) 蓮華に変態ホモに勝てる武があるかな?(ブックマン) このロリコン共め!<●> 鈴々は根が素直だし、説得は容易でしたな。相変わらず詰めが甘いホモ野郎にはもっと頑張ってほしいもんですw そして御尻様がヒロイックに桃を救出ですかw このままでは百合に目覚めて……何の問題もないですね^^(ジョン五郎) 蓮華!蓮華!!一刀は死亡フラグなんとかしないとまずいっすね(りばーす) 一刀は優しいわ~♪ ついでに死亡フラグ立てってるけどな~♪(杉崎 鍵) なんてすばらしい正義の味方登場!!(motomaru) 今回は鈴々の可愛さに脱帽ですねww そしてやっぱり一刀くんは暖かいです。 最後、抹殺命令を下されてた中でも桃香を助けたシーンは蓮華らしさがでていてよかったです。(tomasu) お待ちしていますとも!影でこそこそしていた奴らがいよいよ舞台に上がってきましたか。しかも直接桃香を狙うとは…蓮華に助けられてもまだ危険な状況には変わりないですし、次に駆けつけてくるのは一体誰かな?(自由人) truth様>報告ありがとうございます!すぐ直します。(Rocket) お待ちしておりましたぞ! 秋蘭にさんざんいわれたらつらいよなぁw まぁがんばれ一刀w とりあえず、鈴々かわいいより鈴々(よーぜふ) 一刀らしいと言えばらしいですが。鈴々の手からは助かっても結果的に華琳様に殺されそうに^^(ある意味日常でも死亡フラグがついてる^^)(美鷹鏡羽) |
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