りっちゃんと俺。
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何の気もなしに覗いた文化祭のはずだった。

懐かしいな、高校。その程度のことしか思っていなかったはずだった。

 

 

ちょうど去年もこの時期に例年通りに文化祭が行われていた。

何でもそれなりに盛り上がったライブがあったらしい。ヴォーカルの子が可愛いだとか、真偽はさだかじゃないがパンツが見えただとかそんな話ばかりだったが、とにかくライブは良かったらしい。

すこし気にはなったが、もともと音楽にもバンドにもさして興味はなかったのでへぇと思っただけだった。

 

話は今年の文化祭の前日にもどる。

友達から「学校祭見に行かないか?」とメールが届いた。

特にすることもなかったし、ちょうどバイトも休みだったことも手伝って付き合うことにした。が。

「高校生見に行くってことだよね?」と訊ねるとそいつは「まあそうなるね」と答えた。

「俺たち25歳っすよね、今年26っスよね?」と聞き返すと「まあそうだね」と返された。

「・・・なんかまずくない?」付き合うことにしたものの知り合いもいない高校の学校祭に行くのは気が引けた。なんとなく犯罪的な匂いがしたし。

「あっしーは全く、考えすぎだよ。盗撮にいくわけじゃないんだから」

確かにそのとおり。やましいことをするつもりは一切無い。だけど、高校生っすよ?

「まあまあ、目の保養に行きましょうや。可愛い子いるかもよ?」

そういって説得する友達に気おされ、結局付き合わされることになった。

確かに、最近まともに見た女の子なんて残念な妹くらいだ。バイト先に来る客なんてナスやかぼちゃと変わらないし。内心期待していた部分もあったのは確かだ。

 

そして、文化祭当日。

熱心な友達は、朝一から行きたくてしょうがなかったらしい。

八時に電話が鳴ってから俺が起きるまで鳴らしてきた。時間にして30分。

15分くらいで完全に目が覚めていたがなんとなく意地になってそれまででなかったのだ。

「遅い!早く行かないと終わっちゃうだろ!?」

第一声がそれだった。どんなけ期待してるんだよ・・・。大体期待すればするほど外れた時の落胆はでかいぞ。

「大丈夫だって、少なくても昼過ぎまではやってるから」

「ライブはわかんないだろ?」

ああ、ライブね。高校生のバンドだっけ?学校でやってるのなんか知れてるんじゃないか?

「りょーかい。ちと待って、すぐ準備する」

時間制限があるならば仕方ない。重い腰を上げてささっと準備する。

 

15分ほどで準備を終えると友達は既に家の前で待っていた。

「さ、はやくはやく!」

「急いだってしかたないって」

そういって靴を直して、目的地の高校へ向かう。

歩いて30分ほどで到着した。

校門をくぐるとまだ始まったばかりだったらしく、準備に追われながら接客している高校生たちがいた。

「いらっしゃいませー!桜高文化祭へようこそ!」

「やきそばいかがですか!」

「たこ焼きいかがですかー!」

そんな如何にも学校祭的な掛け声の中、友達はキョロキョロと何かを探していた。

 

「なにか探してんの?」

そう聞いてやると「プログラムだよ、プログラム」とこっちも向かずに答えた。

ライブみたいんだったな、そういや。

そのままふらふらと友達の後について歩く。

「あった!」そういってはしゃいでプログラムをもらいに行く友達。

おーい、もう俺たちいい大人っすよー?と心の中でつっこみながら様子を見守っていた。

 

その時、何となく移した目線の先にお化け屋敷の模擬店をやってるクラスがあった。

「ほんとにお化け屋敷なんかやるんだ・・・」と感心していると元気な声が聞こえてきた。

 

「はーい、次の方、どぉぞ!」

どうやら受付の女の子らしい。髪は短めで黄色いカチューシャをしている。明るい笑顔で客さばきをしていた。

「高校生若いなぁ」と思ったことをついつぶやいてしまったらしい。

「おいおい、おっさんかよ?」そうつっこまれてプログラムで頭を叩かれた。

「まあ10年近く前のことだしさ。それで、時間は解った?」

「おうよ、ばっちり!午後かららしいね」いい笑顔だった。

「…まだ結構あるじゃん」

「いいだろ、どうせ模擬店回るんだから」

確かにそのとおりだったので「まあね」と同意しておくと気をよくしたのか張り切り始めた。

「よーし、まずは朝飯からだな!」

「あいよ」

とりあえず友達について歩くことにした。行きたい場所があるわけでもなかったので。

 

そんなこんなで空腹を満たしていたら時間は簡単に過ぎた。

あっという間にライブの時間を迎えた。

「いよいよ本番だな!」

テンション高いなぁと感心しているとステージが暗転した。

 

一曲目、二曲目とライブは進んで行く。

そんな中、あまり興味が無かったはずのバンドがとても楽しそうなものに見えてきた。

どうやら演奏はすこし失敗しているようだったが。

ベースの子も、ギターの二人も、キーボードの子もすごく楽しんでいるようだった。

そんなメンバーの中でも自分の目に一番輝いて見えたのはドラムの子だった。

音楽のことはよくわからないが楽しんでいることだけは解る。

気がつけば、友達よりも熱心にライブを見ていた。

途中のMCでドラムの子の名前は「リツ」という名前だと知った。

不思議と、その「リツちゃん」から目を離せなくなった自分がいた。

解りやすくいえば、完全に恋に落ちていたといってもいいだろう。

何故だかは自分でも解らない。ただただ10コ近く離れた女子高生に心を奪われていた。

それはどうやら事実だったようだ。

 

こういう場合どうすればいいのか。となりで見入っている友達をよそにライブもそっちのけで考え始めた。

何せ相手は高校生。下手すれば法律に触れてしまう。さて・・・。

そうやって一人自問自答していたらいつの間にか演奏は終わっていた。

「いやー、可愛かったな!ギターの子もベースの子も!」

興奮しきりの友達はライブの感想を話し始めている。

「いやいや、ドラムの子だって・・・」

「ん?なんて?」

いかんいかん、また思わずつぶやいていたらしい。

はっきり言ってライブの感想よりも現在抱えてしまった心の病について考えなくてはならない。そう思っていた。

友達はとなりであーでもないこーでもないといっていたが全く耳に入ってこなかった。それほど集中していた。

必死の自分会議で出た答えは「チャンスは今日しかない」だった。

ダメ元でもいうだけ言ってみよう。確実に後悔する。そうやって自分を追い込んだ結果だった。

ライブが終わった後、彼女のクラスと思われる教室の前に行ってみたがどうやらいないらしい。

友達もほっぽって学校をぐるぐると探し回った。

しかし、一般公開の時間はあっさり終わってしまって片付けが始まってしまった。

結局見つけられずに諦めることになった。

「まあ、見つけたとこで言う言葉も考えてなかったしなぁ・・・。相手高校生だし」

そうやって自分を納得させ、友達と合流した。

帰り際、「あっしー、どこ行ってた?探しはしなかったけど心配はしてたよ」などと本心がわからない発言をした友達だったが俺自身は心ここに在らずだった。

「うん、まあね」と適当に答えて、「なんか今日は歩き回って疲れたからココで解散しますかね」と言い訳をつけて帰ることにした。友達も納得してくれたらしい。

「まあ実りは無かったけど保養はできたしね」と言い残し帰っていった。

 

「はぁ・・・。完全にやられてしまったな」

一人つぶやいて目を閉じた。

思い出されるのはライブの光景。

フィルターがかかっていたとも思えるが「リツちゃん」のまわりにはエフェクトが見えた気がした。

「はぁ・・・」

何度目かのため息をつくと、無性に喉が渇いたので近くのコンビニに行くことにした。

しかし、一番近くのコンビには自分のバイト先なのでそれより少しはなれたコンビニを選んだ。

あたりはだいぶ暗くなっていて、すっかり夜になっていた。

夜でもまだ充分暖かい気温だ。ライブで聴いた曲を鼻歌で歌いながらコンビニを目指した。

「フンフンフーン、ふんふ・・・ん!?」

 

この瞬間のことを奇跡と呼ぶんじゃないだろうかと思った。

探していた「リツちゃん」が同じコンビニに来ていたのだ。

 

「ど、どうしよう・・・」

あまりに突然過ぎて陰に隠れてしまう俺。余計に怪しい。

とはいえ、こんな再開は全く予想していなかったから仕方ないともいえる。いや、仕方ないに違いない。

しかし、このままではせっかくのチャンスを不意にしてしまう。

そう思い直し、「リツちゃん」の様子をうかがうことにした。さらに怪しかったが。

 

「ありがとうございましたー」

その声で確認すると「リツちゃん」が店から出るところだった。

ここで見失うともう一生会えない。勝手にそう思い込んでいた。

「ちょ・・・っ!」

なんて声をかけるべきか解らなくて口ごもる。

それでもなんとかふりしぼり、

「あの、すみません!」と叫んだ。

 

「え?ワタシ?」

キョトンとする「リツちゃん」。当たり前だ、いきなり話しかけられれば。

 

「・・・な、なんでしょう?」

笑顔ながらも明らかに警戒している表情だ。すこし引きつっている。

「えと、えっと・・・あっ!あの、ライブ見てました!」

何を言うべきか解らず、間を持たせるために口走っていた。

「え?ホント!?学祭に来てくれた人ですか!?」

どうやらうまくいったらしく、彼女は嬉しそうな顔して言葉を返してくれた。

しかし直ぐに顔を曇らせて。

「あ、でも演奏、ひどかったですよね?」

申し訳なさそうに続けた。

「いやいや、そんなことなかったですよ。とても楽しそうでした」

なんとか会話を続けるのだけで精一杯だった。

「普段はもっといい演奏できるんですよ?色々かさなっちゃって・・・。あ、もしかして」

少し恥ずかしそうにそういいながら何かに気がついたようだ。

『ヤバイ、思いに気づかれたか』と思った矢先。

「スカウトの方ですか!?」

と、目を輝かせながら聞いてきた。

「あ、いやそういうんじゃなくて」

困り顔でそう答えると、彼女も一瞬表情を暗くした。

けど、すぐにもとのキラキラした笑顔に戻った。

「それじゃあ、ファンの人・・・とか?」

答えに迷ったが間違いでもないので「そのようなものです」と答えた。

 

「え!?ホ、ホント!?」

自分からファンですかと聞いた割に自信はなかったらしい。

「う、うん。その、演奏聴いて感激してね」

 

「え゛?あの演奏でですか?」

急に疑うような目つきになった。

疑われているのに俺は「よく表情の変わる子だな」なんて思っていた。

「あの?」

「え、な、なにかな?」

すっかり見とれてしまっていたみたいだった。

「それで、なんか用ですか?」

どうやら完全に疑われているようだった。当たり前といえば当たり前だが。

そんな状況の中、俺は完全にテンパった。

「あの、付き合ってください!」

「ごめんなさい」

「早!?」

あまりの早さにつっこみを入れたがココで諦めるわけにはいかない。一世一代のチャンスだから。

「も、もしかして、付き合ってる相手いるとか?」

探りをいれ始めた。納得いく理由ならば諦めることもできる。

「それは、別にいないけど」

「じゃあ、好きな人がいるとか?」

二つ目の質問で敗色はさらに濃厚になった。(というか一言目で負けているのだが)

しかし、答えは意外なものだった。

「それもいないです、けど」

そこまで言って俯いた。

「けど?」

答えが聞きたくてつい促してしまった。言ってから「しまった」と思ったが続きが返ってきた。

「その、そういうこととか考えたことなくて・・・あはは」

照れ隠しのような笑顔でそう答えた。

「そ、それに、お互いのこともよく知らないし、それに、こういうことも経験なくて」

どうやら彼女も混乱しているようだった。

「そ、そうだね。いやいや、こちらこそいきなり変なこと言ってごめん」

明らかにギクシャクした感じで頭を下げあう二人。コンビニの前で。

それは完全に異様な光景だった。

二人ともそれに気づいたがそれどころでもなかった。混乱してて。

だが、年長者たるものここで機転を利かせなければいけない。

「えっと、ここで話すのもアレだし、近くの公園とか、どうかな?」

この発言のとき、いかに頭が回っていなかったかが直ぐ後で判明する。

「は、はいっ」

そして彼女も同じだったらしい。

 

過去にあっただろうかというくらい緊張しながら歩いていた。

とてもじゃないが隣にいる「リツちゃん」を見ることが出来なかった。

もう夏も終わりだというのにえらい量の汗をかいているのが解った。

雰囲気から察すると、どうやら彼女も似たような状況だったようだ。

一言もしゃべることもなく、公園にたどり着いた。

そして、さらに絶句することになった。

 

その公園はどうみてもカップルだらけだったのだ。

いわゆる、カップルの憩いの場。

「わ、わたし、かえりますね!」

何かを察したのかそんなことを言ったのでさらに俺は慌てることになった。

「ちょ、ちょっと待った!」

思わず手をつかんでいた。

そして思わず手が出たようだった。

「わーっ!?」

つかんだ手と逆の手が俺のわき腹にクリーンヒット。

「ガフッ・・・」

その時手を離さなかった自分を本当にほめてやりたい。

「ゲホッ、ゲホッ・・・。ちょっとまって、頼むから・・・」

なんという情けない光景か。事情を知らない人間が見れば、明らかに振られた女に泣きついている男といった状況だろう。止めに殴られてうずくまっている。

「ご、ごめんっ、大丈夫?」

何よりも追撃がこなかったのが嬉しかった。が、今はそんな場合ではない。一刻も早く状況説明をしなくては帰られてしまう。

「いや、いいんだ、俺が悪いから・・・ゲホ」

一度殴られたからかやけに冷静になることが出来た。

「とりあえず、事情を聞いてほしい」

「はあ・・・」

 

カクカクシカジカ。自己紹介から始まり、なんでこんなことを言うことになったのかを自分なりに一生懸命説明したつもりだ。途中、赤くなったり、笑ってくれたりしてなんとか不審者じゃないってことだけはわかってくれたようだった。

「いちおー・・・、分かりました」

「ありがとう」

「でもやっぱ、私は、今そんなこと考えられなくって・・・その」

本当に申し訳なさそうにそう言う律ちゃん。

「・・・そっか、そうだね」

そんな顔でそういわれたらもう諦めるしか道はなかった。

「ごめんね、こんなところにまでつき合わせちゃって、それじゃ・・・」

振られた手前、ぼさっとしているわけにはいかないと思ってその場を去ろうとした、その時。

「でも、一回くらいなら、いいですよ、デート、とか」

その時の驚きや喜びは表現のしようがないくらいだった。体中が凍り付いて一気に沸騰するような、なんともいえない感覚。

「ま、まままま、まじで!?」

やっと出た言葉がそれだった。

「せ、せっかく告白してもらったし、私、初めてだったし、き、記念に!」

よくわからないが彼女なりの誠意だと受け取った。なんて可愛らしい子なんだ・・・!

こうして振られること前提のデートをすることになったのだった。

そしてまたテンパった俺はとんでもないことを口にした。

「じゃ、じゃあ、今神社で祭りやってるんだけど、いかない?」

「え、今!?」

ごもっとも。

だが、勢いとは怖いもので「わ、わかった」と了解してくれた。

 

神社までの道すがら、緊張がほぐれてきたこともあって色々話すことが出来た。

自分の話やら、軽音部の話。そんな中、敬語を使うのをやめてもらった。

なんとなく他人行儀な感じがしたから。他人だけど。

「じゃあ、今からはタメ口で話す!」

「うん。って何も宣言しなくても」

二人で笑いあった。もし幸福というものがあるとするならば今この瞬間なのだろう。

とか、思っていた。

 

祭り会場の神社に到着するとそこは既に活気で満ちていた。

そんな雰囲気に呑まれ、つい調子に乗った。

「手、つないじゃだめかな?」

「だ、だめだっ」

今回は勢いに乗ることはできなかった。

「そっか・・・」

気を落としてそういうと少し気になったようだった。

「その、ほら、今は、まだ、な?」

照れながらもそういってくれた律ちゃんはもうその…どうしょうもなかった。

気を取り直し、どころかテンションは急上昇中した。

「なんか食べたいものとかある?デートなんだしなんでもおごっちゃうよ」

恥ずかしいくらい舞い上がっているのが自分でも分かった。

「あ、あれ食べたい!」

リンゴ飴だった。

「んじゃ、ちょっと待ってて」

リンゴ飴と小さい苺飴も一緒に買う。

「お待たせ〜」

「ん?なんで二つ?」

「んー、気持ちかな」

何気なくしたつもりだったが今の二人の関係を考えるとこっぱずかしいことをしたようだった。

「ふーん・・・気持ちねぇ?」

いたずらっぽい目でじーっとこちらを見てくる。

そこで初めて意味に気がついた。

「いや、そういうんじゃなくて、オマケ、みたいな?」

「へぇ〜・・・?」

手を後ろに組み下からニヤニヤしながら目線で責めてくる。

「だ、だからさっきだって言っただろっ。好きだって・・・」

「なっ・・・」

さっきまで優勢だったはずの律ちゃんは面食らったような顔になった。

「さ、さっきは『付き合って』だった!好きだなんていわれてないもん!」

「じゃあ・・・好きです、付き合ってください」

「だ、ダメだろ、そういうこといっちゃ・・・」

傍から見た光景はもう目も当てられない。マンガでこんなのが出てきたらニヤニヤが止まらなくなるだろう。

「あはは・・・」

流石に気恥ずかしくなって顔を背ける。見ていられる気がしなかった。

それでも律ちゃんは沈黙になるのを避けてくれた。

「な、なあ?」

「ん?」

「なんで私のこと、その、好きになったんだ?」

「なんでって・・・」

理由を聞く前に律ちゃんは話を続けた。

「だってほら、澪の方が可愛いし、ムギだってお嬢様だし、唯だって天然だろ?梓だって小さくて可愛いしさ?」

「うーん・・・。なんでだろうね?」

我ながらなんていう返事か。普通ならばこんなこと言ったらマイナスである。

だけど、本心だった。半分はよくわからない。

「ちょっ!わかんないのかよ!」

少し怒ったようだったが顔は笑顔のままだった。

「いやいや、そんなことはないんだけど、恥ずかしいっていうかさ」

「ほー?女子高生をコンビニから出てくるとこを狙って告白するよりか?」

痛いところを・・・、容赦ないな。

「それはほら、『今しかない』って思ったから」

「だったら、好きになった理由いうチャンスも今しかないぞぉ?」

ニヤニヤしながら言ってくる。さらに続ける。

「それにもしかしたらその理由で私がときめくかも知れないだろ?」

その一言にドキっとした。もしかしたら・・・か。

「な、なんてなー」

笑いながら冗談にしようとしている。声がうわずっているところをみると恥ずかしかったらしい。

「それじゃあ理由いってみようかな?もしかしたらにかけて」

優位に立つチャンスだと思ってのっかってみる。

律ちゃんは黙って聞いてくれている。

「ライブの時、なんか・・・その、輝いて見えたんだよ」

「輝いて?」

「そう、輝いて。だからなんと言うか、やっぱり俺にもわからないんだ」

あはははと笑って最後はごまかしてしまった。へたれである。

「・・・。な、何変なこというんだよ!ライトが当たってただけじゃないのか?」

一瞬だけポーッとしたように見えた。だが、すぐに赤くなってつっこまれた。

「まあ、理由なんてあってないようなものだよ」

笑いながらそういって話を区切る。正直これ以上続けることが出来なかった、恥ずかしくて。

 

その後もふらふら、律ちゃんに言われるまま露店を回った。

焼きソバを買ったり、たこ焼きを買ったり。まさにお祭りでデート、といった感じに。

一通り回ったあたりで律ちゃんが突然俺の後ろにしがみついた。

「なっ!?どした?」

「な、なんでもない!」

すると前のほうから見たことのある女の子が四人ほど歩いてきた。

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「あ!りっちゃーん!」

元気良く名前を呼びながら近づいてくる唯ちゃん。たしかギターの子だっけ。

「律〜、お前お祭りにいくんだったら連絡しろよ・・・あ」

「あらあらあら・・・」

「ちょ、ちょっと唯先輩!」

後ろの三人はどうやら察してくれたらしい。

 

「や、やあ、みんな!き、きぐーだな、こんなところで」

後ろから飛び出してなんでもない風を装う律ちゃん。

「どうも初めまして。りっちゃんと同じ軽音部の琴吹紬といいます〜」

深読みしてくれたのはキーボードの子。

「り、律がお世話になってます。ベースの秋山澪です」

澪ちゃんは混乱してるらしい。何故か担当の楽器の話をされた。

「ど、どうも初めまして!律先輩の後輩の中野梓です」

どうやら梓ちゃんも混乱しているらしい。

「それで、その人は誰なのりっちゃん?」

そして一気に核心に迫る唯ちゃん。

『唯(ちゃん)(先輩)ー!!』

唯ちゃん以外の全員がそう叫んだように聞こえた。

 

「あ、あははー。じゃあ、そういうことで」

「待て?」

あっさり澪ちゃんに止められる律ちゃん。しっかりと肩を手でつかまれて。

「秘密にしてたのは分かるけど、しっかり説明するべきじゃないのか?」

真剣なその物言いに律ちゃんも真面目に向き合うことにしたようだ。

その他のメンバー(俺も含め)は何も出来ずにその場を見守っていた。

「そ、その・・・。し・・・し・・・」

「し?」

「し、親戚の!親戚のお兄さんだよ!そう、親戚の!」

く、苦しいよ、りっちゃん・・・。

「親戚〜?」

明らかに疑いの目線の軽音部の皆さん。

「そう、親戚の!ほら、ライブ見に来てくれたんだ!」

なんとか取り繕う律ちゃん。

「そ、そうなんです。どうも、みなさん、初めまして。律がお世話になってます」

ここで助け舟を出さないわけにはいかないと思って話をあわせる。

ところがその舟にえらいものを乗せてくれた律ちゃん。

「お兄さんはドラムやっててさ、それで相談にのってもらってたんだよ!」

『なにー!?』

ドラムはおろか楽器全般に拒絶反応まで持ってる俺になんという設定をつけるんだ!?

「へぇー、そうなんですか?」

曇りない眼差しでそう聞いてくる唯ちゃん。心が痛い。

「そ、そうなんだよ!きょ、今日は走り気味だったかなぁ?」

「律はいつも走り気味なんですよ、お兄さんからも言ってやって下さい」

仕方なく適当にあわせたがどうやら的外れな指摘ではなかったらしい。

澪ちゃんから同意が得られた。

「ちょっと?ドラムのこと知ってるの?さっきの話じゃ楽器触ったことも無いって言ってたじゃん?」

「ちょ!知ってたのになんでドラムやってるなんて言ったの!?」

後ろを向いて二人で作戦会議?を始めた。不審がっているが仕方ない。

「あの?」

ムギちゃんが律ちゃんの肩を叩く。

「はいいいいい!?」

あからさまに驚く律ちゃん。それじゃばれるんじゃないか?

何か二人でコソコソやっている。

俺はというと。

「それにしても、律にこんな親戚がいたなんて知らなかったなぁ」

「平凡ですね!お兄さん!」

とかなんとか、ボロを出さないように必死だった。

「さぁ皆さん、親戚同士水入らずにしてあげましょう?」

「それもそうだな」

「うんっ」

「はいっ」

ムギちゃんからの提案によってなんとか修羅場を脱することが出来た。

「それじゃあ、明日、学校でね?」

そういい残して軽音部のみんなは去っていった。去り際のムギちゃんのウィンクはいったいなんだったんだろう。隣の律ちゃんを見ると、若干ひきつっていたがギリギリ笑顔だった。

 

「ふう〜・・・」

二人同時にため息。ピンチを抜けた達成感からだった。

「危なかった・・・。本当に危なかった・・・」

腕で額の汗をぬぐいながらそういう律ちゃん。

「あれで少しでもドラムのことつっこまれてたら完全にばれてたよ」

「あははは・・・。まあ結果オーライだなっ」

そこで少しからかいたくなった。

「待てよ?もしばれたら律ちゃんは引けなくなるんじゃ・・・?」

「・・・へ?」

「ほら、『彼氏でーす』って言ったらどうなるのかな、ってね」

「ちょ、ちょちょ!やめろよ!絶対ダメ!」

赤面して慌てる律ちゃん。

「だ、大丈夫、言わないよ」

かわいそうなのでちゃんと否定しておく。

それにしても・・・。

「まったく。もしそんなことになったら・・・」

「そんなことになったら?」

「・・・どうなるんだろ?想像つかないなぁ」

「試してみようか?」

「ば、ばーか!」

そういって舌をだす律ちゃん。

やっぱり・・・。

「修羅場抜けたら汗かいたね。冷たいものでも買う?」

「うーん、そうだなぁ。あ、あれがいい!カキ氷!」

「ほいほい、味はどうする?」

「あ、いや、カキ氷くらい私がおごるよ。さっきからおごっもらってばっかりだし」

「それは全然かまわないよ。俺の無理に付き合ってもらってるわけだしね」

まったくもって本心からの言葉だったが律ちゃんは納得しなかった。

「まあ、いーからいーからっ」

そういうと律ちゃんはさっさと買いに行ってしまった。

手持ち無沙汰で待っているとすぐに帰ってきた。

「お待たせっ。味聞いてなかったから適当に選んできた!」

・・・コレは何味だろう?あまり見たことの無いソースが。

「あの、これは・・・何かな?」

「生チョコレート味」

「な、生チョコ!?」

そんなの聞いたことないんですが・・・。

「色々と試そうと思って!」

そういって敬礼のポーズをとる。

そんなこという割に自分のやつはブルーハワイ味じゃないですか。

「男は度胸!だろ?」

ニヤニヤしてる。さっきからかった分の反撃らしい。

し、仕方ない・・・。

「お、おうよ」

食べてみると意外といけなくない。じゃっかんチョコが固くて生チョコじゃなくなっているだけだ。

「お・・・、うまい!」

ちょっと過剰表現してみた。

隣で一気に食べたらしく頭を叩いていた。

「げ、マジで?」

「げって・・・」

ホントに復讐するつもりだったのか。

「食べてみる?」

「う、うん」

パクっ。スプーンでとって直接口に入れてあげた。

「・・・うまくはないわね」

「そうだねぇ」

「騙したなぁ?」

「コレでお相子、だろ?」

「むー」

頬を膨らませて悔しがる律ちゃん。

可愛い・・・。それにしても、やっぱり、可愛い。

 

そんなこんなで時間も結構経ってしまった。

楽しい時間というのは本当に一瞬なんだと思った。

流石に深夜まで高校生を引っ張りまわすのは良くないので締めることにした。

「さて、とそれじゃあ帰ろうか」

「・・・ん」

そういって会場を後にする。

境内から出てちょっとしたところで律ちゃんが手を差し出してきた。

「ん?何?」

「にぶちん!手、つながないのか?」

「え、いいの!?」

「早くしないと、気が変わっちゃうぞぉ?」

そういうと手を引っ込めようとしたので慌ててつかんだ。

「そんなに焦らなくたっていいだろ」

苦笑気味にそういった。

「ホントに引っ込めそうだったから、つい」

手をつなぎながらこちらも苦笑い。でも、意外と自然につないでいることが出来ている。

祭りに来るまでは話すのも緊張していたのに。

「今日は、アリガトな?緊張はしたけど、デートっていうのがわかった気がする」

「こちらこそ。女子高生の若さをもらえた気がするよ。楽しかったよ」

「なんだよー?ジジくさいなぁ」

そういってつないだ手を振り回す。

「半分は冗談だよ。でも楽しかったのは本当。祭りが楽しかったのは何年ぶりだろうなぁ」

「大げさだなぁ」

「ほんとだってば」

「そっか。それなら良かった。記念になった?」

「うん、なった。なんなら記念碑たてたいくらいさ」

「・・・ばーか」

「これもホントだって」

「どこに建てるんだよ?記念碑」

「んー、やっぱ神社かな?『りっちゃんとのデート記念』ってね」

「何だよソレ。神社に迷惑だろ?」

「やっぱそうかな?」

「誰だかわかんないだろ、私の名前書いてあっても」

「いやいや、将来有名になってるかも知れない。そん時にフライデーとかに撮ってもらうんだ。『スクープ!あの田井中律に恋人発覚か!?』とかって」

「何年前の話蒸し返すんだよそのフライデー」

二人で帰りの夜道を笑いながら歩く。

出来れば帰りたくない、そう思っているのは俺だけなのかもしれない。

我がままで自分勝手な思い。でも、もし彼女がいいと言ってくれたら・・・。

そうしていると出会ったコンビニの近くの交差点についた。

どうやらここでお別れらしい。住宅地なので人通りも少なくあたりはとても静かだった。電灯がやけに印象的だ。

「・・・それじゃあ、ここでいいや」

「そっか」

そういって手を離す。

「ホント、ありがとな?美味しかった」

「生チョコカキ氷?」

「バカっ」

先にふざけたの律ちゃんじゃん。でもすぐその後に。

「しんみりするのはいやなんだよ」

そういって俯いた。

「そんなポーズだとなおさらしんみりしちゃうよ」

「そう、だな」

暗くてよく顔が見えないが少し赤くなっているように見える。

「まったく、あんたが私を好きになったりするからだぞ?」

何も言わず微笑んでいた。

「か、カッコつけるな!」

「ごめん」

思わず笑ってしまった。

「一回だけ、って約束だからな?」

「そうだね」

「それで、いいの?」

「律ちゃんがそう望むなら」

「ず、ずるいぞ!」

「じゃあ、最後に一つだけ」

「うん?」

「キス、してもいいかな?」

「・・・な!?」

「ダメ、かな?」

「・・・。わ、わかった。最後、だからな」

「ありがとう。目、閉じて」

「・・・ん」

そういって目を閉じる律ちゃん。身長の関係からやや上を向く形になる。

おかしな話だが、美しいとさえ思ってしまった。そして。

 

・・・ッ

 

「へ!?な、なんで」

「なんでおでこなんだよ!」

恥ずかしかったのか、それとも意表をつかれたのが悔しいのか少し声を荒げていた。

「ファーストキスなんじゃないかなぁと思って。どうせだったら律ちゃんの好きな人に捧げるべきだろ?」

「な、なんだよそれ!そんなんで・・・なんで・・・」

今度は少し声が震えていた。

「俺はヘタレだからねぇ」

本当にそう思う。結局のところ勇気が無かっただけなのかもしれない。

「バカ・・・」

「うん、バカだ」

笑いながらそう答える。

「大馬鹿だ」

「うん、大馬鹿だね」

そういって俺は律ちゃんの頭に手をおいた。

「ありがとう。付き合ってくれて。本当に楽しかった。」

手を離す。

「それじゃあ、さよなら」

「・・・うん、ごめん」

俯いたままの律ちゃん。

「ごめん?」

「私が付き合うって言えばこんな風に・・・」

さえぎるように言葉を挟む。

「いいんだ。軽音部、楽しそうだし。彼氏なんて律ちゃんならいつでもできるよ。だから、いいんだ。一日だけで」

 

「じゃ。・・・また」

「うん・・・、また」

「しんみりするのやだったんじゃないの?」

そういうと律ちゃんは笑顔になってこういった。

「うるさいばーか!」

その笑顔は今日見た中で一番輝いた笑顔のように思えた。

 

                          END

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けいおん!の「田井中 律」と作者の妄想小説です。
自己満足全開の話です。
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