輪・恋姫†無双 十一話
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「ええい!!何故敵を目前にして待機をせねばならぬのだ、何進!」

 

「うぐっ!だ、だって『先陣を切って他の諸侯に利用されるようなことにはなるな』って……何度も何度も軍師の子に…それに華雄さんを止めるのはボクの仕事だって……」

 

「うっ…そ、そんな顔をするなぁ!!おのれ…こやつに進言した軍師は誰だー!!」

 

官軍の陣からは日が沈むまで華雄の怒声が響いていた。

 

 

 

「黄巾党の様子は?」

 

「はっ!未だ開門の気配もありません。」

 

伝令の報告に、秋蘭に向かって疑問を向ける一刀。

 

「……なあ秋蘭、籠城戦の方が色々と有利なんだからそれが当然なんじゃないのか?」

 

「……籠城というのは援軍が到着することを前提とした時間稼ぎの戦術だ。黄巾党の分隊が悉くつぶされた現状では上手い選択ともいえないが…しかし、二十万の兵を蓄えたあの砦はやすやすと落

 

とせないのも確かだ。」

 

「そういうものか…」

 

「だからこそ色々と手をまわしているのだよ。明朝には行動を開始するんだから今日は早めに休んでおけよ、北郷。」

 

「ああ、わかってるよ。」

 

慌てず、騒がず、静かに、決戦の準備を進める。

 

 

 

「伯珪どの、どうやら御友人方もこちらに居られるようですな」

 

「え?…おおー!本当だ!劉の旗…ははっ!様になってるな〜」

 

「会いに行くのは全て終えてからですぞ?」

 

「さすがに今この状態でそんなことするか!」

 

 

 

「おおーーーーほっほっほ!さあ皆さん!華麗に!優雅に!黄巾党どもを粉砕なさい!」

 

「おおーー!!」

 

「ちょっと麗羽さま、文ちゃん!今出て行ったら他の諸侯の人たちの矢避けに使われちゃうって何回も説明したじゃないですかーー!!」

 

「まったく…ノリ悪いぞー!斗詩ー…」

 

「ええー!?私が悪いのー!?」

 

 

 

「なんだか袁紹のところやけに賑やかね。」

 

「あの袁術の従姉妹なんじゃ。場の空気など読めるわけもなかろう?策殿。」

 

「まあそうだけど…じゃあ官軍は?あっちも結構騒がしいけど。」

 

「漆黒の華の旗がありますからな。誰かが出陣しようと逸る華雄を宥めておるのでしょう」

 

「華雄って母様にやられたあの?」

 

「策殿は他に心あたりでも?」

 

「いや無いけど。でも大丈夫なんでしょうね…あの猪、私たちの邪魔してきたり…」

 

「雪蓮、祭殿?そんなところでそんな立ち話をされると、準備の邪魔になるのですが。」

 

日は沈み、孫呉の作戦開始まで、あと約二時間。

 

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「三国志の魏、呉、蜀の三国の素に…あれは漢王朝の官軍かな?……ん?あれは袁?誰だ?」

 

祐一の三国志の知識なんてものはその程度である。

 

世界史と古典の教科書に乗っている内容プラスアルファ。残念ながら袁家についてはそのプラスアルファに含まれていなかったらしい。

 

ちなみに彼は現在、劉備軍の陣の外を適当にぶらついている。

 

理由は暇だから。親衛隊としてあるまじき理由で桃香のもとを離れた、というかいつ戦が始まるかわからないこの場に居るものとしてあり得ない理由でぶらついている。

 

「さて、此処まで来たら曹操、劉備と並ぶ孫権の顔でも見に行くかな〜」

 

なので向かう先は孫の旗の下。通り道に袁の旗もあるのでなんてヤツが率いているのかも見てみようと思っている。

 

バレると色々と危なそうなので本気で気配消しながら。

 

袁の旗がある陣に近づきまずは遠目でどんなところかな〜と確認すると、なんともまあ眼に悪そうなキンピカの鎧を付けた見張りの兵がいた。

 

「あれ?皇帝名乗った袁術って三国志か?もしかしてそれ?」

 

ちなみに、朱里は集まってきたのがどんな諸侯かを一度かいつまんで説明したが、案の定祐一は興味を示さず聞き流していたりする。

 

見張りの兵もたいしてやる気なさそうなので陣に忍びこむことは簡単だろうが、ムダと言いきれるほど華美で輝く鎧が陣の中に充満しているかと思うと向かいかけた足がとまる。

 

「……おのれ貴様やるな。こんな作戦で来るとは。」

 

祐一はそのまま袁の旗の陣のわきを抜けて孫の旗を目指すが、

 

「ん?」

 

しばらくして何か違和感を感じた。

 

何処に?と聞かれても、どんな?と聞かれても答えられない。だけど、何かが違うという思いがあった。

 

それが何かと考えてあたりを見回す。

 

曹……何もおかしなところはない。少し動いている人間が多いが違和感を感じるようなものではない。

 

公孫……こちらも同じく普通。

 

袁……先ほどと同様に気だるげな兵が目につく。至って普通の士気のあまり高くない兵。おかしな動きもない。

 

劉……どこかの軍が動けばすぐに対応できるように朱里と雛里あたりがしてあるだろうが、騒いでいる様子も、出兵をする気配もまだない。

 

官軍……妙にあわただしいがそれは自分たちが到着してからずっとだ。二、三時間に一回くらいで華の旗が動くが秒単位で止まる。今は止まっているしそれほど気にならない。

 

孫……陣は静かだし、特筆すべきことは…?静か過ぎやしないか?それに孫の旗…牙門旗は本陣にあるが人の気配が少ない。それに天幕の明かりがほとんどついていない。いくらなんでもこの時間

 

は未だ就寝には早いことは半年余りの経験則で知っている。

 

違和感の原因は孫の動き。

 

ならば何が起こるのか?本陣に人がいないということは軍が出ているということ。

 

「……夜襲か。だけどただ夜襲をかけるだけで黄巾党が崩れるわけじゃないし、他の諸侯に体よく利用されることはなにより避けたいはず。」

 

劉備軍の本陣へ向かって走りながら考える。

 

「ならば必ずもう一手を用意してくるはず。黄巾党を崩すに足る策を。」

 

思うことはただ一つ。手柄云々ではない。

 

黄巾党の本質がアイドルグループのファン集団であるということ。

 

劉備軍の陣に戻る間に幾つかの陣営で戦闘準備の動きがあった。曹操軍なんかは夏候の旗が進み、劉備軍もかなり遠目での判断だが準備が整っているように見えた。

 

砦の門のあたりで腹に響くような鬨の声があがるのを聞いた。

 

 

孫呉の黄巾党殲滅作戦、開始。

 

 

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「ほれ!休むな!どんどん射かけい!!」

 

城壁の上の黄巾党と城門の前の孫家の兵。このまま進めば間違いなく孫家が数に押しつぶされる。

 

そう。このまま進めば。

 

砦の倉庫がある位置から火の手が上がる。

 

火というものは自分たちの支配下にあるからこそ歓迎でき、冷静さを保てるのである。

 

戦場がどういう場所か知らないものが大半である黄巾党本隊は突然の出火に大混乱になる。

 

城壁の上で弓を射かける部隊に穴が生まれ、『門を守る』という目的の為に何をすればいいのか分からなくなり破城鎚を撃ち込まれたり、功を逃すまいと先を争って諸侯たちが参戦しに詰めてきて

 

、黄巾党の混乱に拍車をかける。

 

「ええい!!今行かなければ全て終わってしまうぞ!!」

 

「だ、だって…」

 

「だってじゃない!!私は行くぞ!!」

 

官軍は少し出遅れたが。

 

 

「……火?…それが…決め手…か?」

 

劉備軍の桃香のいるだろう隊に向かっていた祐一だが、それに気づいて足を止め、すぐに城門へ向かって走り出す。

 

自分が親衛隊の隊長になっていることも、ほかの何もかもが頭から抜け落ち、ただ城内を目指して走る。

 

将として、兵として、あり得ない行動。それを祐一は理解はしている。いや、できる。しかし、今の祐一にとってそれは“そんなこと”で捨てされる程度のものである。

 

理由は彼の心の中にのみある。彼以外にこの行動を理解できるものは居ない。この世界に、ではない。前の世界の友人たち、同じ忍び稼業をしている家族も含めて。

 

鬼丸を抜こうとして、しかしそれをやめる。この行動の理由も、またしかり。

 

「認めねえ。そんな結末は認めねえ。」

 

火の手が上がっているの箇所は朱里と雛里が見ていた地図が正しいものだとすれば倉庫の位置。そして本丸と倉庫の間には宿舎がある。

 

本丸と宿舎の間は長い渡り廊下があるが、宿舎と倉庫はほとんど隣接していると言ってもいいほど近い。火はすぐに宿舎に回る。

 

確認できる火は煙があがっているのがわかる程度ではない。炎が見える。

 

今から走っていったところで、絶対に自分の求める結末にはならない。それがわかっていながら祐一は全力で、疲労も何もかも気にせず、氣を全力で使いながら飛ぶように走る。

 

「(もどかしい!戦場の愛紗は…鈴々は…もっと速いのに…!!)」

 

愛紗や鈴々と同じくらいの速さで祐一が走ったところで、求めるものには届かない。

 

 

もう既に、燃え盛る炎から逃れるように門が開き、黄巾党は討って出てきた。

 

 

「邪魔だああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

眼の前に立ちふさがる黄巾党を、向こうで剣を振るっている兵士を巻きこんで蹴り飛ばす。

 

敵味方入り乱れた中を縫うように走り抜け、それでもなお邪魔なものを蹴り飛ばし、殴り飛ばす。

 

試合や鍛錬なら、もうやめたと言いだすほどには疲労している。

 

戦場であるなら、今までは氣を扱いやすくするために鬼丸を抜いている。

 

だが、そのどちらも選択していない。

 

とんでもない疲労を抱えながらなお強化をとかないし、鬼丸に手が伸びかけるが決してその柄を握らない。

 

なにより、いつも静かに剣を振るう祐一が感情を昂ぶらせながら拳を振るっている。

 

曹操軍や劉備軍の人間が今の彼を見ればこう言うだろう。

 

「あいつは誰だ?」と。

 

 

説明
十一話投稿です。
五回くらい書きなおしましたが、今回はこれであきらめました。
あんまり間隔があくと執筆意欲までなくなる気がして…(汗
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コメント
レイン様 祐一君のこれは覚醒というよりは暴走に近いですね。戦いが終わればきっと彼はこの行動を猛省するはずです。(柏葉端)
いらんとこでフラグを立てるんだから、もう諦めて下さい。覚醒さえすれば一騎当千の戦乙女とも互角に戦えるでしょう。…おやぁ?何かの声が聞こえたようなきが…(レイン)
自由人様 華雄と何進…というか何進は、お馬鹿なやり取りをどうにか少しでも残そうと思った自分の思いつきで黄巾党の最終決戦に連れてきましたから、そう感じてくださればありがたいです。(柏葉端)
akieco様 そうですね。私もうぐぅ…が見えたような気がしました。(柏葉端)
華雄と何進のやりとりが面白いですねwしかも『うぐぅ』を連想させる喋り方…それに祐一君の変調が気になりますね。敵味方問わずという事は孫呉の兵も相手にしていそうですし、図らずも孫呉の将と対面を果たすのかな?(自由人)
うぐぅ…が見えたような……(akieco)
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