選んだ未来 |
結局、オレはこの街に残ることになった。
ロイド部長からは面目丸つぶしだとこっぴどく叱られ、一捜の連中には馬鹿な真似をしたと散々嫌味を言われた。
だが、オレは、全くと言っていいほど後悔はしていなかった。
それから数日後……、今度は約一年前にオレが提出した一捜への転属願いを受理するといった内容の連絡が、ロイド部長直々に通達された。
連邦行きの話も、一捜への転属の話も、一年前のオレならばまず間違いなく首を縦に振っていただろう。
だが、オレはそっちの話も蹴っちまった。
何故だろうか?
理由など、言わなくとも分かっている。だが、自問自答せずには居られない。
ここには、気の置く必要のない「アイツら」が、大切な「アイツ」が居るから……。
そんなことを一人考えて、オレは苦笑する。
鏡の前では、長い髪をした目つきの悪いもう一人のオレが、皮肉を口に浮かべて笑っている。
(オイ!オレはそんなに目つき悪く無ぇーぞ!!)
心の中で、鏡の中のオレに悪態を吐く。と、ふと冷静になったオレは気恥ずかしくなり、冷たい水で顔を洗い食堂に向かう。これから、朝のミーティングの時間だ。
遅れて行くとアイツらが五月蝿いからな。ったく、自分らのときは全く反省の色を見せねーくせに、他の奴らのときは偉そうに文句をたれやがる。
まぁ、それも最近では何となく心地好い朝の通例となってはいるが……。
部屋を出て、直ぐ右の扉が食堂だ。
オレの部屋は入り口から最も近いところにある。
賑やかな声が廊下にまで響いてくる。この声はビセットとルーティか。
あのお子サマどもは、全くどうして。朝からテンションが異様に高い。
へっ、朝の元気をちったぁバーシアに分けてやって貰いたいもんだな。そうすりゃバランス的にも丁度良くなる。
ドアノブに手をかけながらふとそんなことを考え、頭の中で想像する。
物静かなビセットとルーティに、朝からハイテンションなバーシア……。
駄目だ。
ンな環境に居たらオレは三日と、このブルーフェザーにはいられないだろう。
こんな手間のかかるやつらに慣れきった今では、何の変哲もない奴らとの生活なんざ、退屈以外の何者でもない。
頭の中を切り替えて、オレは扉を開け、食堂へと入って行く。
「オイーッス、遅いぞルシード」
「ホントホント。リーダーなんだし、もっとしっかりしてよね」
ウルセェ。このお子様コンビ。
いいからとっとと朝食の準備しやがれ。
そう思ったところで、ニコチンのイヤな臭いがオレの鼻腔をくすぐる。
バーシア、テメェ。朝一番で煙草吹かしてんじゃねーよ。
そんなオレのイヤそうな表情を見て取ったのか、だが、それでも別段何も気にせず再び大きく煙草を吸い込むバーシア。
そこへ飛び込んでくるブルーフェザーの堅物オペレーター。
「バーシアさん!! ここには未成年者もいるから煙草は外で吸うようにって、何度言ったら分かるんですか!!」
「あ〜、メルフィ。悪いけど大きな声出さないでくんない? アタマに響く……」
「お酒臭い……また飲んでたんですね?」
静かにそう言うと、恐ろしく冷たい目でバーシアを睨むメルフィ。
へっ、ザマーミロ。
そんなオレをバーシアが不機嫌そうに睨む。ヤベ……顔に出てたか?
そんなオレに更に追い討ち。
「ルシードさんも!!」
「へっ?」
「リーダーなんですから、もっとバーシアさんの事を注意して言ってやって下さい!!」
今度はバーシアがオレのことを馬鹿にしたような顔で笑っている。
真面目に相手をするのはアホらしいが、それでもなんかムカツク。
大体なんでメンバーのことに一々オレが口出ししなきゃなんねーんだ? それもバーシア如きの事で。それでメルフィに怒られるのは、やっぱなんか納得いかねーな。
「ルシードさん、聞いているんですか!?」
「ああ、聞いてるよ。ったく、ウルセーなぁ」
「なんですか、その態度は!! 大体貴方たちは……」
「まぁまぁ、落ち着けメルフィ」
「のわぁ!!」
「うわぁ!!」
「ゼファーさん!?」
突然気配を絶ってオレたちの側に姿を現したのは、このブルーフェザーの前任リーダーにして、現在はオレたちの補佐をしている盆栽大好き人間のゼファー。
オレとは同郷出身で、よく比べられたりもするが、オレは全くとは言わないがあまり気にはならない。
それは、オレ自身が、他の誰よりもゼファーの凄さを知っているし、そしてゼファーこそがオレの目標であるからだ。
だが――。
「テメェ、ゼファー!! いきなり気配を絶って現れんじゃねーって、何度言ったら分かるんだ!!」
「フッ、現役のルシードに全く気が付かれんとは、オレもまだまだ捨てたものではないな」
「こ、この…!!」
そうなのだ。こういうヤツだからこそ、オレはこいつには敵わない。
だが、いつかはきっと越えてみせる。
そんな中、あからさまに場違いな声がキッチンの方から飛んでくる。
「はぁ〜い、皆さ〜ん。朝ごはんの用意が出来ましたぁ。あ、ご主人様、おはようございますぅ」
「おう、おはよう、ティセ」
少し間の抜けた挨拶をし、いつもいつも悩み事の無さそうな笑顔を振り撒いているのは、ヒース色の髪とエルフのような尖った耳を持った「ヘザー」と呼ばれる危険度Aクラスの種族の一種だ。
本来、ヘザーと人間は相容れない全く別の価値観を持っているために、お互いが歩み寄ることは絶対に有り得ない。
だがこいつは、ティセは他のヘザーとは毛色が違うのか、オレたち人間と全く同じような価値観を持っていた。おそらくこいつは、ヘザーたちの中でも「例外」に属するヤツなんだろう。オレたちブルーフェザーが、人間たちにとって「例外」であるように……。
結局、オレはこの街に残ることになった。
気の置けない仲間たちが居るから……。
目を離すとすぐに転ぶ、危なっかしいヤツが居るから……。
物好きにもオレを目標なんかにしているヤツがいるから……。
オレにとって、越えたいヤツ―――越えなきゃいけないヤツが居るから……。
そして―――。
「おはようございます、センパイ。今日もいい天気ですね」
窓から漏れる朝日に照らされた笑顔が、美しく輝いている。
あの晩重ねた唇の感触が、うっすらと甦る。
「ああ、そうだな。……今日も一日、よく晴れそうだ」
その空はまるで、お前の髪のようにどこまでも、どこまでも青く澄んで……。
「それじゃあそろそろ朝ごはんにしましょうか」
「待ってましたぁ!!」
「も〜あたしお腹ペコペコ〜」
「う〜、アタマ痛い……」
「バーシアさん!! いい加減、しゃきっとしてください!!」
「ま、まぁまぁ、メルフィさん。抑えて抑えて……」
「うう、ありがと〜、フローネェェェェェ〜」
「でも、バーシアさん。朝ごはんはきちんと食べなきゃ駄目ですよ?」
「はい、バーシアさん!! 今日はフローネさんとティセで作ったんですよぅ」
「は〜いはい、わかった! わかったからあんまり大きな声出さないでよ〜〜(涙)」
やっぱり、オレにとってこの風景が、一番落ち着く風景なのかね。
「ん? どうした、ルシード。ぼぅっとして」
「あ? ああ、別に。何でもねーよ」
「そうか? まぁ、それならばいいが……」
相変わらず鋭いヤツ。
一瞬焦っちまったぜ。
「はい。センパイの分ですよ」
「おう。サンキュ、フローネ」
手渡される茶碗。軽く触れる指先。
その暖かさと柔らかさに思わず手渡された茶碗を落としそうになる。
動悸が激しくなる。顔にも熱が込み上げて来る。
見るとフローネは、はにかみながらもにっこりとオレに対して微笑みかけた。
(ヤベェな)
(あ〜あ、全く。やっぱりそういうことなのかねェ)
オレが結局、この街に残った理由(ワケ)はただひとつ。
お前と、離れたくなかったから。
いつも側で、お前を守りたかったから。
いつも側で、支えて欲しかったから。
そして何より、お前のその笑顔を、涙で曇らせたくは無かったから……。
それはきっと、何を手に入れるよりも大切で、他の何を失うよりも苦しい事だと、オレは思ったから。
「センパイ。今日も一日、頑張りましょうね!!」
説明 | ||
悠久シリーズ第三弾にして、いろんな意味でハードルの高かった『Perpetual Blue』の二次創作です。 前二作に比べ、格段に育成の難易度が上がった今作。とにかく、キャラが言うことを聞かない(笑)。 戦闘もかなりシビアに育てないと勝てない上、クリアまでの時間が、一人につき、およそ60時間(汗)。かなりバッシングを受けてましたね。 前二作に加え、ベースとなった『エターナルメロディ』と同様に、相変わらずキャスティングの豪華さが垂涎モノに悠久作品。 舞台がエンフィールドからシープクレストに変わることで、五反田で朗読劇が行われたりと、ある意味で悠久シリーズのファンとしては思い出深い作品です。 今回は、フローネとのED後の世界となっております。 この内容で間違いないという方は、どうぞご覧になってあげてください。 |
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