魏√ 暁の彼は誰時 10
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その地は、赤壁という。

 

赤壁は、いまの行政区分では湖北省に属する。

 

湖北省は、長江中流域にあり、南に洞庭湖があるため、その名前を取って湖北と言う名がつけられた。

 

蛇行する長江に沿って、一帯は細かな分流や水路、湖沼に覆われている。

 

この時代では荊州南郡江陵県に属しており、長江中流の水運による交通と物流の拠点で戦略上の要地でもあり、赤壁の戦いの舞台となった地でもある。

 

魏が呉蜀連合軍を打ち破った後は、見かけ上、魏の行政区分に組み込まれていた。

 

この地で先ごろ変事が起こった。

 

赤壁の戦いで闘死した呉将の黄蓋を祀る祭壇が呉の手によってつくられたのである。

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ここで、社稷(しゃしょく)についてすこし触れておく。

 

古くからこの大陸の郷村の最小単位として里というものがある。

 

里はじつに小さくおよそ25戸をもって形成されている。

 

里の風景というのは、大きな杜(もり)が中心となっている。

 

杜の中に社という地主神を祀った祠があり、里人にとって祭祀と団結の中心であった。

 

この社というのは、もともとヤシロのことではなく神そのものであった。

 

とくにその国土を象徴する守護神のことで、小さくは里にも大きくは国にも「社」という神が祀られる。

 

稷もまた神――五穀の神である。

 

社という字義と同様、神及びその祠をさす。

 

土地神と農業神を祀って国家の宗廟とする古代中国の思想がいまだに色濃く残っている時代であった。

 

赤壁にも遠い時代からひきついでいた社稷があった。

 

呉の建設者は、古くからあった社稷周辺の樹々を伐りたおし、屋根つきの建物をつくり内部に立派な祭壇を設けたのである。

 

この作業は日とともに思いもよらぬ結果をひろげはじめた。

 

社稷の樹々を伐り、屋根で神聖空間に天の陽気を受けさせないようにするのは、亡国の社稷に対する処分法のそれであった。

 

――社稷をほろぼした。

 

となれば、この建設者は時代の感覚であれば死罪である。

 

これを江陵県の県令が知ることになり、このため騒ぎが公のものとなった。

 

「だれが、社稷を汚すよう命じたのか」

 

と県令が作業責任者をじきじきに咎めた。

 

県令は他の者から事情を聞いて、呉のしわざらしいということを知っていた。

 

が、その者は「犯人」の名を吐かなかった。

 

「吐かせろ」

 

法に厳しい魏の地方役人だけに、その追求は容赦なかった。

 

もともと華琳は地方地方の長官に対し要求が多く、その勤務態度についてもつねにその背中に刃を押しつけて監視しているといっていいほどきびしい。

 

中央の命令に対してゆるがすことをいささかも許さない。

 

こまったのは県の地方役人たちだった。

 

県吏たちの多くは地元から採用されている。

 

自然とその親元や親戚が地元に多く、江陵県の場合も呉人が大半を占めていた。

 

そのため心情的にこの作業責任者に同情を隠しえなかった。

 

この話を聞きつけ、

 

――このままでは呉も魏もあやうい

 

と狼狽し、すさまじい活動をはじめた者がいた。

 

呉の亞莎であった。

 

まずは県の司法の責任者により県令を操縦し、うまく時間を稼いだ。

 

さらに作業責任者に対してやさしくなだめていった。

 

「すべてをお話ください。

 

 あとのことは、私がなんとかします」

 

話さなければ、彼は黙秘の罪に問われてしまう。

 

この罪は重く、

 

「鞭で打たれ、牢にいれられてしまいます。

 

 とても身体がもちません……」

 

と涙ながらにいったが、彼はかぶりをふり、呉のみなさんをかばえるなら自分などの命はどうなってもいい、と言いきった。

 

この者は、黙秘の罪にて市中に引き出され、衣服を剥がされ、数回鞭で打たれた。

 

刑を執行する役人に亞莎の手心が加えられていた上に、同情心も手伝い痛みは少なかった。

 

しかし、牢には入れられた。

 

亞莎はこの間、昼夜となく駆けまわっている。

 

この者の処置に対して手を打つと、すぐ許都に向かった。

 

 

 

この事実は、噂となって世間に広まった。

 

一事をもってして乱世が継続していることを喧伝してしまったのである。

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早朝、死の想像からもどってきた一刀は結局一睡もできず、顔面蒼白になっていた。

 

そのことをひとしきり2人に笑われた後、朝食をとった。

 

食事を終え、一刀は少し身体をうごかすため外に出ようとしたとき、

 

「えっ、なに」

 

思わず声をあげたほどに驚いた。

 

入口から白い雲が湧きたつように動き、やがて劉協の周囲に纏わりついた。

 

「なに、あなたたちは」

 

一刀は突然のことで慌てて言った。

 

言ううちにも、白い雲と見間違えた白衣を着た女性たちが手際よく劉協の衣服をぬがし、からだをたらいの湯の中に沈めていた。

 

しかし、二人からは抗議の声も聞こえてこない。

 

(あぁ、陛下の侍女の方々か)

 

なぞが解けると、一刀の興味は別の方に向いた。

 

女性たちは淡々と手を休めずに事を運んでゆく。

 

湯は劉協の腰のくびれまで満ちている。

 

白衣の女性のひとりが黒塗りのひしゃくで湯をすくい、劉協の肩、首筋などにかけているが、肌は湯をはじいてとどまらない。

 

(きれいな肌……)

 

と見惚れているうち、沐浴は終わり、絹の着衣に着替えさせられていた。

 

 

 

劉協はちらりと一刀の方に一瞥をくれ、白衣の女性たちに

 

――彼女もお願い

 

と言ううちに、絹のようなしなやか手がいくつも一刀の方に伸びてくる。

 

靴を脱がされ、足を湯のなかに浸けられてしまう。

 

やめてくださいと上擦った声でいってみたが、

 

「わたくしどものつとめでございます」

 

白衣の女性たちの代表が毅然とした口調で言い、手を休めずに事を進めていく。

 

一刀の声が次第に無力になっていく。

 

ついに衣服をすべて脱がされ、たらいの湯の中にからだごと沈められた。

 

「恥ずかしい……」

 

身体のあちこちを洗われながら、一刀はつぶやいた。

 

「無力におなりあそばせばよいのでございます」

 

女性はひどく断定的にいう。

 

(だれだろう)

 

聞いたことのある声だった。

 

だが衣装が均しく白いために、どの女性も個別的に捉えることができない。

 

恥ずかしさと気持ちよさが交じり合ったえもいわれぬ感覚につつまれ、それ以上の思考が止まってしまった。

 

沐浴が終わると、女性たちと同じ白い衣装に着替えさせられていた。

 

「ぐあいはいかがでした」

 

婆ちゃんは急に声をかけてきた。

 

一刀は何のことか言葉の意味がわからず、婆ちゃんと劉協の顔を見渡していたが、やがて気づき

 

「ばか」

 

と小声でいった。

 

わけもなく、顔が赤くなった。

 

 

 

そしてこの白衣の女性たちのなかに、一刀を見知った者がいた。

 

彼女は、頬をわずかに染め、この光景を眺めていた――

 

 

 

……つづく。

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言い訳 その1

 

もう少ししたら続きを投稿させていただきます。

 

もし、お待ちの方がいらっしゃいましたら……ごめんなさい。

 

そして、もう少し猶予をくださいませ。

 

はぁ……

説明
続きです。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。


このお話はふぃくしょんです。
……おとこ?
……おんな?

2010.5.30 安易な言い訳追加
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コメント
・・・・・う〜ん面白い展開だけど・・・・そろそろカミングアウトしても良い頃じゃないかな? あと一刀の目的ってなんだったけ?(スターダスト)
更新お疲れ様です。劉協が沐浴しているのに見ちゃってる一刀君…しかも一刀君まで沐浴ってヤバイですよね?一応男ですしどのようにして行われているのか解りませんが見知る彼女が頬を染めていたという事は劉協や婆ちゃんも…見えちゃったのですかねwその真意ばかりが気になって仕方が無いです!(自由人)
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真・恋姫†無双 華琳 劉協 

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