暁の護衛二階堂麗華アナザーストーリー ?第一話:たられば?
[全8ページ]
-1ページ-

先日、ある出来事があった。

『二階堂麗華のボディーガードを辞めろ』

お嬢様学校にしては中々陰湿な手口だと思っていたが、その後の文。

『やめなければ、おまえの過去を暴露する』

正直、手紙を出した相手に嫌悪感でなく興味を抱いていた。

が、そこに手を出せば二階堂麗華のボディーガードとしての朝霧海斗は消えてしまう。

結果的にオレ自身手紙について追求をせず、日常を選んだ。

麗華とペットショップに行ったり、源蔵のオッサンの誕生パーティーを一応祝ってやったりと刺激的な毎日でないにしろ、日常の中で退屈しのぎを優先的に選んだんだ。

海「......」

あの日、麗華を誘拐から助け、オレは二階堂家のボディーガードになった。

あの時は学園を辞め、あっちの世界に行こうと思っていた。

いや、あっちの世界に行ける振りをした。

向こうの世界に戻るきっかけが多々あって、それでも結局『法』の世界を選んだ今なら少しは判る。

 

オレは親父に対する恐怖感がないと自己暗示をかけていただけだったんだ。

 

向こうに行く振りをした理由は、二つ。

今挙げた親父の亡霊に恐怖して、だ。

そしてもう一つは杏子だ。

何だかんだで、正直あいつを気にしていたのは事実。

だが、オレはあいつがこっちの世界に来ていることを確認したあとも、向こうの世界にいつでも戻れる自分を装った。

......普通に考えればおかしい。

法の世界で生きていく名前と場所を与えられてなんでわざわざあっちに戻らなければいけないんだ?

寝床もある。

安全も確保されている。

三食食事が用意されている。

それでいてオレには殺人欲求や法に対する恐怖感なんて持ち合わせていない。

 

まるで引き合いにならない。

 

これが虚勢でなくてなんなんだ。

最近、読書とは別に自分自身を振り返る時間を設けてからだんだんと朝霧海斗という人間が判ってきた。

 

だからだろう。

源蔵のオッサンに釘を刺された時、自分自身がとてもおかしく感じたのは。

-2ページ-

世間でどれだけ二階堂が有名かは知らないが、オレは別の世界の生き物。

それでいてその世界では誰にも屈しない自身があった。

あの親父さえ手にかけたオレだ。

幼少期の頃抱いていた親父に対する恐怖心に比べれば、二階堂が振りかざす権力なんて可愛いもんだ。

オレは、朝霧海斗は、その親父を殺せたんだ。

恐怖と、暴力と、絶対的な力で支配していた親父を、オレは殺すことができたんだ。

大切なのは、オレが親父を殺したことじゃない。

オレが親父を越えたことに意義がある。

完成した朝霧海斗がこっちの世界如きに屈するはずがない。

いつでも戻れる。

行き来できるだけの力が、オレに備わっている。

海「......」

......というのが、建前だ。

完成した朝霧海斗と自称し自分自身を大きく見せることで、オレは一つの安堵感を得ているのだ。

 

しかし同時にこの生活を捨てるのに抵抗を持つ自分もいた。

電気があった。

料理が三食出てきた。

退屈ではあったが、日常があった。

麗華がーーーいた。

そう、麗華。

オレをボディーガードに導いた張本人、二階堂麗華だ。

 

正直、個人的にあの女は気に入っていた。

あいつと、離れたくない。

 

それらの本音と最強の自分を想定とした建て前が交差する、ジレンマ。

自分という人間がとても面白く感じていた。

 

海「......くく、」

少し、考えた。

否、考える振りをした。

だが答えは既に出て結局何かが変化することはなかった。

 

オレはあのチンチクリンが、好きだった。

認めよう。

女性として好きかどうか聞かれれば、正直判らなかった。

親父からは女性は性欲として処理する道具としか教わっていないし、ずっと長い付き合いだった杏子に対して『好き』という書物で感じるような感情は沸かなかった。

当然麗華から好きと寄ってくれば見方も変わるだろうが、それは置いておこう。

あいつを一人の女性として見る前に、オレはあの女の傲慢な考えが大好きだった。

 

正直、あの女は自己中心で我が儘だ。

同時に行動力もあり、権力もあった。

 

それは朝霧海斗が目指す理想像と同じ姿だったのだ。

-3ページ-

現に二階堂麗華は海斗の持つ理想像として一人称でなく二人称として現れた。

ただ、そこに嫉妬や妬みといった負の感情はなく、純粋に好感を持てた。

初対面から金持ちとしての自負だけでなく『二階堂麗華』という個の自負があった。

行動力も、概念もしっかりと持ち合わせていた。

一緒に時間を共有すればするほど、オレは麗華に対して心を奪われていった。

それは恋ではなく、尊敬だった。

『朝霧海斗は人殺しだ』

海「くく、」

学園での陰湿な手口が頭に残る。

そうだ。

オレは人殺しだ。

それで、何が悪い?

そいつに対しても自分自身に対しても言い訳する気なんてない。

人を殺せと言われて育てられてきた。

人を殺さなければ生きてこれなかった。

海「ああーー」

汚れている。

こっちは、本当に綺麗な世界だ。

幼少期に、一度この世界の眩しさに恐怖して必死に逃げてきたのを思い出した。

 

......出よう。

 

屋敷を、二階堂家を出よう。

それで元の生活に戻る。

 

オレは、生きるためだけに汚れすぎた。

もちろん、それが悪いことだとは思わない。

ただ、ここはオレの生きる世界ではない。

昔、杏子と出会ったばかりの頃、男の子にそんなことを言われたっけ。

縄跳びと......手袋をくれた、名前は確かーーー

 

部屋で横になっていた海斗は身を起こすと、洗面所で最後に顔を洗うことにした。

麗「ちょうどいいところにいたわ」

海「なんだよ」

この女は、運の要素も持っているのか。

最もそれが幸運か悪運かは判らないが。

-4ページ-

麗「これから少し実験を手伝って貰おうかと思って」

海「実験だと?」

麗「人間の限界」

海「なんだそりゃ......」

ツキといい麗華といい、突拍子のないやつらだ。

麗「軽くここから外に飛び出してみて」

海「ここ2階だぞ」

麗「大した高さじゃないでしょ?」

......なんて女だ。

麗「人間の限界」

海「それはさっき聞いたぞ」

麗「飛ぶの? 飛ばないの?」

海「誰が飛ぶか」

麗「使えない男ね......」

最悪な女だな。

海「うるさい、オレはもう眠いんだ。顔洗って寝るぞ」

踵返すと、洗面所に向けて一歩足を出した。

麗「......勝手にやめるのは、絶対に許可しないわよ」

背中越しに聞こえた、か細い声。

海「なんだそりゃ?」

麗「あんた、そんな顔してるじゃないの」

海「どんな顔だよ」

麗「短い付き合いだけど、あんたのこと理解してきてるつもり」

海「そんな間柄でもないと思うがな」

麗「もし逃げ出したら、地の果てまで追い詰めてやるわ」

海「なに言ってやがんだか」

本当に、大した女だ。

オレの意思の半分はもうこの屋敷にはなかった。

麗「......」

そしてそれを見抜くように、麗華は静かにオレを見つめる。

海「やだ」

麗「ちょっと付き合い......はぁ!?」

海「もう眠いから、明日にしてくれ」

麗「明日......明日?」

海「別に普通だろ。もういい加減眠いんだよ」

麗「分かった。明日にすればいいのね?」

海「ああ、それでいい」

それでいい。

明日になれば、こっちの世界ともお別れだ。

麗「いやよ。私は今がいいの」

......つくづく凄い女だよ、お前は。

-5ページ-

二人は海斗の部屋に入ると、腰かけた。

海「それで、用件は?」

麗「あんたが中傷される理由」

中傷というのは、学園であった黒板に書かれた言葉だろう。

『朝霧海斗は人殺しだ』

的を射ている。

虚像の自己を形成しているとはいえ、事実を事実と突きつけられて同様するほど自分自身を美化しているつもりはなかった。

事実は、事実だ。

オレは汚れている。

それは紛れもない事実。

海「態度が気に入らないんじゃねえか?」

麗「真面目に聞いてるのよ!」

海「......」

焦りと怒りと、それ以外の感情が交ざった叫び。

それをオレは何を言うでもなく黙り込む。

麗「このままじゃ、あんたは解雇なの!」

海「別にいいじゃねぇか」

麗「私はあんたを気に入っているの! それなのに何!? そんな態度じゃあんたを助ける助けられないでしょ!」

麗華らしからぬ、ヒステリックな叫び。

それに気付く様子もない。

海「別に助けてくれなんて言ってないだろ」

自分でも分かる。今の発言は二階堂麗華という人間に対しての嫉妬だ。

麗「っ!」

爽快な平手打ちが炸裂するはずだったが、オレはその大振りな張り手を躱すと勢い余った麗華はバランスを崩した。

麗「ぐっ!」

海「ばーか」

麗「うるさい!」

今までの生活であったような馬鹿なやりとりではなく、麗華は必死だった。

麗「話せ! あんたが私に逆らうな!」

本当に強引な物言い。

そんな麗華だから、オレは好感を持っている。

海「お前に話すことは何もない」

麗「あんたってヤツは!」

ぐっ、と拳を握ると、しかしその拳は向かってくることなく空手に変わる。

麗「私が......信用できないってこと?」

海「当たり前だ」

麗「......っ!」

バタン!

勢いよく立ち上がると、麗華を去っていった。扉を閉める大きな音を残して。

海「......は、」

見間違いではない。

あいつは、泣いていた。

過信ではなく、あいつはオレの事を思って涙を流したのだ。

そうだ。

そう。

そうなる。

結局、誰が悪いとかじゃない。

俺たちは、住む世界が違うんだ。

お嬢様と一般市民とか、そんな例えじゃない。

だって俺たちは、同じ人間ですらないんだから。

-6ページ-

この世で一番大切なものがなにかと聞かれたとき、迷わず『自分』だと言える人間は正しい。

それが親父の教えだった。

それともう一つ親父がよく口にする教えがあった。

「生き抜くためには、力と運、そして宝がいる」

宝。

宝というのが、よく分からなかった。

ただ、それが人間でないのだけは分かった。

親父の教えは、家族や恋人も自分の次と教えていたからだ。

では、宝の正体とはなんなのか?

オレはその正体は力だと思った。

尤も、当時は14,5だった時の考えた。

今ならもちろんーーーー

やっぱり、分からなかった。

今目の前に親父が現れたら、オレは力と答えるだろう。

人と同様、金もまた裏切るからだ。

デフレとかそういうことじゃなく、オレの世界では金なんてそこそこの意味しかない。取引では活躍できるが、取引を行わずに生きていくことだってできる。

それに金なんてカードや黄金に変えたからといって一度盗まれれば意味を無くすだろう。

いや......だからこそ、宝なのか?

ともかく、親父が指す宝の定義が分からなかった。

ならば、オレの宝とはなんだろう。

朝霧海斗の、宝。

これだけのために、命をかけて、裏切られても本望な死に方ができるぐらい、素晴らしい宝。

海「行くか......」

午前3時。

オレは屋敷を出た。

尊に彩、ツキ、佐竹に源蔵のオッサンも、

麗華も。

みんな眠っているはずだ。

......ん?

個室で一カ所明かりが付いているのが気になったが、ただの消し忘れだろう。

 

二階堂麗華。

もしオレがこの世界で対等に出会っていたら速攻で惚れていただろう。

海「......」

対等、か。

『たられば』は、小説を読む人間なら少しは考えるはずだ。

もし、もしもあいつと対等な立ち位置なら、二階堂麗華はオレの宝にーーー

門に足を運ぶ。

まだ向こうの世界にいくかこちらに留まるか、決めかねていた。

ただ、もう二階堂に姿を見せることはないだろう。

 

海「ああ、」

一度だけ、校門に振り返る。

本で見ただけの知識だが、それが初めて理解したときだった。

海「これが、失恋か」

 

朝霧海斗は、この日二階堂家を後にしたーーー。

-7ページ-

門を出て僅か数分だった。

海「......悪いな」

佐「やはりどうしても出て行くのか」

佐竹だ。

どうやら屋敷で麗華とのやりとりからずっと後を着けているらしい。

佐「ヤツと違う選択をするのか、海斗」

海「それは、親父のことか?」

佐「......」

佐竹は喋らない。

海「なら、オレは親父と同じはずがない。オレは親父を越えた。それに生まれた環境が異なるし、オレには宝がない」

佐「......宝?」

海「......こっちの話しだ」

ふう、と佐竹は感傷的にため息を吐いた。

佐「おまえが...」

海「佐竹」

言葉を遮る。

今のオレがこれ以上踏み込んではいけない話題だと感じたからだ。

海「あんたには最後まで義理の一つも果たせないで申し訳ないと思っている」

これは、本心だ。

興味がてらこの世界に流れてきて、今までずっと佐竹の世話になりっぱなしだったのだから。

だから、

海「だからーーー今そのまま銃を抜いても殺さないでやってもいいんだぜ?」

佐「......」

海「守るものが、何一つ無いオレがあんたに遅れを取るとでも思うか?」

佐「......随分、丸くなったな」

海「最近、向こうの女にも変わったと言われた」

以前のオレなら危険が及ぶ可能性があっただけで息の根を止めていただろう。

佐竹はゆっくりと銃を握りしめたが、しかしこの位置では銃を合わせるより先に佐竹の喉に手が届く。流石に向こうもそれぐらいは理解しているようだ。

海「なぁ、一つ聞いてもいいか?」

佐「なんだ?」

海「あんたの宝は、あんたがずっとこだわっているくだらない『過去』なのか?」

挑発したつもりはない。

普通に、ただ気になった質問だ。

同時に結果的にこれが引き金になることも理解していた。

 

結局、佐竹は銃を抜いた。

そして、地面に倒れた。

 

海「......」

『朝霧海斗は人殺し』

地面にくっつく佐竹を今までと変わらない様子で眺める。

 

......本当に変わった。

いや、もしかしたらあいつみたいに『たられば』の世界を想定して綺麗な朝霧海斗を演じてみたいだけなのかもしれない。

 

佐「ぅ......」

息はある。当然だ。とどめを刺していないし、見える方の目玉も刳り抜いていない。

いつか、オレをまた殺しにかかってくるかもしれない。

そのとき、オレが今のまま宝が何か判っていなければ、その時は容赦なく息の根を止め元の人殺しの朝霧海斗に戻るだろう。

 

しかしなるほど、宝か。

 

これから先、オレは宝を手に入れようと行動することはないだろう。

オレの麗華ーーー宝はオレが拒んだのだから。

 

海「......そう、だな」

宝というのは、親父の比喩にすぎない。

そこに金や力、家族など明確な名称があればそれを否定したり受け入れたりもできたであろう。

少なくとも、今のオレが欲した麗華という宝はオレ自身の手で廃棄した。

 

そうなれば今度は、新しい宝を探しにいくのもいいかもしれない。

最後にもう一度だけ倒れている佐竹を見下ろすと、人工的な光が灯す街を、朝霧海斗は後にした。

 

少し、今後のこと、宝を探すという手順をもう少しだけ考えても悪くないかもしれないーーー

 

 

 

 

ーーーーーー第一話:たられば_end

 

次→第二話:ボディーガード

URL:http://www.tinami.com/view/130616

 

-8ページ-

ーー後書きーー

とまぁ、こんな感じで海斗の一人称をメインで書いてみました。

書き方はSS_0にも書いた通り一人称メインで表現描写を少なくし、それとカギカッコの前に誰が喋ったかを表記しました。

一応誤字脱字、ストーリーの展開と見直ししたつもりですが、気になったとこがあれば感想などコメントしてくれると嬉しいです。

文章なんかは書いたことはあるんですが、SSは初挑戦です。

特に地の文は本当に酷いです。残念ながら自覚があります。

個人的に序盤が神ゲーだっただけに、クライマックスの破壊力は大きかったです。

○自分が気になったマイナス要素

・麗華が海斗を好きという理由に、まさかのオムニバス!!!

・佐竹のキャラ崩壊!!

・ボディーガードを辞めるという超展開!

・↑の原因である中傷の伏線回収がされていない!

・『宝』と親父に対してあまりにも後付けな感じがした!

・海斗が何で麗華が好きなのかあまり判らない

なので、これらのマイナス要因を埋めれる展開を仕上げていきたいと思います。

 

次回は3/21の午前0:00時にアップ予定です。(遅れることはないけど、もしかしたら早くなるかも......)

説明
「たられば」の話しは嫌いだ。だがそれでも考える。もし、なんて存在しないが、それももし......と。
次へ→第二話『ボディーガード』:http://www.tinami.com/view/130616
設定→暁の護衛SS執筆説明:http://www.tinami.com/view/130102
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
34318 32828 12
コメント
なるほど・・・自分も気になっていた所を書いているご様子・・・ 続き楽しみにしております!!(ワカンタンカ)
タグ
暁の護衛 暁の護衛SS しゃんぐりら 朝霧海斗 二階堂麗華 ツキ 佐竹 杏子 南条薫 二次創作 

朝霞 アドミさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com