輪・恋姫†無双 十五話 |
「大変教師はどこだー!!」
「たいけんとりょーしはどこだー!!」
相も変わらず大声で叫びながら、なんだかよくわからないものを探す官軍。
そしてそれを見つめる劉備軍。
「……太郎さん、私の気のせいでしょうか?」
「へい?姐さん、なにがですか?」
「何進さんが大声出して探しているのが、武器と一般人にしか思えないんですが。」
「………姐さん、ダメですぜ。」
美汐の肩に手を乗せ軽く横に首を振る。
「気がついても、何も言っちゃいけません。時にはそれが優しさになるんです。」
「……そうですか。」
時にその真後ろ約十数メートルの距離から、しばらく前に戻ってきたある男の「ふぎゃー!?」という悲鳴があがったときである。
「ただいま」と一言告げて平然と劉備軍の本陣に戻ってきた祐一だが、そのまま「おかえり」と一言返していつも通りに戻るほど、劉備陣営の人間は適当ではなかった。ということである。
桃香からは「どこ行ってたんですか!?」とあと一歩で泣きそうなぐらいに問い詰められ、
鈴々からはお土産をせがまれ、
雛里からは一瞥と、諦めのため息に迎えられ、
朱里からは自虐がふんだんに混ぜ込まれた説教をされ
愛紗からは懇々と説教を続けられ、
唐三兄弟からは見捨てないでくださいとマジ泣きされ、
そしてそれを離れて美汐は眺めていた。
それからニ十分ほどたって、今は愛紗と鈴々が二人がかりでお仕置きをしている。
棒刑みたいなものではないが、いわゆる訓練と称したイジメとでも言えばわかるだろうか。
あの悲鳴は、良い一撃を貰ったからなのではないかと推測する。
「黄巾党は首領の首級こそとれなかったものの完全壊滅。……というか仮に張角の首級をとったからって収まるものでもないですよね。」
誰にともなく呟く美汐。
「実際に村を襲ってるのは張角を崇めてるわけでもない盗賊がほとんどですし、大々的に張角を討ち取ったとなれば黄巾党本隊は死兵になってでも戦うでしょうし。」
特にすることもないので、今もニ対一で追っかけまわされているだろう祐一へ視線を向けながら続ける。
「ある意味ではこれが最善とも考えられますが……首領たちが逃げ切ったとして、二度と同じことを繰り返さないことを願うのみですね。………それにしても、」
愛紗と鈴々に追いかけまわされている祐一を眼で追いながら、残された疑問を知らず呟く。
「あの時聞こえた叫び声は、何だったんですか?祐一さん。」
追いかけまわされながらも、それでもなお笑顔の祐一を見て、思う。
「どんな思いをすればこんなあなたが、あんな……聞いてる方が泣きたくなるような叫び声を出すんですか?」
幻聴とも、気のせいとも思えなかった。
それほどまでに生々しく、心苦しく響いた声だった。
その思いは、風に流されて、今はしばらく、表に出ることはない。
逃げ散った黄巾党の部隊をあらかた蹴散らし、追撃から帰還している雪蓮と祭。
「あの男。何だったのかしらね。」
「何、とは?」
「全部よ。所属も不明。動機も不明。なんか、ついつい返しちゃったけど何から何まで謎だらけのまま。」
「後悔でもしておるのか?策殿。」
少し思案を巡らすそぶりをするが、結局首を横に振る。
「さあね。でも、もうちょっとあの相沢ってヤツと話したかったな〜って思っただけ。」
「まあ、ヤツがこの場に集まった諸侯のどこかに所属しているのなら遅かれ早かれまた会うことになるじゃろう。」
「あ、そっか。客将とか、流れの武芸者っていう線もあったか。」
そんな二人を見つけて、安堵と心配を足して二で割ったような顔で迎えに行くのは冥琳である。
自分の感じた嫌な予感を気取られないように、深呼吸して一つ頭を振り、出迎えに行く。
「雪蓮、祭殿、御苦労さまでした。」
所変わり曹操軍。
「えーと……春蘭?」
「秋蘭に聞け。」
即答されたが、特に気にせずすぐに質問しなおす。
「秋蘭?これで黄巾党の事件って解決になるのか?」
どうにも張角を捕えたとも討ったとも情報がないというのが一刀にとってはどうにも引っかかってしまうらしい。
「確証はないが、おそらくはな。数で勝る本隊がこれだけの惨敗を喫したんだ。黄巾党にはもうたいした手勢もいない上、張角や黄巾党という名前を頼って合流するような盗賊もいなくなるだろう
。取り逃がした連中が一暴れしないとも限らないが、それは今までの盗賊討伐となんら変わらん。」
「惜しむべくは、結局張角の正体が最後まで分からず、直接相対する機会もなかったということね。」
「華琳?会う機会があったら、どうするつもりだったんだ?」
「人を引き付ける才能は確かのようだし、その人となり如何によっては私の覇道の糧として働いてもらったかもしれないわね。」
「(………張角を従える曹操…まあ、唯才是挙ともいうし…ありなのか?)」
自分の三国志の知識とすり合わせて、『あれ?でも唯才是挙って当時の風潮というか儒教的に大問題なんじゃ?』とか若干混乱し始める一刀だが、
「まあ、そんなあり得なかった未来なんて考えるだけ時間の無駄よ。黄巾党という善良な民の暮らしを脅かす獣を討ち滅ぼせたということで、今は良しとしましょう。」
その言葉に冷静さを取り戻して一息つく。そうだ、これでひとまずは平和に近づいたんだ、と。
そして久々に三国志の知識を思い出して、劉備軍の元に居た共闘中に仲の良くなった祐一を思い出したが、いつかは自分たちが祐一と戦うことになるという不安も、ひとまず忘れることにした。
相沢なんていう武将に聞き覚えがなかったのも、演義と正史の違いからだろうと、無理やり納得させて。
さまざまな思惑が、想いが、誓いが、誇りが、信念が交わった黄巾党の乱。その終幕であった。
『当面の世の乱れの原因である黄巾党。その壊滅によって大陸に平穏が訪れました。』なんていうほど簡単にハッピーエンドが迎えられれば、三国志はなんと簡単な時代だろうか。
だがしかし、現実的に見て黄巾党の騒乱は漢王朝の支配力の低下が露見しただけとも言える。
各地の諸侯は将来の群雄割拠に向けて野心の炎を燃やし、漢の不穏な雰囲気は払拭されたとは言い難い。
とはいえ、そんなことに気を使う暇もない勢力というものもあるわけである。
具体的には、黄巾党の乱鎮圧の恩賞として平原の相に任命されて、街を治めるという初体験に身を投じている劉備陣営とか。
「なんていうものの、みんなあまりにも気を張り詰め過ぎだよなぁ……」
ぼやく祐一。思い起こすは劉備軍の首脳陣。
散歩がてらの街の警備と兵の調練をマイペースにこなす鈴々と、会計事務みたいなことをお茶の片手間にこなす美汐に関してはその言葉は当てはまらないが。
しかし朱里も、雛里も、愛紗も、太郎も、次郎も、三郎も、今現在自分ができること以上のことをしているように思えてしまう。
「此処は一つ俺の出番かな……」
今の思考の中で、一度も名前のあがらなかった桃香に思いをはせるが、昼飯前のこの時間は確か経済学だかの勉強とかしてるはずだ。
仕事の一環扱いで毎日一定時間勉強させられている桃香に同情の念を抱きつつ、じゃあまずは桃香に会いに行こうかと思って歩きだす。
「桃香もただでさえ人並み以上の案件処理しなきゃいけない立場だってのに……」
ちなみに彼にその日与えられてる仕事は簡単な書類整理と午後からの街の見回りで、書類整理はさきほど終わっていた。
ちなみにこの世界の文字は、転戦中に美汐と朱里に教わってほぼ完璧にこなせている。
現在時刻は昼飯を食べるのにちょうどいいくらいの時間である。
ならばこそ、部屋に引きこもる作業も終わったからシリアスな顔して部屋に引きこもってるメンバーをほどほどにからかいに行こうと胸に誓って。
午後からの見回りは……金髪でアンテナ生やしたような髪型の真名を潤という男に頼んだ。
ちなみに彼は劉備義勇軍の初期メンバーであり、親衛隊の一人でもあり、現在祐一の直属の部下だが、普通にため口で話す仲だ。
それ以上彼について特別語るべきことは、残念ながらない。
そして今回は、彼に与えられる台詞もない。
「そんじゃま、ほどほどにみんなで遊ぶとしましょうかね〜♪」
この“で”の持つ意味にも、彼にとってのほどほどの度合いにも、ツッコんではいけない。
説明 | ||
十五話投稿です。 今回の話、これでいいのかという自問自答がやみません。 ギャグにもシリアスにも針が振れないのはどうもつらいです。 でもまあ、とりあえず黄巾党編が終了しました。そして次回からはしばらく拠点ルートです。 |
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コメント | ||
レイン様 張三姉妹にはしばらく休養してもらいます。予定が狂いまくったりしない限りはまだ出番があるはずですので、期待しないでお待ちください。潤君は……今後出番があるかどうかも疑わしかったりします。(柏葉端) 前回シリアスだったのに、もうですか!?そしてミッシーの的確(?)なツッコミ…結局張三姉妹は出ずじまい?『親友?』な潤君とも出会ったようですし、次はどのキャラが合流するのか今から楽しみです。(レイン) 自由人様 まあ、華雄と何進のコンビでギャグを入れないわけにもいかなかったので……。潤君はなんかすでに納まるところに納まってしまった感もありますが、これで出番終わりとかにならないように気をつけます。(柏葉端) 自由人様 御指摘ありがとうございます。訂正しました。(柏葉端) 初っ端から笑いがあったのは気のせいかな?しかも太郎の憐れみと美汐のツッコミがなんとも絶妙wそれにしても美汐はあれが祐一君の発した声だと判っていたとは…それに張三姉妹が曹操軍に捕らえられていないのも何かの伏線なのかな?しかも最後に潤君ですか。彼は…どうでも良さそうなところに納まりそうですねw(自由人) 御報告 2p:演技→演義 3p:中華の不穏な雰囲気→漢の ではないかと?仕様でしたらすみません。(自由人) |
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