恋姫異聞録35 武王編−代償− |
兵達は指揮の元事後処理を行い、負傷兵の運び込みや人員確認、城壁や下水路の修復に着手している
「私はね、どうしても旗揚げ前に彼が欲しかったのよ。だから焦り過ぎた」
「華琳様・・・」
「今思えば子供だったのよね、御祖父さまと重なる彼が居れば王になる私は一人ではないと・・・そんなことしなくたって
彼は何時も側に居てくれたのにね」
そういって苦笑する華琳の顔は悪戯のばれた子供のような可愛らしい笑顔だった
「どうしてその話を私に?」
「なんとなくよ、いずれ春蘭の話は桂花の耳にも届くでしょう」
「・・・華琳さま、あの男が居なくとも私が御側に居ます。だからっ!」
「ええ、ありがとう。だけどもし彼が死んでしまったら秋蘭に何と言って償えば良いのか・・・」
「心配せずとも大丈夫ですよー」
いつの間にか二人の後ろに立っていた風が声をかけた
「風、いつの間に!春蘭のところで話を聞いていたんじゃないの?」
「はいー、ですがこちらでも同じような話は聞けましたし、兵を指揮するのに軍師一人では手が足りないでしょうから」
「そう、では貴方にも手伝ってもらおうかしら」
風はゆっくりと華琳の横に歩み寄り、真直ぐ兵の方に視線を向けると語り始めた
「お兄さんの心配をなされているようですが心配はいりません」
「・・・・・・」
「前に夢の話をしたことを覚えていらっしゃいますか?」
「ええ、日輪を支えて立つ夢、それで程立から程cに名を変えた。それがどうしたの?」
「日輪と風だけでは大地は風化するだけです。日輪の輝きが強く優しくとも」
「そうね・・・」
「風は何故お兄さんの真名を雲にしたのか解りました。雲は時に日の光を遮り大地を雨で潤す
春が来れば日輪と雲が大地に稲を芽生えさせ、秋にはたわわに実った穂が大地を埋め尽くす」
私と春蘭、秋蘭、昭のことだ、確かにそのとおりなのかもしれない
だから風は昭を感じたまま叢雲と名付けたのだろう、彼は私の強い光を優しく雲間から差し込む光に変えてくれる
「日輪も不滅であるように雲もまた不滅です。一度消えてもまた必ず蘇ります」
「ならばそれまでに種を運ぶ風、貴方達軍師に頑張ってもらわないと」
「はい、もちろんなのですよー華琳様」
そうだ、彼は簡単に死んだりはしない。彼が眼を開けたときに何時もと変わらない国にしておかなければ
私は王なのだ、皆を不安にさせてはいけない、胸を張ってあの日輪のように輝いて皆を導こう
それから数日が経ち、空城だったこの場所も元の様相を取り戻してきた
が男はまだ目覚めることが無い、しかしようやく面会が出来るとなって
主な将達は男の眠る部屋へと集まっていた
「いいわよ、中では静かにしてちょうだい、まだ腕の傷を縫合し終わってないの」
詠の話で腕の傷が多すぎて縫合するのが間に合っていないと告げられた、それだけであの舞の代償が伺える
皆は頷き静かに部屋へと入っていく、中は消毒用の液体の匂い、寝台の上には横たわる男と縫合をする華佗
そして壁に寄りかかり腕を組んで眼を伏せている秋蘭
「む?来たか、意識はまだ戻らないが峠は越した。後は眼を覚ますのを待つだけだ」
そういって縫合をする腕を見て皆は絶句した。男の両腕は新しいものから古いものまで指先から腕の付け根まで
無数の傷があり所々肉が削れている、そして指先には爪が辛うじて親指と薬指に残るのみ
「な、なんちゅう・・・・・・」
「うぅ、痛そうなのー」
「隊長・・・」
凪、真桜、沙和が始めに声を上げると、皆それぞれ痛々しい顔になってしまう
そんな中、春蘭は自分の感情を抑えきれないと思ったのか部屋の外へと静かに出て行ってしまう
「秋蘭、あんた平然としとるけど大丈夫なんか?」
「何を言うかと思えば・・・戦場で怪我をするのも命を落とすのも珍しいことではない」
平然と男の縫合を見続ける秋蘭は明らかに異常、霞の言葉に対して当たり前だといわんばかりの言動は
普段片時も離れる事無く寄り添っている彼女からは想像の出来ない言葉、よく見れば涙さえ流した様子は無い
「秋蘭・・・ごめんなさい」
華琳は縫合の終わった腕を持ち、手を自分の頬へと当てる。眼を伏せて心から秋蘭に対して謝罪の言葉を口にした
「何を仰るのですか、昭も華琳様を守ることが出来て満足しております。このまま命を落としたとしても・・・」
「な、何を言い出すんやアンタはっ!」
秋蘭の言葉に霞は食って掛かろうとしたとき、後ろの扉が開きそこからは小さい女の子が入ってくる
「待ってください涼風ちゃん、昭様は眠っておられるのですっ」
「李通っ!なんで涼風がここにおるんやっ!」
「申し訳ありません霞様、戦が終わったと聞いたら涼風ちゃんがどうしてもこちらに行くんだと聞かなくって
こんな事は始めてで、私も・・・・・・」
そんな二人の話をよそに涼風は父の眠る寝台に歩み寄ってくる。その顔は笑顔で
「涼風・・・どうしたんや?」
「えへへへ、おとうさんねてるから、たくさんけがしてねてるから、すずかはわらってないと・・・だめなんだよ」
涼風の返事に霞は言葉を失ってしまう、笑顔がだんだんと崩れ、それでもなかないように精一杯笑顔になろうとして
「おとうさんはね・・・すずかがっ、すずかがないちゃうとねっ・・・うぅ、おきちゃうから・・・・・・おとうさ・・・しんぱいして」
こぼれそうになる涙を顔を上に上げて、頬から流れ落ちないように必死に上を向いて、
自分を抑えようと服をしっかりと握り締めて
今まで壁に寄りかかっていた秋蘭の肩が震えだし、涼風を後ろから抱きしめると頬から涙が流れ落ちる
きっとこんな怪我をしていても男は妻と子供のために身体を無理にでも起き上がらせるだろう
そうさせないようにと、秋蘭は今までずっと泣き叫びたい気持ちをずっと抑えていたに違いない
「ここからは私と秋蘭で看病をする、皆は後の処理を」
「華琳様・・・お任せください、行くわよ皆」
桂花は皆を引き連れて部屋の外へと出て行く、桂花は華琳の顔に何かを感じたのだろう
特に何も言う事は無く、素直に指示に従った
その後、軍議を行う為に軍師三人は会議室へと集まり今後に付いて話し合った
「お兄さんは今回のことで前線に立たなくてはならなくなりましたねー」
「何をいうのよあんなの使えないんだから、出したってまた華琳さまを余計に悲しませるだけよ」
「風はそういうことを言っているのではないでしょう、あれだけの力を見せてしまえば兵達は何故、昭殿を
前線に立てないのか、舞を使えば負ける事はないと考えてしまう」
「そうですー、それにあの舞は中毒性のようなものがありそうですね。一度修羅の兵となったものはまだ
心が高揚しているようですし、士気も異常に高まったままです」
風の言う通り修羅の兵となった者たちはいまだ心が高揚しており、他の兵と比べると生き生きとして仕事を
こなしている。あの時の高揚感を一体感をまた味わいたいと思う者も少なくない
「なるべく前線に立たないようにしていたのはこういうわけだったのですねー」
「昭殿の舞の効果は絶大、しかし使いどころを間違えれば昭殿も兵達も全滅してしまう。まさに諸刃の剣」
「極端よね、まったくこんなものどう扱えばいいのか」
桂花と稟が考え込んでしまっていると風は相変わらずぼーっと天井の方を見て
そして考えがまとまらないまま稟は口を開いた
「全ての戦で前線に立たせるのではなく、数を減らして立たせるならばどうでしょうか?」
「同じよ、昭が討たれる可能性は高いわ。討たれてしまえば私達の兵は総崩れを起こしてしまう」
「・・・・・・ならばいっそのこと兵達を盾に使ってしまいましょうか、前線に立つならばそれも致し方ないかと」
「なっ!風っ!貴方なんて事をいうのです!」
「そうよ、そんなことアイツが許さないでしょう?」
「そうですねー、後一つ思いついたことがあるのですが・・・これは絶対に無理でしょうから」
意味ありげに言う風に二人は首を傾げてしまう、絶対に無理なこととはなんだろう?
問いただそうとしたが風はそのまま寝てしまった。二人はため息をつきその日の軍議は修了となった
それから何度か軍議では男の扱いについて話し合われたが結局よい案が浮かぶ事はなく
日にちだけが過ぎていった
「華琳、アンタ毎日何してるの?何かを作ってるようだけど」
「ええ、ただ起きるのを待っているだけでは手持ち無沙汰だから」
「牙門旗をいきなり降ろさせて切り裂いたときはびっくりしたわよ」
「丁度良い布がそれしかなかったからしかたないわね」
華琳は思い立ったように牙門旗を降ろさせて旗を切り裂き、曹と刺繍された糸を丁寧に解き
男の眠る部屋に持ち込むと毎日何かを作っているようだった
「・・・・・・ぅぅ」
「昭っ!」
「眼を覚ましたのね、僕は皆を華佗を呼んでくるっ!」
詠は部屋を飛び出し、外に寝こけている華佗につまずくと、そこには皆が集まっていた
皆は男の回復を今か今かと仕事を済ませるとすぐに部屋の外に集まっていたのだった
「まったくアンタ達は、意識が戻ったようだから入ってきなさい」
頷き部屋に入ると皆はぞれぞれ笑顔になるもの、涙ぐむもの、溜息を漏らしやれやれといった感じになるもの
さまざまな表情を男に向けた、そして霞、凪、真桜、沙和、季衣は寝台に駆け寄り男に涙ながら良かったと口にする
「すまないな、皆に心配をかけてしまった。ありがとう、みなの御陰で生き残ることが出来た」
「なにをいうんや、うちらこそ来るのが遅くなってしもうてホンマにすまんかった」
「そんな事はない、霞達は随分と急いで着てくれたんだろう?報告より全然早かったから」
「稟が良い道を教えてくれたから、前に無断で邑に劉備達を行かせたことを気にしてるみたいやったで」
「そうか、稟ありがとう」
男の言葉に顔を真っ赤にする、そして男は凪の頭に手を置くと震える手で優しく撫でた
「ありがとう、意識が途切れる中で暖かい力を感じた。俺を助けてくれたんだろう?」
「わ、私は何もっ!大した事は出来なくてっ!」
「なんというか、何時も凪が出している雰囲気に似ていた。あれはやはり凪だったんだな」
「隊長、助かって本当に良かった」
凪達は顔を見合わせて笑顔になり涙を流して喜んだ、皆それぞれ男に声をかけると詠に
「意識が戻ったばかりだからここまでよっ」と部屋を出されてしまった、その後を華琳もついていき
華佗も男の診察が終わると詠と共に部屋から出て行ってしまう、残されたのは秋蘭と男だけ
秋蘭は寝台に腰掛けて、上半身だけ起こした男に寄りかかる
「ただいま、心配をさせてしまったな」
「ううん、良いんだ生きていてくれさえいれば・・・もう皆も部屋から出て行った。無理をするな・・・」
何のことだ?と秋蘭に笑顔を向けるが、秋蘭は男を優しく抱きしめる、そして頭をゆっくりと撫でると
男の目からは涙が流れ落ち、布団を濡らす
「もう誰もいない、誰にも心配はかけない、だから無理をしなくていいんだ」
「・・・・・・う・・・うぅ・・・・秋蘭、みなが・・・みなが俺を守ってくれて・・・兄弟たちの腕が、脚が・・・痛い痛いって」
「ああ・・・・・・」
「それでも俺を、皆が生き残る為に・・・敵も殺してやるってっ・・・・・・ううっ!!腕がっ!俺の脚がっ!!!」
「大丈夫、ちゃんとここにある。脚もここにある」
「う・・・うぅぅぅ・・・・・・」
部屋から男の泣き叫ぶ声が響く、戦場でその眼に焼き付けた前線の光景、そこに渦巻く感情が意識を
取り戻した男の心に襲い掛かる。人物評をする為に手に入れた眼は相手の感情を読み取り相手の本質を
見抜く。それと同時に相手の強い負の感情までも自分の中に取り込み、まるで自分が傷つけられているかのような
感覚が男を襲い続ける
「華琳様、御辛いのならば別の場所で」
「いいのよ春蘭、これは私が彼に強いたもの、だから私は逃げてはいけない」
部屋の外では華琳と春蘭が静かに男の泣き叫ぶ声を聞きながら黙ってじっと壁に寄りかかっている
これは自分に対する罰だといわんばかりに、ただ男の苦しむ声を聞き続けた
説明 | ||
武王編−代償− なかなかすすまないです><ごめんなさい;; ここまでの話で蜀を好きな方の気分を害してしまったかも 知れませんのでここでお詫びさせていただきます いつも読んでくださる方応援してくださる方感謝しております ありがとうございます>< |
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コメント | ||
泣いた。・゜・(ノД`)・゜・。(クロウ) tomasu 様メッセージありがとうございます^^何時も思いの大きさなどを感じていただけてとても嬉しく思っています><これからも良いものを書いて行きますのでよろしくおねがいします(絶影) 鐵 恭哉 様メッセージありがとうございます^^主人公の能力は全てリスクがあります。なぜなら外史の人間でもないのに力を無理やり得ているからです。これからも彼はその身を削り続けると思われます(絶影) 田仁志 様メッセージありがとうございます^^涼風も気に入ってくださって嬉しいです><あの子は二人の良いところを全て受け取って生まれた子なのでこれからが楽しみです(絶影) toki 様メッセージありがとうございます^^彼の腕はもともとの傷に加えまた新たな傷が増えてきています><もしかしたら動かなくなるかも・・・(絶影) リョウ 様メッセージありがとうございます^^絆は広がっていきます。風はその中で一番だと思います真名を授けたのも風なので(絶影) BookWarm 様メッセージありがとうございます^^代償が大きく彼はそのみを削り続けます。これからの主人公に注目してください><(絶影) GLIDE 様メッセージありがとうございます^^絆を感じてくださってとても嬉しいです><これからも頑張って書きますので楽しんでいってください!(絶影) 涼風と秋蘭の気丈な思いとそしてそれすら超えてしまう昭くんへの思いの大きさを感じました。 また昭くんの優しいからこそ傷つく心や、秋蘭・春蘭・華琳の思いの大きさもとてもよかったです。(tomasu) 4人の「絆」でしょうか、つながりがとても強いと感じました。 それにしても、昭の人物評は相手の感情や本質までも見抜くとは、これもまた諸刃の剣ですね。(鐵 恭哉) 涼風ちゃんもけな気ですね 。かわいい(ペンギン) 更新お疲れ様です。昭くんの腕の描写から、今更ながら彼の今後が心配になりました。風の言う「絶対に無理」な事も気になります。(tokitoki) 4人で一つの絆なのでしょうか?最近は風さんが妙に輝き始めてる気がします。とにかく意識は戻った昭ですが、副作用等ないか心配ですね。(リョウ) 4人の絆が凄くいい!!!次回が楽しみだ^^(GLIDE) |
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