輪・恋姫†無双 十六話 |
桃香のもとへ行こうと思いついたとはいえ、何処で勉強しているのかまで知っているわけではない。一応私室に向かったが留守だった。
わざわざ仕事の真っ最中の執務室に行ってまで誰かをからかおうとまでは思っていなかったのでいきなり行き詰ったことになる。
せっかく警邏の仕事を潤になすりつけたというのに。
少し早いが昼時と言えなくもないので厨房に向かうことにした。多分、良いキャラが誰かしら居るだろうと思いつつ。
厨房に近づいていくにつれて、良いにおいがしてきた。
「誰か、料理でもしてるのか、な〜と…」
そこに居たのは一人の少女。
割烹着と三角布がやたらと似合う、
「おばさんくさい少女がいた。」
「そんな酷なことはないでしょう…」
まあ、言わずと知れた美汐さんが料理をしていただけなのだが。
「何作ってるんだ?ミッシー。」
「…………チャーハンですよ。朱里や雛里なんかはこちらから食事を持っていかないと食事を抜いたことさえ気づかないくらいの忙しさですし。」
「ああ、そういうこと…」
そう言えば最近食堂で顔を合わせることもないな〜とか思ってたが、空腹を忘れるほどの激務だったとは…と祐一は普通に会話をしているが、最初に会った間は意図的に無視した。
おそらくは、ミッシーという呼称に対する言葉を入れるかどうか迷ったんだろう。逆に言えば、いつもの台詞を入れるのも億劫なほど深刻なんじゃないかとも考えられる。
「それで、祐一さんはどうしてこちらに?」
「どうしてと聞かれて返すほどの理由もなかったが……じゃあ俺もなんか作って差し入れするかな〜」
「……!!」
「……その無言の驚愕はなんだ?」
「祐一さん、料理できたんですか?」
「完璧超人の血を引く祐一さんにできないことなどない!ただ、まともな作り方を選択しないからおかしな料理になることが多いがな。」
たとえば、カップ焼きそばの湯を捨てずにソースを入れてみたり。理解されないからネタにできないけど。そう内心で呟く。
「そんなおかしな料理を差し入れで持ってこないでください。」
「……まあ、まともに作ろうとしたってこっちでは調味料の問題で上手くいかないものが多いわけだが。」
「此処の調味料で作れないということは、祐一さんの郷土料理かなにかですか?」
「まあな。……ときにミッシーよ。麺あるか?ラーメンの。」
「やはりきちんと言うべきでしたか…ミッシーはやめてください。」
「美汐よ。麺はあるか?」
「なんですか。急に声色を変えて。誰のマネです?」
「子供のころあこがれてたお姉さんの父親のマネ。」
「……なぜそんな人のマネを私にしようと思ったのですか?」
「何となく以上の意味などないに決まっているだろう。」
「……………麺はあちらにいくらか作り置きがおいてありましたが、勝手に食べていいとは限りませんよ?」
「じゃあお題置いとくわ。」
「その“おだい”が代金の意味に聞こえないのは私の気のせいですか?」
「いや、気のせいじゃない。置いておくお題は『“童貞しか住んでいない街がありました”で始まる物語の内容を一部教えてください』だ。」
「卑猥です。」
「赤くもならずに一言で切り捨てるとは…やはり美汐は達観してるな。」
「暗におばさんくさいとでも言ってるのですか。」
「いやいや、照れなさるな。」
こんな会話をしながらも美汐はチャーハンを作り皿に盛り付けているし、祐一は本当に麺のあった場所にお題を書いた竹簡を置き、中華麺と野菜もろもろをもって鍋の前に来た。
「なあ、美汐は桃香どこに居るか知らないか?勉強だから執務室じゃないと思って私室に声かけたんだけど反応なくてさ。」
「桃香様なら今日は天気がいいから外で勉強なさるとおっしゃっていました、よ……というか祐一さんはそのいつも余計なことしておかしなことになると自覚している料理を桃香様に御出しする気
ですか!?」
「今回は真面目に作るって。」
「本当ですか?」
「見張っててもいいぞ?」
自分で宣言したことだが、若干後悔し始めていた。
何に?と聞かれれば監視を了承したことに。
「何を考えているんですか!?麺を炒めるだなんてそんな…」
「炒めるんじゃない。焼くんだ。」
「同じです!真面目に作るんじゃなかったんですか!?」
「真面目だよ!これは最初からこういう料理なの!!」
美汐は作ってたチャーハンを通りすがりの文官に持っていくよう押し付けて監視を始め、文句の嵐となった。
まあそれでも、喧嘩する口だけじゃなくて、料理する手も止めてないのだが。
ジャアァァ―…といういい音がしているが美汐としては食材の悲鳴にでも聞こえているのかもしれない。
「完成したら一口食ってみろ。旨いから。」
「……あなたが先に食べてください。」
「自分の昼飯も兼ねて作ってるから当然だ。」
「本気ですか…」
そうとう信じられないらしい。焼きそばが。
ソースがないので、あまり作りなれてない塩焼きそばだが。
「よし、完成。」
ホコホコと湯気を立てる塩焼きそば×3。
一つは大盛りに、一つは並盛に、一つは小皿に少し。
順に祐一、桃香、美汐用である。
ちなみに美汐はチャーハンを昼ごはんに食べたのだが、まだ少し残している。散々文句を付けていたことから考えるに、口直し用だろう。
「ほれ、ふってみお。」
「口にものを入れたまま喋らないでください。」
「…ん、く。食ってみろ。個人的にはこれ合格点だったぞ。」
「本当ですね?信じますよ?安全なんですね?おいしいと誓えるんですね?」
「………そこまで不安なのか?それとも、そこまで俺に信用がないのか?」
「両方です。」
即答した。
恐る恐る箸でつまみ上げ、右から見つめ、左から見直し、上から確認し、
「……あむ。」
食べた。
「……!!」
おそらく、驚愕している。
「…………」
何かを考え、
「祐一さんにも他人をからかう以外の特技があったのですね。」
「余計な御世話だ!!」
皮肉をもって返答することにしたらしい。
「まあ、これで納得したか?こいつは焼きそばという素敵な料理なんだ。ちょっと自分の常識とずれてるからってすべて否定してしまえばそれ以上の進歩はないのだぞ。そんなことだから俺におば
さんくさいとからかわれるんだ。」
「最後の言葉以外はちゃんと胸に響いたんですけどね…。どうして自らの言葉の価値を下げるような言葉を毎回入れようとするんですか。」
「俺が祐一である証明みたいなもんだからだな。」
「もっと別な証明方法を作ってください。」
「気が向いたらな。なあ、それより美汐?」
「なんですか?」
「お前、俺の焼きそばに美味しいという評価を下したんだよな?」
「なにかいやな予感がするので“いいえ”と答えたいですね。」
「……要するに答えは“はい”なんだな?」
「…まあ、そうなりますね。」
「じゃあ、口直し用ののそのチャーハンは不要だよな?」
「……このチャーハンに気づいてましたか。目ざといですね。」
「鋭いと言ってくれ。それじゃ、焼きそばの代金として一口くれないか?」
「まあ、そのくらいなら。」
「んじゃ、いただきます。」
「………」
「………」
「…………」
「…………なにか言ってください。」
「…………合格だ。」
「何にですか。」
「俺の嫁に。」
「そうですか。」
「…淡白だな、なにかもっといいはんの゛う゛を゛!!?」
「この焼きそばはきちんと祐一さんからだといって桃香様に届けますので安心して眠ってください。乙女心をもてあそんでまでふざけるあなたへの罰です。」
この出来事から約十分後、厨房を利用しにきたとある少年が見たのは机の上に空の大皿と小皿が一枚ずつと、チャーハンが少し残った小皿と机に伏せる祐一の姿。
床にはそこが若干へこんだ中華鍋が転がっていたと証言した。
被害者と見られる相沢親衛隊長は給仕係の少年に起こされた後、必死にただ転んだだけだと主張し、軽く口止めして厨房から逃げるように去ったらしい。
去り際に頭を掻きながら「女の子は怒らすと怖い」と呟いていたそうな。
祐一の休みは、まだ続く。
説明 | ||
十六話投稿です。 拠点ルート一人目です。シリアス(ほぼ)ゼロのボケ倒しです。 美汐……原型残っているだろうかとか不安になります。 さて、次の拠点は誰にしようか… |
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2013 | 1844 | 16 |
コメント | ||
レイン様 この『外史』においてはkanonメンバーは祐一のことを知りません。美汐らしさが出ているかどうかは書いてる時凄く不安だったのでそう言っていただけるとありがたいです。これが照れ隠しかどうかは〜……多分違いますね。(柏葉端) 読み返して思ったんですけど、kanonメンバーと祐一君は初対面ですか?元の世界では面識なかったんですかね?まぁ、ミッシーらしさは出ているので、今のところ問題無いんですけど。ミッシーの最後の行動は…これはテレ隠し…ではないですよね〜(レイン) 自由人様 そうです。彼は、彼が“祐一君である限り”凝りません。(柏葉端) 難儀な性格の祐一君もこれにはさすがに懲りたのだろう…とは思うものの改善の余地は無いと思うのは偏に“祐一君だから”ですかねw(自由人) |
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真恋姫無双 kanon 祐一 美汐 | ||
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