SNEIL3
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…かちっ。

しゅん、しゅん、しゅん…

…体が、重たい…。

 

意識ははっきりせず、夢と現実の境をふわふわと漂っている。

 

『…まるで、海の中のようだなあ…』

『…え?!あ!!すみません、主任。起こしちゃいましたか』

 

 

今日でこの研究室に泊り込んで1週間目になる。

私はどうやら給湯室で転寝していたらしい…。

連日の泊り込みで体が疲労のピークに達しているのだろうか。

目は覚めてはいるものの、瞼はなかなか開こうとしない。

 

『いや、いいんだ。こんなところで転寝してる私が悪いんだから。

…私にも、1杯貰えるかい?』

 

しばらくすると、部屋中に芳醇な香りが漂いだした。

 

 

『…いよいよ今日、ですね?』

淹れたてのコーヒーを差し出しながら、彼は私に確認するように言ってきた。

私はその問いに軽く頷きながら、ゆっくりとそれを口に運んだ。

 

 

 

明け方の、少し肌寒さが残る場所にもかかわらず、

彼の頬は興奮冷め遣らぬと言わんばかりに、紅葉している。

彼はこの実験が始まってからずっと精力的に参加している、若い研究員であった。

 

『…君は、今回のSNEILの事、どう思う…?』

『どうって…。SNEILは主任が中心のチームじゃないですか!!

それなのに…、何も感じないのですか…?』

 

彼は、コーヒーカップを無造作に机の上に置きながら、言葉を続けた。

 

『…僕は。このSNEILは天からの啓示だと思っています…』

『…啓示…?』

 

私の表情が一瞬曇ったのを、確認してなお、彼は言葉を続けた。

『…研究者としては、あるまじき言葉ですよね…。でも、主任は感じませんか?』

『確かに、あの実験結果には目を見張るものがある。もし、SNEILの作用が

確定できるものになったら、人類にはこれほどの発見はあるまい…。だが…。』

『…だが・・・?』

『自分で手がけた事なのに…。どうしても拭えないんだ、この何ともいえない違和感。

目に見えてはっきりと証明しているにもかかわらず、何かが違うって感じてしまう…。』

『…主任…』

『…すまない。私のほうが、非科学的な事を言い出してるな…』

 

そうだ…。何をこんなに疑ってしまうのか。

素直に喜べばよいではないか。

 

過去、偉大な発見をしてきた科学者達でさえも、

その結果が『偶然の産物』だったということはよく聞く話ではないか…。

今回のSNEILプロジェクトも、きっとそうなるのかもしれない。

 

 

 

 

…だが、しかし…。

 

 

 

私が、自分の中のもどかしさと葛藤していた、

まさにその時である。

 

 

 

『…大変です!!主任!!早く実験棟の方へ着て下さい!!』

 

…このとき、私はまだ気づいていなかった。

自分自身がすでに、その違和感の渦に絡め取られていることに…。

 

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私は間違っていたのだろうか…
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