彼方の面影 〜真・恋姫†無双〜
[全4ページ]
-1ページ-

 〜はじめに〜

 

 今回の作品は魏√のEDをそのまま私なりに一刀の一人称で書いてみようと思い書いたものです。

 

 台詞はほぼ原作通りです。地の文は私なりに一刀の心境を想像して書いていますが、すごく支離滅裂になってしまった印章が・・・orz

 

 魏√のあのEDを穢したくない方、ネタバレは嫌だなぁ(もう大分たっているのでネタバレ云々はいないとは思いますが)など等の方はページを進まず、戻ってくださいね(^^;

 

 次のページより本文が始まります。ここに入ってくださった方、真にありがとうございます。

 

 拙い文ですが楽しんでいただけたら幸いと思いますのでよろしくお願いいたします。

-2ページ-

 俺と華琳は劉備さん、孫策さんという名の酔っ払いを避けて、城を抜け出すことに成功した。

 

 森を抜け、静かに流れる小川のほとりまで来ると城の周りの賑やかな喧騒は鳴りを潜め、代わりに“リーンリーン”と虫の音が小川のせせらぎとともに見事なオーケストラを奏でている。

 

 目の前で俺の手を引き歩く華琳の髪が月明かりに照らし出されて、綺麗な金髪が微かに青みがかり不思議な色合いを見せていた。

 

「……なあ、華琳」

 

「……何?」

 

 俺の呼びかけに微妙な間を取って歩きながら答える華琳。

 

 その声に常の覇気を俺には感じらず、微妙に震えているかのように聞こえた。

 

「こんな所まで来て……大丈夫なのか?」

 

 だから俺はいつもの華琳でいて欲しくてこんな問いを投げかけてしまう。

 

「何が?」

 

 でも華琳は俺の心をわかった上でとぼけてみせる。

 

「間諜とか……」

 

 必要ないことは判りきってはいるけれど、それでも今の雰囲気をどうにかしたくて自分でもわからないことを言ってしまう。

 

「ふふっ。どこの国が間諜を放つというの?」

 

 そんな俺の動揺を華琳は鼻で笑って否定すると、握っていた俺の手を離し川辺へとゆっくり歩いていく。俺は思わず離れた手を見つめ、肌寒さを感じてしまう。

 

「……あ、そうか」

 

 間抜けな問いをしてしまったこと、離れていく華琳の姿を寂しげに見つめてしまった照れ隠しに頭をかきながら少しぶっきらぼうに答えてしまった。

 

「今の成都は、きっと大陸で一番安全な場所だと思うわよ。もっとも、警備隊の隊長のあなたが捕まえるべき相手くらいは、いるでしょうけどね」

 

 華琳はクスクスと笑いながら、あれは絶対俺が照れくさいことを判っていてこの間抜けな問いの答えを続けている。

 

「あー……国に戻ったら、そっちの整備もしないとなぁ……」

 

 月明かりと川の照り返しに幻想的にライトアップされた華琳の後姿を見ながら俺はため息をついてみせる。

 

「そうね。他国へ技術や機材の提供も出来るでしょうし、当分は忙しくなるわよ」

 

 そんな俺のため息など聞こえないとばかりに華琳は楽しそうな声音で未来への展望を語り始める。

 

 俺にはその後姿はまぶしくてとても貴重な宝石のように見えた。

 

「けど……今日くらいは休んでもバチは当たらないんじゃない?」

 

 でも俺はその思いを隠して軽口を叩いてしまう。

 

「ええ……」

 

 華琳ならその俺の思いを知ってなお否定すると思ったが今回は同意してくれた。そしてしばらく空に浮かぶ満月を眺めたあと、華琳は川辺へ一歩だけ前に進む。

 

「綺麗な月ね……」

 

「そうだな……。俺、こんなに大きな月、初めて見たかも」

 

 華琳の呟きが聞こえ、この世界に来て初めて見た月よりもはるかに強く大きい青い光から、その光に照らし出され、幻想的に青く輝く華琳に目を向ける。

 月を見上げ言葉にすることは、ここに来たときよりも俺の心が落ち着いて、周りを見渡せる余裕が出来た証なんだろう。

 

「そうね……。戦っている間は、こんなに落ち着いて月をみたことなんか無かった気がするわ……」

 

 華琳も同じことを考えていたのかそう言ってくれる。思い出される陳留から今日まで続いた日々。

 

「華琳でも余裕のない時ってあるんだ」

 

 想い出に浸り脳裏にいくつも浮かび上がってくる華琳の自信に満ち溢れた姿からはそんな姿は想像できない。でも彼女の内面を見つめれば……。

 

「私だって人の子よ。そうそう上ばかりは見ていられないわ」

 

「あれだけ余裕たっぷりに見えたのに?」

 

 でも俺は華琳にたいして軽口を叩いてしまう。華琳がたぶんそれを望んでいるから。

 

「それはあなたの目が節穴だったせいでしょう?」

 

 華琳もこの会話を続け軽口で切り返してくる。

 

「……まあ、否定はしないよ」

 

 微笑を浮かべ華琳の言葉を肯定する。

 

「否定なさいよ。俺の見る目は確かだった、って」

 

「大陸の王をちゃんと見定めて、仕えることが出来たって?」

 

 華琳が自分の言を否定し、その華琳の言を肯定した俺がその補強をする。

 

「それは私の手柄でしょう?あなたが私に仕えられたのは、私が拾ったからだもの」

 

 でもそれを華琳は楽しそうに少し震えている声で俺の補強を否定してくれる。

 

「ははっ、そりゃそうか。……華琳には感謝してもしきれないよ」

 

 普段の声より若干高く出た華琳の声に苦笑しながら、胸に秘めた本当の想いを言葉にのせた。

 

 陳留の郊外で華琳に拾われて、それからずっとの付き合いだ。叱られ、こき使われ、悩んだりもした。だけど……あそこで華琳に拾われてなければ、そもそも俺はこの世界で生きてはいなかっただろう。

 

「その恩はこれから返してもらえるのでしょう?あなたの天界の知識、むしろ今からの方が意味を持ってくるはずよ」

 

 絶対にこちらに振り向けない華琳の言葉を聞く俺の体を月から降り注ぐ青い光が通り抜け、華琳のことを青く輝かせていく。

 

「だよ……なぁ…………」

 

 力が抜けていく体をつなぎとめて、俺は精一杯の微笑をたたえて華琳の言葉に答える。

 青い光は俺の存在を吸い取るように強く輝きを増し、それに比例して俺の手のひらから向こう側が透けてはっきりと見えてくる。

 少しでもこの場に居たい、華琳とともに居たいという思いを振り絞り答えた声もかすれ声では振り向けない華琳も言葉をつげはしない。

 二人の間に沈黙が訪れ、この場に来たときのように虫の音とせせらぎの音が二人の耳を振るわせる。

-3ページ-

「……帰るの?」

 

 沈黙を先に破ったのは震えを無理に押さえ込んだ華琳の声だった。小さく細い肩が微かに震えている。“あの背中を抱きしめて震えを止めてあげたい”そう思っても……俺はもう一歩も歩くことは出来ない。華琳の目に今の俺を移すことも出来ない……。

 

「さてな。……自分では分からないよ」

 

"優しい言葉でこの小さな女の子の不安を取り除いてあげたい”それが抱きしめることが出来ない俺が出来る唯一のことだと思う。でも華琳はきっとそれを望まない。どんなときも俺の前ではきっと覇王としていたいと彼女は思っているから。

 

「だけど……この間から考えていたよ。この国の歴史のとこをね……」

 

 だから冷静に事実だけを言葉にしていく。

 

「あなたの知っている歴史と、かなり変わっているという話?」

 

 そして俺も今このときだけは華琳には覇王であって欲しい。

 

「ああ。今考えるとさ……定軍山の時も、赤壁の時も……その前に劉備さんと呂布たちが攻め込んできた時も……」

 

 きっと俺のほうが耐えられないから……。

 

「調子が悪くなったのって、歴史の大きな分かれ道にさしかかった時だったんだよな……」

 

「でしょうね」

 

 この小さな震える肩を俺は彼女に隠させてしまう。

 

「……気付いてたの?」

 

 ごめんね、華琳。

 

「許子将に言われていたでしょう?大局には逆らうな、逆らえば身の破滅……とね」

 

 俺の弱さを押し付けて。

 

 ごめんね、華琳。

 

「やっぱりあれ、華琳の事じゃなかったんだな」

 

 言いたいことはたくさんあるけど、本当の事を言えなくて。

 

「春蘭じゃあるまいし、そこまで大言を吐く気はないわよ。そしてその言葉に従うなら、大局……あなたの知る歴史から外れきったとき、あなたは……」

 

「……なるほど。そういうことか」

 

 疑惑が確信に変わり、降り注ぐ青い光の元、夜空に浮かぶ大きな月を見上げて呟く。

 

“三国志”では曹孟徳は大陸全土を統一できず、曹操の子孫達がその役割を果たし簒奪される。この世界では、その大陸統一を成し遂げてしまった以上、この先に続く歴史は、俺の知る歴史には絶対に繋がることは無いだろう……。

 

 そして華琳、ごめんね。

 

「けれど、私は後悔していないわ。私は私の欲しいものを求めて……歩むべき道を歩んだだけ。誰に恥じることも、悔いることもしない」

 

「……ああ。それでいい」

 

 その言葉は華琳の本心だろうけど、覇王たらんとさせる俺の弱さをごめんね。

 

「一刀。あなたは?後悔していない?」

 

「してたら、定軍山や赤壁の事を話したりしないよ。それに、前に華琳も言っただろ?役目を果たして死ねた人間は誇らしいって」

 

 華琳と重ねた無数の言葉が俺の胸に溢れている。

 

「ええ……」

 

「だから、華琳……君に会えて良かった」

 

「……当たり前でしょう。この私を誰だと思っているの?」

 

「曹孟徳。誇り高き、魏……いや、大陸の覇王」

 

 そして震える小さな肩を精一杯隠そうとする強がりで優しい女の子。

 

 何をおいても守りたかった……その小さな肩が震えている。

 

「そうよ。それでいいわ」

 

 でも彼女はそれを隠すことを望んでいる。俺自身もそれを望んでいる。

 

「華琳。これからは俺の代わりに劉備や孫策がいる。皆で力を合わせて、俺の知ってる歴史にはない、もっと素晴らしい国を作ってくれ……」

 

 でないと俺は……いや、きっと華琳も耐えられない。

 

「君なら、それが出来るだろ……?」

 

「ええ……。あなたがその場にいないことを死ぬほど悔しがるような国を作ってあげる」

 

 後姿しか見えないけれど、華琳、今笑ってる?出来たら笑ってて欲しい。頬に一筋、きらりと月の青い光を輝かせているけれど、ずっと笑顔でいて欲しい。

 

「ははっ……そう聞くと、帰りたくなくなるな」

 

「そう……」

 

 華琳の言葉にのり明るく言った俺の言葉に華琳は静かに息を吐き出し、少しの迷いを振り切るように頭を数度横に振る。綺麗に結んだツインテールがその頭の動きに釣られフルフルと動き、月の青い光を辺りに溢す。

 

「そんなに言うなら……ずっと私の側にいなさい」

 

 華琳の言葉、それをすることができたらどんなに幸せなんだろう。

 

 それが出来たらどれだけ幸せにしてあげられるんだろう。

 

「そうしたいけど……もう無理……かな?」

 

 でも俺の体はこんなにも透きとおり、俺の言葉はこんなにもかすれている。

 

 あの大きくて小さな白い肩を抱きしめ“どこにも行かない、ずっと側にいるよ”と月の光を煌かせる雫を唇で拭い去ってあげたい。

 

「……どうして?」

 

 その震える声を、震える背中を包み込んで暖めてあげたい。

 

「もう……俺の役目はこれでお終いだろうから」

 

 でも……華琳の側に行く足が消えている。

 

「……お終いにしなければ良いじゃない」

 

 でも……華琳の事を優しく抱きしめる腕が消えている。

 

「それは無理だよ。華琳の夢が叶ったことで、華琳の物語は終端を迎えたんだ……」

 

 でも……華琳の頬によせる唇が消えている。

 

「その物語を見ていた俺も、終端を迎えなくちゃいけない……」

 

 狂おしく吹き荒れる心の暴風と違って、覇王の朋友たらんとする矜持がひどく冷静に事実を受け入れ言葉を紡ぐ。

 

「……ダメよ。そんなの認めないわ」

 

「認めたくないよ、俺も……」

 

 華琳の言葉に俺の本心が思わず出てしまう。でも華琳の側に行くべき身体が今はもう……。

 

「どうしても……逝くの?」

 

「ああ……もう終わりみたいだからね……」

 

 薄ぼんやりと輪郭だけ微かに見える肩を見て、俺の存在を吸い取る月の青い光を見上げ答える。

 

 もう少し……もう少しだけ言葉を華琳に送りたい、そんな願いを込めて。

 

「……恨んでやるから」

 

 息を吐くだけの返事のあとに出た言葉は、

 

「ははっ、それは怖いな……。けど、少し嬉しいって思える……」

 

 それだけ華琳の心に生きていられる。確かにこの世界に“北郷一刀”が生きた証として、華琳を愛した一人の男の証として華琳の心に残っていられる。

 

「……逝かないで」

 

 覇王としての仮面の奥に隠れた華琳の心が零れ落ちる。

 

“……逝きたくないよ、俺も”

 

 そう言葉を発したはずだった。

 

 そう思いを伝えるはずだった。

 

「ごめんよ……華琳」

 

 出た言葉は謝罪。

 

 月の光が俺にはもう時間がないことを知らせる。

 

「一刀……」

 

 精一杯の言葉を曹孟徳に送ろう。

 

「さようなら……誇り高き王……」

 

 少しでもこの覇王が己の道を歩んでいけるように。

 

「一刀……」

 

 精一杯の言葉を華琳に送ろう。

 

「さよなら……寂しがり屋の女の子」

 

 少しでもこの女の子が悲しみから抜け出せるように。

 

「一刀……!」

 

 精一杯の言葉を俺の心をのせて送ろう。

 

「さようなら……愛していたよ、華琳──────」

 

 少しでも俺の心がこの世界に残れるように。

 

「…………一刀?」

 

 青い月の光となって俺は華琳を抱きしめる。

 

 もう言葉は発することは出来ないけれど、

 

「一刀……?一刀……!」

 

 もう華琳には見ることは出来ないけれど、

 

「…………ばか。……ばかぁ……っ!」

 

 少しでもこの寂しがり屋の女の子の側にいたいから、

 

「……ホントに消えるなんて……なんで、私の側にいてくれないの……っ!」

 

 少しでもこの泣き虫の女の子の力になりたいから、

 

「ずっといるって……言ったじゃない……!」

 

 俺は華琳に降り注ぐ数多の光になって、

 

「ばか……ぁ……!」

 

 ずっとずっと華琳の側にいるよ。

 

 だから華琳、

 

 だから泣き止んでくれよ、華琳。

 

 笑顔の君を俺は愛しているんだから。

-4ページ-

 ここまで読んでくださってありがとうございます。

 

 魏√、目をウルウルと潤ませた記憶がある方は多いと思います。

 

 納得できるかと問われればもうちょいフォローが欲しかったように思いますが好きなEDです。だからこそこのように穢しt(ry……失礼、自分なりの補正を入れて書いてみた次第です。

 

 見習いが今回の作品で外れるみたいなので、今までより良い物を書けるようがんばっていきたいと思います。

説明
見習い突破目指したやっつk(マテ 第2弾。

今回はあの場面を書いてみようとした練習作です。



でも今回で見習いが外れるのでちょっとアザトイマネを・・・アーイシヲナゲナイデー(>w<;)

総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
3690 3193 33
コメント
truth様コメントありがとうございます。確かに天の御遣いというのでは魏でしょうね。あとの√は天子のポジションに近いかと私は思ってますが……。(Chilly)
浅井とざし様コメントありがとうございます。BGMの入り方、グラフィックの切り替えなど、あのシーンはとても力が入っていたと私も思います。ニコ動を見たときの感動に少しでも近づけていたとしたらとてもうれしいです。(Chilly)
おやっと?様コメントありがとうございます。この文では表現しきれてないあの切なさを体験してきてください(^^(Chilly)
このEDは声優の演技もBGM等の演出も完璧だったと思います。ニコニコ動画で偶然あのEDを見たのですが思わず涙が出てきました。それとこの小説よかったです。これからの作品が楽しみです。(浅井とざし)
さてと・・・、もう一回魏√やってくるかな。(おやっと?)
PETIT様コメントありがとうございます。魏√は他のEDと比べていろいろ想像を掻き立てられるEDだと思います。そしてあのあそこで泣いてしまう華琳だからこそ人気が出たのだと思います。(Chilly)
魏√・・やっぱ泣ける。このサイトを読んでいるとあのEDがどれだけ影響を与えたのか分かります。でもあのエンディングだったからこそ、華琳をより好きになれたのかもしれないですねぇ・・・(PETIT)
kaito様コメントありがとうございます。FD出て欲しいですねぇ、その反面いろいろな解釈をする余地も残して欲しいなぁと無理な願いもしています(>w<;(Chilly)
私も魏√では涙腺が大変な事になりました。あのEDはおそらく華琳大好きなバッ〇ョ氏がプレイヤーに与えた試練なのではないかと思いますww又はFDの為の伏線なのでは・・とかなりFDを期待している自分がいますwww 追伸、見習い卒おめでとうございます!これからの作品も楽しみにしていますww(kaito)
Night様、毎回のコメントありがとうございます。前々作の世界観での魏√ED、一刀という解釈で書いてみました。こんな解釈もできると信じたい……(Chilly)
お疲れ様です。人によって一刀像が違う以上、魏√ENDもやはり人によって違う解釈なのだな、と感じさせられました。(Night)
タグ
真・恋姫†無双 一刀 華琳 

Chillyさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com