真・恋姫無双『日天の御遣い』 拠点:楽進・李典・于禁
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【拠点 楽進・李典・于禁】

 

 

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

 

 

 それは旭日が九曜旭日管轄街中警備兼治安守衛特殊編成部隊――略して九曜隊の隊長を任されてから、三週間が過ぎたある日のこと。

 九曜隊に与えられた詰所は現在、なんとも重々しい空気が充満していた。

 

「……隊長ってのは大変な役職だよな。請負人稼業とは勝手が違うし、警備の改善点は山ほどあるしで、ちゃんと隊長やれてるのか今でも不安になっちまう。だけどきっと大丈夫、自慢の可愛い部下三人が不出来な隊長を補ってくれる……そんな風に考えてた時期が、俺にもあったよ」

 

 時期つっても三週間前だがな、と胡散臭くなるくらい朗らかに笑って言う旭日。対して向かい合うように座っている凪、真桜、沙和は居心地が悪そうに目線を旭日から逸らしては戻すを何度も繰り返していた。余談だが、詰所内で待機中の兵士たちは背景になることに徹している。隊長、小隊長が揃って変人の部類に属している為、九曜隊のスルースキルは異常に高い。

 

「さてさて、何か言いたいことがあればちゃーんと聞くぜ?」

「も、申し訳ありません……」

「俺に謝られてもな。被害に遭ったのは凪が氣弾で壊した建物や、それを徹夜で修繕した園丁無双なんだが?」

「………………」

 

 旭日の目が微塵も笑ってない笑顔に押され、凪はしゅんと身体を縮こませる。

 

「たっ隊長、なんちゅうかそのぅ、これには理由があって……やな」

「そそそそうなの! 山よりも深く谷よりも高いワケがあるの!」

「ふうん? 仕事ほっぽって、工具店や服屋に一刻以上も居続ける理由があるとは思えねえが、納得のいく説明はしてくれるんだよな?」

「………………」

「………………」

 

 容赦のない切り返しに、これまた身体を縮こませる真桜と沙和。

 普段は明るく快活な三人の落ち込んだ様子を見るのは心苦しいものの……今回は簡単に許してはやれない。凪は氣弾を撃っては街を破壊するし、真桜と沙和はことあるごとに仕事をサボって趣味を優先する始末。加えて華琳に怒られるのはいつも自分という、まさに悲劇の中間管理職を再現しているような有様なのだ。いい加減、どうにかする必要がある。

 溜め息を隠そうともせず吐き出し、旭日は疲れたとばかりに前髪を掻きあげて言う。

 

「三週間、たったの三週間だぞ? なのに街の建造物を破壊すること二回、仕事をサボること五回とか――三日に一回は問題が起きてるじゃねえか。その件に関して楽進小隊長、李典小隊長、于禁小隊長はどう考えてるんだ?」

「……反省しています」

「……次から気をつけるわ」

「……ごめんなのー」

 

 項垂れるように頭を下げる凪、真桜、沙和。

 

「(なんか、俺が悪者みたいだな……)」

 

 正しいのは間違いなくこちらのはずなのだが、こうも落ち込まれると良心が痛む。ついさっき簡単に許してやれないと思いはしたけれど、どうやら自分には厳しい指導者の才能がないらしい。お説教を続行するのは精神的負荷がかかりすぎてしまう。

 

「はぁ……ったく、わかった。俺の負け、降参だよ。つまんねえ説教はお終い、反省できたんなら十分ってことにしといてやる。ほら、もういいから、顔を上げろって」

「……よろしいのですか?」

「ほ、ほんまに許してくれるん?」

「隊長、怒ってないの?」

「怒ってないも何も、俺は別に怒ってなんかねえぞ?」

「「「………………え?」」」

 

 きょとんと首を傾げ、旭日は言葉を続ける。

 

「街を滅茶苦茶にしちまったのは確かに駄目なことだが、それは賊を捕まえる為だろ? サボりにしたって仕事に息抜きは必要だ、わざわざご丁寧に怒ることじゃねえ。ただ――叱りはする。どんなに不出来でも俺は、九曜隊の隊長、だからな」

 

 隊長とは華琳に与えられた役職だ。しかし与えられた以上、受け取った以上、義務は全うしなければいけない。

 旭日は隊長としての義務を。

 凪たちは小隊長としての義務を。

 

「俺たち九曜隊の仕事はこの街で暮らす民の安全を守ることだ。賊を捕まえるのは大事だし、息抜きは大切だけどな、その為に民の安全を犠牲にするのは絶対にやっちゃいけねえことなんだよ」

 

 九曜隊の装備も給金も民の納めた税で賄われている。

 民の安全を犠牲にすることは自分たちを支えてる全ての否定であり、裏切りだ。

 

「賊を捕まえるよりも民の安全を第一に考えろ、被害を出さないことに最善を尽くせ。サボる時は他の誰にも迷惑をかけず、民を不安がらせないよう上手くやれ」

 

 叱るのは嫌いだ。

 他人に説教できるほど偉いつもりもない。

 それでも、隊長である自分は責任を果たさなければならないのだ。

 義務を全うする為に。

 自慢の可愛い部下を――裏切らせない為に。

 

 

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「……俺の言ってること、わかったか?」

 

 重みのある言葉に、真桜たちはこくこくと頷いた。

 それを見てようやく旭日は形だけじゃない、いつもの明るい笑みを浮かべてくれる。

 

「ん、よし。これで本当に説教は終わりだ。長く付き合わせて悪かったな」

「いえ! とても良いお話を聞かせていただきました」

 

 びしりと礼儀正しく頭を下げる凪とは正反対に、重苦しい空気が去ったことに安堵した真桜と沙和は、だらりと突っ伏すように椅子へ全体重を預けた。時間にすれば一刻にも満たない間だったが、圧し掛かる疲労感は一仕事を終えたよりもずっと大きい。

 

「あー……しんどかった」

「つ、疲れたのー」

「おいおい……そう落ち込むほど強く言った気はないんだが」

「そりゃ強うはなかったけど、隊長に幻滅されたかと思うたら落ち込んでも当然やって」

「………………はあ?」

 

 珍しく素っ頓狂な声をあげた旭日。次いで「成程……道理でしおらしかったわけだ」と、彼はひどく不愉快そうに顔を顰める。

 

「っとにどいつもこいつも、よくそんな馬鹿なことを思えるもんだぜ。春蘭だってそこまで馬鹿じゃねえぞ」

「馬鹿って、ウチらは真剣に……!」

「それが馬鹿だつってんだよ」

 

 遮り、旭日は吐き捨てるように言う。

 さっきの説教の時とは違い、目からも口元からも笑みを消して、熱いのに冷たい声音で。

 

「いいか、お前たちは俺の自慢の可愛い部下だ。どこに出しても恥ずかしくない立派な仲間だ。街を滅茶苦茶にしても、仕事をサボっても、お前たちが俺の自慢の可愛い部下ってことが変わってたまるか。なのに幻滅する? ……ふざけたこと思ってんじゃねえよ」

 

 ああ――これは。

 自分たちの中で凪しか見たことのない、彼のこの感情は――怒りだ。

 どんなに自分たちが迷惑をかけてもけして怒らなかった彼が、静かに怒りを露わにしている。

 街を滅茶苦茶にしたことより、仕事をサボったことより、自分たちの抱いた幻滅などというくだらない思いに。

 

「伝わってねえんだったら何度でも言ってやる。お前たちは俺の自慢の可愛い部下で、どこに出しても恥ずかしくない立派な仲間だ。お前たちがお前たちの大切なものを裏切らない限り、幻滅なんざしてやらねえ。それだけは……覚えとけ」

 

 そして旭日は溜め息を一つ吐き出した後、表情を笑顔に戻した。

 怒りを微塵も残さない、張り詰めた空気を穏やかにするほど温かな笑みに、思わず見惚れてしまう。

 

「今度こそ本当の本当に説教は終わりだ。もういい時間だし、昼飯でも食べに行こうぜ……って、どうした? 俺の顔に何かついてるか?」

「………………はっ!?」

「なっなんでもないで、うん!」

「そ、そうなのー!」

「……まあ、なんでもないなら構わねえけど。そんじゃ警備の引き継ぎ済ませてくるから、少し待っててくれ」

 

 首を傾げつつも立ち上がり、詰所の奥へ消えていく旭日。

 その背中を三人はじっと見送って――とうとう凪まで椅子に全体重を預けた。

 

「(……顔が熱い)」

「(あれは反則や……)」

「(お日様みたいで……すっごくキラキラしてたの)」

 

 敵わないな、と思う。

 彼に幻滅されたかと考えればとても悲しくなるし、怒られるのはとても辛いし、温かな笑みを浮かべてくれるのはとても嬉しく感じてしまう。

 

『お前たちは俺の自慢の可愛い部下で、どこに出しても恥ずかしくない立派な仲間だ』

 

 たったそれだけの言葉が、まるで大事な大事な宝物のように胸の奥で眩しく光を放つ。

 敵わないな、と思う。

 敵わないな、と思う以上に――敵いたくないな、と思う。

 

「なんちゅうか……隊長が隊長でほんまによかったわ」

「……ああ」

「……だねー」

 

 この胸に灯る気持ちがなんなのか、まだはっきりとはわからない。

 しかし――いつかわかる日がくるのだろう。

 そう遠くないうちに、きっと。

 

 

説明
真・恋姫無双の魏ルートです。 ちなみに我らが一刀君は登場しますが、主人公ではありません。オリキャラが主人公になっています。

今回は拠点。
三羽烏を平等に書くのは難しいです……

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コメント
山と谷の高さが逆だ!(ヒトヤ)
手のかかる奴ほどかわいいのだろう(ヒトヤ)
太陽は輝きが増すほどに辺りをさらに明るく照らす・・・といった感じかな?(スターダスト)
園丁無双に笑ってしまったw旭日君はなんと熱い御方なのだろうか。まさしく『日天の御遣い』に相応しい存在だなと思いますね。それに『駄目な子ほど可愛い』に近い感じにも…これにより三羽烏との関係がより一層深くなりそうですね。(自由人)
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