双天演義 〜真・恋姫†無双〜 一の章 |
学生寮の朝は早い。しかもそれに男子の二文字がつくだけで喧騒は増し、ついでにむさ苦しさも否応がなしに時間とともに増していく。それが何故か?なんてことは聞いてくれるな。成長期の男子たるもの食欲性欲……失礼、食欲を満たすことは大事なことだ。しかもそれが運動部に入っている人間ともなれば、朝練前に軽く丼飯をかっこんで、旺盛な食欲の赴くまま時間ぎりぎりまで食堂にいるものだろう。多分に偏見が入ってるとは思うが、概ねその通りのはずだ。まぁ、いろいろ言ってみたけど他の朝連の連中と一緒に寮の食堂で朝飯を食べているってだけなんだけどな。
「諏訪、今日の数学、お前当たるんだっけ?予習問題やっといたか?」
クラスメイトAよ、なんてことを思い出させるんだ。勉強は文系のみのオレが数学を不得意としているというのに!
「一本でいいぞ」
くっ、商売上手な奴め。一瞬でたオレの顔色を見て指一本立ててやがる。
「そうか……残念だよ、諏訪君。この話はなかッ……」
そしてオレが躊躇しているとあっさりと引き下がろうとしやがった。値引き交渉に応じるつもりはないようだ。オレは慌ててクラスメイトAの肩をつかんで引き止める。
「まぁ待て。何もそんなに結論を急ぐことはないだろう?」
「一限目の授業だから結論は急ぐべきだな」
オレの笑顔の交渉もあっさりバッサリ切り捨てやがった。くそ、血も涙もないクラスメイトAめ。少ない仕送りをやり繰りしているというのに……。仕方なくポケットから財布を取り出し、銀色の他より大きめの硬貨を取り出し、せめてもの意趣返しとして叩きつけてやる。
「毎度ありぃ。ノートはいつものとこ、プリントはそのまま提出しといてくれなぁ」
笑顔で手を振り行きやがった。くぅ、最後の意趣返しも効いてやしねー。
「相変わらずカモられてるな、晴信」
うちひしがれながら自棄食いとばかりに丼飯をかき込んでいたら、頭の上から声がした。
「おお、心の友よ。一刀のものはオレのもの、オレのものはオレのものということで夏目さんくれ。新渡戸さん……今は樋口さんか?でもいいぞ。なにぃ福沢さんをくれるって!」
朝食を載せたトレイを手に一連の事を見ていたのか苦笑を見せる一刀がいたので、某有名漫画のキャラクターの台詞を使って言ってみる。もちろん胸を張り尊大な雰囲気を作って右手を差し出す。
「バカ言ってんじゃないよ。っとそこ空けてくれ、座るからよ」
一刀は右手一本でトレイを持って、左手でオレの頭をはたきおった。しかも顎で指図してオレをこき使おうなんて……。仕方ない、オレが借りたノートが散乱しているんだ、片付けてあげよう。
オレがいそいそと片付け終わったところで、一刀はトレイを置いて席に着き朝食を食べ始めた。
「そういや一刀。及川のやつが昨日“はるやん〜。明日北郷サド左右衛門誘って歴史資料館に行かへん?”なんて言ってきたので大声で“わかった、女の子叩くのに熱中するような北郷サド左右衛門をオレが誘っておこう”って言っといた」
……おや?なにやら怒気みたいなものを感じるがおかしいな?それに一刀がいる左側の頬が抓られているように思いっきり痛いのだが……。
「晴信ぅ。誘ってくれるのはいいが、なんだその俺の呼称は!」
「いたいいたいいたいって、一刀!ほんの出来心だから許してくれ!ってホントに痛いから放せって」
おもいっきり抓りやがって!多分赤くなっているだろう頬を擦りながら横目で一刀を見るとジト目でこちらを睨み付けてきています。仕方ない、ここはひとつ素直に謝っておいたほうが及川に現在の怒りをもっていけるかもしれないな。
「ほんと悪かった。ついつい及川のペースに乗せられちゃってさ。あははは」
ジト目がため息に変わり、肩を落としちゃったよ一刀さん。朝から何をそんなに疲れていらっしゃる。これから我ら学生は教師という強大な敵に立ち向かい、如何に惰眠を貪るか……ではなく勉強をしなくてはいけないというのに。
「及川と晴信だもんな……俺、なんでこんなやつらと友達なんだろ……」
お、なんか一刀が悟りを啓いてるっぽい?怒りを通り越してしまったか?ま、いいか。
「でだ、一刀。なんで歴史資料館にいかないといけないんだ?」
あれ?今度は完全に突っ伏してご飯の載ってるトレイに頭突っ込んでるよ。
「豪快な食べ方だな。そんなに腹へってたのか」
「呆れてんだよ!冬休み前に理事長から宿題出てただろうが!」
「あぁ……そんなもんもあったような?」
そういえば冬休みに入る前に全校生徒に向けて理事長が言ってたなぁ。敷地内に歴史資料館建てたから見学して感想文を書けとかなんとか……。基本朝礼とかホームルームとか寝てるからな、覚えていなくても仕方がない。
「午後に迎えに来るとか言ってたけど、一刀は大丈夫か?」
「唐突に話を戻すなよ。うちは今日自主練だから大丈夫だと思う。不動さんにつかまらなければ平気だろ」
「及川にはオレが言っとくわ。こっちはきっちりあるけど早めに終わらせるからさ」
そう言ってオレは食べ終わった食器を持って一刀に別れを告げた。
“ヒューーーッ”という風切音の後に“タンッ”と巻藁に矢が刺さる。
残心をとき息をつく。
そしてすぐに足踏みから入り胴造り、弓構えと移る。
弓矢を持った両拳を上に持ち上げ、打起しの体勢を作り、静かに打起した位置から弓を押し弦を引いて、左右に開きながら引き下ろす引分けの動作に入る。
集中した視界に見えるのは二八メートル離れた直径三六センチの巻藁だけ。
引分けが完成され会の状態に入る。
ゆがけを着けた手につままれた乙矢を……放つ。
矢を放つ離れから残心に戻り、矢が色的のどこに刺さっているか確認する。
そうして本格的に一息ついて緊張を解した。
「ほへー普段ちゃらんぽらんやのにこういうときはキチンとやるんやなぁ」
弓道場の入口に立っていた及川が声をかけてくる。何気に失礼な言い分だ。
「ちゃらんぽらんはお互い様だ。今着替えてくるから先一刀のとこ行っててくれよ」
「おーけいほーけい、かずぴー誘ってくるわー」
下らないこと言いやがって。ここにゃ女子部員もいるっちゅうねん。ほらほら、睨まれてるよ、モウ
……。
オレは弓道場の隣にある更衣室に入り、かばんの中からタオルを取り出す。
意外に思われるかもしれないけれど、弓道は見た目以上に運動量がある。汗だくになった体をまず、上半身裸になって汗を拭き、一応のエチケットとして制汗スプレーをしてTシャツを着る。それからワイシャツを着て袴を脱いでズボンを穿く。う〜ん……弓道衣どうしよ……ええい、鞄の奥底にしまっとけばいいか。
「道衣を袋に入れて、鞄の一番下に入れてっと……あれ?なんで予備の弦が三本も鞄に入ってるんだ?ま、いいか……うっし、剣道場に向かうかな」
弦を取り反対側にしなりを戻した弓を入れた袋と道衣などを入れた鞄を持ち弓道場を後にする。
弓道という本来の授業はない、しかも専用の施設が必要ということで弓道場は結構離れたところに建っている。ここから剣道場にいくより直接資料館に行ったほうが近かったりもするが、そこは友達との約束だ。ちゃんと剣道場に行ってから向かわないとな。
のんびりと歩いて剣道場に向かっていると資料館へと行く道の分かれ道で一刀と及川がすでに待っていた。
「わるい、待たせた!」
今更走っていったところで変わるまいと歩いたまま二人のいるところまで行き、言葉だけでも謝っておく。
「ん?あぁ、晴信、来たのか。じゃあ、資料館にいこうぜ」
なにか別の事が気がかりですとでも言いたげな一刀。目で及川に問いかけるも気がつきやしねぇ。
「ほらほら、はるやんも行くで!時間無いねんっマジで!」
先を行く一刀に追いつけとオレの背中を押す及川。やけにテンション高くないか?さっきと違って……あんまり違ってないか……。
着いた先の歴史資料館。学校の施設の規模を超えてます。入口に所蔵品のリストのパンフレットが置いてあったけど、ざっと見た限りでもお金を取って博物館としてでもやっていけそうな感じだった。
「さっすがやなぁ、どんだけお金かけてこんなんつくったんやと言うこっちゃな」
及川の言葉がオレ達三人の共通認識だろう。所蔵品だけで億の数字は軽く動いてるんだろう。まぁそこらの民家から引っ張り出してきたような農機具とかもあったりするから全部が全部高価じゃないだろうけどな。
一階にある日本の鎧兜や刀、農機具が展示してあるところをぐるッと回ったところで及川がそわそわとしだした。大方他に約束があってそっちが気になる、もしくは時間が迫ってるんだろう。
「及川、どうしたんだ?そわそわして。トイレだったらそこを突き当たったら右に曲がればあったぞ」
多少言いにくいんだろうから、少しは水をむけてやるかな。
「そういえばこのあとデートだっけか?時間大丈夫なのかよ」
オレの意図に気がついたのか一刀も援護射撃に入る。及川のやつ途端に顔を輝かせやがった。
「悪い!もうそろそろ待ち合わせ時間なんや。俺、このへんでお暇させてもらうわー」
そう言うやいなや及川は風となって、この場から駆け去っていった。女の子への欲望には忠実なやつだ……。
「……静かに見て回ろうか、警備員睨んでるしな」
「あぁ、適当に見てまわろう……」
二人して疲れたように呟き、睨みつけてくる警備員の視線を無視して二階へと上がってみた。ここは日本のものではなく、中国やヨーロッパなどの外国のものが展示してあるらしい。
「結構古そうなのおいてあるな」
一刀の呟きに持ってきたパンフレットを見て確かめてやる。
「後漢後期って書いてあるな。……ってえと三国志あたりか?」
「だな。1800年前ぐらい前の遺物かよ、すげーな」
うろ覚えの知識だったが合っていたようで何よりだ。
「三国志は爺さんのところでかなり読み込んだからな。その時代のものを見れるってのは素直に感動物だぜ」
「んだな。有名な物語の時代のものってだけでも見に来た甲斐があったな」
いくつかのショーケースを話しながら見て、帰ろうというところで一刀が急に立ち止まり、後漢時代のショーケースのあたりを凝視する。そこに立つのは見たことのない、しかし見慣れたフランチェスカの制服を着る若い男。一学年下くらいの年齢か?
彼はジッとショーケースに飾られている一つの銅鏡を見つめている。
まるで親の敵を見るような目つきに不吉なものを感じる。
「どうした?一刀?あいつが気になるのか?」
「あぁ、あいつ結構すごいぞ。立ち姿とか隙がない、結構腕がたつぞ」
一刀がそういったとき、ショーケース前の少年は拳を振り上げ……。
……ショーケースのガラスに叩きつけた。
“ガチャーンッ”と大きな音が響き、大小様々な大きさに割れたガラスは照明の光に照らされてキラキラと宙を舞う。
オレも一刀もあまりにいきなりの出来事に反応が出来ず、ただそこに立ち尽くすのみ。
ガラスで切ったのかドクドクと流れる拳の血を気にもせず、割ったガラスの穴を肘で叩いて広げていく。
「……れを……まえ……いつら…………せまいっ!」
ブツブツと呟いた後、気合の咆哮と共に目の前に展示されていた銅鏡に血濡れの拳を叩きつけ……。
確かに叩きつけたように見えたが、実際に見えたわけじゃない。
銅鏡に拳が当たる瞬間、目も開けられないほどの眩しい光が銅鏡から発せられ、叩きつけられる瞬間をオレは見ていない。
痛いほど目を刺激する光はオレの感覚を徐々に溶かしていき、オレの意識は真っ白い光の中、暗い闇へと落ちていった……。
一応主人公、序の章では名前だけしかでなかったオリキャラのプロットもプロット、初期段階の設定をば……。
姓:諏訪 名:晴信 字:なし 真名:なし 武器:ノートパソコン内のウィキペディア&電子辞書による知識
北郷一刀のクラスメイト。弓道部員だが基本幽霊部員。及川佑と一緒に一刀をいじって遊んでいたりする。
座右の銘:立ってるものは親でも使え、他人だったら死ぬまで使え。人当たりはいいが本心を滅多に回りに見せない。
外見イメージ:黒髪、黒い瞳。身長は185と高いが痩せ型でひょろりとした印象。
少々書き始めるに当たり設定を変えました。そして書いていて大分変わっていってくれてます、性格が。orz
説明 | ||
一応第一話です。時系列的に序の章より前の話になっております。 なんとなく一刀は級友とどういった関係を築いていたのか、及川は親友っぽい立ち位置なのになぜ名前や愛称ではなく苗字で呼ばれているのか、春恋に答えがあるのかもしれませんがやってないのでわからない……。故に今回は多分に原作と違うと思われる部分があると思います。何卒ご容赦くださいませ。m(_ _)m 追記:2010.3.30 朝の1コマに矛盾を見つけたので修正。 クラスメイトAが今日授業あるようなことを言っているのに部活しかないような一刀と晴信の言葉を修正。 |
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コメント | ||
誤字報告ありがとうございます。うはー、この長い期間、あんな誤字をさらし続けていたのかorz(Chilly) P2 誤っておく→謝っておく ですかね?(イタズラ小僧) Night様コメントありがとうございます。だんだんと三枚目のおバカキャラに……どうしてこうなったとorz(Chilly) お疲れ様です。書いているうちに結構変わってきたりしますよね、性格とか言葉使いとか・・・続きを期待して、待ってます。(Night) |
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