暁の護衛二階堂麗華アナザーストーリー ?第五話:犯罪と罪悪感?
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朝霧海斗はそこにいた。

昔から住んでいるアパート。

ただ、海斗はそこにいるだけだ。

ボディーガードを辞めて2ヶ月。海斗はただ生きているだけだった。

食料を探し、持っている本を読み、寝る。

敵に襲われることもなければ、誰かと会話する機会も大分減った。

思えば長く禁止区域で生活してきた海斗だったが、物心がついてから人との触れ合いが絶たれたのはこれが初めてだった。

時間ばかりが経過しく。

が、初めて『独り』となった海斗にとって、その時間は以外なほど有意義だった。

たらればの妄想、考え、価値観。

初めはそんな思考に嫌悪感を感じていたが、僅か2ヶ月とはいえ十二分過ぎるほど考える時間が取れたと海斗自身感じていた。

同時に自己の時間の有意義さも感じていた。

 

がーーー答えは出ない。

 

元々問題が無いので、いくら考えたところで答えたるものは浮かんでこない。

「じゃあいつも通りお願いするぜ」

海「ああ」

杏子と別れた後、一度人を殺した。

相手は知らない中年の男。

動機は食料を奪うため。

それには色々な意味があった。

 

人は変わらない

オレは人間じゃない

麗華に相応しくない

しかし間違っていない

 

様々な思考が交差して、それでいての殺人だ。

 

"禁止区域の人間は人間じゃない"

 

海「......くく、」

今は人から食料は奪わず、こうやって窃盗をしている。

当然人を極力殺めたくないとか偽善者を装うつもりはない。

少なくとも、隣に杏子が居た頃は心のどこかであいつに気を遣っていた部分もあったかもしれない。

だが今は違う。

単純にこちらの方が食料が多いからだ。

 

仕事を終えると報酬を別け、窃盗グループ達と禁止区域の入口で別れた。

海斗は何をするでもなく、ただぼーっと突っ立っていた。

何かを考えるわけでもなく。

ただただ、虚無感が心地良く思えてきた。

海「......」

......帰るか。

足を一歩向けたとき、

.......っ!

小さな気配に気付いた。

人混みが多い町ではなく、人がほとんどいない場所でこれだけ薄い気配に出会ったのは初めてだった。

さて......どうするか。

相手を意識した反応は見せていないものの、敵の位置は大体判る。

とりあえず銃が当たらない場所まで気付かれないように相手を誘導していく。

 

向こうの警察とかそんなレベルじゃない。

気配の殺し方からして、これは明らかにこっちの住人だ。

そうなると思い当たるのは『取引』が可能な人物しかいないが、動機が判らない。

奴らがオレに接触を図る時は決まってルールを破るような行為をした場合のみ。

情報交換や取引なども今も継続して行っているし、むしろ交友関係はいいと言ってもいい。

海「......っち!」

見失った。

誘導がバレたのか、オレの禁止区域とこっちの世界を行き来するルートが見たかったのか、とにかく気配は完全に消滅した。

......。

 

敵は一人だ。

それは間違いない。

しかも気配を絶つことに関しては一級品だ。

だが、そいつを追跡したところで本当に敵が一人とは限らない。

もしかするとオレが誘導されて気付いた時には蜂の巣だってことも可能性の一つとしてはありえるのだから。

海「......」

デメリットが先行するなら、もう窃盗はあまりやらないほうがいいかもしれないな。

 

......デメリットが先行するならな。

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次の週、オレは再びこの仕事を引き受けた。

だが目的は先週とは大きく違う。

物が欲しいのではなく、敵をおびき寄せるためだ。

正直禁止区域での敵ならある程度は覚悟できる。だが、こっちの世界は本当に遠距離からの狙撃があったっておかしくない。

暗いから大丈夫とか言える時代はとうに過ぎているし、何より向こうの人間がこっちの人間に対してどこまでしてくるのか、そのラインが明確に判らない。

この間神崎が禁止区域で暴行を受けた。

お嬢様にまで被害が拡大したら、冗談ではなく禁止区域自体が無くなる可能性も秘めている。

それが機動隊による突出なら海斗はどうにかなるが、最悪の場合も想定しておかなければならない。

武力行使として爆弾等を用いられては、朝霧海斗としても最悪な結末をもたらすだろう。

海「......」

それは正直避けたい。

独りになって、何も決まらない宙ぶらりんな状態で、それでいて欲もない。

 

それでも生きたい。

 

死ぬのは怖い。

動物的な本能から見ても、多分朝霧海斗としても死は怖い存在だ。

となれば、生き残るのにもう一つリスク回避として考えなければならない。

 

"情報"

 

情報には価値がある。

お嬢様達が普通に見せびらかせていた情報も、言ってみれば地位と金が成せる業だ。

尤も、本当に禁止区域を排除するかどうかの情報を得ようとするならば、政治家とコネクションを持たなければいけないが、そんなことは現実的に不可能だ。

当然それは最先端の情報が欲しいときで、強行突破や爆弾を落としたりする可能性も視野に入れるとなると政治家や権力者の思想がそのまま反映される可能性は限りなく少ない。

責任転嫁が大好きな上の連中なら、必ず正義を振りかざし国民に同意を得た上で自己のエゴを貫くだろう。

ならばその前に一般放送で流れるラジオでも手に入れば情報自体を得ることはそう難しくはないだろう。

もちろん、それはすでに日付が決定された後の話だと思うが。

海「さて.......」

金庫を開け、仕事仲間に合図を送る。

いる。

おそらく先週もいただろう。

考え事や目の前のことに集中していれば絶対に気付かない小さな気配。

金庫を開けるふりをして、それでいて外に気を配っておかないとオレでもまず感知できない。

もしかしたらずっと前からこうやって尾行されていたのかもしれない。

海「よーい......」

どん!

オレは相手の方に一直線に走る。

相手はオレの行動に一瞬固まるも、すぐに追跡されたと判ると逃走を試みた。

が、逃げられない。

この辺りの地理は頭に入っているし、他に気配を絶っている人間はいない。

オレはすぐに追跡者を先回りし、相手を禁止区域に誘導していった。

向こう側の人間ならこちらの地理に疎いし、こちら側の人間が今頃オレを追跡する意味がない。

 

だから禁止区域に追い込んだらゲームセットのはずだった。

 

海「......っ」

標的は禁止区域に入っても速度を緩めることなく、どんどん奥に進んでいく。

奥といっても特別禁止区域に向かっているわけではなく、別の出口の道に向かっていった。

......これは、見逃せないな。

海斗は走る速度を上げ、すぐに背中に手を伸ばした。

「ひっ!」

白色の髪に、ボロボロの衣服を身を纏い、それでいてまだ若く小さい少女。

表情はしまりがなく、だらしくなく、それでいて生意気そうな瞳は見覚えが......

ツ「よう」

海「......」

思考が、停止した。

ツ「無視か」

海「......」

そもそも、何で追い詰めた俺が追い詰められているんだ?

ツキは服装は違うものの、屋敷と同じつかみどころのない表情でオレを眺めていた。

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ツ「そこの朝霧海斗。何で出て行った?」

......真っ先に出てきた言葉が、これかよ。

結果的に罠にかかったのはオレだと理解した。

海「メイド長の暴言に耐えられなくて、もう限界だったんです」

ツ「私の記憶ではメイド長は美人でナイスバデーで聖母みたいな人物だったぞ」

海「色々ツッコミ所はあるが、ナイスバデーって何だよ」

ツ「ナイスバデー」

海「うるせぇよ!」

本当にこいつは判らない。

海「それじゃ、ストリートファイトもほどほどにするんだぞ」

ツ「待つのだ」

海「......」

やっぱりいつもの流れで逃げ切れるわけないか。

ツ「ストリートファイトって、道で闘うからストリートファイト?」

海「流石だなぁ、おい!」

ツ「では本題」

釣りかよ。

ツ「麗華お嬢様が心配している」

海「......」

ツ「ずっと海斗のことを探しているし、他のボディーガードもちゃんと決まらないから外にも出れなくなった」

海「......」

ツ「全部朝霧海斗のせい」

海「......」

多少口を挟みたくもあったが、黙っておく。

職務放棄したオレに非があるのは間違いないし、麗華を心配しているこいつの言い分は適切だ。

海「......一つ聞きたい」

ツ「なんだ」

海「その格好からすると、尾行を前提として来たんだよな?」

向こう側の世界では貧困の人間が着けるには薄汚い衣服。

禁止区域の女性ならこれぐらいでも目に止まらないし、むしろこれぐらい清潔感の無い洋服が迷彩服として違和感がなくてちょうど良い。

ツ「......」

ツキは初めて言葉を濁した。

海「......しばらく会わなくなると、変わるもんだな」

ツ「エッチ」

海「......」

その言葉に、うっすらと微笑んだ。

ツ「な、なんだ? 持てない童貞野郎が巨乳に発情してるのか?」

悪いな。

もう、ごまかせないぜ。

 

海「久しぶりだな、ツキ」

 

ツ「え......」

そこにいたのは朝霧海斗ではなく、

海「あの時の続きをしようか?」

 

 

 

 

ーーーーーー第五話:犯罪と罪悪感_end

 

次→第六話:絶対的矛盾

URL:http://www.tinami.com/view/134172

 

説明
価値観が違う世界があまりも近い。その境界線上にいるのは、オレと、もう一人。
次へ→第六話『絶対的矛盾』:http://www.tinami.com/view/134172
前へ→第四話『悲恋からのいい女』:http://www.tinami.com/view/132049
最初→第一話『たられば』:http://www.tinami.com/view/130120
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