暁の護衛二階堂麗華アナザーストーリー ?第六話:絶対的矛盾?
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ツ「っ......!」

ツキは目を大きく見開き、後ろに一歩後退した。

危険に敏感なツキだが、一瞬にして人がバケモノに変化したような経験は人生でない。

海斗は無言で足を一歩前に出した。

ツ「ぁ......」

ツキは理解した。

逃げられない。

どうあがいても目の前のオレから逃げられないと。

逃げることを放棄したツキは、次は必死に目の前の現実を受け入れようと平静を装うよう振る舞う。

オレは近づく。

ツキはもう動かない。

だが、そこには諦めや恐怖といった感情は一切なく、

諦めと、

どこか納得した表情を浮かべていた。

海「......」

海斗はツキのアゴに手をかけた。

ツキは動かない。

或いは、元々こういう可能性も考慮していたのかもしれない。

ツ「......」

海「......」

それから少し時間が経ち、

海「はぁ」

終わりがきた。

海斗は手を放すと溜め息を吐く。

ツ「恋人ごっこは終わりか?」

海「てめぇ本気で怖がってたじゃねぇか」

ツ「あれは......演技」

海「うそつけ」

ツキの手を引いて、禁止区域の外に向かって歩いた。

土は裏返り、死体が放置された地獄。

カラスの群れに睨まれながら、二人は歩いた。

ツ「......ここ全部掃除したい」

海「うわ、潔癖症」

ツ「流石は汚物代表。出身所は便器の中。好きなモノはスカトロ」

海「はは...」

たった2ヶ月前のやりとりが、ひどく心地よかった。

ツ「......海斗」

海「あ?」

ツキは前を向いたまま口を開いた。

ツ「いつから気付いた?」

海「今」

ツ「......そうか」

海「お前は?」

ツ「初対面から、もしかしたら......って」

海「そうか」

 

オレは昔ーーーツキを強姦した。

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オレが唯一考えなかった記憶。

それがツキのことだ。

正確には、昔親父にレイプの命令を受け、失敗した惨劇。

 

幼少期。

親父はオレにレイプを強要し、オレはそれに従った。

父親の言うことは絶対で、逆らえばオレは殺される。

結果、オレは少女を強姦したのだが、結局のところでオレの身体がそれを拒否した。

思えば、あれが人間としての最後の分岐点だったのかもしれない。

その後オレは罰を受けた。

地獄のような、無限の牢獄。

罰というより、死刑だったのかもしれない。

だが、結果的にオレはその牢獄から抜け出ることに成功した。

親父はオレが生きて生還できると思っていたらしいが、死んでも驚きはしなかっただろう。

それは当然オレの力があっただけで、仮にオレが弱者なら生きてはいない。

 

だからもし、目の前にあの少女が現れたら自分がどういう感情を出すのか判らなかった。

 

取り逃がしたことを悔やむのか

レイプの卑屈さ体験したオレが彼女に謝るのか

それとも何も考えず再び襲うのか

 

海「ツキ」

ツ「ん?」

海「ミスった」

ツ「......」

海「そんだけ」

ツ「は?」

海「ごめん、ミスった」

ツ「そんなゲームのチームプレーで失敗したノリでこの男は......」

海「......ごめんなさい」

ツ「......」

海「ごめんなさい」

ツ「......うん」

ツキは、見せたことのないような優しい笑顔をオレに見せた。

ツ「忘れる」

海「っ......!」

ツ「もう忘れる」

 

忘れる。

 

こいつは、あれだけのことをしたオレに、忘れると言ってくれた。

海「ごめん、なさい...」

ツ「うん」

分からない。

生きるために、人を殺した。殺せた。

弱いから殺されて、オレ自身も地獄に送られた。

そこにその原因となった女が目の前にいて、正直少しは殺意があったかもしれない。

 

だけど、ツキはオレを許すと言ってくれた。

 

罪悪感。

 

普段色々なことをやってきて、それが悪いとは思っていない。

生きるためなら仕方がないと思っているし、その考えは今も変わらない。

弱いなら何をされても文句は言えない。

そう教えられてきてオレ自身そういう社会を見て、その世界で生き抜いてきた。

だから、オレの理論に反するこの感情は分からなかった。

海「ごめんなさぃ、ごめんなさい、ごめ......」

ツ「うん」

かろうじて涙は見せなかった。

被害者の目の前で自分勝手に感情をぶつけて、それでいて相手に涙で同情を誘うことだけは最後の最後でプライドが許さなかった。

 

憎悪、殺意、嫌悪。

罪悪感、後悔、絶望。

 

ーーー絶対的矛盾

 

結果としてオレはツキに対してずっと謝り続けた。

ツ「......」

ツキはそんなオレを優しい目で見つめながら、ただ優しく笑いかけていた。

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二階堂家の近くまで来たときには、大分落ち着いていた。

海「じゃあな」

ツ「......ん?」

海「んじゃねぇよ。オレはもうボディーガードは辞めたんだよ」

ツ「なんと」

なんと白々しい奴。

海「送ってやったんだ。一つ頼みを聞いてもらおう」

ツ「こやつはどの口で言ってるんだ?」

海「いいじゃねぇか。ほら、ネクタイのピンやるから」

ツ「いらない」

海「なんてやつだ......」

ツキはオレの名前を小さく呼んでから、向き合った。

ツ「......やっぱり、戻らないか」

海「ああ、そればっかりはな」

ツ「麗華お嬢様とももう会わないのか?」

海「会えない」

ツ「......」

海「麗華には、オレが禁止区域にいることは黙っててくれ」

ツ「麗華お嬢様はそんなことで人を判断したりしない」

海「ならお前は自分が向こう出身だと胸張って言えるか?」

ツ「......」

海「オレは......言えない。周りが...というか、麗華がオレのせいで傷つくのが怖いんだ」

ツ「......」

海「......」

腑に落ちないところもあるだろう。

だが、オレの言葉の意味が全く理解できないわけでもない。

やがてツキは小さく頷いた。

ツ「わかった」

海「ここで悪ふざけはしないと思うが......絶対だぞ」

ツ「くどい。大丈夫、私もこれは悪ふざけじゃないことは分かる」

海「......助かる」

多分、こいつに会うのももう無いだろうから聞いておこう。

海「なあ、何でオレのいる場所が分かるんだ?」

ツ「淑女の感」

海「......」

ツ「なんで黙るか」

薫も杏子もそうだったが、やっぱりこいつが一番ペースを乱される。

海「......じゃあな、ナイスバデーになれよ」

それだけ言い残し、オレは今来た道を振り返った。

ツ「もう会わないのか?」

海「あ?」

ツ「私の豊満な身体を体験して、病みつきにならないのか?」

海「あんな話しをした後にそういうことをギャグに使えるのは尊敬するぜ」

ツ「......もう、誰とも会わないのか?」

それは恐らく、ずっと禁止区域で暮らすのかということだろう。

海「ツキがどうしても会いたいっていうなら考えてやる」

ツ「こんなのいらね」

海「ですよね!」

本当に、こういう部分は流石としか言えない。

海「それじゃあツキ」

もう振り返らない。

海「麗華を、よろしく頼む」

 

ツキのペースに付き合う前に、オレは夜に溶けた。

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ツ「......麗華をよろしく頼む、か」

ポツリと呟いた言葉は、頭の中で繰り返した言葉が口から溢れたものだ。

本当にこいつはボディーガードとは思えない奴だ。

 

色々、考えることもあった。

色々、衝撃を受けた。

......少し、

本当に少しだけ暗闇が怖くなくなったかもしれない。

それでも私のことなんてどうでもいい。

それは何より私自身がそう思っているのだから。

そう、問題は私よりも、

 

屋敷に戻る前に、ツキは玄関で立ち止まった。

ツ「麗華お嬢様なら、どうするかーーー」

私には考えても分からない。

分からないなら、仕方がない。

ツ「ふぅ。使えない朝霧海斗め」

 

"麗華には、オレが禁止区域にいることは黙っててくれ"

 

たった今聞いた海斗の言葉が頭に残る。

「さて......」

 

では早速麗華お嬢様に聞いてみようーーー

 

 

 

 

ーーーーーー第六話:絶対的矛盾_end

 

次→第七話:4/11日曜日

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ーーおまけーー(ただの作者の戯言なので見なくても大丈夫です)

『今回の感想』

というかまず、前回が日曜日にうpするといって遅れたぜっ!

テヘッ。

......すみませんでした。

需要はあるかどうか分からないけど、とりあえずうpすると言ったからには〆切は守るようにします。

こ、今回は一日早くうpしたよ...

が、頑張ったんだよ......

まあ細かいことはいいんだよ。

にしても、今回の作品説明がなんか電撃文庫のブキーポップの作者みたいな......おかしいな。意識したつもりはないが。

 

さて、内容なんですが......

 

"ツキが難しい"

 

以上。

いやいや、本当に難しいって!

ツキは立絵が無いと無理だって!

いや、まぁ、表現描写が上手い人ならちゃんとか書けるんだろうけど、さ。

それはほら...ね。

一人称しか書けないし、三人称苦手だから......ね。

違和感感じても温かい目で見てくれるとありがたいっす。

ってか、これ麗華ルートのアナザーなのに、麗華が全然出てこないなぁ......

展開的に出したいけど、まあそろそろ出ますよ(多分)

このまま出ないで終わりとかはまずありえないんで、そこは大丈夫っす!(何がだよ)

え?

麗華もそうだけどやっぱり妙が欲しい?

まあうん。それはその通りなんだけど、この展開では難しいかな......

......

.........

.........誰かコメントに妙が欲しいって言ってくれないかなぁ。

正直閲覧数のしょぼさ以上にモチベーションが低下するぜ。

も、もちろん書きます!

書かせて頂きます!

どうか見捨てないでください!

 

ってか、週一うpのペースだったら新作出るなぁ。

どうしようかなぁ......。

まあ、まずはこれを書き終わるまで積んでおこうと思います。

うん。それが一番いい......はず。

 

いや...発売日までには完成させるか!

 

元々あと5話前後の予定だし、確か発売日も10/04/22だし。

あ、一応そういう意気込みということで宜しくお願いします。

最低週一うpのペースだけはほぼ間違いなく守るんで...(つまり逃げ道を用意しているということですね)

 

次回は4/11日曜日 21:00時にアップ予定です。

説明
事実は一つ。しかしその中にある葛藤や概念は無限に広がり、それらは決してイコールで繋げられない。ならばそれは絶対的矛盾である。
次へ→第七話『二階堂麗華』:http://www.tinami.com/view/135653
前へ→第五話『犯罪と罪悪感』:http://www.tinami.com/view/133241
最初→第一話『たられば』:http://www.tinami.com/view/130120
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