嘘つき
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―ちょっとだけ昔の夢。

あの頃はまだ子供だった俺と都子は特別互いにどうだとか考えた事なんてなかった。

『意識』、なんて言葉の意味もわからなくて……だから、特別じゃない普通の友達だって思っていた。

そうじゃないと思ったのは……いつからだったのか。それは……正直、思い出せない。

……いや、あるいはそう今でも"思い込んでいる"からなのかも俺にはわからない。

だって、俺は『鈍感』だから。都子がいつも言っているようにいつも鈍感だったから。

だから、いつもあいつを呆れさせる。いつからそうなったのかなんて……やっぱり思い出せない―

 

 

「…ちょっと、起きなさいよ。置きなさいってば! おーきーろー!」

「……あれ? ……みやこ?」

「みやこ?、じゃないわよ! 花見の場所取りで寝てるなんて思わなかったわよ!」

あー、気がつくと寝てたらしい。どうも頭の中がぼんやりしているのだが……どうやら都子が起こしてくれたっぽい。

「んー、別にいいだろ? ほぼ半日くらいこんなところにいたら眠くもなるって」

「まあ、気持ちはわかるけど。なにか大変なことになってからじゃ遅いのよ? もっとしゃきっとしないと……」

「はいはい」

「はいは一度!」

すこしずつ頭の中がすっきりしてきた。さすが目覚まし都子はそこらのアラームより便利だ。

事の始まりは昨日。もう中学は卒業した俺と都子は両方の親からの誘いで花見をすることになった。高校進級の祝いだとかそんな感じらしい。

ただ、花見は夜から始まるが夜になると実際には場所なんて取れない。だけど、うちも都子のとこの両親も今日はしっかり仕事があるということなのでちょうど春休みでやることもなく惰眠を貪ろうとしていた俺が場所取りなんてする羽目になってしまった。

正直、不公平もいいところだが適任なのは俺だけだったらしい。……都子は都子で、

 

「女の子一人にずっと居座らせるつもり? 男の子なんだからそっちの仕事でしょ?」

 

……はい、これでは反論できません。普通に正論すぎて言い返すことなんてできなかったわけで……で、早朝からずっと桜の木にずっと座る羽目になったわけである。

だけど外はいい感じに晴れてるし、暇潰しにゲームなんて持ってきてもしばらくしたら飽きてしまう。どうせならラブプラスにしとけばよかった、とかは今となってはもう遅い話だが。

「だから寝てしまうのは仕方ないんだよ、都子くん」

「張り切って情けないこと言わないでよ。もー」

俺の正論に対してこの言い草は酷すぎる。なんかショックだが、当の都子はおかまいなしに俺の隣に座った。……そういや、今気づいたが、なにか持ってきたようだが?

「はい、お弁当。お昼まだでしょ? ずっと一人にさせるのも可哀相だし、作ってきてあげたわよ」

「おー! ちょうど腹減ってたからありがたい!」

「……そりゃ、ずっと寝てたらお腹くらい減るわよ」

……ホント、一言多い。

まあ、別にいつものことだからと割り切って弁当箱を開けてみる。おー、なんか普通においしそうなラインナップなのはありがたい。

腹が減っていた俺はまさに野獣! 食べ物に餓えた野獣! だから……喰らう!

「いただきまーす! もぎゅもぎゅもぎゅ!」

「ちょ、ちょっと! そんなに急いで食べたら」

「もぎゅもぎゅ……んー! んー!」

の、喉が! なんか呼吸がものすごく苦しい! つか、死ぬ死ぬ!

「ほ、ほら! 早くこれ飲んで!」

「んー! んー!」

都子から貰ったお茶を脇目も振らずに喉に押し込んだ。……な、なんとか楽になった。

「はー、はー。……し、死ぬかと思った……!」

「だから言ったじゃない。本当、どうしていつもそうなの?」

「だって、都子の作るのはいつもうまいから仕方ないだろ?」

「……ふぇ!?」

……あれ? なんでそこで硬直する?

「つーか顔赤いぞ? 花粉症か?」

「え、あーその……そ、そうね! じゃあ感謝して食べなさい!」

「うん、そーするー」

とりあえず軽く流して弁当をまた食べるが、横目で隣を見てみると……なにかぶつぶつ言いながらお茶を飲んでいたりする。

「……だから……その…………鈍感…………でも……」

……うーん、小声でよく聞こえないが鈍感とか言ってる時点でバカにされてるのはよくわかったな、うん。

いつも通りなのであえて気にしない方向で弁当をおいしく頂こう。

 

 

―いや、どこかでいつも鈍感の意味を考えていた時期もあった。

だけど、いつの頃か考えないようにした。なぜだかわからないけど……考えたらダメだって……思い始めて。

どうして考えるのをやめたのか? 心当たりは……たぶん一つだけ―

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「ごちそうさまでしたー」

「はい、お粗末様。あ、ほっぺたご飯ついてるわよ。もー、仕方ないわね」

そう言いながら指でそのご飯粒を取った都子は溜息混じりにそれを食べたり。……意地汚い。

「ちょっと、なによその目は?」

「……別に」

あ、さすがに俺が呆れるのはイヤみたいだ。いつも呆れてるのは都子なのになんか不公平だな、うん。

「あ、ちょっと動かないでー」

「……どした?」

「花びら頭に着いてるわよ。……ほら」

そういって俺の頭を弄ったりする。それがちょっとだけ……こそばゆい。

 

 

―気にしないようにしてきた。いつもいつも。

都子はいつも俺よりしっかりしてて呆れたりするけど、いつも俺のことをちゃんと見てくれてる。

料理だってうまいし、そういや縫い物とかもできたっけ?

あいつの前だと言わないし言えないけど……すごいって思う。

俺なんかよりずっと都子はしっかりものなんだ。だからたまに……その……いつもと違う見方をしてしまう。

あいつが……都子が俺にとって始めて知る女の子だったらって……何度か……何度も……。

……だから、その度に俺は……―

 

「しっかしさー、都子?」

「なに?」

「これだけ料理うまいんだしさ、やっぱりいつかいい人と結婚できるよな、都子は」

「…………あ、うん。そうだね」

「がんばれよー。あ、結婚式は呼んでくれよな?」

「……そ、そうね。でも恥かくようなことはしないでよ? 私だって恥かしいんだからね?」

「はいはい」

 

 

―その度に俺はこんなことを言っていたと思う。

だって……都子は俺なんかといるといつも苦労しているのは目に見えている。

それに器量だっていい。なんだかんだで普通にいい相手は見つかると思う。

俺は……ただの幼馴染だ。だから……俺じゃ駄目なんだって思う。

俺なんか……鈍感でしっかりしてない俺なんかと一緒だったらこいつは……都子は一生苦労するのはわかっている。

俺は……こいつを意識したら駄目なんだ。俺は鈍感だから。……だから……俺は……。

……俺は"鈍感"の意味を考えるのを……やめた―

 

 

「じゃあ、私、お弁当片づけてくるからしっかり留守番してるのよ?」

「へーい。あ、どうせなら俺の部屋からラブプラスを……」

「それくらいガマンしなさい。私はあなたのお母さんじゃないのよ?」

「……へーい」

「じゃあね。また暇になったら来てあげるから」

……暇になったらかよ?

ま、留守番を任された以上は仕方なく引き受けるけどね。ええ、仕方なくだけどね。

「あーあ、暇だなー。早く夜にならないかな?」

そうしたら思い切り騒げるのにな。都子にはまーた色々言われるけど。

「……やっぱ暇だな。都子がいないと」

 

 

 

―そんな言葉をずっと言い続けてきた俺は……だから気づかなかった。

俺の言葉はすこしずつ都子を傷つけていて……気がついたら都子はすっかり変わってしまった。

いや、"変えてしまった"、だ。あれは俺がああしてしまったんだ。

いつもの元気な姿は消えて、本当に暗くて……泣きそうだったあの姿にしたのは今にして思えば全て俺が……悪いんだ。

だけど……それがわかってしまったから余計に俺はなにもいえなくて……だから―

 

 

「今年も桜が咲いたなー。あ、都子は覚えているか? 入学する前の花見なんだけど……」

「……なにそれ?」

「……やっぱ、覚えてない……か?」

「……だって、忘れたもの」

「……そっか、そうだな。……ごめん、俺もよく覚えてない。……忘れちゃったな」

「……そうなんだ。……そうよね、覚えているわけ……ないよね」

 

 

―だから俺は……嘘をつく。

都子をこうしたのは俺が悪いから……今更になって都子を女の子と見てデートした俺が悪いから……。

またいつものように流してくれると思ってあの言葉を言って……都子を壊してしまったから……。

都子を意識しない為に……これ以上傷つけない為に。

 

―だから俺は……また嘘を重ねる―

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―another.side―

 

……女の子のことを教えるって言ったのは……彼のことを忘れたいからなのは私自身がよくわかっている。

本当に好きで…好きで…どうしょうもなく好きで……。

だけど彼にとって私は異性として……女の子として見てないって……わかっていた。

いつも彼は「都子ならいい人と結婚できる」って言ってくれるけど……それを言われる度に苦しくて苦しくて……泣きそうになる。

だから私は彼を忘れたかった。他の女の子の情報を教えることで、誰か別の女の子と一緒に……幸せになってくれれば私はそれでよかった。……彼が……幸せならそれで……。

だけど、いつの頃からか彼は私をデートに誘ってくれて……それが嬉しかった。

すごく……本当にすごく嬉しかったんだよ? あなたの前じゃいえないけど本当は私を女の子として見てくれることが……すごく嬉しい。

 

……だけど、あの日、学校の屋上であなたは言った。

 

『都子なら絶対いいお嫁さんになれるよ』

 

思い知らされた。やっぱり私はただの幼馴染で……女の子として見てくれたのは……私が勝手に思い込んでいただけだったって……思い知らされた。

うさぎさんのこともそう。ボタンをくれたことも忘れていたから……喜んでいたのはあくまで私の勝手な思い込みなんだって……思い知らされた。

 

―だから私は嘘をつく。あなたの思い出を忘れたと嘘をつく。

私のことを嫌ってほしいから。忘れてほしいから。……私が……忘れたいから……。

……なのに……どうしてあなたはそんな私といてくれるの? なんで嫌いになってくれないの?

その理由も私にはわからなくて……それでも私はあなたも、あなたが好きな私自身も忘れたいから……。

 

―だから、私は……また嘘を重ねる―

説明
ときメモ4ですけど…どうしても都子が可愛くて書いてみたらこんなんなりました;
一応、主人公の性格はすこし考察した上でアレンジしているので、その辺で問題がないならどうぞ。…うん、屋上のあの発言はやっぱり酷い;
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