魏√アフター 想いが集う世界――第四話
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華琳・春蘭・秋蘭side

【華琳】

 正直、私はどうしてこんな事をしているのか、自分でも分かっていなかったわ。

 秋蘭にどうするのか聞かれ、春蘭が別の事をすればいいと言った。

 その後の私は、自分でも驚く行動に出たわね。最初は困らせてやればいいと、そう思っていたわ。

だから膝の上に座り、その反応を楽しもうと思った。これは間違いないわね。

 だけど、どうして男なんかの腕を、抱え込んでいるのかしら?

 そもそも、男の膝に座ろうと思った事自体が、普段の私からしたら異常な出来事だわ。

 でも、北郷の腕を抱えてると、酷く安心する。何でなのかしら?

 

 今まで私が出会った男は、本当に屑の様な者達ばかりだったわね。

 洛陽に来る前は、春蘭も秋蘭も男を近付かせない言っていた。だけど、結果はどうかしら?

 そう言っていた二人は、……まあ、春蘭は騒いでいるけど、秋蘭は春蘭を抑えてるみたいね。

でも、どこか二人共本気でやっていない気がするわね。本気を出していたら、春蘭を秋蘭が止める事は出来ないでしょうしね。

 それに、孫策と周瑜が北郷の近くにいる事で、苛ついていたのもおかしい。

 将来の部下に欲しいと思ってはいても、二人がそういった目的で北郷の傍にいた訳じゃないと分かった。なのに、苛ついた。

 どれだけ思考を巡らしても、答えに行き着かないわね。だから――。

 

「今はダメね」

「何がダメなの? ……と言うか、曹操さん。そろそろ、離れません?」

「あら、孫策はよくて、私はダメなのかしら?」

「そういう訳じゃないんですけど……」

「なら、何も問題ないわね」

 

 答えが出ないのであれば、今はこの一時を満喫しましょう。

 ふふふ……本当に不思議な男ね、北郷は。

 

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【春蘭】

 私は今、本当に不愉快だ! その理由は、華琳様の隣にいる北郷だ!

 華琳様と腕を組んでいるというのに、疲れた様な顔をしおって! 私なら喜びの余り、疲れなど感じないぞ!

 ……だが、この光景をどこかで見た事がある気がする。先程から私は北郷に対して、何か懐かしい物を感じる。

 無くしてしまった宝物が、何年も後に出てきた様な。そんな感じだ。

 

 それに庭で会った時も、似た物を感じた。

 なぜか、北郷を蹴り飛ばすのが当然だと思っていた。剣を持っていたら、それで斬りかかっていた程に当然だと。

 ……ええい! 私があれこれ考えても仕方ない! 考えるのは、秋蘭の仕事だ! 私がするべき事は、ただ一つ!

 

「離せ秋蘭! 華琳様をお助けせねばならんのだ!」

「だから、落ち着けと言っているんだ、姉者! 今はまずい!」

「まずいも何もあるか! 華琳様ぁ! どうして、男などにぃ!」

「私も不思議だが、華琳様自らされているのだ! 邪魔をすれば、後で何を言われるか分からんぞ!」

「うぅ〜……だ、ダメだ! やっぱり、我慢出来ん!」

「あ、姉者ぁ!」

 

 秋蘭が何と言おうと、私は自分の本能に従う!

 男など不要! 私達が華琳様のお傍にいればいいのだ!

 だから、北郷! 覚悟しておけ!

 

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【秋蘭】

 なぜ私は、こんな摩訶不思議な空間にいるのだろうか。

 出立前に華琳様は、私達に男を近付かせない様にと言っていた。私達もそれを了承していた。

 だが、蓋を開けてみればどうだ? 姉者も本気で行動しようとしていない。幾分かは本気のようだが。

 そして、華琳様だ。華琳様の行動が、一番おかしい。

 甘やかされて育った高官の息子に、どうしてあそこまで執着する。

 孫策と周瑜とやらと会話をしていた北郷に、椅子を勧めた。ここまでは、おかしな事は一つもない。

 疲れから御子様を落としでもしたら、大変な事になるからな。

 だがその時の華琳様は、姉者をからかう時のような。面白い事を思いついた時の顔をしていた。

 

 それに、庭での一幕もそうだ。姉者が北郷を蹴り飛ばし、華琳様が北郷に近付いて何かを話していた。

 その様子を後ろから見ていた私は、既視感というか、酷く懐かしい光景を見ている気がした。

 ……おかしなものだ。今日始めて北郷を見たと言うのに、懐かしいと感じるなど。

 おっと。力が緩んでいたか。

「姉者! 頼むから、今だけは辛抱してくれ!」

「ダメだ!」

「後で、姉者が華琳様に怒られるのだぞ!」

「おしおきなら、かまわん! むしろ、嬉しい!」

「おしおきで済まないと、なぜ考えない?!」

「華琳様は、私を愛してくれてるからだ!」

 

 ああ、ダメだ……。今の姉者に何を言っても、無駄のようだ。

 北郷、骨は拾ってやる。だから、姉者を止められない私を恨むなよ?

 

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 雪蓮・冥琳side

【雪蓮】

 今、私が腕を組んでいる男は、本当に不思議な男だと思うわねぇ。

お父様に面白い物が見れると言われて、外で隠れて見てたけど、まさか公正な判断で有名な北家当主と、厳格な曹家当主が。ねぇ?

 でも私が一番面白いと思ったのは、御子様を肩車していた男の子ね。普通、頼まれたからって、後の帝を肩車なんて出来ないわよ!

 それに、第二位の劉協様をその腕で抱えてるなんて。きっと、この子は将来大物になるわ。私の勘がそう言ってるもの。

 

 でも、何でかしらね。

 北郷が曹操達と入ってきた時。何も話してないのに、近くにいるのが当然だと言わんばかりの雰囲気は。

 それを感じたら、邪魔をしたくなっちゃったのよね。だから、思わず背中を軽く撫でたんだけど……堪らないわね。

 でも、何で私は北郷の腕を抱えてるのかしら? 最初は曹操と一緒になって北郷をからかおうと思ったんだけど。

何だか、安心出来るのよね。そう、昔から知ってる様な懐かしさと、暖かさを感じるのよね。

 冥琳も、何時もと様子が違うし。本当に不思議な男の子ね。でも今は。

 

「ねぇ、北郷」

「何ですか、孫策さん。それと、そろそろ腕を放しませんか? そうすれば、曹操さんも――」

「じゃあ私が離しても、曹操が離れなかったら、またしてもいいのね?」

「いえ、何でもないです……好きにして下さい……。それで、何ですか?」

「ん。やっぱり、私達。どこかで会ってない? そんな気がするのよね」

「孫策さんの気のせいじゃないですか? 僕は、孫策さんに会った覚えありませんよ?」

「そうよねぇ。でも、私達会ってる気がするのよねぇ……。何でかしら?」

 

 私の言葉に、北郷は首を傾げるだけ。まあ、北郷に聞いても答えが出る訳ないわね。だって、本当に私にも分からないし。

 まあ、今はいいわ。逆に曹操がいるのは、何だか気に食わないけど。

 それでも、北郷の腕を離すって選択肢には負けるしね!

 

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【冥琳】

 目の前の光景を見ていて、私は自分が自分でいられない錯覚を覚えていた。

 北郷の笑みを見てから私はもちろん、雪蓮の様子もどこか違う。建業を出立する前の雰囲気に、どこか似てるのだ。

 そう、夢の話をしていた時の雰囲気に。夢の中で見た男も、北郷の様な暖かい笑みを浮かべていたのではないか?

 夢の中の男の顔は分からないが、目の前の北郷と夢の男。この二人は、どこか雰囲気というか……暖かさが似てる気がするのだ。

 ――ふっ。私らしくもないな。頭ではなく、感覚で考えるなど。

 しかし、本当に不思議な男だ。曹操は男嫌いと聞いていたが、そんな様子は微塵も感じない。夏候姉妹も、男を曹操に近付けたがらないと、孫堅様も言っていたな。

 今はそんな事は関係ないな。私らしくもないが、今は自分の欲に忠実になるのもいいかもしれない。

 

「なあ、雪蓮。そろそろ、私と変わってくれないか?」

「やーよ。何だか、ここ安心するんだもん」

「ちょっ、周瑜さん!? あなたなら、止めてくれると思ったのに! 僕の気持ちを裏切ったね!」

「いや北郷、しかしだな……。何故だか分からないが、私もお前と腕を組んでみたいと思ったのだ。……しかし、今は雪蓮も曹操も離れる気はないみたいだな。

 私は諦めるとしよう……。残念だがな」

「……喜んでいいのかな? 現状が変わってないんだけどなぁ〜……」

 

 うな垂れる北郷が、少し可哀想にも思えるな。だが、今の雪蓮を止める事は出来ないんだ。

 お前がいなくなった後の事を考えると、私は被害を被りたくないのでな。許せ、北郷。

 

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 一刀の周りが騒がしくなってから少しして、外でやりあっていた曹嵩と北狼が部屋に戻ってくる。

激しく殴り合っていた筈なのに、二人の服に少しも汚れも乱れもない。

 二人の様子を見た劉宏と孫堅は、まあ何時もの事かと何も聞かなかった。

 しかし、戻ってきてから目にした光景は、曹嵩からしたら唖然としてしまう物だった。

 

「……俺の娘と夏候姉妹は、男を嫌ってるはずなんだが……。おかしいな」

「俺にも分からん。内の娘も、北のの息子と顔をあわせてから、何か変なんだよな。その親友もな」

「朕にも分からぬ。……朕の息子達も、北のの息子の膝の上で、楽しそうに笑っておるしな。あんな笑顔は、初めて見たぞ」

「……またか」

 

 三人の父親は、娘と息子達が見せる光景に驚く事しか出来なかった。だが北狼だけは、仕方ないなと苦笑を浮かべていた。

 一刀が周りに視線を向ける様になってからは、よく見かける光景の一つだったからだ。

 行き急いでいたと言えばいいのか。別段、民に向ける視線が暗い物ではなかったので、民には嫌われも好かれもしていなかった。だが、心の余裕が出来てからは、雲泥の差が出たのだ。

 困っている人がいれば、出来る限りの手助けをし。自分に無理だと判断すると、警邏の兵に声を掛けて説明する。

 商人とも、楽しそうに話していると、峰から聞いている。時間があれば、民の子供達と遊んでいるとも。

 洛陽の民に、酷く慕われている。親として、これ程嬉しい事はないのだろう。報告を聞く時の北狼は、親バカ全開な笑顔を浮かべているのだから。

 

「まあ、一刀のこれは何時もの事だ。気にするだけ無駄だぞ」

「あー、北の。お前の息子……郷だったか? どうだ、娘の婿にくれんか?」

「孫の。さっきも言ったが、一刀を婿にやる気はないぞ」

「いや、だがな。こう言ってはなんだが。雪蓮は、そこらの男よりも強くてな。嫁の貰い手がないと思うんだ。だが、あの様子なら、問題ないと思うんだが」

「待て孫の。北の……さっき言った事を取り消そう。どうだ、華琳の婿に。いや、くれ。死ぬ前に孫を見たい。いいだろ?」

「取り消すのは勝手だ。だが、一刀は婿にやらん。北家を継いで貰うんだからな」

「うむ、それがいいな。朕の息子達の、よき友人、よき忠臣となろう。みすみす、遠くにやる必要はない」

「だがなぁ……。そうだ! 雪蓮に冥琳もつけよう! どうだ! 武と知に長けた妻達だぞ! それに、来る途中に民に話を聞いた限りでは、民にも好かれてるそうじゃないか。ちゃんと民に目を向けれるなら、最高の婿だからな」

「む……。一刀は、確かに武と知には長けているが、天賦の才はないらしい。それを補ってくれる妻か……悪くないな」

「では、曹家の勝ちだな。華琳は全てに優れる天才だ。夏候姉妹も俺が見た所、そこまで郷を悪くは思ってないみたいだしな。それだけの男ならば、時間をかければ良さに気付くだろう。どうだ?」

「それもいいな……」

「何度も言わせるでない。北のの息子は、朕の息子達と離さんぞ!」

 

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 一刀と娘達が繰り広げる一幕を見て、勝手気ままに将来設計を企てる親四人。

 最初は一刀を婿にやらんと言っていた北狼だが、峰の言葉を思い出してから一転。支える事が出来る嫁を探す事にしていたので、これ幸いと孫堅と曹嵩の話に乗っかる。

 帝の忠臣と言うのも捨てがたい。だがしかし、それは支えあう関係にはならないなと、意識的に除外していた。

 

 父達の会話が、嫌でも聞こえる距離にいた子供達と言えば。

 

「と、私の父上は言ってるけど、北郷……もういいわ。真名を交換しましょう。私は華琳、あなたは?」

「か、華琳様! 男などに真名を預けるなど!」

「黙りなさい、春蘭! これは通過儀礼なのよ!」

「ですが!」

「……私のいう事が聞けないのかしら?」

「そういう訳では……」

「では、いいわね? それで、北郷の真名はなんて言うのかしら?」

 

 華琳の言葉に春蘭が食らいつくが、一喝して黙らせ再度聞き返す。

 それに、我幸いと雪蓮達も乗る。

 

「それもそうね。ここまでしておいて、真名を交換してないのもおかしな話よね。私は雪蓮よ、よろしくね?」

「ふむ。たまには、雪蓮もいい事を言うな。私は冥琳と言う。今後ともよろしくな?」

「諦めろ、姉者。こうなった華琳様が、止まらないのを知っているだろ? 華琳様が預けるならば、私も言わない訳にはいかないな。私は秋蘭。これから、何かと苦労するとは思うが、よろしく頼む」

「う〜……。私は春蘭だ! いいか、仕方なくだぞ! 私だけ交換しないのは、不忠だから交換しただけだからな!」

 

 一気に真名を言われた一刀だったが、いいのかなぁ〜と思っていた。

 

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(曹操さんは通過儀礼って言うし、孫策さんはここまでしてって言うけど……。僕と腕を組んでるだけでしょ? あれ、普通しないよね? 僕達、初対面だよね? ……あれ?)

 

「どうしたのかしら? 北郷、あなたの真名は?」

「いや、曹操「華琳よ」さん……。いや、でもね? そう「華琳!」……分かりました。華琳さん、これでいいですか?」

「さんもいらないわ。同い年だし、親も仲がいいみたいだしね」

「はぁ……。僕の姓名は北郷、真名は一刀です。皆さん、宜しくお願いします」

「むぅ……。べんのまなは――」

「弁! 真名はいかんぞ!」

 

 置いてきぼりにされていると感じた劉弁が、真名を口にしようとした瞬間、父である劉宏がそれを厳しい声で諌めた。それに、何かを思い出したのか、うな垂れながら謝る劉弁の姿があった。

 

「あ……ごめんなさい、とうさま……」

「分かればよい。すまぬな、北のの息子よ。朕達、天子の一族は、真名を伴侶以外に教えてはいかんのだ。許されよ」

「いえ、気にしてませんから。それと、弁もありがとうね? 教えてくれようとして」

「いいのじゃ! ごうと余はゆうじんじゃからな!」

「だぁ〜!」

 

 その言葉が嬉しくて、一刀は笑顔で頭を撫でながら「うん、そうだね」と答えていた。

 劉弁と劉協を気にしていた為に、気付かなかった。一刀の真名を聞いてから、今まで騒いでいた娘達全員が押し黙っている事に。

 

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 気付けば、一刀の腕は解放され。各々が、何かを思い出そうとしているようだった。

 

「ん? 皆、どうしたんだろうね?」

「余にはわからんぞ?」

「華琳達はどうしたと言うんだ?」

「俺に分かるか。北の、分かるか?」

「いや、分からん。宏の……も分からないよな」

 

 北狼が聞く前に、劉宏は首を振る事で答えていた。

 

 華琳達が考えている事は、全く同じ物。それは、『北郷……一刀……?』と。

 何かを思い出せそうで、思い出せない。出そうで、出ないというもどかしい思いをしている華琳達。そして、その娘達を見守る父の姿が部屋にはあった。

 だが、二つの声で、それは破られる。

 

「がーはっはっはっは! どうじゃ、麗羽! これが皇宮じゃぞ!」

「おーほっほっほっほ! 素晴らしいですわ! 何が素晴らしいって、兎に角素晴らしいですわ、お父様!」

 

 ……声が聞こえた瞬間、劉宏は頭を押さえ。北狼は、冷や汗を垂らし。孫堅は、嫌だ嫌だとばかりに頭を左右に振る。曹嵩は、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべていた。

 

「おい、袁家に教えたのは誰だ……」

 曹嵩が静かに聞くと、劉宏と孫堅は首を振り……北狼だけが、視線を横に流していた。

「そうか、北の。お前が教えたのか……」

「いや、しかしだな。お前達が袁家を嫌ってるのは知ってるが、立場上、聞かれたら教えない訳には――」

「黙れ。いいか、嫌ってるんじゃない。あの笑い声を聞くと、虫唾が走るんだ。存在を許したくないんだ。……分かるか?」

 

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 曹嵩の雰囲気に、北狼は首を縦に振る事しか出来ないでいた。先程までの、和やかな雰囲気は綺麗に消え去り、曹嵩がかもし出す雰囲気だけが充満していた。

 何時もなら嫌がるはずの華琳達は、考えに没頭している為か反応しない。雪蓮と冥琳も、同じ状態の様だ。一刀と劉弁だけが、「え、何? この笑い声……」と右往左往していた。劉弁と劉協を抱えたまま。

 

「悪いが、帰らせてもらうぜ? 雪蓮と冥琳を、あいつに会わせたくないんでな」

「すまないが、俺も帰らせてもらおう。既に華琳達は手遅れだが、会わせないに越した事はないからな。それと北の。さっきの件、よく考えておけ。冗談で済ませる気は、俺も孫のも無いからな? ――劉宏様、下がらせて頂きます」

 

 曹嵩の言葉に、頷く事で答える北狼。まだ、先程の恐怖が抜けきってないようだ。

 頷いたのを見て、曹嵩は華琳と秋蘭を腕に抱え、春蘭を背負うと部屋を出て行く。

 

「まあ、気にすんなって。お前は悪くないんだからよ。まあ、まだ洛陽にはいるから、今度お前の家に行くわ。んじゃ、またな。劉宏様、失礼致します」

 

 一言残して、孫堅両腕に雪蓮と冥琳を抱えて、部屋を後にした。

 部屋に残ったのは、何が起きているのか分からない一刀と劉弁。まだ頭を抱える劉宏。一刀を会わせてもいいものだろうかと、悩む北狼が残っていた。

 

(このまま、部屋を間違えてくれないかなぁ〜。無理だよなぁ〜……あいつの家系って、変に運あるし……。すまん、一刀。不甲斐無い父を許せ!)

 

 覚悟を決めた北狼は、袁家に一刀を会わせる事を決意した。最後に謝っているが、あの家族が巻き起こす惨状を知っているだけに、諦めたとも言える。……逃げても、見つかりそうだしと。

 

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「お、ここだ! ここの部屋の気がするぞ!」

「あら、奇遇ですわね、お父様。私も、ここの気がしますわ!」

(やっぱり、ダメかぁ……)

「失礼致しますぞ、皇帝陛下!」

「失礼致しますわ!」

 

 そう言って部屋に入ってきたのは、金色の鎧を身に纏う、金髪で男爵ヒゲを生やした男が一人。金色の服を身に纏い、そんなに長くない金髪を、無理やり巻いている女の子が一人。

 

「う、うむ。よくぞ、参った。袁成、袁紹よ」

「ようこそ、袁家の皆様……」

「なんじゃ、なんじゃ! 曹嵩も孫堅も帰ってしまったのか! ならば、もう少々早く来ればよかったの! のぉ、麗羽!」

「そうですわね、お父様! 私も、久しぶりに華琳さんに会いたかったですわ! それに、江東の虎と呼ばれる孫堅様の娘さんにもお会いしたかったですわ!」

「そうじゃろう、そうじゃろう! おい、北家! なぜワシらが来るまで、待たせておかなかったのだ! まったく、何時も暗いのぉ! そんな事だから、仕事の一つも出来んのだ! もっとワシを見習え、ワシを! 三公を輩出した袁家のワシをな!」

(あんたが来たから、二人共帰ったんだよ……)

 

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「ああ、そうですわ! 北家の嫡男は、神童と呼ばれてるそうではありませんか! で・す・が! 神童とは、私の様な! いいですか? 私の様な、将来の袁家を担う者にこそ、相応しいのですわ! そうは思いませんか? お父様!」

「うむ! 全くもって、その通りじゃ! さすがは、麗羽! よく分かっておるではないか! して、その息子とは、どこにおるんじゃ?」

「はい……僕が北郷です……」

「あら、あなたでしたの? どうして、そんな隅っこで座ってらっしゃるの?」

「いえ、ちょっと圧倒されてしまったので……」

(分かる! 分かるぞ、一刀! だが、これはまだ序の口なんだ! 袁成は、まだまだこんなもんじゃないんだ!)

「圧倒? ああ、それも仕方ないですわね! 知らずに出てしまう、高貴な雰囲気に圧倒されてしまったんですわね!? それは、申し訳無い事をしましたわ!」

「それもあるんですけど……。どうしてお姉さんも、そこのおじさんも。そんなに無理してるのかなって」

「な、何を言っておる!? ワシは無理などしておらんぞ!?」

「そ、そうですわよ!? こ・れ・が! 私、袁紹ですわ!」

「ん〜……ごめん、弁。また今度ね? ちょっと僕、このお姉さんとお話してくるから」

「わかったのじゃ! ごうはらくように、すんでるのであろう? ならば、余のなにちかって、くることをゆるすぞ!」

「うん、分かった。またね? じゃあ、父上。ちょっと外に行ってくるね。行くよ、お姉さん」

「ちょっとお待ちなさい! 一体、何ですの!?」

 

 ずっと腕に抱えていた弁を下ろし、協を任せた一刀は、袁紹の腕を取って部屋から出て行った。

 それを見送った後、北狼が気になったので、聞いてみる事にした。

 

「それで、袁成様。無理をしているのですか?」

「何を言う、北家! ワシは無理などしておらんぞ! がーはっはっはっは!」

(……俺もまだまだだな。やはり、子供の感性は凄い。いや、一刀の人を見る目がいいのか? どっちにしてもこの人が、何かに無理してるのが分かっただけ、ましか)

 

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「ちょっと! どこまで行きますの! いい加減、お手を離しなさいな!」

「ん、ここなら大丈夫かな? で、お姉さんは、何で無理してるの?」

 

 一刀に手を引かれ、部屋から大分離れた場所で、先程と同じ質問をする一刀。

 

「だから、先程も言いましたでしょ? 私は無理などしていないと!」

「でも、お姉さんが笑ってる時、目が笑ってないよ? 本当に嬉しそうに笑う時って、目も笑うでしょ?」

「いいえ! いいえ! 私は、心の底から笑ってますわよ!」

「ダメだよ、お姉さん。嘘を吐くとね、静かに話す事が出来ないんだよ? さっきから、大きな声を出してる。だから、嘘だよね?」

(何ですの!? 何でこんな子供が、こんな目をするんですの!?)

 

 袁紹は、一刀の目に恐怖を覚えてしまった。どこまでも深く、自分の心の底まで見通している様な目を。

 袁紹・麗羽が感じてしまったのは恐怖だが、それだけではなかった。どこまでも広く、自分を包み込んでくれると錯覚させる、暖かさをも感じていた。

 今までの自分が、根底から否定されてしまう。そんな錯覚を覚えてしまったのだ。

 だからこその恐怖と安心感という、相反する感情を抱いてしまった。

 

「ねえ、お姉さん。僕でよかったら、話を聞くよ? だから、どうして無理して笑ってるのか、教えてくれない?」

「……ですわよ」

「え?」

「うるさいですわよ! あなたの様な子供に、何が分かると言うんですの! 名家に生まれた私は、生まれながらに将来を渇望されてましたわ! 出来て当たり前、出来なければ恥さらし! 袁家も私でお終いと! お父様はああいう性格でも、ちゃんと治世をしていて、問題視されておりませんわ! あなたに分かって?! そんなお父様と比較され続ける私の辛さが!」

「お姉さん……」

 

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 気付けば麗羽は、話していた。今まで誰にも言った事の無い、思いの内を。一刀の目に見つめられ、我慢出来なかったのだ。 澄んだ目に見つめられ、何も辛い事を知らず安然と過ごしてきたお坊ちゃまに、世の醜い部分を教え、少しでもその目を曇らせてやりたいという、嫉妬にも似た感情と共に。

 だが、一刀は。

 

「ごめんね、お姉さん……僕、そういう人達がいるなんて知らなかった。辛かったよね。そんな中で、一人で頑張ってきたんだから」

「あなた……」

「でも、これからは一人じゃないよ。僕がいるしね? それに、華琳さん達に話せば、絶対に助けてくれると思うよ? だから、もう無理しないでいいんだよ」

 

 一刀は、麗羽の頭を優しく撫でながら語る。顔に笑顔を浮かべて。

 

「……あぁぁぁぁ! 辛かったんですわ! 本当に、本当に……!」

「うん……うん……」

 

 自分に向けられる優しい笑みと言葉に、麗羽は思った。自分は、もう無理をする必要はないのだと。自分に、なんの才能も無い事には気付いていた。だけど、生まれた立場がそれを許してくれなかった。だから父の真似をして、バカな者だと周囲に思わせる様にしてきた。だけど、もう本当に無理をしなくていいのだと、心から感じる事が出来たからこそ出た――涙と嗚咽だった。

 

 なぜ九歳の一刀が、麗羽が無理をしている事に気付く事が出来たのか。それは峰や仲のいい洛陽の人々が教えてくれた、自分とそっくりだと思ったからだった。

 無理をしている人は、殆どの人が同じ様な雰囲気を出すと峰は教えていた。

 だからこそ、一刀は袁親子が無理をしている事に気付く事が出来たのであった。

 

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 地面に座り込み泣く一人の女性と、それを慰める一人の少年。それはあたかも、一枚の絵から抜き出てきた風景の様で。戻ってこない麗羽を心配して見に来ていた袁成は、柱に隠れながら一筋の涙を流していた。

 

 泣き疲れて眠ってしまった麗羽を、どうしたらいいのかと考えていた一刀だったが、そこに袁成が来て、一言だけ礼を言ってその場を後にした。

 なぜ礼を言われたのか分からない一刀だったが、袁成からも無理をしている感じが消えていたので、笑みを浮かべて見送った。

 

 

 それから少しして、劉宏との話が終わった北狼が一刀を迎えに来たので、一緒に戻っていった。

 家で夕食を取りながら、今日の出来事を楽しそうに話す一刀を見て、北燕も笑顔で聞いていた。

 洛陽の夜は、こうして静かに過ぎて――。

 

「ああ、一刀。お前に、許婚が二人……いや、五人か。出来たからな」

『ええぇぇぇぇぇぇ!?』

 

 行く訳が無かった。

 北家以外の二箇所でも時を同じくして、驚きの声が夜空に消えていく。

 

 

 外史の歯車は、また一つ回る。

 悲しみの連鎖を止め、乙女達の涙を止める為に――。

 

 

説明
自分の文才の無さに、嫌気がさしてきた夢幻です。
3時間で書き上げる事が出来ても、内容が薄い気がしてならないので、2時間推敲しても余り変わらなくて……。
楽しみにしてくれてる方々には、本当に申し訳なく思います。
ですが、これから少しずつよくなるように頑張りますので、宜しくお願いします。

今回、麗羽とその父が出たのですが、今回は大幅に地の文が少ないです。
なので、改ページがうまくいきませんでした。申し訳ありません。

麗羽の年齢:原作時21歳、作中12歳となっております。
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コメント
誤字報告ありがとうございます。(夢幻)
Raftclans様:それは大丈夫ですよ。公式の場ではきちんと皇帝陛下と言わせてるはずなので。四話と参話では、劉宏個人の部屋でしたので。……あ、袁成にそう言わせてたので、修正しますね。ありがとうございます(夢幻)
7Pの「一括して」、これは「一喝」ですね。細かいことを言ってすみません。(Raftclans)
stmoai様:初コメント、ありがとうございます。頑張ります(夢幻)
すいません、「皇帝陛下、劉宏様などと呼ばれると思います」とコメントしましたが、相当に親しい面々の様子でしたので「劉宏様」と書きましたが、公式な場では絶対にありえません。皇帝は「陛下」「〜陛下」、皇族や王は「〜殿下」などとなります。お騒がせしました。(Raftclans)
ハーレムルートは大好物です。もっとやっちゃって!(stmoai)
かもくん様:一刀の種馬力は、まだまだ上がりますよー^^(夢幻)
さすが一刀君種馬ですねww(かもくん)
jackry様:女難に関して、一刀には味方は誰もいない。と言うのが、私の考えなのです(ぇ(夢幻)
続きです。基本的に、一日に一本ペースで書けているので、遅くてもモチベが続く限り2日に一本は上げれるんじゃないかな?と思ってます。楽しんで頂けたら、本当に嬉しく思います(夢幻)
リョウ様:一気に読んで頂き、本当に嬉しく思います。で、カオスですよね?本当に。書いていて、自分でそう思います(ぁ。ただ、原作での想いが少し残ってると、こんな感じになるんじゃないかな?って思ってまして、はい。(夢幻)
続き  一刀の周りでは暗躍も消えてこのままほのぼのな物語になればいいでs(それじゃ話が進まない)とにかく続きをお待ちしてます。(リョウ)
一気に読み通しました。感想ですが…ナニこのカオス。が一番しっくり来るのでしょうか?(褒め言葉)桃香達はまだだけど2勢力と許嫁な関係とか麗羽は覚醒させてるし…夫婦剣装備だs(これは関係無い)でも暗躍してる人達が無茶をやらかさなきゃ良いんですけど…(リョウ)
Raftclans様:貴重な情報をありがとうございます。修正したいと思います。袁家というか、袁紹改革フラグですね。袁術には、ちっと用事があるそうなので(ぇ(夢幻)
tanpopo様:一刀の『許婚』は、これ以上増えませんよー。飽く迄も、『許婚』はですが^^(夢幻)
麗羽が無理をしていることを見抜いて開放してあげるとはさすが一刀。一刀争奪戦に袁家も参加することになりそうですねwおまけに袁成からも無理が消えたということは他の家の力を借りて袁家改革フラグ?この先も楽しみにしています。(Raftclans)
霊帝というのは死後に送られる諡号ですね。ですから皇帝陛下、劉宏様などと呼ばれると思います。天皇陛下も今の陛下は今上陛下と呼ばれ、平成天皇とは言われません。それと同じと思っていただければいいかと(Raftclans)
一刀君の本気はこんなものではないはず。 もっと許婚が増えると思いますよ。(たぶん、馬家の子とか)(tanpopo)
永遠の二等兵様:それは、後の楽しみにしておいて下さい。魏よりも増えると思っておいて頂ければ、大丈夫だと思います^^(夢幻)
M2様:コメント、ありがとうございます。袁紹に関しては、許婚になっていないので、含まれないんですね。申し訳ありません(夢幻)
さて、今回は最終的に何人娶るんでしょうか?楽しみに待ってます(永遠の二等兵)
2828様:コメント、ありがとうございます。あ〜……協は男の子なので、落とせませんね。漢女が喜んじゃいます(ぁ(夢幻)
BookWarm様:ご報告、ありがとうございます。確かに、「近付かせない」ですね。修正しました。「北のの」は、ちょっと読み難いですが、仕様です。申し訳ありません。感想レス:いえいえ、まだ開花しきっていませんよ^^(夢幻)
闇羽様:とりあえず、麗羽に関しては、『まだ』落としてませんね。助けてくれた事で、感謝はしているがって所です。(夢幻)
サイト様:一章では、これ以上増えませんね。残りの方々は、2章以降になります。申し訳ありませんが、ご了承下さい。(夢幻)
イリヤ・エスナ様:いえ、まだですね。後、1話か2話、一章が続きます。ご了承下さい(夢幻)
hokuhin様:袁成のキャラをイメージした時、高笑いをしている姿が浮かんでしまい、それが頭から離れなかったもので^^;(夢幻)
司 葵様:このレスを見てから、私も件の外史を覗いてきました。これ、まずい気がしないでもないんですが……大丈夫ですよね?(夢幻)
gmail様:はい、まだ序の口ですよ^^(夢幻)
aoirann様:コメントありがとうございます。袁成は史実だといい王様だったそうなんですね。だから、それをうまくだせてたらいいなと思ってます(夢幻)
狐狗狸様:許婚は、これ以上増えませんよ。許婚はね?(ぁ(夢幻)
そのうち協も落としそうですねぇw(2828)
これ子供の内にある程度有力な諸侯の娘は全部落としちまうんで無いかい?w(闇羽)
さて、次の標的はいったい誰かな?(サイト)
更新お疲れ様です。次はどんな話か楽しみです、これは、第一章としておわりですか。?(イリヤ・エスナ)
袁親子は笑い声が基本なのか・・・ しかし9歳で許嫁5人とはさすが一刀だな(hokuhin)
たしかどっかの外史でもショタ一刀が猛威を振るってた様な・・・でもこっちは同年代だし、いいのかな? いやいやもう既に洛陽の女性達の心を老いも若きも関係なくがっちり掴んでる可能性も、、、おそるべしショタ一刀(司 葵)
まだまだ序の口ですね。種馬スキルも(gmail)
麗羽さんがあんなに苦しんでいらっしゃるとは、袁パパの一筋の涙にほろっとしました。ええもん読ませてもらいました。(aoirann)
許婚が5人wwwまだ増えるだろwwww(狐狗狸)
よーぜふ様:何時もコメントありがとうございます。ちょっと仕事関係でブルーになっていたので、つい出てしまいました。申し訳ありません。よーぜふ様の様に、一人でも楽しんで頂ける方がいる限り、頑張ります。本当にありがとうございます。(夢幻)
Ocean様:これは、今後の為に必要な事だったの。フラグ立てというか、麗羽を成長させたかったんですね^^(夢幻)
麗羽がおちた、だと? なんという…聞きしにまさる種馬よ  楽しませてもらってますので、文才がないとか内容が薄いとかいわないでください…(よーぜふ)
華琳たちだけでなく、袁紹のフラグまで立てるとは、末恐ろしい子だ。(Ocean)
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