恋姫無双 3人の誓い 第七話「国の指導者として」 |
「・・・・・」
俺の目の前に広がるのは、天井だった。びっくりするほど広いワケじゃない。けど、もとの世界の俺の部屋よりか・・・広い気がする。
「・・・暇だ。」
ベットをごろりと転がって、体の位置を変えてみる。けど、上を見上げれば、広い天井はやっぱり同じ天井だ。
「・・・暇だな。」
暇だ、暇です、暇でし、暇でしょう、暇かも、暇だろう、暇かもしれない、おじょーさんお暇ー?ワケの分からん活用の仕方をしてみても、時間がすぎるはずもなく。
「うーむ・・・」
もう一度ごろりと転がって___________。
「・・・何をしているの?」
「わぁぁっ!」
勢い余って、ベットから転落。
「わあ、じゃないでしょう・・・」
そこに立っているのは、華琳だった。ベットから転げ落ちた俺を、おのキツイ視線で静かに見下ろしている。
「・・・驚くにきまってるだろ。つか、入ってくるならノックくらいしようよ。」
「・・・のっく?またあなたの国の言葉かしら?」
「これから入りますよって声を叩いて知らせる、俺の国のマナー・・・礼儀の一つだよ。」
「礼儀、ねぇ・・・」
「ぐふぅっ!」
いや、腰にトーキックは、マジでヤバイっつの・・・。
「人の下着を下から見上げるのが、あなたの国の礼儀なのかしら?それなら、こちらもそれなりの礼儀で返そうと思うけれど。」
「・・・すいません、勘弁してください。」
うぅ・・・。白だったなんて言ったら、八つ裂きにされそうだな。
「まあいいわ。・・・それで、今のあなたの姿勢も、私に対して礼を尽くせる格好なの?」
「・・・ごめんなさい。」
とりあえずベットの上に戻って、正座してみた。華琳は立っているから、目の高さもだいたい同じくらいなる。
「で、何?」
「それこそ私の台詞だわ。あなたは一体、何をしているの?」
強いて言えば、目の前の綺麗な脚を鑑賞・・・。
しようと思ったら、その綺麗な脚が鞭のようにしなって俺の方に飛んできたって、ちょっ!
「げふぁっ!」
「・・・最後にもう一度だけ聞いてあげるわ。あなたは一体、何をしているの?」
「・・・すみません、何もしてません。」
「その程度の自覚はあるわけね。色欲があるだけのまるきりの無能ではない・・・と。」
「・・・面目次第もございません。」
くそっ!これじゃそこら辺にいる、捨て犬以下じゃないか俺・・・。
「なら、どうすればいいか分かるわよね?無能でないのなら。」
「働け・・・ってことだよな。」
実際、これじゃひきこもりと変わらんもんな・・・。働いたら負け!なんて思ってるワケじゃないし、何より華琳に拾ってもらった恩がある。何かしら働いて、彼女の役に立つべきだろう。
「あなたの国ではどうだったのか知らないけれど・・・少なくともこの国は、働くきのない者にいつまでも軒を貸しているほど寛容ではなくてよ?」
「・・・分かりました。誠心誠意働かせてもらいます。」
「・・・とは言ってみたものの・・・」
急ぎで俺なんかの手も必要になる、って事情は聞いてない。とりあえず犬も歩けば・・・ということで、犬以下の俺も犬を見習ってブラブラ歩いてみたりするわけなんだけど・・・。
そんな風に歩いていると、前の方から歩いてきたのは・・・。
「どうした。こんな所で何をしている。」
「ああ、秋蘭か。秋蘭も仕事中?」
「無論だ。姉者が事務仕事をサボるものだから、書類が貯まってしまってな・・・」
秋蘭はため息一つつくと、両腕で抱きかかえていた書類の山を軽く揺らしてみせる。
「そうだ。俺、何か出来る仕事がないか探してるんだけど・・・何か手伝えることない?」
「お前が?」
「うん。華琳に、この城に無駄飯を食わせる余裕はないって。」
「当然のことだな。私が華琳様と同じ立場でも、同じことを言うだろうよ。」
「多分、俺も言うと思う。・・・で、何か無いかな?」
「ふむ・・・。なら、これを読んで見てどう思う?」
秋蘭はそう呟くと、抱えていた書類の一番上を顎で指し示した。どうやら、これを見ろってことらしいけど・・・。
「・・・・・」
とりあえず、指されたそれを手に取ってみた。
「何でもいい。ひととおり読んで、思った通りのことを言ってみろ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「どうした?その辺りの案件なら、さほど難しくはないはずだが・・・。」
「・・・ごめん。なんて書いてあるか、分からない。」
「・・・・・」
うぅ、空気が死ぬほど重い・・・。いっそこのまま、潰れてしまえばいいのに。もしくは、穴があればいいのに。
「・・・仕事を探す前に、読み書きを教えてもらえる師を探すことを勧めるぞ。」
「・・・そうするよ。」
「それでは、本日の会議はここまで。」
「解散っ!」
春蘭が解散させると、ゾロゾロと文官や武官が出て行く。
「・・・秋蘭。」
「はっ。」
「北郷一刀が仕事を探している話、聞いているかしら?」
「はい、聞いております。本人からも何か仕事がないか相談されましたので。」
「そう。で、何かあてがってやったの?」
「いえ・・・。結局、自分で何やら思うところがあったようで、自分で仕事を見つけたようなのですが・・・」
「どうしたの?聞いているなら、教えなさい。」
「それが・・・」
「ふぅ・・・」
「こっちも持ってきてくれ!」
「あ、はい!」
吹き出す汗を拭おうとすれば、声が掛かってきたのは本棚の向こうから。急いでそちらに、指示されていた、書物の束を持っていく。
「次はこっちを運んでくれるか!」
「はいはいっ!」
置いたらすぐに次の指示、詳しく分類された書物を、貼り付けられた番号ごとに棚へと振り分けていく。
「今度はこっちを支えてくれ!」
「はいはいはーい!」
息つく暇なんてあるわけもない。今度は上の棚で作業している人のハシゴが、グラグラと揺れている。慌ててそれを支えに行けば。。
「一刀ーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
「ひゃああああっ!」
突然の声に驚き、つい本を落としてしまう。
「北郷一刀はいるわね!」
「そ、曹操様!」
「いかがなさいましたか!?」
本棚の向こうから、女の子の強い声と、床を踏み鳴らす大股の足音が聞こえてきた。
「ど、どうしたんだ・・・って、華琳?」
「何をしているの?あなたは!」
「な、何って・・・仕事。」
そう応えた瞬間、こちらを見下ろす華琳の眉がぐぐぐっ急角度へと。
「バカにしているの!?それくらい、見れば分かるに決まっているでしょう!何の仕事をしているか聞いてるの!」
「その・・・書庫の整理で人手が足りないっていうからさ。まずは出来ることからってみんなを手伝・・・いたたたたた!」
けど俺がそれ以上の言葉を続けることはできなかった。一片の容赦もなく引っ張られる耳の痛みに、ってちょっと!そこで歩き出したら痛い!痛いってば!
「良いから来なさいっ!」
「・・・ここは?」
形の変わりそうな耳を撫でながら。俺が華琳に文字通り引っ張られてきたのは、城を守る城壁の上だった。
「見なさい。街よ。」
「そ、そりゃ、見れば分かるけど・・・」
「・・・ここから、突き落としてもいい?」
「いや、それは勘弁してくれ・・・」
「なら、もう一度良く見なさい。その節穴を皿のようにして。」
・・・街だ。人がいる。子供が走ってる。家があって、市があって・・・並ぶ屋根の中から、立ちのぼる細い煙は、少し早めの昼ごはんの支度だろうな。
「・・・人がいる。」
俺の呟きに、耳は引っ張られない。城壁から突き落とされることも、なかった。
「それで?」
「人が住んで・・・家があって・・・」
「それを狙って、戦が起きて。」
「え?」
華琳に言葉を繋がれ、少し驚く。
「少し考えれば分かる話でしょう?豊かな街があって、そこを制するだけの力があるなら・・・力づくで食料なり金なりを奪い取れば、そいつは一生楽しんで暮らせるでしょうよ。」
「なるほど、そうだろうな。」
「けど、この街で戦は起こらない。なぜか分かる?」
「・・・華琳の国、だから?華琳が王として、この国を守っているから・・・か?」
「あら。もう少し説明しなければ分からないかと思ったけれど・・・。城壁から突き飛ばす手間が省けて、少し安心したわ。」
突き落とされずに済んで安心したのはこっちだよ。
「民とは弱いものよ。国は本来、そこで暮らす弱い庶人の盾となり、矛となるべきもの。その代わりに、労働力や資金を提供してもらって存在しているの?分かる?」
「・・・税という形で、か。」
「そうよ。私の服も、食事も、この城さえも、彼らの血と命で成り立っているの。そして一刀・・・あなたの食事もね。」
「・・・っ!」
「私が怒った意味分かる?」
「・・・ああ。」
分かった。分かりすぎるほどに、良く分かった。
「みんなの血税で食べさせてもらっているのに、無駄にダラダラと過ごすなんて・・・華琳が怒るのも、当たり前だよな。」
「まあ、落第にはならないわね。・・・及第とも言えないけど。」
「そうなんだ・・・」
「あなたは、どうして書庫の整理なんて手伝おうと思ったの?」
「えっとさ・・・。俺、読み書きできないだろ?」
「そのようね。」
「人手が足りないって話は本当だよ。ただ、書庫を手伝えば自然と文字が目に入るし・・・仕事が終わった後、書庫の人達が俺の読み書きを教えてくれるって話になったんだ。」
そうすれば、俺の出来る仕事だって増えるだろうし、もっと華琳達の役に立てることも見つかるかもしれない。
「なるほど。あなたにしては考えたわね。なら・・・その答えに免じて、もう一つの理由を教えてあげるわ。」
もう一つの理由・・・。
「私が怒った一番の理由はね。書庫の整理は、街から人を集めて手伝わせようと思ったから。そして・・・つい先日、他国の役人をしていた一団が、この街に入ってきたという報告があったのよ。彼らを集めて働かせてみて・・・使えるものがいれば、そのまま文官として召し使えよう思ったの。」
「ちょっ!じゃあ!」
「そうよ。あなたは、その者達の仕事を奪っただけでなく・・・この国に優秀な文官が入ってくる可能性をひとつ、潰したことになるわね。」
「・・・っ!」
華琳が史実の曹操と同じ道を辿るなら、これから彼女はたくさんの英傑や豪傑、知者や賢人と出会うことになる。もしその一人が、華琳の言った他国の文官の中に混じっていたとしたら・・・!
「お、俺・・・まさか、大変なことを・・・!」
「覚えておきなさい。物事はもつれた糸のようなもの。一つ手繰れば、必ず他の糸を引き寄せ、それがさらに他の糸を引き寄せるわ。それを見据えて一手を打てる力量が、上を立つものには求められるの。」
「・・・ごめん。」
うぅ・・・。知らなかったとはいえ、これでもし歴史が変わったとしたら・・・。これじゃ、役に立つどころか足を引っ張っただけじゃないか。
「まあ、安心なさい。文官の件は、秋蘭が別の手段を講じてくれているから。」
「よ・・・良かったぁ。秋蘭は、手繰った先がどうなるか、ちゃんと見えてたんだな。」
「当然よ。秋蘭だもの。」
秋蘭は本当に華琳に信頼されているらしい。彼女くらいにならないと、本当に華琳の役には立てないってことか・・・。うぅ、ハードルがものすごく高いんですけど・・・。
「見なさい。一刀。」
「ああ。」
俺はもう一度、街をみた。さっきと同じはずの風景だ。けど、今はすこしだけ・・・さっきとは違って見える。
「あそこに住むのは、この国の民。私達が守り、育て慈しむべき、大切な宝よ。」
「・・・ああ。」
「その宝を守るために、どうしたらいいのかしら?飢饉にあえがず、盗賊に奪われず、他国の侵略に怯えて過ごさせないためには。」
「・・・強い国にする。飢饉にも、盗賊にも、他国の侵略にも負けない国に。」
「そうよ。掛かる火の粉は振り払うだけではだめ。火種から消せるほどの力を持たないと意味がないわ。そうしなければ・・・いつまで経ってもこちらに火の粉が掛かってくるばかり。」
「戦いを終わらせるために、強くなる・・・ってことか。」
「この大陸はね、一刀。あなたの世界とは違うの。人に話を聞いてほしければ、声を張り上げ、相手の耳を引っ張って、力づくで倒して言い聞かせないと・・・伝わらないのよ。」
「だから、強い国にならないと・・・だめなのか。」
「そうよ。強い指導者のもと、どこまでも声を轟かせられる強い国を作るの。その為には・・・まずはどうしたらいいのかしら?」
強い指導者は・・・いる。何事にも負けない意思と、志を持った指導者は。ならば・・・。
「・・・国を豊かに、大きくする。」
「答えが漠然としてるわよ。どんな国が、豊かで大きいのかしら?」
「人が増えて、土地が豊かで・・・その為には、治水は田畑をたくさん作って・・・そうだ、土地が豊かになれば、食料もたくさん手に入るよな。」
「そうね。なら、人を増やすためには?」
「みんなが住みたくなる、平和な国を作る!」
「その身に刻み込みなさい。血税は民衆の祈りよ。豊かで大きく、平和な国を作るための。」
「・・・ああ」
「その祈りに生かされている私達は、歩みを止めることなど許されない。」
「俺も同じってことだな。」
「そういうこと。書庫の整理とか、文官の仕事を横取りする程度で満足しているようなら・・・この城から放り出しますからね。」
「ああ。全力で期待に答えてみせるよ。華琳と・・・この国のみんなの」
「・・・とはいえ、一度やると決めたからには最後までそれを貫くのも、人として当然の理。書庫の整理はしっかりと完遂すること。いいわね?」
「ああ。ついでに読み書きもきっちりと勉強してくるさ。」
俺の言葉を、華琳は最後まで聞こうとはしなかった。くるりと背を向け、すでに歩き出したあと。
「ふふっ。期待してるわよ・・・北郷一刀。」
小さいけれど、大きな背中。そこでひらひらと振られる手に、俺は自分で出来ることが何なのか・・・もう一度、考えてみようと思った。
※どうもお米です。今回は魏√でしたが、いかがでしたか?自分の中での会心の出来は、冒頭の暇の活用方。アレですね。少しでも楽しんでいただいたら幸いです。次回も魏√、まだまだ続きます。
それでは失礼します〜。
説明 | ||
第七話となります。今回は一刀が主役となります。なんだか・・・危ない予感・・・。 | ||
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コメント | ||
>茶々さんコメント有り難うございます!そして、お褒めの言葉有り難うございます!これからも誠心誠意書かせていただきたいと思います!(お米) 贈る言葉はこれだけでいいでしょう……GJ!! 次回が楽しみです!(茶々) |
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