恋姫無双 3人の誓い 第九話「少女の決断」 |
馬は、思ったよりもゆっくりと進んでいた。予定期間の半分の行軍だっていうから、もっとペースを上げるかと思ってたんだけど・・・。いつもの行軍より少し早い程度でしかない。
「北郷、大丈夫か?」
「ん。何とか、掴まってるくらいはね・・・」
もちろん、騎乗戦なんてできるレベルじゃないけど、ここしばらくの訓練で、最低限のバランスは取れるようになった。夜にはお尻の痛みに悩まされることになるけど・・・。
それにしてもすごかったな。さっきの桂花のやり取りは_____________。
と考えていると、本人が見えてきた。
「あ、おーい、桂花!」
「な・・・っ!何でアンタが私の真名を呼んでるのよ!」
「華琳から聞いただろ?俺や秋蘭達は、お前のことを真名で呼ぶって。」
せっかく仲間になったんだから、堅苦しいのはなしにしたいしな。
「夏侯淵ならともかくとして、何でアンタなんかに真名で呼ばれなきゃならないのよ!私の大切な真名をアンタなんかに犯されてたまるもんですか!訂正なさい!」
犯すって、お前・・・。
「華琳様の命だ。諦めて受け入れるんだな。」
隣で秋蘭が桂花のことをなだめている。さすが春蘭で鍛えられているだけのことはあるな。うんうん。
「・・・っ。しょうがないわね・・・。華琳様の命だから呼ばせてあげるわよ。」
あ、諦めた。
「それより、今回の作戦大丈夫なのか?無茶じゃないのか?」
「別に無茶でもなんでもないわよ。今の曹操様の軍の実力なら、これくらい出来て当たり前なんだから。」
「・・・そうなのか?」
「ここしばらくの訓練や討伐の報告書と、今回の兵数を把握した上での計算よ。これでも余裕を持たせてあげてるんだから、安心なさいな。」
さすがかの魏の軍師。ぬかりないなぁ〜。
「で、華琳様の印象はどうだったのだ?」
「思った通り、素晴らしいお方だったわ・・・。あのお方こそ、私が命を賭けてお仕えするに相応しいお方だわ!」
・・・なんか桂花って、華琳のことになると目の色が変わるよな・・・。なんだかこう・・・うっとりしてる?
「そんなに良かったの?」
「・・・ふっ。アンタのような木偶の坊には分からないのでしょうね。可哀相に。」
「・・・なんか俺に、恨みでもあんのかよ。」
「別に、単に嫌いなだけ。」
・・・なんだかなぁ〜。
「おお、貴様ら、こんな所にいたのか。」
そんな空気の中、春蘭が走って俺達の方に向かってきた。
「どうした、姉者。急ぎか?」
「うむ。前方に何やら大人数の集団がいるらしい。華琳様がお呼びだ。すぐに来い。」
「分かったわ!」
桂花は元気よく返事をした。・・・忙しいやつだ。
「うむ。」
「俺も?」
「・・・役に立つとは思えんが、貴様も連れてこいとの仰せだ。来い。」
ですよね〜・・・。
「・・・遅くなりました。」
「ちょうど偵察が帰ってきたところよ。報告を。」
華琳に言われて、偵察の兵士が前にでて報告する。
「はっ!前方の集団は数十名ほど。旗がないため所属は不明ですが、おそらく、どこかの野盗か山賊かと思われます!」
「そうね・・・。もう一度偵察隊を出しましょう。夏侯惇、北郷、あなた達が指揮を執って。」
「おう。」
「お、俺ぇ!?俺なんかで、戦力になるのか?」
自慢じゃないけど、馬に掴まって方向を指示するので精一杯だぞ。
「なるわけないけど、人手が足りないんだから仕方ないでしょう。せめて夏侯惇の抑え役くらいしてちょうだい。」
・・・あ、そういうことか。
「おい、何を納得している!それではまるで、私が敵と見ればすぐ突撃するようではないか!」
「違うの?」
「違うのか?」
「違わないでしょう?」
なんて三連コンボだ。可哀相に・・・。
「うぅ、華琳様までぇ〜・・・」
「私が出ると、こちらが手薄になりすぎる。それに、もし戦闘になった場合も姉者の方が適任だ。」
「そういうこと。行ってくれるでしょ?一刀、春蘭?」
「はっ!承知いたしましたー!」
「んー・・・そういうことなら仕方ないか・・・」
なんてたって春蘭の抑え役なんだから。
「では一刀、春蘭。出撃なさい。」
春蘭の隊をまるまる偵察隊に割り振って、俺達は華琳の本隊から離れ、先行して移動を始めていた。
「まったく。先行部隊の指揮など、私一人で十分だというのに・・・」
「偵察隊も兼ねてるんだからな。通りすがりの傭兵隊だったら、突っ込むんじゃないぞ?」
「貴様なんぞに言われるまでもないわ。そこまで私も迂闊ではないぞ。」
いや、その迂闊がありえるから俺が付けられたんだと思うんですけど・・・。
「夏侯惇様!見えました。」
春蘭の部隊の兵が、集団を発見したみたいだ。
「ご苦労!」
「あれか・・・でも、なんだ?なんか行軍って感じがしないけど・・・?」
向こうの集団は一箇所に留まって、何やら騒いでいるように見える。・・・でも、酒盛りって感じでもないし。
「何かと戦っているようだな。」
・・・あ、なんか飛んできた。一抱えほどある塊に、細い棒らしきものが四本くっついていて_____________。
「・・・って、人ぉ!?」
人って、あんなに高く上がるものなのか!?軽く三十bくらいいってるぞ!?
「なんだ、あれは!」
「誰かが戦っているようです!その数・・・一人!しかも子供の様子!」
「なんだと!?」
その報告を聞くとすぐ、春蘭は馬に鞭を振り、一気に加速させていく。
「あ、ちょっと、春蘭っ!待てってば!」
俺、そんな速さについていけないぞ!
「でえええええいっ!」
「ぐはぁっ!」
少女の一撃により、野盗達は次々と放物線を描いて、宙に飛んでいく。
「まだまだぁっ!でやあああああああっ!」
「がは・・・!」
また一人・・・。
「ええい、テメェら!ガキ一人に何をてこずってやがる!数でいけ、数で!」
「おおぉぉ!」
しかし、一向に野盗の数は減らない。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。もぅ、こんなにたくさん・・・多すぎるよぉ・・・!」
少女は肩で息継ぎし始めてきている。体力的にキツイのだろう。その時・・・。
「ぐふぅっ!」
どこからか剣の斬りつける音が聞こえ、集団の一人が倒れていった。
「・・・え?」
「だらぁぁぁっ!」
「げふぅっ!」
また一閃・・・。
「大丈夫か!勇敢な少女よ!」
「え・・・?あ・・・はいっ!」
少女はいきなりの助けにかなり驚いている。ここには、自分の一人しかいないはずなのに。
「貴様らぁっ!子供一人によってたかって・・・卑怯というにも生温いわ!てやああああっ!」
「うわぁ・・・!退却!退却ーーーーーーーーーっ!」
「逃がすかっ!全員、叩き斬ってくれるわ!」
「おい、春蘭!ちょっと待てっつの!」
やっと追いついたっ!ったく、どんだけ全力出してんだよ・・・!
「ば・・・っ!北郷、なぜ止める!」
「俺達の仕事は偵察だぞ。その子を助けるために戦うのはいいとして、敵を全滅させる事が目的じゃないだろっ!?」
「ふんっ。敵の戦力を削って何が悪い!」
「それももっともだけど、今はもっと他にする事があるだろ?」
俺は一生懸命、春蘭を落ち着かせる。一度火がつくと面倒なんだから、こいつは。
「・・・例えばなんだ!」
「逃がした敵をこっそり追跡して、敵の本拠地を掴むとか・・・」
「・・・おお!それはいい考えだな。誰か、おおい、誰かおらんか!」
「・・・もう何人か偵察をだしたよ。」
「むぅぅ、貴様にしてはなかなかやるな。」
「はぁ・・・」
これがホントに、うちの最強戦力なんだだもんなぁ。武勇の方は確かに無敵だけど・・・俺でもいいから抑えを付けたいって言った桂花の判断、見事としかいいようがない。
「あ、あの・・・」
「おお、怪我はないか?少女よ。」
「はいっ。ありがとうございます!おかげで助かりました!」
「それは何よりだ。しかし、なぜこんな所で一人で戦っていたのだ?」
「はい。それは・・・」
少女が続きを言おうとした時、後ろから本隊の馬の走ってくる足音が聞こえてきた。
「来た来た。おーい!華琳ーっ!」
「・・・っ!」
俺が華琳の名前を出した時、一瞬少女は体を強張らせた。
「一刀。謎の集団とやらはどうしたの?戦闘があったという報告は聞いたけれど・・・」
「奴らは春蘭の勢いに負けて逃げてったよ。何人かに尾行してもらってるから、本境地はすぐに見つかると思う。」
「おら。なかなか気が利くわね。」
「お褒めに預かり光栄の至り・・・ってね。」
自分でもなかなか似合わない台詞だな。思わず俺が苦笑していると・・・。
「あ、あなた・・・!」
「ん?この子は?」
「お姉さん、もしかして、国の軍隊・・・っ!?」
「まぁ、そうなるが・・・ぐっ!」
突然振り下ろされたのは、女の子の持っていた巨大な鉄球だった。相手が春蘭でなかったら、間違いなく吹き飛ばされていた一撃。
「・・・え!?」
「き、貴様、何をっ!」
「国の軍隊なんか信用できるもんか!ボク達も守ってもくれないくせに税金ばっかり持ってっいて!・・・てやあああああああっ!」
「・・・くうっ!」
だから君は一人で戦っていたのか・・・?
「ボクが村で一番強いから、ボクがみんなを守らなくちゃいけないんだっ!盗人からも、お前達・・・役人からもっ!」
「くっ!・・・こやつ・・・なかなか・・・」
嘘だろ・・・?いくら相手が女の子で、本気になれないからって・・・あの春蘭が押されてる!?
「お、おい、桂花・・・。華琳って、そんなにひどい政治をやってたのか?」
華琳の街の様子を見る限り、そこまでひどい感じには見えなかったけど。・・・もしかして、街の外では滅茶苦茶な重税を掛けていたりするのか?
「この辺りの街は、曹操様が治めている土地ではないのよ。だから盗賊追跡の名目で遠征に来てはいるけれど・・・その政策に、曹操様は口出しできないの。」
「・・・そういう事か。」
「・・・・・」
華琳は苦虫を噛み潰したように、ツライ表情をしている。
「でええええええええええいっ!」
「ぐぅ・・・!仕方ないか・・・いや、しかし・・・」
少女の攻撃を受け止め続け、防戦一方の春蘭は、少女に本気を出して良いのかと迷っている。そこに・・・。
「二人とも、そこまでよ!」
「え・・・っ?」
「剣を引きなさい!そこの娘も、春蘭も!」
「は、はい・・・」
その場に歩いてくる華琳の気迫にあてられて、女の子は軽々と振り回していた鉄球を、その場に取り落とし、ズシンッと衝撃が地面に伝わる。
・・・地面がなんか陥没したんですけど。どういう重さの武器なんだ、アレ。
「・・・春蘭。この子の名は?」
「え、あ・・・」
「き、許緒と言います。」
こういう威圧感のある相手を前にするのは初めてなんだろう。許緒と名乗ったその少女は、完全に華琳の空気に呑まれきっている。
「・・・そう。」
そして、華琳が取った行動は・・・。
「許緒、ごめんなさい。」
「・・・え?」
許緒に頭を下げることだった。
「曹操、さま・・・?」
「何と・・・」
「お、おい、華琳・・・!」
「あ、あの・・・」
全員、戸惑いを隠しきれていない、それも当然だ。あの誇り高き曹猛徳が頭を下げたのだから。
「名乗るのが遅れたわね。私は曹操、山向こうの陳留の街で、刺史をしている者よ。」
「山向こうの・・・?あ・・・それじゃっ!?ご、ごめんなさいっ!噂は聞いています!向こうの刺史さんはとても立派な人で、悪いことはしないし、税金も安くなったし_____________。」
「構わないわ。今の国が腐敗しているのは、刺史の私が一番よく知っているわ。軍隊と聞いてたまらなくなるのも、当たり前だわ。」
「で、でも・・・」
「だから許緒。あなたの勇気と力、この曹操に貸してくれないかしら?」
「え・・・ボクの、力を・・・?」
いきなり力を貸してくれと言われて、戸惑うのも無理もない。
「私はいずれこの大陸の王となるわ。けれど、今の私の力はあまりに少なすぎるわ。だから・・・村の皆を守るために振るったあなたの力と勇気、この私に貸してほしい。」
「曹操様が、王に・・・?」
「ええ。」
「あ・・・あの・・・。曹操様が王様になったら、ボク達の村を守ってくれますか?盗賊も、やっつけてくれますか?」
「約束するわ。陳留だけでなく、あなたたちの村だけでなく・・・この大陸の皆がそうして暮らせるようになるために、私はこの大陸の王になるの。」
華琳のその言葉はとっさに言ったものではなく、自信に満ち溢れた威厳ある言葉だった。
「この大陸の・・・みんなが・・・」
許緒が思いつめた表情をしていたその時・・・。
「曹操様!偵察の兵が戻ってまいりました!盗賊団の本拠地は、すぐそこです!」
桂花からの報告が入った。
「分かったわ。・・・ねぇ、許緒。」
「は、はいっ!」
「まずあなたの村を脅かす盗賊団を根絶やしにするわ。まずそこだけでいい、あなたの力を貸してくれるかしら?」
「はい!それなら、いくらでも!」
「ふふっ、ありがとう・・・春蘭、秋蘭。許緒はひとまずあなた達の下につける。分からないことは教えてあげなさい。」
「はっ!」
「了解です!」
「あ、あの・・・夏侯惇、さま・・・」
許緒は言いにくそうに、春蘭に尋ねてくる。
「ああ、さっきのことは気にせんで良い。・・・それより、その力を華琳様のためにしっかりと役立ててくれよ?」
「は・・・はいっ!」
許緒は元気よく返事をし、俺たちは彼女と共に、盗賊団の本拠地に馬を急がせることにした。
※どうもお米です。最近は短めで申し訳ありません。時間に余裕があったら、長めに書きたいと思いますので。次回もまだまだ続くよ!呉や蜀に関してはもう少しおまちください。よろしくお願いします。それでは失礼します〜。
説明 | ||
第九話となります。今回もドンドン行きますよ!あのボクッ子ピンクサボテンが登場!お楽しみに〜。 | ||
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コメント | ||
>茶々さんコメント有り難うございます!そしてツンデレ美味しいですwwあとご指摘ありがとうございます、後で修正しておきますね。(お米) どうしてこんなにチャキチャキ進むんだろう……?いいなぁ……はっ! べ、別に羨ましくなんてないんだからねっ!! *報告: P3 春蘭「卑怯いうにも」、一刀「待てってつの」 なーんか台詞的に微妙に違和感あるんですが。(茶々) |
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