三人の御遣い 七話 |
/一刀
春蘭「どうした、そんな間の抜けた顔をして」
城壁の下を走りまわる完全武装した兵たちを見ていた一刀に春蘭が話しかける。
一刀「いや、こんなにたくさんの兵隊を見るのって、初めてだから。ちょっと感動したというか、驚いたというか・・・」
何百、何千と・・・、ぱっと見で何人いるかさえ、一刀の感覚では分からないほどだった。
春蘭「この程度でか?」
一刀「春蘭は見慣れているかもしれないけど。・・・俺たちの国じゃこんな光景めったに見られないよ」
春蘭「やれやれ。今からそのザマでは、いずれ華琳さまが一軍の将、一国の主となられたときには、驚いて死んでしまうのではないか?」
一刀「・・・さすがにそのころまでには慣れると思う」
華琳「何を無駄話をしているの、二人とも」
一刀と春蘭が話をしていたら、華琳と秋蘭が現れた。
春蘭「か、華琳さま!これは北郷が!」
一刀「ちょ、違う!先に話しかけてきたのは春蘭だろ!」
華琳「はぁ、春蘭。装備品と兵の確認の最終報告、受けてないわよ。数はちゃんと揃っているの?」
春蘭「は、はい。全て滞りなく済んでおります!北郷に声をかけられたため、報告が遅れました」
一刀「・・・はぁ」
春蘭の報告を聞いた一刀はため息をついた。
華琳「その一刀には、糧食の最終点検の帳簿を受け取ってくるよう、言っておいたはずよね?」
一刀「・・・あっ」
この光景に気を取られていて一刀はすっかり忘れていた。
一刀「ごめん!すぐに確認してくる」
華琳「早くなさい。あなたが遅れることで、全軍の出撃がおくれるわ」
一刀「ほんとにごめん!」
秋蘭「北郷。監督官は、いま馬具の確認をしているはずだ。そちらに行くといい」
一刀「ありがと、秋蘭」
そう言って一刀は走って行った。
馬具が置いてある場所に着いた一刀は
一刀「・・・あれ。そういえば監督官の顔をしらないや」
と監督官の顔を知らないことに今気付いた。
一刀「ちょっと君」
女の子「・・・」
ちょうど一刀の近くを歩いていた女の子に話しかけるが、聞こえなかったのか先に行こうとする。
一刀「ちょっと君ってば」
女の子「・・・」
再度話しかけても聞こえなかったのか先に行く。
一刀「周りがうるさいから聞こえなかったのかなぁ?お〜い」
とまた話しかけると
女の子「聞こえてるわよ!さっきから何度も何度も何度も何度も・・・いったい何のつもり!?」
一刀「聞こえてるんなら返事くらいしてよ」
女の子「アンタなんかに用はないもの。で、そんなに呼びつけて、何がしたかったわけ?」
一刀「(・・・声掛ける人間違えたかも)」
女の子の対応に一刀は思った。
一刀「糧食の再点検の帳簿を受け取りに来たんだけど、監督官って人どこにいるか知らない?」
女の子「何でアンタなんかに、そんなことを教えてやらないといけないのよ」
一刀「・・・いや、何でって、華琳に頼まれたからだけど」
女の子「なっ!ちょっと何でアンタみたいなヤツが、曹操さまの真名を呼んで!」
一刀「呼んじゃいけないの?」
女の子「良いわけないでしょう!曹操さまのお耳に入ったら、アンタなんか叩き斬られるわよ!」
一刀「・・・いや、華琳に呼んでも良いって言われてるんだけど」
女の子「信じられない。なんで、こんな猿に」
一刀「・・・初対面の相手に良くそこまで言えるね、君」
女の子「あんた、このあいだ曹操さまに拾われた、天界から来たとか言う猿でしょ?猿の分際で曹操さまの真名を呼ぶなんて、・・・ありえないわ」
一刀「・・・む」
女の子に散々言われて、さすがの一刀もムカついたようだ。
女の子「で、何?私も暇じゃないんだけど」
一刀「いや、だから。糧食の帳簿を監督官から受け取ってくるように、華琳に言われたんだってば」
女の子「曹操さまに?それを早く言いなさいよ!」
一刀「(何度も言ったんだけどなぁ)」
一刀は心の中で呟く。
一刀「・・・まぁいいや。どこにいるの?」
女の子「私よ」
一刀「へっ?君が?」
女の子「悪い?何か文句ある?私がここの監督官をしている事で、あなたの人生に何か致命的な問題があるとでも言いたいわけ?もしあるっていうのなら、そこのところを論理的に説明してみなさいよ。少しでも論理が破綻してるなら嗤ってあげるからさ」
一刀「い、いや。別にないけど・・・」
女の子「・・・まぁ、あんたの人生なんかどうでもいいけど」
一刀「・・・」
女の子の勢いにのまれ一刀は黙り込んだ。
一刀「・・・ま、まぁとにかくさ、その再点検の帳簿を貰えるかな?」
女の子「・・・その辺に置いてあるから、勝手に持って行きなさい。草食の表紙が当ててあるわ」
一刀「・・・そう」
そう言って女の子は歩いてどこかに行った。
一刀「(なんか割り切れない展開だったなぁ)」
一刀は帳簿を見つけ、華琳のところに向かった。
一刀「ごめん、華琳。遅くなった!これ、再点検の帳簿!」
華琳「待ちくたびれたわよ。早く見せなさい」
華琳に帳簿を渡すと、すぐにそれを確認し始めた。
数分後
華琳「・・・秋蘭」
秋蘭「はっ」
華琳「この監督官というのは、一体何者なのかしら?」
秋蘭「はい。先日、志願してきた新人です。仕事の手際が良かったので、今回の食糧調達を任せてみたのですが、・・・何か問題でも?」
華琳「ここに呼びなさい。大至急よ」
秋蘭「はっ!」
華琳に言われ秋蘭は走ってこの場から去って行った。
数分後
華琳「・・・遅いわね」
春蘭「・・・遅いですなぁ」
一刀「すぐに戻ってくるって」
苛ついている華琳をなだめようとする一刀。ちょうどその時、
秋蘭「華琳さま。連れて参りました」
秋蘭がさっきの凄い口調の女の子を連れて戻ってきた。
華琳「おまえが食料の調達を?」
女の子「はい。必要十分な量は、用意したつもりですが、・・・何か問題でもありましたでしょうか?」
華琳「必要十分って、・・・どういうつもりかしら?指定した量の半分しか準備できていないじゃない!」
一刀「・・・へ?何それ?」
二人の話を聞いて一刀は驚く。
華琳「このまま出撃していたら、食糧不足で行き倒れになる所だったわ。そうなったら、あなたはどう責任をとるつもりかしら?」
女の子「いえ。そうはならないはずです」
華琳「何?・・・どういう事?」
女の子「理由は三つあります。お聞きいただけますか?」
華琳「・・・説明なさい。納得のいく理由なら、許してあげてもいいでしょう」
女の子「ご納得いただけなければ、それは私の不能がいたす所。この場で我が首、刎ねていただいても結構でございます」
華琳「・・・二言はないぞ?」
女の子「はっ。では、説明させていただきますが。・・・まず一つ目。曹操さまは慎重なお方ゆえ、必ずご自分で糧食の最終確認をなさいます。そこで問題があれば、こうして責任者を呼ぶはず。生き倒れにはなりません」
華琳「ばっ、馬鹿にしているの!?春蘭!」
春蘭「はっ!」
一刀「ちょ、ちょっと待ってよ、華琳。もう二つ、理由があるんだから、それを聞いてから判断しようよ」
すぐにでも首を刎ねる勢いだったため一刀は仲裁に入った。
秋蘭「北郷の言う通りかと。それに華琳さま、先ほどのお約束は・・・」
華琳「・・・そうだったわね。で、次は何?」
女の子「次に二つ目。糧食が少なくなれば身軽になり、輸送部隊の行軍速度も上がります。よって、討伐行全体にかかる時間は、大幅に短縮できるでしょう」
一刀「(・・・確かにそうだけど)」
女の子の説明を聞いた一刀は違和感を感じた。
春蘭「ん?なぁ、秋蘭」
秋蘭「どうした姉者。そんな難しい顔をして」
春蘭「行軍速度が速くなっても、移動する時間が短くなるだけではないのか?討伐にかかる時間までは半分にはならない・・・よな?」
秋蘭「ならないぞ」
春蘭「良かった。私の頭が悪くなったのかと思ったぞ」
秋蘭「そうか。良かったな、姉者」
春蘭「うむ」
一刀「・・・」
一刀は春蘭を可哀そうな子を見る目で見つめる。
華琳「まぁいいわ。最後の理由、言ってみなさい」
女の子「はっ。三つ目ですが、私の提案する作戦をとれば、戦闘時間はさらに短くなるでしょう。よって、この糧食の量で十分だと判断いたしました。曹操さま!どうかこの荀ケめを、曹操さまを勝利に導く軍師として、麾下にお加え下さいませ!」
一刀「なっ!」
秋蘭「なっ!?」
春蘭「何と」
華琳「・・・」
一刀は彼女の名前を聞いて驚いたが、他の三人は彼女の提案に驚いた。
荀ケ「どうか!どうか!曹操さま!」
一刀「(彼女があの・・・荀ケ?)」
華琳「・・・荀ケ。あなたの真名は」
荀ケ「桂花にございます」
華琳「桂花。あなた・・・この曹操を試したわね?」
荀ケ「はい」
春蘭「なっ!貴様、何をいけしゃあしゃあと。華琳さま!このような無礼な輩、即刻首を刎ねてしまいましょう!」
荀ケ「あなたは黙っていなさい!私の運命を決めていいのは、曹操さまだけよ!」
春蘭「ぐっ!貴様ぁ!」
一刀「ちょっと待って!落ち着いて春蘭!」
刀を抜いて荀ケに斬りかかろうとした春蘭を一刀は止める。
春蘭「ぐぅぅ」
華琳「桂花。軍師としての経験は?」
荀ケ「はっ。ここに来るまでは、南皮で軍師をしておりました」
華琳「・・・そう」
一刀「な、なあ、秋蘭。南皮って?」
分からない地名が出てきたので一刀は秋蘭に聞いた。
秋蘭「南皮は袁紹の本拠地だ。袁紹というのは、華琳さまとは昔からの腐れ縁でな」
一刀「・・・あっ、そういう事か」
華琳「どうせあれのことだから、軍師の言葉など聞きはしなかったのでしょう。それに嫌気が差して、この辺りまで流れてきたのかしら?」
荀ケ「・・・まさか。聞かぬ相手に説くことは、軍師の腕の見せ所。まして仕える主が天を取る器であるならば、その為に己が力を振るうこと、何を惜しみ、ためらいましょうや」
華琳「・・・ならばその力、私のために振るうことは惜しまないのと?」
荀ケ「ひと目見た瞬間、私の全てを捧げるお方と確信いたしました。もしご不要とあれば、この荀ケ、生きてこの場を去る気はありませぬ。遠慮なく、この場でお切り捨てくださいませ!」
一刀「か、華琳」
華琳「・・・」
秋蘭「華琳さま・・・」
華琳「春蘭」
春蘭「はっ」
一刀「ちょ、華琳!」
秋蘭「華琳さま」
一刀と秋蘭の言葉を聞く様子もなく、華琳は春蘭から受け取った大鎌を、ゆっくりと荀ケに突き付けた。
華琳「桂花。私がこの世で尤も腹立たしく思うこと。それは他人に試されるということ。・・・分かっているかしら?」
荀ケ「はっ。そこをあえて試させていただきました」
華琳「そう。ならば、こうする事もあなたの手のひらの上という事よね」
一刀「華琳!」
そう言うなり、華琳は振り上げた刃を一気に振り下ろした。
荀ケ「・・・」
秋蘭「・・・」
春蘭「・・・」
荀ケはその場に立ったまま。そして血は、一滴も飛び散りはしなかった。
一刀「・・・寸止め」
華琳「当然でしょう。・・・けれど桂花。もし私が本当に振り下ろしていたら、どうするつもりだった?」
荀ケ「それが天命と、受け入れておりました。天を取る器に看取られるなら、それを誇りこそすれ、恨むことなどございませぬ」
華琳「・・・嘘は嫌いよ。本当の事を言いなさい」
荀ケ「曹操さまのご気性からして、試されたなら、必ず試し返すに違いないと思いましたので。避ける気など毛頭ありませんでした。・・・それに私は軍師であって武官ではありませぬ。あの状態から曹操さまの一撃を防ぐ術は、そもそもありませんでした」
華琳「・・・そう」
小さく呟いた華琳が、荀ケに突き付けていた大鎌をゆっくり下ろす。
華琳「・・・ふふっ。あははははっ!」
春蘭「か、華琳さま!?」
急に笑いだす華琳に驚く春蘭。
華琳「最高よ、桂花。私を二度も試す度胸とその智謀、気に入ったわ。あなたの才、私が天下を取るために存分に使わせてもらう事にする。いいわね?」
荀ケ「はっ!」
華琳「ならばまず、この討伐行を成功させてみせなさい。糧食は半分で良いと言ったのだから、もし不足したならその失態、身をもって償ってもらうわよ?」
荀ケ「御意!」
こうして一刀は初めての戦場に向かうのであった。
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酷い文ですが読んでくれる人がいてくれると幸いです。 基本ゲーム通りのシナリオです。 |
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あれでムカッて来たんならいつか絶対に切れるな一刀(スターダスト) | ||
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