魏√アフター 想いが集う世界――第二章――第一話
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 山を降りた一刀は、荒野を歩いていた。

 峰との知り合いという老人の下に行くまでに、雲耀に連れられて、一刀は様々な州を見て回った。

 そこで一刀が見た惨状は酷い物だった。

 村々では食べる物がなく、泣く元気すらない子供達。大人もやせ細り、壁に寄りかかり身動き一つしない。

 それなりに大きな村では、州牧の私兵が我が物顔で、金を払わずに売り物を持っていく。

 孫堅や曹嵩が納めていた地方では、そんな事はなかったのだが、他の州ではそれが日常となっていた。

 その事に憤りを感じていた一刀だが、問題を起こす訳にもいかず、黙って見ている事しか出来なかった。

 

 袁家が収める地では、地方に行くにつれて、同じ様な状況になっていた。

 それは袁家が悪いのではなく、朝廷から派遣されてくる官職の悪政による物だと、一刀には分かっていた。

だからこそ、一刀は麗羽に対する考えを変えずに済んでいた。

 

 小さな村の状況を見聞きし、一刀は思う。

 このままではダメだと。このまま官職がのさばってしまえば、民に安息の時は来ないと。

 それと同時に、自分がどれだけ安寧な生活を送っていたのか、漸く知る事になった。

 父の地位に護られ、何不自由ない生活を送っていた一刀にとって、他の州に住む民の実状は耐える事が出来ない物だった。

 

 様々な村や州を見ながら、一刀は孫堅の墓に来ていた。

 誰にも見つからない様にここまで来るのは、さすがに大変だった一刀だったが、そんな疲れはここに来てからなくなっていた。

 世の流れは、老人が買い物に出かける時に仕入れてくれていたので、一刀は困る事はなかった。

 そんな中でも、一刀が驚いたのは袁成と孫堅の死だった。

 初めて顔をあわせてから、簡単に死ぬ人達じゃないと思っていた。

 そんな二人が、相次いで死んでしまった。

 さすがに袁成の墓に行く事は出来ないが、何故か老人が墓の場所を調べてくれたので、孫堅の墓に来る事が出来た。

 

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「孫堅さん、ご無沙汰してました。遅くなりましたが、こうして来る事が出来ました。

 そんなにいいお酒じゃないですけど、約束でしたからね。一緒に飲みましょう」

 

 言い終わると同時に、片手に持っていた酒を墓にゆっくりと掛けてから、自分の口に含む。

 その酒は、不思議と美味しかった。

 

「孫堅さん、お元気ですか? 父上、母上、峰さんと仲良くやっていますか? 復讐なんて止めろと、きっと怒っているでしょうね。

 でも、これは俺だけの復讐じゃないんですよ。あの時、父上が見聞を広めろと言った意味が分かったんです。

 見聞を広める為に州を回り、民を見てきて知りました。どれだけ官職の者が腐っているのかを。俺がどれだけ恵まれた場所にいたのかを。

 ……民の事を考えてる官は、思った以上に少なかったです。州牧達の圧政によって親や子、友人を無くした者達は、泣き寝入りをするしかないんです。

 それが現状です……。だからこそ俺は、その人達の為に復讐します。悪の根源である十常侍に。でも、その力がない俺は……どうしたらいいんでしょうね……」

『復讐なんて止めればいいだろ? 泣き言を言う位なら、最初からしなければいい。違うか?』

 

 俯きながら独白していた一刀の耳に、孫堅の言葉が聞こえる。

 それはそう言って欲しいという、願望だったのかもしれない。

 父の親友である孫堅に愚痴を言い、背中を押して欲しかったのかもしれない。

 

 一刀自身気付いていた。

 復讐なんて、誰も望んでいない。ただ、安心して暮らせれば。

 友が、親が、子が死んだ事は悲しい。だけど、自分達がやり返して何になるのか。

 力が無い者の言葉かもしれないが、それでも思わずにはいられなかった。

 平和な暮らしが出来れば。知り合いや家族が笑顔でいられれば、それでいいと。

 

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『郷、分かってるじゃねーか。復讐なんてもんは、何も実らせねぇんだ。恨み辛みで、実はなるか? 平和な暮らしが出来るか?

 民はな、そんな事願っちゃいないんだよ。食える物があればいい。笑えればいい。それに、愛する人が傍にいればいい。

 それが、民が願ってる事なんだよ。俺が戦を続けたのも、それが理由だ。

 確かに今の朝廷は、腐ってる官職で溢れてるさ。だが、民もバカじゃない。お前の言う通り、不満は溜まる。

 そんな民達の事を思う奴が、お前の傍にはいるんじゃないのか?』

 

 孫堅に問われ、一刀の脳裏に四年の間、一度も忘れた事のない五人の笑顔が浮かぶ。

 その中でも、華琳の笑顔が一番鮮明に思い出されていた。

 

(皆……華琳……会いたいな……)

『雪蓮か冥琳じゃないのは癪だが、お前の気持ちがそうなら仕方ねぇ。

 あの嬢ちゃんに会いたいんだろ? なら、今のお前がする事は一つしかねーんじゃねぇのか?』

 

 そう言われて、一刀は思わず墓を見る。しかし、その場に孫堅がいる訳もなく。小川の音が聞こえるだけだった。

 今まで自分に話しかけていたのは、自分の心が作った幻だったのか。それは一刀自身にも分からない。

 だが、そうだったとしても、一刀の心は決まっていた。

 老人には迷惑を掛けるだけだから、会えないと答えていたが、自分の心にこれ以上嘘を吐きたくない。

 これからどうするか決めた一刀は、残っていた紙で何かを書き小石を乗せてから立ち上がり、墓に一礼してその場を後にした。

 

 その一刀の背中を、三人が男女が見つめていた。

 

『どうやら郷は、進む道を決めた様だな』

『孫の、お前のおかげだ。俺では、一刀を追い詰めるだけだったかもしれないからな』

『私でも同じでしょうね。私達が一刀に話しかけていたら、復讐心を強くしただけでしょうから。孫堅さん、本当にありがとうございました』

『なに、いいって事さ。平和な世の中になった時に、俺の娘達に種をくれればそれでな』

『それは一刀が決める事だからな。俺達がどうこういう事じゃないさ』

『そうですね。……一刀、これから大変でしょうけど、頑張ってね。私達は何時までも、あなたを見守っていますからね――』

 

 その声を最後に、三人の男女の姿は霞の様に消えていく。

 消えていくのを見守っていたのは、涼やかな風と小川だけだった。

 

 

 これから数日後に、一刀の残した手紙を見つけた雪蓮は冥琳と一緒に読み、涙を流しながら喜んだ。

 自分達の所にいなくても、生きてさえいてくれたのならいいと。

 

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 孫堅の墓を後にした一刀は、陳留に向かって歩みを進めていた。

 道中に山賊に襲われたりしたが、人数が少ないのもあって、骨を折るだけに留めていた。

 盗賊をしている全員が、したくてしている訳じゃない事に気付いていたからだった。

 骨を折って逃がす時に、一刀は全員に言っている言葉がある。

 

「今の世の中が、どうしようもない事は分かってる。だけど、あなた達が傷つけた事で、悲しむ人がいる事を知って欲しい。

 中には、傷が原因で働けなくなった人もいるかもしれない。その人達の事も考えてくれないかな?

 王朝が続くのかどうかは、俺にも分からない。だけど、きっと近い内によくなるからさ。

 もし行く所がないなら陳留の曹操の所か、袁術の所にいる孫策って人に会ってみて。悪い様にはしないはずだから」

 

 この一刀の言葉を聞いた人々は、近くの村に行くか故郷の村に戻り、自警団を作る様になる者。言葉通りに、二人を訊ねる者が出る様になる。

 もっとも、華琳の下に向かっている一刀とは別の道を進み、一刀が先に華琳と会う為に情報が遅れてしまった。

これが原因で三人から怒られる事になるのだが、今の一刀はそんな事を知らないのだった。

 

 今の世の中に不満を持っている人数からしたら、微々たる数かもしれないが、自分と同じ様に悲しむ人を増やしたくない。

その一念が、口にさせていた言葉だった。

 後に六人の女性が来た時に話を聞き、会ってみたいと思う様になる。

 

 これは余談だが、その者達は一刀の事を、双刀を振るう姿と出で立ち。そして、語る時の笑顔から『天翼』と呼んでいる。

 構える時に腕を左右に広げ、舞う様に武を振るう姿から。名のならないで去って行く為、自然と大陸に広まっていった。

 

 

 だが、一刀の話を聞いてくれる人ばかりならば、どれだけよかった事だろうか。

 中には人を斬る事。血を見る事。悲鳴を聞く事が楽しくなってしまった者達もいた。その者達には一刀の真摯な言葉も届かなく、逆に罵声を浴びせながら襲い掛かってきた。

そうなれば、もう一刀には斬る事しか残されていなかった。

 陳留に着くまで、余りにも多くの人を斬った一刀は、孫堅の言葉で気付いた想いを忘れた訳ではないが、華琳達を遠目に見るだけにしよう。そう思う様になってしまった。

 

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 そして、一刀が向かって三ヶ月が過ぎた。

 盗賊から助けた村の人から、お礼だと言われて食料を分けてもらったり、森の中にいる獣で食い繋いでいた。

 この日も、森に入って獣を獲ろうと思っていた一刀は、壊れた一台の馬車を見つけた。

 その馬車は豪華な意匠が施されており、一目で高価な物だと分かる物だった。

 それが横転して壊れており、馬車の周りには護衛と思われる者達が事切れて倒れていた。

 

 その惨状を見た一刀は、辺りを警戒しながら馬車に近付いていく。

 

「だ、誰だ……」

「生きていたのか……。何があった」

 

 一刀が血だらけの兵士に近付くと声を搾り出してきた。問いかけると、兵士は一刀の手を渾身の力で握り締めてきた。

 

「ち、陳留に向かってたら、盗賊が……。頼む、森に逃げた――若様を助けてくれ。頼む……紹様に、顔向け出来なくなる……」

「分かった。後の事は俺に任せて、お前はゆっくり休め」

「ありが……」

 

 一刀が手を握り返して答えると、兵士は微笑みながら力尽きた。

 数秒の間手を握り締めていた一刀は、その手をゆっくりと地面に下ろしてから、森に走った。

兵士の最後の頼みを叶える為に。

 

 

「来ないで! 来ないでよ!」

「うるせぇー女だなぁ。どうせ、嫌がるのは今だけなんだからよ。さっさと素直になれや。な?

 にしても、今日はついてるぜ。お宝も盗めたし、いい女も手に入るなんてよ」

「そ、そうなんだな。あ、あんたみたいないい女、中々お目にかかれないんだな」

「あ、あんた達なんかに、いい女なんて言われても嬉しくないわよ! お願いだから、向こうに行ってよ!」

「うっせぇ! 褒めても騒ぎやがって! 何様のつもりだ、てめぇ! もういい、お前ら抑えろ! ここでやるぞ!」

「いやぁぁぁぁ! 誰でもいいから助けてよ! 孕まされる! 来るなぁ! 助けてよ! 助けろ、全身せいえ……」

 

 八人の盗賊から必死に逃げていた女性は、とうとう追いつかれてしまい、足を軽く切られてしまっていた。

 それでも、這って逃げ様としたのだが、押さえ込まれてしまい、無我夢中で叫ぶだけだった。

 だが、最後に叫ぼうとした言葉の途中で止まってしまい、心ここにあらずという状態になっていた。

 

「なんだ? 急に大人しくなりやがった。まあいい。今のうちにやっちまうぞ」

「へい!」

 

 女性が大人しくなった事に疑問を抱きながらも、盗賊の頭が手下達に声をかける。

 そして、いざしようと手を伸ばした。

 だが、その手が届く前はなかった。

 

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「はぁはぁはぁ……何とか間に合ったか……」

「あんだ、てめぇ。今いい所なんだからよ。邪魔しねーでいなくなるなら、見逃してやる。さっさと行きやがれ」

「それはとてもありがたいんだがな。そういう訳にもいかないんだ。あいつに頼まれたからな」

「あん? 邪魔するってのか? そうか。ならお前ら、やっちま――」

「まあ、そういう事……だ!」

 

 女性が襲われる前に、声を頼りに森を駆けていた一刀は、襲われる寸前に辿り着く事が出来た。

 諦めたのかどうか分からないが、女性は声一つ出す事なく、視線を宙に彷徨わせていた。

 既に何かしらされた後と判断した後の、一刀の行動は早かった。

 

 腰に下げている干将を駆け寄ると同時に振りぬき、剣を抜こうとしていた手下の腕を斬り飛ばす。

 そのまま最高速度で女性を抑えている三人の下に行き、一人を蹴り飛ばす。二人の腕を浅く斬り、力が緩んだ所で、女性を左腕に抱えて脱出した。

 

 何が起こったのか理解する前だったからこそ、出来た動きだった。

 女性ではなく、自分に意識を向けている状態だったら不可能だったのは、一刀自身が分かっていた。

だからこそ、内心で毒づく。

 

(くそ……斬ったのと蹴ったので、二人しか無理だったか。三人は行きたかったな。

 ――軽傷が二人で、問題ないのが四人か……なら、取るべき行動は一つだけだな)

「て、てめぇ! おい、お前ら! やっちま――」

「あばよ!」

「……あっ! 待ちやがれ!」

 

 形勢不利と判断した一刀は、左腕に女性を抱えたまま――逃げ出した。その逃げる後ろ姿は、どこか清々しい物を感じさせる程の逃げっぷりだった。

 だからこそ、盗賊達は瞬時に動く事が出来ず、後を追ったが見つける事が出来なかった。

 

 一刀一人ならば多少時間がかかっても、全員を無力化する事が出来た。しかし、峰の教えの中にあった一つを忠実に守った結果が、逃走だった。

 その教えとは。

 誰かを護りながら戦う事は、どれだけ実力に差があっても、簡単には出来ない。退路があるならば、逃げろというものだった。

 

 

 森から全力で走って逃げた一刀は、かなり離れた草原で倒れて息を整えていた。

 全身から力を抜いている女性を抱えて、ここまで走ってこれただけ、上出来だな。と一刀は内心で思っていた。

 

(でも、困ったな……)

 

 横で寝ている女性を見て、一刀はホトホト参っていた。

 ここに来るまでの間、女性は声を一つ出さず、気付けば眠っていた。

 

(あんな状況にあって、どうして寝れるんだ? しかも、気持ちよさそうに……)

 

 女性を放って置く事が出来ず、一刀は女性が起きるまでその場を動く事が出来なかった。

 

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 一刀と女性が逃げ切れてから数時間後。ようやく女性が目を覚ました。

 

「……ん。ここは……」

「やっと起きたか……」

「っ! あ、あんた誰よ! ここはどこ!」

「俺は、まあ旅人だ。悪いが、名前は教えれない。で、ここだけど。君が襲われてた森から、三里くらい離れた場所」

「そう……。あんたが助けてくれたの?」

「まあ、そうだね」

「だったら、一応感謝しておくわ。で、私を護衛してた男達はどうしたのよ?」

 

 女性が護衛について問いかけると、一刀は言い難そうな顔をしてから、ゆっくりと口を開いた。

 

「……残念ながら、君の護衛は誰一人として生きてなかった」

「あっそ。それならそれでいいわ」

「――何? どういう意味だ?」

「どういう意味って、あんた分からないの? きちんと護衛をこなせない様な奴らに、かける言葉なんてないわよ」

「……」

「そもそも。男なんて屑ばかりなんだから、任務くらいしっか――いたっ!」

 

 女性の言葉は、最後まで出る事はなかった。

 一刀は女性の言葉に我慢する事が出来ず、平手打ちをしていた。

 平手打ちの衝撃に、女性の被っているフードが外れたが、気にもとめていなかった。それよりも、頬を叩かれた衝撃の方が強かったのだ。

 

「な、何するのよ! あんた、私が誰だか知らないの!?」

「君が誰かなんて関係ない。俺は君の言葉が許せなかった。だから叩いた。それだけだ」

「何が許せないって言うのよ! 私を護れなかったんだから、屑って言って――ったいわね! だから叩くな!」

「君は分かってない。俺があそこを通った時、兵士の一人が君の逃げた場所を教えてくれた。だから君は助かったんだ」

「それが何だって言うのよ! そんなの当然の事じゃない! 自分の力が足りなかった。だからあんたに助力を頼んだんでしょ!?」

「……それで死んだとしてもか」

「……っ! そ、そうよ! それが任務なんだから、当然の事でしょ!」

 

 その言葉に、一刀は不快な表情を浮かべて女性を見ていた。

 

「恐らく、君は頭がいいんだろうね。だが、君は大事な事を知らない」

「私が何を知らないって言うのよ!」

「それは――どうやらここまでの様だ。悪いが、俺は隠れさせてもらう」

「ちょ、ちょっと! 私を一人でここに置いて行く気!? それに、知らない事って何よ!」

 

 女性の言葉に、一刀は無言で女性の後ろを指差す。女性は一刀を警戒しながらも、後ろに視線を後ろに向けた。

 そこには砂塵を撒き上げながら、迫ってくる一団の姿があり。その先頭には、曹の旗がなびいていた。

 

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「君が陳留に向かおうとしていたのは、兵士の人から聞いた。なら陳留の刺史である曹操に話をして、連れて行ってもらうのが一番だろ」

「そ、それはそうかもしれないけど……。そ、そうよ! 私が盗賊に襲われていたって事を証明しなさいよ!」

「なっ! それ位、自分で出来るだろ!?」

「袁紹様からの紹介状が、馬車の中にあったのよ! だから、証明する物がないのよ!」

「麗羽の紹介状だって? ……って、何時の間に外套を掴んでるんだよ! 頼むから離してくれ!」

「嫌よ! 証明してもらうまで、絶対に離さないんだから!」

「はーなーせぇぇぇぇぇ!」

 

 女性が一刀の外套を渾身の力で掴んでいる為、その場を離れる事が出来ないでいた。

 無理やり外せない事はないが、それでは女性が怪我をしてしまうかもしれない。そう思って、一刀は力を込める事が出来ずにいた。

 

「……ねえ、秋蘭。盗人達って、これ?」

「いえ、華琳様……。報告では、八人の男達だったそうです。この者達は違いますね」

「そう。で……あなた達は、何時までそうやってるつもりなのかしら?」

「げ……」

「あ……」

 

 離せ、離さないと問答している間に、華琳達がその場に辿り着いていた。

 初めは華琳も、落ち着くまで待とうとしていたのだ。だが、自分達が来た事にすら気付いていなかった為、仕方なく声を掛けた。

 

「わ、私は袁紹様の紹介で、曹操様の許に行こうとしていたのです! ですが、行く途中で盗賊に襲われてしまい――」

「そう。それを証明する物は?」

「しょ、紹介状は馬車の中に……。で、ですが、盗賊に襲われていたのは、この男が証明してくれます! この男が、私を盗賊から救ってくれたのです!」

「それは本当? 本当に、この者は盗賊に襲われていたの?」

「……」

「何故黙っているのかしら?」

 

 華琳が問いかけるも、一刀は口を開く事が出来なかった。

 声を出せば、三人に気付かれてしまう。だから、一刀はどれだけ聞かれても、声を出す事が出来ないでいた。

 

「貴様ぁ! 華琳様が聞かれているのだ! 早く答えんか!」

「姉者、落ち着け。一刀の情報がないからと、こやつにあたっても仕方ないだろ」

「ち、違うぞ! 私は一刀の事など、心配しておらんぞ! そ、そうだ! 私は華琳様の事を思ってだな!」

「はいはい、ありがとう春蘭。……それで、どうして逃げようとしてるのかしら?」

 

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 華琳に意識が向いた事で女性の力が緩み、一刀はその場をゆっくりと離れ様としていた。

 だが、華琳は意識をずっと一刀に向けていた為、逃げる事が出来なかった。

 

「……いいわ。陳留に戻ってから、麗羽に確認すればいいのだから。でも、あなたは素直にきてくれなそうね。

 春蘭、骨の一本位折ってやりなさい。間違っていても、治療をすれば文句はないでしょ」

「はっ! ……貴様がさっさと華琳様の質問に答えていれば、痛い思いをせずに済んだのだ。悪く思うなよ」

(いや、思うだろ……。春蘭は相変わらずだな。華琳も、何だか余裕がなさそうだしな。秋蘭も止める気がない……か)

「はぁぁぁっ!」

 

 

 力の篭った息吹と共に、春蘭は七星餓狼で右斬り下ろしをする。それを一刀は余裕を持って避けた。

 

(おい……今、刃が向いてたぞ。折るんじゃないのか、折るんじゃ!)

「ほう……。今のを避けるか。少しは出来る様だ、な!」

 

 一刀が避けた事で勢いがついたのか、春蘭は怒涛の如く剣を振る。

 右斬り上げ、左斬り下ろし、突きと、次々に繰り出す。それを避けていた一刀だったが、何時までも避けきれる訳もなく、最後の切り下ろしを莫耶でいなした。

 

(しまった! ……気付かれたよな)

「何故だ……」

(え?)

「何故、お前がそれを持っている! それは一刀の剣だ! 貴様の様な輩が、持っていていい物じゃない!」

(気付いてねぇぇぇぇぇ!)

 

 先程よりも力が篭り、速さが増した春蘭の剣撃を、一刀は何とか防ぎ避ける。

 その光景を見ていた華琳と秋蘭は、唖然としていた。

 

「ねえ、秋蘭。私の見間違いじゃなければ、あれって干将莫耶よね?」

「……私にもそう見えます。あれは、一刀と一緒に行方が分からなくなった、干将莫耶で間違いないかと」

 

 二人が話している間にも、春蘭の剣撃は続く。しかし、本気を出せない一刀からしたら、たまったものではない。

 

(おい! 華琳に秋蘭、気付いたなら春蘭を止めてくれよ! いい加減、きついぞ! ……ちっ!)

 

 いい加減、限界が来たのだろう。春蘭の左斬り下ろしを避けきれず、外套が少し斬られる。そして、返す剣で右斬り上げをしてきた。

 それに一刀は干将をあわせ、足を乗せて宙に飛び上がった。

 そして、空中で一回転して着地した時、風と衝撃で外套が頭から外れてしまった。

 

「あ……」

「え……」

「やっぱりね……」

「バカ者が……」

「え? 何、何? 何なのよ!?」

 

 一刀に助けられた女性だけが、どうして急に春蘭が止まり、あの男に怒気をぶつけているのか分からず、動転していた。

 

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「それで、何か言う事あるかしら? もちろん、納得する答えをくれるのよね? 四年よ、四年。

 あなたなら、見つからないで会いに来る事くらい出来たわよね? なのに、それをしなかった答えを、くれるのよね?」

「あの……華琳さん? なんで、絶を構えているのでしょうか?」

「か、一刀。一刀なのか? 本当に?」

「う、うん。そうだけど。どうして春蘭は、また七星餓狼を構えてるんだ?」

「残念だがな、一刀。私には華琳様と姉者を止めるつもりは、更々ないぞ」

「と言いながら、なんで秋蘭も餓狼爪を構えてるのかな?」

 

 いい笑顔を浮かべながら、三人は少しずつ一刀に近付いていく。

 普段の一刀なら、一目散に逃げ出しているだろう。だが、三人の怒気。それ以上に、三人に会えた事が一刀の足を止めていた。

 後ろで待機している兵士達は、何処となく嬉しそうな三人の様子に、お互いに顔を見合わせていた。

 しかし古参の者達は、握手をしたり、お互いの背を叩き喜びを表していた。

 一様に思っている事。それは、「やっと、お三方共、昔に戻られた」だった。

 

「ふふふ……いいわ。話は陳留に戻ってから、ゆっくり聞くから。でも今は……」

 

 三人を代表して、華琳が笑顔で一刀に告げる。

 

「このバカぁぁぁぁぁ!」

 

 華琳の怒声と同時に、三人の武器が一刀に吸い込まれていった。

 それを受けながら、一刀は薄れていく意識の中で思っていた。

 

(腹の部分と、鏃が潰れたのでやるのはいいけどさ……めっちゃ痛い……。でも、懐かしいなぁ――)

 

 意識を失った一刀を春蘭が担ぎ、華琳の馬の後ろに乗せる。

 それを確認してから、華琳達は陳留に戻っていった。

 

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 余談

 陳留に到着してから、三人は一刀の寝顔を見ていた。

 四年間も待ち望んでいた瞬間を、少しでも長く味わう為に。

 しかし、そこで秋蘭が一つ思い出した。

 

「そういえば、華琳様」

「何?」

「いえ、そう不機嫌な顔をしないで下さい。あのですね。あそこにいた娘は、連れて着ましたか?」

「あそこ?」

「……一刀と一緒にいた、盗賊に襲われたという娘の事です」

「――……あ」

 

 一人で草原を歩いている女性は、フードに着いた猫耳がピクピクッと動いたと思うと、空に顔を向けて叫んだ。

「私が何をしたって言うのよぉぉぉぉ! 曹操様は、何で私を忘れるの!? 男なんて、男なんて……屑ばかりいぃぃぃぃ!」

 

 それから二日後に、女性は無事に陳留に到着したとかしないとか。

 

説明
大変遅くなりました。
今回の話で、一刀が所属する陣営が判明します。といっても、分かってた人が大多数でしょうが。

今回は、口調が難しかったです。
口調はこうじゃない。などありましたら、こっそり教えてください。
それでは、想いが集う世界二章一話でございます。
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コメント
いやいやいや 復讐でいくのかと思ってたのに墓に行っただけで改心するってこの一刀どんたけ自分の意志弱いのよ(阿修羅姫)
2828様:特に嫌っている訳ではありませんよ。まあ、お互いの事を知った後を、お楽しみにしてて下さい^^(夢幻)
katyu様:はい、私が一番好きな√なので、魏にしました^^(夢幻)
この一刀は桂花を嫌ってそうですねぇ・・・・知らない事を知ったらデレるのかww(2828)
やっぱ魏ですね!!!(katyu)
gmail様:桂花の扱いが悪いのは、今回だけのはずですよ^^:(夢幻)
桂花の扱いがwwwwwwwwwwwwww(gmail)
村主様:最初は月の所に行かせようかと思ったのですが、詠が許さないんじゃないかと思い、除外しました。桃香に関しては、今はノーコメントで(ぇ(夢幻)
jackry様:大丈夫ですよ!これからは、日の目を見れると思いますので!(夢幻)
hokuhin様:原作と違って、一応は麗羽も頑張る様にしていますので。それに関しては、二話か三話で語られると思います。(夢幻)
サイト様:折檻をしても、ボロボロになるくらいはさせないつもりです。朝日は、まあ……黄色い?(ぁ(夢幻)
あれ てっきり予想が違ってましたw前回コメに書いた2勢力は月か桃香だと思ってたので(華琳・雪蓮・麗羽は十常侍とかの目があって無いとばかりw)後猫耳・・・それは言ってはいかんだろ、いくら男嫌いでもw(村主7)
一刀は魏へ行ったか・・・ しかし桂花が麗羽の推薦で華淋の所へ行ったのは以外でした。てっきり原作みたいに飛び出したと思ってましたよ。(hokuhin)
がんばれ!一刀!これから折檻やらなんやらでまたぼろぼろになるんだからw・・・・・・・朝日を拝めるといいねw(サイト)
闇羽様:友人の女性に聞いた所、これに近い事をすると言っていたので、採用させてもらいました^^ まあ、四年間も音沙汰なしだったのですから、仕方ないかな?と。(夢幻)
Ocean様:華琳達のデレは、次回を期待してもらえると嬉しいです!(夢幻)
よーぜふ様:今回はあえて、ああいう役回りを桂花にしてもらいました。ちょっと言わせ過ぎたかな?と思ってはいましたが、近い内にいい目を見てもらうつもりです。一刀の口調が、今一つ安定しないのが、悩みですね^^;(夢幻)
狐狗狸様:桂花には、『今回は』こんな役回りをしてもらいました。ですが、私は桂花も好きなので、今回だけだと思います^^:(夢幻)
華琳ひでぇw(闇羽)
華琳たちとの再会は予想通りの展開でしたw 四年ぶりの再会ということで、積もり積もった思いが、いきなりデレになってそう(Ocean)
どんまい桂花、まぁ性格だしそゆ時代だし仕方ないけど、あの物言いはやっぱり許せないですよね〜  一刀はまぁ…うんw(よーぜふ)
桂花に合掌!! 南〜無〜・・・(狐狗狸)
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