真・恋姫†無双 〜祭の日々〜26
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――ずぶり、と突き刺さる刃物。倒れていく男。

 

それに最初に反応できたのは、祭だった。

彼の人の名を叫び、駆け寄る。

沈み行く人影を止める事がかなわないのを瞬時に判断して、一度だけ睨んでやると、すぐに一刀に意識を集中させた。

「くっ・・・!」

一刀は意識を失っていた。

恐ろしい思いが頭を過ぎる――事切れたのではないかと。

しかし傷を見れば、意外なほどに浅いことがわかった。

祭は刃を一息で引き抜いた。血は少ししか飛ばなかった。

「何事かっ・・・!?」

騒ぎを聞きつけてか、蓮華と明命がやってきた。目の前にある光景を見て絶句する。

「祭、なにがあったというの!?」

主を前に、祭は無礼であることは承知で、そちらに目をやらずに答えた。

「一刀が襲われました。腹を刺されております・・・!」

視線は、一心に一刀へ向けられている。

・・・おかしかった。

確かに刺さってはいたが、この程度なら気を失うほどではないはずだ。致命傷には至っていない。むしろこの程度なら、痛みで意識が鮮明になるものだ。

「とにかくお医者さんを呼ばなくちゃ!一刀さんは宿へ運びましょう」

桃香の言葉に、一同頷いてそのようにする。明命が医者を呼ぶため走り去り、祭が慎重に一刀の体を抱えた。

 

部屋へ運び込むと、秋蘭が顔を青くして男の名を呼んだ。

「なにがあったのだ」

「襲われた。すまん、儂の失態じゃ」

少ない言葉に万感の思いを込めつつ、祭は寝台に一刀を寝かせた。

「傷は深くはなかった。しかし気を失っておる・・・秋蘭殿、どういうことじゃろうか」

秋蘭も一刀の体を検分し、そして同じ結論に至る。

「わからない。だがまずは医者だ、誰か・・・」

「明命が呼びに行きもうした。すぐに来るじゃろう」

 

その言葉通り、医者はすぐやってきた。

手際よく診察と治療を進めていく。

祭は息を呑んでそれを見つめていた。

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「・・・一命は取り留めました」

 

医者の言葉に、それをきいた全員がほっと胸をなでおろす。しかし、医者はそのまま言葉を続けた。

「しかし、まだ油断はできません。どうやら刃に毒が塗ってあった様子」

「なに・・・!?」

「早く解毒を!」

ふるふると首を横に振る医者。

「今までに見たことがないもので、処方の仕様がなく。正直に申し上げて、いつどうなるのかさえ不明でございます。私は長く医者をしておりますが、このような毒は・・・」

言葉を言い募ろうとした秋蘭の肩をグッと祭が抑えて止める。

「祭殿っ・・・!」

「彼を責めても仕様がないじゃろう。彼奴は泥より這い出てきおった・・・我らが知らぬ毒を持っていても、不思議ではなかろうよ」

脳裏に浮かぶ、一刀を刺した男のいやらしい笑み。

桃香を襲わんとしていたときにも思っていたことだった。奴が気味の悪い気をまとっていることは。

「くっ・・・では、どうしようもないというのか!」

行き場のない怒りを吐露する蓮華。その背後で、明命も気鬱な顔をしていた。

「ひとり、解毒できるのではと心当たりのある医師がおりますが・・・どこにいるやもわかりません。もし彼が見つかればなんとかできるのでしょうが・・・」

「誰ですか、それは!」

「華陀という者です。その腕は三国随一、治せぬ者などないとまで言われておりますが・・・各地を転々としておるもので」

手詰まりだ、とばかりに皆が気落ちする中。

桃香がすっくと立ち上がった。

「おねえちゃん?」

鈴々が涙目で義姉を見つめる。

桃香の目には、決意の光が宿っていた。

 

「城に帰りましょう」

 

桃香に対する不信に満ち満ちたあの城に。

みな目を見開いて驚いたが、桃香は続けた。

「城に戻れば、少なからずお医者さんがいる。毒に精通している人間もいるだろうし・・・それに、その華陀って人を探してもらえるかもしれない」

「でも・・・」

城に戻れば、幽閉される。乱心した王ほど手に負えないものはないからだ。

星が説明するために帰っているとはいえ、既に世を乱し逃亡まで果たした桃香の言うことを、誰が聞いてくれるというのか。

 

「私は今までいろんなことから逃げて、目をそらしていました。今回の事だってそうだし、星ちゃんを説明のためにと先に帰したことも、今思えば逃げだったのかもしれません。ただ私が謝らなければならないのに。私の罪なのに、星ちゃんに間に入ってもらっちゃった。私は・・・いい加減、立ち向かわなきゃいけないんだと思います。たくさんの人に迷惑をかけたから・・・もちろん一刀さんにも。一刀さんに私、まだ何も返せていません」

 

誰がそれ以上、反駁を示せただろう。

誰もが一刀を助けたかったし――誰もが彼女の決意に抗えなかった。

 

それは、彼女も例外ではなく。

それが伏した男の思いに背くものであると知っていても尚、祭は異を唱えることができないのだった。

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桃香の帰還には、蓮華・明命・秋蘭が連れ立つことになった。

一刀のもとへは祭と鈴々が残った。ふたりとも、余計な混乱を招きかねないからだった。

 

祭は彼女らを見送った後、一刀の側についていた。

体を拭くこと、定期的に水を飲ませること。

そんなものはすぐに終わってしまう。よって、彼女は自責の念に苛まれるのを誤魔化すことができなかった。

 

あのとき、彼がその身に刃を受けたとき。

自分は動くことさえできなかったのだ。

悔しかった。許せなかった。

なぜ自分は、大事な人を守ることができないのだろう。

もう二度と・・・こんな思いはしたくなかったのに!

 

握る拳に血が滲む。爪が己が皮膚に突き刺さっているからだ。それでも祭はそれを止めなかった。

己の力不足を嘆くのは慣れていた。

どんなにその身を鍛えても、戦場で経験をつんでも、力不足はけして無くなりはしない。

だが・・・だが!

自分の力不足で誰かが失われるということは、その苦痛は、何度味わっても慣れることはないのだ!

 

 

その相貌に苦悶を浮かべつつも、祭は決めていた。

 

「あやつは・・・儂が討とう」

 

いやらしい笑みを浮かべた男。愛しき人を毒牙にかけた男。

かつての主が討たれたときは、自分よりもふさわしいお人が怨敵を討ってくれた。あの時は自分が討ってはいけなかった。

今も、もしかしたらそうなのかもしれない。

一刀の仇を討つべきは自分ではないのかも知れない。

それでも。

今回ばかりは、彼女は譲ろうとは思わなかった。

 

説明
お久しぶりです。更新大幅に遅れてすみません!
ちょっと前のゲームに激ハマリして時間が経つのを忘れていたRocketです。
思ったように話が進まなくて難儀中・・・とりあえず次回は桃香メインですかね。
つーか・・・花粉許すまじ。
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コメント
今日だけで全部読みつくしました。次回も楽しみにしています。(弐異吐)
ようやく追いつけた(物語的に)…祭さんの静かな怒り、改めて見せつけられました。一刀君、くれぐれも『彼女達』の前から消える事だけはいけませんよ。桃香さんがどうなったかとか、一刀君に盛られた毒はなんなのかとか、勇者王(違う)は何処に居るのかと気になる事てんこ盛りですが、次回更新を楽しみにお待ちしております。(レイン)
御疲れ様です。祭さんならば大丈夫だとは思いながらも踏み外さないかちょっと心配に…一方で迷走から再起した桃香の帰還がどんな展開を見せるのか次回更新も楽しみです!!(自由人)
お待ちしておりました〜 (よーぜふ)
楽しみです^^(ななや)
更新お疲れ様です!桃香の王としての行動の開始と、祭さんの静かな決意と、今後に期待(俺ぐらいか)が高まってきました。次回楽しみにしています。頑張ってください!!(gmail)
更新待ってましたよ!! さて、どうなることやら・・・・?心待ちにしております。(峠崎丈二)
お疲れ様です!更新ありがとうございます(samidare)
待ってました!さてさて、これから急展開ですかね?(kyowa)
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