真・恋姫無双 EP.0 地獄編 |
妙に寝苦しかった。体が重く、息苦しい。
それに、近くから嫌な気配を感じる。俺は寝汗を拭いながら、目を開けた。
薄暗く、辺りの様子はよく見えない。
「あれ、ここは?」
変だった。確か、自分の部屋で寝ていたと思ったのに。
俺はゆっくり体を起こすと、寝ぼけていないか目をこすり、もう一度よく周囲の様子を観察した。
見知らぬ場所……いや、そもそもこんな場所が近所にあっただろうか。薄暗くてはっきりとはわからなかったが、どこまでも何もない空間が広がっているようだった。
「なんだよ……」
呆然とする俺は、ともかく周りを調べてみようと思い、足を引きずるようにして歩き始めた。体の調子でも悪いのか、やたらと足が重い。いや、足だけじゃない。腕を上げるのも、一苦労するほどだった。その上、酸素が少ないのか息苦しい気がする。
「ダメだ……」
ほんの数分ほど歩いただけで、すっかり疲れ果ててしまった。俺はその場に座り込みたい衝動を抑え込んで、立ったまましばらく休憩をすることにした。
その時だ。
「――ぁ」
誰かの声が聞こえた。何だか嫌な予感しかしないが、一人の心細さに負けた俺は、その場で声の主が現れるのを待った。
「ご主人様ぁん!」
鳥肌が立つ俺の前に現れたのは、ピンクのビキニパンツを履いただけの筋肉お化けだった。
「だあれが、吐き気を催すほど醜悪で、下水の臭いがする汗が滲んだ筋肉の怪物ですってえ!!」
「言ってねえ!」
突っ込みながら、俺は奇妙な既視感を憶えた。何だろう、この気持ちは。
「久しぶり……といっても、憶えていないわよね」
ここまで個性的な人物を忘れるわけはないだろうが、逆に強烈すぎて記憶から消した可能性はある。
「私は貂蝉って言うの」
「貂蝉って……」
俺の記憶では、三国志にそういう美女が出てきたはずだ。ゲームにもなっているので、確かだろう。だが目の前の男は、まるでかけ離れた容姿をしている。
「私はね、ご主人様に大切な事を伝えるために来たのよ」
貂蝉に俺は何かを言いかけて、けれど口をつぐんだ。どうしてだろう、「ご主人様」と呼ばれることに違和感を感じない。
「これからご主人様には、やってもらいたいことがあるの」
「やってもらいたいこと?」
「そうよ。これから1年間、ここで修行をしてもらう」
「1年って、そんなに……」
「大丈夫よ。ここは時間の流れが遅いの。ここの1年は外の1ヶ月ほどだから、それほど大した時間じゃないわ。それにここは眠くならないし、お腹も空かないから、1年間はみっちりと使えるのよ」
「いや、さすがにそれはお断りします」
回れ右をして、俺はそこから逃げようとする。だが、次に貂蝉が言った言葉が、俺の足を無意識に止めた。
「彼女たちを助けられるのは、ご主人様だけなのよ」
どうしてかわからないけど、胸の奥に温かいものが広がって涙が零れた。
「記憶は無くしても、心はちゃんと憶えているのね」
「なんで、泣いているんだろう……俺」
「ご主人様はある外史を、3回体験しているの。その時に育んだ絆が、心の中に残っているのよ」
「外史……」
「そう、想いが紡ぐ望まれし世界の1つ。それが外史なのよ。ご主人様にわかりやすい言葉で表すと、タイムスリップとパラレルワールドが混ざったみたいなものと思えば、まあ、だいたい合ってるかしら」
何とも突拍子もない話だと思った。だが笑い飛ばす気持ちには、不思議とならない。
「ご主人様が体験した外史は、いわゆる三国志を元に生まれた世界なの。外史にはね、相性があるのよ。想いの紡ぐ世界だけに、相性が悪いと何一つ上手くいかない。だからまず私たちは、相性の良い人物を見つける必要があったわけ。そして相性が良い人物が見つかったら、今度はより適正を深めるようにする。馴染ませて、その外史にとって必要なパーツとするの。ご主人様が同じ外史を3回も、違う運命で繰り返したのはそういう理由よ」
俺は男の言葉を黙って聞いていた。何も憶えてはいないけど、確かに何か引っかかるものがある。それだけはわかった。
「でもご主人様の存在が、『奴ら』に見つかってしまったの。私たちが裏で色々と工作をしたんだけど、3回目の時に介入を許してしまった。そのせいで、強制的に途中退場させられてしまったのよ。外史の狭間に落とされたご主人様を見つけるのは、本当に大変だったんだからぁん」
しなを作る男の不気味さに、俺は視線を逸らした。
「何か失礼なこと考えてない?」
「いや、別に……」
「まあ、いいわ。それで『奴ら』はご主人様を追い出したあと、崩壊しかけてた外史を再構築したの」
「いったい何の目的で?」
「あの外史には、英雄の魂が多く集まっているわ。『奴ら』はそれを手に入れて、さらに強大な力を得ようとしているのよ。もしもあの外史で、もっとも大きな3つの魂を取られたら、他の外史や正史にまで影響を及ぼすようになってしまう」
「3つの大きな魂……それは?」
「蜀の劉備、呉の孫策、そして魏の曹操」
「――!」
「再構築された外史は、『奴ら』の影響を強く受けているわ。だから外から手を出すことができないの。外史を破壊する方法もあるけど、それは最終手段。それをすると、その外史に住む子たちもみんな、永遠に失ってしまうから。だから一番相性の良いご主人様が、みんなの想いを一つにまとめて戦いを挑むしかないの」
「俺が……」
「やってもらえる?」
色々と思うことはあった。でもなぜだろう、断るという選択肢は思い浮かばなかったんだ。むしろ、自分から立候補したい気持ちだった。だから俺は、貂蝉の申し出を受けた。
「それじゃあ、これからみっちりと鍛えるわ。あの呂布ちゃんと渡り合えるくらいにね」
こうして俺の、地獄のような1年間はスタートを切ったのだった。
そして、あっという間に1年が過ぎた。記憶から消し去りたい、地獄の1年だ。
俺の修行を行った二人の化け物――貂蝉と卑弥呼は、餞別に武器をくれると言い出した。それはとてもありがたかったのだが、俺は今、とても困惑している。
「これは……」
その武器というのは、黒光りしている2振りの剣。その正体は、貂蝉と卑弥呼が変化したものだった。
「遠慮しないで、ご主人様。いつものように、私のものを握っていいのよん」
「紛らわしい言い方をするな!」
果てしなく、嫌な剣だ。
「でも、これさ、鞘がないから危ないよな」
「それなら大丈夫よん。ほら、こうすれば」
すると、黒光りする刀身がみるみる縮んで、柄だけになった。どこのビームサーベルだ。というか、なんで縮んだんだ?
「……いや、やめよう。考えたら負けだな」
そう結論付けて、俺は仕方なく二つの柄をベルトに刺した。生温かかったのは、忘れることにした。
説明 | ||
恋姫の世界観をファンタジー風にしました。 原作や他の方の作品とは違う展開になるよう、心がけるつもりです。勢いだけの作品ですが、楽しんでいただければ幸いです。 |
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コメント | ||
この剣は一刀を貫く剣だろwww(HALL) この武器は呪われていて外すことが出来ませんwww(星屑) 使ってはいけないと言う意味で一刀にふさわしいねw(ゲスト) この武器だけは使いたくないなwww(機構の拳を突き上げる) その武器は無理だな。(鐵 恭哉) その武器は呪われてるぞ!w(corn) 嫌な武器だな〜(aoirann) この武器…観ているとDMC3のアグニ&ルドラを思いだす…コレハ、O・KO・TO・WA・RI・DA !w(覇炎) 太いんだよ! 固いんだよ! 暴れっぱなしなんだよっ!! って感じの剣か。 ((((;゜Д゜)))ガクブル(闇羽) 無印と真の集大成的な感じですかね。超期待しちゃいます!・・・生暖かいww(比良坂) 精神と時の部屋?(ヒトヤ) |
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