恋姫無双 3人の誓い 第十六話「呉との接触」 |
広い荒野の中で一つの戦いが始まっていた。
「張遼様!本隊、左翼、共にもう限界です!」
「ちぃっ!アホ何進め・・・こないな無茶な作戦で、五胡の連中に勝てるとでも思うたんかいな・・・くそ!撤退するで!」
「本隊から伝令!ここが正念場だ、踏ん張れ、奮戦せよ!だそうです!」
「あんのバカ・・・!もう正念場なんぞとっくに終わっとるっちゅうねん!もうええ、お前ら、ウチの指示に従い!責任は全部ウチが取る!撤退や!」
何進からの伝令に腹を立てた張遼は、部隊に撤退命令を出す。
「よろしいので?」
「かまへん!ウチら右翼は戦線の維持不可能につき撤退する!何進にそう連絡し!撤退や!」
「はっ!総員、撤退!撤退ーーーーーっ!」
張遼の近くにいた兵士が周りの部隊に撤退命令を出していく。ふと、張遼は呟いた。
「・・・けど、五胡の連中、ここまで規模が膨れあがったら・・・野盗や暴徒どころか、その辺の軍隊と変わらんで・・・」
そう、五胡の規模は日に日に膨れ上がってきている。このまま周りの雑魚だけを蹴散らしていては、一向に終わりが来ない。
張遼が考え事をしていたその時、大きな銅鑼の音が辺りに響き渡る。
「な・・・っ!何や、敵の増援か!」
「いえ!旗印は曹と夏侯!恐らく、陳留の曹操の軍かと思われます!」
「今頃か・・・っ!まあええ、連中の相手は何進がやってくれるやろ。ウチらはとっとと撤退すんで!」
そう言って、張遼達の部隊は戦線から離脱していった。
「夏侯惇様。官軍の指揮官から、連絡文が届いているそうです。」
駆け足で春蘭のところに向かった凪は、連絡文を手渡そうとしたが、
「・・・読まずともよいぞ。」
「・・・良いのですか?」
あっさりと断られてしまった。
「いらん。どうそ、到着が遅いだの早く蹴散らせだの書いてあるのだろう。そのような手紙、見てる間も惜しいわ。」
「春蘭さま!部隊の展開、完了しましたー!」
「よし。官軍の援護は凪、貴様らに任せる。」
「はっ!」
「季衣は私に続け!腑抜けた官軍には荷が重い相手やもしれんが・・・真の精兵たる我らには、五胡など赤子も同然!ひねり潰せぃ!」
春蘭の指示に兵士達は、敵目掛けて一直線に立ち向かっていった。
「な・・・なんという強さだ・・・」
「あの五胡が、まるで相手になっていない・・・」
一方、何進に殿を任されていた華雄は、春蘭達の戦いぶりに感嘆の声を漏らしていた。兵士達もどうように。
「華雄将軍!官軍の華雄将軍はどちらか!」
「お、おう!ここだ!ここにいるぞ!貴様らはどこの兵だ!」
「我が名は楽進。陳留が州牧、曹操の代理として馳せ参じました!ご無事か!」
官軍の援護に向かっていた凪は、華雄を見つけ、簡単に挨拶を済ませる。
「ああ。本隊は既に下がり、こちらも苦戦しておったが、貴公らのおかげでなんとか命を繋ぐことができた。礼を言う。」
「はっ。ここは我らが引き受けます故、官軍の皆様は急ぎ撤退なさいませ。」
「すまん。ならば、その言葉に甘えさせてもらおう。張遼にも連絡せよ、総員、撤退せよ!撤退だ!」
華雄の指示に兵士達は駆け足で撤退していった。
「・・・ふぅ。・・・本隊が撤退だと・・・?華雄殿には殿の自覚もないようだったが・・・どういうことだ?」
その疑問に考えていると、
「楽進様!」
「どうした。何かあったか。」
一人の兵士が駆け込んできた。
「はい。夏侯惇将軍の部隊が・・・」
「追え追えー!地の果てまでも追い詰めろ!」
春蘭達は敵部隊を一生懸命追撃していた。
「春蘭さまぁ!なんか今日の相手、すっごく弱くありません?」
「うむ・・・ここまで派手に逃げられると、何としてでも追い詰めてやりたくなるな!」
「そ、そんなもんですかっ!?」
春蘭の活き活きとした返事に、季衣は戸惑っていた。
「当然だ!季衣、隊の速度を上げるぞ!これ以上逃げられるのも気に食わん!」
「わ、分かりましたっ!」
季衣は戸惑いながらも、春蘭の後についていった。
「・・・ふふっ。聞きしに勝る夏侯元譲も、ここまでくると只の猪将軍ね。」
紅泉は春蘭の突撃ぶりに思わず笑みを漏らす。
「けど、あの夏侯惇には変わりないわ。では、こっちの計略に乗ってもらいましょう・・・」
「なんだか沼が増えてきたな・・・」
春蘭達が追いかけに追いかけてきた場所は、人の気配もしない森の沼地だった。
「あの・・・夏侯惇様。この辺りは、少々マズイのではないでしょうか?」
「・・・む?どこだここは!」
「春蘭さまー!大変ですっ!」
「何だ!」
季衣の全力疾走に春蘭は声を張り上げる。
「敵の姿が消えちゃいました!」
「・・・何?さっきまで目の前を必死に逃げていたではないか!」
「それが、どこに行ったのかさっぱり・・・」
「森の中か、沼の淵にでも消えたか・・・?」
「かもしれませんけど・・・だったらお手上げです。」
季衣は言葉通り、手を上げて困り果てている。
「・・・くっ!探すしかあるまい。百人、千人の人間がいきなり消えるなどあるわけがない!いいな!」
「了解ですっ!」
「あ、春蘭さま!砂煙です!」
「どこだ!・・・あれか?」
春蘭が見つめる先には確かに砂煙が舞っていた。だが、砂煙は自分達の方向に向かってくる。
「まさか潔く腹を据えたとでもあるまいな・・・?」
「あれ・・・?あの旗は・・・?」
季衣が見つけた旗の文字は、
「孫に・・・袁だと・・・!?まずい、季衣!ここは袁術の領土だ!」
旗の文字はまぎれもなく孫家の袁術の旗だった。
「えっと・・・袁術さんって、隣の領地の・・・?」
「・・・くっ!五胡の連中に一杯食わされたか。撤退は・・・」
「無理です!間に合いません!」
その時だった。
「そこの部隊!所属と名を名乗れ!」
長身の女性が、自分達を見つけしまった。
「仕方ない・・・私は夏侯惇!こちらは許緒!陳留州牧、曹孟徳のもとで将軍を務めている者だ!」
「陳留・・・?随分と北ね。遠征お疲れさまと言いたいけれど、ここは陳留の州牧の領地ではないはずよ。そこに軍を率いて踏み込んで・・・どう説明するつもりかしら?」
鋭く睨みつける女性の雰囲気は、思わず逃げ出したくなるくらいだ。
「官軍を助けた後、五胡の追撃でつい深追いしすぎてしまったのだ。貴公らの土地を侵略する意志など毛頭ない。」
「そんな言い訳が通用すると思ってる?」
確かに、自分達が相手と同じ立場だったら、同じことを言うだろう。
「春蘭さまぁ・・・。どうするんですか?」
「正直に言うしか無かろう!・・・とはいえ、急に来たせいもあり、こちらは何も証を持っていない。同行してもらっても構わんから、連中を追わせてくれんだろうか?」
「都合の良いことを言うわねぇ・・・。まずはこちらの問いに答えなさいよ。」
そう、それは相手にとって無理な話。追いかけていたとはいえ、土地に踏み込んだのは事実なのだから。これは覆ることのできない真実。
「むー・・・。何と頭の固いやつだ・・・!すまんが、本当に今は一刻を争うのだ。それに今逃がしてしまえば、貴公らの領土が盗賊どもの侵略を受けるのだぞ!」
「策殿。こちらの準備、整ったぞ。」
馬に乗りながら、弓を携えている女性は告げた。
「・・・あら、思ったより早かったのね。つまんないの。もうちょっとゆっくりしていてもよかったのに。」
「・・・む?」
女性の意味深な発言に春蘭は首を傾げる。
「夏侯惇と言ったかしら?消えた敵部隊がどこにいるか、知りたくない?」
「何・・・?」
「この辺りは沼地が多いから、身を隠すのにはぴったりなのよ。ヘタに追いかけると気づかれて、さらに逃げられちゃうからね。」
「ということは・・・」
「私の領土だったら許しはしないところだけれど、袁術の土地に誰が入ろうが知ったことではないわ。盗賊退治をしてくれるというなら、今日だけは目をつぶってあげる。」
そう、今までのは全部演技だったということだ。
「何・・・?お主が袁術ではなかったのか・・・?」
「・・・ちょっと。冗談にしても笑えないわよ。」
禁句だったのか、目つきがかなり怖い。
「ならば、お主は・・・?」
「我が名は孫策。袁術の客将よ。で、こっちは副官の黄蓋。」
「孫策・・・」
「どうする?夏侯惇殿。」
黄蓋と呼ばれる女性は、春蘭に問う。
「・・・答えるまでもなかろう。任務を果たしたら、すぐに帰られてもらう。それで良いか?」
「ん。なら、道筋はこちらで案内するわ。ついてきなさい。」
「うむ!」
「ふむ・・・。これは予想外だわ。まさか孫策と夏侯惇が協力してこようとは・・・。まあ、いいわ。あらかたの情報は調べさせてもらったことだし。退かせてもらうわ。」
さすがに江東の虎の娘と手を組まれては、分が悪い、そう感じた紅泉は、すぐさま部隊に撤退命令を出し、退いていった。
「・・・とまあ、そういうわけです。」
春蘭の長い話に、華琳はため息一つ。
「・・・呆れた。それで、孫策に借りを作ったまま帰ってきたというの?」
「・・・そこなの?」
もっと他にも呆れる点はあったと思うんだけど・・・?
「当たり前でしょう。で、どうなの?」
「え、ええっと・・・連中の領土に逃げ込んだ五胡の撃退は手伝ったのですから、差し引きで帳尻は・・・」
「合っていないわよ。他国の領土に入る前に五胡を片付けておけば、差し引く必要すらないじゃない。」
「それが・・・私達が突撃した瞬間、もの凄い勢いで逃げられまして・・・。今思えば、あれも連中の策略だったのではないかと。」
「・・・策略?凪、それは本当なの?」
「私に聞けよ!」
「す、すみません、自分は官軍の撤退の支援をしていたもので・・・」
凪に聞いてみたものの、本人はその場にいなかったから、答えようがない。
「なら季衣。」
「聞けってば!」
春蘭は必死に言っているが、まったくのスルー。頑張れ、春蘭。
「ええっと・・・。それまでは都の軍を一方的に攻めていたんですけど・・・ボクと春蘭さまが攻撃を仕掛けたら、ばーって撤退していって・・・」
「春蘭や季衣が相手だったとはいえ、五胡はそれだけの作戦を展開できる指揮官を得たことになる。・・・厄介なことだわ。」
「なぁ・・・それって、マズくないか?五胡がどんどん強くなってるって事だろ?」
先日に糧食の焼き討ちをして以来、五胡の活動は小さくなっていった。けど、それも一時のこと。今日の軍議では連中が焼き討ち以前の兵力をほぼ取り戻している、という調査結果が報告されていた。
「こちらの予想としては折り込み済みの事項だから、驚くことではないけれど・・・。これからは苦戦することになるでしょうね。以後、奴らの相手は気を引き締めるように。特に春蘭と季衣、いいわね!」
「「はっ!」」
「それでは、何か報告すべき意見はある?」
「いえ、春蘭の件で最後です。」
「五胡はこちらの予想以上に成長を続けているわ。官軍はあてにならないけれど・・・私達の民を連中の好きにさせることは許さない。いいわね!」
「分かってます!ぜーんぶ、守るんですよね!」
「そうよ。・・・それでは各員、今まで以上に情報収集と対策を練るように!民達の血も米も、一粒たりとて渡さないこと!以上よ!」
そして、その日の軍議は解散となった。
そんなわけで、俺は凪と一緒に足を棒にして情報収集に勤しんでいた・・・。
「凪は大丈夫か?昨日、南から帰ってきたばかりだろ?」
「大丈夫です。鍛えていますから。」
「真桜も沙和もいるし、あんまり無理するなよ?」
「自分・・・こういう事しか、出来ませんから。」
凪は申し訳なさそうに頭を下げる。そんなことないのになぁ。
「こういう事、なんて言わないの。こういう地道な作業が一番大切なんだよ。凪達のおかげで、華琳達は十二分に動けるんだから。」
「・・・はい。」
この生真面目さ、爪の垢を真桜や沙和に飲ませてやりたいくらいだけどな・・・。
「・・・・・」
「・・・・・」
しばらくの間、沈黙が続く・・・。
「なあ、凪。」
「なんですか?」
「俺、うるさい?」
「いえ、別に気にはしていませんが、どうかしましたか?」
「俺ばっかり喋ってるからさ・・・もしかして、迷惑かなと思って。」
自分としては、そうお喋りな方だとは思わないんだけど・・・。
凪といると、凪が喋らないぶん、どうしても俺が喋るばっかりになるわけで。
「隊長よりも沙和や真桜の方がよく喋りますよ。自分は、喋るのがあまり得意ではないもので・・・聞くのは平気なのですが。」
「あー。あいつらと同じだけ喋るのは、無理だ。」
「ふふ・・・っ。」
そういうと凪は苦笑した。ここだけ見ると歳相応の子なんだけどなぁ・・・。
「今、笑った?」
「はい?」
「いや、今、笑ったなって・・・」
「・・・っ!」
凪はちょっと驚いたように、頬を染めて・・・。
「え、ちょっと、凪さん!?」
で、何でそこで攻撃態勢を・・・?って、なんで振りかぶる・・・っ!
「でええいっ!」
「どわぁぁぁっ!」
放たれた氣弾は、俺の頭を飛び越えて、その後ろの立木を端からなぎ倒しっておい!
「ち、ちょっと!いくら恥ずかしいからって氣弾はないだろっ!」
しかも思いっきり本気だった!恥ずかしいのを紛らわすのに殺されちゃ、いくらなんでもたまんないぞっ!
「違います!敵です!」
「なにっ!」
俺は凪は倒した木々を見てみると、
「あっぶな〜・・・!もうすこしズレてたら大怪我だったよ!」
「・・・・・」
二人の少年が現れた。
「貴様ら、何者だっ!」
「ん?俺? 俺は王湾って言って、こっちが飛鳥、って、こんなことしてる暇はないんだよ!ほら、怪我する前に、早く北郷一刀を渡しな!」
「えっ?俺っ!」
俺なんかもらってなんの意味があるんだよ!と頭の中で意見していると、一人の少年の顔に見覚えを感じた。
「あれ?飛鳥・・・なのか?」
そう呼びかけたその時だった。
「・・・っ!」
突如、飛鳥らしき少年は俺の首に向かって刃を突きかけてきた。いきなりの出来事に・・・何も考えられなかった。
※どうもお米です。なんだか、和んだりシリアスになったりと忙しい展開になってしまってすみません。こんなことするんだったら、統一すればよかったな・・・。さて、一刀の目の前に現れた王湾と飛鳥らしき人物。それは偽者なのか・・・それとも・・・。ということです。さて、それでは次回はこの続きから。ご指摘ご感想お待ちしています。それでは失礼します〜。
説明 | ||
第十六話となります。十五を乗り切ったっていうのは、なんだか感慨深い心情になります。昔というほど経ってないけど、前は大変だったなぁ〜・・・。 | ||
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コメント | ||
>茶々さんコメント&ご指摘有り難うございます!春蘭は相変わらず良い味を出してくれます。(お米) 春蘭と季衣の掛け合いに吹いたw *P2の上官ダレ? 春蘭にしては口調が少しおかしい気がします。(茶々) |
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