mirage −ミラージュ−(13) |
mirage -13-
「起床!!」
クラシックの音楽と共にけたたましく発せられたその声に、私は飛び起きた。
昨日のことは、ぼんやりと覚えている。だが、光に包まれたあとのことは一切覚えていない。
ここはどこだろう・・・
周りの状況を確認する暇もなく、頭上から怒号が浴びせられた。
「麻倉!早く出なさい!!」
「は、はいっ!!」
言われるまま、私は部屋を出た。
廊下に出ると、周りには同い年くらいの女の子がずらりと並んでいた。しかも全員灰色のダサいジャージ。
気づくと、私もそれは例外じゃなかった。
「番号〜!!」
「1」「2」「3」「4」 「あ、えっと・・・5・・・?」
「遅い!!そして声が小さい!!!はじめから!!」
訳が分からないまま、怒られるのが怖いので指示に従う。
周りに話しかけようとしても即座に周りから「私語禁止!!」の声。
座るにしろ、立つにしろ、歩くにしろ、背筋を伸ばしてきびきびと行動しないとすかさず言葉という鉄槌が下る。
まるで刑務所か何かのよう・・・
・・・・・・・・・もしかして・・・・・・・・・
書類を持ち横を通る女性の腕の隙間から、「少年院」という文字が見えた
・・・もしかして・・・
もしかしてここは・・・ 少年院・・・・・・・・?
あの夜見子がなにかやらかしたのだろうか・・・?
そもそもここはどちらの世界なのだろうか・・・
知り合いも、世界の情勢もわからない状態でそれを知るのは困難だった。
何とか、誰かと話ができる時間が作れればいいんだけど・・・
意外にも早く、そのチャンスは訪れた。
「あんた?親友殺しかけたっていう新入り。」
金髪で、腕やら頬やらとにかく体中に刺青をいれた女性が話しかけてきた。
いや、女性というより女の子で、見たところ私より歳は幼く見えた。
生徒会長という役職上でしか相手にしない所謂苦手なタイプである。
曖昧に返事をすると、
「よくやるよねぇ親友メッタ切りなんて。
うちらの世界じゃ暴力なんて当たり前だけど、仲間は大切にするからねぇ」
メッタ切り・・・
少なからず、心当たりがあった。
昨日のあの夜の出来事だ。
「あ、あの、明美は・・・親友は・・・・?」
「息吹き返したってニュースでやってたけど?そんなに心配するなら何であんた殺そうとしたの」
その言葉にいくらかほっとした。
良かった・・・じゃあ向こうの明美も生きてるんだ・・・
ここは、鏡の世界らしい。
私は昨日・・・否、5日前のあの出来事でここに送られたようだ。
その5日間の記憶がないのでここに至るまでどのようなことが行われていたかはわからなかったが・・・
とにかく、鏡から元の世界に戻らなくては・・・
案の定、洗面所にいくと鏡があった。この少年院では洗面所には1人しか入れないためなお好都合だった。
これで元の世界に帰れる・・・!もう厳しい規律に従わなくていい・・・!
喜び勇んで指を鏡に向けたとき、ふと頭の中に言葉が浮かんだ。
「そっちは元の世界に逃げれば無罪放免だけど、こっちは無実の罪で拘留だからね・・・冗談じゃない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
でも、ここは私の世界じゃない。
半ば強引なその言い訳で自分を落ち着かせ、指で鏡に触れる。
かつっ
・・・・・・・・・・・・おかしい。波紋が広がらない
何度試してみても爪が鏡に当たる音が響くばかりで、波紋も光も出てきやしない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・まさか・・・・・・・・・・・
向こうの夜見子に力を封じられた・・・・・・・・・・?
愕然とした
1年間の私の地獄の生活が始まった。
説明 | ||
−指先のほんの一振りで、世界は180度変わることがある。− −これは、鏡の表と裏の、無限の可能性の話− その第13話。 |
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