桂花と一刀 その4 |
――子の時頃。(午前0時頃)
夜でも元気いっぱいなひぐらしの大合唱が流れてくる。
雲は月を隠し、池には物寂しそうな鯉が力なく泳いでいた。
風がざわめく。
木々が揺れる。
今日はより騒音が目立ち、廊下を歩く足音が少しばかりか増えていた。
一刀は、その音などは感じる様子は見受けられなかった。
なにやら、精根尽き果てている様子…。
華琳の罰が相当なものだったようだ。
足元が浮くようにふらふらと自分の敷物で床につこうとしていると
ゴンッ
風でもひぐらしの音でもない鈍い音。
ゴンゴンッ
さすがにこれには一刀も気にとめた。
どうやら外から聞こえてきたらしい。
悪戯…いや、敵襲…苦情か?
などと考えていると、案の定向こうから答えを導いてくれた。
最近やたらと声を聞いていた、鋭く適当に一寸の狂いなく純粋な悪口。
その毒舌を窓を開けた瞬間ぶち込まれた。
悪戯?敵襲?苦情?
…全部当てはまってしまった……。
「遅いわよっ!」
こんな真夜中に呼び出しをしておいてよく言う、なんてことは思わなかった。
いや、もう反論するどころか、反論しようとする言葉を考えることができなかった。
「もうっ。のっくとかいうやつは一回で応答しないといけないとか言うくせに、
今のは―――――――……大体あんたは…って、聞いてんの?」
「…ふぁい。」
途中意識を失っていたようだ。
立ったまま意識を持ってかれるなんて、これは武道を嗜んでいた俺にとっては屈辱だ。
それに変な返答。もう半寝半起状態、朦朧、意気消沈。
「…じゃあ、本題に入るけど。
……一応礼を言おうと思ってあんたを呼びつけたのよ。
別に言うつもりは毛頭ないけど。」
矛盾ですけど。
「ばーか。」
罵倒ですけど。
「……死ね。」
願望ですけど。いや、切望ですか。
「…………北郷。」
「…なんですか。」
「……………………ぁ―――――――。」
聞こえなかった。
周りの雑音なんて聞こえなかった。
耳を失ったのだろうか…。
それとも、ここは夢の世界…。
あの桂花が「ありがとう。」なんて言う筈がない。
ましてや、照れて下を向いて身震いしているなんて。
ほっぺを叩いてみた。一瞬で完全に意識が戻り、目の前に夢の光景が広がっていた。
ここからは、たぶん夢の世界の話であろう。
夢でなければありえない状況が見えているからだ。
「…桂花。」
「……な、なによ。」
相変わらず下を向いたまま顔を上げようとはしない。
「俺も…友達がいたんだ。」
桂花は、俺の意図を瞬時に察し、微々だがようやく目が見えるようにまで顔があがった。
俺は夢ならば何でも言える気がした。
「だけど、この世界に来て、その友達とは会ってない。
もう会えないかもしれない。」
池の鯉がまたすいすいと泳ぎだした。
ひぐらしの大合唱も休憩に入ったようだ。
風はまだ止みそうにはない。
「寂しい…とは思わない。そいつらとの思い出とか何とかはもう心の中に閉まってるから。
それに、またたくさんの思い出を作れるしな。」
桂花を見て、少しだけ首を竦めた。
「はは。何言ってんだろうな俺。
もう遅いし、用も済んだろ?戻ろうぜ。」
俺はまだ下を見ている桂花に向かって催促した。
もうお互いを照らしてくれているのは、月の明かりだけであった。
辛うじて認識できる程度の距離。
だがまた月は雲に隠れてしまった。
一瞬だが、桂花が顔を上げこちらを向いた気がした。
「……気に食わない。」
風が止んだ。
二人を認識するのは最早言葉だけであった。
「どうしてそこまで優しくできるわけ。
私はあんたに何をしたって言うの?
したのは、あんたを突き放す発言とか悪戯とかじゃない。
なのに…庇ったり、気遣ったり…。」
言いたくもない言葉が何かの力によって洪水のように溢れてくる。
「そんなの迷惑なだけっ。私が男嫌いなのは分かってるでしょう?
ならなぜ、かまおうとするの。なぜ、関わろうとするの。なぜ、優しくしようと、するの。
……なんで…。」
雑音は聞こえない。
けど、水のような音だけが聞こえた。
「………なんで…そんな……優しいのよ……」
葛藤。
桂花の心の中で、いくつもの想いが交差している。
何でこの男には自分の素直な気持が言えるのだろう。
嫌いだし、本当は話もしたくないはずなのに。
野蛮で変態。自分の利己心だけで動く、単細胞なやつら(男たち)。
それが、こいつも所属している男というもの。
この世で消えてほしいものダントツ一位である。
けど…こいつは…。
「当たり前だろ?なに野暮なこと聞いてんだよっ。」
「…答えなさいよ…。」
仲間。
無意識にそう感じていた。
ともに過ごしていく過程で自然と備わったもの。
これは感情がどうこういう問題ではない。
丈夫で太い線。
それが、自分では感じないができている。
桂花も、お互いはそうであり、自分も認識していると思っていたため
一刀の答えが「仲間」だと思っていたが、そうではなかった。
「好きな娘限定。それが男ってもんだろ。」
不覚だった。
不意打ちすぎる。
この男が馬鹿だとか、阿呆だとか思う前に、煮えたぎる熱い感情が流れてきた。
頭が沸騰するように熱い。
同時に心臓が圧倒的な速さで動いているため、驚いた。
病気ではなかろうか…。
胸が苦しい…死んでしまうのだろうか…。
という、いかにも乙女チックな思考になるはずもなく
桂花は、気づきたくもなかった感情に気づいてしまった。
だが、この情は表に出すわけはなく平然を保った。
それが今の桂花ができる唯一の抵抗であり、プライドだった。
「…桂花、いないのか?」
一刀が答えたきり返答が返ってこないので、もう寝室に帰ったのだと誤解した。
しばらく考えた後、自分ももう寝ようと思って踵を返そうとしたら
小さな力が服を押した。
「……あんた、華琳様の罰…忘れたわけじゃないでしょうね…。」
お得意の皮肉交じりの言語ではなかった。
「罰?それならさっきようやく終わったところだけど?」
「それじゃない方が…あった…でしょう…。」
声のトーンを下げながら、服を握る強さを強めた。
一刀が聞き返すと、桂花はそれきり何も言わなくなってしまった。
思いだすのに数分かかり、一刀も顔を染めた。
合意を求めたが、言いだしの当の本人が躊躇るのでさらに数分待った。
今や完全に二人の姿は見えている。
「……接吻…じゃない方だよな…。」
最後の確認。
桂花も頭を紙一枚分ぐらい傾けて、返答した。
池には月の姿と黒い二つの影がくっきりと映し出されている。
夢じゃないことは少し前から分かっていた。
だからこそこの現実を感じるために、おもいっきり優しくしてみた。
温もり。それを主に受けながら、少女は夢に落ちていった―――――。
翌日。
少女は、初めての感情と蕁麻疹(じんましん)を手に入れて
少年は、肉体的疲労と精神的疲労、さらには全身打撲を手に入れた。
それをみた君主はこの二人に超ド級の笑顔を見せたという…。
久しぶりです。k,nです。
多忙だったため、まったく続きが投稿できずに申し訳ございませんでした。
いちようこれでこの話は終わりになります。
他のキャラも書いてみようと思っています。
個人的に好きなのは、春蘭、風、明命、思春、たんぽぽ、星、詠です。
とくに風のあのほんわかした行動と、二人きりになった時のあの(ry。
なにかとご迷惑をお掛けするとは思いますが、今後もよろしくお願いします。
それではノシ。
説明 | ||
桂花メインの話です。4話目です。 | ||
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コメント | ||
すごい…。自分は2杯がやっとですww(k.n) 褒め言葉ですw文が足りなくて申し訳なかったですwこんな桂花でもご飯3杯いけますw(miroku) rimさんの言うとおりでした。誤文指摘ありがとうございます。(k.n) mirokuさんありがとうございます。褒め言葉ですよね?すみません知識が薄いんで…。(k.n) 「いちよう」じゃなくて「いちおう」じゃない?(rim) すげぇ悶えましたwww(miroku) |
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