真・恋姫無双 EP.6 偶像編(2) |
わずかに雲が掛かる、月の夜だった。一刀と明命は、李聞(リブン)の屋敷に忍び込み寝静まるのを待つ。本当は一刻も早く乗り込んで天和を助けたいと一刀が主張したのだが、明命に説得されて夜まで待つことになったのである。
「助け出した娘さんのお話を聞き、実は少しだけ裏を取ってあることがあります。李聞という人は、どうしても禁中に務めたいということで自ら去勢し、宦官に志願していました。ただ、帝が変わったことで宦官を取らない方針となり、結局、諦めることになったようです」
「それは男として、少し同情するなあ」
一刀がしみじみ言うと、桂花が睨み付けて言う。
「いやらしい……」
「荀ケはわかってない! いいか、そもそも男と女がだな――」
思わず興奮して熱弁を振るいそうになった一刀を、地和が割り込んで止める。
「もう、一刀ってば! 今はそんなことどうでもいいの! ねえ、明命さん、それじゃお姉ちゃんは変なことされてないかな?」
「貞操に関しては、大丈夫なようです。李聞は自分がそういう体なので、女性にも清らかさを求めるらしく、そういう行為は禁じているらしいので……」
明命の言葉に、地和と人和はホッとしたように安堵の表情を浮かべた。
「李聞の屋敷には、私兵が常駐していますので、夜を待ってから天和さんを助け出すのが安全だと思います。私はそれまでに、色々と李聞について調べておきますので」
「まあ、地和たちのお姉さんを人質に取られたら大変だもんな。わかったよ」
そうした経緯があり、現在に至る。
「そろそろでしょうか」
「うん。行こう」
馴れた様子で明命が窓から屋敷に侵入し、一刀も後に続く。
「昼間確認した限りでは、私兵は全部で50人ほどいます。その中に腕の立つ槍使いがひとりいるようです」
「そっちは俺が引き受けるよ。明命はお姉さんを連れて、先に逃げてくれ」
「わかりました」
二人は真っ暗な廊下を進み、天和が監禁されている部屋に向かう。明命が昼間、外からだったが天和のいる部屋を探しておいたのだ。
「侍女の方がこの部屋に食事を運んでいました。李聞と同じ食事でしたので、私兵や使用人ではないと思います。家族はいないので、恐らく……」
「よし」
ドアを開けると鈴が鳴る仕掛けを明命が外し、解錠してゆっくりと扉を開く。真っ暗だったが、部屋の中程にあるベッドに誰かが座っているのがわかった。
「……だ、誰?」
怯えたような声が、二人に掛けられる。
「えっと、張角さん?」
「うん……あなたは?」
「俺は北郷一刀、こっちは周泰。地和と人和に頼まれて、君を助けに来たんだ」
「ちーちゃんとれんほーちゃんが?」
ベッドに座っていた人物が、こちらに近付いて来た。長い髪に大きなリボンを付けた、ほんわかした雰囲気の女の子である。
「……どこを見ているんですか、一刀様」
「何を言っているんだい、明命くん」
咳払いで誤魔化しつつ、一刀は天和を外に促す。だが、彼女は迷っている様子だった。
「どうしたの?」
「だって、私が逃げたらちーちゃんとれんほーちゃんが……。それに借金を肩代わりしてくれた李聞さんに申し訳ないし……」
「その李聞が、すべての黒幕なんだよ」
「えっ?」
「金貸しも仲間で、すべて仕組まれていたんだ。しかも一度解放した地和と人和も、危うく人さらいの組織に売り飛ばされそうだったんだよ」
「そんな……それじゃ、私のしたことは無駄だったの?」
うなだれる天和に、明命が言う。
「そんなことはありません。張角さんの行動が、こうして李聞の悪事を暴くきっかけになったのです」
「そうだよ。それにさ、大切なものを守ろうとする行動が、無駄なわけはない」
それは、一刀自身が信じている言葉でもあった。
「遠回りしているかもって、不安に思うことはある。それでもいつか、必ず報われる時が来るって、俺は信じたい」
真剣に語りかける一刀の言葉に、天和の肩の力が抜けた。
「うん……そう、だよね」
「よし! 逃げるぞ!」
一刀は天和に手を引き、走り出す。
少しドキドキして、天和を頬を赤く染めた。
入口に見張りの姿があった。さすがに天和を連れたままでは、壁を乗り越えるのは難しい。
「見張りは俺が引きつける。その間に明命、彼女を頼む」
「わかりました」
「気をつけてね、一刀」
大きく頷いた一刀は、懐から何かを取り出した。
「この時のために昼間、出店で買ったんだ」
そう言って一刀は、蝶を模した仮面を装着する。そして「どや顔」で親指を立てると、見張りたちの前に飛び出して行った。
「何だ!?」
不審者の登場に、詰め所のようなところからぞろぞろと屈強な男たちが現れた。あっという間に、一刀は囲まれてしまう。
「何だ、お前は!」
「どこから入って来たんだ?」
騒ぐ男たちの背後で、明命と天和がそっと外に逃げ出すのを一刀は視界の端に捉えた。どうやら、うまく脱出できたようだ。
一刀は自分を取り囲む男たちを見回して、声を張り上げた。
「悪を断じて正義を貫く。弱き者の味方、華蝶仮面! ここに見参!」
言葉に合わせ、ビシッとポーズを決める。男たちがざわめいた。
「華蝶仮面だって!」
「何者なんだ?」
「まるで荒ぶる鷹のような姿だ!」
警戒して武器を構える男たちに対抗し、一刀も仕方なく武器を抜く。心の中で念じると、黒光りする刀身が伸びた。
うっふぅぅぅぅぅん!
むっふぅぅぅぅぅん!
振るたびに聞こえる奇声に、男たちは恐怖に震えた。
「呪いだ!」
「呪いの剣だ!」
そんな男たちに、一刀は叫ぶ。
「この剣で斬られた者――特に男は、大切な何かを失うことになるぞ! それでもいいやつだけ、かかって来るがいい!」
悲鳴が辺りを包んだ。
「抽象的だぞ!」
「何を失うんだ!」
「でも確かに、あの剣で斬られるのは嫌だ!」
それでも勇敢な何人かが、一刀に襲いかかる。向かってくる敵には容赦はしない。一刀の持つ貂蝉と卑弥呼の変化した剣は、殺傷能力がないのだ。だから一刀も安心して、振り回せるのである。
しかしこの剣で斬られた者は、精気を吸い取られ、しばらく動くことが出来なくなるという。中には悪夢にうなされ、「アーッ!」という悲痛な叫びが夜に木霊するとかしないとか……。
彼女の体に、衝撃が走る。これこそ運命の出会いなのかも知れない、そんな気がしてならなかった。
もともとこの屋敷には、李聞の悪事の証拠を集めるために、傭兵として雇われたのである。彼女もまた、李聞の悪事を嗅ぎつけた一人だったのだ。
捕まっていた女性も、時を見て助けるつもりだった。しかし、それは侵入者によって先を越されてしまったようだ。それならそれでいい。
「今はそれよりも……」
初めて見た瞬間から、心が奪われていた。
「何という美しさ、可憐さ。そして何よりも、正義の血がたぎる響き!」
彼こそが、探し続けて来た仕えるべき主なのではないか。見れば、なかなかの武を持っているようだ。
「いや、今はまだダメだ。私には足らないものがある……そう、あの気高き仮面が!」
じっとなどしていられない。すぐにでも、自分も仮面を手に入れるのだ。そしていつか、彼の隣に立ち颯爽と登場するのである。妄想は膨らんだ。
「華蝶仮面……」
甘美な響きに、心が震えた。槍を手に、彼女は戦闘が続く屋敷に背を向ける。
「いつかまた、会いましょう。この趙雲、華蝶連者の一員として生まれ変わって来ます」
清々しい笑顔を残し、彼女は夜の闇に消えた。一刀はまさか、自分の思いつきの行動が一人の女性の運命を決めていたとは、知る由もなかったのである。
説明 | ||
恋姫の世界観をファンタジー風にしました。 天和救出作戦、そして一人の女性が修羅の道へ。 楽しんでもらえれば、幸いです。 |
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コメント | ||
誕生させてはいけない物を自分の手で誕生させたんですね一刀は(VVV計画の被験者) 大切ななにかを無くさせる剣 wwwwwww(暇人28号) 一刀wお前が元々の元凶だったのか!!(サイト) まさか、華蝶仮面誕生の裏側にはこんな因縁があったんですねwww一刀よ、なんと罪な。(gmail) ちょ!、一刀が華蝶仮面一号ですか!?、でもコレで元2号の役目はなくなりますね(sink6) |
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