あいつの瞳に映るもの2
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英里香と別れてから体調が良くない。

月曜日にはましになっていたもののそれでもまだ気分が良くない。

朝早くに起こされて、つまらない学校へ行かなければならないという憂鬱。

それを差し引いても、やっぱり気分はよくない。

 

そこに追い討ちをかけるように、いつもの騒々しいあいつの声が響く。

 

「翔!早くしないと遅刻するよ!」

 

近所の家で鳴り響いている目覚し時計のように鬱陶しい。

止めたくても止められない。

唯一止める方法があるとすれば、

すっかり支度を整えて家を出ることくらいか。

 

おかげで俺は遅刻をすることさえできない。

 

「ネクタイ曲がってるよ、だらしない!」

 

いつも時間のない朝だけれど、今日は鏡を見る時間さえなかった。

頭がぼうっとして、睡魔を追い払うのに時間がかかったせいだ。

 

「寝癖!それくらいちゃんと直してきなさい!」

 

言いながらも、鞄から自分のくしをとりだして俺の髪をすいてくれる。

 

「いいよ、そんなの」

 

俺は幸の腕を払いのけた。

 

俺の気分はだるくて沈んでいるというのに、幸は嫌がらせのように騒々しい。

 

鬱陶しい。

 

静かになればいいのに、と思った。

 

一日が経っても、ぼんやりとしている俺の頭の中には、

英里香との甘美な一時の余韻がまだ残っている。

でもそれもこいつのせいでぶち壊しだ。

 

たちまち現実に引き戻される。

 

それがなおさら俺を苛立たせる。

 

英里香さんの百分の一の魅力も色気も持ち合わせていない、

 

乳臭いガキだ。

 

毎朝毎朝家の前でわめきやがって迷惑きわまりない。

こういう奴をストーカーと称するのがもっとも相応しいと思うのだが、

世間一般では幼なじみという表現で誤魔化されてしまうらしい。

 

「その傷、どうしたの?」

 

じろじろと俺の顔を見ていた幸が、何かに気づいたらしい。

 

「傷?どこ?」

 

傷、そんなものが最近体にできただろうかと思い返してみたけれど、

思い当たるふしはない。

 

「首のところ」

 

俺は探るように自分の首に手を当てた。

 

「首?」

 

「左側」

 

言われるままに、首の左側を四本の指の腹で撫でてみた。

 

「そこ」

 

瞬間、脳裏に英里香に口づけをされた夜の記憶が鮮明に浮かんだ。

もっとも、彼女に吸いつかれた瞬間の記憶でしかなかったけれど。

 

幸の言うそこは、確かに英里香の唇が触れた場所。

 

「虫にでも刺されたのかな?」

 

ぽつりと呟くように幸が言った。

 

あの時の痕が今も残っているとは思いもしなかった。

所謂キスマークとでもいうやつなのだろうか。

それを虫刺されと見間違うとは、何と幼稚なのかと笑いがこみ上げてくる。

それもしかたのないことか、どうせこいつはそんな経験なんてあるはずもないのだろうから。

 

「何笑ってるのよ?」

 

怪訝そうに幸が言った。

 

「そう言えば、土曜日の夜電話したんだけどつながらなかったよ……。

何してたの?ひょっとしてまだデート中だった……?」

 

「デート中だと思うなら電話かけてくるなよ、馬鹿。少しは気をつかえ」

 

何をしていたか、か。

それは俺の人生始まって以来、最高に幸せで、甘美で、

そして至高の快感を味わうことのできた時間。

 

けれども、それをわざわざこいつに教えてやる必要もない。

喋ったら感動が薄れてしまいそうな気さえする。

 

「お前には関係ないだろ!」

 

幸には、そう言ってやれば十分だ。

 

「どうして教えてくれないのよ!」

 

それは俺のプライバシーだからだ。

 

「早くしないと、遅刻するんじゃなかったのか?」

 

とりあえず、そろそろ俺の家の前から動き出した方が良さそうだった。

 

そうして、いつも通りの何の変哲もない日常が始まるはずだった。

ところが今日は少しばかりいつもと違った。

やっぱりおかしい。俺の体調だ。

 

一時間目から体育とは、ますますだるいのだけれど、

そのだるさが尋常ではない。

と、言うか危機的状況だった。

 

ウォーミングアップでたかだかグラウンド一周した程度だというのに、足がおぼつかない。

頭がくらくらする。これが目眩というやつなのか。

目の前が真っ白になっていく……。

いよいよやばいなと思うやいなや、俺は倒れたらしい。

回りの連中は驚いていたのだろうか。

慌てて何人か駆け寄ってきていたような気がするけれど、

その辺りで俺の意識は途切れた。

 

目が覚めたとき、俺は保健室にいた。

病院のベッドで目を覚まさなかったということは、

大した症状でなかったということなのだろう。

 

こういう時、普通なら一人ベッドで

静かに寝かされているものだとばかり俺は思っていた。

ところが、俺が目を開けた時、見慣れた顔がすぐ目の前にあった。

俺の顔に何か悪戯でもしていやがったのだろうか。それくらいすぐ目の前だった。

 

「何やってるんだよ、お前」

 

それは、いつも俺にストーカー気味の女だった。

俺が目覚めたことに気づくと、顔を離し、ベッドの側の椅子に座り直した。

 

「何って……、翔が倒れたって聞いたから見にきてあげたんでしょ?」

 

「見にきたって、お前顔近すぎだよ。

もっと離れて見ろよ、百メートルくらいさ、気持ち悪いんだよ。

俺が寝てる隙に変な事したんじゃないだろうな?」

 

「バカ!」

 

言いながら、布団の上から俺の腹を殴りやがった。

この時は手加減していたんだろう。痛くはなかった。

 

「センセー!助けてください!おかしなやつが忍び込んで変な事をしやがるんですー!」

 

そう叫んでみた。迂闊だった。

それが幸を逆上させることになってしまったらしい。

 

ぎゅっと握られた幸の拳。

それが俺の腹の上に、もう一度振り降ろされた。

それは、金属製のベッドがぎしっと音を立ててきしむ程だった。

圧迫され、押し出された空気。

それが俺の喉を震わせ、口から吐き出された。

鈍いうめき声、というやつだ。

 

「早川くん、気がついたの?」

 

少しカーテンを開けて顔をのぞかせたのがこの保健室の先生。

 

「もう少しで再び眠らされるところでしたけれど……」

 

二度目は手加減を全くしやがらなかったらしい。

冗談じゃなく本当に苦しかった。

 

「美島さんは休み時間になるたびに心配して様子を見にきてくれていたのに、

酷いこと言うからでしょ?」

 

休み時間になる度に?

と言うことは、俺はそれだけ長い間眠っていたのだろうか。

そう思って時計を探してみたけれど、

回りをカーテンで囲まれたベッドの上からでは見えなかった。

 

「もうお昼休みよ」

 

先生が言った。

 

「お弁当、持ってきてあげたんだからね」

 

ちらりと幸がベッドの横の台に目をやった。

 

そこには確かに俺の弁当が置かれていた。

どういう訳かもう一つあった弁当、

それはきっと幸の分なのだろうと理解した。

 

「なんでお前のもあるんだよ?」

 

「翔一人で食べるんじゃ寂しいと思って、一緒に食べてあげるためよ」

 

「いいよ、別にお前の顔を見ながら食ったってうまくなるわけじゃないんだからさ」

 

「せっかくお見舞いにきてくれたんだからお昼くらい一緒に食べればいいでしょ?

それに一人でいるときにまた気分が悪くなったら大変じゃない。

じゃあ、先生もお昼食べてくるから、ごゆっくり」

 

そう言い残して先生は保健室から出ていった。

 

ひょっとして、二人きりにしようなどと、

余計な気を回されてしまったのだろうか。

だとすれば、勘違いも甚だしい。

 

先生が保健室を出ていくと、幸は俺の返事も聞かないうちにいそいそと弁当を広げ始めやがった。

何やら嬉しそうな顔をしている。そんなに弁当の時間が待ち遠しかったのだろうか。

さぞかし腹を減らしているのだろう。

俺も弁当のおかずを横取りされないように気を付けねばなるまい。

 

「はい、これあげる」

 

そう言って幸は自分の弁当箱から何かを俺に差し出した。

 

「なんだ、これ?」

 

一見したところ幸の嫌いなものではなさそうだ。

ウィンナーが何か不細工な形に切り刻まれたもののように見える。

 

「翔、好きでしょ?ウィンナー」

 

「それ、お前が作ったのか?相変わらず歪な形してるなぁ。食欲がなくなりそうだ。

一体何を作ろうとしたんだ、それ」

 

「……カニ……のつもりだったんだけど……」

 

「カニか、そうか。俺はてっきり丸焼にした豚のはらわたを引きちぎって持ってきたのかと思ったよ」

 

高校生になってから幸は自分で弁当を作るようになったようだが、成長しているようには見えない。

毎朝貴重な睡眠時間を削って無駄な事をしているものだと俺は呆れる。

 

「翔……やっぱりこんなの食べられない?」

 

幸はウィンナーをつまんだ箸を俺の口の前に差し出したまま、落ち込んだ顔をして言った。

 

「食うよ。食うから弁当の上に置けよ。

子供じゃないんだからお前に食べさせてもらわなくても食えるよ」

 

俺がそれを口に運んでも幸の表情は曇ったままだ。

何が気に入らないのか、面倒臭いやつだ。

 

「美味いよ。焦げてないしな。お前にしては上出来じゃないか」

 

買ってきたウィンナーくらい誰にでも美味く焼けるようにできているはずなのだから、

まずく作る方が難しい。

だがそんな当たり前のことを言ってやるだけで機嫌が戻るのだから単純なやつだ。

 

「今度はハンバーグを作ってきてあげるね」

 

作るとは言っても、どうせ冷凍食品を解凍するだけだろうに。

 

「それにしても、翔のその首の傷、やっぱり変じゃない?」

 

俺が寝ている隙に何をしていたのかと思ったら、

じっくりとそれを観察していやがったらしい。

 

「そうか?」

 

朝、幸に指摘された痕を俺はまだ自分の目で確認していない。

だから変だといわれたところで、本当にそうなのか俺にはわからない。

 

「やっぱり何かに噛まれたんじゃないの?

虫刺されって言うんじゃなくって、

噛みつかれたって感じ?」

 

幸は自分の鞄から小さな手鏡を取り出し、開いて俺に手渡した。

 

「ほら」

 

促されるまま、俺も自分で首元を確認してみた。

 

キスマーク、それがどんなものなのか俺も知っているわけではない。

吸いつかれたときにできるものなのだろうか。

けれど、俺の首につけられた痕は決してそのようなものには見えなかった。

 

虫刺され、それも少し違う。

同じような傷が四箇所、すぐ近くにまとまってできていた。

 

「もしかして、吸血鬼とか?」

 

幸のその表現がまさにぴったりだと思った。

もしも、牙を生やした何かに噛みつかれたとしたら、

こんな傷ができるのかもしれない。

まさにそう思えるような傷跡だった。

 

「ひょっとして……」

 

「何馬鹿なこと言ってるんだよ。そんなわけないだろう」

 

幸が言いたいことは聞かなくてもわかる。大方英里香が吸血鬼だと言うつもりなのだろう。

ひょっとしたら例の事件の犯人も英里香ではないのかと言い出すつもりなのかもしれない。

 

馬鹿馬鹿しい。そんなことがあるはずはない。首の痕なんてただの偶然だ。

そうでなければ俺は今頃干からびた死体になって部屋で発見されているはずだろう?

 

「翔。土曜日はどうだった?火星の土地でも買わされたか?」

 

突然、智也の声が保健室に割って入ってきた。

 

ベッドを囲うように閉められたカーテンを幸が開けると、そこに声の主がいた。

 

「お前、いつからそこにいたんだよ。びっくりするじゃないか。立ち聞きでもしてたのか?

趣味が悪いなぁ」

 

「びっくりしたのは俺の方だぞ。

保健室で二人きりだって言うから、何か面白いことでも始めるんじゃないかと思って、

気をつかって静かにしていてやったのに、いつまでたっても何もおこりゃしないんだからなぁ」

 

「べ、べ別に何もしてないよ!」

 

幸は顔を真っ赤にして力いっぱい否定した。

 

そりゃそうだ。正常な男である俺がこんなぺたん娘に何かをするはずがない。

 

「要するに智也は盗み聞きをしていたってわけか?」

 

「それは違うぞ。お前たちが取り込み中のところに、

誰かが間違って入ってこないように見張っていてやるつもりでいたんじゃないか」

 

「そうかい。それじゃあ智也がどこぞのぺたん娘と取り込み中になるときは言ってくれ。

俺が見張っていてやるから。それで、智也は何をしにきたんだ?」

 

「何って、見舞いに決まってるだろう?

親友の大切な唇が、眠っている隙に何者かに奪われたりしないか心配だったんだぜ。

なぁ、美島さん」

 

「べっ……そ、そんなことしてないもん!」

 

何の話をしているのか知らないが、幸は珍しく慌てているように見える。

 

この二人は俺の知らないところで何か悪巧みでも考えていやがったのだろうか。

目の前でこうも堂々と秘密の会話をされると不愉快きわまりない。

 

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幸の言っていた傷も、数日もすれば目立たなくなり、消えようとしていた。

それと共に俺の体調もすっかりと戻った。

あの日俺が倒れてしまったのは、たまたま調子が悪かっただけだろうと思い込み始めていた。

 

約束通り、英里香は俺を家に招待してくれた。

 

「ねぇ、いつ来るの?明日?」

 

なんてせっかちな事を言ってくれるおかげで、俺はなんの気兼ねをすることもなかった。

 

英里香は一人暮しらしい。そこに男を連れ込もうというのだ。それも積極的に誘って。

俺は健全な年頃の男の子に相応しい妄想と期待を胸いっぱいに抱いていたわけだ。

ところが、英里香は現実はそんなに甘くはないのだということを教えてくれた。

 

英里香は駅まで迎えにきてくれた。そこから車で英里香の家に向かう。

 

高級なマンションだった。それは遠くからみても一目瞭然で、塔のように高くそびえ立っている。

土地の高い都会じゃあるまいし、田舎にはそぐわない高さではあるが、

最上階はさぞかし眺めがいいんだろうと思った。

 

車は地下の駐車場に滑り込んでいった。

灰色のコンクリートの壁だけれど、照明が明々と照らしていて、

防犯カメラの影がそこかしこにみられる。

さぞかしセキュリティがいいのだろうが、

貧乏人感覚としては電気代がどれくらいかかっているのかと不安になってしまうところだ。

 

駐車スペースも無駄に広い。ドアを全開にしても隣の車にかすりもしない。なんという無駄か!

エレベーターホールにはエレベーターが六個もあった。

どこかの巨大なオフィスビルかホテルじゃないかと思ってしまう程だ。

 

英里香はその中で、最上階に止まるエレベーターのボタンを押した。

上質なエレベーターはがたがたと無駄な振動を発することもなく、

静かに滑るように数十階を一気に駆け登った。

 

「ここだよ」

英里香が降りるように促す。

まさかとは思ったが、最上階だった。

 

今更ながら英里香はお金持ちだったのだと認識した。

いや、英里香の車を見たときから薄々そうじゃないかとは思っていたが、

俺の想像を上回るお金持ちらしい。

 

英里香の部屋は廊下の突き当たりにある角部屋らしい。

さぞかし良い眺めの部屋なんだろうなぁ、などと思うよりも先に、

生まれて初めて足を踏み入れる独身女性の部屋というものに興奮していた。

 

ドアを開けると自動で玄関の灯りが付いた。そして照らし出された光景に愕然とした。

確かに広い玄関ではあるのだが、それを感じさせないほどところ狭しと大量の靴が散乱している。

クリーニングから戻ってきてそのまま放置されていると思しき服の山、

買ったときはさぞかし高級そうなオーラを放っていたであろう鞄たちが、

隅の方に乱雑に積み上げられている。

 

「入って」

 

と言われても、足元に細心の注意を払わなければ進めないような有様だ。

とんでもなく高価なものがどこかに埋もれていそうで、うっかり踏んづけて壊したら大変だ。

 

英里香は慣れた様子で、廊下を塞ぐ物を跳ねるように華麗に躱して奥へと消えていった。

 

女の子の部屋ってのはもっときれいに片付いていて、

なんか可愛い物でもあって、良い匂いがするのかと思っていたがそれは幻想だったらしい。

俺のいたいけな夢は粉々に壊れた。

 

遅れてリビングにようやくたどり着くと、

英里香はフローリングの床の上に辛うじて空いたスペースに座っていた。

広いはずの部屋なのに全然そんな感じがしないのは、それだけ物が氾濫しているからだろう。

 

せっかくの大きくて高級そうなソファは、主を差し置いて服が占拠している。

 

「早速始めてくれちゃっていいわよ」

 

と英里香は呆然と立ち尽くしている俺に向かっていった。

だが俺にはなんの事だかさっぱりと理解できなかった。

 

「始めるって……何を?」

 

「掃除とか、洗濯とかに決まってるでしょ?

掃除機はたぶん玄関の収納のどこかにしまったような気がするんだけど、探してみて。

洗濯機は浴室のところにあるからね」

 

そう言い終わると、英里香はリモコンで巨大なテレビのスイッチをいれた。

 

そうか、そういうことか。そりゃそうだよなぁ……俺はがっくりとした。

 

女性が男を家に呼ぶということはそれなりに重大な意味があるはずだと、

俺は大きな希望と妄想を抱いていたのだが、完全に当てが外れた。

英里香には重大な意味のあることなのだが、俺にはなんのメリットもない。

 

でも、これは英里香にアピールできるチャンスなのだと考えることにした。

掃除という理由で頻繁に英里香の家に通えるなら、それも悪いことではない。

いつかチャンスが巡ってくるんじゃないかとの期待を胸に、俺は掃除を始めることにした。

 

「あ、その前に冷蔵庫の中にあるボールを持ってきて」

 

言われて俺は冷蔵庫の扉を開けた。そしてまた驚いた。

 

大きな冷蔵庫の中はすっきりと整理されていた。

と、いうよりも物が異様に少なかったのだ。大きなボールが二つ。

それ以外は大量の野菜ジュースの小さなパックしか見当たらなかった。

食糧らしい食糧の姿がどこにも見当たらない。

英里香は一体何を食べているのか疑問が湧いてくるってものだ。

 

「ボールってどっち?二つあるけど」

 

「どっちでもいいよ」

 

言われて俺はボールを覗き込んでみた。

元は液体だったと思しき白い物がボールの半分くらいまで満たされていて、

それがすっかりと固まっている。

もう一方のボールは同じく黒い個体だった。

 

俺はとりあえず白い方を取り出して鼻に近づけてみたけれど、

匂いが少なく判別することはできなかった。

ひょっとしたら、忘れら去られた古代の食物が長い長い時間をかけて

バクテリアとコラボレーションした結果、

超進化を遂げた禁断の物体ではないかと思うと少し気味が悪くなった。

 

「なに……これ?」

 

「チョコレートよ。レンジで温めてから持ってきて」

 

なるほど。ホワイトチョコレートか。言われてみればそんな気がしなくもない。

 

これがまともなキッチンに置かれていたものならすぐにそうと気づいたかもしれないが、

この英里香の部屋でそれに気づくのは難しい。

 

だが料理をする様子もないのに、なぜチョコレートがこんな形で保管されていたのか、

そしてなぜそれを電子レンジで温めるのか疑問ではあったが、

俺は口答えをせずに大人しくレンジのボタンを押した。

 

「はい」

 

床に座っている英里香に渡すと、英里香は子供のように顔をほころばせて喜んだ。

テレビの方に視線を戻すと、

英里香は足の間でボールを抱えるようにし早速指を突っ込んで掬いあげ、

それを自分の口に咥えておいしそうにしゃぶった。

 

俺はその予想外の行動に視線が釘付けになってしばらく動けなかった。

同じ事を小さな子供がやっているなら可愛いものなのだが、

二十七歳にもなった恥らいも謹みもあるはずの大人の女性がやっていると異様な光景でしかない。

 

どうしてチョコレートをそんな食べ方をするのかという疑問はあるが、

そんなことはこの際どうでも良い。

せめてスプーンくらい使えばいいのに、と思いながら英里香が舐めつづける様を見つめていた。

人はそれを呆れるだとか落胆だとか表現するのかもしれない。

 

英里香は俺の視線に気づいたらしい。

 

「どうしたの?」

 

と不思議そうに俺に顔を向ける。

 

「英里香は……チョコレート好きなんだ……」

 

「まあね。翔も食べる?」

 

英里香はチョコレートの付いた人差指を俺の顔の前に差し出した。

こんな形で食べ物を進められたのはもちろん初めての事であるからして、俺は戸惑った。

別にチョコレートがそれほど好きなわけではないのだが、

英里香の手で、さっきまで英里香が舐めていた指で食べさせてもらえるなら、

間違いなく大好物になる。

だが俺が舐めていいものなのかどうか……。

 

悩んでいると英里香は指を俺の頬に擦り付け、

なぞるように唇を伝い反対側の頬へとチョコレートをなすりつけた。

 

「食べたそうな顔してるよ?」

 

それでも決心が付かずにいると、英里香は少し声の調子をきつくした。

 

「口を開けなさい」

 

言われるまま少し開くと、そこに指が押し込まれた。

閉じることも拒むこともできずにいると、舌の上にチョコレートが滴ったのか甘みが広がった。

 

「舐めなさい」

 

おそるおそる、舌で英里香の指をつついた。

最初は触れるか触れないかというくらいそっと。

それから少しずつ少しずつ指からチョコレートを剥すように舌を這わす。

 

でも英里香はそれがじれったかったのだろうか。

指を付け根まで一気に押し込んだ。

喉の奥を刺激されて、

思わず吐き出しそうになると英里香は中指と親指で強く俺の顔を挟み付けて抜こうとはしなかった。

 

「おいしいでしょ?」

 

うっすらと笑みを浮かべたその顔は、苦しんでいる俺を見て楽しんでいるよう。

まるで口を犯されているかのような錯覚を覚える程だった。

 

チョコレートの味もだいぶ薄らいだというのに、英里香の指は俺の口を蹂躙する。

舌の上を、裏を、歯を、歯茎を、それから口の上をくすぐるように動きまわったあと、

ようやく抜いてくれた。

 

指はチョコレートの変わりに俺のよだれがべったりと付いていたが、

英里香は気にする様子もなくそれを二度自分の口に運んだ。

 

「おいしかったでしょ?」

 

俺は状況が理解できずどう反応していいものかもわからなかった。

だが、反射的にこくりとうなずいていた。

 

「じゃあ、掃除も頑張ってね」

 

俺は頭の中をすっかりと掻き回されて冷静な思考ができなくなっていた。

立ち上がるとぼうっとしながら部屋の片付けをしていた。

 

家の中はどの部屋も散らかり放題だったが、片付けるうちに英里香の生活が見えてきた。

やっぱり間違いなくお金持ちだろうと思った。

 

締め切られたカーテンをちらりとめくってのぞいた景色はまさに絶景であった。

周りには高いビルもなく、まるで下界の庶民共を見下ろすような眺めだ。

 

洗濯は苦手らしく、

洗濯機はあるものの埃がかぶっていていつ最後に使用したのかわらないような有様だった。

代わりにクリーニングを頻繁に利用しているらしい。

服を包んでいたと思しき袋があちこちに散乱していた。

それでもまだ部屋には服が散らかっている。

一度は着たのかあるいは引っ張り出したまま放置されているのかは定かではない。

ただ相当の期間放置されているらしく、

どの服も顔をうずめてみたところで英里香のかぐわしい匂いはしなかった。

とりあえず全部まとめて洗濯することにした。

女の子の脱ぎたて下着などというとかなりのレアアイテムであるらしいのだが、

さすがに長時間放置されたであろうものにはなんの魅力も感じない。

ただ、ブラジャーの大きさには迫力があり、俺の脳にしっかりと刻み込まれるインパクトがあった。

 

台所も同じく埃がうっすらと溜っていた。

どうやら料理どころか洗い物さえする習慣はないらしい。

というよりも空になった例の野菜ジュースのパックが大量に捨てられていた以外に

食べ物のごみが見当たらなかった。

コンビニ弁当とか、そんなものの痕跡さえ見当たらない。

ただあれだけの美貌を保っているのだからそれなりにバランスよく栄養を摂取しているのだろう。

 

俺が健気に掃除をしたおかげで、ようやく俺の理想とする女の子の部屋に少しは近づいた。

 

「こんなにいっぱいゴミが出たんだね」

 

英里香は人事のように感心している。

それはそれだけ英里香が掃除を怠っていた証でもあるはずなのだが一向に気にする様子はない。

 

「じゃあ今度捨てにきてね」

 

俺は一瞬自分の耳を疑ったさ。まさかわざわざ俺にゴミを捨てるためだけに来いって言ったのか?

 

「でも……そんなに重くないし、ゴミの日に捨てるだけじゃないの……?」

 

「翔、その冗談面白くないわよ?私の手はこんな汚いゴミを持つためにあるんじゃないのよ?

大体、私がゴミに触れるなんてことが許されると思ってるの?

その辺のどっちがゴミだかわからないような不細工とは違うのよ?」

 

まるで冗談のようなセリフだが、英里香の顔はまったく冗談を言っているように見えなかった。

 

美しくておられる英里香さまは昔から馬鹿な男共によって、

それはそれはお姫様のように大切に扱われていたのだろう。

だが英里香は男を馬鹿にさせる魅力を持っている。

惜しげもなく垂れ流している。

だから俺はこういうしかなかった。

 

「わかりました」

 

「そう、翔はいい子ね。じゃあ御褒美をあげるわ」

 

そう言って小さな小瓶を渡された。

 

くたびれた企業戦士という名の資本主義の奴隷が残り僅かな体力を完全に絞り出し、

主のために命が尽きるまで働く誓いの証として口にするといわれている、

あの栄養ドリンクとか言う一見体に良さそうな名前とは裏腹に実は悪魔の飲物である、

と俺は思っているそれが入っているに似つかわしい小瓶だった。

 

「何……これ……」

 

「翔はまだこういうの飲んだことない?まぁ子供に必要ないものかもしれないわね」

 

「英里香、俺思うんだけどさ。ちゃんとご飯食べてる?

こんなのに頼ってちゃダメだよ?

若いうちは乱れた食生活でも無茶ができたかもしれないけど、

英里香の年だったらそろそろこういう生活からは卒業した方がいいんじゃないの?」

 

英里香は答える代わりに平手で俺の頬を激しくぶった。

 

予想外の強い衝撃に、俺の体は飛ばされて床の上に崩れ落ちてしまった。

 

「野菜と糖分さえ取っておいたらなんとかなるのよ。私はまだまだ若いんだから。

きっと翔は勘違いしちゃってるのよ。周りにはいつも乳臭い小娘しかいないんでしょ?

あれは若いんじゃなくてガキっていうのよ。

若さっていうのは成熟しきっていながらも瑞々しさを保っている状態の事をいうの。

わかる?」

 

英里香は俺の顎を掴み強引に顔を上に向ける。

そうして見つめる英里香の瞳の奥には怒りの炎が見えた。

英里香は年齢の話題に非常に敏感に反応するらしいということを俺は身を持って学んだ。

 

「よくわかりました」

 

すると英里香の表情は元通りの穏やかなものへと変わった。

 

「でも……ご飯はちゃんと食べた方がいいんじゃないのかな?……俺で良かったら作るよ?」

 

「だから、言ったでしょ?私は何を食べても味がわからないって。

甘いものは別だけどね。だから翔は掃除と洗濯だけしてくれればいいのよ」

 

そうか、英里香はこれからも掃除と洗濯を自分でするつもりはないらしい。

 

「さぁ、早く飲みなさい。そしたら気持ちいいことしてあげるから」

 

俺はその言葉を聞いて、すっかりと諦めていた希望と欲望を思い出した。

そいつは爆発するように俺の中で膨らんでいった。

瓶の蓋をねじり飛ばすと、手を腰に当て、瓶を大きく煽って一気に流し込んだ。

 

「いい子ね。じゃあ御褒美」

 

近づいてくる英里香の顔。それはまたしてもすぐ近くで逸れて、俺の首に埋められた。

温かい舌が触れるとすぐに快感に襲われた。

強い光を浴びたかのように、一瞬で目の前が真っ白になる。

体中が硬直し、俺の意志に反して情けない声が口から止めどなく溢れる。

その声を抑えようなどという理性も一瞬で霧散した。

頭の中が気持ちいい感覚だけでいっぱいになり始めると、

体中の力が抜けて俺は崩れ落ちそうになった。

体を支えつづけようという意識さえ快楽にかき消されたらしい。

それでも英里香は俺の体を抱くように支えたまま唇を離さなかったようだ。

俺の記憶はその辺りでなくなった。

 

目を覚ましたあともしばらくは夢の中を漂っているかのような心地よい余韻が抜けず、

脳がストライキをしていた。

そんな状態では一人で家まで帰れるはずもなく、日が暮れた頃に英里香が車で送ってくれた。

 

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英里香は相当にだらしがないらしく、一週間もしないうちに部屋が散らかる。

どうやら掃除というものをしないらしい。

あるいは俺をあてにして自分でやらなくなっただけなのかもしれない。

 

二度目に英里香の部屋を訪問したときだった。

 

俺は思わず叫んでしまっていた。

情けない。いや、実に情けない。

でも不意を突かれたのだからしかたがない。

 

身を潜めていた奴は、俺に見付かるや否や突然飛びかかってきた。

とっさに後退った俺は足をもつれさせて尻餅を付いた。

それでもなお俺に向かって来る奴から、俺はとっさに頭を抱えて庇った。

 

「翔、どうしたの!」

 

俺の声をききつけた英里香が助けに来てくれたらしい。

しかし英里香も所詮は女だ。

きっと奴の姿を見ただけで悲鳴を上げ、すくみあがってしまうに違いないと侮っていた。

 

見かけに依らず英里香は逞しい女性だった。

 

「またでたのね。ここはお前たちにふさわしい場所じゃないのよ。死になさい!」

 

そう言って、英里香は戦う構えを見せた。

それはまるで二千年の歴史を誇る一子相伝の暗殺拳を彷彿させる。

 

「ほぁちゃぁ!」

 

英里香の拳は奴をとらえた。奴は激しく体を壁に打ち付け、はらわたをぶちまけて染みと化した。

 

「翔も情けないわね。女の子みたいな声出しちゃって」

 

英里香は壁に身を寄せ座り込んでいる俺を見下ろすようにしていった。

 

「だって……急にあんなのが飛び出してくるなんて思わなかったから……」

 

「何言ってるのよ。人間の歴史はゴキブリとの戦いの歴史でもあるのよ」

 

でもそれを素手で仕留めるとは思わなかった。

確かに百年ほど生きた人生の達人であるなら、

中にはそんな芸当をやってのける偉人も現れるようだが、

英里香がそれを会得しているとは外見からは想像もできなかった。

 

「私だってね、もう小娘じゃないのよ」

 

俺もあと十二年ほど生きれば、そんなことが言えるようになるのだろうか。

 

「あれ、きれいに片付けておいてね」

 

そう言い残して英里香は何事もなかったかのように戻っていった。

 

俺は見たくもないというのに、無惨に飛び散ったゴキブリの残骸を始末する羽目になってしまった。

せめてもう少し綺麗に退治してくれればいいものを、何も破裂させなくてもいいじゃないか。

 

俺が掃除しているおかげで英里香の部屋もずいぶんときれいになったものの、

油断しているとすぐにまた散らかってしまう。

 

あの害虫共を完全に駆除するためにはまず英里香のだらしない生活スタイルを

強制する必要があるように思うのだが、

残念ながら俺にそんな力はない。

迂闊な事を口にすれば、あのゴキブリと同じ目にあわされかねない。

だからこうして俺はまた英里香の部屋の掃除をしている。

 

「翔が来てくれると助かるわ」

 

英里香は満足そうに片付いた部屋を眺めながら言う。

それじゃあまるで俺はただの家政夫みたいじゃないか。

 

「じゃあ、御褒美」

 

今日も栄養ドリンクのような小瓶を渡された。

それを飲み干すと、英里香はまた俺の首筋に口づける。

そして俺の意識はショートしたように一瞬でとんだ。

それは御褒美というにふさわしく、俺の知らなかった喜びを味わわせてくれる。

 

ただ、この日は英里香の調子がいつもよりすこぶるよかったのか、

俺はしばらく目を覚まさなかったらしい。

 

「翔、生きてる?」

 

そんな声とともに静かに体が揺すられる。俺はそれで目を覚ました。

 

「うん……大丈夫」

 

とりあえず答えたものの、相変わらず頭はぼんやりとしていてまだ夢でも見ているような心地だ。

 

「よかった。死んじゃったんじゃないかと思っちゃったわよ」

 

死ぬとは大げさな気もしたが、

快楽の波に呑まれて溺れ死ぬのならそれはそれで悪くないとも思った。

 

いつものように英里香の車に乗せられて家に向かった。

 

空は薄暗かった。

 

もうすぐ夜なのかと思いきや、俺の予想に反して空はどんどん明るくなっていった。

夜明けだ。

どうやら俺は朝帰りをしてしまったらしい。

しかも無断外泊ということになる。こりゃあまずい。しこたま説教をされそうだ。

 

まぁいいか、まだぼんやりとしている俺の頭は深く考えることを諦めた。

そうして走り去る英里香の車の後ろ姿を見送っているときだった。

 

「翔!」

 

背後から名前を呼ぶ声がした。

声の主が幸であることはすぐにわかった。

 

いつの間にかもう幸が迎えにくる時間になってしまっていたらしい。

幸は制服を着込み左手に鞄を持って学校にいく準備をすっかり整えている。

 

「こんな時間に何してたの?今の女の人、誰?」

 

俺の頭がまだ鈍っていることなどお構い無しに幸は問い詰める様に疑問をぶつけてくる。

 

「もしかして今帰ってきたの?一緒に泊まったの?」

 

「うるさいなぁ……。朝っぱらからでかいこえだすなよ」

 

「今まで何してたのよ!」

 

興奮しているのか、じりじりと距離を詰めてくる。

 

「お前には関係ないことだろ!」

 

そう吐き捨てて逃げるように家に入った。幸がそんなことくらいで怯まないことはわかっている。

 

案の定、俺が学校へ行く支度を整えて家から出ても幸はまだいた。

門のすぐ隣で塀にもたれるように立っていた。

 

面倒臭いからその前を素通りすることにした。

できることなら気づかずにずっとそこで静かにしていてほしかったのに、

幸のやつはすぐに俺の後を追いかけてさっきの続きを始めようとしやがる。

 

「翔、答えてよ!」

 

「わざわざお前に教えてやるような事じゃないだろ」

 

それにしても今日も調子が悪いらしい。

そりゃあ朝から幸がきゃんきゃんと色気のない声でわめきたてているのだから、

気分がいいはずはない。

そうだ、幸のせいだ。なにもかも幸が悪い。

 

「今朝あの人と何してたの?昨日の夜から会ってたの?」

 

「だったらどうだっていうんだよ?

俺が誰とどんな付き合いをしようとお前にとやかく言われる筋合はない」

 

幸がしつこいものだから俺も少し頭に血が上ってしまったらしい。

いつの間にか心臓の鼓動が早くなっていた。

 

だが変だ。おかしい。

ちょっと頑張りすぎじゃないのか、俺の心臓。

 

そう思っていると目の前が急に白くなっていき、体が重くなったような気がした。

バランス感覚までおかしくなって、俺はとっさに壁に手をついて辛うじて姿勢を保った。

目眩か。

そんな俺の一部始終を後ろをずっとついて歩いていた幸が見逃すはずはなかった。

 

「翔、どうしたの?大丈夫?」

 

心配する幸の声は聞こえたけれど、すぐにその姿を見ることはできなかった。

 

目を開けているはずなのに、俺の目は光を捉えていなかった。

 

「大丈夫だ」

 

言っているうちにバランス感覚が戻り、

不安気な表情で俺の顔を覗き込んでいた幸の顔が見えるようになった。

 

「体の具合が悪いんじゃないの?ひょっとして昨日の夜寝てないの?」

 

確かに調子はよくないけれど、目眩はもう治まった。

 

「大丈夫だ」

 

それだけ言うと、再び歩きだした。

 

「ひょっとして、あの女に何かされたんじゃないの?」

 

今度はそんなことを言い出しやがった。

 

「そんなわけないだろう」

 

「だって、あの女変よ!」

 

「何が変なんだよ?」

 

俺は軽くあしらいつづけて、幸とまともに話をしないでおこうと心に決めていたつもりだった。

それなのに気づけば幸の言葉にむきになっていた。

 

美貌、経済力、色気、胸の大きさ全てにおいて劣っているからといって、

それを妬み英里香を貶めるような言動に苛立ちを覚えていたらしい。

 

「あの人、いい年したおばさんなんでしょ?

それなのに未成年の男の子をたぶらかしているなんて十分変でしょ?」

 

「おばさんって、まだ二十七歳だよ!」

 

「十分おばさんじゃない……?」

 

さも当然のように、そして俺の言葉に大きな疑問を抱いている口調だった。

 

「そんなおばさんがあんたみたいな子供を本気で相手にするわけないでしょ?」

 

「お前に何がわかるんだよ!」

 

「あんたとあのおばさんの関係は知らないけれど、

あのおばさんがあんたの事を大切に思っていないことだけはわかるわよ!」

 

そう言っているうちに俺たちは学校の昇降口にたどり着いていた。

 

「あんなおばさんのどこがいいのよ?」

 

「お前みたいなペタン子にはない魅力があるんだよ」

 

言いながら俺は幸の胸をポンと叩いてやった。

正確には、胸ではなく胸があるべき場所と言うべきだろうか。

 

だって、幸にはないのだ。

英里香のような、女性ならば本来備えているべき胸が。

 

それにもかかわらず、幸は俺を変質者よばわりしやがるんだ。

 

「どこ触ってるのよ、バカ!」

 

「どこって、洗濯板だろ?大げさに騒ぐなよ、減るもんじゃないんだし。

まぁ減る程無いだろうけどさ」

 

俺たちのそばで上履きに履き変えていた他の生徒がくすりと笑う声が聞こえた。

 

そして幸はやっと静かになった。

黙りこんで動かない。

 

俺のK.O.勝ちだと勝利を確信した。

下駄箱から上履きを出して履き、靴をしまおうと幸に背中を向けた。

 

教室に向かって歩きだそうとしたとき、

ポンと肩を叩かれた。

振り向いた瞬間、俺の視界には握りしめられた拳が勢いよくとびこんできた。

 

「うぉりゃー!!」

 

そんな声が朝の騒々しい昇降口に響きわたった。

 

直後に俺の顔面に激しい衝撃が走った。

 

痛くは無かった。

と言うよりも、そんな感覚は麻痺していたのかもしれない。

脳が激しく揺さぶられた。

 

ふらふらと、数歩後ずさりした後、その場に座り込むように倒れた。

目の前がぐるぐると回っている気がする。

 

上半身を支えていることもできず、壁にもたれかかるつもりだった。

けれど、その辺りで意識を失い、壁をこすりながら俺は廊下に横たわった。

 

ぺたんこだと思い込んでいた幸の胸。

 

さっき触ってみたとき、予想に反して少しばかりは膨らんでいるのだということを知ってしまった。

けれど、今なら自信を持って言える。

それは脂肪ではなく、プロボクサー並に鍛え上げられた強靭な筋肉であると。

 

俺が目を覚ましたとき、辺りは静かになっていた。

当然だ。

他の生徒はみんなすっかりと教室に駆け込んだあとだ。

どこかの教室から、出欠をとる教師の声が漏れてきている。

 

なんという世知辛い世の中か。

俺が凶暴な女にノックアウトされてのびていたというのに、

誰一人として救いの手を差し延べてくれなかったらしい。

 

俺は保健室に運ばれることもなく、

さっき倒れこんだその位置でそのまま気を失っていたらしい。

 

殴られたせいなのか、もともと体調が優れなかったせいなのか、何が原因だかわからないけれど、

ふらふらとおぼつかない足取りでやっと教室にたどり着いた。

 

「遅いぞ、早河!」

 

担任の声がした。

 

馬鹿野郎!俺のせいじゃないやい!

 

-4ページ-

 

そしてまた一週間もしないうちに英里香に呼ばれた。

また部屋の片付けをさせられるだけなのだろうか。

 

英里香のような女性が存在することさえも奇跡に近いというのに、

その英里香の家にあがり込めているのは、

家政夫だろうとなんだろうと幸運であり好機であることに変わりはない。

 

ただ、いつも素直に家事をして帰るだけなら本当に家政夫で終わってしまいそうだ。

だからたまには英里香の気を引くようなものでもプレゼントしてみようかと思った。

 

とは言え、高校生になったばかりの俺に光輝く石塊だとか、

舶来の動物革の手提げ袋だとか、珍獣の毛をふんだんに使った衣服だとか、

そんな高価なものを買うことができるはずもない。

もっとも、英里香ならその程度のもの欲しければ自分で買ってしまえるだけの

経済力があるように思う。

 

何か英里香の喜ぶものはないかと思い返してみると、すぐに鮮烈な光景が甦ってきた。

チョコレートを嘗めているときの英里香の顔は、とても嬉しそうだった。

チョコレートと野菜ジュースしか口にしない英里香なのだから、

それが嫌いなはずはないだろうと思った。

 

じゃあそれを贈れば喜んでくれるんじゃないかと考えたわけなのだが、

当然スーパーなんかに売っている安ものじゃあ満足してくれないだろう。

 

一粒口にするととろけてしまいそうな味で舌を楽しませるだけでなく、

たかがお菓子とは思えないほどきれいに包装されたそれは、

さながら宝石箱のようで見ているだけでも飽きない。

そんなチョコレートを贈ろうかと思ったのだが、ショーウィンドウに並んでいる値段を満て驚愕した。

一番小さいものでも俺の小遣い三ヶ月分だ。

お菓子のくせに高すぎる。

でもだからこそ一度は食べてみたいと思うのであり、贈り物としても決して恥ずかしくはない。

 

だが金がない。

ないものは借りれば良い。

そのための幼馴染なのだから。

 

「なぁ、幸……。金貸してくれないか?」

 

幸は複雑な表情をしていた。

不安そうに見えたけれど断るつもりがないということも、その表情に表れていた。

 

「いくら?」

 

金額をいうと幸は一段と顔を曇らせた。

 

「そんなに……何に使うの?お金が溜るのを待てないの?」

 

「あれだよ、ほら。ゲームの初回限定版」

 

俺はとっさに嘘を言っていた。

英里香にプレゼントをするんだ、

なんて言ったらまた口煩いことを言われるばかりか、

金を貸してくれないんじゃないかと思ったからだ。

 

「ゲームでしょ……そんなに高いの?」

 

「そうだよ、高いんだよ。

おまけのフィギュアとか抱きまくらカバーとかいろいろついてて

三倍くらいの値段になってるから高いんだよ!」

 

「そんなに欲しいの……?その……抱きまくらとかフィギュアとかが……」

 

幸はますます表情を歪ませる。とても理解に苦しんでいる様に見えるが、

それでも何かを理解しようとしているのだろう。

 

「そうだよ、欲しいんだよ!悪いのか?俺がどんな趣味してたっていいだろう?だから貸してくれよ」

 

「そんなに言うなら貸してあげるけど……」

 

幸は釈然としない様子だったが、金さえ借りられればそんなことはどうでも良かった。

 

俺はその金を持って早速店に向かった。

店員の、標準よりは上であるが英里香と比べるとすっぽんにも劣る程度のお姉さんは、

作り物の笑顔をにこやかに浮かべて、俺のなけなしの金を遠慮なく要求した。

 

でも俺の足取りは軽い。これで英里香が喜んでくれるならと思えば安いものだ。

その笑顔を想像しただけで頬が緩んでしまう。

 

「嬉しそうね。限定版買えたの?」

 

駅に向かって歩いていたところで幸に出くわしてしまった。

俺のあとをこっそりとつけてきやがったんじゃないかとも思ったが、

その口ぶりはただの偶然らしい。

 

「あぁ……」

 

俺にも少しくらい後ろめたい気持ちがあったみたいで、つい目を逸してしまった。

 

「これから家に帰るの?それだったら一緒に帰らない?」

 

「いや、今日はまだ帰らない」

 

「どこ行くの?私も着いていっちゃダメ?」

 

「着いてこなくて良い。お前には関係のないところだ」

 

「そっか……」

 

その後、しばらくの沈黙。

 

幸は俺の些細な言動の変化さえも見逃さないらしい。

その表情は明らかに俺を疑っている。

俺の心の中まで見透かしてしまうかのような目で、

頭のてっぺんから爪先まで嘗めるように見ていやがった。

 

「その袋……」

 

幸は俺が手にしていた上等な紙袋を指した。店でくれたブランドのロゴ入りの上等なやつだ。

 

「そんな高いチョコレートを買うお金があったんだ」

 

やはり幸もこれが高価な代物であることを知っていた。

 

「それ持ってどこに行くの?」

 

「どこだっていいだろ。お前には関係のないことだ」

 

「じゃあ、誰にあげるの?」

 

「誰でも良いだろう!」

 

「あの人に会うの?」

 

「悪いのか!」

 

「私にお金を借りにきたのって、そのためだったんだ……」

 

冷静に問い詰めていた幸の顔が、突然悲しそうに曇った。

 

「金はちゃんと返す!だから何に使おうとお前には関係ないだろ!」

 

「そんなに高いものをあげないといけない相手なの?

それって翔の事をなんとも思ってないって事じゃないの?」

 

「一々煩いんだよ!俺が何をしようと俺の勝手だ!」

 

俺は叫ぶと逃げるように駆け出していた。

 

そんなこと、幸に言われなくたってわかっている。

でも俺は英里香を振り向かせたい。そのためにはなんだってする。

 

英里香の家に近い駅に着いてから、俺は思い出したように携帯電話を確認した。

 

メールが一件、『今日は都合が悪くなったからまた今度にして』、英里香からだった。

 

ずいぶんと簡単に急なキャンセルをしてくれるものだ。

だが、ここまでくれば英里香の家までそう遠くはなかった。

せっかくだから行くだけ行ってみることにした。

こうして手土産を持っていることだし、一瞬でも会えればと思った。

 

だが、玄関ホールのオートロックを偶然にすり抜けて、

家の前に着いてみるといくらチャイムを鳴らしても返事がなかった。

留守らしい。

 

がっかりして帰ろうかと思ったとき、ドアの透き間から光が漏れているのが見えた。

ただの消し忘れかもしれないし、電気代などという些細な事を気にしていないのかもしれない。

でもひょっとしたらすぐに帰っくるつもりで出かけたのかもしれない、

俺はそんな淡い期待を勝手に抱いて、ドアの隣にしゃがみ込んでしまった。

 

少しだけ。少し待って帰ってこなかったら諦めようと思って、三十分くらい待った。

 

「翔、来ちゃったんだ」

 

その声に気づいて俺は顔を上げた。

もちろんそこにいたのは英里香なのだが、その後ろに見慣れない男の姿があった。

気になって気になってしかたがなかったけれど、それには触れずにとりあえず立ち上がることにした。

 

「近くまで来てたから、少しでも会えればと思って」

 

「そっか。でも部屋はまだそんなに散らかってないから大丈夫よ」

 

俺はそんなことを言いたいわけじゃなかった。

 

「また連絡するから、今日は帰って」

 

そう言い終えると、俺から視線を外し、ドアに手をかけようとする。

 

「あの……これだけでも……」

 

俺は手にしていた紙袋を差し出した。

 

まだいたの?とでもいいたげな表情で英里香はそれを受け取った。

俺はそれが気のせいだと信じたかった。

 

「ありがとう」

 

一瞬俺に顔を向けただけで、またすぐに俺の存在など忘れてしまったかのようにドアに向き直る。

 

「あの……その人は……」

 

俺がようやく疑問を口にしようとしたのに、英里香と俺の間にたちふさがった男がそれを遮った。

 

背中に英里香を隠してしまうほどがたいの良い男だった。

年上の様に思えたが、それでも大して年が離れていないように見えた。

 

「邪魔だから帰れってさ」

 

男は威嚇するように言った。

だからと言って、英里香の前でおめおめと引き下がることもできなかった。

 

「お前には関係ないだろ!」

 

俺がそう言い返すと、やつは口ではなく拳で返してきた。

 

右顎のあたりを殴られ、俺は盛大に後ろに飛ばされて倒れた。

俺が立ち上がろうと上半身を起こしたところで、

やつの足は俺の胸元を蹴り飛ばすように踏みつけた。

 

俺の意志に反して喉が震えた。

 

「早く入りなさい」

 

英里香の声に促されて、やつは素直に部屋の中へと消えていった。

俺がふらふらと体を起こしたときには、ドアはもう閉まっていて他に誰の姿もなかった。

 

俺は本当に便利な家政夫として利用されていただけなのかとようやく悟った。

 

英里香くらいの女であれば競争相手は多いだろうと思っていたが、

まさか本当に利用されるだけ利用されて、

悪びれる風でもなく

あっさりと捨てられるとは思わなかった。

そんな冷酷な女は空想上の存在であり実在しないと俺は思っていた。

いや思い込もうとしていたのかもしれない。

 

あまりの情けなさに、涙が溢れそうになる。

こんな情けないことは幸や智也に知られたくはない。

これじゃああいつらの言った通りじゃないか。

 

でもいつまでも隠し通せるものでもなく、近いうちにバレてしまうだろうと思っていた。

 

実際そうだった。

 

みっともない顔を誰かに見られないようにと、

顔を伏せたままとぼとぼとエレベーターに向かっていたときだった。

 

「バカね。だから言ったでしょ?」

 

よく知っているその声が聞こえて、俺ははっと顔を上げた。まさかとは思ったが、幸の姿があった。

 

「おまえ……こんなところで何してるんだよ……」

 

「心配だから着いてきたんでしょ?」

 

「だれもそんなこと頼んでないだろ……」

 

「翔が馬鹿だから放っておけないんでしょ?

せっかく高いお金貸してあげたのに、チョコレートだけ取られちゃって、ほんと馬鹿よね」

 

「うるさいな……お前には関係ないだろ……」

 

「良いでしょ、別に。私だって馬鹿の顔を見てみたかったのよ。

翔の良さに気づかないなんて、あの女も馬鹿よね、本当に」

 

幸にそう言われたら目の前が滲んできた。

それから勝手に目から汗が溢れ出してきた。

 

本当にみっともない。

そんな顔幸には見られたくなくて、俺はずっとうつむいていた。

エレベータを待っている間も、乗り込んで二人きりになったときも、

幸の後ろでずっとうつむいていた。

 

でも幸のやつは気づいていたはずだ。

息をするのとおなじくらいいつも何か言葉を吐き出している幸の口が、

珍しく静かに閉じている。

振り返ろうともせずにずっと俺に背中を向けている。

気をつかっていたのか、言葉が見付からなかったのか、そんなところだろう。

 

「あそこに寄って行かない」

 

上等なマンションに住んでいる裕福な家のガキ共が遊ぶために作られたと思しき公園があった。

でも今は昼寝の時間なのか、人影はなかった。

 

「何で?」

 

そう言った俺の声は震えていた。

それじゃあまるで泣いているみたいじゃないか。

 

幸にそう思われるのが嫌だったから、俺はそれ以上言葉を出さずにただうなずいた。

 

「ここに座ってて」

 

幸の指したベンチに素直に腰かけた。

文句を言いたくても、今は情けない声しかでないからそれもできない。

 

幸は少しの間どこかに離れていたようだが、すぐに戻ってきた。

 

「顔、見せて」

 

俺の前にしゃがみ込み、俯いている顔を覗き込んできやがる。

一番見られたくない顔を、見られてしまった。

 

「酷いことするわね、あの野蛮な男。馬鹿な女にはお似合いかも知れないけれど」

 

言いながら幸は俺の頬を拭い、目元を拭い、

さりげなく涙のあとを拭き取ってから、さっき殴られたところにハンカチを当ててくれた。

 

「痛くない?」

 

興奮していたせいですっかりと忘れていた痛みを思い出した。

頬がズキズキとうずく。でも俺は黙ってうなずいた。

 

「翔はこの後暇でしょ?」

 

幸は相変わらず、俺の前にしゃがんで頬にハンカチを当てたままの姿勢で話している。

 

俺はまたうなずいた。

 

「じゃあさ、せっかくだからこの近くで遊んでいかない?

こんなところまで滅多に来ないんだし、せっかくだから。ね?」

 

俺はもう一度うなずいたが、実のところ少し前からあまり幸の言葉は耳に入っていなかった。

 

巨乳信仰などと言ってはいるが、やっぱり俺はただの男に過ぎないらしい。

そして幸のようなぺたん子は女のなりそこないだと頭ではわかっていても、

体は幸を紛れもない女だと認識しているようだ。

しゃがんでいる幸のスカートからのびた細い太股の、

その奥に見える白い物に俺の視線と意識は集中していた。

 

「……どうしたの?」

 

俺の様子をいぶかしく思っていた幸も、ようやく気づいたらしい。

 

「ばか!」

 

そう叫ぶと同時に、殴られていない方の頬に幸の平手がぶつかって、

俺の顔は幸の両手で挟みつぶされる格好となった。

 

それから幸は少し頬を赤らめて、膝立ちの姿勢に改めた。

固い地面の上に膝を着いて痛くはないのだろうか。

 

「翔は……私の……ぱ、ぱパンツとか……見たいの?」

 

顔を真っ赤にしながら消えてしまいそうな声であったが、

幸は確かにそんなとんでもないことを口にした。

 

「お前みたいなぺたん子のパンツなんて見たいわけないだろう!

殴られたせいで頭が混乱してるだけだよ!」

 

「そうだよね……」

 

そう言ってから表面では笑って見せた幸だが、俺にはがっかりしたように思えた。

 

「見てほしいのか?」

 

「そんなわけないでしょ、ばか!」

 

幸はさっと立ち上がると俺に背を向けた。

 

「さ、早く行こう。お腹減った!」

 

「でも……俺金ないぞ?」

 

「しかたないわね、おごってあげるわよ」

 

-5ページ-

 

あとがき

 

<これはコミティア用に書いた原稿そのままです>

 

ここまでお読みいただきましてありがとうございました。

まず最初にここを読んだのだという方は、

本文を読んだ後もう一度ここまで戻ってきてもらえれば嬉しいです。

 

この話は一年以上前にどこかに投稿するために書いた話です。

ただその時は〆切までの時間が短かったので、話を端折ってショート版にしてしまいました。

その時から、時間のあるときにじっくりと書き直したいと思っていたものなのですが、

コミティアを機会にそれができました。

でも書き直してみても、一年前と大差ない仕上りで自分の未熟さを痛感する結果となってしまいました。

まぁぼちぼちと精進していきます。

 

さて、この話はこれで完結ではありません。

まだ続きます。

ページ数の都合で一冊に収めることができませんでした。

秋ぐらいに続きを出せるように書きたいと思います。

多分二冊か三冊で完結できると思います。

まぁ、続きを読んでくださる人がいるかどうか、甚だ不安なところではありますが。

 

コミティアはこれが初参加です。

東京コミティアには普段は参加しません。

関西に住んでいるものですから、

関西コミティアに参加することが多くなる予定です。

関東で同人誌即売会のイベントが連続して二つ三つ行われるようなら、

また遠征すると思います。

コミケとかに参加する際はこの本も持ち込むと思います。

また、この話はTINAMIで公開していますので、そちらで続きを見ることも可能です。

以前書いたショート版はタイトルは違いますが、TINAMIで公開中です。

 

この話の中で、大きい胸は素晴らしいことだと散々書きましたが、

私は幸がとても気に入っています。

この話の主人公は幸だと言いたいくらい、気に入っています。

翔の視点ではなく幸の視点から書こうかとも思ったのですが、

結局このような形になりました。

好きな野郎の事を考え、あれこれと悩み健気に頑張る女の子が私は好きです。

萌えます。

あと、幼馴染設定は外せません。

胸が大きいとか小さいとかはどうでもよくて、

むしろ小さいことに悩みながらも頑張る娘がやっぱり好きです。

逆に、英里香は書いていてもあまり楽しくなかったです。おばちゃんには萌えないです。

 

あとこの本に絵があるのは四一郎さんのおかげです。

私は絵が描けませんから、当初は挿絵なしのつもりでいました。

表紙もなんか適当な写真でも加工して載せておこうかと思っていたくらいです。

でもこうして挿絵を入れることができてとても嬉しいです。

何よりも、絵でキャラクターの顔を見ることによって、

さらに愛着が湧きます。

特に表紙が一番のお気に入りです。

原稿だけ渡して後は適当にお願いします、なんていい加減なお願いだったのに

これだけ書いてもらえてとても嬉しいです。

この場を借りて、ありがとうございます。

 

いや、やっぱり胸は膨らみかけ、の方が好きかなぁ……ロリコンですから。

説明
年頃の男の子が皆そうであるように、早川翔(15)も大きな胸が大好きだった。
巨乳に非ざれば女に非ず、胸の無いのは女のなりそこないだと、
過激な発言を憚らない巨乳信仰者でもある。
そんな翔に密かに想いを寄せる幼馴染の奇特な少女が美島幸(15)だ。
だが、幸の胸は発育途上なのかそうでないのか、翔には異性として認識されず、
密かに悩んでいた。

その平凡な日常をぶち壊す巨乳、六條英里香(自称27)が翔の前に表れる。
主食は人間の生き血。英里香はその美貌を武器に健康で若い男に唾を付け、
死なない程度に少しずつ血を奪っていく。
翔はその中の一人として目を付けられたとも知らずに、
英里香に好意を抱くようになる。

英里香に疑念を抱いた幸と親友の智也が反対するのも聞かず、
翔は英里香の色気と美貌に籠絡される。
ストーカーの素質のある幸はその天賦の才を活かして、
翔を振り向かせようとする。

まだまだ続きます。
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