真・恋姫無双〜神物語〜 第五話 |
条件は整った!
今こそ全てをあるべき場所へ還すとしよう!
「いきなり何を言っているんですか……あなたは?」
卓袱台を前にいきなり立ち上がって訳のわからないことを叫ぶ俺を桜歌が冷ややかな目で呆れたような声を出す。
ノリの悪い奴め……!
「せっかくの記念すべき日なのにノリが悪いんじゃないですか〜桜歌さ〜ん?」
「私には何故あなたがそんなに狂ってるのかが解らないのですが……」
「狂ってるとは酷いことを…まあいいさ…ふっふふふw」
「気持ち悪いですね……あっ間違えました、あなたはとても気持ち悪いですね」
「なんで言い直したの?そこ言い直す意味あるの!?」
「いえ……ただ私の正直な気持ちを言い表すのに適切な言葉を選んだだけですよ」
ドスドスッ!(言葉の刃が身体に刺さった音)
「ゴフッ……!ふっふふ……口ではそう言っていても心の中ではきっと俺にベタ惚れのハズ……」
「…………………#」
「あれ?桜歌さーん?黙らないで下さいよー」
「…………………#」
「あの〜……?桜歌さん?劉弁様?皇帝陛下?」
「…………………#」
「お許し下さい皇帝陛下! 俳rz 」
俺の言葉がそんなに気分を害しましたか?そんなに嫌でしたか?すみませんっした!
「………(ふうっ)それで、なにをそんなにはしゃいでいたのですか?」
「ああ…こないだ話した王允から今日劉協の居場所に関する情報が届く予定なんだ」
俺の言葉に劉弁のテンションが一気にあがる。
「そっそれは本当ですか!」
「嘘を言ってどうする?」
「ああっ十六夜、私の不甲斐なさゆえあなたに不自由を強いてきましたがそれももうすぐ終わります!待っていてください必ずあなたを助け出してみせます!……栄守が(ボソッ)」
おおっ、いい感じにノってきたじゃないか!そのノリの良さに免じてさりげなく「栄守が」って言ったのは見逃そう!
「よっしゃあ!今日は祭だ、パーっとやるぜ!YEAHーーー!!」
狂乱の宴開始!
「どーもー王允ッスけど……砂の嵐作戦(劉協奪還作戦)の件で話が……うわっ、なにこれ……」
「「!!」」
狂乱の宴終了!
「「「………………………………………………」」」
気まずっ!
狂乱の宴ではっちゃけてた俺と桜歌は恥ずかしくなって縮こまり、目撃した王允……撫子も見てはならないものを見てしまった感じでうなだれている……ものすごく気まずい!
「な、なあ撫子……」
「あっ、それ以上近づかないで下さい。気持ち悪いんで」
このままだとらちがあかないので撫子に近寄り話しかけようとするがにべもなく断られる。
っていうか今日だけで二人の女の子に気持ち悪いって言われた俺はどうなんだ?
「えーっと……劉弁様?」
「ひゃっ、ひゃいっ!」
「こうしてお話になるのは初めてですね。私は王允 子師、真名は撫子です。以後お見知りおきを」
「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」
そう言ってふかぶかと頭を下げる王允。そして王允のそれにわたわたしながら答える桜歌。腰が低すぎじゃないんですか?あんた皇帝だろ?(自称)神様の俺が言えたことじゃないが……
しかし…こいつはこういう礼儀とかは放り投げてる奴だと思っていたんだがな……
「いやー、しかしたびたびお姿を拝見していましたがこうして近くで見るとますますお美しい」
こいつは絶対こういうお世辞は言わない奴だと思っていたんだが……あっ、別に桜歌が美しくないってことじゃないからね?むしろとっても……/////
「首から下が」
WHAT?
全員の動きが一瞬固まる。
こいつ今なにを言った?
「……王允?……今なんといいましたか?」
桜歌の怒気が膨れ上がるのが感じられる……これはヤバイ
「ああ、間違えました。とても美しいですよ」
「髪飾りが」
チャキッ!
その言葉と同時に桜歌が壁に掛けられている剣を手に取る。
そして俺は今にも撫子に斬りかかろうとする桜歌を羽交い絞めにして止める。
「放して下さい栄守!いくらなんでもこのような侮辱には耐えられません!」
「気持ちはわかる!気持ちはわかるが堪えろ!」
そんな俺達を無視して撫子は勝手に卓袱台のお菓子をほおばり自分の分のお茶を入れ始める。
「お二人さん、いつまで遊んでるんスか?これから国を立て直そうっていうのに肝心かなめの二人がそんな調子じゃ困るんスよね」
こっ、こいつはああああああああああああああああああああああああああああ!!!
怒りに我を忘れそうになるがどうにかこうにか怒りを抑えて俺達は卓袱台を囲む。
「……それで、劉協の居場所は解ったのか?」
「ええ……まあ人の口に戸は立てられないってことで……身体を使って聞き出したんスよ」
「「身体……!?」」
俺も桜花もその言葉に驚愕する。
身体を使って聞き出したってことは……そういうことなんだよな?
クソッ!俺達が至らないばかりに撫子にこんな汚れ役をっ……!すまない撫子、お前がそんなに真剣にこの国のことを考えてくれていたのに俺達は……!
桜花もまた自信の無力さに打ちひしがれているのか沈痛な表情で手をきつく握り締めている。
(あ〜……こりゃ勘違いしてる感じッスね……劉協様の居場所知ってそうな奴を監禁してこの破壊の書(金具つきの分厚い本)で身体を使って聞き出したってだけなんスけど……まあどうでもいいか……)
「ほらほらいつまでも呆けてないで、せっかく苦労して手に入れた情報なんスから」
「あ、ああ……すまない撫子……」
そう言いながら撫子は城の地図を取り出し丸をつける。
「簡潔に言うと劉協様はここにいます」
「ここって……そこはどう見ても壁の中だろ……」
「いやいや確かに壁なんスけどね……この壁、どう見ても分厚いじゃないっすか」
確かにその壁は他の壁と比べてかなり分厚くなっている……っていうか四角い石の塊?こうして地図や上から見てみないと解らないだろう。
「十六夜はこんな所に……!」
壁の中……これじゃあ独房や牢屋とまるで変わらない。
その事実に桜歌は憤慨したように卓袱台を叩く。
「しかし……いくらなんでも皇帝の妹をそんな劣悪な環境に置くか?」
「それなんスけどね……ほら、この壁の周囲をよく見てみてください」
撫子が壁の周りを指でなぞる。
すると………
「……ん?なんかおかしいな…」
「あっ、これ!この周りの部屋……出入り口がない!」
劉弁のその言葉に俺も気がつく。
確かに壁を中心にいくつかの部屋があるが……その全てに出入り口がない。
「そう……多分隠し扉とか隠し通路とかがあると思うんスけどね……普段はここで劉協様を自由にさせておく……まあ、箱庭みたいなもんスかね?」
「箱庭……か」
嫌な表現だが的確だな。
「さらにここで非常に嫌な情報が入ってきてるんスけど……聞きたいッスか?」
「? 嫌な情報って……後は俺が劉協を助け出すだけだろ?」
「いやいや、向こうだって護衛……っていうか番人も置かずに放ってはおきませんよ」
「番人?」
並みの番人なら俺余裕で捻り殺すが……
「何進将軍……ッスよ」
「何進?そいつって強いのか?」
何進って……確か成り上がりの肉屋の……俺の知る限りじゃあ武人としての功績は……
「もちろんですよ」
そう言ったのは劉弁だ。
「最近は戦場に出ることが少なくなり武を示す機会がなくなり世間では賄賂で出世した成り上がりなどと言われていますが仮にも大将軍、実力の伴わぬものが容易になれるものではありません」
「ってことは……」
「強いですよ。実際に見たことはありませんが……しかし、何故あの人が十六夜を……」
俺の知ってる何進とは随分違うようだな……
「何故、というのは?」
「十六夜……協と何進は私と栄守のような関係だったのですよ」
「俺と桜歌?」
「詳しい事情は知りませんが何進は協をとても慕っていました。それ故、何進は協の事実上の側近のような立場だったのですが……」
「なーるほど、劉協を慕っていたはずの何進がなぜか劉協の軟禁に協力している、と?」
「そうみたいッスね、で、どうするんスか?」
「どうするも何もない。何進が邪魔をするというなら焼き払って作戦を成功させるだけ、異存はないな?」
「ええ……」
「ま、いいんじゃないッスか」
一部不服そうだが仕方がない……
「条件は整った!今こそ全てをあるべき場所還すとしよう!今日、全てが本来の姿に戻る!」
――――――箱庭(仮)――――――
轟!
「ぎゃああああああああああ!」
「雑魚は退いてろ」
「ひ、怯むな!とめろーーーー!」
夜になって桜歌の部屋から出てすぐに例の箱庭の外側に向かった。
隠し扉や隠し通路を見つけるのも面倒だったから壁を火拳≠ナ破壊して中に入ったところ即座に兵士に囲まれてしまった。
もっとも……身体を炎に変えた俺は痛みはあっても死ぬことはないし一般兵ごときに負けることはありえないが……。
「邪魔だって……言ってんだろおーーーーーーーーーー!!」
「ひっ、あがああああああああああ!」
俺の放つ炎に大半の奴が飲み込まれ、残った少数の兵士も完全に戦意を喪失した。しかし……
「噂の何進がどこにもいない……これはいったい……」
「劉殿の御前であるというのに……今日は随分と騒がしいな」
そんな声が後ろ……俺が壊した壁から聞こえてきた。
その声は狂騒の場だというのに良く通る高く、かつ重さを感じさせる声。
そうして振り向いた俺の目にまず飛び込んできたのは軍服。
夜の闇と同化するような黒い軍服、そして軍服に身を包む人物は紅色の髪を腰まで伸ばした鋭い目をした美しい……と、いうよりカッコイイ女性。
そして次に目に入るのは……傍らに立て掛けられている二メートルを超える巨大なリボルバー。
「ん?貴様……最近皇帝陛下の周りをうろちょろしている神の名を語る愚物か」
ジャコッ!
そんな音を響かせてリボルバーを構える。
「おいおい……いきなりかよ。こういうときはまず名乗るのがスジじゃないのか?」
「劉殿を待たせている以上無駄に時間は裂けん。それに貴様の言うそれは武人のものだろう?あいにくとわたしは武人ではなく――――」
微笑を浮かべ、リボルバーの照準を俺に向ける何進。ん?なんかこの語り口……どっかで聞いたような……?
「軍人だ」
その一言とともに辺りに轟音が響き渡る。
リボルバーから放たれたのは弾丸ではなく閃光。
そして気付いたのはあのリボルバーは気≠凝縮して撃ち出すためのもの……しかし気付くのが一瞬遅かった。
「ぐっ、がああああああああああああああああ!!?」
空中で余裕の表情を浮かべていた俺は閃光に撃墜され地に落ちる。
なんだ!?どういうことだ!?このダメージは……異常な威力は!?
「ほう……これは愉快な身体をしているな。しかし、いかに身体を炎に変えられるとしても……」
再びリボルバーの銃口が俺に向く。やべっ!
「我が砲撃からは決して逃れられん」
再び轟音
「くっ……そがあああああああああああああああああ!!」
同時に俺は腕を炎に変え火拳≠閃光にぶつけ相殺する。
「ぐっ……!」
「くっ……互角か!」
「いや、互角ではない」
「!!」
再び、銃口から閃光が放たれる。
そしてくらう直前に気付いた。
ああ……なるほど。
そりゃあ酷いダメージをくらうわけだ……
いくら俺でも身体の中から爆発してバラバラになる痛みは知らねえ……
しかもこの気≠チてやつは物理攻撃より俺に攻撃がとおりやすい……しくじったか?
「おおおおおおああああああああああああああ!!」
クソが!これ以上くらったらどうにかなっちまう!いったん退くぞ!
「逃げる気か?言った筈だ、私の砲撃からは」
リボルバーの巨大な弾倉に懐から出したこれまた巨大な弾薬を装填し逃げる俺に照準を合わせる。
「決して逃れられん」
放たれる閃光……いや、烈光。
そしてその砲撃の範囲は今までの十数倍、避けられねえ!
直撃と同時に轟音、身体がバラバラに引き裂かれていくのが解る。
しかしそんな中で起死回生の一手を思いつく俺って天才かなあ?
「なに?」
確かに不可避の砲撃は目標にとどいた筈だというのにその場には何一つ残っては居ない。
欠片も残さず消し飛んだとも考えられるが…自身の砲撃の威力と栄守のしぶとさを照らし合わせればそうではないことが解る。
そしてよくよく見れば放たれた気の一部がその場に停滞し目標を追おうとしているように見える。
「なるほどな…つまらん小細工ばかりよく考え付く」
一歩、一歩と停滞する己の気に近づきそれを覗き込めばぽっかりと穴が開いているのが解る。
十中八九、直撃する寸前かその後に炎で穴を掘って地中に逃げ込んだという事だろう。
まるでモグラだな……などと考えながら地面に数発の砲撃を撃ち込んで行く。
「………チッ」
反応なし。
どうやら相当広範囲の地下空間を作り、上手く砲撃を避けているようだ。
こうなれば地下空間に直接乗り込み大火力で吹き飛ばすしかない……が全く気が進まない。
なにしろ地面の中だ……これから劉殿と会おうというのにそれはあまり好ましくは無い。
とはいえ、これ以上戦闘を長引かせるのも絶対必中の砲撃を避けられるのもご免なので結局は乗り込むことになる。
まあ、当然罠。ある程度のことは覚悟していた。
入った瞬間炎弾が飛んでくるとか、その程度の浅知恵だろうと当たりをつけていた。
しかし、仮にも神を名乗る者。モグラのように地面を掘っていた訳ではない。
「!!!」
入った瞬間、目に入ってきたのは広大な地下空洞。そしてその空間で荒れ狂う火の海、炎神の世界。
その空間は東京ドーム一個分(どんぐらい?)程もあり、栄守は焦熱地獄と化したその世界と一体化し、何進を焼き尽くそうと咆哮の変わりに轟々と燃え滾る獄炎の猛りで迎え入れる。
ここで通常ならある種の諦めや後悔の念を抱くところだろうが何進は違った。
抱いたのは怒り。栄守に対してよりも何より己の軽率な行動に対する怒りが圧倒的に勝った。
軍人である以上いかなる状況にも対応し、過小評価も過大評価もせず冷静に適切な対処を取らなければならない。
しかし何進は栄守を愚物と決め付け、見下し、その本来の力に目を向けなかった。その結果がこれだ。
その事実に内心自分をくびり殺してやりたい、などと考えながら焦熱地獄にあってその頭は逆に氷のように冷え、冷静さを取り戻す。
正直、この時点でほとんど詰まれている。
いかに砲撃の範囲が広くとも、威力が高くとも、この栄守を最強たらしめる世界で抵抗するには心もとない。
しかし、それは自身の身の安全を考えた場合の話。
話は変わるが何進の砲撃を絶対必中のものへと昇華させたリボルバーの弾薬、あれがどういうものか説明しておこう。
なあに簡単な作りだ。でかい水筒みたいな形の金属に定期的に己の血を吸わせ、一日と欠かすことなく気を弾薬の中に蓄え続けることで約半年ほどで一つ完成する。それが何進の弾薬だ。
つまりその中には膨大な量の無限大とも思える何進の気が詰め込まれているわけだ。しかもここ数年は戦場に出ることも無くただ弾薬を作り溜め込む日々……。何進は常に手元に総弾数の六発と+その日の気分の数を置いておくのだが……。
本日は合計十。実に五年分の何進の気が溜め込まれたある意味爆弾が手元に。一つ使ったとはいえまだまだ……
今はまだ炎に覆われてはいるが実際に焼かれてはいない。
ならば上々、まだ己の意によって行動を起こすことが出来る。
己の行動によって汚名を雪ぐ最後の機会、どのような被害を被ろうがここで動かなければ敗北主義者の汚名を甘んじて受け入れることになる。そのようなこと断じて認める訳にはいかん。
『さあ、地獄の業火で焼かれてみようかァ!』
紅蓮の世界、その全てがもはや抵抗らしい抵抗すら見せない何進へと雪崩のように押し寄せる。
そして何進も待っていた。炎の全てが自身へと襲い掛かり焼き尽くすその瞬間、自爆の被害その効果が最大限に発揮される瞬間を。
「ふん、馬鹿めが。貴様は消し飛ぶがいい」
この状況、確実に迫る爆発と業火を前に普段どおり悠然と腕を組み、落ちていく……その姿は一瞬だったが美しかった。
そして数瞬の後、地下空間は白い光に包まれる。そこには爆音すらなく、キィィーーーンと耳の痛くなるような音が響き、すぐに上方からの土砂に埋め立てられた。
結果、残ったのは陥没した地面。
そして直後、同時に二つの轟音が一瞬の静寂を打ち消す。
一方は炎。火柱が地中から上がり、そこから人の輪郭を作り出す。
栄守、その姿は傷一つ無いがあきらかに憔悴しているのが解り、体力を使い果たしたのが解る。
一方は閃光。光は地を押しのけ道を作り出す。
何進、その姿は土にまみれ火傷を初めとするあらゆる傷を負っていた。
しかし、そんな姿でも誇り高さ、気高さは失われず眼前の敵から目を逸らさず任務遂行を成さんとする。
どちらも動かない。互いに切り札は使い果たした。
栄守は爆発により、創り出した炎神の世界の炎の全てを吹き飛ばされ消費した。
何進は己の自爆と業火により気力の全てを奪い去られた。
互いに己の武器を無くした状態、残るは己の肉体のみ。 いや……もうひとつ……
全くの同時、互いに抜き放つ。己の剣を。
栄守は使う予定も無かったがお守り代わりに持っていた桜歌の短剣。
何進は砲撃による大火力戦以外の戦闘を行ってこなかったが故に形骸化していた懐剣。
攻防は一瞬。
どちらも主君の為に残った全ての力をもって相手に剣を振るう。
先に届いたのは何進の剣。しかしそれを栄守の左腕が阻む。炎化すら出来なくなった腕に剣が突き刺さり数瞬の遅れを生む。
そして次に届くのは栄守の短剣。無論、何進も座して受ける気はない。
短剣を防がんと腕が伸びるがそれは空を掴む。何進の意が短剣に向く瞬間、投擲。
短剣は何進の右肩に突き刺さり剣を持つ手が緩む。即座に剣を奪い一閃、驚愕の表情でこちらを見る何進を切り伏せる。
戦闘……或いは戦争と言った方が適切と思われる戦いの幕は神と軍将ではなくあくまで人と人の手でおろされた。
「ああ……強いなァ…お前……今まで俺の身体を傷つけられた奴などお前以外に――――」
倒れ付す何進にどこか切なげな表情で語りかける。
その語りに意味など無いがただ炎の化身となって以来、己の身体に傷をつけた相手など他にいなかった。
その相手には敬意を表さねばならないだろう。そんな感傷からだったがふいに疑問を覚える。
『はて?なんだか前にも……こんなことがあったような……それに……俺に傷を負わせた奴が他にまだ二人……いや三人、いたような気がするが……思い出せないな…』
しばらく自問自答してみたが一向に答えはでない。
このままこうしていてもなんだか何進が起き上がってきそうなのでとっとと俺の任務を片付けることにしよう。
そうして考えを打ち切って多少回復した後、劉協の元へ向かう。
「さあ、姫君。お顔を拝見させていただきましょうか」
劉協が軟禁されているという壁を調べると壁にとっかかりを見つけ壁が扉のように開く。
壁の中の部屋は薄暗く、よく見えない。そして中からは……
『クッククク……』
「ッ!!」
なんだこの悪役っぽい笑いは……!まさかまだ中に敵が……!?
おいおい……勘弁しろよ……
『ククク……ようやく来ましたか……我が同胞よ……』
この声は女……? 同胞……?
まさか……!俺を抹殺しに来た仙人か!?
「むっ……?貴様…竜胆ではないのか?」
「えっ!?」
竜胆? 何進か? 何進を待っていたって……? あっ!
劉殿を待たせている以上無駄に時間は裂けん
ってことは……こいつが……劉協?
こちらに劉協が近づいてきたのでその姿が確認できるようになる。その姿はかなり異様……
黒を基調としたゴスロリ服に身長より長い金の長髪、そしてなにより赤と緑のオッドアイ。
ある意味人間離れした美しい容姿をしている。
無意識に腕が目の前の少女へと伸び……気付かぬ間に少女に腕を掴まれる。
そして咄嗟に掴まれた腕を炎に変えてはずすと少女の表情が驚愕に変わる。
「なっ!我が絶対守護領域≠侵略するとは……貴様何者!?」
ぜっ……ぜったいしゅごりょういき?
「そうか……なるほどな……貴様、夜の帝国の生き残りだな?それならば我が領域を侵すことができるのも頷ける」
これは……もしや……
「クックックッ……七千年前の聖戦の続きをしようと言うのだな?よかろう!夜を統べる王たる我が相手になってやろう!」
邪気がーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!??
うっそマジで!?皇帝候補だった劉協が邪気眼って……え〜……
うっわ〜…!すっごい微妙な気分!ミッ○ーの中の人見ちゃった気分……
でも……桜歌の妹なんだよな〜……連れて帰らなきゃダメだよな〜。
仕方ないので電波を垂れ流し続けている劉協にかしづく。
「我が名は介象 元則。劉弁様に仕えし炎の化身……本日は劉弁様の命により御大の救出に参りました」
その言葉に一瞬きょとんとしたような顔をした後に急に歓喜の笑みを浮かべる。
「はっ…はっははははははははあはははははははははははは!!そうか、そういうことなのですね姉様!いよいよ屑共を排除し我等の千年帝国の建設に乗り出そうと……そういうことなのですね!」
「あ〜……まあ……そういうことなんじゃないかな〜……」
頭痛くなってきたからとっとと帰ることにしよう。
俺はまた電波を撒き散らす劉協のぜったいしゅごりょういき?≠侵略して劉協の手をとって歩き出す。
「む……?そういえば竜胆はどうしたのだ?我との約束の時間はとうに過ぎているというのに……」
「あー……何進なら邪魔するから半殺しにしちゃったんだけど……」
「なんと……!我が眷族(何進のみ)最強である竜胆を倒すとは……貴様いったい何者!?」
「さっき言ったよ?俺は炎の化身……つまり神だ」
俺の言葉に驚愕した後、眼を輝かせる。
「神!?神だと!素晴らしい!帝国最強の竜胆に加え神の力が加われば千年帝国を創ることなど造作も無い!貴様を特別に我が眷族の末席に加えてやろう、光栄に思うがいい!」
「ワーイウレシイナー」
あれ?なんでだろう……目から水が……あはっ、あはは(泣き笑い)。仙人になって出世してバラ色の人生を送る予定だったのに……こんな地雷女達に捕まっちゃって……
「うむ!眷族となったからには我が真名を授けよう。我が名は十六夜!世界の半分、夜の世界を統べる帝王!これからよろしく頼むぞ!」
そう言って満面の笑みを見せる劉きょ…十六夜。
もともとパーツは素晴らしくよく、喋ると残念な娘というタイプだったのでその笑顔は心臓を鷲掴みにする威力を持っていた。
この笑顔を見せてくれるならこの電波にも耐えられる気がしなくもない気がしてきた。
「さあ!竜胆を連れて姉様の元へ進軍するのだ!」
その言葉に呆れと苦笑を交えた楽しそうな声で答える。
「了解ですよ……姫様」
――――――後日 宮殿――――――
宮殿は不気味に静まりかえり聞こえるのは数人の話し声のみ。
そして宮殿には宦官達ほぼ全員が終結し、一目では解らないがその場には数多くの兵士が身を潜めている。
「しかし……何進は本当に来るでしょうか?」
「来ますよ彼女は。劉協を奪還されはしましたが……今だ劉姉妹は我等が手の内……宮中にある限り劉姉妹はもちろん何進も我々に逆らうことなどできるはずがない」
一人がぽつりと洩らすとそれに答えるように恐らくリーダー格、趙忠がそれに答える。
「まあ、何進殿は少々邪魔っけでしたからな。今回の失態はいい機会と思いましょう」
「ええ、遅いか早いか……それだけですからなぁ……。何進殿には今回の失態の責任を取って……」
一人が右手で首をチョンチョンと叩いて首を斬る動作をとる。
しかし最初に疑問の言葉を洩らした奴がまた言葉を発する。
「し、しかし…相手はあの何進でしょう?本気で抵抗されたら……」
古参の何人かはその言葉に息を飲む。
近年の新参者は何進の恐ろしさを知らないから首を傾げているが何進の強さを知るものはいくら兵士を集めても安心はできない。
しかしやはり趙忠が安心させるように言う。
「そうビクビクするな。いいか、何進が任務に失敗したということは戦って敗れたということだ。ならば当然……」
「あの忠義信溢れる何進将軍のこと……負けたのならば戦闘不能……致命的傷を負ったということでしょう」
趙忠の言葉が別の人物の言葉に遮られる。
それはたいそうやる気のない女の声……すなわち……
「王允!貴様…何故こんなところにいる!?お前にはあの邪魔者(栄守)の見張りを命じておいただろうが!」
「あ〜……それより何進将軍は来ませんよ」
「なに…?どういうことだ?」
「何進将軍は他にやることが出来たんでそっちにいったんで…代わりにボクがこっちにきたんスよ」
「なっ……!んっんん!それは……代わりとは……いったいどういうことだ王允」
撫子の予想外の言葉に趙忠は驚愕をあらわにしそうになるがそれを飲み込み感情を押し殺す。
しかし予想外の状況による驚愕は表向きは隠せても心中は荒れている。
だからこそ見逃す。異様な状況、雰囲気、相手や味方の動作、なにより……撫子の笑み。
「ええ……ホントは何進将軍にやってもらう予定だったんスけど、緊急の用事だったんでボクが代わりに来たんスよ。お別れに」
「お別れ……?それは……」
それはどういう意味だ?、と口を開きかけたところで言葉が止まる。止めた理由は悲鳴。
突如後ろから悲鳴が聞こえた。
何が起こったのか、と後ろをゆっくりと振り返ればそこにあるのは―――――――虐殺。
待機させていた兵士達は剣を抜きその身を紅く染めている。
そしてその足元にはつい先程まで自分と話していた宦官達。
「……………え?」
何が起こったのかまるで理解できない、そんな様子がありありと見て取れた。
「つまり……あんたらもう用済みってことっスよ」
「なっ、だと。きさっ、貴様、まさか、クソッ、まさかお前、裏切っ……!」
その言葉に一瞬呆けたような顔をすると突然、プッ、と可笑しそうに撫子が噴き出す。
「裏切るって……あんたここがどこだか解ってんスか?宮中ッスよ宮中。皇帝陛下に仇名す連中を始末するのが裏切りってことはないでしょ?これは粛清ですよ」
「きっさまァァァァァッ!」
「ここであんたの失敗について語ってやるのもいいかと思ってたんすけどあんたの人生って失敗ばっかだから……まあ、あえて今回の失敗点を挙げるならなら」
「そこの兵士さん達は国を守る為に鍛えてきた、あんたらを護衛する為じゃない。そこを汲み取らなかったのが今回最大の失敗ですかね」
既に後ろの宦官は全滅、残るのは趙忠のみ。
そして後ろから殺気を持って近づく兵士にパニックになりどうにか交渉しようとする。
そうだ、こんな下っ端の文官など自分に比べれば格下、格下だ!丸め込める!
「こっ、殺す気か、俺を殺す気なのか?待て待て待て。考えても見ろ。今まがりなりにも国が維持されているのは俺のおかげだ。俺が死ねば確実に混乱が起きる。そう思うだろ?だからこの際俺は飾りでも構わないからお前に―――――」
いい終える前に撫子が右手で首を斬る動作を取ると同時に兵士の一人の剣が水平に払われ趙忠の首が飛ぶ。
「何言ってんだか……随分前からあんたはお飾りだったし、随分前からあんたの命令でこの国は動いてないッスよ」
宦官は全員倒れ伏し、残るのは静寂と撫子と血まみれの兵士、そして……歓声。くだらない仕事から解放された兵士達の心からの歓声。
(さ〜て、これで残るは何進将軍の方だけ。そっちは任せましたよ)
――――――宮中 某所――――――
「くそっ!やはり罠だったか!」
慌ただしく早足で廊下をバタバタと走る数人の宦官。先頭を走るは宦官達のトップ張讓、それに続くように夏ツ、郭勝、孫璋、畢嵐、栗嵩、段珪。十常時のメンバー達だ。
張讓は…明確に王允の企みに気付いていた訳ではないが組織の長としての危機管理能力により嫌な予感を感じ取り十常時の何人かを引き連れて宮殿から離れていた。
そして嫌な予感は見事に的中してしまった訳で……このまま宮中に留まれば身の破滅。
「ちょ、張讓さん!どうするんですか!?」
「これからどうすれば……」
「うるさい!少しは黙っていられないのか!」
クソッ!なんだこれは!こんな無能のクズどもでも何かの役には立つかと思ったが……オロオロするばかりでクソの役にも立たん!自分ではなんの案も出さんクセに……!
なにか……!もう逃げるしかないが……逃げるにしても当然追っ手はくるだろうし……!なにか……最低でも確実に逃げおおせる方法…それさえ…!
「そうだ……!」
「張讓さん、何か思いついたんですか!?」
「くくく……!劉協だ!奴を人質にして逃げれば追っ手は手が出せん!」
『おお……!』
「い、いやっ!しかし劉協の居場所が解らないじゃないですか!」
「くく……!解る!私には解るぞ!幼き頃の劉協を養育していたのはこの私だ!あ奴の趣味酒肴は理解している!」
ざわざわと周りが騒ぎ出す。
張讓は知っていた。劉協は自分の私室とは別に自分好みの装飾を施した専用の私室を密かに用意していたことを。
実際、劉協が軟禁される前は私室にいないため総出で劉協を探すハメになったことは少なくなかった。
無論それは劉協が専用の私室に入り浸っていたからなのだが……あの劉協のこと、救出されてすぐであろうと自分の好き勝手に行動するのは明白。そして劉協が向かうとしたらそれはもう……。
「あそこしかない……!」
そしてその考えはおおよそ間違ってはいなかった。
むしろ当たり。大当たりだ。たしかに劉協はそこにいる。
だが同時にその選択は大外れでもあった。なぜなら……
「抵抗されると面倒だ……!眠らせてすぐに逃げるぞ!」
『は、はい!』
劉協の隠し部屋の前に立ち簡単に手順を伝える。
そして一気にバンッ、と音を立てて扉を思いっきり開け放ち―――――
「やはり来たか」
『――――――――え?』
扉の前でリボルバーを構えて立つ何進。
張讓達は何故瀕死の重傷を負ったはずのこいつがこんなところにいるのかというところで一瞬思考が停止し―――――そして永久にそこから先を考えることはなくなった。
閃光が夜の宮中を照らし後に残るのは部屋でスヤスヤと寝息をたてる劉協と既に張讓達の件などは頭の片隅からも追いやり傍目からは解らない程度に優しい表情で劉協を見つめる何進だけだった。
張讓が見誤ったのは何進の忠誠。
たかが瀕死の重傷を負った程度で何故主君の護衛を休むのか?
そんなイカレタ忠誠をよむことができなかった張讓が敗北したのは仕方の無いこと。
ゆえに張讓達は影も残さずこの世から消滅した。
こうして史実でいうところの何進と王允の宦官虐殺作戦が成功した。
そしていくつかの問題は抱えているものの……漢は本来の姿に戻った。
しかし、少し戻るのが遅すぎたかもしれない。
現時点までで……できうる限りのことを王允を筆頭にやってきた為に洛陽再建の土台はできているので後は実際に行動に移し、そしてそれを大陸に広めていくだけの……はずだったが
予想よりも早く出て来てしまった……民の怒り、不満の象徴……黄巾党が……!
キャラ紹介
名前:何進 遂高
真名:竜胆(りんどう)
髪型:紅色のストレートロング
身長:178センチ
武器:二メートル越えのリボルバー『滅我龍史砲(メガ粒子砲)』
特徴:生粋の軍属。
特技は修行、趣味は鍛練な人。このままだと仙人になるんじゃないの?
正史とは全く違い実力は呂布に勝るとも劣らず、しかも劉姉妹(特に劉協)に絶対の忠誠を誓っている。
名前:劉協 伯和
真名:十六夜(いざよい)
髪型:金髪を足元まで伸ばしている。
身長:146センチ
武器:鉄扇『夜の王』
特徴:邪気眼、以上!(チュドオオォォォーーーーーーン!〔砲撃音〕)と、いうのは冗談で……
そうね……実際はもっと普通の娘だけどキャラを作ってるフシがあるね。
あと東の国から渡って来たフンドシマッチョに合気道と柔術を教えられている。
それに関しては達人級で知らずに掴まれると武将級ですら投げられたことにすら気付かずに投げられる初見殺し。
あとがき
はーいどーもー。皆さん覚えてます?忘れてます?ミスター加藤です。
いやー……今回ちょっとやらかした気がするなー。
何進もそうだけど劉協がねー……初めは月みたいな薄幸の美少女キャラでいこうと思ってたんだけどちょっとありきたりかなー、なんて思いからこんなことに……
この後は黄巾の乱が終わるまでに主要キャラは全員でる予定です。
多分、あと二話か三話。それで残り二人が出てくるはずです。
このあとの展開によっては馬騰ぐらいは出て来るかもしれませんが……まあ、未定ってことで。
GW中にもう一つぐらい送り込む予定なので期待しないで待ってて下さいw
またいずれお会いしましょう、さらばだッ!
5日か一週間か二週間か……
説明 | ||
オリキャラを主人公にした恋姫作品です。 ヒロインは劉弁と劉協の二人になると思います。 おもしろいと思ったら見てください。 つまらないと思ったら『←戻る』でお願いします。 |
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