真・恋姫無双 〜美麗縦横、新説演義〜 蒼華繚乱の章 第十一話
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新・恋姫無双 〜美麗縦横、新説演義〜 蒼華綾乱の章

 

 

*一刀君は登場しますが、メインは基本的にオリキャラです。

 

*口調や言い回しなどが若干変です(茶々がヘボなのが原因です)。

 

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第十一話 思いは長坂の夕闇に

 

 

 

 

 

 

世に云う官渡の戦い、その前哨戦とされる白馬、延津という二つの砦の攻防戦は熾烈を極めていた。

 

いや、そう装っていたという表現の方が正しいだろうか。

 

華琳は出来るだけ戦いを引っ張り、敵が疲弊するのをひたすら待ち望んだ。

 

大軍であれば兵の規律は何よりも重要。それがまともに取れていない袁紹の軍であればいつか必ず瓦壊する筈。

それを分かっているからこそ、みんなが死力を尽くして奮闘し、数にして十倍近い袁紹の大軍の猛攻に耐えているのだ。

 

桂花の内応策、そして稟の調略によって敵の戦力を削り、日を追うごとに袁紹軍は目に見えて弱まって行った。

 

そんな矢先―――

 

 

 

「劉備が徐州を脱し、逃走した……!?」

 

早馬によって齎された情報を聞いた瞬間、席上にどよめきが奔った。

 

「司馬懿殿は軍を編成し直し直ちに出陣、現在劉備軍を追跡中との事です!」

「何があったというのだ!?奴は袁紹・袁術の軍を打ち破ったのであろう!?」

 

突然の事に声を荒げて春蘭が怒鳴る。

 

「ちょ、春蘭……そない怒鳴らんでも」

「これが怒鳴らずにいられるか!どんな真似をすれば、こんな事に……!!」

「―――春蘭、落ち着きなさい」

 

首座に腰かけながら、華琳が手で制する。

すると不承不承としながらも春蘭は押し黙り、それを見届けてから華琳が口を開いた。

 

「さて……これはどう見るべきかしら?」

「徐州は北に袁紹、西に我ら、そして南に袁術があり、勢力を伸ばすには不向き。恐らくは元から新天地を目指すつもりだったのではないかと」

「動機なんてどうでもいいのよ。今、この時、我らが如何にすべきかを問うているの」

 

華琳はそう言って、席に揃った諸将をぐるりと見回した。

 

「足の速い騎馬隊を編成し、即時追撃をかけるべきでは?」

「誰がそれを率いて援軍に向かうというの?敵が眼前に迫っている、この状況で」

 

毎日の様に延々と繰り返される袁紹軍の攻撃。

それを――いくら装っているとはいえ――凌ぎ続けている状況から、どうやって援軍を送り出せというのか。

 

稟の提案を、華琳は言外にそんな思いを込めて首を横に振った。

 

しかし―――

 

「……なら、俺が行く」

 

その声は、思いもよらぬ所から出た。

 

「前線じゃロクに戦えないけど、こういう事なら俺にだって出来るだろ?」

 

言って歩み出るその影の主に、言葉に、華琳は端整な眉を顰める。

 

「……笑えない冗談ね」

「冗談のつもりなんてないね」

 

瞬間、キッと目つきを鋭くして華琳は彼を―――北郷一刀を睨んだ。

 

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「報告!敵は西方向に転進、以前逃走中との事です!!」

 

斥候の報告に鷹揚に頷きを返し、司馬懿は机上の駒に手を掛けた。

 

「西……やはり益州に逃れるか」

 

江南に逃げる、というのも可能性の一つとしてはあった。

だがそれだと後に繋がる事はないし、何より江東が受け入れるとも考え難い。

 

未だ盤石とはいえない孫呉にしてみれば、厄介事を抱え込む事になるのだから。

 

「荊州に留まらないのは……さしずめ蔡瑁辺りに危機感を覚えたか?」

「蔡瑁、というと……今の荊州の統治一切を取り仕切っている豪族ですか〜?」

「ああ。『井の中の蛙』という奴だろうな」

 

そこそこの才能を鼻にかけ、己が富貴のみを追求する下郎。

司馬懿の蔡瑁に対する認識はその程度だった。

 

 

 

「けど、一つ分からない事があるのですよ〜?」

「……聞こう」

「ではでは質問するですよ〜。仲達さんはどうして劉備さん達に追撃を掛けようと決断なされたのですか〜?」

「…………君の眼は節穴か?」

 

底抜けに小馬鹿にした様な声音で、司馬懿は右腕を風の前に出した。

 

か細いと云える程に華奢な腕にしっかりと巻かれた包帯は幾重にも重なり、それを眺めて司馬懿は自嘲的な笑みを浮かべた。

 

「『殺されかけて』、それを咎めないお人よしが何処にいる?」

「……それは、そう『仕向けた』のではないのですか〜?」

 

スッと、風の目つきが鋭くなる。

僅かばかり真正面から睨みあい、やがて司馬懿が目線を逸らすと風は小さく息を洩らした。

 

「一体、何の目的があってそんな事をするのですか〜?」

「……今日はやけに饒舌だな。普段からそれくらい話して貰えれば政務も楽になるのだが―――」

「話を逸らさないで下さい」

 

何時の間にか風は座っていた席を立ち、司馬懿が気づいた時には彼のすぐ目の前に風の顔があった。

 

「答えて下さい」

 

何処までも真摯な眼差しを向けられ居心地が悪くなったのか、司馬懿はバツの悪そうな表情を浮かべる事しか出来なかった。

 

「答えて下さい」

「……面倒になったからだ」

 

視線を背けたまま、司馬懿はポツリと洩らした。

 

「劉備を生かしておくのも、関羽を連れていくのも全部面倒になった。だから殺す口実を設ける為にあんな三文芝居を打ってやったんだ。ああそうだよ!それが理由だ!何か文句でもあるのか!?」

 

言ってて段々苛立たしくなったのか、声音を荒げながら司馬懿が叫んだ。

 

彼の豹変ぶりに驚いたのか突然の怒声に驚いたのか、いずれにしても風は目をパチクリさせてその表情をマジマジと見つめていた。

 

「な、何だ……?」

「いえいえ〜。そんな顔も出来たのですか、と一人で吃驚しているだけですのでどうぞ御気になさらず〜」

「ッ……!!」

 

流石に恥ずかしくなったのか、顔を赤らめて司馬懿は顔を顰める。

冷静に指摘されると、かなり恥ずかしい様だ。

 

「ふふっ……では、風は寛大なので『とりあえずは』納得してあげる事にするのですよ〜」

「ッ……勝手にしろ!」

 

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風が天幕を出てから、司馬懿は椅子に深く腰掛けて思案に耽った。

 

(くそッ!……何だと云うのだ、一体!!)

 

脳裏を過るのは、つい先程まで自分を映していた深い翡翠色の瞳。

何故か、自分を真っ直ぐに映すあの瞳を前にして、司馬懿は久々に『我』を見せた。見せてしまった。

 

司馬懿は、連合の時以来となるであろう自我を引き出した風の姿がどうしても脳裏から離れなかった。

 

いつも飄々として、雲を――それこそ風を――掴もうとする程に掴みどころのない少女。

淡々としながら、怜悧な策略家でもあり、だというのに平時は市街で猫と戯れる様な―――強いて言うなら『不思議』という類の人間だと思っていた。

 

だが、自分を真っ直ぐに見つめてきたあの時。

 

司馬懿はその瞳に明らかな『憐れみ』を感じたのだ。

 

 

 

それが、許せなかった。

どうしようもなく腹立たしく、だからこそ司馬懿はそれに対し『怒り』を返した。

 

感情を露わにするのを司馬懿は嫌っていたが、それよりも理由もなく憐憫の情を向けられる方が余程腹立たしく思えてならなかったのだ。

 

だからこそ、口ではなく――連合軍で邂逅した時に朱里にしたように――平手を見舞ってやろうかとも思った。

 

『いえいえ〜。そんな顔も出来たのですか、と一人で吃驚しているだけですのでどうぞ御気になさらず〜』

 

だが、そんな司馬懿の考えを先読みしたかの様に風は先手を打った。

 

初めて見た風の微笑に、不覚にも司馬懿は暫し見惚れていたのだ。

 

(……ああっ、もうッ!何だと云うのだ一体!?)

 

ガシガシと頭を掻き毟り、拳を机に叩きつけて声にならぬ諸々の感情を吐き出そうとする。

 

その感情自体が不快というわけではない。

ただ、形容し難いそれをどう表現すべきなのか分からず、それが嫌なのである。

 

 

 

何も出来ず、何も言えず。

 

師である司馬徽との問答以来となったその状況に、司馬懿は再び机に拳を叩きつける事でどうにか苛立ちを抑えた。

 

―――が、今度は肩にズキリと痛みが奔る。

 

「ッ!痛ッ……」

 

自分で招いた事だと云うのに、それすら失念していたのかと司馬懿は一人で驚き、しかしその痛みの御蔭で幾分か冷静さを取り戻した。

 

(…………ふぅ。何を焦っているんだ、僕は)

 

二、三度深呼吸をして、司馬懿は静かに目を閉じる。

 

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官渡から荊州――正確には長坂の辺りになるのだが――に向かって駆ける騎馬軍団。

その先頭を駆るのは霞と、彼女に抑えられる様にして支えられている一刀である。

 

 

 

『桂花と稟の謀略のお陰で、戦況はいずれ此方に傾くわ』

 

敵軍師・許攸の持ち込んだ兵糧庫の情報。

そして敵の軍の一翼を担う将・劉虞の内通。

 

多くの有利条件を揃えた今、後は華琳の命を待つばかりとなっていた。

 

そんな状況になったからこそ、華琳は一刀の我儘を聞く事にしたのだ。

 

『ただし、貴方の為すべき事は分かっているわね?』

 

漢中の張魯が侵略の動きを見せたとの報もあり、華琳は別働隊をそちらの迎撃に向かわせようと考えたのだ。

その指示を司馬懿に伝える、というのが一刀の今回の任務になった。

 

無論、彼一人が率いたのでは騎馬隊も遅々として進まない。

そこで補佐役に抜擢されたのが、馬術に長けた霞だった。

 

 

 

「しっかし、あれやなぁ……よく大将を説得しようなんて考え浮かぶなぁ」

 

馬上で巧みに手綱を操りながらも、何処か余裕を感じさせる声音で霞が言う。

 

「あんなキッツイ目で睨まれたら、ウチかて足が竦むで?」

「……ハハ、俺だってかなりビビったさ」

 

けど、譲れなかった。譲る訳にはいかなかった。

 

「……なぁ、一つええか?」

「ん?何?」

 

何処か神妙な面持ちで――けど目線はしっかりと前を見据えたまま――霞が口を開く。

 

「……一刀は、なんでそないにアイツの事気にかけるん?」

「なんで、か……」

 

馬の蹄が大地を蹴る音が鼓膜を打つ。

既に日は傾き始め、遠目に見えた小高い山の頂に差し掛かろうかという所まで降りていた。

 

「―――友達だから、かな?」

「…………そんだけか?」

「他に理由なんてないよ。友達だから……仲間だから心配するし、力になれるのなら助けてやりたい」

「自分、それがエラく上から見てるって事、分かってるか?」

 

ジッと、深い緑色の双眸が俺を映す。

こうして真正面から見ると、やはり熟練の武人といった風に凄味がある。

 

最も、彼女が本気で殺気をぶつけてきたら一たまりもないだろうが。

 

「面と向かっていうのもアレやけど、どう贔屓目に見てもアンタよりアイツの方が上やで?現に今も、別動隊の帥なんて大任任されとる。それにこの間袁紹のアホに殺された蔡?とかいう朝廷肝いりのジジイの弟子やて聞いとるで?」

「……だよなぁ。みんなそうやって見るんだよなぁ、司馬懿の事」

 

俺がそう呟くと、霞に訝しげな視線を向けられた。

暗に『続けろ』とでも言いたげな一瞥をくれてから、霞は再び顔を上げた。

 

「俺に言わせてもらうと、司馬懿って危なっかしいっつうか……壊れちゃいそうなんだよ」

 

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「いくら才能や教養があったって、アイツも一人の人間である事に変わりはないんだ。疲れもするだろうし、色々溜めこんだりもしてるだろうし……」

 

脳裏を過ったのは、連合での変貌ぶり。

あれ程衝撃を受けた出来事は、多分今までないだろう。

 

普段温厚な、あるいは冷静な人物が一度キレると手がつけられないというけど、アレはそういうレベルじゃない。

 

「それに、周りの期待や信頼に答え続けようとするアイツのやり方が、凄く危なく見えて仕方ないんだ」

「そりゃ……上に立つモンの使命っちゅうもんやないか?」

「それだよ。その前提条件からしておかしいんだ、この世界は」

 

高々十五、六やそこらの少年少女に何万、何十万という人達の命運を背負わせる。

現代っ子の俺にしてみれば、これ程ふざけているとしか言いようのない政治体制はないだろう。

 

「もっとさ、こう……年相応の生活というか、日常というか。そういうのを送って欲しいんだ、俺は」

 

華琳や春蘭、秋蘭は勿論の事、季衣や流琉みたいな女の子には尚更。それに風や稟、北郷警備隊の凪、真桜、沙和。天和、地和、人和の三姉妹にだってそういった日々を送ってほしい。後、菫や霞や一応桂花にも。

 

「だから、俺はこんな風に……自分をすり減らしていく様な行動をして欲しくない」

「せやから止める、か……随分とアマちゃんやな、自分」

「ははっ……よく言われるよ、それ」

「―――ま、そういう所が大将もお気に入りなんやろうけど」

 

霞が何かを呟いた。

生憎と、疾走する馬上という事もあって聞きとれず、俺はもう一度聞こうと思って口を開き―――瞬間、霞がこっちを向いた。

 

「決めた!一刀。ウチの真名、アンタに預ける」

「……いいのか?」

「そないに男前なトコ見せられたら、ウチも応えん訳にはいかんやろ?ちゅうわけで改めて……ウチの真名は霞や。よろしゅうな!一刀」

「ああ。つっても俺には、真名みたいなのはないんだけど……」

「気にせんでええよ。……ほな、もういっちょ飛ばすでぇ!!」

 

言った途端、ぐわんと引きずり落とされそうになる程の風圧が全身を襲う。

慌てて霞の腰に手を回して振り落とされない様にする。

 

「ちょ、霞!速い速い!!」

「あー!?何言うてるか聞こえへんよー!!」

 

夕闇に染まっていく大地を背景に、えらく楽しそうな霞の笑顔と声が響いた。

 

 

 

 

 

「ほ、報告!!敵将、張飛が橋の前で仁王立ちしており、此方の進軍を食い止めています!!」

 

斥候の報告に、司馬懿はキッと目つきを鋭くした。

 

「たかがガキ一人に足止めされるだと……?貴様らの脳みそは飾りか、馬鹿者」

「そですねー。劉備さん達の目的は、合流した民も一緒に避難させる事にありますからー」

 

風の言葉に、司馬懿は目に見える様に嘲笑を露わにした。

 

「民を逃がす為に、兵を捨て駒にするか……中々どうして怜悧だな、劉備は」

「……無慈悲だと、正直に言ってみてはどうですかー?」

 

風が言うと、司馬懿は嘲笑を浮かべたまま首を横に振った。

 

「否定はしないさ。ただ、逆の立場ならもっと上手く立ちまわる自信があるがな」

 

言って、司馬懿は再び表情を締めた。

 

「張飛には徐晃を当たらせろ。他の部隊は迂回して、もう一度追撃を続行させる」

「ハッ!!」

 

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「燕人張飛、此処にありなのだッ!!」

 

身の丈を超す丈八蛇棒を自在に振り回し、高らかに名乗りを上げて張飛は叫ぶ。

 

その気迫たるや、万を超す曹操軍をも足止めする程。

 

「桃香お姉ちゃんや愛紗の為、この橋は一人たりとも通さないのだッ!!」

 

迸る闘気は、その小柄な体躯を何倍もの大きさに錯覚させる。

 

―――だが、それに何時までも立ち止まる様な腰抜けは、曹操軍にはいない。

 

「左右両軍は迂回して、敵軍を追撃して下さい!!一大隊を残して、全軍で攻勢を保つのです!!」

 

徐晃の――その大人しめな見た目にそぐわない――檄に呼応する様に、すぐさま各軍が動きを再開する。

それに一瞬気を取られた張飛だが、次の瞬間自分を襲ってきた殺気に慌てて飛び退く。

 

「貴方の相手は、この徐公明です……!」

 

見れば、先程まで自分が立っていた地面は、彼女が握る大斧によって両断されていた。

僅かに頬を伝う汗に、しかし張飛は笑みを浮かべた。

 

「……お姉ちゃん、とっても強いのだ。多分、愛紗と同じくらい」

 

それは、武人としての血の滾りか。

 

「お願いです。投降して下さい」

「―――そんなの、イヤに決まってるのだ」

 

久方ぶりの強敵との邂逅に、張飛は――顔にこそ出さないが徐晃もまた――溢れだしそうになる感情を必死に抑え込む。

 

 

 

「……貴方の様な童子を討つのは、好みませんが……!」

「にゃ!?鈴々は子供じゃないのだーッ!!そんなおっきな胸があるからって、鈴々の事バカにするのは許さないのだーッ!!」

「なっ!?わ、私だって好きでこんなにおっきくした訳じゃないんですからね!?第一、胸の大きさは関係ないでしょっ!!」

 

―――何とも間の抜けた様な会話をする両者だが、しかし割って入ろうものならその者は一瞬で肉塊に帰るだろう。

 

轟音、豪音、剛音。

 

両者の得物がぶつかり合うたびに響く――というより轟く――音は、最早尋常ではない破壊音しか奏でない。

 

(くぅッ……やっぱりこのお姉ちゃん、とんでもなく強いのだ!)

(この私が、力押しで負けるなんて……!!)

 

打ち合い、鍔迫り合い、また打ち合い。

そうして刻を稼ぐ事こそ司馬懿が当初徐晃に命じたことだったのだが、もう徐晃にはそんな事どうでもよかった。

 

ただ、目の前にある強敵と、いつまでもこうして戦っていたい。

嘗てない程の高揚感と満足感と闘争心の中、徐晃は満ち足りた表情を浮かべていた。

 

―――それは、また目の前の張飛とて同じ事。

 

「ハァッ……ハァッ……」

「ハァ……フゥ……」

 

お互いに距離を取り、呼吸を整える。

知らず口元に笑みを湛えながら、両者は一瞬の為に集中力を爆発的に高めていく。

 

そして、極限ギリギリまで高まったその糸が弾けた瞬間―――

 

「「―――ッハアァァァ!!!」」

 

張飛は横薙ぎに、徐晃は両断しようと縦からそれぞれ得物を振り抜く。

 

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一瞬の静寂。

 

 

 

―――次の瞬間、突如発生した暴風に両者は弾き飛ばされた。

 

「うにゃッ!!」

「ッ!!」

 

何が起こったのか。

 

周囲も含め、そこに居た人間が理解したのは、両雄が先程まで打ち合っていた場所に目を向けてからだった。

 

「…………」

 

長坂の夕闇に忽然と現れたその人物は、手に長剣を携え、漆黒の鎧兜に身を包み。

言い知れぬ『何か』を思わせるその出で立ちに、二人はゾクリと背筋に凄まじい悪寒を感じ取った。

 

「……な、なんなのだッ!!鈴々とあのお姉ちゃんの勝負を邪魔するなんて、何処の誰だか知らないけど、許さないのだッ!!」

 

激昂した張飛はいきり立ったまま、常人では到底反応できない様な速度で蛇棒を振り下ろす。

並大抵の武人なら必殺の一撃は、しかし眼前の黒騎士にとって児戯に等しいかの様にゆるやかに避けられた。

 

「はにゃっ!?」

「…………早々に行け」

 

凛として毅然と響いた声音が鼓膜を打った時、既に張飛のその小柄な体躯は橋の中程まで投げ飛ばされていた。

 

「貴様にここで死なれると、面倒になりかねん……」

 

誰かに聞かせるというよりは独り言のように呟き、黒騎士は腰に下げた剣の柄に手を掛ける。

 

呆気に取られていた徐晃が慌てて飛びのき、構えを直して黒騎士に向き直った。

それに対して黒騎士は斜に構え、スッと腰を落とした。

 

「……誰とは知りませんが、邪魔立てするなら容赦は致しません」

「無用」

 

端的に、告げた瞬間―――

 

「散れ」

 

閃光が、舞った。

 

 

 

 

 

戦場に鳴り響く、甲高い音。

 

「ハッ……また会うたなぁ」

 

夕闇に暮れる坂に舞う風が揺らすのは、紺地の羽織。

 

「……霞、か」

 

対峙するは、嘗ての同朋。

 

「悪いとは思わんで……今は、曹魏の張文遠や」

「構わないさ……どちらにしても、する事に変わりないだろ」

 

浮かべた笑みは歓喜か。

 

それとも狂気か。

 

「―――行くでぇ!!」

「―――行くぞ!!」

 

告げずとも通じ合った二人の武が、声が。

長坂の夕闇を鮮やかに彩った。

 

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後記

茶々です。

何やら中途半端に終わる事が多くなってきた茶々ですどうもです。

 

よくよく考えてみたら家にスキャナないじゃん……そんなわけで画像upが出来ないという事を悟りましたorz

 

 

 

さて、実は前回申し上げました通り、アンケの凍結を解く解かないの話なのですが。

これまでのアンケについては、やはり凍結という方向で決定致しました。申し訳ありません。

 

ただ今投稿させて頂いていますこの「蒼華繚乱の章」に関しては、一通りの流れが茶々の中で出来ましたので路線変更はなく、また、茶々の思い描く展開にしようかと思います。

そしてこの「蒼華繚乱の章」は前・後篇の二部に分けようと思い、あと四、五話程度で一旦前篇を締めるつもりです。

 

 

 

話は変わりますが、実は一度オリキャラを全員女にして考え直してみたら思考が二つに分かれまして……

 

1:本編(原作)通り。√は今の所不定

2:他作品とのクロス。今の所『戦国無双』を『戦国BASARA』に変えて『無双OROCHI(一作目)』とのクロスを予定、√は四本用意(魏、呉、蜀、戦国)

 

どの√で行くかが決まり、出来次第キャラ設定も合わせて投稿する予定です。 同時連載になるとマンネリになる気がしないでもないので、ある程度の目途が立ってから……ではありますが。

 

というわけで、その他ご意見・ご要望ありましたら、お気軽にどうぞ。

 

長々と失礼しました。

それでは。

 

 

説明
茶々です。
忘れた頃にやってくる茶々ですお久しぶりです。

何時から月間連載レベルになったんだ……春先は多忙で行けませんね。なんやかんやで間延びしてしまいました。

途中まで出来上がっていた分と、末尾をちょいと加えての投稿です。
従って、最後の方は何か蛇足というか不完全燃焼というか……とりあえずやるだけやった、みたいな仕上がりです。

それでは、どうぞ。

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