双天演義 〜真・恋姫†無双〜 十六の章 |
「諏訪。貴方はまた何かやったのですか? 袁家の一部部隊から不穏な気配を貴方に向けて感じるのですが」
いきなりのこの発言、何を言っているのかオレにはわからん。
今は反董卓連合の集合地にて軍営の設営中なのだが、オレはここについてからずっと越ちゃんの指示にしたがって、他のうちの兵士たちと一緒に行動していたのだ。袁家の兵士になんて一度も接触をした覚えはないし、接触したとしても悪さをしようなどと思うわけもない。
「そう言われればそうですが……。ふぅ、気には留めておいてください、何かあってからでは遅いですから」
なんやかやと心配してくれる越ちゃんに感謝をして、オレは残りの作業に取り掛かろうとした。したのだけれど、他の兵士たちに止められた。
“御遣い様、後は私どもだけで大丈夫ですから”とか“邪魔だからいらね”とか“そこらへんに立ってるだけでいいですよ”など、邪魔者扱いです。
そりゃ兵士たちのように力仕事はできないし、軍営の設営なんてものにも慣れていない。テントを張ることさえ、えぇと小学校の時にみたことあるかなぁぐらいの知識だから仕方がないとはいえ、ここまで邪険にされると少々悲しい。
ただそう言ってオレに仕事をさせないようにしている兵士は決まってニヤニヤと笑い、越ちゃんの隣にオレを追いやる。
そうか! なにかミスしたときに越ちゃんのお叱りの矛先を、まずオレに向けさせるという避雷針の役割か。しまったなぁ、逃げ遅れた感じがバリバリとしている。
「あ、そうでした、諏訪。道中、貴方が兵士たちに作らせていたあれは何なんですか?」
押しとどめられているオレを心底呆れたように見ていた越ちゃんが、思い出したように聞いてくる。はて、道中兵士に作らせていたあれ? 結構いろいろ作ってもらっていたからどれをさしているのか判断ができない。
「竹籤と紙と紐を使って作っていたものです。あんなものを作って何をしようというんですか?」
あぁ、あれのことかと越ちゃんの説明で思い出す。この時代に凧ってなかったっけかな? どうだっただろうか?
「凧? あれが紙鳶なんですか、天の紙鳶は地味なのですね。しかし貴方が禍を祓おうとするのはいいことだとは思いますが、いささか作りすぎではないですか?」
やっぱりこの時代にも凧はあったか。それも占いというか厄除けに使うものだったのには驚きだけどね。まぁ日本でも縁起物としてあげられていたようだし、似たようなものか。でもオレは厄払いや吉兆占いのために凧を使うわけじゃない。
「高祖の重臣韓信を真似ようというのですか? 未央宮までの距離を測ったようにどこかの距離でも測るつもりですか」
越ちゃんって結構物知りなんだね。凧を戦場で使うと言ったら、過去に使っていた人のことを教えてくれたよ。背水の陣で有名な人が使っていたとはねぇ、知らなかった。
「測量に使うわけじゃないさ。ま、細工は流々、後は仕掛けを御覧じろってね」
先に凧を軍事利用されていたのでちょっと悔しいから、何に使うか聞いてきた越ちゃんに意地悪してみる。何に使うかをはぐらかされて、もやもやとした気分を味わっているだろう越ちゃんのジト目が面白い。うまく凧が揚がって、ちゃんと狙い通りにいったら結構面白いことになると思う。大き目の凧を作ってもらったし、なんとか揚がってくれることを祈ろう。
「紅蘭に諏訪、ここにいたか。探したぞ」
越ちゃんと話していたら後ろの方から伯珪さんの声がした。振り返れば真剣な顔の伯珪さんがゆっくりとこちらに向かいながら歩いてくる。
真剣な様子を不安に思い隣の越ちゃんを見れば、越ちゃんにも思い当たる節が無いようで小首を傾げている。
「従姉様、どうしました。何か不手際でもありましたか?」
「いや、不手際というものは無いんだが……」
目の前まで来た伯珪さんに越ちゃんが理由を尋ねるも、伯珪さんは言葉をはぐらかして辺りの様子を伺っている。誰かに聞かれたくないわ倍なのかもしれない。オレが席をはずしたほうがいいのかどうか迷ったけれども、最初にオレと越ちゃんを探していたと言っていたので黙ったままその場に居続ける。
「諏訪。天の知識ではこの連合は目的を達せずに自滅するんだったよな?」
辺りの気配を伺いながら、小声でオレに尋ねてくる。
頷き伯珪さんの言葉を肯定して、先を促す。
「曹操が天の知識を使い、その崩壊を未然に防いであると思っていたんだが……曹操自身はこの連合に参加しているが、特にそういった細工をしているようには感じられない。というより奴はまだこの場についてすらいないらしい」
一刀なら三国志において反董卓連合の行末など知っているはずなのに、どういうことだろうか? これで曹操が連合に参加しないのだったら、連合に対して何の手をうっていないのがわかる。しかし曹操が参加している現状、それはありえない。自分がいる陣営が不利益を被るというのにそれに対する有益な情報を与えないということが、あのお人よしの一刀にできることだろうか?
「従姉様の判断を疑うわけではないですが、曹操の手が余程上手だった可能性はいかがでしょうか?」
かなりの確立でその可能性が高いと思うのはオレだけだろうか。伯珪さん、結構うっかりといろいろミスするときあるしね。
「子龍も私と同じことを感じたらしい。曹操よりも違う誰かの手が入っていそうだとも言ってはいたがな」
伯珪さんのうっかりの可能性が、子龍さんと二人の感想ということで潰えた。何でもうちに来る前に見た曹操と袁紹の感じとは違う不穏な、けれどもそれがこの連合に対してではない気配を感じたらしい。
これで一刀が何を考えているかわからなくなった。もしくはオレが覚えていないことを知っていて、それを理由に黙っているんだろうか。
「何はともあれ、今私たちにできることは少ない。負け戦にならないよう精一杯頑張るだけだな」
伯珪さんの言葉に越ちゃんは頷いて返事していたけれど、それはそれどころではない。曹操の所にいるのが一刀だと思っていたけれど、ちゃんと確かめたわけじゃない。名前が伝わってきておらず、天の御遣いとしかこちらには伝わってきていないし、オレの送った手紙についても届いたかどうかわからないが返事は返ってきていない。
一刀とは違う人間が天の御遣いとして曹操の所にいるんだろうか? と疑問が湧いてきてしまった。
もし一刀ではなかったら、あのとき銅鏡を割ろうとした奴がここに来ているのだろうか。そして一刀はどこにいったのだろうかと次から次に湧いてくる疑問に、オレは答えを見つけられずにいたのだった。
連合参加の諸侯がまだ全員揃っていないということで、水関の手前にしいた陣で連日歓迎の宴が開かれている。こんなことでいいのかと思うが、その恩恵で行軍中にもかかわらずそこそこおいしいものにありつけるからなんとも言えない。
かといってオレがどこか他の陣営に顔を出すということはせず、自陣にて宴会のお零れに預かっている。他にも越ちゃんや子龍さんも外に出ず、越ちゃんは生真面目に各所の確認や兵士の綱紀粛正、調練など自陣の中を駆け回り、子龍さんはそんな越ちゃんの冷たい視線を物ともせず、振舞われているお酒を一日中楽しんでいた。
そんな中、伯珪さんは時々袁家や他の諸侯の陣に赴いて挨拶などをして、空中分解しないように根回し てくれている。成果がどこまで出来ているか自信なさげだけど、やらないよりはいいだろう。
「そうそう諏訪殿。この間は大丈夫でしたかな? さすがにあの料理はいかがなものかと思いましたからな」
ぼうっとしながらも凧作成などの作業をしていたら、子龍さんが隣に来て声をかけてきた。しかも思い出したくないものを聞いてきやがった。あ、なんか胸がムカついてきた、ちょっと吐きそう。
なにやら子龍さんの目が笑っているのだが、酔っているかどうかの判断が難しい。素面のような気がするし、絡み酒のような気もする。
「ふふふ。よく食べたものと思っておりましてな。……諏訪殿は、越将軍のことをどうおもっ、イタタタタ」
オレの肩にしな垂れかかるように体重をオレにかけ、酒臭い甘い声を耳元でささやいていたかと思ったら、悲鳴をあげつつ離れていく。半分助かったと思いつつも、柔らかい膨らみが離れていくのを少し残念に思う。
「越将軍よ、そんなに眦を吊り上げていかがなされた? しかもこのように私の耳を引っ張りあげて、痛いではないですか」
風紀委員長もとい越ちゃんの綱紀粛正に子龍さんが引っかかったようだ。そりゃあれだけ酒を飲んで、曲がりなりにも仕事をしている人間に絡んで邪魔していたら、こうなるのは当たり前か。
「趙将軍には言わなければならないことがたくさんありそうですね。昼間からお酒を嗜むとはけっして言えない量を飲み、さらに他の人の仕事を邪魔するなど言語道断です」
子龍さんを正座させるなり説教を始める越ちゃんだけど、子龍さんはすぐに正座を崩してお酒飲み始めてますよ。目を瞑ったまま懇々と説教している越ちゃんは気がついていない見たいだけど、その度胸はさすがです。
「で、越将軍はそこにいる諏訪殿をどう思っておいでで?」
そして越ちゃんが息継ぎと確認のために、子龍さんを見たところで言葉をかける。実にうまいタイミングだと思う。越ちゃんは鳩が豆鉄砲を受けたような顔で子龍さんを見ている。
「ふむ。……諏訪殿、なかなか難しいようですぞ」
子龍さんはオレを見て言いながらお酒をゴクリと杯を乾かしている。そしてカラカラと笑っているけどいいのかい? 越ちゃんが顔を真っ赤にしてプルプルと震えているけどあれは絶対怒りに震えているんだよね。
「趙将軍……いいかげんに……」
そういったときに“バサッ”と音を立てて、オレたちのいる天幕の入り口にかけられている布がめくれ上がる。
怒ろうと子龍さんに言葉をかけていた越ちゃんも、カラカラと笑っていた子龍さんも、そしてオレもなんとなく注目してしまう。
「紅蘭ちゃんに星ちゃん、そして御遣い様発見!」
桃色の髪に白い羽の髪飾り、白いに緑のアクセントの服をきた女性の大きな声が響き渡る。もちろん劉備さんだが、彼女もこの連合に参加したのか。
そういえば三国志でも劉備は、公孫陣営で参加していたから当たり前か。
彼女の理想からすれば、董卓の暴政があると聞けば何を置いても参加するよな。
「おぉ、これは桃香様。お久しぶりでございますな」
越ちゃんの怒りを感じ取っていたのだろう、子龍さんが即座に反応をしめして劉備さんを招きいれてしまう。越ちゃんもさすがに劉備さんの前で、身内の恥をさらけ出すことに戸惑いがあるのだろう、怒りをぐっと堪えて拳を握り締めている。ついでにオレを睨み付けたのはなぜかしら?
「うんうん、みんな元気だった? また一緒だからよろしくね」
笑顔で挨拶を交わす劉備さんがちょっとうらやましい。オレのせいじゃないのに、なんでああも睨まれねばならないのか。
「それはもちろん。愛紗に鈴々と再び轡を並べられることはうれしいですな」
子龍さんは越ちゃんに会話の主導権を与えないように率先して劉備さんと会話している。さすがというかなんというか、ことをうやむやにするのも得意だね、子龍さん。
「愛紗ちゃんに鈴々ちゃんも、紅蘭ちゃんや星ちゃんと一緒に戦えるのを楽しみだって言ってたよ」
「ふふふ、それはそれは。そうだ、桃香様もどうぞ一献」
杯を劉備さんに渡し、その杯になみなみとお酒を注いでいる。このまま飲み会に移してしまう心つもりのようだ。
でもその前にオレは確認したいことがある。
劉備さんたちは黄巾党と戦っていたとき、曹操と行動をともにしていた。孔明ちゃんも天の御遣いのことを言っていたし、きっと名前を知っているはず。
だからオレは曹操のところにいる天の御遣いが一刀かどうか確かめたい。
何度か聞こうと劉備さんに声をかけるものの、そのことごとくが子龍さんに潰される。なんばしよっとかこのお人、何で邪魔するのかね。
「ん? それはもちろん越将軍のために決まっておりますな。それは何故とかは聞かないのがお約束ですぞ」
子龍さん、何を言っているのです。そして何を勘違いしているんですか。
「もちろん、諏訪殿のお気持ちを代弁してですな。あと越将軍の将来を考えて」
「ませんよね、趙将軍。遊んでばかりいないで、仕事をしてください」
劉備さんの前だからと遠慮していた越ちゃんも、さすがに我慢の限界に達したのか、劉備さんの前だけれども子龍さんにお小言を始めてしまった。
これで劉備さんに質問できる。
「ん〜。曹操さんのところの御遣い様ですかぁ? えぇと……」
劉備さんの言った名前は、オレが一番聞きたくて一番聞きたくなかった名前だった。
あいつは何故、この連合をそのまま放置したのだろうか。オレはそれを直接会って確かめたい。
曹操の陣営にいる“北郷一刀”に……。
説明 | ||
双天第十六話です。 まだまだ戦闘に入りません。いやぁ……話が進まない。orz やっと一刀の存在を確認できました。今まで曹操のところに天の御遣いがいるとは書いてきましたが、ちゃんと名前を出していませんでしたが、やっと出せました。 さ、次の作戦を考えねば……どうしよう……。 |
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コメント | ||
gmail様コメントありがとうございます。一刀は本当に何もしていないのか? 袁紹陣営の警戒はなんなのか? 次回袁紹陣営の謎の人物が明らかに!? (予定は未定です(マテ(Chilly) Night様コメントありがとうございます。やっと明確にできました。さぁこの謎をどこまでひっぱろうか(マテ 桃色の悪魔に(仮)が取れてしまった!!(Chilly) 更新お疲れ様です。ついに一刀との接触へとむかうわけですが、いかような展開となるのか楽しみです。袁紹陣営の眼鏡の方は田豊あたりなのかと想像しています。(gmail) お疲れ様です。ついに北郷一刀の陣営が明確に、袁紹陣営の明らかな警戒の謎は謎のままですが・・・そんなことより、がんばれ越っちゃん、桃色の悪魔に出番を奪われるなー(Night) |
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